人には様々な趣味がある。それはもう数えきれないくらいだ。
例えば、可愛い子のスカートを覗く趣味。例えば、可愛い子のおっぱいを揉む趣味。例えば、可愛い子にセクハラする趣味……とまぁ、こんな感じに趣味とは十人十色、千差万別なのである。つまり自分の知り合いが変態的な趣味に走っていても、頭ごなしに否定するのはよろしくないということだ。
だから俺は、俺は——
「お前が、コスプレなんて趣味に走っていてもキモいとは思わない」
「お前に気にされるようなことはないっ! そして、お前とは初対面だ!」
「いやいや、俺にとって可愛い子ちゃんは全員友達みたいなもんだよ? お前のその銀髪。そのサファイアのような瞳——うん。俺の友達、いや、俺の彼女だ!」
「誰が彼女だ!? 私はお前となんか、彼女にも友達にもならん!」
「そんなに照れんなよハニー。ユーのコスプレ趣味はなんとなくだが、俺のセクハラ趣味と合っているように思えたぜ? 店に飾っているウェディングドレスを眺めていたハニーの姿、俺は生涯の妻を見つけたかと思ったよ」
Oh my honey! なんてキミは可愛いんだ……!
「私をお前の変態さと同列に扱うなっ! そ、それに私は……別にウェディングドレスなんか見てないっ! 断じて見てなどいない!」
「まったく素直じゃないなハニーは……しょうがない、俺がハニーを見た瞬間を一から語ってあげるよ」
「語らんでいいっ! 語る——」
「あれは、今日の昼ごろだった……」
「なあああああああああああああああああああああああああ!!」
*
今日は、日曜日……あれ? 最近、日曜日が続いてるけど原作の時間軸的に大丈夫なの? という感じで、今日は日曜日だ。休日だ。
俺は、テキトーにぶらぶらと出かけていた。
もし、テキトーではなく何か目的をつけるとするならば、可愛い子ちゃんを見つけてナンパか……? うん。それでいこう。
——そう、俺は可愛い子ちゃんとエッチいことをするために外出していた。
しかし、一向に見つからない相手、このままでは30歳まで童貞を貫き、魔法使いになってしまうのではないかと驚愕していたその時——俺は見てしまった……!
ドレスサロンの中に飾られているウェディングドレスを窓の外からべったり張り付いてガン見している美しい女性を!
後ろから見えるその女性は、氷のような銀色の髪をつむじの辺りまで上げた2本の三つ編みで結っていた。
ウェディングドレスを見ている彼女は、雰囲気からも高貴さを感じさせるものがあり、まるでどこかのお嬢様のように見える。
「——おいおい、そこの可愛いお嬢ちゃん。そのウェディングドレスに何か用かい?」
これを言っているのは、アニメでよくある……ヒロインをナンパして主人公に撃退されるが定番のナンパマンではない——俺だ。
彼女が俺の声に気づいて、振り向いた。
「——む。確かにこのドレスを見ていたが、用があったというわけではない」
彼女のサファイアのような青色の瞳が俺を映している。改めてみる彼女の顔は、白人のように白く、目もキリッとしていて、可愛さとカッコよさが感じられた。
つまり、俺の心のセンサーもバッキバッキに反応しているというわけですね。
「見ていたってことは興味はあったの?」
「まあ、多少は……というかお前は誰だ?」
銀髪の少女は、怪訝な顔をしてこちらを見ている。
おっと、これはすまない。自己紹介が遅れたようだ。
「俺は天草空。よろしくなお嬢ちゃん」
「ふむ……天草空か」
ふむ、ふむ……と言って頷いている少女。
「もしかして、俺のこと知ってる?」
少女は俺の問いに、頷いて答える。
「ああ、私の友人からよく話を聞いている」
「へぇ、その友人は俺のことなんて言ってたの?」
「ん? ああ……確か、Sランク武偵の中でぶっちぎりの変態だとか、マジで変態すぎてヤバすぎだとか、巨乳が好きとか言いながら付き合ってるのロリばっかじゃんとか、ロリ巨乳を兼ね備えている私を愛すればいいんじゃない? とか、そんな感じだ」
「——ちょっと、そのお友達を俺に紹介してくんない? 真っ赤なお花を添えてお返し致しますから」
「お、おい、そんなに怖い顔をするな。落ち着け。一旦、落ち着け」
落ち着けるわけねえだろうがァ!? あぁん!? 誰だよ、勝手に俺のことを言いふらしてるやつはよォ! しかも見事に痛いところ突いてるのが一番嫌なんですけどォ!?
