天草空は乳を揉みたい   作:ゲリラ

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魔剣《Ⅰ》人生ノ色ハ十人十色

 人の一生というものは色々なことがある。

 例えば、鬼ごっこをしていたら女の子のおっぱいをタッチしたとか、気になるあの子がめっちゃ下ネタ言ってたとか、中学校の頃清楚だった子が高校生になってピアスガバガバのギャル子になったりとか……

 とまぁ、こんな感じに色々とあるものだ。

 

 ——でも、俺はこれだけは受け入れたくない。

 

「なぜ、俺が白雪の護衛をしなきゃいけないのですか! 蘭豹先生!」

「あ? んなもん決まってるやろうが、お前がウチのパシリやからや」

「ぶち殺すぞクソアマァ!」

「あぁん!? んだとクソガキィ!」

 

 俺は、蘭豹先生の胸倉を掴もうとするが、逆に掴み返される。

 やだっ! この先生怖いっ!?

 

 俺——天草ソラは現在、職員室にいる。

 職員室といえば、普通の高校でいう呼び出されたりしたらアウトな場所。生徒の中で職員室に好印象を持つ者は果たしているのだろうか……

 そして、この東京武偵高校では、普通の高校の職員室よりもその傾向が顕著である。

 職員室であるというからには、教職員がいる室だ。そして、武偵高にいる教職員は、ごく一部を除いて、まずイカれている……後はわかるな?

 誰がそんなイかれた教師共が巣食う一室に行こうとするだろうか。

「この蘭豹先生を見ればわかるだろう。生徒をパシリ呼ばわりするクソババア。イかれ教師。マジファック」

 

「——おい天草ァ! 心の声が言葉となって出てんぞォ!」

 

 バキグシャ!!

 およそ人体から出ちゃいけない音を鳴らしながら俺は字面に叩きつけられた。

 心の声が漏れるのって……ヒロインを照れさせるだけじゃないんですね……

 

 俺はガバッと地面から頭を引き抜いて、『尋問科(ダギュラ)』の教諭の(つづり)梅子(うめこ)先生と白雪、および、職員室のダクトを通って飛び降りしてきたバカ2人——キンジとアリアを指差す。

 

「キンジとアリアが白雪の護衛をするって自分たちで言い出したじゃないですか! ねぇ、綴ちゃん!」

 

 俺は、ダルそうな雰囲気を発しながら目が死んでいる女——綴梅子に同意を求める。

 

「誰が、綴ちゃんだぁ……梅ちゃんと呼べ」

「あ、ごめん梅ちゃん」

 

 じゃないだろ!? 俺は、同意を求めたんだよ! 誰も呼び方訂正しろとか言ってないんだよ!

 

「確かにこのバカ2人は自分たちから言ってきたがぁ……もう一人くらい使えるヤツがいた方がいいだろうなぁ」

 

 ……な、なんだと!? 確かにこの先生、さっき、白雪はウチの秘蔵っ子だとかなんとか言ってたけど、Sランクのアリアと元Sランクのキンジがいるんだぞ……めんどくせえよぉ!

 

「——というわけや、気張ってやれ」

「うぇぇ……やりたくないよぉ……働きたくないよぉ……」

 

「あ、一つ言い忘れてたが、この依頼を受けるなら、『アドシアード』の仕事やらんでええわ」

「——マジっすか蘭豹先生!? 是非とも白雪ちゃんの護衛はお任せください!」

「お、おう……急に出張んなやキモいわ」

 

 俺氏——天草ソラは今更キモいと言われたところで落ち込むようなザコではない。

 それよりも『アドシアード』の仕事をやらなくていいのは楽でいいもんだ。

 

 『アドシアード』とは、東京武偵高校の開催する対外をメインとしたお祭りだ。

 『武偵』という職業の評価を上げるために、この学校が設置されている人工浮島に一般人をたくさん呼び込み、『強襲科(アサルト)』や『狙撃科(スナイプ)』の二科目をメインとした様々な世界大会の競技が実施されるのだ。

 その規模の大きさは、先ほど世界大会と言ったことからわかるだろうが、かなり大きい……それも東京武偵高の全校生徒が準備をしなければいけないレベルに。

 それはもうめんどくさい。俺は絶対にやりたくない。

 

 ——だったら世界大会の競技に出ろよ? お前、Sランクだろうが。

 

 という感想が出るだろうが、それは最もであると同時に浅はかであると思う。

 仮に世界大会に優勝した場合、色んな所から推薦をもらい将来に役立てられることは間違いない。

 しかし、世界大会……世界大会だぞ! 絶対に前準備とか色々あるに決まってるよな!? 

