「まさか、仲間から病院送りにされるとは思わんかった」
現在、天草空は入院していた。
元々負っていたダメージに加え、新たに仲間からのダメージを受けて全身をボコボコにされていた。
「俺が悪かったとは思うけど、ここまでやるとは……流石に酷いと思わないか?——レキ」
ソラはベッドの隣の椅子に腰掛けている少女に声をかける。ライトブルーに包まれたショートヘアの少女はソラにいつもの無表情を向ける。
「思いません」
「——あれっ?」
無感情な声だが。確かな否定をされてしまったソラは、少女の返答が予想と違っていたのか驚きの声を出す。
「まぁいいや……それにしても、もう暗いぞレキ。お前午後9時になったら寝るんじゃなかったのかよ?」
現在の時刻はもう午後10時だ。
「構いません。貴方といるのが最優先です」
機械とまで言われるほどの自分の生活リズムを崩してまでやることかよ。
「いや、最優先って、別にいなくても問題は——」
「——最優先です」
「いや本当にいなくても——」
「——最優先です」
レキはソラの言葉を遮って言う。
「なんで、そこまで俺と一緒にいようとするんだよ」
どうせ、これからはまた学校で会えるじゃないか、とソラは思う。
だから——
「もし……ここで貴方と別れてしまったら、また貴方がどこかに行ってしまいそうで……」
「————っ!」
だから——レキが泣きそうな顔をしているのを見たとき、息が止まるような感覚がした。
「お前……俺がいなくなるって思っているのか……?」
少し、躊躇いながらレキに聞く。
「…………はい」
ゆっくりと頷くレキ。
彼女は椅子から立ち上がり、ソラのいるベッドへ近づいていく。
「私は……ソラさんともっと一緒にいたいです」
「……へ?」
突然なにを……と、ソラは思った。
「私は……ソラさんともっと触れ合いたいです……」
レキはゆっくりとベッドへ座り、両手でソラの手を優しく包む。
「私は……ソラさんともっと繋がっていたいです……」
レキはソラの手をゆっくりと上にあげていく。そして、自分の体の方へと近づけて……
「ちょ、レキさん!? 一体なにを——————」
まるで言葉を発させないようにソラは口を塞がれた——レキの唇によって……
完全な静寂。二人だけしかいない病室の中で、二人の影は完全に一体と化していた。
長い長いキス……一体何分が経ったのか。
「—————ぷはっ!」
ソラが息を切らすようにしてレキの口から離れた。
「おっ——おまっ!? 一体なにしてっ!?」
ハアハアと息を荒くしながらソラはレキを見る。
「——ッ!」
レキは頬を少し紅潮させていた。そして、両手で包んだソラの手をゆっくりと、自分のお腹——胸へと上げていく。
——そして、ソラの手がレキの胸に触れる。
だが、レキはそこで止めず、ソラの手を広げて自分の胸を揉ませようとする。
ソラはようやく、レキがどこかおかしいことに気づいた。
「おい…レキ……?」
何というか今のレキは何かに焦っているようだ……との感想をソラは抱いた。
レキは自分の胸をソラの手で揉ませ、自分の両手でそのソラの手を抱きしめるように優しく包む。
「もう、二度と離したくない……」
レキの呟きのような小さな声。
ソラは、近くにいなければ決して聞き取れなかったと思った。
それは普段の彼女であるならば、決してあり得ることではなかった。
レキは無口であるが、決して声が小さいというわけではない。むしろ声自体は聞き取りやすい。その彼女が、誰にも伝わらないように小さく、か細く、呟いたのだ……
当然、その呟きは彼女の気持ちそのものであったのをソラはわかっていた。
そして、ソラは気付く。
レキは、『絶対に死なない』という約束だけでは耐えられなくなったのだと。
今回みたいに、死なないことはあっても、数日は姿を消して居なくなってしまうかもしれない。
その不安がレキを襲っているのだとソラは理解した。
(……あぁ、俺のせいだなこりゃあ)
ソラはレキを少し勘違いしていた。
彼女が感情を持っていることに気づいていたが、それはまだとても小さなもので、彼女自身にもわからないほどか細いモノであると思っていた。
