『作戦コードネームは【
『あ、ああぁ……!』
『返事はっ!?』
『——はいっ!』
あー、隣の病室がうるせえ。おかげで眠れやしない。
なんだよ【
「——で、お前は何しに来たの、キンジ?」
俺はお見舞いに来た男にジト目を向ける。
キンジは暗い顔してここに来てから一言も発さずにいた。だから、再び用件を聞いたんだが、相変わらず何も言わないキンジ。
俺はだんだん腹が立ってきていた。
「俺のお見舞いじゃねえなら帰ってくれないかなっ!? そしてお見舞いにきたんならお土産の一つぐらい持ってこいや!」
「……ココア、持ってきたぞ」
キンジは手に持っていた袋からココアのペットボトルを取り出す。お土産持ってきてたのか……。
妙に気まずくなってしまった。なので俺はキンジから貰ったココアを早速飲む。
舌に柔らかく滑るミルクの味、鼻に伝わるチョコレートの香り、甘くないようで甘い絶妙の甘さ加減、これら三種の神器を重ね合わせた、このココアはまさしく神である。
つまり、キンジが持ってきたココアは美味だった。
「お見舞い……誰が来たんだ?」
「あ? ああ……えっと、不知火に武藤、それに理子……というか2年A組のやつはほとんどきてたな」
俺のお見舞いなんぞにくるなんてアイツら相当暇なんだな。
「やっぱり愛されてるんだなお前」
「はっ、バカ言えそんなわけあるか」
アイツらが俺を愛しているだぁ…? ないない、絶対にあり得ない!
「お前は知らんだろうがな、武藤はここに来たときの第一声が『セクハラしてた罰が当たったんだな。次からは控えるこった』だぞ!? 不知火は『エアーホッケーで負けた恨み忘れてないから。次はパンチングマシーンで勝負しよう。負けたら知り合いの女の子5人に抱きつくで、どう?』だぞ!? アイツらバカすぎんだろ!」
ついでに、俺がセクハラを控えることは一生ないだろう。俺にとってセクハラとは命であり、全てである。
「じゃあ、この花はなんだよ」
キンジは病室に飾られていた白いアジサイを指差して言う。
「ああ、それは理子が持って来たんだよ。あいつって、やっぱいいやつだよなぁ……良いお胸をしていますし、是非とも揉んでみたいよな?」
「俺に聞くなバカ」
おい、バカとはなんだ。せめて変態と呼べ。
さて、キンジもいつもの調子に戻って来たじゃないか。いい加減、話を進めようか。
「——で、改めて聞くがお前はここに何しに来たんだ? 俺はカウンセラーじゃないんだぞ?」
「ああ……」
病人よりも病人っぽい暗い顔で室内に入ってきたときはびっくりしたよ。
「なあソラ——俺はどうすればいいと思う」
——知らん。といつもなら答えたいが、キンジも本気で迷ってるみたいだしな。ここは真面目に聞いた方がいいよな。
「俺たちは先日のバスジャック事件を解決した。それでアリアとの関係は終わったはずなのに……俺の心が晴れないんだ」
心が晴れない。……と言われても俺にはキンジの心がわからないので、詳細を尋ねる。
「頭に怪我させたからか?」
「あ、ああ……それもある。だけどそれ以外にも少し、もやもやするというか……」
おいおい。やっぱりこれカウンセラーの仕事だよね? 俺こういうのよくわかんないんだけど。
「なんだキンジお前、アリアのことが好きなのか?」
「好きっ!? バカっお前——ゲホッゲホッ!」
驚いて大声をあげるあまり咳き込むキンジ。ほんと純粋だよな。
「そんなわけないだろっ! 俺がアリアのこと好きだなんて……そんなはずないだろ。だって俺は、アリアのことが……嫌いだ」
なんで歯切れ悪く言うんだよ。ハッキリ言わんかいバカヤロー。そんな煮え切らない態度じゃアリアのことが好きって言われても仕方ないだろうよ。
とにもかくにもキンジからの相談を受けて俺は、それの回答する義務があるだろう。
「なぁキンジ、この話知ってるか?」
「なんだよ?」
「教務科から強制的にコンビを組まされた武偵がいたっていう話」
「ああ、それって。お前とレキのことだろう?」
そうそう、俺とレキのこと。
「あの時の——というか去年の冬頃の俺って精神的にやばかったじゃん?」
「あ、ああ、そうだな」
なんでこいつ自分のツライ過去をベラベラ話すんだみたいな顔をしてるが、スルーだ。
「だから、最初レキとコンビを組まされたときは本気で腹立てたわけよ」
「確かに……レキとソラがコンビ組んでてるけど相性が最悪っていう噂を聞いたことがあったな」
「うん。で、当時の俺はレキのこと嫌いだったよ。だって無口・無感情・無表情で考えが読めない女だぜ? そのくせ、いつも俺の後ろにひっついて来やがって、話を聞けば『依頼ですので』の繰り返し、本当に嫌いだった」
「お、おう。お前がそこまでレキを嫌いだったのは知らんかった」
おいキンジ勘違いすんなよ。『当時の俺』だからな?
