天草空は乳を揉みたい   作:ゲリラ

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武偵殺し《Ⅰ》『相棒』は『相棒』を信じている

 久しぶりに乗ったヘリの中、これから起きる事に対して心がざわつく。

 俺こと遠山キンジは事件に巻き込まれていた。しかもとびっきりのだ。

 そんなことになったのも全て目の前で騒いでいるアリアのせいに違いない、というか絶対そうだ。

 起きた事件は俺たち武偵高の生徒がよく利用するバスを占拠するという、いわゆるバスジャックだ。

 アリアは確証もなしに『武偵殺し』の仕業だと言っていたが、『武偵殺し』の犯人は既に捕まっているという情報がある。

 そうだというのにアリアは、俺たち(・・)に何も説明しない。俺は当然憤慨したが、他の二人、レキとソラはどうして何も言わないのだろうか。

 俺には分からない——通常(・・)の俺では分からない。

 色んなことに頭を使いすぎて、頭が痛くなってきた。これも全部アリアのせいだ。

 ここ最近の出来事を思い返せば、本当に迷惑ばかりを被っている。

 それを少しばかり回想しよう。

 

 

 

 理子からアリアについての情報を教えてもらった翌日。

 俺は『強襲科』の棟にいた。

 アリアに強く押されてしまい、俺は一度だけアリアと共に事件を解決することを条件にして強襲科に戻った。

 強襲科——それは『明日なき学科』と呼ばれる地獄の場所だ。

 その由来は、この学科の卒業時生存率が97.1%——つまり、100人に3人弱は生きてこの学科を卒業できないというところからである。任務中や訓練中に死亡しているのだ。

 それが強襲科だ。

 また、強襲科を専門としている生徒たちもやはり他の学科の生徒とは違い、個性的である。

 口を開けば、死ね死ね言うのだ。それは決して悪口(?)ではなく、強襲科流の挨拶なのである。

 そんなこんなで、強襲科の生徒と死ね死ね言っていたら、装備を整えることしかできず、かなり時間を食ってしまった。

 外に出ると、最近ではいつも俺にくっついていたアリアがいた。

 装備を整えた後は、とりあえず一人でゲームセンターに行くつもりだったのだが、アリアがいつも通りくっついてきやがった。

 驚いたことにアリアはゲームセンターやUFOキャッチャーを知らなかった。ライオンだかヒョウだかよくわからない動物の小さなぬいぐるみを取ろうと必死にUFOキャッチャーをしていたアリアの姿は、破産が目の前のようなギャンブラーのように見えて少し笑ってしまった。

 3000円使っても取れていなかったので流石に見ていられなくなった俺は、アリアの代わりにUFOキャッチャーをした。

 結果は二匹、ぬいぐるみを手に入れた。

 プレイしていた時に感じた緊張感やドキドキから、一気に二匹もぬいぐるみを手に入れたときに、つい満面の笑みでアリアとハイタッチしていた。あの時のアリアは正直に言って可愛かった。

 アリアとハイタッチしていた瞬間を武藤と不知火と一緒に遊びにきていたソラに見られ、妙に優しい笑みを浮かべていたソラの顔を見て、俺は少し気恥ずかしくなった。

 ソラはそのまま俺たちに何も言わず立ち去って、武藤たちとエアーホッケーをしていたが——負けたら、全裸でプリクラを撮るとか言っていたが正気かアイツら……?

 と、まぁそんなこんなで一日が経って——バスジャック事件が起きた今日。大雨の降る日だった。

 俺はいつもよりも早く起きたというのにバスに乗り遅れてしまった。どうして……と思っていたら理子に修理してもらったはずの腕時計の時間がズレていたというアクシデントのせいであった。

 この前のチャリジャック事件のせいで自転車を破壊されたため登校手段がない俺は、1時間目の授業は絶対間に合わないな、と一人文句を言っていたら、携帯に着信が入った。

 相手は——アリアからだ。

 正直この時から何かしらの嫌な予感はしていたんだ。そしてそれはやはり的中した。

 

 ——すぐにC装備を装着して、女子寮の屋上まで来なさいっ!