あ……なんか、武偵殺しとかなんとか言われてる金髪のクソロリ巨乳の顔を思い出した。きっと、このことに何か関わりがあるんだろう。後で丑の刻参りで呪ってやる。
「それで、お嬢ちゃんは——」
「おい、その『お嬢ちゃん』というのをやめろ」
銀髪のお嬢ちゃんが少し眉を細めて言う。
「じゃあ、嬢ちゃんの名前教えてくれよ。そしたら名前で呼ぶから」
「ん? ああ、まだ名前を言っていなかったな。すまない」
そう言ってぺこりと頭を下げる少女。
もしかして、名前を言うの忘れていたのだろうか……案外、抜けているのかもしれない。
「私の名前は、ジャンヌ——あっ!? ………………う、うん。そうだな。私のことは、ギン……ギン・ダイヤモンドと呼んでくれ」
「——おい待て。その名前、絶対偽名だよな? 明らかに偽名だよな?」
途中に思いっきり間があったし、今もめっちゃ汗かいてるし。
「いや、違うんだ。決して偽名なんかではないんだ。これは……そう、私の父の嫁の娘がつけた名前なんだ」
「つまりお前だろ。 アーユーバカ?」
ノーバカ! と頭の上にバツを描いているバカ。
……わかる。俺にはわかる。この美少女はただの美少女ではない——残念系美少女だ。だが、それでも愛するのが俺だ。
「はぁ……わかった……わかったよ。これからは、ギンと呼べばいいんだな?」
「そうだ。初めから素直にそう呼べばよかったのだ」
ムカっ! なんかこの子、バカな上にチョー腹立たせてくるんですけど。
「それでギン……お前、このドレス、本当に用はねえのか?」
「ああ、何度もそう言っているだろう。私はこんなドレスなんか——」
「このドレス……試着できるらしいぞ?」
——ビクッ!
ギンの体が激しく揺れる。
「しかも無料で」
——ビクビクッ!
またしてもギンの体が激しく揺れる。
「だが、その条件に男性が同伴しなきゃいけないらしい。しかし、同伴すれば他の服も試着し放題」
——ビクビクビクッ!
さらにギンの体が激しく揺れた……いや、そこまでビクビクすれば、ただの震えじゃねえか。
「さて、ギン……お前は、どうする? 本当はこのドレス着てみたいんだろ……? そして、着るための条件の男性は、ここにいる。俺が喜んで付き合おう……さぁ、どうする?」
ニヤニヤっ。俺の頬が自然と吊り上がっていく。ギンのような可憐な美少女のウェディングドレスを着た姿を見ることができたら、それはもぉー! ワタクシ! 前のめりでごぜぇます!
「——くっ! こ、こんなドレス、興味は一切ないが、仕方があるまい! 天草空!
チラッ! チラッ! と強くウェディングドレスに視線を送っているギン。
一体、ドレスを着ることのどこに『仕方がない』要素があるというだろうか……
それにしても……ニヤリ。
「そうかそうか。じゃあ、ギン……こういうスカートとかもどうだ? 着るか?」
「おおー! なんだそのヒラヒラの可愛いスカートは! 是非とも着たいっ!」
俺が指差した、店内のスカートを目を輝かせながら眺めているギン。
ほうほう……ぐふっ!