「でもある時、嫌いという感情がいつのまにか無くなってたよ」
「そうなのか?」
「ああ。俺が依頼の途中にぶっ倒れて入院したのは知ってるか?」
キンジは頷く。
「んで、入院後から武藤とか不知火とか理子とかお前らが俺を甲斐甲斐しくお世話してくれただろ?」
「ああ、そうだな」
「それで当時の俺は、それを鬱陶しく思いながらも、やっぱり嬉しく思っていたんだよね。んで、少しばっかり気が楽になった俺はレキと話すようになったんだ」
俺は2学年のみんなに感謝してもしたりないぐらいのことをしてもらった。
「——で、レキと話すことを試みた俺は、最初の頃は『全くわからねえ……』って感じだったんだけど、繰り返し何回も話しかけたんだ——そしたら気づいたよ。レキは別に好きで、無口・無感情・無表情をやってたわけじゃないんだって。レキにも『心』があるって知れたんだよ」
当時の俺は、全く考えの読めないレキを恐ろしく思っていた。だからそのギャップを知ったときに、俺はレキをなんて不器用なのだろうと思った。
「そこからは、さっき言ってたみたいに自然とレキのことは嫌いじゃなくなってた。そして、レキと付き合っていくうちに、心の読めないレキの考えも……こう、レキの『雰囲気』的なものでどう思っているかわかるようになってきたんだよ」
雰囲気——レキが時折、俺に対してのみ表すモノ。それをいつの間にか読み取れるようになった俺は彼女が何を考えているかわかるようになった。
「つまり、俺が言いたいことは——お前もアリアもお互いのことを知らなさすぎるってことだな」
相手を知らなきゃ好きになれるわけないよねっ!? てことだ。
「今からでもいいからアリアのこと知ってみろよ。そしたら、きっとアイツのこと嫌いじゃなくなって、お前の心のもやもやも取れるかもよ?」
そう言って俺は話を終える。
キンジに上手く伝わっただろうか? というか、やっぱりカウンセラーの仕事なんじゃねえのかこれって。
「——んで、お前もなんか言えよ」
さっきから黙りこくってるキンジに再びジト目を向ける。
キンジの表情は最初の時よりも少しだけ明るくなっているような気がした。
「——俺はアリアのことが嫌いだ」
「おう」
「——だけど、今はもう少しだけアイツのこと知りたいと思ってるよ」
「そっか」
「だから、俺は俺が納得するまでやってみるよ」
そう言ってキンジは立ち上がる。
「キンジ——」
キンジはこちらを振り返る。
「この、ロリコンめっ!」
「——っ! うっせえバカ! じゃあな!」
キンジは病室から走って去っていった。
「全く……あんな笑顔を俺に見せてんじゃねえよ。アリアとか白雪に見せてやれってんだバカヤロー」
*
日付は変わり、今日は週明けの月曜日。夕方の6時ぐらいだ。
俺は武偵高の防弾制服を着て、ガントレットを両手に装着し、愛刀と愛銃を持って病院の出入り口にいた。
「——どこへ行かれるのですか」
背後から抑揚のない無感情な声が聞こえる。
「ちょっとした散歩だよ」
俺はその声が『誰か』を知っているので振り返らずに答える。
「散歩をする格好には見えません」
「ばーか。これが俺のいつもの散歩の格好なんだよ。気合入れてんだ、散歩なめんなっ! てな」
じゃあな、と言って歩き出す俺。彼女は何も答えず、
——後ろから銃を突きつけていた。
「なんのつもりだよ、レキ」
俺は銃を突きつけている少女の顔を見るために振り返る。
振り返った先にはやはりライトブルーに包まれたショートヘアの少女——レキがいた。
「貴方は負傷しています」
「そうだな」
——それで? と返す。
彼女は俺が散歩に行くだなんてハナっから思っちゃいない。俺がまた危ないことに突っ込みに行くとでも思っているのだろう。
「『怪我をしようが死ななければいい』。貴方はいつもそう言っていました」
ああ、そうだな。俺はいつもそう思って生きている。
「その考え————嫌いです」
そう言ったレキの表情はたしかに眉をひそめて嫌悪を示していた。
これは驚いた。レキが『嫌い』か……自分の主観を述べるようになるなんて、これは成長とでもいうのかな。
「去年の冬、Sランクの『昇格依頼』の時、貴方は私に言いました」
抑揚のない声が俺の耳に入っていく。
「『勝手に死ぬな。どんな状況でも俺が絶対助けてやるから、もしお前が死んだら俺も一緒に死んでやっからな』」