 

 C装備とは武偵が突入などをする時に着用する、攻撃的な装備だ。

 何を言われてるかさっぱりだった。だから話を聞いてみると、先ほど俺が乗り遅れたバスが乗っ取られたらしい。

 以前にアリアとは一度だけ事件を共に解決するという約束をしたので、嫌々ながらも俺は行くことにした。

 

 そして、女子寮の屋上に着いて初めて見たのは俺と同じC装備をしたアリアが大雨に打たれながら無線機で何か話しているところだった。

 ふと気がつくと、階段の廂の下にはレキが体操座りをしていた。その隣には——。

 

「よっ、キンジじゃねえか」

「……ソラ」

 ソラがいつものように俺に手を振る。俺も手を上に振り上げて——ソラの頭に拳を下ろした。

 

「痛ぇええええええ!? 何しやがんだっ!?」

 頭を押さえて痛みに苦しむソラ。

 ——何しやがんだ、だぁ……!? お前、先々日のことわかってんのか、あぁ!?

 

「あはは……やっぱ怒ってる? 理子の依頼のこと」

「ああ」

 それはもうカンカンだ。青筋が浮き出すぎて出血するぐらいに怒ってる。

 そう言うと、ソラは素直に謝って来た。俺も一発頭にくれてやって気も楽になったので許してやることにした。

 

「ただし。今度夜飯奢れよ」

「はいはい」

 よし、これで夜飯分の食費が浮く。武偵とはいっても俺たちは高校生。高校生にとって食費が浮くことは嬉しいことなのだ。

 

「ふーん、あんたたち仲が良いのね」

 通話を終えたアリアが俺たちを見ていた。

 

「まぁ……一年時からの付き合いだしな」

 俺は少しばかり気恥ずかしくなって頬をかきながら言う。

 

「男と仲良いって言われても俺は嬉しくないけどな。どうせならナイスバディなお姉さんと仲良くしたい、もちろんエロい意味で」

「お前というやつは……!」

 ぶっきらぼうに言うソラ。なぜこいつはSランクになってから女好きになってしまったんだ——昔のソラ、カムバック!

 それにしても、

 

「なんでお前は防弾制服(・・・・)のままなんだよ。C装備はどうした」

 ソラはいつもの武偵高の制服のままだった。

 武偵高の制服は男女共に防弾加工がしてあり(ネクタイは防刃加工)、いつでも戦えるようになっているのだ。しかしそれでも応急的なものに過ぎないし、C装備をしてきた方がずっといい。

 

「いや、いつも俺、この格好で戦ってるし、慣れてる服装が一番動きやすいんだよ」

 絶対ウソだ。間違いなくめんどくさいだけだろ。

 そう思ったが、言うだけ無駄かと思い、黙っておいた。

 

「ところで、今回の事件はバスジャックって聞いてたが、犯人は車内にいるのか?」

「犯人はバスの中にいないわ。だって『武偵殺し』だもん」

 

 武偵殺し、ね。

 最近妙にその名前を耳にする。だけど『武偵殺し』って犯人は捕まったはずだぞ。

 俺がアリアに問い詰めようとすると、上空から激しい音が聞こえた。

 

 ——ヘリだ。

 アリアのやつ、こんな物まで準備していたのか。

 

「話は後! とりあえず、ヘリに乗りなさいっ!」

 

 ちっ! 絶対に話を聞かせてもらうぞ!

 

 

 

 そして現在に至る。

 俺はアリアに話を聞くつもりだったのだが——このバカ共めっ!

 

「レキ、俺の膝に座る?」

「はい、お願いします」

 何が俺の膝に座る、だ!? なんでレキも了承してんだ!? こいつらセクハラして制裁しての関係じゃないのかよ!?