「じゃあ、こっちのカチューシャはどうだ?」
「ふぉおおおおお!! フリフリのリボン付きのカチューシャ!? 私に似合うだろうか!?」
「似合う似合う間違いない」
ギンは、少女漫画のように目をキラキラと輝かせて店内を見つめている。なるほどなるほど……今、ギンについてハッキリと分かった。
「つまり、ギンは——コスプレ趣味があるというわけか」
*
「——という感じだったな。うん」
「うるさいうるさいうるさーい!」
銀色の髪をブンブンと振り回して聞かぬフリをしているギン。
どうやら彼女にとってコスプレ趣味はバレたくなかったことらしい……いや、めちゃくちゃ分かりやすかったし。
「まぁ、落ち着けよギン……俺は、別にお前のコスプレ趣味を広めようだとか思ってるわけじゃないんだから。むしろ、協力しようって言ってるだけで」
俺がそう言うと、ギンは、何故か俺にジト目を向けてきた。
「私がこんなドレスを着たら、お前、絶対にセクハラをするだろ……」
——だって、私の友人がお前は、女なら誰でも襲う超絶変態だと言っていたからな。と続けるギン。
……おい。その友人を一度でいいから会わせてくれ。ぶっ殺してやっから。
それによォ! お前もその友人も俺のことをみくびってやがんな!? ドレスを着たからって誰でもかんでも襲うわけねえだろうがっ! なぜなら——
「俺は、着衣でヤるよりも全裸でヤるほうが好きだ!」
「——誰もお前の好みなど聞いてはいないっ!」
ギンが、ビシッと効果音が入るようなツッコミを入れる。
なかなか、いいツッコミを入れるじゃないか。だけど、この街中じゃあ、あんまりよろしくはないけどな。
「あんまり大声出すと、俺とお前のラブラブな関係がバレちまうぜハニー」
「だ、誰がハニーか!? だが……私もできるだけ注目は集めたくない——いや待てっ! それもほとんどおまえのせいじゃないのか!?」
いや知らんよそんなこと。
でも、ハニーと呼ばれて少しだけ顔が赤くなってるギン可愛い。
まぁ、注目については諦めた方がいいと思うんだけどね。
「大丈夫だって、もうお前は、注目を集めているから」
「な、なんだとッ——」
ギンが辺りを見渡す。ついでに俺も周囲を見ると、やはりそこら辺の道行く人々は、ギンのことを見ていた。
そりゃあそうだろう? あんなにべったりと窓ガラスにへばりついていたんだから、そりゃあ注目を集めるよな。
「ついでに言うと、今、お前に向けられてる視線は『アイツ、なに壁に張り付いてんだ?』じゃなくて、『変態の天草空に絡まれてかわいそう……』的なやつだから」
「——やはり、お前のせいではないかッ!」
「ぶえっ!?」
ギンの蹴りが腹に減り込む。
な、なかなか良い蹴りしてますねぇ、お姉さん……げぼっ。
「そ、それで、このドレス着たいの? 俺付き合うよ?」
「——そのワシワシとした手を下げてから言え変態」
むっ。失敬なやつだ。俺はギンのような普通くらいの胸しかない奴にはあんまり興味はない……ハズだ。
「大丈夫だって、俺の初体験は、巨乳の人に済ませてもらうつもりだから。だから、ギンには俺からの視姦をたっぷり味わって、その後にホテルで一休みでも——」
「——結局、手を出しているではないかバカッ!」
「うげっ!?」
ズドンッと腹に拳が決まる。
な、なかなか良い拳してますねぇ、お姉さん……うべっ。
「もういいっ! そうだよ! 私は可愛い服やキレイな服を集めるのが好きだ! それを着るのも大好きだ! だから、お前も付き合え天草空!」
そう言ってギンは、グイグイと俺の腕を引っ張って入店していく。俺は、ギンの少し赤くなった頬をチラリと見て。
「……なんだ、やっぱりコスプレ趣味あったんだな」
「うるさいうるさいうるさーい!」
*
キラキラと輝いて見える空間。
俺はとある一室で、待ちぼうけをくらっていた。
「お客様、ただいまお連れの彼女様が準備中でございますのでしばらくお待ちください」
「は、はい。わかりました……」
……お、思ってたよりも3倍、店の雰囲気が豪華なんですけどぉおおおおお!?
天井に吊るされてるシャンデリアとか、色鮮やかなステンドグラスとか、窓ガラスから見たときは全く見えなかったんですけど!?
「あ、あのー? これって僕まで白いスーツに着替える必要あったのでしょうか?」
俺は、今自分が身につけている衣服を見る。
とても高そうな白いスーツ。シワがひとつもなく、本当にただ真っ白である。
「当然ですお客様! これから彼女様と一緒に記念撮影をするのですから!」
「は、はい。そうですよねすいません」
この店員さん、かなり圧が強いんだけど……
俺は、少しばかりギンに付き合ったことを後悔していた。
まず、この店の無料試着は、男性同伴というよりもカップル限定であったことだ……いや、気づけよ俺!
次に、ウェディングドレスを試着する場合は店内で記念撮影をするらしい……それも男性同伴で! つまり俺も!
当然ながらこのご時世、武偵は個人情報を残すことを良いこととは言えないため、店側は撮った写真を残さず、現像して俺たちだけに渡すらしい。
……本当にこのお店の経営は大丈夫なのだろうか。
「——あっ! お客様、彼女様の準備ができたようです!」
「アッハイ」
もう準備できたの!? 俺、全然緊張解けてないんだけど!
