天草空は乳を揉みたい   作:ゲリラ

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吸血鬼《Ⅲ》血の十字架 ——BLOODY CROSS——

 ここは選択科棟の音楽室だ。

 現在、俺はピアノの音を黙々と聞いていた。

 曲名は……わからないが、たぶん洋楽だろう。

 武偵である以上、潜入捜査などの時のため音楽についての知識があった方がいいのだが俺はあんまり音楽に強くないのだ。いくらSランク武偵でも苦手なものはあるってね。

 

 演奏が終わったようだ。

 

「……ふぅ」

「お疲れ——ギン」

 

 俺はピアノの演奏者——ジャンヌ・ダルク30世改め、ギン・ダイヤモンドの元に寄る。

 

「どうだった私の演奏は?」

 

「音楽は苦手だと改めて実感した」

「失礼にも程があるヤツだなお前は」

 

 そこは褒めるべきだろ。とギンは言ってくるが、わからないものはわからないんだから仕方ない。

 

「——それで、私に何か用があるのか?」

 

「ああ、イ・ウーのナンバー2、ブラドについて教えてくれ」

 

 

 

 

 場所は移ってファミレスだ。

 俺は飲み放題のメロンソーダを飲み、ギンはアップルジュースとパイナップルジュースを混ぜたやつを飲んでいる……美味いのか、それ。

 

「つい最近、遠山にもブラドのことについて話したが、お前にも話すことになるとは思わなかった。理子に聞かなかったのか?」

 

 へぇ、キンジも聞きにきたんだな。

 

「理子のやつはどうもブラドを恐れてるみたいだからな、あんまりアイツの過去をほじくり返してやりたくない」

「そうか……まぁ、お前ならそう言うか」

 

 そういうこと。

 ブラドについての情報ならギンよりも理子の方が持っているだろうけど、必要最低限のことならギンも知っているだろうしな。

 

「いいだろう。ブラドについて話そう」

 

 おう、わざわざすまねえな。

 

「ブラド……『無限罪のブラド』はイ・ウーのナンバー2で、お前たちがこれから潜入しようとしている紅鳴館もヤツの別荘の1つだ。ここ数年、帰っていないらしいがな」

 

 俺たちの潜入作戦を知っているのか……理子と仲が良いって言ってたから、おそらく理子に聞いたんだろう。

 

「理子の過去については……本人から直接聞いたのだろう? ならば話さなくてもよいな」

 

 やっぱり、理子から話を聞いていたんだな。

 

「ここからの話は、遠山ならともかくお前だからな……好きにするといい。まず、つい先日ここに現れたというコーカサスハクギンオオカミのことだ。あの狼のことは情報科(インフォルマ)で調査中だが、私の見立てでは——ブラドの下僕と見て、まず間違いない」

 

「じゃあ、あの狼はブラドの飼い犬ってことか」

「そういうことだ。ブラドは自分の下僕を世界中に放っている。それぞれかなり、直感頼みの遊撃をするようだからな」

 

 すげえなブラドってやつは、世界中に根を張っていやがる。イ・ウーナンバー2は伊達じゃないな。

 ……ただ、俺が聞きたいことはそれだけじゃない。

 

「ブラドは——強いのか?」

 

 俺がそう聞くとギンは真剣な面立ちで俺の目をまっすぐ見据えてきた。

 

 俺は今回の理子の十字架奪還作戦が何事もなく終わる気がしなかった。理由としては、俺の前に現れた『運命の一族』——雷鳴綾辻の存在だ。

 アイツは『今回の件、我々、運命の一族は介入しない』と言っていた。この言葉が、俺の胸に引っかかっている。

 とてつもないナニカが起こると俺の頭に警報を鳴らしている。

 だから俺は『もし、ブラドが今回の件に介入してきたら』と考えた。

 仮にそうなったら、俺たちでブラドを倒すだけだ。ならば、必要なのはブラドがどれほど強いのか、その情報だ。

 

「お前は、戦うつもりなのかブラドと」

 

 ギンの問いに、俺は頷く。

 

「そうか……では——やめておけ」

 

 そうか……それだけブラドは強いんだな。

 

「我が一族とブラドは、仇敵だ。3代前の双子のジャンヌ・ダルクが初代アルセーヌ・リュパンと手を組んで、3人組で戦い——引き分けている」

 

「それは……何年頃の話だ」

 

「1888年。まだ下半部しかできていなかった、パリのエッフェル塔での出来事だ」

 

 120年前の出来事か……

 

「ブラドは、人間じゃないんだな」

「そういうことだ」

 

 だから、ギンは俺に『やめておけ』と言ったのか。ブラドは化け物であるから。

 

「日本語で何と言えばいいのかわからないが——オニ、だ。ヤツを表すとすればな」

 

 鬼か。実際はよくわからないが、たしかに化け物のようだ。

 

「それで、ブラドはどんな姿をしているんだ?」

 