 それじゃあ、一般生徒のようにアドシアード開催の準備をするよりもめんどくさいに決まっている! 

 だから俺はやりたくない。代表選手に選考されたが全力で拒否したぜ。

 

 俺は護衛対象の白雪の手を掴み、宣言する。

 

「白雪! お前の護衛は俺に任せろ! お前を24時間体制——特に、風呂と睡眠中は完全密着で護衛してやっから! 存分に安心してくれ!」

 

「綴先生。ソラくん、全然信用できないです」

「そうかぁ……後でしばいといてやるから、安心しなぁ」

 

 な、なぜだ……俺のどこが信用できないというんだ!?

 そ、それに綴先生のしばきだなんて絶対にいやァアアアアアアアア!!

 

 この綴梅子という女は尋問の技術においては日本でも五本の指に入る名人である。

 生徒に吸っているタバコで根性焼きをするなど、「コイツも教師陣営の中でイかれているヤツの一人である。勘違いするな、お前の出る作品は『緋弾のアリア』じゃない、『怪談レストラン』とか『ゲゲゲの鬼太郎』とかそういうホラー系だバカヤロー」

 

「おい天草ぁ……心の声が漏れてんぞぉ。この話終わったらすぐに拷——尋問してやっからぁ、尋問部屋までこい」

 

 や、やばっ!? また心の声が漏れちまった!?

 というか今この先生、拷問って言おうとしたよな!? 尋問じゃなくて拷問って言おうとしたよなっ!?

 それに、尋問部屋って完全防音の部屋じゃないですかぁ!? 完全にコレ、殺されますよ!?

 

「んじゃまぁ……お前ら3人で星伽の護衛よろしくぅ」

「天草ァ。お前もしっかり働けや。やないとシバキ回したるからな」

 

「わ、わかってますよ蘭豹先生!」

 

 言われるまでもねえって。ちゃんと武偵として頑張らせていただきます!

 とりあえず、俺たち——俺、キンジ、アリア、白雪は護衛についての会議をしようと職員室を出ようとして——呼び止められた……俺だけ。

 

「おい天草ぁ……話終わったら、尋——拷問するって言ったよなぁ……」

「逆! 隠さなきゃいけないところ逆だから! あぁ、引きずらないで! ワタクシが間違っていました! だから許してくださぁああああああああああいいいい!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 綴梅子の拷問が終わり、何とか生きて帰ることができた俺……別に中で何もなかったからね。本当になにも無かったからね……ぐすっ。

 

「お、おい……ソラ大丈夫か?」

 

 キンジが俺を心配そうな顔で見てくる。

 

「大丈夫? 何が? 別に心配されることなんてないと思うんだけど?」

 

「い、いや、全身に根性焼きと鞭打ちの跡が残って——」

「——アアアアアアアアアアアアアアッ!! 思い出させんなァアアアアアアアア!!」

 

 先ほどの尋問部屋改め、拷問部屋での出来事がフラッシュバックする。

 ア……ニンゲンッテ……ソレダケオイツメラレテモ……マダ、イキテ、イラレルンデスネ……

 

「こ、こらっバカキンジ! 拷問の内容なんて聞くんじゃないわよ!」

「ッ! すまんソラ! 俺が悪かった! だからいつも通りの変態のお前に戻ってくれ!」

 

 アリアがキンジの尻に蹴りを入れる。

 流石にキンジも不味いと思ったのか、俺に謝ってくる——って待てや。

 

「——おい、誰が変態だゴラ」

 

「おおぉ! ソラが戻ったぞ!」

「やったわねキンジ!」

 

 俺を無視して、満面の笑みをハイタッチをする二人。

 それほど、俺の状態は酷かったのだろうか……?