 

 はぁ……。とりあえず、こいつらのことは置いといて。

 

「アリア」

「なによ」

「バスジャックが『武偵殺し』の仕業ってどういうことだよ。『武偵殺し』は逮捕されたハズだぞ」

「ええ——でもその人は『真犯人』じゃないもの」

「は?」

 

 『武偵殺し』で捕まった犯人が犯人ではないという驚愕の事実に、俺は耳を疑った。

 

「どういうこと——」

「あのねぇ!」

 アリアは俺の言葉を遮り、こちらに指をビシッと指して睨め付ける。

 

「事件の背景を話してる暇はないでしょ! 今はどうやって事件を解決するか、これが一番大事なことでしょ!?」

 アリアが言うことは最もである。最もであるが——

 

「確かにその通りだが、事件に不明な点があったら迷いで動きが鈍るかもしれないだろっ!?」

「そうね。でもあんたが知る必要はない。このパーティーのリーダーは私よ!」

 ——ぐっ! このチビっ子は!? 

 

「まぁ落ち着けってキンジもアリアも。事件前からカリカリしてたら本番でボロが出ちゃうぜ」

 そう諫めてくるのがレキを膝に乗せているソラ。

 

 俺たちが言い争いをしている最中に、頬を少し緩ませて「レキの尻の感触レキの尻の感触」なんて呟いていたから膝に乗ったままのレキから顔面にエルボーを食らっていたが立ち直っていたのか。

 だが、ソラの言う通りだ。事件前から連携が悪いなんてことになっていたら解決できる事件も解決できない。

 それをアリアもわかっていたのか、俺たちはとりあえず言い争いを終えた。

 

「——後で聞かせてもらうからな」

「いいわよ」

 ……今はこれでいい。後で聞かせてくれるならこれでいいはずだ。

 アリアが、ごほんっとわざとらしく咳をする。

 

「じゃあ、今から作戦を説明するわ」

 アリアは俺たちを見渡して言う。

 

「バスには空中から向かう。私とキンジがバスの上にパラシュートを使って着陸。着陸後は私がバスの外側をチェック、キンジは車内の状況を確認して私たちに連絡。レキはヘリでバスを追跡しながら待機。ソラはレキとヘリで待機しながら、状況を見て行動して」

 そう言ってアリアは天井からランドセルのような強襲用パラシュートを外し始めた。

 ソラも両手に何かを装着している。

 

「ん? なんだその籠手? お前今までそんなの着けてたか?」

 ソラは両手に金属製の籠手を身につけていた。金属製といっても分厚くて重そうな感じのではなく、手袋(?)のような感じというべきなのだろうか。柔軟性がありそうなモノだった。

 ——しかし、俺はソラがそんなものを身につけていたのを見たことがない。

 

「あ、これか? これはSランクの『昇格依頼』の時にお祝いで貰ったものだよ」

 ——というか籠手っていうな、ガントレットと呼べ。そっちの方がなんかカッコイイだろ。とソラは言う。

 知らんわそんなこと、どうでもいい。

 それにしてもSランク昇格の時にもらったものか……そういえば、ソラとは久しぶりに協力して事件を解決するな。少し嬉しい。

 そんなことを思っていると、ソラは今度は俺にも見覚えるのあるモノを取り出した。

 

 ——白銀の鞘に収められている一本の刀と一丁の回転式拳銃。

 

「相変わらず硬そうな刀だな」

「ん? ああ」

 俺はソラの刀を見てそう言う。

 ソラの刀——というか鞘はアルミ合金でできているらしく、いつもソラはこの鞘を装着しながら戦っている。なぜ鞘を取らないのかと聞いたところ、殺したらまずいだろ、という至極真っ当な答えが返ってきた。

 

 そしてもう一つのソラの武器は回転式拳銃——コルト・パイソンだ。.357マグナム弾を使う拳銃でソラはシングルアクションで扱っている。

 

 ソラの武器は『一丁一刀』。

 ソラはいつもこれらの武器を携帯している。といってもコイツは基本的に刀しか使わない。

 どうして拳銃を使わないのかと聞くと本人曰く、あんまり射撃は得意じゃないらしい——絶対ウソだ。ソラがSランクに上がってから一度だけ射撃練習をしている場面に遭遇したが、俺はアイツがその銃でワンホールショットをしてたのを見たぞ。