 訊ねると、ギンは少し考え込んで……

 胸ポケットから、サッ、と縁なしメガネを取り出した。

 

「目、悪かったっけ?」

「ほんの少しの乱視だ。普段は使っていない」

 

 と言ってギンは続けて学校指定のカバンからノートとサインペンを取り出す。

 そしてノートを開き——

 

「あの化け物のことは、口で話しても伝わらないだろう。だから、ヤツの姿を絵で描いてやる」

 

 きゅっきゅっ、とペンを鳴らし……

 まずは、ヘンテコUFOのようなものを書いた。

 

「いいか。ブラドが留守にしている館に侵入するのはいいが、もし万が一ブラドが帰ってきたら——即刻、作戦を中断して逃げろ。絶対に勝てない(・・・・・・・)

 

 真剣な面持ちで線を書き加えるギンは、ピーマンのようなゴツゴツした頭を描いている。

 

「もし戦いになっても、逃げるための戦いをしろ。双子のジャンヌ・ダルク達はブラドを純銀の銃弾で撃ち聖剣デュランダルで突いたが——ヤツは死ななかった、と記録にある。ヤツは、死なないのだ(・・・・・・)

 

 ギンは続いて、翼のような……触手のような、腕を描いている。

 

「私も直接見たわけじゃないが、ヤツが敗れたのは——理子との決闘のあと、イ・ウーのリーダーと戦った時だけだ。その後、イ・ウーで聞いた情報だが……ブラドを倒すには、全身4か所にある弱点を同時に破壊しなければならなかったらしい」

 

 ギンは、どうにか何かしらの二足歩行の動物に見えてきた絵に、歪な形の丸を書き込んでいく。

 

「4か所の弱点のうち、3か所までは判明している。右肩と、左肩と、右の脇腹だ……ヤツは昔、ヴァチカンから送り込まれた聖騎士(パラディン)に秘術をかけられて、自分の弱点に一生落ちない『目』の紋様をつけられてしまったのだ。もし、その弱点を突けばヤツの力の全てが無くなると言われている……よし。出来たぞ」

 

 ギンが俺に(本人曰く)完成したイラストを渡す。俺は、それをチラッと一瞥して、ついつい——

 

「これはひどい……」

 

 と漏らしてしまった。

 

「っ!? ひどいとはなんだ——ッ!」

 

 ギンが両腕をあげて抗議するように言ってくるが、正直これはひどい。

 ギン、お前……絵心なかったんだな。なんかすまんかった。

 

「ブラドはこういうヤツなのだ! お前は私を疑うのか!?」

「いや疑うも何も、この絵は逆にブラドさんに失礼——」

「殺すッ! 今日という今日はお前を殺すッ!」

 

 わかったわかった。これはしっかりとブラドの絵なんだな。だから、その手に持っている銃剣——ヤタガンを納めてくれ。

 

「これはちゃんと似てるっ! だから取っておけ!」

「えぇ……これ持ってて呪われたりしないよね……? 毒状態とかにならないよね?」

 

「お前本当に殺すぞッ!?」

 

 いやいやお前は既にシリアスを殺してるから。シリアスぶち殺して、ギャグ空間になっているから。

 

 ハアハアと息を荒くしていたギンは俺に向けていたヤタガンを机に置き、アップルジュースとパイナップルジュースの合成ジュースを飲む。

 そして、姿勢を正して俺を真っ直ぐ見据えた。彼女のサファイアのように綺麗な青い瞳の中に俺が映る。

 

「——ここまでの話を聞いて、お前はまだブラドと戦おうと思っているのか?」

 

 場の雰囲気が変わる。ほんわかとした温かい空気から冷たい氷が舞っている冷徹な空気へと——

 

「ブラドは不死なだけじゃない。筋力も速度も人間とは別次元の存在だ。Sランクのお前でも絶対に敵わない。きっと虫ケラのように潰されるぞ」

 

 ギンの言葉が鋭利なツララのように俺の胸に突き刺さってくる。

 

「もう一度言う——やめておけ。ブラドと戦うのは」

 

 氷が俺の身体を包んでいく。

 

 ……だけど、この氷は決して冷たくなんかない。俺の心を温めてくれるかまくらだ。

 

「私は、お前に死んでほしくない。だから、もしブラドと会ってしまったら、すぐに逃げてくれ。頼む……」

 

 彼女はただ、俺に生きていてほしいだけなのだ。

 ブラドが俺よりも強いことを知っているから、戦ってほしくないのだ。

 

 それでも——

 

「俺は戦うよ」

「——っ」

 

 きっと……きっと、ギンも俺がこう答えるとわかっていたのだろう。

 先ほどから震えている彼女の右手を見ればそれはわかる。

 

「お前が戦うだなんて言うのは、ヤツの強さを知らないからだ! でも、私にはハッキリとわかる! ヤツはお前よりも圧倒的に強い! ヤツとお前の力の差は天と地ほどの差があるんだ! もしお前がヤツと戦ったら、お前は死ぬんだぞ……っ!」