しかし、それは違っていた。
彼女は既に立派といえるほどの感情を持っていた。自分の身体でも理性でも、制御できないほどの感情。
人は時には理性よりも感情を優先する。それは大人であっても同じである。
彼女にも以前はなかったソレが、今現在では備わっている。
それはきっと、レキが天草空という人物と関わってしまったから起きたこと。
もう、レキは以前のレキには戻れない。感情が芽生えていないレキには戻れない。
「私を……求めてください……ソラさん。私も……ソラさんを、求めます……」
いつもよりも明らかに、か細く消え入りそうなほどの小さな声。
「それとも……私の体では、満足、できない、のでしょう、か……」
声が途切れ途切れになって、今にも泣いてしまいそうな顔をするレキ。
とてもじゃないが放ってなんかおけなかった。
「——レキ」
「……どうか、しましたかソラさ——」
先ほどのやり返し。といえば陳腐になるため言いたくないが、ソラは今、レキの唇を塞いでいた——自らの唇をもって。
最初はビクッと体を強張らせていたレキだが、徐々に力が抜けていくように脱力する。
目も心なしか緩んでいるように見えて、頬も赤くなっていた。
——今度はゆっくりと唇を離していく。
ソラは、フゥ……と息を吐いてレキの顔を見つめる。
月光に照らされているレキの顔はいつもの数倍美しく見えた。
「俺は、お前のパートナーだ。お前は、俺のパートナーだ。これからもそれはずっと変わらない。一生変わらないんだ。だけど、俺はお前のこと誤解していたよ。お前は、俺が思っていた以上に俺のことを愛してくれていたんだな……」
そう言ってソラはレキの体を空いている左手で抱き寄せる。右手は相変わらずレキの胸を触っているが、今はその感触を味わう余裕はなかった。
抱き寄せたレキの体は力を入れてしまえば簡単に壊れてしまいそうで……Sランク武偵とは思えない儚い一人の少女の体だった。
(放っておけるわけがないよな……)
「ソラ、さん……」
「……なんだ」
「私は……ソラさんの側に居ても、いいのですか……ずっと一緒に、居てもいいのですか……?」
レキは、躊躇いながらも懇願するように聞いてきた。
「あぁ。一緒に居ていい……いや、一緒に居てくれ、レキ」
「は、い……」
レキはソラと繋がっているという確かな証拠が欲しかったのだ。『絶対に死なない』という約束でソラとの関係を完結させるのが嫌だったのだ。
もっと形あるものが欲しい。もっと確かなものが欲しい。彼と繋がっているのだと感じられるものが欲しい。
レキはずっとそう思ってきたのかもしれない。
「ソラさん……私と……触れ合ってください……一緒にいてください……繋がってください……」
「ああ……」
「ソラさん……私を……もっと、信じてください……もっと、認めてください……もっと、大事にしてください……」
「ああ……」
「ソラさん……」
「ああ……」
「……私を……愛してください」
「ああ……」
「レキ……」
「はい……」
「胸……揉んでいいか」
「……はい」
俺は右手に包まれているレキの胸の感触を味わうため、全神経を右手に集中させる。
制服の上からであるが、レキの小ぶりな胸は、それでも柔らかく、温かいものであった。
少し力を入れてみると、制服と共に胸の形がふにゃりと変わっていくのがわかる。
レキの方を見ると、レキも頬を赤くして俺の顔を見ていた。
胸をゆっくりと揉むと、レキの表情が少し強張るのがわかった。
もう一度胸をゆっくりと揉む。
またしてもレキの表情が少し強張っていく、そこで俺はレキに——キスをした。
お互いの顔が近すぎて相手の顔しか視認できない特別な距離。
目の前に映るレキの顔は、強張っていた表情が溶けていくように徐々に緩んでいく。黄金色の瞳も驚きから、垂れていくように緩み、閉じていく。
レキは俺の横腹に手をやり、抱きしめるように俺の体を触れていく。
触っている胸の感触。レキの表情。レキの瞳。レキの手。全てが愛おしく感じて、俺の心の中に幸福感が溢れていく。
これが女性の胸を揉むということなのか……? 女性の胸を揉むということはこんなにも幸福感を味わえるものなのか……?