 とにかく、ソラは基本的に刀一本しかも鞘付きで戦っている。変なこだわりを持つヤツだ。

 

「見えました」

 レキがソラの膝の上に乗りながら窓を見て言う。

 俺とアリアもその方角を見たが、湾岸道路しか見えない。バスなんて全然見えないぞ。

 

「あ、ほんとだ」

 すると、ソラも何か見えたのか窓の外を指差して言う。

 

「あそこのホテルでパツキンの可愛い姉ちゃんが下着一丁でコーラ飲んで——」

 ゴフッ。

 鈍い音がソラの鼻から聞こえる。レキが顔面にエルボーを食らわしたのだ。「レキの尻」と言ってたときよりも威力が高かったように見えたんだが……

 レキの肘打ちをくらい悶絶するソラを置いて、レキは俺たちに言う。

 

「ホテル日航の前を右折しているバスです。窓に武偵高の生徒が見えています」

「よ、よく分かるわね。あんた視力いくつよ?」

「左右ともに6.0です」

 サラッと超人的なことをいうレキに俺とアリアは顔を見合わせてしまう。

 レキの言った通りに操縦手が下降していくと本当にバスが走っていた。それにしてもソラが言っていた金髪の女の人がいたホテルはもしかして——ホテル日航のことだろうか? だとしたら、ソラもレキに近い視力を——いや、そんなはずないか。どうせエロいこと限定で視力が上がったとかそんな感じだ。

 

「——さて、そろそろ行くわよ。準備しなさい」

 アリアが気を引き締めるように言う。

 そうだな。俺も気を引き締めよう。これから向かうのはデカイ事件が起きてる場所なんだ。

 

 そして俺とアリアはパラシュートを使ってヘリから飛び降りた。

 

 

 

 

 ——二人がヘリから飛び降りていく姿を天草空は見ていた。

 

「さて、俺たちも気を引き締めようか」

「はい」

 レキはソラの膝の上からどいて、ドラグノフをいつでも打てるように持つ。

 

「ソラさん」

「どうした?」

 レキがどこか躊躇うような雰囲気を出してソラに声をかける。

 

「『風』は貴方が今日、怪我をしてしまうと言っています」

 

 『風』——レキにいつも語りかけてくるという不思議な存在。

 

「大丈夫じゃないか? 既にもうレキにエルボー食らって怪我してっから」

 

 ソラは真に受けていないかのようにあっけらかんと答える。

 ——いや、ソラはレキが言わんとしていることをしっかりとわかっている。それは去年、レキとパートナーを組んできたソラが一番よくわかっている。

 だから、ソラはレキの肩にそっと手を置く。

 

「『怪我』するだけだろ? 死ななきゃいいんだよ心配すんな」

 ——怪我なんてどうでもいい、死ななきゃ次がある。ソラはそう思っている。

 

「しかし。……はい」

 だから、どこか危なっかしく感じられるソラをレキは見ていられなかったのかもしれない。

 

「さぁ、お話は終わりだ。事件に集中しよう」

 ソラはレキとの話を終えて状況を見定める。すると、アリアとキンジとレキの三人と繋がっているインカムから音声が聞こえた。

 

『このバス、遠隔操作されてるっ! そっちはどうだアリア!』

『——こっちもバスの底に爆弾を見つけたわ! カジンスキーβ型のプラスチック爆弾、『武偵殺し』の常套手段よ。見えるだけでも——炸薬の容積は、3500立法センチはあるわ!』

 

 キンジはバス内から、アリアはバスの背面から報告する。

 ——馬鹿げている。

 その話を聞いた全員がそう思うだろう。過剰すぎる炸薬の量。もし爆発すればバスどころか電車すらもぶっ飛ばされるだろう。

 

『これから潜り込んで解体を試みるわ!』

『わかった!』

 ソラは二人の話を聞いてある程度の状況を察する。この事件はアリアの言う通り『武偵殺し』の仕業だろう。過剰すぎる炸薬の量。乗り物のジャック。全てがその通りだ。

 