 

 ついにギンが机を叩き、立ち上がって叫んだ。彼女の目が少し揺らいで見えるのは、感情が高まって涙が出そうになっているからだろうか。

 

「だから……っ! やめてくれ、頼む……!」

 

 ギンは俺に頭を下げてまで頼み込む。

 ……俺のためなのに、俺に対して頭を下げるのか。

 でも、悪いな。

 

「何も変わらない、俺は戦う」

「このッ、分からず——」

 

「そして、俺は絶対に死なないよ——約束する」

「——ッ!」

 

 俺がブラドに殺される……? そんなこと起こらねえさ。

 どうしてなのか……それは俺を縛ってくれる(愛してくれる)者たちとの約束があるからだ。

 そいつらとの約束がある限り、俺は絶対に死なない。

 

「どうしてだ……どうして、お前は……」

 

 ギンが力を無くしたように椅子に座る。

 

「……天草、ひとつだけ聞かせろ」

「ああ」

 

「お前は、理子の過去を聞いたときどう思った?」

 

 理子の過去……ブラドに家畜のように扱われ、虐待され、母親からもらった大切な十字架を奪い取られた。そんな辛い過去。

 その過去を聞いて俺は——

 

「何も思わなかったよ——いや、何も思いたくなかった(・・・・・・・・・・・)

「思いたくなかった……?」

 

「ああ、理子の過去は理子のものだ。だから、俺が簡単にアイツのことを可哀想だとかで同情なんてしたら、俺は、理子を縛る何かから、アイツを助けてやることはできないと思ったんだ」

 

 アイツの苦しみはアイツだけのものだ。その苦しみを俺が簡単に慰めちまったら、アイツのことを『他人』と思ってしまいそうで嫌だった。

 

「そうか……」

 

 ギンは納得したかのようにゆっくりと頷いた。

 

「……それが、理子が言っていた『天草空は一緒に迷ってくれる』の意味か……なるほどな」

 

 そう小さく呟いて、ギンは俺に笑顔を見せた。

 だが、その笑顔は歪で儚くてすぐにでも消えてしまいそうだった。

 

「天草。お前は、理子のためだけじゃない……『自分(理子)』のためにも戦うのだな」

「ああ、そういうこった」

 

「はぁ……まったく、この大バカ者は……どうしてこうも大バカなんだ……そして、どうして私はこんな大バカ者を好きになってしまったんだ……」

 

 ギンが小さい声で何かをボソボソと呟いているが、よく聞き取れない。

 ただ、俺のことをバカバカ言っているのは伝わった。

 

「全く大バカだなお前も私も……仕方がない! 私もバカに一つ付き合ってやる!」

 

 そう言ってギンは机に置いていた70センチぐらいの大きさのヤタガンを俺に差し出す。

 

「受け取れ天草。このヤタガンは純銀製だ。もしブラドと会ったときには、ヤツの『目』を叩き潰してこれを突き刺してやるといい。きっとヤツは死ぬほど苦しむさ」

 

 俺は呆気にとられていた。

 ギンは、俺が戦うのを認めてくれないと思っていた。だが、彼女はそれを認めたうえで、さらに自分の武器すらも貸すと言うのだ。

 

「このヤタガンは私の誇りそのものだ。つまり、私そのものだと思ってくれていいぞ」

 

 ……物騒すぎるだろ。バカチン。

 

 俺はギンからヤタガンを受け取った。70センチほどの大きさなのに、随分と重く感じる……これは。

 

「まぁ、あれだ……私からの愛のプレゼントだ」

 

 そうか。愛か……だから重いのか。

 白雪が言っていた占いの二つ目、『女の子の愛』ってこれのことだったのか。

 俺は無性にギンに対して申し訳ないという感情が溢れ出ていた。

 

「ごめんな、ギン……」

「どうして謝る?」

 

「もし俺がブラドと戦って、もし俺が負けてしまったら、お前の身にも危険が及んでしまうかもしれないから……」

 

 ブラドは全世界に下僕を放っていると言っていた。

 ならば、おそらくギンのことも掴んでいるのだろう。

 

 俺のわがまま一つで、簡単に仲間を危険に巻き込んでしまう。

 ……本当にごめんな、ギン。

 

「——ばかもの」

「あてっ!?」

 

 ギンにデコピンされてしまった。

 俺は驚いてギンの方を向くと、ギンはムスッと頬を膨らませていた。

 

「お前は私に、絶対に死なないと約束したではないか。それに、お前にならどんな危険なことにも巻き込まれたっていい。お前とどこまでも一緒にいられるならそれでいい。たとえ、1日1日に生死を賭けることになってもお前といられるならそれでいい。たとえ、命が簡単に失われてしまう世界に飛び込んだとしてもお前と一緒ならそれでいい」

 

 ギン……お前……

 

「私がお前を守り、お前が私を守ってくれるなら、それでいいんだ私は」

 

 なるほど……愛ってのは重いな。

 最近、レキにも同じようなこと言われた気がするよ。

 

「だから謝るな……言うならせめて、お礼を言ってくれ」

 

「ああ——ありがとうな、ギン」

 

 俺はギンから受け取ったヤタガンを制服に納めて、お礼を言った。ただ、普通にお礼を言うだけではいけないと思い、自分なりに笑顔を浮かべて言ったつもりだ。

 

「う、うむ……」

 

 なぜギンは少し顔を赤くしているのだろうか……?

