天草空は乳を揉みたい   作:ゲリラ

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武偵殺し《Ⅶ》遠山キンジは『親友』を助けたい

 今日で武偵殺しの事件が終わってから4日目だ。

 結局3日目もソラは帰ってこなかった。ソラが飛行機から飛び降りたと思われる場所に捜索隊を派遣しているのだが、一切手掛かりが見つからないらしい。

 それはソラが生きているという証拠なのか、それとも深い海の底に沈んでしまったということなのか、全くわからない。

 最近、1年生や3年生の中でSランク武偵天草空が死んだという話が出ているらしいが、俺たち2年生の中ではそういった話は出ていない。いや、単に俺たちはソラの死を信じたくないだけだったのかもしれない。

 とにかく、俺たちは天草空の生存を信じていた。

 アイツのことだきっとすぐにでも「死ぬかと思ったわ〜」なんて言いながら帰ってくるはずだ。

 

 考え事をしていたら男子寮のソラの部屋の前まで来てしまった。

 俺はもしかしたらアイツが帰っているかもしれないと思い、学校終わりにいつもここに来ている。

 今日は、どうやら先客がいたようだ。

 

「レキ、今日も来たのか」

「……キンジさん」

 

 レキも学校終わりにソラの部屋にまで来ていた。毎回、俺よりも早く来ていたため、学校が終わった後、すぐに来ていたのだろう。

 

「ソラは生きていると思うか……?」

 

 ソラの生存を信じていながらも不安に思ってしまう。ソラはいつも無条件に仲間を信じているが、俺にはそんなバカ正直に生きることなんて到底できない。

 レキは頷いて答える。

 

「……はい。ソラさんと約束しましたから」

「そうか。約束か……」

 

 ——約束。

 ソラは飛行機を飛び降りる直前に『約束は絶対に守るから』というレキへの伝言を頼んでいた。

 約束の内容はレキに教えてもらったが、『絶対に死なない』というモノらしい。

 

「……信じているんだなソラを」

「……はい」

 

 レキはどうして、『絶対に死なない』だなんて本人にも守れるかどうかもわからない約束そこまで信じられるんだ……

 

「部屋の中に入らないか?」

 

 俺はソラの部屋を指差す。

 俺とソラはお互いの部屋の鍵を交換しており、互いの出入りを自由にしている。

 レキはコクリと頷いた。

 その反応を見て俺はソラの部屋の鍵を開ける。

 

「おじゃまするぞ」

 

 誰もいないとわかっているのに——なんとなく、そう言わなければいけないと思った。

 そして、当然ながら中には誰もいない。

 部屋の中にはソラがよく読んでいる漫画やギャルゲーが所々に転がっており、アイツの掃除の出来なさがよくわかるモノだった。

 

「——ソラさんは、コレをよく飲んでいるのですか?」

 声がしたので見てみると、レキはソラがよく愛飲しているココアパックを持っていた。

 

「ああ、アイツは紅茶とコーヒーが苦手だからココアばっかり飲むんだ」

 

 紅茶は葉っぱの匂いが強いからムリ! だとか、コーヒーは苦いからムリ! だとか、その飲み物の特徴について元も子もないようなことばかり言って嫌がっていたソラを思い出す。

 

「……そうですか」

 

 いつものように無表情で無感情な声を出すレキ。しかし、心なしかココアパックを持っている手の力が強まっている気がする。もしかして……

 

「一つくらい欲しいなら持っていってもいいと思うぞ。アイツはよく買い溜めしてるし、俺も勝手に持ち出したりしてるしな」

 

 俺がそう言うと、レキは頷いて学生バックの中にココアパックを一つ入れた。

 どうやら当たっていたようだ……しかし、どうしてココアパックなんてものを……

 そんなことを考えているとレキが部屋に転がっているゲームや漫画を手に取り出して、それをジッと眺めていた。

 レキは一体どうしたというのだろうか。今日は色々なものに対して興味を持っている気がする。いや、ソラが持っている物であるからだろうか。

 ……レキはレキなりにソラのことを知ろうとしているんだな。

 

