ありふれた錬成師と神に愛された病弱で世界最強   作:ガンダムファフニール

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前回の感想で「この小説の異端審問会のルールについて」を聞かれたのでルールを返信したのですが、今回の前書きにも載せときます。


この『ありふれた錬成師と神に愛された病弱で世界最強』(略して錬病)の異端審問会はバカテスのより厳しくありません。ルールとしては、

・会員に恋人が出来たらできるだけ邪魔するのではなく、応援すること(邪魔してはいけないとは言ってない)
・恋人同士ではないのに色んな一線を越えてはならない(未遂でも重罪)
・二大女神に手を出してはいけない(出されたら負け)
・人前でいちゃついてる奴がいたら男を潰せ
・女の敵は男の敵(逆はない)
・夜中に女子と部屋で二人きりにならない
・抜け駆けした奴を目撃したら報告すること
・その日の気分によって刑罰が変わる
・恋人は自分で作れ
・上記の項目以外にも多くのルールがあるが、創設者の零人に言えば更にルールが増える

という感じです。判決は無罪か死刑の二択だけです。



どうですか?それでは本編をどうぞ!


オルクス大迷宮にレッツゴー!……え、トラップ?マジで?

 ハジメが処刑(笑)されてから二、三時間程経ち、今は【オルクス大迷宮】の中にいる。

 

 迷宮の中は、外の賑やかさとは無縁だった。聞こえるのは自身の鼓動と呼吸、そして地面を蹴る足音だけだ。

 縦横五メートル以上ある通路は明かりもないのに薄ぼんやり発光しており、松明や明かりの魔法具が無くてもある程度視認が可能なレベル。緑光石という特殊な鉱物が多く埋まっているらしく、【オルクス大迷宮】はこの巨大な緑光石の鉱脈を掘って出来ているらしい。

 隊列を組みながらしばらく進むとドーム状の天井まで七、八メートル位ある大きな広場に出た。と、その時、物珍しげに辺りを見渡している一行の前に、壁の隙間という隙間から灰色の毛玉が湧き出てきた。

 

「よし、光輝達が前に出ろ。他は下がって援護だ!交代で前に出てもらうからな、準備しておけ!あれはラットマンという魔物だ。すばしっこいが、たいした敵じゃない、冷静に行け!」

 

 灰色の体毛に赤黒い目が不気味に光る。ラットマンという名称に相応しく外見はネズミだが、二足歩行で上半身がムキムキだった。八つに割れた腹筋と膨れ上がった胸筋の部分だけ毛がなく、まるで見せびらかしてるように見える。

 正面に立つ光輝達――特に前衛で女の子の雫が頬を引きつっている。やはり気持ち悪いらしい。可愛いもの好きの雫にとって耐え難いものだろう。

 間合いに入ったラットマンを光輝、龍太郎、雫の三人で迎撃し、その間に香織と恵里と鈴が攻撃魔法の準備をする。そして、その後ろで零人が天職である《奏者》の技能〝楽器生成〟と〝演奏〟を行い、前衛と後衛のサポートをする。これが堅実なフォーメーションだ。

 

(さて、なにを歌おう……LiSAさんの『Rising Hope』にしとくか)

 

 最近だと鬼滅の刃の『紅蓮華』や『炎』が人気だが、やっぱり魔法科高校の劣等生の『Rising Hope』派だ。だって、言っちゃ悪いけど『紅蓮華』とかよりカッコいいじゃん!それにこの曲は味方全員の速度・筋力・攻撃魔法を高めてくれるから使い勝手がいい。

 

「〝静寂の領域〟!〝楽器生成〟!」

 

 まず、〝静寂の領域〟の結界を展開して音で魔物が寄ってこないように音漏れを防止し、ギターやベース、ドラムなど必要な楽器を生成させ、マイクを手に持ち、準備を終わらせる。

 

「さぁ、俺達の戦闘(ライブ)を始めようか。『Rising Hope』」

 

 曲名を言うと、独りでに先程生成した楽器が調律し始める。〝楽器生成〟の派生技能である〝自動演奏〟のお陰である。すると調律し終わり、前奏を演奏し始めた。

 

握ったメッセージ that`s rising hope

 

Hey,welcome to ruthless reality

Can you be sane stand by?