これが女性の乳なのか……
レキの胸はそれほど大きくないというのに、俺の全身を暖かく包んでくれているように感じる。
俺はそっとレキから離れていく。レキが「あ……」と名残欲しそうな声を出すが、今日はここまでだ。
じゃないと……俺が我慢できなくなる。
「レキ、お前は……俺のことが心配だったのか」
「………………」
俺の問いの答えと言わんばかりにレキがギュッと俺の身体を抱きしめてくる。それも力を目一杯入れて。それでも俺の身体を締め付けるほどの力はなくて、レキがただ一人の女の子であることがよくわかった。
「……心配でした」
俺と密着しながらレキはポツリと呟くように言う。
「……貴方が居なくなってしまいそうで、『死なない』と約束してくれたはずなのに、貴方がどこかへ行ってしまいそうで……」
その独白は、無口・無感情・無表情と言われるレキの心の内そのものだった。
「貴方が、私の傍からいなくなってしまうと考えていたら、胸の奥が張り裂けそうに感じました……」
レキのその言葉を聞くと、俺の心までが何かに蝕まれるように痛くなってくる。それはきっと、レキが味わった心の痛みの一部なのであろう。
「じゃあさ、レキ」
「はい……」
俺はもう彼女のことを誤解しない。彼女はもうれっきとした感情を持った人なのだから。決してロボットではないのだから。
「今度、一緒に依頼を受けよう」
「依頼……ですか?」
「ああ。俺も少しばっかり事件で疲れたからさ、ノンビリと依頼をこなしていきたいんだよ」
「そうですか……それで、どのような依頼を受けるのですか?」
うーん……そうだな。昔、俺とキンジが一緒に受けたもので、今年でもアリアとキンジが受けたものでもある依頼でもどうだろうか。
「『猫探し』なんてどうだろう?」
「猫探し……ですか」
「ああ、一緒に探そう。別行動なんてしなくていい。二人でゆっくりと探しに行こう——それとも、イヤだったか……?」
イヤだったら少しショックだな。
「いえ、是非とも行きます。行かせてください」
「お、おう」
……随分と食い気味にきたな。まぁ、いいか。
「じゃあ、さっさと怪我治しましょうかね」
俺はベッドに横になって寝る体勢を取る。
そのまま寝ようとするが、俺以外のもう一人の人物が一向に動かない。
「いえ、あの、レキさん……? どうしてお帰りにならないのでしょうか……?」
レキはこちらをじーっと見つめたまま一切の動きを見せない。
「貴方の隣が、私のいるところです」
……へ? それってつまり、ずっと俺の側にいるつもりなの?
「お、おう、レキさん。少しばっかり愛が重くてソラさんびっくりだよ」
「…………………『風』がそう命じたのです」
「嘘つけッ!? めちゃくちゃ間が空いてたじゃねえか!」
はぁ……仕方ない。こういう時のレキはおそらく何を言っても聞かないのだろう。
「じゃあ、ここで寝るのか?」
「はい」
ふーん、そう。だったら……
俺はベッドに座ったままのレキの肩を掴み、自分の横に寝かせた。そして、そのままレキに抱きつくようにして眠りにつこうとする——抱き枕だ。
「じゃあ、これで寝よう」
ずっと俺の寝顔見られても怖いだけだしな……
レキは少し体をもぞもぞと動かして抜け出そうとする。しかし、抵抗の力が弱いのは、俺に遠慮しているのか、それとも俺の抱擁から抜け出したくないのか……できれば後者がいいな。
「しかし、これでは、襲撃があった際に……」
はいはい几帳面だね。でもそんなこと俺には関係ない。
「お前もそうかはわからないけど、俺はお前と一緒なら死んでもいいと思っているよ。たとえ、この一晩に襲撃されて死ぬことになってもお前と一緒ならそれでいい」
——それに今日1日だけだからさ。と付け加える。
すると、レキも渋々納得したのか掛け布団の中に潜り込んで、俺のお腹の方へとクルリと体の向きを変える。
「私は、死ぬのは嫌です。ソラさんと会えなくなってしまいます。しかし、ソラさんがそこまで言うのであれば仕方がありません……」
……嘘つけ。お前の体温上がってんぞ。照れてるんだろ? そして、俺の腹に頭でコシコシすんな。
だが、俺は紳士だ。ここで布団をめくってレキの様子を確認するといったような真似はしない。
「じゃあ……おやすみレキ」
「おやすみなさい、ソラさん」
次の日、とある病室で、困ったように笑う一人の男性と、スヤスヤと眠りながらその男性を離さないようにと全身を使って抱きしめている女性の姿が目撃されたらしい。
*
あれから2日ぐらいで退院した。
学校では、事件の際の心配料的なやつで無理矢理パシリにされている。正直、理不尽だと思う。けど、蘭ちゃん(=蘭豹)が怖くてそんなこと言えないっ! 俺、あの人に何回もボコボコにされて、怒鳴ってくる女の人が怖くなってきたんだよなぁ……
そんで、退院した後にはキンジからアリアと正式にパーティーを組むことになったと言われた。
俺はとりあえず、おめでとうと言って選別に『ロリロリツンデレっ子写真集』をあげたんだが、ビリビリに破かれてしまった……なんでだ?