 

「あの、笑顔は反則だろう……!」

 

 俺に背を向けて小さい声で何かを呟いているがよく聞こえない。

 

 だが俺は、可愛いギンが見れたので満足だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれから結構な日が経ち、様々なことが起きた。

 

 俺たち——天草ソラと遠山キンジと神崎・H・アリアと峰・理子・リュパン4世が協力して、俺とキンジとアリアが使用人として、理子は潜入として、横浜郊外にある紅鳴館に侵入した。

 紅鳴館には、主人のブラドはいなかったが、俺とロリコン同盟を組んでいる非常勤講師の小夜鳴(さよなき)(とおる)先生がいた。

 どうやら彼は紅鳴館の管理人をやっているらしい。

 まぁ、ブラドの顔は今まで一度も見たことがないと言っていたが。

 

 紅鳴館で数日働き、使用人としての仕事の日が最後となった時に俺たちはドロボー作戦を実行した。

 俺たちが盗もうとしている理子の十字架は紅鳴館の地下にあり、地下ではよく小夜鳴センセが遺伝子工学やらの研究をしているらしく、また、俺たちが紅鳴館にきてから、既に厳重であった地下の警備がさらに厳重になったと言うのだ。

 それで、アリアが小夜鳴センセを外へ呼び出しているうちに、キンジと理子が地下に侵入し、俺が2人のサポートをしながら、時間を充分に稼げなかったアリアの元に向かい、小夜鳴センセに俺の秘蔵のロリ写真を見せて時間を稼ぎ、なんとか盗みを成功させたのだ。

 

 キンジと理子は、十字架が入っていた金庫の中に、ニセモノを入れたと言っていたのでおそらく小夜鳴センセにもバレなかったのだろう。

 

 盗みを成功させて、使用人としての仕事も終わらせた俺たちは——横浜駅に程近い横浜ランドマークタワーの屋上にいた。

 このタワー……といってもビルなのだが、高さは296メートルあるらしい。

 それで、そもそも屋上は立ち入り禁止であるので、当然人の姿もなく、上にヘリポートがあり、所々に小さい建物があるくらいだ。

 それにしても、もうすっかり夜だが、月明かりがよく照っていて随分と明るく見える。

 

「3人ともお疲れさん! おかげでなんとか取り返せたよー!」

 

 理子は、腕に——取り返した青い十字架を掲げて、クルクルと回って言う。

 いい笑顔をしている。大好きな母親から貰った大切なものを取り返したんだ、とても嬉しいんだろうな。

 タ、タタンっと足を鳴らして、理子は体を俺たち……いや、アリアとキンジの方へと向けた。

 

「キーくんとアリアには報酬を約束していたから、しっかりとお礼はあげちゃうよ!」

 

 キンジとアリアは報酬を条件に理子のドロボーに付き合ってたのね。

 おそらく、アリアは『武偵殺し』としての証言……キンジは、なんだろうか。

 

「キーくん! 理子の制服のリボンを解いてください!」

 

 おいおい、キンジはエロいことをするのを条件にドロボーに付き合ってたのか? と思ったがキンジも首を傾げているため違うんだろうな。

 

 キンジは理子の元に寄って制服の胸あたりにあるリボンを解いたその瞬間。

 

 ——理子はキンジを豊満なその胸に顔ごと抱き寄せた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぶはっ!」

 

 俺——遠山キンジは理子の胸から顔をあげる。そして、すぐに距離を取った。

 

「くふっ。キーくん、なっちゃった(・・・・・・)?」

 

 ああ、なっちまったよ『ヒステリアモード』に。

 おかげで全部わかっちまった。これから、お前がすることをな。

 

「りりりりりりりり理子おッ!?」

 

 横から、アリアが非常ベルのように叫んだ。

 だが、理子は叫ぶアリアを無視して、俺たちの退路を塞ぐように、階下へ続く扉を背に立つ。

 

「ごめんねぇキーくぅーん。理子は悪い子なのぉ——この十字架さえ戻ってくれば、理子的には、もう欲しいカードは揃っちゃったんだぁ」

 

 ニイ、と俺たちを嘲るような笑みを浮かべる。

 

「本当に悪い子だ。約束は全部ウソだった、って事だね。だけど……俺は理子を許すよ。女性のウソは、罪にならないものだからね」

 