 

「「「「「「「Here we go!」」」」」」」

 

 

ウェイ!?ナンデヴィナボルダッデンド!?

(訳:なんで皆も歌ってんの!?)

 

 俺がさっき戦闘(ライブ)と言ったからか?後ろの奴等がライブ感覚になっている。ペンライトみたいなのを振っているのは気のせいだろう。

ちなみに、喋るときは曲を止めるしかない。なので、そんな思いを心に仕舞っとき、演奏を続ける。

 

揺るがない世界 非常な現状 続く壁は何十層?

 

 一番を歌い始めると結界内にいる全員に俺の魔力の色である紅色のオーラが付与され始めた。すると、光輝の持つ〝聖剣〟と呼ばれるバスターソード型のアーティファクトが純白に輝き、神速とも言えそうな速度で鞘から引き抜き数体まとめて葬る。

 聖剣には光属性の性質が付与されており、光源に入る敵を弱体化させると同時に自身の身体能力を自動で強化してくれるという実に嫌らしい性能を誇る。また、零人の〝演奏〟で更に強化されていて本来ならギリギリ視認できるかわからないレベルなのに最早、音速を超えて光速もしくは神速レベルだ。

 あとは光輝の努力の結果だ。元々、剣道を習っていたから刀系の剣を得意とする光輝が片手直剣より大きく重いバスターソードを振るうために毎日夜遅くまで練習し、プロ顔負けまでの腕前になった。その成果が今発揮されている。

 

イメージ通りなんかじゃない 静かに騒ぎだした本能

 

 龍太郎は、空手部所属で天職が〝拳士〟と戦闘スタイルが非常に噛み合っている。そのため、使っているのは衝撃波を出すことができ、破壊不可能の籠手と肘当てのアーティファクトを装備している。龍太郎は魔物とタイマンを張り、まるで猪のように突進しつつ、見事な体捌きで攻撃を避け、拳撃や脚撃で魔物を一撃で葬っている。

 次の異端者には龍太郎のタイキックにしてもらおうかな?(←心の中でゲス顔中)

 

迷路みたい 生き止まりなんだ

もう思考はディストーション

 

 雫は、サムライガールらしく〝剣士〟の天職で刀とシャムシールの中間のような剣を抜刀術の要領で抜き放ち、敵を切り裂いていく。その動きは洗練されていて、騎士団員をも感覚させるほどだ。何故か光輝の聖剣みたいな身体強化がされていないにも関わらず、光輝の抜刀よりも速いのは不思議だ。

 

容赦ないね いつの間に

見失ったルート、暴れだす

 

 サビ前のテンションが一気に上がる直前で詠唱が響き渡った。

 

「「「暗き炎渦巻いて、敵を焼き払わん、灰となりて大地へ帰れ――〝螺炎〟」」」

 

「「「「「「「Pay attention!」」」」」」」

 

 三人同時に発動した螺旋状に渦巻く炎がラットマン達を焼き尽くす。「キィイイッ」という断末魔の悲鳴を上げながらパラパラと灰になった。気がつけば、広間のラットマンは全滅し、他の生徒の出番がなくなった。そのため、演奏を中断し、水分補給兼魔力回復用のポーションを飲む。一応、技能に〝高速魔力回復〟があるがほとんど意味がない。〝病弱〈B〉〟の性で効果が全く発揮されない。香織のが100だとしたら、俺のは10あるかないかレベルだ。

 

「ああ~、うん、よくやったぞ!次はお前等にもやってもらうからな、気を緩めるなよ!」

 

 生徒の優秀さに苦笑いしながら気を抜かないように注意するメルド団長。

 