これは敵に捕まったレキが俺の足を引っ張らないよう、グレネードで自爆しようとした時に俺が言ったことだ。
「私はこの言葉を受けてからはどのような状況においても生き延びることを優先すると決めました。私が死んで貴方を死なせないために——」
レキも当時の光景を思い出しているのだろう。両手に抱える銃に力が入っていた。
「貴方は『死ななければそれでいい』と言います——しかし、それは『死んでしまえばそこまで』と同じ言葉の意味に感じるのです」
あぁ……これは敵わないな。完全に
「だから、今ここで相棒である貴方に言います」
ダメだ。言わせてしまったら……これからはムリを出来なくなってしまう。
「もし貴方が死んだら——私も死にます」
——言われてしまった。
もう自分を犠牲にすることはできない。彼女にその呪いをかけられてしまった。
でも、嬉しく感じてしまうのは男の
*
結果的に言えば、レキは彼を止めることは出来なかった。
彼はそのまま去ってしまった。きっと彼はこれから起きるであろう事件に飛び込んでいくのだろう。
それでもレキは
彼が『
彼の言っていた『怪我をしても死ななければそれでいい』とは、逆に言えば『死ななければ怪我をする』ということであり、怪我をし続ければ当然死んでしまうだろう。
だからレキは彼が『死んでしまえばそこまで』と思っていると言ったのだ。そして、それは以前のレキの考えと同じであったからこそよくわかっていた。
——わかっていたから、レキは『その考え』を嫌った。
ならばやる事は一つ。
『自分』を変えてくれた『彼』と同じ方法で縛り付けること。
『もしお前が死んだら俺も一緒に死んでやっからな』
当時の彼はどういう気持ちでこれを言ったのだろうかとレキは思う。
彼はただ自害しようとした私を見ていられなくて言ったのだろうか……? それとも私の事が大事で——。
そこまで考えた時、レキは胸の中に鈍い痛みが走ったのを感じた。
胸に手を当てると痛みはすぐに治まった。しかし、頭に思い浮かぶのは『彼』のことばかりで、今度は顔が熱くなっていくのを感じる。
——自分が自分をわからない。
彼と出会ってパートナーとなったあの時からレキは変わっていった。
レキにとって彼は、『自分』を信じてくれる大切な『
(私は彼を信じている。彼も私を信じてくれている)
——もっと信じてほしい。もっと認めてほしい。もっと大事にしてほしい……でも、彼は
そう思ったとき、またしてもレキの胸の中に鈍い痛みが生じた。レキは胸を押さえて痛みを治めようとするが、先ほどとは打って変わって一向に治らない。
もし私の隣から彼がいなくなってしまったら……という想像が頭の中で展開していく。
——それは…イヤ……彼と一緒に居たい……。
不安が増していくに連れて自然と『胸』を押さえる力は強くなっていた。レキは先ほどから押さえている胸の辺りを見る。
(そういえば——彼はいつも『胸』を触りたいと言っていた)
彼が自分の胸を触ろうとしていたとき、どこか恥ずかしいような気持ちがして銃剣を刺していた。
それを思い出したときレキは自分の中にあった胸の痛みが消えたことに気づいた。
(帰ってきたら一度ぐらい胸を触らせてもいいのかもしれません)
よくわからない思考。全く論理的でもないのにどこか納得している自分。
自分がよくわからない——。
それでもレキは、悪くないと感じていた。
*
時は流れ——6時50分
俺——遠山キンジは羽田空港第2ターミナルの中を走っていた。
どうしてそんなところに行ってるのか……それは俺の推理によるものだ。『ヒステリアモードの』ってつくがな。
それでだが、俺の推理によると、『ANA600便・ボーイング737-350、ロンドン・ヒールロー空港行き』に『武偵殺し』は現れる。
話が突然過ぎてわからないか? なら、ソラと病室で別れた翌日から説明しよう。
*
ソラと病室で別れて翌日、俺は外出していた。
ソラに『アリアのことをもっと知ってみろよ』と言われ、その場ではそうしよう。と思っていたが、アリアとは先日——ソラの病室に行く前に会いに行った際にケンカ別れのような事をしてしまい、会いにいくのが気まずくなっていた。
それで、ソラと別れた後、結局アリアの病室に行くことができず帰ってしまった。
