依頼の『猫探し』を終えた翌日。
「理子」
メールで呼び出しておいた通り、理子は女子寮前の温室——ビニールハウスの中にいた。ここは、人通りが少ないため密会などをするときにもってこいの場所なのだ。
「キーくぅーん!」
薔薇園の前で理子が手を振って俺を迎える。
アリアと同じぐらい小柄で、長い金髪をツーサイドアップに結っている。そして、これは俺の
その小柄な体型とは似合わず、たわわに実っているソレはアリアに見せたら絶望しそうだな、とつい笑ってしまう。
「相変わらずな改造制服だな。なんだその白いフワフワは」
「これは武偵高の女子制服・白ロリ風アレンジだよ!」
改造制服を自慢するようにクルリと一回転する理子。普通ならあざといなんて言われそうな動作だが、小柄な理子の可愛さにはその仕草はよく合っていた。
「はぁ……お前は一体何着、改造制服を持っているんだ」
俺がそう言うと、理子は指を折り折り持っている改造制服に数え始めたので、俺は理子に依頼の報酬のゲームが入った袋を渡した。
俺は理子にとあることを依頼していた。
「これはアリアには秘密だぞ」
「うー! ラジャー!」
姿勢を伸ばして、両手を敬礼のようにビシッとポーズを取る。
理子は俺から袋を受け取ると、早速ビリビリと袋を破いて中の物を取り出した。
「うっっっわぁ————っ! 『しろくろっ!』と『白詰草物語』と『
理子はぴょんぴょんと飛び跳ねながら両手でゲームを振り回す。
振り回されているゲームは——R-15指定、つまり15歳以上でないと購入できない、いわゆるギャルゲーだ。
理子は改造制服から分かる通り、オタクである。
もちろん、理子も15歳以上なので購入できるが——先日、ギャルゲーを買おうとしたら、そのゲーム屋の店員から身長の低さが原因で中学生扱いをされ、買うことが出来なかったらしい。哀れである。
そんなわけで、俺が依頼の報酬として代わりに買ってきたというわけだ。
……正直、買うのは死ぬほど恥ずかしかったし、そこに偶然そこに居合わせたソラ(いつもそこでゲームを買っている)に満面の笑みでニヤニヤされたので、死にたくなったのだが……ごほんっ!
それで俺が理子に依頼したのは——アリアの情報だ。
俺がいくらアリアに聞いても「武偵なら自分で調べなさいっ!」の一点張りなので、理子に依頼したのだ。
理子は探偵科を専門とするAランク武偵であるので、当然ながら情報収集が並外れて上手いのである。
「あ……これと、これはいらない。理子はこういうの、キライなの」
理子はそう言って、『妹ゴス』の2と3を俺に突っ返してくる。
「なんでだよ。これ、他のと同じようなヤツだろ?」
「ちがう。『2』とか『3』なんて、蔑称。個々の作品に対しての侮辱。イヤな呼び方」
……なんだそのこだわりは意味がわからん。
「あ……でもこれはいる」
そう言って理子は『セクハラ野郎の百日伝説』というゲームをバックの中に入れる。
「あ、すまん。それは俺が
セクハラばかりする主人公が、百日以内に魔王を倒すというアクションゲームで、理子の好きそうなギャルゲーじゃないと思うんだが……
「ふぅん、そうなの。じゃあ、キーくんこれも貰っていい?」
「えっ、ああ、別にいいけど」
単純にアイツに似てるなって思って衝動買いしただけだしな。
「じゃあ、これで
「——は? 今なんて言った?」
「うん? ソーくんからの報酬も貰えたし、キーくんにアリアのことについて教えようと——」
「ソラからの報酬って一体どういうことだよ!?」
理子が呼ぶソーくんとはソラのことだ。
——って今はそんなことはどうでもいい! ソラからの報酬って一体どういうことなんだ!?
しかし、理子はキョトンとした顔で俺を見る。
「あれ、聞いてないの? ソーくんはこの前、理子にキーくんと同じことを依頼してたの」
な、なんだと……!? それってつまり——。
「で、ソーくんは『依頼の報酬はキンジが払う』って言ってたから、キーくんも知ってたのかなって」
あ、あのセクハラ野郎ぉおおおお!? ふざけんじゃねえよ! なんで俺がアイツの分まで支払わなきゃいけないんだよ!