 

「……ところで、白雪はどこ行った?」

 

 俺は、周囲にアリアとキンジしかいないことを確認し、肝心の護衛対象がいないことに気づいた。

 

「ああ、白雪なら自分の荷物を女子寮に取りに行った」

「荷物を取りに行った……? なんで? 白雪の部屋にお前らが住み込むんじゃないの?」

 

 武偵が行う、ボディーガード及び護衛任務は、依頼者の部屋に住み込んで守るっていうのが普通である。

 キンジが言い辛そうな顔を浮かべた。

 

「い、いやぁ……なぜか白雪が俺の部屋に住み込むことになって。それで、俺の部屋を中心に護衛をすることになってしまったんだ……」

 

 あー、なんとなくイメージができる。

 どうせ白雪がアリアとキンジがほぼ同棲しているのに対抗して、『私もキンちゃんと一緒に暮らすぅうううううう!!』的なことを言ったんだろうなぁ……

 

「それじゃあ、護衛はどう担当するんだ?」

 

 俺の質問にアリアが答える。

 

「基本的に、私とキンジが白雪を24時間体制で護衛するわ」

「じゃあ、キンジの部屋には、アリアとキンジと白雪が住む感じになるのか?」

「そうね……そういう感じ」

 

 ひゅーやったねキンちゃん! 一気にハーレム状態だよ! 可愛い子2人と同棲生活だなんて一生できるもんじゃないよ?

 

「じゃあ、俺は遠隔からの護衛か?」

「ええ、そういうこと」

 

 マジで? 俺、一人で遠隔からの護衛なんてできっかなぁ……

 

「別に心配はいらないわ」

 

 俺の不安気な表情を察したのか、アリアがフォローを入れる。

 

「ソラには——レキと一緒に遠隔の護衛をしてもらうから」

 

 ………………

 

「……マジ?」

「マジ」

 

「誰の部屋で?」

「レキの部屋で」

 

「レキも24時間体制?」

「レキは、アドシアードの狙撃競技(スナイピング)の日本代表で忙しいみたいだから腕の時間貸し(パート・タイム)

 

「それはそれで……マジ?」

「マジ」

 

 うん。これはフォローじゃないわ。イナイレのジャッジスルー並みに危険なパワープレーだわ。

 まず、レキと一緒ってことは特に問題はない。だが、次……レキの部屋で、というのが問題だ。

 レキは女子だ。つまりレキが住んでいるのは女子寮だ。そんなところに男子が行くのかって話だ。

 そして、レキの部屋にも問題がある……これは後々説明しよう。

 最後に、レキの見張り時間が俺と同じでないことだ。これってつまり俺一人の時があるってことですよね。

 結局、俺の心配ごと解決できてなくね?

 ……でも、文句言っても仕方ねえよな。

 

「おっけえ……わかった。レキの部屋からキンジの部屋を見張ればいいんだな」

「ええ、よろしく頼むわ」

 

 帰ったら、色々と準備しなきゃなぁ。

 俺が24時間体制でキンジの部屋、及び白雪を護衛するってことは、レキの部屋に住み込むわけだしなぁ……レキに迷惑かけちまうな。

 ……あ、一つ大切なこと忘れてた。

 

「アリア」

「あによ?」

 

「俺たちは、白雪を誰から守ればいいんだ?」

 

 護衛対象が誰から狙われているのかわからないと守る目印的なやつが立たないからな。是非とも聞いておきたい。

 アリアもそれをわかっているのか頷いている。

 

「私たちが白雪を護衛する理由——それは『魔剣(デュランダル)』から守るためよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 魔剣(デュランダル)とは、超能力を扱う武偵・『超偵』ばかりを狙う犯罪者である……らしい。

 『らしい』というのは、その存在自体が不透明で曖昧であり、本当にいるのかと疑われているからだ。

 白雪は、『超能力捜査研究科 (SSR)』を専門としている生徒であり、大きい神社の娘さんなので、『魔剣』に狙われてもおかしくはないと思われる……実在していればの話だが。

