とある日の昼頃。
今日は学校がお休みで外に出ていた時のことだった。
「ようやく見つけたわ! ソラっ!」
「ゲッ!? アリアっ!?」
適当にブラブラしていたら、アリアとバッタリ会ってしまった……
「さぁ——私のドレイになってもらうわよっ!」
「バカいうな! そんなもんはキンジだけにしとけっつの!」
俺は、アリアから背を向けて逃げ出す。
見ての通りだが俺は今、アリアを避けている。理由は一目瞭然だろうが、一応説明しておこう。
俺がハイジャック事件から帰って来た後、何を血迷ったのかアリアは、俺をキンジと同じドレイ(=パートナー)にしようと追っかけ回してくるのだ。
俺は、デカパイ子ちゃんなら喜んで組むだろうが、アリアのようなロリの尻に敷かれるのは嫌なので全力で拒否している。
「——待ちなさいッ!」
うぇ!? アイツ、街中で銃を抜きやがった!?
バキュンバキュン! と後ろから銃声が聞こえる。
「くっ——」
俺は後ろから飛来してくる2発の銃弾の気配を察知して、体を捻り避ける。
「ふふっ。流石ソラね……それでこそ、私のパートナーよ!」
——おい、勝手にパートナー扱いするんじゃねえ。
しかし、このままでは、いつかはやられてしまうだろう。一度くらいはアリアとしっかりと話し合わなきゃいけないハズだ。
そう考えた俺は足を止めて振り返り、アリアの方を向く。
「……ん、どうしたの? もう降参なの?」
「いや、降参じゃないけど、一旦落ち着こう……ほら、銃も降ろして、ね?」
俺は、子どもをなだめるように声を出して、アリアを説得する。
アリアも「しょうがないわねえ」と言いながら銃を収めていく。
「それで降参じゃないから、一体どうしたのよ?」
「あー、えっとな……正直、俺にはアリアの魂胆がわからないから、一度落ち着いた状態で話し合おう……? ということです」
「ふーん。まぁ、いいわよ。じゃあ、ファミレスかなんか行きましょ?」
「お、おう」
そんなこんなで俺たちは、ファミレスへ入っていった。
*
「モキュモキュ! おいしー!」
「アリアは、甘いものが好きなんだな」
「違うわ。私は、桃まんが好きなのよ」
はい、そうですか。それはよかったですねぇ……
先ほどからアリアは、食べ放題の桃まんをパクパクと食べ続けている。
「——それで、なんで俺をアリアーズに入れようとするんだよ。キンジとそのまま組んでればいいじゃねえか」
「そのアリアーズってやめてちょうだい。ポケモン不思議のダンジョンに出てきそうで嫌よ」
そっちの感想を求めてるわけじゃねえよちびっ子。
それに、別にいいじゃねえかアリアーズ。きっとアリアドスのチームなんだよ。俺は好きだよアリアドス。
「それで、なんで俺をお前のドレイメンバーに組み込みたいんだよアリア……ドス」
「次、アリアドスって言ったら風穴だから……あんたを私のパートナーにしたい理由はねえ……勘よ!」
「——勘とか、ぶち殺すぞアリアドス」
「——あんたをね!」
俺たちは、お互いに刀と銃を向け合って制止する。そのまま、数分の時が過ぎる……不毛な時間だ。
「あー、やめようやめよう。ここでは武器を向け合うのやめよう」
俺は刀を降ろして、『何もしないよ』の意味で両手を上にあげる。いわゆる降参ポーズだ。
アリアも「そうね」と言って、銃を降ろす。
「勘かぁ……」
「なによ……勘のなにが悪いのよ」
「いや、よく思ったら俺も勘で行動してばっかりかもって思ってさ」
俺がそう言ったら、ガタッとアリアが机に乗り出してきた。突然のアリアの行動に俺はビックリする。
「ソラも勘で行動するの!? 私と一緒なの!?」
『私と一緒』だぁ……?