「……はぁ、もういいや。とりあえず……アリアの強襲科での評価を教えろ」
「はーい。まず、ランクだけどSだったね。2年でSランクって、片手で数えられるほどしかいないんだよ」
2年でSランクと言われて思い浮かぶのは、レキと変態か。
とりあえず、その情報について特段驚くことはなかった。なぜなら、先々日ぐらいにあった、俺が巻き込まれたチャリジャック事件でのアリアの動きは常人のレベルを遥かに超えていたからだ。
「理子よりもちびっこなのに、徒手格闘もうまくてね。流派はボクシングから関節技まで何でもありの……えっと、バーリ、バーリ……バーバリアン……?」
「バーリ・トゥードだろ。なんだバーバリアンって、1号2号でもいんのか」
「そうそれバーリ・トゥード。それ使えるの。イギリスでは縮めてバリツって呼ぶんだって」
俺もアリアにぶん投げられたな。確かにアレは凄かった。身体能力が異常なまで向上する『ヒステリアモード』でも受け身を取るのが精一杯だった。
「拳銃とナイフは、もう天才の領域。どっちも二刀流なの。両利きなんだよあの子」
「それは知ってる」
「じゃあ、2つ名も知ってる?」
2つ名——豊富な実績を誇る武偵には、自然と2つ名がつく。
アリアは弱冠16歳にして、すでに2つ名を持っているのか。
知らないな、と俺が答えると、理子はニヤリと笑った。
「
——
武偵用語では、二丁拳銃および二刀流のことをダブラと呼ぶ。
これは英語のダブルから来ているのだが、カドラとはつまり4つの武器を持つという意味の2つ名なのだろう。
「笑っちゃうよね。双剣双銃だってさ」
「どこに笑う要素があるかわからないが——まぁいい。他に……そうだな。アリアの武偵としての活動について知りたい。アイツにはどんな実績がある?」
「あ、それはスゴイ情報があるよ。今は休職してるみたいなんだけど、アリアは14歳からロンドン武偵局の武偵としてヨーロッパ各地で活動しててね……」
なんと! と理子は強調するように言う。
「その間、一度も犯罪者を逃したことがないんだって!」
「一度も逃したことがない……?」
「狙った相手を全員捕まえてるんだよ。
——信じられない。
俺はそんなバケモノみたいなヤツに追われているのか。
その後も理子から情報を聞いた。
アリアはイギリス人とのハーフだとか、アリアがリアル貴族だとか、けれどアリアのミドルネーム——『H』家の人たちとは上手くいってないんだとか。
他には……あぁ、理子に安物の腕時計を壊されたな。自分で直すって言って、持ってったっけど。
後は——チラッと見えた理子の胸がやっぱりデカかったとか……って! そんなことはどうでもいいんだよっ!
はぁ……とにかく今日は疲れた……。
*
『キーくんがアリアのことについて聞いてきたよっ!』
妙にテンションが高い声で話してくるなぁ。理子のやつ。
「ん……おっけ。報告ありがとう」
俺は今、理子と通話中である。
キンジがアリアのことについて聞いてきたら、俺に報告をくれと事前に頼んでおいたのだ
理子が「あ、ソーくんに言いたいことがあったんだった」と言った。
『キーくんに報酬のことちゃんと話しておかなきゃダメだよ。次やったら、もうソーくんの依頼受けないかもっ』
俺に注意するように理子が言う。あー、やっぱりそれのことだよね。
絶対にキンジ怒ってるだろうなぁ……後でボコられそう。
「でも理子は優しいから同じことやっても、俺の依頼受けてくれるだろ?」
そう、俺は以前も同じことをやったことがあるのだ。その時にも理子に同じことを言われた。キンジには飯を奢らされた上に、
理子は、ぷぅと不満げにする。実際に会っていたら、頬を膨らませていそうだ。
『もうっ! ソーくんのこと嫌い! 人の優しさにつけ込むド変態っ!』
「それが俺です。はい」
理子が怒ったように言う。
実際は怒っていないのだろうが……まぁ、流石に今回限りにしておくか。
「悪かったよ。(キンジを使っての)依頼は今回限りにしとくから」
『えっ——』
理子がなぜか驚いたような反応する。
どこに驚く要素があったんだよ。
『べ、別に理子に依頼はしてもいいんじゃないかなっ!』
「ん……?」
理子は焦るように言った。
あ、ああ……なるほど。
理子は俺が二度と理子に対して依頼をしないっていう意味で受け取ったのか。
「今後は理子にキンジを使っての依頼はしないっていう意味だったんだが……」
『えっ!? あ……そ、そうだよね! あはは……』
すまん、と俺は理子に謝る。理子も「別に気にしてないよっ」と答える
「じゃあ、そろそろ通話きるよ」
『あっ……うん。わかった』
理子はどこか残念そうに言う。
もしかして、俺と通話が終わるのが寂しいのかなって想像する。
——うへぇ! 理子ちゃん最高ですぅー!
『何か今、ソーくんの頭の中で理子がエッチなことされてる気がした』
「ば、ばかやろ! そ、そんな想像なんてしてねえよっ! 男子高校生なめんなっ!」
『むしろそれ逆に妄想してるっていう意味じゃない?』
あ……その通りです。
ガクンと項垂れる俺。理子に嫌われたぁ……。
——理子はふふっと笑った。
『ソーくんはやっぱり最高だよ!』
嫌われてないのか……そいつはよかった!
それじゃ、
「俺に胸揉ませてく——」
『ごめん。それは無理』
マジトーンで言う理子。
最高じゃないのかよ俺……ぐすっ!
『——ねぇ、ソラ』
理子が真面目な声で俺を呼ぶ。俺も理子の話を聞こうと真剣になる。俺のことを「ソーくん」と呼ばず名前で呼ぶ時は大抵真面目な話の時だ。
『ソラは、私のこと
言葉だけを取るならば俺が理子を信用しているかどうかの問い。しかし、今の俺と彼女の間には、別の意図として確かに繋がる言葉の問いであった。
「当たり前だろ。お前のこと最後の最後まで信じ続けるさ。だから、困った時はちゃんと俺に助けを求めろよ?」
『——っ! あ、ありがとうねっ、ソーくん! バイバイっ!』
ガチャ! ツーツー!
電話の音が切れる。理子が通話を終わらせたのだろう。
はぁ……とため息を吐いて、俺はこれから先、起こるであろう厄介ごとについて考えた。
「……とりあえず、キンジをどう落ち着かせるか、それが最重要だ」
ほんと……乳を揉みたい。