「レキ、俺たちもそろそろ出番のよう——ん?」

 ソラは自分の視界に映っているものに何か違和感を覚えた。バスにではなく——その後方。一台の赤いオープンカー。座席には誰も座っていない。しかも無人の座席には、短機関銃(サブマシンガン)——UZI(ウージー)が搭載されていた。

 その車はとんでもない速度でバスの背面に接近する。ソラは急いでインカムに手をつけた。

 

「アリア! そこは危険——」

『えっ』

 ズドンッ。

 最後まで言い切ることなくオープンカーはバスに追突した。バスは追突されたことで激しく揺れる。

 

『アリア大丈夫か!?』

 状況を察したキンジがインカムから話しかける。

 しかし——返事がない。

 今の一撃でやられたのか。ソラはそう思うと、自分もバスに乗り込むため外に出る準備をする。そこでソラは見た。

 ——後ろにいた赤いオープンカーがバスと横に並走して、UZIを向けているのを。

 ズガガガガガガッと銃撃音が鳴り響く。バスの窓が全部粉々に砕け散った。

 

『キンジ! 大丈夫か!?』

『あ……ああ! こっちは大丈——しまった! 運転手が被弾してる!』

 

 ソラは舌打ちをする。

 

(中々キツイ状況になって来やがったか)

 

 バス内の状況を遠くから見ると、肩に被弾していた運転手の代わりに武藤が運転をしようとしている。武藤は車輌科(ロジ)を専門とするAランク武偵であるので、運転することに問題はないだろう。

 ——次は俺たち(・・・)がどう動くかだ。

 

「ヘリをバスに近づけて併走してくれ!」

 ソラはヘリの操縦手に言う。操縦手はそれを聞き取ると、ヘリをバスの方向に傾けていった。

 

「——レキ、あのオープンカー叩き潰せるか?」

「はい」

 レキは短く答える。

 

「(後の問題は——爆弾だ)」

 ソラの頭の中に様々な解決案が駆け巡る。自分がバスに乗って爆弾を解除するのが1番の最前手に見えるが……オープンカーのUZIをどうにかしなければバスに乗ることもできない。

 ソラはバスの上にいる二人の姿を見た。

 

(無事だったかアリア!)

 

 オープンカーに追突されていたが無事であったようだ。そして、もう一人、キンジもバスの上にいた。あの二人がいれば爆弾はどうにかできるだろう。しかし——。

 

(あいつらどっちもヘルメットしてねえじゃねえか!)

 

 アリアは追突されたときに壊され、キンジは武藤に渡していた。もしヘルメットがなければ万が一ってことも——そう思考が巡って来たとき。

 

 ——UZIを搭載しているオープンカーがバスの前方にいた。

 アリアは気付いているようだが、キンジは気付いていない。

 そして、二発の発砲音が鳴り響いた。

 

 ソラの目には、キンジを庇って頭から鮮血を流しているアリアが映った。

 ソラは下唇を噛みしめる。しかし、バスの上に移る準備を整えた。

 

(ファインプレーだ、アリア……!)

 

 アリアはUZIに撃たれる瞬間、自らも銃を放ったのだ。放たれた銃はUZIを貫いた。

 これでバスに移れる。ソラがそう思ったとき——。

 

(おいおい嘘だろ!?)

 もう一つ——黄色のオープンカーがバスの後方に付こう(・・・)としていた。しかも、ご丁寧にUZIも搭載済み。

 このままではきっとバスの中にUZIの弾が打ち込まれてしまう。

 だが、バスの爆弾もどうにかしなければならない。

 八方塞がり——どちらをやってもどちらかが暴発する、そんな状況。しかし、

 

「私が『赤いオープンカー』と『爆弾』を狙撃します。ソラさんは『黄色のオープンカー』を」

 

 レキはソラに淡々と告げる。それは彼女のいつも通りのことであるので問題ないのだが、バスは止まらず走り続けている。しかもヘリからはバスの底は見えないのだ。そこを的確に狙い撃ちが——。

 

「私を、信じてください」

 

 レキのいつもの無感情の声——しかし、今の言葉には間違いなく『自分を信じてほしい』という感情が込められていた。

 ソラは頭を切り替える。

 