 相変わらずキモいことを言うな、ヒステリアモードの俺よ。

 だが、俺の隣の男は、俺以上に女のウソには寛容だからヒステリアモードの俺もまだまだ可愛いもんだ。

 

「とはいえ——俺のご主人様は、理子を許してくれないんじゃないかな?」

 

 俺は横目にアリアを見ると、やはりアリアは怒り心頭であるようだった。

 

「まぁ、こうなるかもって、ちょっとそんなカンはしてたけどね! 念のため防弾制服を着ておいて正解だったわ。キンジやるわよ。合わせなさい」

 

 ——仰せのままに。

 

「くふふっ。そう。それでいいんだよアリア。理子のシナリオにムダはないの。アリアとキーくんを使って十字架を取り戻して、2人を倒す」

 

 そう言って理子は名銃・ワルサーP99を2丁取り出した。

 また、アリアも2丁の漆黒と白銀のガバメントを取り出した。

 

 俺は銃を構え合う2人をよそに、もう1人の参加者——天草ソラを見ていた。

 ソラは先ほどから沈黙を続けている。だが、その表情はかなり悲痛に歪んでいた。視線は理子。しかし、それ以上に、また別の誰かに対して激情を抱いているように見えた。

 俺は理子に視線を移す。

 

「理子。キミは今、俺とアリアを使って十字架を取り戻し、倒すと言ったね。それじゃあ、どうしてソラも巻き込んだのかな?」

 

 俺がそう聞くと理子は一瞬、気まずそうな顔をした。

 

「ソーくんには、アリアとキーくんを倒して理子が『理子』になった瞬間をその目で見てもらうために呼んだの。理子はソーくんにたくさん助けてもらったから、そのほんの少しばかりの恩返し」

 

 ……嘘をついている。

 理子は、俺たちを倒してまで自分を取り戻すのをソラが望んでいるわけじゃないのを知っているハズだ。だが、ソラに対して恩義を感じているのも事実。

 理子は……ソラに何かを求めている。

 

 こういう時は本人に聞くべきか。

 

「ソラ、お前はどっちの味方につく? 俺とアリアか、それとも理子か」

 

「……………、」

 

 ソラに注目が集まる、だが、ソラは何も答えない。

 選べない……選べないんだろうな。

 ソラにとっては俺たちも、理子もどっちも大切だから……

 だが、それでいい。お前はそれでいいんだ。

 俺たちの敵にならないでくれるならそれでいい。お前は間違ってなんかない。

 

 アリアがソラから視線を外し、再び理子の方を向いた。

 

「風穴開ける前に——1個だけ聞かせなさい。理子。なんでそんなモノが欲しかったの。なんとなくわかるけど……ママの形見、ってだけが理由じゃあないわよね?」

 

 アリアは理子が胸にさげた十字架を拳銃で指す。

 理子は……ワルサーを口元に寄せて、笑った。

 

「——アリア。『繁殖用牝犬(プルード・ビッチ)』って呼ばれたこと、ある?」

繁殖用牝犬(プルード・ビッチ)……?」

 

「腐った肉と泥水しか与えられないで、狭い(おり)で暮らしたことある? ほらぁ、よく犬の悪質なブリーダーが、人気の犬種を殖やしたいからって、檻に閉じ込めて虐待してるってニュースがあるじゃん。あれの人間版。想像してみなよ」

 

 異様だ。

 その、話も……今、理子が纏っている雰囲気も……

 

 ——突如、理子が悪魔のような表情になった。

 

「ふざけんなっ! あたしはただの遺伝子かよ! あたしは数字の『4』かよ! 違う! ちがうちがうちがう! あたしは理子だ! 峰・『理子』・リュパン4世だっ! 『5世』を産むための機械なんかじゃない!」

 

 理子は、俺でもアリアでもない……虚空に——別の誰かに向かって叫んでいた。

 そして、次にソラへと視線を変える。

 

「でもっ、ソーくんなら分かってくれるよね……理子が『理子』だってこと……」

 

 縋り付くような声。理子は、ソラに縋り付いている。

 

「ソーくんは、ありのままの理子を愛してくれた、受け入れてくれた……だから、理子はソーくんに撃たれても、殺されてもいいの。だから遠慮しないで。アリアとキンジの味方をしてもいいんだよ……?」

 

 ……そうか、理子は、ソラを敵に回したかったのか。

 今まで、どんな時でも味方になってくれたソラを……自分の過ちという鎖から解き放つために。

 

「……………、」

 

 だが、ソラは何も答えない。ただ、じっと理子を見つめている。

 

 そうだよな。お前はやっぱりそう言う奴だ。どんな時でも、どんな事があっても、最後の最後まで味方し続ける。それがお前——天草ソラという男だもんな。

 だから、理子はソラを頼り続けてきたんだ。そして、俺もソラにずっと救われてきたんだ。

 

 やっぱりバカだよお前は。

 今もずっと迷ってんだろ? 俺たちのせいで(・・・・・・・)

 俺たちが迷い続けているから、お前も一緒に迷ってくれているんだろ?