「それでは、彼女さまのいる部屋まで向かいましょう」
「わ、わかりましたー!」
ビシッと敬礼して答える。
や、やばい……! 頭がおかしくなってきた。
ギンのやつは大丈夫なのだろうか……?
……アイツは残念系美少女だし気にしてなさそうだな。
店員さんは隣の部屋への扉を開けて、俺を中へと入れる。
隣の部屋は、俺が先ほどまでいた部屋と同じ模様、様式であった。
——だが、そこには先ほどまでとは明かに違うモノがある。
部屋の中にいる一人の女性。
その女性は純白のウェディングドレスを着ていた。
純白のドレスと白銀の髪とがよく合っていてどこか浮世離れしている感がある……そう言えるほど、綺麗だった。
「……ギ、ギンなのか?」
「ん? ああ、天草空か」
女性がこちらを振り向く。やはりギンだった……
彼女は、元々白かった肌を化粧でさらに白くしていた。
「髪解いて、ロングヘアーにしたんだな……?」
「ああ、お前はこの髪型が好きなんだろう? 友人が言っていた」
その友人マジでナイスすぎるぜ。今まで呪うとかぶっ殺してやるとか言って悪かった。後で、足舐めてあげるから許してほしい。
「それで私のこの格好、似合うか……?」
ギンは、クルリと一回転して全体像を見せる。彼女の回転とともにキラキラと白銀の氷が宙に舞っているかのように見えた。
彼女のそれだけの仕草だけで俺の頭と頬が無意識に熱くなっていく。
「あ、ああ……馬子にも衣装だな……」
「おい! それはつまり、私はダメダメだけどこのドレスは綺麗だって言いたいのか!?」
「あ、いや……すまん」
「え……? あ……う、うむ……わかればいいのだ。わかれば……」
ダメだ……頭が働かない。
さっきまでと同じようにギンをからかってみたけど、ギンの顔を直視できない。
ほら…… 俺が照れているせいでギンも妙に大人しくなっている。
——しっかりしろよ俺!
「すまんギン!」
「は? 突然どうしたんだ天草空」
「お前がキレイすぎて見惚れてたんだ! だから、正直に言う! お前のその格好めちゃくちゃ似合ってるし綺麗だ! その銀髪のロングヘアーも俺の好みすぎてさっきから心臓がバクバク鳴ってる! お前はどんだけ俺をトキメかせたいんだよ!?」
「はぁ!? 何を逆ギレみたいに——うぅ! そんなに褒めるなぁー! 外にいたときと同じようにからかってこいよバカー!」
「そんなことできるかぁー! お前が可愛すぎるのが悪いんだよっ! もう絶対にお前のこの光景忘れられねえじゃねえかよ! どう責任とってくれんだよギン!」
「せ、責任!? そんなこと知るか!? 私もさっきからお前のその白いスーツが似合っててドキドキするんだよ! この大バカ——ッ!」
「え……あ、ありがとぅ」
「あ、い、いや……うん。その、こちらこそ……可愛いと言ってくれて……嬉しい……」
……うぁあ! 頬が熱い——ッ! 頭が溶ける——ッ!
ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ!! ギンがとんでもなく美少女に見える!? こんなに可愛い女がいたのか!?
なんでそんなに顔を赤くしてんだよ! なんでそんなに俺のことをチラッチラッと見てくるんだよ! その動作すらも可愛すぎてもっと頭と頬が熱くなるんだよ——ッ!
「フフフ、彼氏様も彼女様も大満足のようでこちらも大変嬉しく思います」
——ビクッ!