「それとな……今回は訓練だからいいが、魔石の回収も念頭に置いとけよ。明らかにオーバーキルだからな?」

 

 メルド団長の言葉に香織達魔法支援組は、やりすぎを自覚して思わず頬を赤らめるのだった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 そこからは特に問題なく交代しながら戦闘を繰り返し、順調に階層を下げていった。ちなみに、その間は歌ってない。理由は俺が歌うとオーバーキル並みに強くなり、本当の力量がわからなくなるからと言われたため後方で待機している。

 しばらくすると、俺とハジメの番になった。

 

「次は零人とハジメだ。無理だけはするなよ?」

「「わかってます」」

 

 土竜(もぐら)のような姿をした魔物五体程を目の前に一歩、前に出る。ハジメの装備は少し大きめのコート、ベルト部分に五本程の試験管と短剣が一本、皮製のウエストポーチ、魔法陣が書かれた手袋をしている。零人の装備はハジメのとは違うデザインのコートを羽織り、両腕には仮面ライダーオーズのトラクローのような武器一体型籠手を付け、短剣を二本ずつ両腰に取り付けている。

 

「ハジメ、いけるか?」

「もちろん、練習通りにやれば問題ないでしょ」

「だな。じゃ、始めようか!〝静寂の領域〟!〝楽器生成〟!」

 

 結界を生成させ、後方に楽器を作り出し、右耳に初音ミク達が使っているようなマイク付きイヤホンを装着する。装着した瞬間、さっき中断した『Rising Hope』のサビ前の少し前から演奏し始めた。

 

「「「「「「「Pay attention!」」」」」」」

Hey,what is it?

 

 全速力で魔物に近づき短剣を抜く。

 

「「「「「「「Watch your step now!」」」」」」」

常識なんか要らない

 

 すかさず、ハジメが地面に手を付き錬成を行い魔物達の動きを封じるように足を地面に埋める。

 

「「「「「「「Are you serious?」」」」」」」

No,no,no,don't worry,1,2,3

吹き返す 心臓のリズム

 

 一体目の魔物の首の頸動脈を切り刻み絶命させる。魔石を残して灰になるとハジメが短剣を抜き放ってもう一体の魔物に向かって走り出す。それを見届けて二体目の魔物に向かう。

 

視界が眩んでる それでも行かなくちゃ

キミが信じてる僕を裏切るわけにはいかない

強くクラクションが鳴る

 

 二体目の心臓に短剣を突き刺して、短剣をそのままにしてその場を離れ、三体目の眼に向けてまだ腰にある短剣を投げつける。その間にハジメは魔物を殺し、標的を残った最後の一匹に変える。

 

孤独のまま時が経ったって 逃げる事覚えたって

新しい今日が来ちゃうけど

「「「「「「「I believe in anymore」」」」」」」

 

投げた短剣が突き刺さり、悲鳴を上げる。その間に近づき、籠手の爪を180度回転させて展開する。ハジメがまた地面に手を付き錬成を始めた。

 

この願い例え魔法が無くたって

叶えなきゃ、誓った

僕はキミと まだ見たい未来 あるんだよ

「「「「「「「I sing my hope」」」」」」」

 

 俺が最後の一匹にたどり着くまでにハジメは錬成を終わらせ、地面を槍のような剣山を作り出し串刺しにして持っていた短剣で止めをさした。

 

泣きそうでも

悔しくても止まっていられない

握ったメッセージ that's rising hope

 

 腕を胸の前でクロスし、最後の一匹を切り裂く。演奏が終わると同時に灰になって魔石を落とした。魔物の気配がしなくなったのを確認して短剣を納めていた鞘に魔力を通す。すると糸で引っ張られたかのように魔物の死体から抜かれ鞘に入る。短剣と鞘は二つで一つのアーティファクトであり、どちらかに魔力を通せばもう片方が戻ってくる性質を持つ。だから無くしても問題ない。いや、宝物庫から借りた国宝だから無くしたら大問題になるけど。