それで、キンジも俺にアリアのドレイになれって言ってきたので、とりあえず顔面に蹴り入れてやった。アリアも俺をドレイに加えようとしてきたので、バスジャック事件の報酬払えや、と言ったら、報酬!? そんなの払うわよっ! と返してきたので、じゃあ胸揉ませてくれって言ってあげたら、顔真っ赤にして逃げていった。やったね天草クン大勝利。
続いて白雪。なぜこいつは俺の股間を執拗に狙ってくる。お前は、キンジのとこに行ってこい。しっしっ!
とまぁ、退院した後も色々とあった。
それで、俺は今、一人でゲームセンターに行こうと思っていたんだけど……
「なんでいんの——レキ」
うん。ほんと、なんでいんの? 最近、気づいたら俺の側にいるよね。お前が俺の隣とか後ろにいるのに気づくたびに俺の体、ビクッって反応してるからね。
そして、なぜいる? の答えを聞くたびに……
「貴方の隣が、私のいるところです」
はいぃ……きたよこれ。またこれだよ。
もしかして俺、何かレキのいけないスイッチ押しちゃった的なやつなの?
まぁ、別にいるのはいいんだけど……いいんだけどさぁ——面倒ごとがなければ。
「ソーくぅーん!」
………ああもうっ! 俺もう何も聞こえない! 何も見えない! 聞き覚えのあるあだ名だけど俺にはきっと関係ない! 見覚えのある金髪だけどきっと俺には関係ないっ!
「もうっ! 無視しないでよ! 理子、ソーくんに怒っちゃうぞぉ!」
がおーと、頭に指でツノを作るバカ。
はぁ……もういいや。
「それでまた何のようだよ理子。お前、一応危ない人扱いだろ?」
そう。この理子、俺が退院してから、一度会いにきているのである。その時、レキがいたのだが……本当に危なかった。
「うんっ! 理子今危ない人扱いされてるけど、えへへ、ソーくんのために来ちゃった!」
「くんなバカ帰れ」
ひどぉーい! と傷ついたフリをする理子。
いい加減うざく感じてきたぞ。
「あー、そんなにイライラしないでよ。理子がソーくんに会いにきたのはちゃんと理由があってのことだから」
ふーん。だったらさっさと言えばいいのによ。と俺が思っていると。
理子はレキの方を見て、ニヤッと笑って言った。
「——ソーくんのお嫁さんになろうかなっと思って!」
「…………へ?」
…………はい? 理子がお嫁さん……? 俺の? なんで?
俺が全く理解できていないというような顔をしていると、理子はプクッと頬を膨らませた。
「ハイジャックの時に空中で話したこと忘れちゃったのっ!? ひどいよソーくんっ! 理子っ! ソーくんと結婚するって覚悟決めたのにぃ!」
ハイジャックの時に空中で話したこと……あっ!? そういえば理子に、お嫁に貰ってくれる? 的なこと言われて、断ろうしたけど、怒鳴られて結局、ハイって言った気がする!?
「えっ!? アレ、マジだったの!? 俺、冗談だって思ったのに!?」
「冗談なんかじゃないよっ! マジもマジっ、大マジだって! 理子はソーくんのこと大大大好きなんだからっ!」
そう言って、理子は俺に抱きついてくる。
チーン、と頭から音を鳴らしながら思考停止している俺は、理子の抱きつきを止めなかった。
——アッ! 胸が大きいっ!
「くふっ。そんなわけで、理子からソーくんにはこれを差し上げます!」
俺から離れて、着ていた服の空いている胸の谷間から、ハンカチで包んでいる何かを取り出した。
「なんだそれ?」
俺がそう聞くと理子は、ふふんっと笑ってハンカチを取り去った。
中から出て来たのは——1丁の拳銃だった。
「回転式拳銃——
なぜか自慢するように言う理子。
もしかして理子は、ハイジャック事件でコルト・パイソンが壊れてしまったことを気にかけているのだろうか。
まぁ、でもコルト・パイソンがなくて寂しかったのも確かだし、欲しいちゃっ欲しいけど……
「流石に銃を貰うなんてできねえよ。お金払うよ」
「——もうっ! バカっ!」
俺は遠慮してそう言うが、理子は不服だったようでツーンと顔を背けてしまった。
いや、なんで……?