まぁ、でも多分一緒なのか……? 俺は、信用できるヤツを無意識に——つまり、勘で決めてるしなぁ……
「まぁ、アリアと一緒なんじゃない?」
「そうなのっ!?」
妙に驚いたリアクションを取るアリア。
その後に、じゃあねじゃあね!? と言って俺に何かを尋ねようとしてくる。
「もし、とある事件で、私が勘で犯人はコイツだ! って言ったら信じてくれる!?」
なんだその妙な例は……経験済みってか。
「俺と似たような勘の使い方してるし、信じるんじゃないか?」
「ほんとっ!?」
「ああ、でも実際は、起きてみないとわからんけど」
——それでもいいのよっ! と言ってなぜか嬉しそうにするアリア。
その嬉しがってる姿が子どもっぽくて、なんだか可愛らしくて見える。俺と同学年なのに……
「やっぱりソラは、私のドレイになるべきよっ!」
「……なんでや」
はぁ……とため息を吐く。
なんだか気が滅入るなぁ……こう、聞き分けのない年下の子を相手にしているようで、かなりめんどくさい……
「俺をドレイに加えようとするのはいいけどよぉ、キンジが寂しがるぜ?」
「なんで、そこでキンジが出てくるのよ?」
「えっ? だってお前ら——付き合ってんだろ?」
——ゴホッゴホッ! アリアが食べていた桃まんを喉に詰まらせる。
そして、徐々に顔を真っ赤にさせていって……
「バ、バカキンジなんかと! つ、つつつつ付き合ってなんかないッ!」
「えー?」
真っ赤な顔して否定するアリアは、正直に言ってかなり可愛い。
こう、いじり甲斐があるというかなんというか。
「だってお前ら、最近はいつも一緒にいたじゃん。というか、一人の時でもアリアは、キンジのことばっかり話しているんだろ?」
「——にゃ!? にゃんでそんにゃこと知っているのにょ!?」
「道端で聞いた」
アリアよ、それは一体何語なのか。
「それで、俺にばっかり構っていたらキンジが寂しがるんじゃないのか? 今もほらキンジ一人でいるかもしれないしさ」
——ほら、気になるなら電話かけてみ? と言ってアリアに電話を促す。
アリアも「気になってなんかないわよっ!?」と言いながらもバックから携帯電話を取り出している。なんだ気になってんじゃん。
——プルプルプルプル。
携帯の呼び出し音がアリアの持っている携帯から聞こえる。
「か、勘違いしないでよっ!? べ、別に私は……キンジが——そうっ! キンジが寂しがっていると思って掛けてあげてるだけなんだからっ!」
ハイハイ、キレイなツンデレありがとう。そんなアリアも可愛いよ。
『……なんだよアリア』
アリアの携帯から根暗な声が聞こえて来る。
「あっ! キンジ!? あんたさては今まで寝てたわねっ!? 武偵のくせにっ! 武偵のくせにっ!」
『なんで、声だけで俺が寝起きだってわかるんだよ……それに俺がいつ起きようとお前には関係ないだろ……』
——おい、こいつら本当に付き合ってないんだよな。
俺には、鬼嫁とめんどくさがりの主人の図にしか見えないんだが……
「このっ!? バカキンジッ! あんたいい加減に——」
——しなさいっ! とアリアが言う直前に俺は、手を使ってアリアの口を閉じた。
もごもご言いながら俺の手を必死に離そうとしているアリア。俺はそんなアリアに一度、落ち着け、とジェスチャーで伝える。
その後、携帯を渡してくれと、キンジに聞こえないように小声で言う。
アリアも渋々といったような感じで俺に携帯を渡した。
『おい、どうしたアリア? もごもご言って……』
と言っているキンジの声が持っている携帯から聞こえてくる。
俺は、昔に一度、理子から教えてもらった『変声術』を利用して、俺の声とバレないようにして電話に出る。
「遠山キンジだな?」
『——ッ!? 誰だお前はっ!?』
キンジの焦った声が聞こえてくる。
「俺か? 俺はアリアの彼氏……そうだな、武偵『アリアドス』とでも呼んでもらおうか」
あの、アリアさん……彼氏っ!? と顔を赤くして反応した後に、アリアドスっ!? と言って銃を俺に向けるのやめてくれませんか……めっちゃ怖いです。
『か、彼氏だと!? アイツにそんなのいるはずが——』
「ない、か? ふっ、
『俺の』と、『パートナー』の部分を強調してキンジに言う俺。
そんな俺にアリアが「あんた、ドSね……」と言いながらドン引きしてるが、俺はSじゃない。ただ、いじることに喜びを感じているだけだ(それがSである)。
『——クッ! だ、だけどアリアは、お、俺に、彼氏なんかいないって確かに言ってたぞ!』
「お、おう。そうかい……」
えー、この子なんかムキになって言い返してきたんですけどー。と、ここまでは計画通り。
……こっからが正念場だ。
「だがキミは、アリアの『パートナー』であるだけだろう? どうして、彼氏の存在が気になるというんだい? もしかして……アリアのことが好きであるというのかい?」
『——なっ!?』
「——うひゃ!?」
後ろのアリアがビクッと体を震わせたのがわかる。
ククク、アリアもキンジも本当に可愛いなぁ〜!