 

「よくやった二人とも!だが、少し張り切りすぎだ。見てるこっちがヒヤヒヤしたぞ」

「すみません……」

「今日は体の調子が良かったもんでつい……、次は気をつけます」

 

 メルド団長から注意を受け後方に下がって魔力回復ポーションを飲む。一応、薬だからあまりいい味がしない。例えるとしたら皆だと薄めの珈琲にレモン汁を入れたよく分からない味だ。しかし、俺だと普通のより少しだけ濃い珈琲にグレープフルーツの汁が入った凄く苦い味になってる。おかげで更に珈琲が嫌いになったよ。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 オルクス大迷宮での初戦闘(実質二回目)からしばらく経ち、本日の訓練の最終到達階層である二十階層にたどり着いた。二十階層の一番奥の部屋はまるで鍾乳洞のように氷柱状の壁が飛び出していたり、溶けたりしたような複雑な地形をしていた。この先には下に降りる階段があるらしい。

 階段まで行けば今日の訓練は終わるが、神代の転移魔法のような便利なものがないため、また地道に地上まで戻らなくてはいけない。ぶっちゃけ四十階層分歩かされるのだ。

 すると、先頭を歩いていた光輝達やメルド団長達が立ち止まった。どうやら魔物がいるらしく戦闘態勢に入る。

 

「擬態しているぞ!周りをよ~く注意しておけ!」

 

 メルド団長の忠告が飛ぶ。

 その直後、前方の壁が変色しながら二本足で立ち上がりドラミングを始めた。カメレオンのような擬態能力を兼ね備えた褐色のゴリラの魔物だ。

 

「ロックマウントだ!二本の腕に注意しろ、豪腕だぞ!」

 

 飛びかかってきたロックマウントを光輝達が相手にし、ロックマウントの豪腕を龍太郎が拳で弾き返す。光輝と雫が取り囲もうとするが、鍾乳洞なので足場が少し濡れて柔らかいため思うように囲むことができない。

 龍太郎の人壁を抜けられないと感じたのか、ロックマウントは後ろに下がり仰向けになり息を大きく吸った。

 直後、

 

「グゥガガガァァァァアアアアーーーー!」

 

 部屋全体を振動させるような強烈な咆哮(ハウル)が発せられた。

 

「ぐっ!?」

「うわっ!?」

「きゃあ!?」

 

 体をビリビリと衝撃が走り、ダメージはないものの硬直してしまう。ロックマウントの固有魔法〝威圧の咆哮〟だ。魔力を乗せた咆哮で一時的に相手を麻痺させる。

 まんまと食らってしまった光輝達前衛組が一瞬硬直してしまった。

 ロックマウントはその隙を見逃さず、傍らにあった岩を持ち上げ、見事な砲丸投げで香織達後衛組に向かって投げつけてきた。その岩が先程ロックマウントが擬態していた壁の模様に似ていて、嫌な予感がしたため急いで香織達の元へ向かう。

 香織達が準備していた魔法で迎撃しようとしたが衝撃的な光景に思わず硬直してしまう。

 投げられた岩が変色しロックマウントに変化した。空中で見事な一回転を決めると両腕をいっぱいに広げて香織達へと迫る。その姿はまるでルパンダイブで「か・お・り・ちゃ~ん!」と聞こえてきたのは気のせいだと思いたい。しかも目が血走って鼻息が荒い。貴様、発情期か!?そうなんだな!香織も恵里も鈴も「ヒィ!」と思わず悲鳴を上げて魔法を中断してしまった。

 

「ちぃっ!〝換装〟ブリッツガンダム!」

 

 技能〝機兵召喚〟の派生技能〝部分展開〟を使い、左腕をブリッツガンダムの装甲を装備させる。そのまま左腕を引き、ブリッツガンダムの装備であるピアサーロック『グレイプニール』を突き飛ばすように腕を飛んできたロックマウントに向けて、突き放す。スラスター付きであるため、一気にロックマウントに真っ直ぐ飛んでいき、先端が展開してクローになって、そのままロックマウントを拘束し、天井に縫い付ける。