 レキは……ソラのことをどう思っているのだろう。と、頭の中に疑問が思い浮かんだ。そして、それは徐々に大きくなっていって。

 

「レキは、ソラのことどう思っているんだ?」

 

 ——無意識にレキに聞いていた。

 口からポロッと出てきた疑問。ただ、何故かとても気になっていた。

 レキとソラのパートナーという関係は去年の冬からだ。そして、その関係は『天草空がSランクに到達するまで』という条件付きであった。

 しかし、ソラがSランクとなった今も二人はパートナーのままだ。

 そのままということは、ソラもレキもお互いのことを大事に思っていることはわかる。そして、二人には確かな信頼関係があることも知っている。

 だけど、レキがソラのことを具体的にどう思っているのかをただ単純に気になった。

 

「…………わかりません」

 

 …………え? わからない……? 今、あのレキがわからないと言ったのか?

 基本的にレキは聞かれれば答える。それも正確で率直に。

 しかし、今、レキは『わからない』と言っていた。自分のことであるはずなのに。どうして……?

 

「……しかし、私は、ソラさんにもっと触れてほしい……もっと私の側に居てほしい……もっと大事にしてほしい……と思っています」

 

 ————ッ! バカだ俺は! レキがソラの生存をただただ信じているわけないじゃないか……レキもソラのことが心配に決まっているじゃないか……!

 

「その気持ちは絶対にソラに伝えるほうがいいと思う」

「……そうなのですか」

 

「ああ、絶対に伝えた方がいい。ソラもきっとそれを望んでいるハズだ」

 

「わかりました」

 

 

 

 ……早く帰って来いよバカッ! 俺もお前に言いたいことがあるんだよ! お前が俺のことを影からずっと支えてくれていたのはわかっていたんだ……だから俺はお前にお礼が言いたいんだよッ! だから早く帰ってこい——ソラッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今日で武偵殺しの事件が解決してから5日目。

 今は放課後であるのだが、一部の2年A組及び他クラスの生徒は教室に残っていた。主なメンバーでもアリア、武藤、不知火、白雪がいる。

 そして本題の残っている理由は——

 

「最近、教務科の先生たちが、ソラが武偵殺しの情報を隠匿していたとかなんとかで、Sランクから落ちるかもしれない、と話しているのを聞いた奴がいるらしい」

 

 そう言ったのは武藤。

 『Sランクから落ちる』その言葉が出た瞬間、今ここにいる数名からゴクリと唾を飲む音が聞こえた。

 

 

「なぁキンジ。お前、現場にいたんだろ? ソラは本当に情報を隠していたのか……?」

 その質問を皮切りに一斉に俺へ視線が向く。

 俺は答えるのに迷った。

 第一にソラが理由があるとはいえ情報を隠匿していたのは事実であるということだ。

 第二に、事件に直接関わった俺とアリアは武偵殺しについての情報を極力広めないように教務科から言われている。これは武偵殺しの犯人が一人の武偵であったという『武偵』の評判を悪くする、とんでもない事実が知られないようにするためだ。

 

「ソラは……情報を隠していた。それは……事実だ」

「——キンジッ!?」

 

 ソラが情報を隠匿したことを知っているアリアが俺に食いついてくる。

 わかってるよアリア。ソラは悪意から情報を隠していたわけじゃないって言いたいんだろ? そんなことはアイツを知っている俺が一番わかってる!

 

「——だけど、アイツは自分の正義に従って行動していた! だから俺はソラがSランクから落ちるなんて絶対嫌だ!」

 

 ソラはきっとこうなるとわかっていて情報を隠匿していたと思う。

 だけど俺はアイツがSランクじゃなくなっちまうのは嫌だ! アイツは……ソラは、俺にとって希望そのものだったんだ……!!