(どうかしていた。レキは狙撃科Sランクだ。彼女にできないことなんてない)

 

 それに、俺の『今のパートナー』を信じない(・・・・)なんてパートナー失格すぎる。

 ソラは自分への怒りと共に強襲用のパラシュートをヘリの中に投げ捨て、操縦手にヘリをバスにもっと近づけるように言った。

 

 後は、彼女とのいつもの掛け声(・・・・・・・)を済ませるだけ。

 

 

「——信じてるぜ、相棒(レキ)

「はい。こちらも信じています相棒(ソラさん)

 

 ソラはバスの中に飛び込んだ。

 

 

 

 

 状況は最悪。それでも負けるはずがない、お互いがお互いを信じている限り敗北はない。負けるはずがない。

 ソラは、初期の頃にはキンジと組み、現在ではレキとパートナーを組んでいる。

 キンジのことは唯一無二の親友だと思っている。では、レキはのことは——わからない……わからないが——大切な存在だと思っていることは間違いないだろう。

 レキは俺のことをどう思っているのだろうとソラは思う。大切な相棒? セクハラばっかりするバカ? それとも——大好きな人とか? 

 なんてバカみたいなことばかりソラは考える。しかし、どちらにせよ大切に思っている相手に『信じている』と言われたのだ。

 ——応える以外に選択肢はない。

 

 バスの中に飛び込んだソラはそのまま後方へ向かっていく。バスの中は混雑しているとキンジは言っていたが、生徒たちは皆、左に偏っていた。 

 先程、バスが猛スピードで右折した際に横転しないように左に集まったのだろう。

 ——大した状況判断能力だ、さすが武偵。とソラは心の中で賞賛する。

 

 後部座席に向かって真っ直ぐ駆け抜ける。後ろを見ると黄色のオープンカーは既にバスの後ろに付いていた。

 後部座席に座っていた生徒全員の肩や服を掴み取り、前の方へ投げ飛ばす。驚きの声や女の子の小さな悲鳴が聞こえたが今はどうでもいい。

 

 鞘をつけたまま刀を抜き出す。ソラのいつもの武器だ。

 黄色のオープンカーはUZIをこちらに向けて発射着前だった。

 

 ——そして弾が発射される。

 

 ズガガガガガガガッと射撃音が鳴り響く。それら弾は全てこちらに向かっていた。弾を後ろに通せば間違いなくソラの後ろにいる生徒は全員、傷を負うだろう。

 

 体勢は不十分。バスは猛スピードで動いてて揺れまくり、場所は狭いし、アリアのことも気になる——それでも守ってみせる。

 

 ——高速の乱撃、とでも言えばいいのだろうか。

 ソラは持っていた刀一本で銃弾を全て弾く。一発も後ろに逸らさない。現に、彼の足元及び周囲の壁には——無数の銃弾があった。

 

 全てを撃ち落とす。それはまさしく——達人の技。『Sランク』の武偵だからこそできる高等技術だ。

 そして、UZIからの射撃が収まった。

 そこを見計らって、ソラは回転式拳銃——コルト・パイソンを取り出して、オープンカーの前輪のタイヤを適確に撃ち抜いた。

 タイヤに穴を開けられた黄色のオープンカーはスリップする。もう間も無くガードレールに当たって爆発するだろう。

 だが、その前に黄色のオープンカーに搭載されているUZIから6発の弾が射出された。

 それは先ほどと違っていた。

 バスに乗っている生徒全員を対象にしたモノではなく——天草空のみ(・・)を狙う6発の弾。全て天草空の顔に向かっていた。

 ソラの後ろにいる生徒から小さな悲鳴が響く。

 それもそうだろう。ソラは刀を降ろして拳銃で銃撃をしたばかりなのだ。しかも、UZIの弾は全て射出させたと思わされた後の出来事——絶対に避けられるはずもない。現にソラは全くその場から動けなかった。

 

 ガリガリガリガリガリィン!!!