 

「メルド団長!」

「すまない零人!お前達、戦闘中に何やってる!」

 

 メルド団長が拘束しているグレイプニールに当てないようにロックマウントが切り捨てる。

 香織達は「す、すみません!」と謝るものの相当気持ち悪かったらしく、まだ顔色が青ざめていた。

 そんな様子を見て、正義感が強い光輝がキレ始めた。

 

「貴様……よくも香織達を……許さない!万翔羽ばたき、天へと至れ――〝天翔閃〟!」

「あっ、こら、馬鹿者!」

「「「誰かあの馬鹿を止めろぉぉぉお!」」」

 

 メルド団長の声を無視して、光輝は大上段に振りかぶった聖剣を一気に振り下ろす。その瞬間、詠唱で強烈な光を纏っていた聖剣から、光の斬撃が放たれた。曲線を描く極太の輝く斬撃がロックマウントを一刀両断し、奥の部屋の壁まで巻き込んで破壊しようやく止まった。

 パラパラと壁から破片が落ちてくる。「ふぅ~」と息を吐き、イケメンスマイルでこっちを見てきてサムズアップしてきた。そんな笑顔を無視し、

 

「「何してくれとんじゃ、ワレぇぇぇえぇ!!!」」

「グフカスタム!?」

 

 俺は右、龍太郎が左腕で光輝にラリアットを食らわせる。俺のはともかく、光輝以上の筋力と筋肉がある龍太郎の攻撃をまともに食らって五メートル程吹っ飛ぶ。

 

「ねぇ?なんであんな大技出したの?ここ洞窟なの知ってるよね? 広範囲攻撃したら崩れるに決まってんじゃん。いつもの冷静な光輝クンは何処に行ったのかな?俺達を生き埋めにしたいの?そんなに心中したかったの?ねぇ、なんで黙ったままなのかな?ねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇネェネェネェネェネェネェネェネェネェネェネェ」

 

「本当に申し訳ございませんでした!」

 

 ジャンピングスライディング土下座だとぉ!?え?何その土下座だと?その名の通り、ジャンプして着地寸前で土下座をし、その勢いでスライディングする土下座だ。あまりにも高度な技なのでトリプルアクセル土下座に並ぶほどの難しさだ。貴様、いつ習得した。

 

「その土下座に免じて、今回は見逃すが次は相手だけを仕留める技にしとけ」

「はい……」

 

 俺のヤンデレ風お仕置きにバツが悪そうに落ち込む光輝。香織達が寄ってきて苦笑いしながら慰める。

 

「それとな……」

「?」

「意外とヤンデレバージョンの説教、結構ハマりそう」

「いや、ハマっちゃ駄目だろ(ヾノ・∀・`)」

「駄目かー(´・ω・`)」

 

 その時、ふと香織が崩れた壁の方に視線を向けた。

 

「…………あれ、何かな?キラキラしてる……」

 

 その言葉に、全員が香織の指差す方へ目を向けた。

 そこには青白く発光する鉱物が花咲ように壁に生えていた。まるでダイヤモンドの中にブルートルマリン(インディコライト)やオパールが内包されたようなものである。

 

(確かあれは……)

 

「グランツ鉱石?」

「ほぉ~、よく知ってるな零人。零人の言うとおり、あれはグランツ鉱石だ。大きさも中々だし、この階層だと珍しい」

 

 前に加工されたやつは見たが、原石は始めて見るが中々の上物みたいだ。

 

「グランツ鉱石は、その涼やかで煌びやかな輝きが貴族のご婦人ご令嬢方に大人気で、加工して指輪やイヤリング、ペンダントなどにして贈ると喜ばれるぞ!求婚の際に選ばれる宝石としてもトップ三に入るぞ。もし、このトータスでお相手がいたらプレゼントしたら絶対喜ばれるぞ!」

 

(……………………………………………………………ゑ?)