俺とギンの肩が激しく震えた。
「それでは、写真撮影といきましょぉおおおおおおおおおおおおおお!!」
ま、マズい……上手く撮れるかな……
*
自動ドアが開く。
後ろから、大変張り切った声で「ありがとうございました〜!」と言う声が聞こえてくる。
シュゥゥゥと頬と頭から煙を出している俺とギンがふらふらと出ていった。
しばらく、俺たちは無言で歩き回って、公園まで行き着いた。
俺は、テキトーに自販機で炭酸缶ジュースを2つ買い、ベンチに座っているギンに一つ渡す。そのまま、ギンと少し距離を開けてベンチに座った。
「……お疲れ」
「ああ、お前こそ……」
缶ジュースを開けて、一気に飲み干す。
ジュースの冷たい感触と喉の奥にシュワァァと炭酸が弾ける音が聞こえて、爆発しそうだった頭の中がようやく落ち着いていく。
「ギン……これ、さっきの店で撮った写真だ」
俺は持っていた2枚の写真のうち、1枚をギンに渡す。
「あ、ああ……ありがとう」
ギンはそれを受けとろうと手を差し伸ばし——俺の手と接触した。
『あ……!』
俺たちは素早く手を引っこめる。
ま、また……頭の中に熱が湧き出てきた……
「す、すまない、天草空」
「い、いや……俺もわるかった、ギン」
そう言うものの、こちらを全く見ようとしないギン。だが、俺も彼女の顔を全く見ることができない。
……少しだけ、彼女の様子を見ようと、視線をやると。
——こちらの様子を伺っている頬の赤いギンと目が合った。
バッ! と風切音が聞こえるほどに頭を横に背ける俺とギン。
あ、甘酸っぱい……! 俺は、こんなにも純情ボーイだったのか!? といった感想が頭の中に浮き出てくる。
流石にこのままではよくないだろう……俺は別の話をすることにした。
「ギン……俺をフルネームで呼ぶんじゃなくて……名前で呼んでくれないか?」
「あ、ああ……それはすまなかった、天草」
『天草』呼びか……なかなか新鮮だな。
俺をそう呼ぶのは、見知らぬ人か…蘭豹先生ぐらいなもんだからな……
「ほ、ほら……写真だ」
「あ、ああ……」
俺は、ギンの顔を見ないようにしながら写真を渡す。ギンも小さく呟くように返事をしながら写真を受け取った。
——そのまま、お互い沈黙になり時間が緩やかに経っていく。
このまま俺とギンの関係は終わるのだろうか……? 俺の心の中に不安が巻き起こる。
そして気づけば俺は——ギンに声をかけていた。
「ギン! お、俺と……連絡先を交換しないか!?」
「え!? あ……ああ! いいだろう! 交換しよう! 是非ともしよう!」
挙動不審。俺たちはまさしく挙動不審だった。
お互いに携帯を向け合って、電波を使い連絡先を交換していく。
交換している間の少しだけの空白の時間。俺とギンはお互いの顔を見つけ合う。
ギンの顔はまだ赤くて……でも、俺の顔もまだ赤いのだろう。頬熱いし……あぁもう!
「お、お前! 俺の連絡先大事にしろよ!? 大事にしなかったら俺泣くからな!?」
「お、お前こそ! もし今度、あの店に行くことになったら……お、お前を呼ぶからな!? 絶対に応えろよ!?」
「あ、当たり前だろうが! 喜んで行きますよ俺は! 逆にお前は俺に来てもらって嬉しいかよ!?」
「と、当然だ! じゃなきゃお前を呼ぶハズがないだろう! というか、お前以外を呼ぶハズがないっ! ——あっ!?」
ボンッ! と頭と頬を赤く爆発させるギン。俺もそんな彼女を見て、また徐々に頭と頬が熱くなっていく……
「わ、私の……趣味のこと…絶対に言うなよ? もし言ったらキライになるからな……?」
「い、言わねえって……絶対に言わねえ……うん」
「な、なら……いいんだ。うん、いいんだ……」
ダ、ダメだ……最初の頃みたいにからかいながら話すことができねえ……!
先ほどのギンのウェデイングドレス姿が何回も頭の中で廻転している。
——カーン! カーン!
午後6時を知らせる鐘の音が公園中を響き渡っていく
……そろそろ帰らなければいけない時間だ。
「ギン! 今日はありがとな!」
「あ、ああ……私こそ、ありがとう!」
俺たちは、腰掛けていたベンチから立ち上がる。
「それじゃあなギン」
「うむ。お前こそ元気でいることだ天草」
そう言って、お互いに握手をする。ギンは笑みを浮かべていた。きっと俺も同じハズだ。
そのまま背を向けて去っていく俺たち。
寂しさは全く感じない。ちゃんと連絡先は交換したからな。
俺は、歩みながら先ほどの店で撮った写真を見る。
そこには、白いスーツ姿の俺と白いウェディングドレスを着ているギンが映っている。そして二人とも顔を真っ赤にしていながらも——口元には笑みを浮かべていた。
「なんだ……上手く撮れてんじゃねえか」
——よかった。大満足だ。
とりあえず、俺はこの写真を永久保存版にすることを胸に誓った。