「おい、なんで怒るんだよ? 貰うけどお金は払うって言っただけだろ?」
うん。俺はそう言った。別におかしな点はなかったはずだぞ。
理子は、はぁ……とため息を吐いて呆れた表情をする。
なぜだ、納得がいかん。
「この銃はね、リュパンが相棒にしたいって思った相手に渡す銃なの」
「なにそれ。先祖代々から続く的なやつか?」
「ううん。理子の代から始まったやつ」
おい。言っている意味がわかんないうえに、俺を勝手にお前の相棒認定するんじゃねえよ。
「——それとっ! 男の子は、女の子からプレゼントを貰ったら素直に受け取ればいいのっ!」
「あっ、そっちが怒ってる理由なんだ」
うん、と頷く理子。
ふーん。女心はようわからん。プレゼント貰ったら素直に受け取れ……か。
「その銃が欲しいのは確かなんだけど、俺、もう相棒いるし、その銃受け取れないんだけど」
その銃は相棒にしたい奴に渡す銃なんだろ? 俺にはもうレキがいるしな。
「ああ大丈夫だよソーくん。相棒は相棒だけど、『パートナー』の意味じゃなくて『夫婦』の意味の相棒だから」
「おいっ!? そっちの方が幾分ヤバイだろうがっ!?」
気にしない気にしない! と言いながら俺に銃を押し付ける理子。
気にするに決まっているだろバカタレ! 俺と理子が夫婦だぞ!?
…………あ、結構いいかも——って俺は何を考えているんじゃ!?
「じゃあ確かに渡したからねっ! 理子はそろそろ帰るからっ!」
「えっ、あ、おう」
急に来て銃を渡し終えたらもう帰るとか、嵐みたいなヤツだな。
「じゃあな。理子、元気でやれよ」
「うん。ソーくんも——」
俺は理子を手振って見送ろうとする。
理子も俺に背を向けて行こうとしたが、急に振り返ってきて——
——俺の唇に軽くキスをしてきた。
「………は?」
あまりの突然の出来事に思考が停止する。
理子は頬を赤くして妖艶に微笑む。
「これは理子を信じてくれたお礼だから。今度はもっと激しいことしようね」
そう言う理子の表情はとてもキレイで、小柄なハズなのにどこか扇情的に感じて、俺は見惚れてしまっていた。
理子はバイバイっ! と言いながら走り去ってしまったが、俺は空返事でしか返すことができず、未だに思考が回っていなかった。
俺は自分の手を頬に当てる。
——熱い。自分でもわかるぐらいに熱い。やばい……頭が熱い。
先ほどの理子のキス、理子のキレイな表情を勝手に頭が思い返して、さらに俺の顔がドクドクと赤くなって——頭から血が出てて……ってなんじゃこりゃあ!? 頭に銃剣がぶっ刺さってやがるッ!?
「レキッ!? 何してんンンンッ!?」
銃剣をぶっ刺してきた下手人のレキに怒ろうとした瞬間——キスをされた。
そのキスはとても深く。理子とのキスをかき消そうとしているように見えた。
俺はレキの肩を掴んで離そうとするが、レキは離れようとせず、むしろ両手で俺の身体を抱きしめてきた。
「—————ぷはっ!」
俺はなんとかレキの口から離れた。
「お前、いい加減に——レキ……?」
突然、キスしてきたレキを怒ろうとしたが、レキの表情を見た瞬間その怒りは収まってしまった。
「なんで、そんなに泣きそうな顔してんだよ……」
レキは今にも泣きそうな表情をしていた。
彼女はその顔を俺に見せたくなかったのか俯いて隠そうとする。そして、レキはポツリポツリと消え入りそうな声で呟いた。
「貴方が……取られると思って……」
「取られるって……理子に?」
コクンと頷くレキ。
つまりレキは俺が理子に取られると思って不安になり、キスしてきたってか。バッカだなあ……
「バカちん。俺の相棒はお前だけだよ」
俺はそう言ったが、レキは俯いたままで納得していないようであった。
「——理子さんに銃を貰っていました……」
「……あ」
「——理子さんに胸を当てられて喜んでいました……」
「……あ」
「——理子さんにキスをされて照れていました……」
「……あ」
前言撤回。バカは俺でした。
これはレキも不安になるよな……
「でもな、レキ——これは仕方のないことなんだ。男というものは胸を当てられると無条件に喜んでしまうんだよ。キスも同じくね」
うん。こればっかりは仕方ない。男の生理現象だもの。特に俺はおっぱいが好きだからね。
「——でも、俺はお前のことだけをパートナーと思っているよ」
うん。自分で言ってて思ったけど信憑性皆無だな。
ならば、こういうときは、言葉よりも行動で示せってな。
「俺はそれを証明したい。どうすればいい……レキ?」
レキが求めるものをシッカリと俺が叶える。そうすることで、レキは安心するということだ。
レキは俯いたまま小さく呟く。
「……キス……を……」
「はい……?」
「キスを……してください……」
「——えっ? さっきしたじゃん」
——グサッ!