 

 本当に実在しているか? ということをアリアに聞くと『勘だけど、いる』と言われたので、その場では「ふーん」と返したが、たぶん……いるんだろうなぁ。

 

「——って感じだ。レキ」

「はい」

 

「レキは『魔剣』いると思うか?」

「存在していると、『風』は言っています……私もいると思います」

「あ、そう」

 

 アリアもいると言って、レキにとっての神様みたいな『風』もいると言って、レキもいると言った。

 これ絶対に『魔剣』いるよなぁ……

 

「はぁ……めんどくせぇ」

 

 俺は、だだっ広い空間でため息を吐く。

 

 俺は今、レキの部屋にいた。

 アリアとキンジと別れた後、住み込む準備を済ませて第2女子寮にあるレキの部屋に来たのだ。

 それにしても相変わらず何もない部屋だ。

 今、俺がいるリビングにも机とクローゼットが1つ……それ以外に何もない。

 その机の上にもレキが扱うドラグノフ狙撃銃を整備するための工具が置いてあるだけだ。

 

「——ソラさん」

「……なに?」

 

 

「『風』はいつ子どもができるのか……と聞いています」

「そうか」

 

 レキのいきなりの爆弾発言。しかし、俺は特に驚くようなことをしない。

 レキのいう『風』とやらは俺とレキの関係を容認しているらしい……お前はお父さんか。いや、お母さんかもしれない。

 それで『風』はよくレキを通じて、はよ子ども作れや、と催促してくるのだ……正直、迷惑極まりない。

 

「じゃあ、俺に宝くじ1等当ててくれたら子ども作ってやる、と返しといてくれ」

「はい」

「あと、俺は、ドラクエならバギ系よりもデイン系の方が好きだって言っといて」

 

「わかりました………………『風』が、『Fuck You. ぶち殺すぞゴミが……!』と言っています」

 

 お前は利根川先生か。

 でもしょうがないよね。ソラさんはドラクエⅥが一番好きだから。ライデインのイベント感動しちゃったから。

 

「そんなことよりも、遠隔での監視と言われたが、俺は一体どうすればいいの?」

 イチャイチャしているキンジをぶち殺せばいいのか?

 

「ソラさんには、いつでもキンジさんの部屋に行けるように準備をしてもらいます。後は、私と共に監視です」

「わかった。それで、監視する道具は双眼鏡でも使えばいいの?」

「はい」

 

 そうですか。俺は持ってきた荷物の中から黒色の双眼鏡を取り出す。

 それにしても、今日は夕日がよく照っているものだ。部屋の中にもオレンジ色の光が明るく差し込んでいる。

 今はキンジとアリアが白雪の護衛をしているため、俺たちは必要ない。しかし、事件とはいつどこで起こるかわからないものだ。

 いつでも対応できるようにしっかりと準備はしておく。

 

「——アリアさんとキンジさんが外へ行きました」

「はいよ」

 

 俺は、首に下げていた黒色の双眼鏡を使ってキンジの部屋を覗く。レキもドラグノフを肩に担ぎながらキンジの部屋をジッと見つめている。

 レキは、視力がいいからな。そのままでも見えるんだろう。

 

「部屋を要塞化するために二人で買い出しに行ったって感じか……?」

 

 俺はキンジの部屋を覗き、中の状態を見ながらそう言う。

 

「はい……しかし、キンジさんはアリアさんと白雪さんの喧嘩が嫌で先に出ていきました。それに気づいたアリアさんが買い出しついでに追いかけたところです」

「ははは、あの3人らしいな」

 

 最近、アイツら3人はキンジを中心に喧嘩ばっかりしているところをよく見かけたからな。一緒に暮らすことになったらそんなことにもなるか。

 

「——ソラさん」

「どうした?」

 

「風によくないものが混じっています。気をつけてください」

 

「……やっぱりか。もしかして俺たち視られてる?」

「わかりません……しかし、今のところ敵意は感じられません」

 

 さっきから、何かに見られている……というよりも意識を向けられているような気がする。

 どこからその感覚がするのか全く見当が付かないが……レキもそう言うんだ、何かあることには間違いないだろう。

 

「もしかして、『魔剣(デュランダル)』か?」

「……わかりません」

「ん、そっか」

 

 目敏いレキの目を掻い潜るとは、相手は相当の使い手らしい。

 それに、おそらく『魔剣(デュランダル)』のものだと思うんだが……

 俺? 俺は、そういう感覚がしただけで全くわかりませんけども?