 

 金属音のようなモノがバス内に鳴り響いた。発生源はどこからなのかわからない。

 すると、どこからかヘリの音と共に詩を詠むような声がした。

 

『——私は一発の銃弾』

 

『銃弾は人の心を持たない。故に、何も考えない——』

 

『——ただ、目的に向かって飛ぶだけ』

 

 

 レキがターゲットを狙撃する際に言うクセのようなものだ。

 そして、その言葉の通り、銃弾は赤いオープンカーの前輪を打ち抜き、バスの底にある爆弾を部品ごと取り外していく。そして爆弾は部品ごと海の中に落ちて行き。

 

 ズドォオオオオオオオン!! と激しい爆発音を海の中から鳴らした。遅れて、スピンしていた赤いオープンカーとガードレールに衝突していた黄色のオープンカーがぶつかり、激しく爆発——炎上した。

 

 

 

 

 バスは停止する。自分たちを脅かす脅威が無くなったからだ。

 停止したバスの中にいる生徒たちは皆、安堵の息を漏らすが、すぐに、先ほど自分たちを銃撃から守ってくれたSランク武偵の生徒へ意識が切り替わった。

 その生徒は、その場から一切動かない。

 

 彼の足元に、彼の愛刀と愛銃が落ちる。

 

 誰もが息を飲んだ。まさか、彼は死ん——

 

 

 

「——あぁ!! 死ぬかと思ったぁあああああ——ッ!!」

 

 一人の男子生徒の怒号がバス内に響き渡る。

 それに少し遅れて、うわぁあああああああああああああ!! とバス内から歓声やら悲鳴やらが混じった叫び声がこだました。

 

「本格的に死ぬかと思った! このUZIを操縦してる奴は絶対バカやろうだ!」

 彼は生徒たちがいる——後ろの方を向いて涙目の顔で叫ぶ。

 

「お、お前……無事だったのか……!?」

 先ほどまでバスを運転していた武藤がソラに声をかける。おそらく彼は運転しながらミラーで見ていたのだろう。大した運転技術である。

 

「無事なわけあるかっ! 最後のヤツは殺しにきてただろう!?」

 殺しにきてた——というよりも。殺すハズだったが正しいだろう。

 

「だからお前、どうやって……お前、それ……」

 武藤はソラの両手——ガントレットをしている両手から、何か煙を巻き上げているモノが見えた。

 

「——あ? ああ、これ? 銃弾飛んできたときに咄嗟に指と指との間(・・・・・・)で受け止めたんだよ」

 バス内が沈黙する。しかし、当の本人は「いやー、マジで死ぬと思ったね!」と一人、誰かに対して(・・・・・・)文句を言っていた。

 ——そして、バス内の沈黙は一斉に解放される。

 

「はぁあああああああああああ!?」

 

 全員の驚愕の叫び声という形になって。

 

 「え、なに? もしかして俺なにかやっちゃいました?」と無自覚野郎みたいな声を出す変態の姿があった。

 

 

 

 

 

 

 事件解決。今回のことは確かにそう言えるだろう。

 しかし、代償はあった。

 ——神崎・H・アリアの負傷。

 一人の少女が怪我をしただけ——では収まらないのだ。

 彼女は武偵の中のトップ中のトップ——『Sランク』なのだから。

 『Sランク武偵』の負傷という事実は大きい。例え、彼女が誰か(・・)を庇って怪我をしたと言っても負傷は負傷なのだ。

 しかし、『Sランク』の評判が落ちたわけではない。なぜなら、同じ『Sランク』の武偵が活躍したからだ。

 ——『天草空』と『レキ』

 この両名のお陰で『Sランク』という誇り高き称号は守られたのだ。

 

 光の裏には影がある。それと同時に、影の裏には光があるのだ。

 しかし、やはり輝かしい活躍をした者にも『影』があるのだ。

 

 

 

 

 

 ——ここは路地裏。誰もそこに寄りつこうとはしない秘密の場所。

 大雨の降る中、そこに一人の男がいた。

 