 俺たちが暗闇の中を彷徨(さまよ)い続けて独り(孤独)にならないように……

 

 この優しさこそが天草ソラの全て。

 安心しろよソラ、優しさは弱さなんかじゃない。お前は決して間違ってなんかないんだ。

 ほら見ろ。理子だって少し口元を歪めながらも、どこか嬉しそうにしている。

 理子だって、ちゃんとお前のことをわかっているんだからな。

 

「アリア……『なんでそんなモノが』って聞いたよね。それは——」

 

 理子のツーサイドアップの髪が、ゆらゆらと揺らめく。

 

「この十字架……いや、この金属は、理子にこの力(・・・)をくれる。それで一度、あの檻から逃げ出せたんだよ。この力(・・・)で……!」

 

 理子の左右のテールが2本の大振りのナイフを持つ。

 ——双剣双銃(カドラ)

 理子の2丁の拳銃と2本の刀が月明かりに照らされる。

 

「さぁ——決着をつけよう。オルメス。今日ここで私は、お前たちに勝ち、自由を手に入れる……だから! 私の——踏み台になれッ!」

 

 と、叫んだ時。

 

 

 バチッッッッッッッ——!!

 

 小さな雷鳴のような音が鳴り響いた。

 その愛らしい顔をいきなり強張らせた理子は、半分だけ……ゆっくりと、振り返った。

 

「……な、んで…お前、が……」

 

 と呟き……地面に倒れた。

 それと同時に理子の後ろに立っていた男の姿が露わになる。

 

「小夜鳴先生ッ!?」

 

 その名をアリアに呼ばれると小夜鳴先生は、足元に——大型スタンガンを投げ捨てて、代わりに理子の首根っこを捕まえて持ち上げた。

 首を掴まれ苦しそうにする理子と対照的に、小夜鳴は恍惚とした笑みを浮かべる。

 

「所詮は無能な(・・・)4世ですか。迷いに迷い続けた結果、この有様。情けないにも程がありますねぇ」

 

 嘲るように告げる小夜鳴に理子が顔を歪める。

 

「4世……ちょっと待って……! どうしてあんたが、リュパンの名前を知っているのよ!?」

 

「そうですねぇ、それも話しましょう。ただ、その前に……遠山くん。君に一つ、補講をしましょう」

 

「……補講?」

 

 俺が返すように呟くと、小夜鳴は頷いた。

 

「遺伝子とは——気まぐれなものです。父と母、それぞれの長所が遺伝すれば有能な子、それぞれの短所が遺伝すれば無能な子になります。そして……このリュパン4世は、遺伝子学上、『失敗』のケースに当たります」

 

「失敗……?」

 

「ええ、10年前、私はブラドに依頼されて……このリュパン4世のDNAを調べたことがあります」

「お前…だったのか……ブラドに、下らないことを、吹き…込んだのは……!」

 

 首を掴まれたまま、男口調の理子が苦しそうに呟く。

 小夜鳴はそれを見て、つまらなさそうに理子を地面に叩きつけた。

 うぐっ! と苦しそうにうめき声を上げる理子に、小夜鳴はさらに理子の頭を足で踏みつける。

 

「リュパン家の血を引きながら、この子には……」

「や、やめろ……言、う、な…ぁ……!」

 

 理子は苦痛に歯を食いしばりながら、顔を上げようとするが、小夜鳴はさらに強い力で頭を踏みつけた。

 そして——

 

「優秀な能力が、全く遺伝していなかったのです。遺伝学的に、この子は完全に『無能』な存在だったのですよ。極めて稀ですがこういうこともあるのが、遺伝です」

 

 と、告げた。

 

 絶望。

 理子の顔はまさしくその色を表していた。涙が零れ地面を水で濡らしている。顔は悲痛に染まっている。

 

「しかし、ここまで『無能』であるとは、神というのも残酷なものですね。イ・ウーで努力をしても、結局のところ『無能』のまま、酷いものです」

 

 そう言って、地面で横になっている理子の首元から青色の十字架を引きちぎった。

 そして、胸ポケットから俺が金庫の中に入れた——ニセモノの十字架を取り出し、それを理子の口の中に突っ込む。

 

「あなたにはそのガラクタがお似合いでしょう。あなた自身がガラクタですからね。それに、昔はこうやって隠していたのでしょう?」

 

 理子の……う、う、という哀れな嗚咽だけが、途切れ途切れに聞こえてくる。

 口の中が切れているのか、口に詰め込まれている十字架が理子の血で赤く染まっていた。

 

「——さて、もう十分でしょう」

 

 そう言って、小夜鳴は理子から手を離した。

 

「最期に言っておくことがあります」

 

 小夜鳴はソラの方を向く。

 

「私……小夜鳴自身(・・・・・)としては、貴方との関わり、嫌いではありませんでしたよ」

 

 その言葉に先程までずっと平静を保っていたソラの目が見開いた。

 

「さあ——くるぞ」

 

 小夜鳴が、神が降臨するかのような恍惚な声を上げる。

 それと同時に、俺は小夜鳴のナニカが切り替わるのが分かった。

 

 これは……ヒステリアモード——!?