 

 

「……風がいつも通りに戻りました」

「おう。そうだな」

 

 さっきから感じていた視線が何事も無かったかのように消えた。

 レキが敵意もなかったと言うことから、おそらく様子見だったのだろう。

 このことは後でアリアとキンジに報告しておくとして、分からないことをいつまでも考えても仕方ないため、監視に戻ろう。

 

 

 

 ——ただ、頭の中に警鐘を鳴らし続けている嫌な予感だけはどうしても消えなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 日も完全に落ちて、月と星が黒色の夜の中で光る時間になってきた。

 レキの部屋に時計がないため、腕時計で確認したところ午後7時半らしい。

 俺は、相変わらずレキの部屋にいる。今は、キンジとアリアが部屋に戻ってきたため監視は中断だ。

 

「ソラさん、これから銃の整備をします」

「あいよ。息止めてりゃいいんだろ?」

「はい。よろしくお願いします」

 

 息を止めろ。それは別に『死ね』と言っているわけではない。

 レキが、息の中に含まれている水分が銃弾に付着して精度が悪くなるだとかなんとか言っていたため、息を止めている。それだけだ。

 それに本当はまだ息を止める必要はない。

 レキは、まずドラグノフ狙撃銃を一度解体してメンテナンスをする。

 それから、銃弾を一から自作するため、その時に息を潜めておけばいいのだ。

 それにしても几帳面なヤツだ。

 毎日毎日、メンテナンスをして、銃弾を製作して、レキは『銃は私を裏切らない』とかなんとか言っていたが、そういう几帳面さは狙撃者(スナイパー)共通なのだろうか……めんどい生き方してんな。

 

「——終わりました。ご協力ありがとうございました」

 

 どうやら銃の整備が終わったようだ。

 俺は息を潜めるために俯かせていた顔を上げる。すると、レキがこちらを見て立っていた。

 

「ん? どっか行くの?」

「いえ、シャワーを浴びようかと」

「あ、そう」

 

 レキは特になにも言わず風呂場の方へと歩みを進めていく。

 

「そういえば、風呂場でちゃんと着替えるんだな。昔は、リビングで脱いでたのによ。また俺に全裸を見せてくれても——」

 

 グサッ。俺の頭に銃剣が突き刺さる。銃剣はいつも携帯しているのね……

 頭に刺さった銃剣を抜いて吹き出している血を拭きながら、レキの方を見る。

 レキは俺を真っ直ぐ見据えている……いや、睨んでいるのか?

 

「悪かった悪かった。どうぞ、シャワーでもなんでも入ってください。覗いたりしませんから」

 

 デカパイ子ちゃんのだったら覗くけど。なんて余計な事は言わず、俺はレキを見送る。

 それにしても、一年の冬くらいの時のレキは、俺がいる状態でもリビングで服を脱いでシャワーを浴びていたが、どういう心境の変化だろうか。

 

 風呂場からシャワーの音が聞こえてくる。

 別に覗くつもりもないが、1組の男女が同じ屋根の下にいるという状況だ。流石の俺も緊張はする。

 もしこれがレキの部屋ではなく俺の部屋だったら、間違いなく覗きに行っているだろうな。自分の部屋だから緊張もしないし。

 

 俺は、暇だったのでリビングにある一つのクローゼットを開く。

 中は、積み重なった黄色の箱で一面染まっていた。

 それらは全てカロリーメイトの箱で、チョコ味やらフルーツ味やら、チーズ味やらと色々と揃っている。

 お前は業者か。なんて感想を抱きながら中を一面見渡す。すると、右側にはカロリーメイト以外の物がいくつも積み込まれていた。

 