「——っ! イテェ……くそっ……イテェよちくしょう……!」

 防弾制服を着用しているその男は、路地裏の壁に寄り掛かって座りこんでいた。

 ——その男の名前は『天草空』

 Sランク武偵として活躍する武偵高の男子生徒である。

 彼は事件が収束した後、彼の親友(キンジ)に対して教務科へ自分の分の報告も頼むと言い、早々に事件場から立ち去ったのだ。

 早く立ち去った理由——それは彼もアリアと同じように『負傷』していたからだ。

 アリアほど酷くはないが、もし、現在の彼の防弾制服を着ていない姿を見たら、彼の体から数カ所の打撲の痕があることに気付けるだろう。

 彼は、決して無傷でバスを降りたわけではなかった。UZIから放たれた銃弾を全て弾き落とせたわけではなかったのだ。

 もし足場が良ければ全て打ち落とせた。もしバスが動いていなかったら打ち落とせた。もし場所が広ければ……もし守る者がいなければ……

 しかし、どんな『IF(もし)』があろうと『Now is everything(今が全て)』、天草空は負傷した。それが全てなのである。

 だから彼は自分の怪我を隠した。Sランクとしての『名前』を落とさないため、自分の誇り(Sランク)を汚さないために。

 きっと、誰もが『天草空は活躍した』それで完結するのだろう。誰も『天草空が負傷した』なんて事実は知らないし、わからない。

 

 ——ただ、もし、それを知る者がいるとしたら『天草空の友人(彼を知る者達)』だけであろう。

 

 

 

「——お疲れさまでした」

 

 路地裏に無感情な声(・・・・・)が響く。ただ、その声を発した彼女(・・)の表情を見たとしたら、彼を労っているということが一目瞭然にわかるであろう。

 

「おう……お疲れさん」

 ソラもそれがわかっているので力なく手を振って答える。

 彼女——レキはソラの隣に座る。

 

「——おい、濡れるぞ?」

「構いません。今は貴方のことが『最重要』ですから」

 最重要か、それは嬉しいねぇ。とソラは答える。

 

「ソラさんのことをキンジさんと武藤さん、電話で白雪さんが心配していました」

「そっか……あいつらいいやつだな」

 というかお前と白雪はいつ連絡先交換したんだよ、とソラは聞く。

 

「先月——3月の上旬頃です。『天草空にセクハラを受ける同盟』を設立してからよく話すようになりました」

「あぁ……それ、本当にあったんだ」

「ええ。白雪さんは『私が合宿から帰って来たら。切って(・・・)あげるね!』と言ってましたよ」

「それお見舞い的な意味でだよなっ!? 俺の息子切り落とすんじゃなくて果物切ってくれる的な意味でだよなっ!?」

 はぁ……とソラはため息を吐く。どうして自分の周りは危険なやつばかりなのだろうかと考えているのだろう。当の本人が一番『危険(変態)』だというのに……

 

 

「私も——心配していました」

「はい……?」

 レキがソラに言う。その声はいつもと同じ無感情な声なのだが、ソラに何か(・・)を求めているようだった。

 

「私も貴方のことを心配していました」

「お、おう……?」

 

 同じ言葉を繰り返す彼女。ソラはどう返していいのか分からず、思考が右往左往する。

 

「貴方のことを心配していました」

「えっ…と……あ、ありがとう……?」

 とりあえずお礼を言えばいいのかと思って、ソラは疑問符をつけながらもお礼を言う。

 答えのわからない問答。本人も無感情なので全く読み取れない——それなのに。

 

「はい」

 

 彼女の声がどこか朗らかに聞こえたのは気のせいなのだろうか……。

 彼女の表情が少しばかり笑顔に見えるのは気のせいなのだろうか……。

 もしかして夢なのだろうか……?

 まぁ、いいか——とりあえず。

 

「——お邪魔します」

 

 ソラはレキの胸を揉もうとした。——その直前に脳天に銃剣が突き刺さる。

 

(あぁ……夢じゃなかったのね(笑顔だったんだな)

 

 そう思いながら頭から鮮血を垂れ流し天草空はぶっ倒れる。

 

 薄れゆく意識の中で、『愛する相棒』から「お疲れ様でした」という声が聞こえたのは夢ではないだろう。

 

 

 

 

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