今の俺の顔を見たら、エロ親父みたいな顔つきになっていることだろう。
『ア、アリアのことは……べ、別に、好き……なんかじゃない!』
……おいアリア、好きじゃないって言われたからってそんな泣きそうな顔してガクンと肩を落とすな。
『——でもアリアは、俺のパートナーだ! だから俺は、アリアのことを大事に思っている!』
「ほう……」
だ、大事っ!? と言いながら顔を真っ赤にしながら頬を緩ませているアリアを見る。
いや、ほんとに可愛いなアリア。ちょっと好きになってきたかも……
「そうかい……それじゃあ遠山キンジくん。今から、◯◯市の三丁目にあるファミレスまで来たまえ。そこで、どちらが真にアリアを想っているか勝負だ!」
『いいぜ! 受けてたってやるよ!』
——ツーツー。
通話が切れる音がする。
俺はアリアに携帯を返そうとすると——
「キンジに大事だって言われた……! キンジにパートナーだって言われた……! キンジに大事だって言われた……! キンジにパートナーだって言われた……!」
顔を真っ赤にして頬を緩ませながら何回もうわ言のように繰り返しているアリアの目の前に携帯を突きつける。
ウキャ!? と悲鳴を上げながら、携帯を受け取ったアリアが俺と向き合う。それでもまだ顔が赤いのはキンジの言葉が残っているからだろうか……
アリアの紅い瞳が俺を見据える。
「ソラって……いつもはみんなと一緒にバカやってるみたいな感じだけど……実際は、一歩後ろからみんなを見つめている気がするのよねえ」
「……なんだそれ、勘か?」
「勘よ」
そうかい。じゃあ、それはきっと正しいんだろうな。アリアの勘だしな。
「なんというかソラって……同い年だけど、お兄ちゃんみたいな雰囲気がするのよね」
…………………うん? 今なんと?
「ごめん、アリア。もう一回言ってくんない?」
「え? ああ、ソラってお兄ちゃんみたいな雰囲気がするなぁ——って、どうしたのよ!? その緩んだ顔!?」
——や、やばっ!? アリアに『お兄ちゃん』って言われるのやばっ!?
なんというかこう……本当に妹がいるみたいで、すごいドキドキする……!
「お、おいアリア……この前のバスジャック事件の時の報酬なんだが……」
「え、ああ……胸触らせろってやつ? 私、そんなの絶対嫌よ!」
いや、俺もそんなのに興味ない。というか、アリアのガチの貧乳を揉もうとしたところでワクワクするわけがない。
「いや、それはもういい……それと、アリアのドレイについての件だけど……ドレイにはならないけど、代わりに俺が考えた『新しい報酬』を出してくれるなら、いつでもアリアのお手伝いをするってことでどうだ?」
うーん……と考え込んでいるアリア。
子どもみたいに小さいのに腕を組んで考え事をしているアリアが、なぜか今の俺にはとても可愛らしく見えた。
「じゃあ、それでいいわよ……キンジも私とのコンビじゃなきゃ寂しいだろうから……ふふっ」
そう言って頬を緩ませて笑うアリア、可愛い。
「そ、それで……新しい報酬って、な、なによ……?」
前回の報酬の『胸を触らせろ』を警戒してか、かなりビクビクしながら俺に聞いてくるアリア。
「ああ、新しい報酬はな……」
俺はため込むようにして言う。アリアはゴクリと喉を鳴らして背筋を伸ばして聞いている。
「俺のことを『お兄ちゃん』と呼ぶことだァアアアアアアアア!!」
カチン、静寂が店の中を支配した。
そして、徐々にリロードされていく。
「え? お、おにいちゃん……? と呼べばいいの? 一回の依頼ごとに……?」
「そう! 俺のことを一回の依頼ごとに一度、報酬として『お兄ちゃん』と呼ぶことだ!」
——まあ、それなら……と言って了承するアリア。
よっしゃああああああああああああああああああああああ!!
「じゃ、じゃあ早速、バスジャック事件の報酬として一度、言ってみてくださいやがれっ!」
「な、なによ、その言葉の混ざり方……」
「——そんなことはどうでもいいんだよっ! 早くしろっ! 間に合わなくなっても知らんぞ——っ!」
「な、何が——っ!?」
俺の言葉にツッコミを入れるアリア。
俺は、ハアハアと息を荒らくしながら待機する。
「そ、それじゃあ、いくわよっ……!」と言いながら緊張した様子を見せるアリア。
「…………お、お兄ちゃん……ありがとう……」
——がふっ!?
「ちょ、ちょっと!? 吐血してるけど大丈夫なの!?」
俺は机に倒れ伏しながら、『大丈夫』と『素晴らしかった』の二重の意味を込めたサムズアップをする。
まさか、『お兄ちゃん』だけでなく、アレンジとして『ありがとう』まで付け加えてくるとは……やだっ! アリアちゃん! この子きっと悪女だわ!?
「そ、それじゃあ……そろそろキンジも来るだろうし……俺は行くわ」
「え、ええ……」
俺はフラフラと席を立ちながら、店を出て行こうとする。
「あ、俺と会ったってことは内緒にしてくれ……じゃないと俺がキンジに殺されかねない」
「ええ、わかってるわ……それじゃあ——」
「ああ——」
——バイバイ、とお互いに手を振りながら、俺はお会計を済ませて店を出ていった。
その時に、入れ違いでキンジが入店する。
「どこだ!? 武偵、アリアドス! 俺と勝負しろっ!」
「ア、アリアドス…………!?」
「あれっ、アリア? アリアドスは一体どこに……?」
「——風穴ァアアアアアアアア!!」
「なんでぇえええええええええええ!?」
店内から銃声とキンジの悲鳴が聞こえるが、俺には一切関係のない出来事である。
それにしても…………
——アリアの『お兄ちゃん』呼び可愛かったなぁ……