 

「……ココアパウダー?」

 

 俺は、それを一つ手に取り表面を見ながら呟く。

 これはよく俺が愛飲しているメーカーの物だ。

 そういえば前に一度、レキが俺の部屋に買い溜めしていたココアパウダーのパックを一つ貰っていくとのことを言っていたが、レキも飲んでくれているのだろうか。

 

「——ソラさん」

「ん?」

 

 背後から声が聞こえてくる。

 振り向くとそこには、シャワーあがりだからなのか髪を少し濡らしているレキがいた……なぜか防弾制服を着ているが。

 

「お風呂どうぞ」

「おう」

 

 わざわざ言いにくるとは律儀なやつだ。

 

「お前、相変わらず防弾制服ばっかり着ているんだな」

「はい。服はこれだけで充分なので」

 

 うん、それよくわかるわ。俺もめんどいときは防弾制服着てるもん。流石に家では着てないけど。でもさ——

 

「パンツは縞パン履いてるのに?」

「死んでください」

 

 そう言って軽くスカートを押さえているレキ。

 恥ずかしいなら家でスカートなんて履いてんじゃねえよ。

 

「それにしても、レキもこのココア飲んでいるんだな」

 俺はレキに持っていたココアパウダーを見せる。

 

「………………」

 

「なぜ黙る?」

 

 俺なにか聞いちゃいけないこと聞いちゃった? レキにとっては隠したかったことなのだろうか……

 相棒のレキとはいえ、勝手にクローゼットを開けたのは流石に不味かったか。

 

「あー、悪かったな。勝手にクローゼット開けて、今すぐ片付けるから許してくれ」

 

 俺はそう言ってココアをクローゼットの中に入れようとすると——レキが俺の腕を軽く掴み静止させた。

 

「今から、一杯飲みませんか?」

「……おう」

 

 いつも通りの無感情と無表情っぷりを考えると怒ってたわけじゃないかもしれない。俺は心の中に安堵の気持ちを浮かべた。

 でも、その言い方じゃお酒を飲もうとしているみたいだぞ、レキ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いやぁよかったよ。レキの部屋に冷蔵庫とお湯沸かし器ぐらいはあって。

 俺、もしかして冷水でココアを飲むのかなって不安になってたから。

 俺とレキはチビチビとココアを飲んでいると、レキが小さく呟くように言った。

 

「私は……ソラさんと同じ物を好きになりたかったのです」

 

「……うん?」

 

 俺と同じものを好きになりたかった……? 

 ココアのことを言っているのだろうか。

 俺がココアを好きだから、レキもココアを好きになりたかったと……

 

「それで、好きになったか?」

「…………わかりません」

 

 溜めが長いわかりませんだ。こういうときは別に嫌いじゃないけど好きじゃないって感じだな。

 ……仕方がない。

 

「レキ、ちょっと待っとけ。今から俺がココア作ってやっから」

 

 そのためにも少しばっかり買い物に行ってくるか。

 

 

 

 

 

 

 

「どうだ? 美味いか?」

「はい。美味しいです」

 

 うん、今度は溜めなしの言葉。確かにレキにとって美味しく感じたということなのだろう。

 俺がやったことは単純。

 コップに入れたココアパウダーを少なめのお湯で溶かして、その上に先ほど買ってきた牛乳を入れただけというものだ。

 しかし、レキの部屋には牛乳がなく、全てお湯でコップを満たしていたため、味に満足がいかなかったのだ。

 牛乳入れたらまろやかになるから絶対に入れた方がいい。

 

「これなら好きになれそうか?」

 

 レキはココアを飲みながら、コクリと頷く。

 そんなに急いで飲まなくてもよくね? 別にこれからは自分で作ればいいだけだから。

 

「そうか、ならよかった。牛乳パックは冷蔵庫に入れてあるから、これからは美味しいココアを自分で作れるようになれるぜ」

 

 レキがココアを好きになってくれたら俺も嬉しい。

 俺は自分用に作ったココアを飲んでいると、レキが俺のことをジッと見つめていた。

 