 兄さんを亡くして沈んでいた俺をもう一度立ち上がらせてくれた希望なんだ! 

 そんなアイツが——希望がいなくなっちまうのは嫌だ!

 

「俺は、ソラがSランク以外のランクになるのは絶対に嫌だ!」

 

 俺は心の底からの言葉を吐き出す。

 

「アイツは、努力でなんでもかんでも達成しやがった! 短い期間で、しかも何もない状態でEランクからSランクに上り詰めたんだ! そんなアイツを見て、私も、俺も、というヤツがたくさんいた! アイツは、バカでマヌケで変態で大バカなヤツだけど、俺たち二学年生にとっては、憧れそのものなんだよっ!」

 

「ああ、その通りだ! そんな俺たちの憧れを消そうとするなんて絶対に許せねえよな!」

 ——武藤が。

 

「彼とは良い友達でいたいからね。僕も彼がいつものバカでいられるようにしてあげたい」

 ——不知火が。

 

「ソラくんがセ、セクハラしてくれないと寂しいから私も協力するよっ! キンちゃんっ!」

 ——白雪が。

 

「ソラにはバスジャックの時の借りがあるしっ! 私も協力するわ!」

 ——アリアが。

 

「俺も協力する!」「私も!」「僕も!」「あたしも!」「俺もだ!」「僕も!」「ウチも!」「わたくしも!」「ワイもや!」

 ——他のみんなが。

 

 

 

 

 なんだよ……ソラのやつ、めちゃくちゃ人望あるじゃねえか。わかっていたけど、アイツはやっぱり凄いやつなんだな。

 

 

 

 

 

 ——ガラガラッ。教室扉を開く音がする。

 強襲科の教諭、蘭豹だ。長いポニーテールの女性で、目つきの悪さから一目で気が荒いことがハッキリとわかるほど暴力的で危ない女だ。

 

「おーう、お前ら。こんな時間になに騒いどるんや」

 

 そう言いながら教室の中に入ってくる。

 先ほどまで話していた内容が内容なので俺たち生徒は黙りこくっていた。

 

「ん? なんやお前ら黙りこくって——どうした遠山」

 

 俺は蘭豹の目を真っ直ぐ見据える。 

 ……ここに来たのが蘭豹でよかった。この先生は、ソラのことがお気に入りでよくボコボコにしていた。

 ソラがSランクに上がった際にした2学年の全生徒及び一部の教員でしたお祝い会でもしっかり来ているほどに彼女はソラのことを気に入っていた。

 

 ——ソラのために俺ができることはたった一つだけ。

 

「——おいおい、突然、『土下座』なんてして、ほんまにどうしたんや」

 

 俺にできること……ソラがSランクじゃなくならないように、必死に頼み込む。それだけだ。

 

「蘭豹先生お願いしますッ! ソラをSランクから落とさないでくださいッ! アイツは自分の正義に従っていただけなんですッ! だから、ソラをSランクから落とさないでやってくださいッ!!」

 

 後ろから息を飲むような音が聞こえる。

 他の奴らから見たら今の俺の行動は狂ってると思われるだろうか。

 でも、別に思われてもいい……! 俺は、今まで俺を支えてくれたソラに恩返しがしたい!

 

「——待ってください蘭豹先生! 俺からもお願いしますッ! ソラをSランクから落とさないでやってくださいッ! ソラは、俺たち——2学年生の希望なんです! 俺たちの希望を壊さないでくださいッ!」

 俺の隣で武藤が土下座をして蘭豹に頼み込む。

 

「僕からもお願いします。僕は彼が悪意があって情報を隠していたとは到底思えない。それは蘭豹先生も同じハズです! だから、彼をSランクのままにしてあげてください。どうかお願いします……!」

 ソラの友人の不知火が頭を下げて言う。

 