 な、なぜ……!?

 

「ク、フフフ……私タチ、ハ……吸血鬼の力ノ一端……吸血ニ、ヨッテ……力ヲ取り込むコトガできるヨウニなッタ」

 

 所々、ノイズが走るように小夜鳴の声が変わる。そして、それは完全に——

 

「 サア カレ ガ キタゾ 」

 

 その言葉を告げた瞬間——小夜鳴の姿が一変した。

 

 身体が膨張し、着ていたスーツをびりびりに裂いている。そして、その下から出てきた肌は赤褐色に変色していった。

 肩や腕の筋肉は、ぱき、ぱきり、と不気味な音を立てて雄牛のように盛り上がっていく。

 ズボンは上の方は残っていたが、露出した脚はもうケモノのようにけむくじゃらだ。

 上半身の右肩、左肩、右の脇腹に、『目』のような白い刻印が刻まれている。

 

 ——変身。

 小夜鳴が化け物に——ブラドに変身した。

 ヤツらは、表裏一体の一つの生命だったのだ。普段は小夜鳴が活動し、ヒステリアモードが発動すると、ブラドが出現する。

 だから小夜鳴はブラドに一度も会ったことがないと言っていたのだ。

 

「アァ……初めましてダナ、オルメスの小娘に遠山侍」

 

 重低音。その上、複数人の男が同時に喋っているかのように雑音が入り混じっている声。不気味だ。そして聞いているだけで気分が悪くなってくる。

 

「遠山金一のヒステリアモードは相変わらずめんどくせえなぁ。おかげで変身するのに手間がかかっちまった」

 

 コイツ……! 兄さんのことを知っていやがるのか!

 俺が眉をひそめていると、アリアが一歩前に足を踏み出した。

 

「あんた、ドラキュラ伯爵ね。ワラキア——現在ではルーマニアに実在したブラド・ツェペシュ。吸血鬼、竜悴公(ドラキュラ)

 

「ゲババッ! ご名答だオルメスの小娘。オレはドラキュラだ。そして——貴様らとは別次元の存在だ」

 

 そう言ってブラドは足元に転がっている理子の頭をその大きな手で鷲掴みにする。さらに、足元にあった理子の2丁のワルサーP99を踏み潰した。

 

「さて、どこまでいっても無能だった4世の始末でもしようかねえ」

 

 理子の頭から鳴ってはいけない音が聞こえてくる。

 さきほどブラドが鋼鉄製の拳銃を踏み潰したことからわかるが、コイツは人間とは筋力が全然違う。

 きっとヤツにとって人間の頭を握り潰すのはトマトを握り潰すのと同じようなことなんだ。

 

「ブ……ブラドぉ……! だ、だましたな……! オ、オルメスの末裔を倒せば、あたしを…解放するって……約束、した、くせに……っ!」

「ゲバババッ! お前は、下等な人間、それも—–犬とした約束を守るのか?」

 

「く…くそ…ぉ……っ!」

 

 理子の目から涙がこぼれ落ちる。

 

「いいか4世! お前はオレから逃げることなんて絶対にできねェ! ゲババッ! 無能なお前には一生、檻の中で生きてんのがお似合いだぜ!」

 

 く、くそ……これ以上、見ていられねえ!!

 俺はたまらず銃をブラドに構えた——その瞬間。

 

「——おい」

「あ……?」

 

 

 ——ズガンッ!

 

 一発の打撃音とともに、巨体のブラドの体がまるで交通事故にあったかのようにぶっ飛ばされた。

 

 俺の目には——鞘付きの刀を振り下ろしたソラの姿が映った。

 理子がブラドの手から離れて空中に舞う。

 そして、そんな理子をソラがお姫様抱っこの態勢で抱えた。

 

「そ……そーくん」

 

 理子が手を動かしてソラの頬に手を当てる。

 

「に、逃げて……ブラドには、アイツには絶対に勝てない」

 

 理子はソラの頬に手を当てながら胸に顔を埋める。

 ……時折、嗚咽が聞こえてくることから……泣いているのだろう。

 

「理子は、イ・ウーでアイツと戦ったけど手も足も出なかった……っ! アイツは強すぎる。 初代リュパンでも勝てなかった……だから——」

 

「『逃げろ』なんて言わさねえぞ」

 

 ビクッ、と理子の体が震える。

 

「俺は絶対に逃げねえ。ここでアイツと戦う」

 

 ソラの毅然とした声。さっきまで俺たちと理子のどちらの味方をしようかと迷っていたソラではない、確かな覚悟のある声。

 ソラは絶対に退かない。その覚悟はひしひしと伝わってくる。だから、理子の声が震えていた。

 

「どう…して……っ」

 