 

 ……今、なんと?

 求婚と言ったか?つまり、プロポーズだよな。俺達の世界でいうダイヤモンドみたいなものだよな?…………………………………………………………ちょっと待て、俺、一昨日二人に何を渡した?確か、グランツ鉱石だったはず。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やっちまったぁぁぁあぁ!?!?!?!?

 やっちまったよ!一番やっちゃいけないことしちゃったよ!何無意識に求婚申し込んでるんだよ俺!?あの時言ってた「お返事」ってプロポーズのお返事ってことかよ!?まずいまずいまずい、このままじゃ王様に殺される。例え神の使徒で勇者一行だとしても平民である俺が娘であるリリィにプロポーズしたってことがバレたら処刑されちゃう。しかもヘリーナにもプレゼントしたから二股だろ!?絶対に殺される!

 

(……いや、待て。もしかしたらトータスだと指輪を填める場所が違うかもしれない。そうであってほしい)←ヤケクソ

 

 そう思い、近くにいるホセ副団長に心を落ち着かせて近づく。

 香織がメルド団長の説明を聞いて頬を染めながらハジメをチラチラ見ている。ハジメはそれに気づいてないが。後で助言でもしてやろう。

 

「あのホセさん、グランツ鉱石ってそんなに求婚に使われるんですか?」

「そうですよ。確か去年だと一番求婚に使われた宝石だと聞いています」

「そんなにっすか?俺達の世界のダイヤモンドみたいだな」

「ダイヤモンド?」

 

「だったら俺らで回収しようぜ!」

「大介ぇ、恋人いねぇのに回収すんのかよw」

「うるせぇ!今後出来たときのために今のうちに回収するためじゃねえか!」

「お前に出来んのかw」

「一度も告ったことない奴に言われたくねえ!」

「んだとゴルァア!やんのかてめぇ!」

「上等だこのやろう!」

「こら、勝手なことをするな!安全確認がまだだぞ!」

 

「ええ、凄く透明でプロポーズする際に一番使われる宝石ですよ。いろんな種類があって、中には一センチも満たない五ミリ程の大きさで数億~数十億もするやつがあります」

「そんなにですか!?……私の給料、何年分だろ」

 

 その数億以上するやつはレッドダイヤモンドといわれ、オーストラリアでしか採掘できず、世界に三十個程しかないと言われている。

 他にも、ブルーダイヤモンドといわれるやつもあるがこれも希少で世界最大級のブルーダイヤが63億円で落札されている。

 

「まあ、それは超希少なダイヤモンドの話ですけどね。普通のなら十万程度で買えますよ」

「それでも結構高いですね」

「プロポーズするなら給料3ヶ月分の指輪を買わないといけませんから安いほうですよ」

「へー、そっちだとそんな風習があるんですね」

「はい、プロポーズする際は左薬指に填めるんですけどトータスだとどうなんですか?」

 

 ここからが本番だ。違っててくれ!

 

こっちも左薬指ですよ、そこは同じなんですね」

 

 

 

 

 …………………………終わった。俺の人生終了のお知らせです。

 ガブリエルさーん、お迎えお願いしまーす。あっ、異世界だから来れないか!アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!……………いや、笑えねぇな。なぜだろう、王様がこの世界にないはずのチェーンソーを持って追いかけてくるのが脳裏に浮かぶ。

 

「だ、大丈夫ですか?凄い汗ですよ?」

「だ、だい、大丈夫です。ちょっといやな感じがしただけですので」

 

 グランツ鉱石の方を見てみると大介が回収するために壁をよじ登っている。それを止めようとメルド団長が追いかけている。同時に騎士の一人であるアランさんがフェアスコープで鉱石の周りを観察する。そして、一気に青ざめた。

 

「団長!トラップです!」

「つ!?大介、それから離れろ!」

「あっぶねぇ!?もう少しで触るとこだったぜ……」

 