ただ、やっぱり家に帰った後もソラの言葉とアリアのことが気になって仕方がなく、それで俺は週明けになったらアリアに聞こうと思った。
今日は日曜日で特に用事もないがぶらつこうと思っているときのことだった。
——目の前にあった美容室からアリアが出て来たのだ。
俺はとっさに隠れるが、やはり内心では驚きでドキドキしていた。
アリアは私服で可愛らしい格好をしていた。
美容室から出てきたアリアはそのままどこかに向かっていく。俺は声をかけようと思ったが、先日の気まずさから躊躇ってしまい——何故か尾行することにした。
アリアが向かった先は、新宿警察署だった。
こんなところに何か用があるのだろうか……と考えていると——
「……
ビクッと俺の体が反応した。
アリアのやつ気がついていたのか……
「気がついていたんなら、教えてくれたっていいだろ?」
「迷ってたのよ……あんたも『武偵殺し』の被害者だし」
……どういうことだ? さっぱりわからない。
「いいから、あんたも来なさい」
そう言ってアリアが警察署内に入っていく。
「あ、おい! 待て!」
俺もすぐに後を追いかけた。
警察署内では本当に驚きの連続だった。
警察署の中で俺たちは面会をした。面会の相手は若い女性。どこかアリアと同じ雰囲気をしていたのでお姉さんか、と思っていたら——
「あら? この方は、アリアのボーイフレンド?」
「ちっ、違うわよ『ママ』」
ま——ママっ!? 母親っていう感じの歳には全然見えないんだが!?
その女性の名前は『神崎かなえ』と言っていた。
かなえさんはおおらかで優しそうな人だった。
だから、この人が懲役864年もあると聞いたときにはかなり驚いた。とてもじゃないがそんな凶悪犯には見えない。
そして、やはりかなえさんはスケープゴートにされたらしく、『武偵殺し』の罪も被せられたと言っていた。
アリアがバスジャック事件の時に言っていた、『今捕まっている「武偵殺し」は真犯人じゃない』という意味を理解した。
だからアリアは『武偵殺し』を追っていたのか……かなえさんの冤罪を晴らすために。
しかし、その冤罪を晴らしてもまだ懲役742年もあるということらしい。
かなえさんに罪を被せている連中の名は「イ・ウー」と言っていた。聞いたこともない組織だったが、俺にはなぜかその組織と自分が関わっていくのではないかと無意識に感じていた。
面会時間は5分と短く、あっという間だった。
時間を告げる管理人。アリアはまだかなえさんと別れたくないのか、二人を分かつアクリル板越しに必死に声をかける。かなえさんもそんなアリアに応えたいのか、アリアに手を伸ばすが管理人がかなえさんを羽交い締めにして面会室から出そうとする。
これが今のアリアとかなえさんの距離だった。どんなに手を伸ばそうと絶対に手が届かない。アリアとかなえさんの間にあるアクリル板は二人が抱き合うことも許さない。
そんな二人を見て、俺は——————
新宿警察署出た時、空から通り雨が降っていた。その雨はアリアとかなえさんの二人の悲しみを表しているようで…………。
アリアの方を見ると彼女は顔を伏せたまま肩を震わせていた。きっと彼女は、
「……泣いてなんかない」
……嘘だ。顔は見えないけど彼女が泣いてることはわかる。彼女の足元に流れ落ちている水は、決して雨粒なんかじゃない。
「おい…アリア……」
俺は彼女の正面に回り込む。
たが、そこから何をすればいいのかわからなかった。
「泣いて……なんか……」
もうムリなんかしなくていいんだ……と、声をかけられたらどれだけ気が楽か。でも絶対に言えない。
アリアのことを知っていたら絶対にそんなこと言えない。
「…ない……わぁ……うぁああああああぁあああああぁ!」
アリアが糸が切れたように、泣き叫ぶ。
その姿は子どものようで——Sランクの武偵として活躍している姿には到底見えなくて。
「うあぁああああああああ……ママぁー……ママぁあああぁ……!」
——恨むぞ、ソラ。
俺は『親友』の姿を思い浮かべた。アイツは今頃、穏やかに笑っていることだろう。
『今からでもいいからアリアのこと知ってみろよ。そしたら、きっとアイツのこと嫌いじゃなくなって、お前の心のもやもやも取れるかもよ?』
——クソッ! 嫌いになんてなれるはずないだろうがッ!