「お前こそ、どうして逃げろだなんて言いやがる」

「え……?」

 

 今度は少し怒ったような声。

 ——そうか。

 

 だからお前は……ずっと理子のことを静かに見つめていたんだな。

 

「アイツはお前との約束を反故にした。つまり、アイツはもうお前を解放するつもりなんてねえんだ。だったら、ここで戦うしかねえだろうが」

 

「で、でも……! アイツは強い! 理子ひとりじゃ——」

「お前は、ひとり(孤独)じゃねえだろうが!」

 

 ソラは今、本気で怒っている。

 とても珍しいことだ。コイツが仲間に対して本気でキレるなんて……でも、なんか微笑ましいんだよな。

 結局、怒ってる理由も仲間のためだなんてさ。

 

「今のお前には、俺がいる。アリアがいる。キンジがいる。だから、俺たちがここで負ける道理なんてあるわけねえんだ」

 

 ソラはずっと理子を救いたがっていたんだ……理子を縛る者から。

 でも、理子はブラドとできるだけ関わらず、十字架だけを取り戻そうとした。

 だからソラは、納得がいかなかったのだ……理子が本当の自由を得れないから。

 だが、理子を縛る者がどこにいるかわからない……わからないから、ソラはずっと黙り続けていた。

 

 そして、今——理子を縛るブラドが現れたからこそ、ソラは理子に助けを求めて欲しかったんだ。

 だが理子は、『逃げて』と言った……当然、ソラが受け入れるわけがない、むしろ怒るハズだ。

 1人でバカみたいに抱えてないで、俺に相談しろよってな。

 ったく、最近まではお前も1人で抱え込んでたくせによ。

 まぁ、でも、それが——俺の親友、天草ソラだよな。

 

「いいかこのバカ娘。テメェが何抱えてるか知ったこっちゃねえ……でもな、お前がブラドに縛られてるってのは知ってるんだよ。だから、俺がお前を縛る鎖を解き放ってやる……だけど、お前の首に巻きついているその『首輪』だけはテメェ自身で解き放たなきゃいけねえのさ」

 

 そう言ってソラは抱きかかえている理子の胸に、ブラドに奪い取られたハズの——本物の青い十字架を優しく置いた。

 

「だからいい加減解放されようぜ。お前が戦わなきゃ、足掻かなきゃ、何も解決しねえ。お前がアイツを打ち倒して、ようやくお前は自由になれるんだ」

 

「ソ、ソーくん……」

 

 理子はソラの顔を真っ直ぐ見つめて——コクリ、と頷いた。

 

「ごめんねソーくん……そして、ありがとう」

 

 理子はソラの腕から離れて1人で立とうとする。だが、まだ小夜鳴にくらったスタンガンが響いているのか、足がふらついている。

 

「キーくんもアリアも巻き込んじゃってごめんね」

 

「ふんっ。別に私はブラドにも用があるからあんたに言われるまでもないわよ」

 

 プイっ、とそっぽを向くアリアだが、少しだけ頬が赤くなっているのが見える。ったく、このツンデレ娘め。

 

「俺も構わないよ理子。可愛い女の子を助けるためだったらなんでもやってやるさ」

 

 ……あ、ヒステリアモードに入ってたの忘れてた。

 

「そっか……ありがとう2人とも」

 

 理子は俺たちから視線を外して背を向けているソラに視線を移した。

 

「ソーくん」

 

「おう」

 

「理子と一緒に死んでくれる……?」

 

「おう」

 

「そっか。じゃあ理子も戦うよ。ここで、アイツとケリをつける。だからソーくん」

 

 

「理子を——助けて」

 

 ソラは何も答えない……だが、その代わりに、持っていた刀を上にあげて応えた。

 

 俺とアリアは銃を持つ。

 ソラは刀を鞘から抜き、抜身の刀を片手に握りしめていた。

 理子はまだ体が痺れているので、後ろで体を休めている。

 

「——ゲババッ! 下等な生物どもがオレに逆らうか!」

 

 聞くだけで嫌悪感が湧き出てくるような声が耳をつんざく。

 

「天草ソラ! お前は小夜鳴のとき(・・・・・・)では良い関係だったからなァ、見逃してやろうと思ったんだが」

「お断りだバカやろう。テメェを倒して全部終わらせる」

 

「ゲババッ! お前は、元友人の男を倒せると?」

「元じゃねえよ。今も俺は小夜鳴と……お前と友人だ。だけどな、間違った友人をぶっ倒すのは友人——俺の役目だろ」

 

「今も友人か! ゲバッ! ゲバババババッ!! 愉快だ! 愉快な人間だ——天草ソラ! だが、今のオレはお前を虫ケラのように殺すぞ」

 

 好きにしろよ。とソラは小さく呟く。

 

「——ここまでだ。ここまでがお前の領域」

 

 

 そして—–

 

 

「こっから先は俺の領域だ。俺のルールでやらせてもらうぜ……!」

 

 

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