 なんとか間一髪間に合ったようだ。メルド団長が大介に近づき、容赦ない拳で大介の頭に拳骨を喰らわす。ゴンッと人から出てはいけない音が部屋中に響き渡り、壁や天井からパラパラと破片が降ってきた。

 

「ドム!?」

「勝手な行動するな!もう少しで取り返しがつかなくなったところだぞ!」

「す、すんません……」

 

 大介に渇を入れるメルド団長。怒鳴り声も部屋全体に響き渡り、また破片が降ってくる。凄く嫌な予感がする。

 

 その予感が当たり、先程の拳骨と怒鳴り声のせいで壁が振動し、壁が脆くなってグランツ鉱石が落ちてきた。落ちてきたグランツ鉱石をメルド団長が受け止めた。………………受け止めた?ウケトメタ!?

 

「「「「「「「…………………」」」」」」」

 

 しばらくの沈黙が続き、口を開こうとした瞬間、グランツ鉱石に魔方陣が刻まれ始めた。魔方陣が部屋全体に広がり、輝きが増していった。まるで召喚されたときのように。

 

「撤退するぞ!早くこの部屋から出ろ!」

「「「「「「何してくれとんじゃ、あんたぁぁぁ!?!?」」」」」」

 

 あまりにもの出来事にホセさん達騎士団員まで叫んだ。

 

「ホントに何してくれてんのあんた!?ホント何してくれてんの!?」

「生きて帰ったら絶対殴ってやる!」

「あんたそれでも団長か!?」

「すまん!後で好きなだけ殴っていいから早く逃げるぞ!」

「「「「「「「その言葉、絶対忘れんなよ!」」」」」」」

 

 急いで部屋の外に向かうが…………間に合わなかった。

 

 

 

 

 部屋中に光が満ち、零人達の視界を白一色に染めると同時に浮遊感に包まれる。空気が変わったのを感じ、次いでドスンという音と共に地面に叩きつけられた。ほとんどのクラスメイトが尻餅をつき呻き声を上げている。しかし、メルド団長や騎士団員達、零人達など一部の前衛職持ちは受け身をとり、既に立ち上がって周囲を警戒している。さすがに二回目だから慣れたものだ。

 零人達が転移した場所は、巨大な石造りの橋の上だった。壁までざっと百メートルあり、天井は二十メートルあるだろう。橋の下には川は見えないが耳を澄ますと水が流れる音がする。

 横幅は十メートルくらいありそうだが、手すりがなく小さい縁石しかないため、足を滑らしたら奈落に真っ逆さまだ。零人達はその橋の中央にいた。橋の両サイドにはそれぞれ、奥へ進む通路と上に向かう階段があった。

 

「お前達、直ぐに立ち上がって、あの階段まで行け。早く!」

 

 雷の如く轟いた号令に、素早く動き出す生徒達。

 しかし、迷宮のトラップがこの程度で済むわけもなく、撤退は叶わなかった。階段側の橋の入口に現れた魔方陣から大量の魔物が現れたからだ。更に通路側にも魔方陣が出現し、それから一体の巨大な魔物が現れた。

 その時、現れた巨大な魔物を呆然と見つめるメルド団長の呻くような呟きがやけに明瞭に響いた。

 

 

――まさか…ベヒモス……なのか……。

 




どうですか?今回も長くなってしまいましたが、出来栄えはいかがでしょう?
次の話は完成しだい、投稿します。
感想や質問などがありましたらどんどん聞いてください!







あと、個人的なお願いなんですが、どなたか主人公の絵を描いてくださる方はいませんか?
昔からロボットや風景などは結構描けるんですが、どうしても人物だけが上手く描けないんです。なので誰か描いてくださる方お願いします。

この『ありふれた錬成師と神に愛された病弱で世界最強』の略はなに?

  • 錬病
  • あり神
  • あり病
  • 錬神
  • その他

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