「ソ、ソラくんはきっと事情があって情報を隠していたんだと思いますっ! だ、だから、ソラくんを落としてあげないでくだひゃい!」

 気弱な白雪が必死に頼み込む。

 

「ソラは事件が起きていた時も必死に貢献していたわ! 単身でミサイルに立ち向かっていったのよ!? そんなソラがSランクから落ちるなんて納得いかないわ! ソラをSランクの武偵のままにしてあげてよ!」

 プライドの高いアリアが頭を下げている。

 

「俺もお願いします蘭豹先生!」「私からもお願いします! ソラくんは私の憧れなんですっ!」「僕からも天草くんをSランクから落とさないでやってください!」

 他のみんなも頭を下げて頼み込んでいる。

 

 それから俺たちは必死に頼み込んでいたが、蘭豹は何も答えずにいる。

 そして、俺たちが息疲れて黙り込むのと同時に話し出した。

 俺たちに対して顔を向ける蘭豹の表情はいつもの荒々しい表情とは違い、無表情で、先生……というよりも大人としての貫禄があった。

 

「お前らが、天草空が武偵殺しの情報隠匿でSランクから落ちるというウチら(教務科)だけの話をどうして知っていたのかは不問にしたる。その上でお前らに話したるわ。

 まず、ウチらに天草空がSランク落第か存続かどうかの最終決定権はないということや。ウチらにあるのは天草空の活動評価を報告するだけやからな。

 次に、天草がどんな事情があったとしても情報を隠匿していたという事実に変わりはないということや。これは情報を隠匿していたという事実がバレた、天草が悪い」

 

 無情の宣告。

 俺は蘭豹の言葉をそう思った。顔から血の気が引いていくのがわかる。このままではソラはSランクとしていられなくなってしまう。

 でも、蘭豹が言ったことは正論で一切の反論の余地がない。

 それでも……それでも——俺はッ!

 

「待ってください蘭豹先生ッ! ソラは——」

 

「——話は最後まで聞けやッ!!」

 

 ビクッと全身が震えた。

 俺は顔を上げて蘭豹の顔を見る。

 そこには先ほどまでの大人としての貫禄を見せていた姿とは異なり、いつもの荒々しい表情……しかし、少しだけ微笑んでいるかのような顔をしている蘭豹がいた。

 

 

「——最後に、天草空はSランクとして存続するということや」

 

 

 

 ………………え? それってつまり……

 

「それってつまりソラは——ッ!」

「——ああ、天草はSランクのままというわけや」

 

 

 ソラが……Sランク武偵として……存続する……!!

 

「よっしゃあああああああ!! やったなキンジッ!!」

 

 武藤が俺の肩を掴んでくる。

 

「あ……ああ」

 

 俺はまだ驚きから抜け出せず、空返事しかできなかった。

 でも……どうして……?

 俺の疑問を察した蘭豹がニヤリと笑みを浮かべる。

 

「4日前に通報があってな。武偵殺しが起きた事件の日に、天草が主にイギリスで活動する凶悪犯——ダキュラ・クラウディをぶっ倒したっていう情報があったんや。それで通報した人に場所を聞いたところ——実際にそん場所におったんやダキュラ・クラウディが」

 

「だけど、実際に天草がぶっ倒したんかどうか分からん。天草がやったという証拠もないしな。でも、先日ぐらいにダキュラ・クラウディの着ていた衣服に天草の血液が付着しているのを発見してな。それで、天草空がダキュラ・クラウディを逮捕した、っていう事実にしたってわけや」

 

「そんで、天草空には武偵殺しの情報を隠匿したという事実がある。しかし、凶悪犯——ダキュラ・クラウディを捕まえたという事実もある。さて、天秤に掲げたときどっちに傾くか、まぁ一目瞭然やな。当然ながらダキュラ・クラウディを捕まえたという功績が打ち勝った。やから、天草はSランクを存続するというわけや」

 