「また……」

「……うん?」

 

「またいつか、ココアを作ってくれませんか……?」

「俺がか?」

 

 少し恥ずかしいのかレキは俺から目を逸らして頷く。

 

「いいよ。レキが欲しくなったら俺がいつでも作ってやる」

「はい。ありがとうございます」

 

 そう言うレキは少し微笑んでいるように見えた。

 …………さっきの、『自分で作ればよくね』って言葉は訂正する。

 俺は女心とかあんまりわからないが、レキにとっては俺が作ることに何らかの意味があるのだろう。

 

 部屋についている明かりが俺とレキを明るく照らしている。

 この部屋には俺とレキしかいないんだ。同居人のご機嫌取り、と言うと陳腐になるな……無口なお姫様への忠誠の証として、レキに付き合うのも悪くない。

 こうやって二人っきりで向き合いながら話すのは久しぶりのような気がする。

 俺の胸の中にレキへ伝えたいことが溢れていく。きっと、レキも同じなんだろうな。

 

「……ソラさんは私と一緒にいて退屈に思いませんか?」

「思わないよ」

 

「……しかし、ソラさんは皆さんといつも騒いでいます。皆さんは楽しそうで、ソラさんも楽しそうです」

 

「そうだな。俺は、騒がしいのが好きだ。みんなと一緒にバカやってるのが好きだ——でもな、俺は静かな雰囲気ってのも好きなんだ。風とか自然を味わうために外でぼーっとすることもよくある」

 

「……………」

 

「だから、レキとの落ち着いた空間も大好きだ。こういう静かな雰囲気はお前と付き合うことでしか生み出せないからな」

 

 他の奴らはみんな騒がしいから、そいつらと関わると絶対やかましくなるんだよなぁ。

 だから、静かな雰囲気を生み出せるレキは貴重だってね。

 

「ソラさんは……そうやって全てを受け入れるのですね」

 

 俺が全てを受け入れるか……

 

「いやいや、流石に全部は受け入れたりしないよ。ケツにネギとかぶち込まれそうになったら全力で抵抗するわ」

 

「誰もそんなこと言ってません」

 

 ふざけたこと言ってすんません。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……そろそろ午後9時か。

 レキはいつもこの時間帯に寝ている。

 俺は基本的にこの時間帯はエロゲーをしているためバリバリ起きているんだが、郷に入っては郷に従えだ。俺も眠ろう。

 

 とりあえず、持ってきた荷物の中から布団を取り出す。

 レキの部屋には布団もベッドもないのだ。

 それじゃあレキはどうやって寝ているのかって……? 

 レキは、壁を背中につけ、銃を支えにして体操座りのまま寝ているのだ。

 お前は戦国時代の武士か、と言ってやりたいが、その体勢で寝る理由もまさしくその通りの『襲撃に備えるため』というものだったので俺は何も言わないことにした。

 だが、俺は布団で寝る。この部分は郷に入っては郷に従えに逆らう。というか、そんな体勢で寝たら体がぶっ壊れるわ。

 

 布団も敷き終わったので、腕時計を覗いてみる——ちょうど午後9時だ。

 俺はレキの方を見た。

 

「………………」

 

 しかし、レキは何も言わず、俺の方をずっと眺めている。

 どうしたのだろうか? いつものレキだったら「就寝時間です。消灯します」と言うのに……

 

「おい、レキ。午後9時になったぞ。寝ないのか?」

 

 俺がそう尋ねると、レキは肩をピクリと動かした。

 もしかして何か考え事をしていたのか、それは悪いことをしてしまった。

 

「……すいません。消灯します」

 

 ドラグノフの先端でカチッとONOFFスイッチを押す。部屋の明かりは消えて、真っ暗闇が一面を支配する。

 しかし、部屋の中に差し込む月明かりが部屋の中を微かに映している。

 俺は布団に入っているが眠らず、ぼーっとしていた。

 眠れないというわけではない。単に眠ろうと思わなかっただけだ。

 

「……ソラさん、起きていますか」

「ああ、起きてるよ」

 

 ゴロンとレキの方へ寝返りをうつ。

 レキは珍しく体操座りをしていなかった。

 

「眠れないのか?」

「……はい」

 

 眠れないのか……え!?