ソラは絶対に俺がこうなると分かって言ったんだ。勘だが間違いない。アイツは時折、全てを見透かしたように言うときがある。
今思えば、バスジャック事件の時にアリアが言っていた、『武偵殺し』の真犯人が捕まってないことについて何も言わなかったのは、
——クソッ!
俺は再度、悪態をつく。
ソラの野郎ぉ……! 絶対後でぶん殴ってやるからな!
だからっ! 今はアリアの方が大事だ!
俺は泣いているアリアの肩に手を置く。
「アリアっ!」
アリアはビクッと肩を震わせたが、すぐに俺をキッと睨め付ける。
そうだ。それでいいんだアリア。
「なによっ! バカキンジっ!」
涙を流しながらもアリアは気丈に振る舞う。
その姿は、小さい仔ライオンのように見えて微笑ましく、つい笑ってしまった。
「——何笑ってんのよ!? サイッテー!」
「イタッ!?」
ガンッと俺の足を踏んづけるアリア。
お、お前……今スニーカーじゃなくてハイヒールだろうが……!?
ただし、笑った俺も悪いので素直に謝った。アリアはフンッとそっぽを向くが……まぁ許してくれたということなのだろう。
——だから真面目な話をしよう。
「アリア」
俺は再度、呼びかける。
「あーもぉー! だから何よっ!?」
いい加減、アリアもめんどくさくなったのか憤慨する。
悪いなアリア。俺もまだ覚悟が決まってないんだ。
——でもお前と共に
「俺をもう一度
*
という感じで今、ここ—— 『ANA600便・ボーイング737-350、ロンドン・ヒールロー空港行き』に至るってわけだ。
——まだよくわからんか?
といっても後は、アリアと話した翌日に理子から『可能性事件』というものを聞いて、何故か理子に押し倒された俺が『ヒステリアモード』になり、今までの記憶から推理してここに来ただけなんだがな。
俺は飛行機の中に乗り込んで小柄なフライトアテンダントに武偵憲章を見せつける。
「——武偵だ! 離陸を中止しろっ!」
突然のことにアテンダントは目を丸くしていた。
「お、お客様!? 失礼ですが、ど、どういう」
「説明しているヒマはない! とにかく、この飛行機を止めるんだ!」
アテンダントはビビりまくった顔でこくこくと頷いて二階へ駆けていった。
ふぅ……と息を吐く。正直限界だった。走ってここまでやって来たが、強襲科を辞めて体力の低下が災いして、もう一歩も動けない感じだ。
だが、これで離陸は止められた——ハズだった。
止まったはずの機体が揺れる。まさか……動いているのか……!?
二階から先ほどのアテンダントが降りてくる。
「あ、あの……ダメでしたぁ!」
俺は強く舌打ちをする。アテンダントは、ひうっ、と小さく悲鳴を上げるが知ったことではない。飛行機が止めれないのは何となくだが予想していたことだ。
そして、これは俺の勘なのだが——アイツは今ここに、
「——おーう、キンジじゃねえか。こんなとこで奇遇だな?」
こっちに向かって手を振ってくる
やっぱりいたか——っ! クソ野郎!
「『奇遇だな?』じゃねえよ!? ソラ!」
俺はクソバカ変態のソラに向かって怒鳴る。
「おいおい何怒ってんだよ。もしかして、アリアに振られたか?」
「振られるとかそんな関係じゃねえよバカ!」
「ははは、すまんすまん」
クソっ! やっぱりこいつは全部わかってる。
俺とアリアのことも。『武偵殺し』のことも。そして、これからここで何が起きるのかということも。
だからソラはここにいる、ということなのだろう。本当に憎い奴だ。
ソラはニヤけた表情をやめてこっちを見る。
「キンジ」
「……んだよ」
お前はいつものように
「いい表情するようになったな。さすが俺の『親友』だ」
「——ッ!」
ああっ、もうっ最悪だよ、これでもうソラを怒れなくなったじゃないか!
俺ってやつはなんでこうも単純なんだよ……!?
『親友』に『親友』と呼ばれただけでこんなに嬉しく思いやがって……!
「後で絶対、事情を説明しろよっ! 『親友』っ!」
「おう。全部終わったらな」
——当たり前だ! 全部終わらせていつもの『バカな日常』に帰ってやる!