 ——まぁ、今も生きていればの話やけどな。

 と、蘭豹が付け加える。

 そんなもの余計な付け加えだ。ソラが死んでいるはずがない。

 今になって俺は、ソラの生存をなぜか確信していた。いや、ずっと前から心の奥底では確信していたのかもしれない。

 

「ソラは——絶対、生きていますよ」

「当然やわ。ウチがずっとボコボコにしてきたヤツやぞ? 武偵殺しとかダキュラ・クラウディとかいう有象無象なんぞに殺されたりしたら、ウチがもういっぺん殺したるわ」

 

 蘭豹は鼻で笑って言う。

 そうか、そうだよな。この先生もソラの死なんて信じられるわけないよな。だってソラはお気に入りだもんな。

 

「まぁ、でも天草がウチらを心配させていることには違いはないわけやから、天草が帰ってきたら、全員でパシリにするなんてのもいいかもしれんな」

 

 ハッハッハと大きく笑い声を出す蘭豹。

 

「それいいっすね! 俺もソラの野郎をこきつかってやろうじゃねえか!」

「僕も、彼とはまだ色々と勝負したいからね。是非とも参加させていただきますよ」

 

 同調する武藤と不知火。

 

「ソ、ソラくんをこき使う……!? わ、私も参加させてくださいっ!」

「この際だから、キンジと一緒にソラもドレイにしてやろうかしら」

 

 なんで白雪は、ソラをこき使うってところでワクワクしているんだよ……

 アリア——もっとやれ。

 

 

「じゃあ俺もソラをパシリにしようっ!」「あー! ズルイ! 私もソラくんをパシリにしたい〜!」「わたくしも一度、召使いというものが欲しかったのです。これを機に天草くんを——」「ソラにはワイのスパーリングの相手になってもらおうやないかっ!」

 

 ははは……なんだよみんな、ソラをそんなにパシリにしようとして……俺も……俺もソラをパシリにしたくなってしまうじゃないか!

 

「待て待て待てッ! 俺もソラをパシリにさせやがれッ!」

 

 俺もみんなの中に混ざっていく。

 今の2年A組の教室は普段通りの喧騒が広がっていた。その喧騒のきっかけはいつも天草空。そして、今回もソラの話がきっかけで起こった喧騒なのだ。

 アイツはいつかきっと帰ってくる——そのハズだ。

 だからその日が来るまで、俺たちは……俺たちは——

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「——あれっ? みんな学校終わったのにまだいたのか? 俺これから、教務科の方に生存報告しに行こうと思ったんだけど」

 

 

 

 

 

 

 ——は?

 

 2年A組の喧騒が一瞬でおさまった。

 

 

 

「え……なんで、こっち見て固まってんの? あ、もしかして少し肌が焼けて(・・・・・)誰だかわからなくなってる? 全くひどいなぁ。俺だよ、みんなのアイドル天草空だよ?」

 

 

 肌が少し小麦色に焼けているバカ(ソラ)が教室の入り口にいた。

 

「お、おい天草。お前……今までなにしてたんや……?」

 

 珍しく蘭豹が驚いている。これは本当に貴重なことだぞ、鬼をも片手で殺すと言われるあの蘭豹の驚いている姿だぞ。もう一生見られないかもしれない。

 

 

「おっ! 蘭ちゃんじゃないっすか。お久しぶりっす!」

 

「——いいから答えろやッ! バカ生徒ッ!」

「ハイィッ! スイマセン!!」

 

 アイツ……相変わらず、女性に怒鳴られる苦手なんだな。まぁ、その原因は今、その本人にキレてる蘭豹なんだが……

 

 

「えっとですね……わたくし、天草空はとある事情から大砲でハワイまでぶっ飛ばされまして、そこで怪我を治しながらさっさと帰ろうと思っていたのですが——」

 

「ハワイには美人さんがたくさんいましてねっ!? ついつい美人さん方と一緒に海で遊んでしまっていたんですよ! そしたらいつの間にか結構な日付が経っていて、流石に焦って帰ってきた次第です!