 ……いけない、俺が聞いたのに逆に驚いてしまった。

 しかし、機械みたいな生活をしているレキが眠れないって……何があったんだよ。

 

「んじゃ、俺のところにでも来るか?」

 

 俺は掛け布団をペラッペラッとめくりながらレキに言う。

 襲撃されることを意識しているレキは断るだろう。それはわかっている。

 だから、俺は冗談半分で言った——つもりだった。

 

「……はい。よろしくお願いします」

「——!?」

 

 そう言ってドラグノフを持ったまま俺の布団まで来てモゾモゾと入ってくるレキ。

 ……え、何が起こってるの? なんでレキが俺の布団の中に入ってるの? なんで俺の胸らへんの服を掴んでいるの? というか銃が怖い。

 

 布団の中で顔が向き合う俺とレキ。

 近い! めちゃくちゃ近い! レキの顔との距離はもう10センチメートル程度しかないんじゃないか!? というか、俺とレキの間にある銃が目立ちすぎる!

 

「ど、どうしたんだよ突然……」

 

 布団に誘った当人なのに、俺はめちゃくちゃ焦っていた。

 

「……わかりません」

 

 わからないってなによ!? わからないことが俺には分からないんだよ!

 

「ただ……このまま眠ってしまっては、何かを失ってしまうように感じて……」

 

 何かを失う……もしかしてレキは……

 

「俺ともっと話したかったのか?」

 

 レキの服を掴んでいる手に力がこもる。どうやら正解のようだ。

 レキは、眠るよりももっと俺と話したかったのだ。だから、午後9時になったのに消灯せず、何か考え事をしていたのだ。

 時間がもったいないと思っていたんだろうな。

 

「心配すんな。時間はたっぷりあるんだ。明日も一緒なんだから」

「……はい」

 

 レキは恥ずかしくなったのか掛け布団の中に顔を埋めていく。案外、レキは恥ずかしがり屋なのかもしれないな。

 

「今日はここで寝るか?」

「……はい」

 

 ふぅ……これは俺も覚悟を決めなければいけないらしい。

 前にも一度あったが……レキと一緒の布団で寝れるかなぁ。

 

「じゃあ……この銃、布団から出していいか? さっきから怖いんだよ」

「…………しかし」

「うん。わかってるよ」

 

 もし、襲撃がされたら……だろう? どれだけ一緒に死線を潜り抜けてきたと思ってるんだ。それぐらいはちゃんとわかってるよ。

 俺は、布団の外に置いていた鞘付きの刀を近くへと手繰(たぐ)り寄せる。

 

「俺が絶対に守ってやっから安心して寝ろよ」

「…………はい」

 

 長い沈黙の後にレキは、布団の中で頷いて銃を俺側の布団の外へと置き——そのまま俺に抱きついてきた。

 俺も応えるように刀を両手に持ったままレキの背中側へとやり、抱きつく体勢になる。

 俺たちは今、完全に密着していた。

 

 まずいな……今度は俺が寝ることが出来ないかも……

 

 俺はレキを見やる。

 レキは俺の腕を枕にして目を閉じていた。

 その顔はとても愛らしくて、俺は両手で持っていた刀から片手を離してレキの頭を撫でる。

 

「……っ」

 

 レキはブルッと一度震えて俺の胸に頭を押しつける。

 俺は、頭を撫でるなという意味かと思い手を離したが、レキはさらに俺の胸へと頭を擦り付けてきた。

 ……どうやら、もっと撫でろということらしい。わがままなお姫様をもったものだ。

 はいはい、忠実な俺は無口なお姫様の言う通りに致しますよ。

 俺はレキの頭を撫でる。

 レキの顔は見えないが、体温が上がっているところを見ると満足しているようだ。

 

 まぁ……体温が上がっているのはレキだけじゃないんだけどな……

 

 

 

 

 今夜はとてもじゃないが眠れない……料金は先払いで支払ってもらったからいいけどもな。

 

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