俺の脳天に銃剣が突き刺さった。
アアアアアアアアアアアアアア!! と叫びながらのたうち回る俺。
いや、俺が悪かったよね! 今の俺が悪かったよね! わかってるよ! しっかりわかってるからっ!
俺は、よろめきながら立ちあがって、俯いているレキの両肩を掴む。
片手を肩から俯いているレキの顎へと移して、そのまま顎をクイッと上げて俺の方へと向けさせる。
目の前に映るレキの顔は、少し赤くなっていて、目も少し腫れていて……もしかして泣いていたのかもしれない。
俺は本当にパートナーから愛されているようだ。
レキの顎と肩から手を離し、レキを自分の胸へ押しやるようにして抱きしめる。
「レキ」
「……はい」
「お前は俺のことパートナーって思ってくれてるか?」
「……………」
何も答えないレキ。
やはり少しばかり怒らせてしまったようだ。こうなったら卑怯な技だが、アレを使うしかないだろう。
「やっぱ……俺みたいな、不埒者のことなんかキライだよな……」
必殺、自虐作戦。自分を卑下することで相手の気を引く作戦だ。
これは正直、かなりの効果が期待できるが、相手のことを想うと自分を醜く思ってしまうため、あまりやりたくなかったことだ。
「俺なんか……パートナー失格だよな……ごめん」
「それは、違いま————っ!?」
レキが俺の言葉を否定しようと顔を上げた瞬間に——俺はキスをした。
レキは突然のキスに目を見開かせている。頬も少し紅潮していた。
ハハハ、最近のレキは本当に表情豊かだな。俺も見てて楽しいよ。
俺はレキの全身を包み込みようにギュッと抱きしめる。
レキも俺を受け入れたのか目をゆっくりと閉じていって、両腕で俺の体を強く抱きしめる。
それは俺を離さないように——他の者に取られないようにしているようで……
どうやら、俺のパートナーは独占欲が強いらしい。でも、そんなところも愛おしく見えてくるんだよな。
数分が経って、お互いにゆっくりと口と体を離していく。
「……これで、安心してくれたかい?」
俺はレキに聞く。
これで安心してくれなかったら、後の手段はもう……アレしか。
「……はい」
ふぅ、どうやら満足してくれたようだ。よかった。
アレを使ってしまったら俺も色々と覚悟決めなきゃいけなかったんでよかったよ。
「じゃあ、一緒にゲームセンター行こうぜ」
俺の当初の目的はゲームセンターだ。
レキが何故か側にいて、途中で理子が乱入してきたが、俺は初めっからゲームセンターに行きたかったのだ。
「はい」
いつもの無口・無感情・無表情に戻っているレキ。でも、俺は彼女の中にも確かな感情が備わっていることを知っている。
俺は彼女と一緒にゲームセンターへと歩みを始めた。
「ソラさん——」
歩いている途中にレキが俺の名前を呼んできた。
俺は、どうしたのだろうと思って見てみると——彼女が俺の唇に優しく口づけをした。
「——私のパートナーは貴方だけです。これからもそれはずっと変わりません。一生変わりません。だから……パートナー失格だなんて言わないでください」
「あ…ああ……すまんかった」
……もしかしてさっきのキスの前に言ったことを怒っているのか?
アレは別に本気じゃなかったんだがな……まぁ、俺が悪かったことには違いないよな。
でも、俺は負けず嫌いだからキスされたまま終わらせたくないんだよ——というわけで。
「——レキ、乳揉ませてくれ」
「死んでください」
この後、巨乳の女性を緩んだ表情で見ていた男性の目ん玉に銃剣が突き刺さったらしい。