 というか俺、メールをキンジに送った気がするんだけど——あ、機内モードにしてたの忘れてた。変えようっと!」

 

 

 ——ピロン♪

 

 俺の携帯からメール着信の音が鳴る。

 俺は無言で携帯を取り出して中を見る。他の者たちも俺の携帯を覗き見ていた。

 

 

 

 1件目。

『キンジ〜! 俺、今ハワイにいっから学校側に生きてるって報告よろ! (海の写真が添付されている)』

 

 

 2件目。

『おいキンジ! ハワイにはめっちゃキレイな人がいるもんだな! 俺もうたまんなくてナンパばっかしてるわ! (金髪の巨乳美女と一緒に写っている写真が添付されている)』

 

 3件目。

『キンジ! 写真見てみろ! こんなに胸がでかい人がいたぞ! 一体これは何カップなんだ!? お前の方で少し研究を頼む! (かなり胸のデカい女の人と一緒に写っている写真が添付されている)』

 

 4件目。

『クソォ! なぜ一人たりとも俺と一緒にホテルへ入ってくれないんだ! 俺とは遊びだというのかクソッタレめぇ!! 今日はもう腹が立ってきたから寝るッ! あ、ちゃんと教務科の方に連絡してくれた? まぁ、アイツらみたいな人間のようで人間じゃない地球外生命体みたいな生物——略して『人外』が俺の心配なんてするはずもねえけどなぁ! ハッハッハ!! (ホテルの前で泣き崩れているソラの写真が添付されている)』

 

 5件目。

『おいっキンジ! よく思ったら今日って俺がいなくなって5日ぐらい経ってんじゃねえのか!? 最近は楽しすぎて何も考えてなかったよ! というわけでお土産何がいい? (いくつかのアダルトな本の写真が添付されている)』

 

 

 メールはこれで全てだった。俺は無言で携帯を閉じる。

 

「あ、メール見てくれた? それで、お土産なんだけどよ。これなんてどうだキンジ! 『ロリロリツインテールっ子の写真集』だってよ! お前、ロリコンだからな絶対こういうの好き——あああっ!? 何してんだよキンジッ!? なんで破くんだよッ!? ——ってどうしたのそんな怖い顔して……いや、皆さんもどうしたんですか、そんな怖い顔して……」

 

 

 

 

「なぁ……ソラ? 俺はずっとお前のこと心配して、お前のことを思って土下座までしたのに、お前こんなバカなことやってたのか?」

「なっ!? バカとはなんだー! バカとは——」

「バカだろ?」

「アッハイ」

 

 

「天草ァ……お前、ウチらのことそういう風に思ってたんか?」

「そ、そういう風とは——」

「——人外」

「へっ——あ……」

「死刑」

 

 

 

「ねぇ、ソラくん」

「ちょ、ちょっと白雪ちゃん、なんでそんな暗いオーラ出して、ハイライト消してんの」

「正座して」

「へっ、いや、なん——」

「正座」

「ハイ」

 

 

 

 

「これはどうしようか武藤くん」

「そうだなぁ不知火……どうだ、ソラに今度罰ゲーム10回やらせるなんてのは」

「それはいい案だね」

「お前ら何勝手に話進めてんだふざけッ——」

「「——は?」」

「イエ、ナンデモナイデス」

 

 

 

「私からも一言あるわ」

「アリア……たん」

「風穴」

「————」

 

 

 

「——さて、クソランク武偵の天草空。覚悟はできただろうな?」

 

 

 

「いや待てってお前らっ!? おいっ!? 全員武器構えんなバカッ! おいやめろぉおおおおお!!」

 

 

「このバカを血祭りにあげてやれぇえええええええええええ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この日、東京武偵高校には激しい衝撃音が伝わり、一人の男の悲鳴——いや、断末魔が響き渡ったという。

 

 

 俺にはなんのことかさっぱりわからないがな…………

 

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