ついに訪れた地区予選決勝当日。俺たちは帝国学園に来ていた。さすがは偏差値は70を優に越し、部活動でも全国一を総なめにしている学校だ。規模が違う。まるで軍事要塞みたいだ。
「気をつけろ!バスに細工をしてきたような奴らだ!落とし穴があるかもしれない!壁が迫ってくるかもしれない!」
帝国学園は忍者屋敷か何かか?
響木監督の声に釣られて栗松たちが仕掛けを探し出す。周りの帝国生の目を見てくれ、めちゃくちゃ恥ずかしい。
「監督が生徒をからかうなんて……」
「た、多分監督なりに緊張を解そうとしてるんじゃないかしら」
まあ、十中八九そうだろう。俺と豪炎寺以外は緊張しているのが表情からすぐわかる。あのいつもは冷静沈着で並大抵のことでは表情を変えない影野ですらそんな感じだ。
響木監督の言ったようなことは当然なく何事もないままロッカールームへ。俺が扉を開けようとした瞬間、ちょうど鬼道がロッカールームから出てきた。
「無事に着いたようだな」
「何だと!?まるで事故にでもあったほうが良いような言い方じゃねぇか!まさかロッカールームに何か仕掛けたんじゃねぇだろうな!」
「安心しろ、何もない」
「待て、何やっていたのか白状しろ!」
染岡が噛み付くが鬼道はそれを気にせず去っていく。大方、何か仕掛けられてないか確認していたのだろう。
鬼道、いや、帝国イレブンにとってそのような卑劣な行為は嫌悪の対象である。その王冠が影山の工作によって塗り固められてできていたとしても、彼らは王者帝国だ。その称号に見合う研鑽と実力を確かに築いてきた。彼らにはそのプライドが存在する。
それに仕掛ける側なら今日じゃなくていい。昨日までに仕掛けておけばいいのだから。
「とりあえず入るか」
「おい、円堂!何が仕掛けられてるか分からないぞ!」
「別に何もないだろ」
俺と豪炎寺、土門は気にせずロッカールームに入りユニフォームに着替え始めるが、染岡たちはまだ疑ってるのか調べ始める。当然何もでてこなかった。
試合前にトイレを済ませた俺は、フィールドに戻る最中の廊下でとある男に遭遇した。
「君は雷門中サッカー部キャプテン、円堂守くんだね」
俺の二倍近くはあるんじゃないかという程の長身でありサングラスで目線を隠したその男は俺の方に近付いてくる。
「私は帝国学園サッカー部監督、影山零治。君に少し話があってね、鬼道のことについてだ」
その声に少しも善意はなかった。
そこから影山の口から語られたのは鬼道と音無の関係についてだ。二人が実の兄妹であること。幼い頃に事故で両親を亡くし、その後施設に預けられ鬼道が6歳、音無が5歳の頃に別々の家に引きとられたため名字が違うこと。
「鬼道は音無春奈と暮らすため養父ととある約束を交わした。それは、中学3年間フットボールフロンティアで優勝し続けるというものだ。鬼道は勝ち続けなければ妹を引き取ることが出来ないのだ。地区大会レベルで負けたとなれば、鬼道は家から追い出されるかもな」
「それで?」
「……?理解できないかね、雷門が勝てば鬼道兄妹は破滅するということだ」
「違うだろ、言いたいのは」
鬼道と音無のことを長々と話したのは俺の不調を誘うためのものだ。結局のところ言いたいのは鬼道たちのことじゃなくて、勝ったらどんな酷いことになるかわかってるよなという脅しに過ぎない。
「それに鬼道と音無を舐めすぎだ」
「何が言いたい?」
「言った通りだよ。それくらいであの二人はどうこうなるほど弱くない。本気でそう考えてるなら鬼道と音無に対するただの侮辱だぞ」
確かに今はあの二人の関係性は少し拗れているが、あれは結局コミュニケーション不足だ。
「ほう、君には鬼道たちの苦しみが理解できるとでも」
「そんなことは言ってない。俺が鬼道たちの苦しみを本当の意味で理解することはできない」
小学生の頃、鬼道たちと同じような境遇の人たちと遊んだことはあったが彼らの絶望や苦しみを終ぞ理解することはできなかった。当たり前だ、父さんがいて母さんがいる家庭の俺がそのようなことをできるはずがない。
「それでも鬼道と音無が前向いてめちゃくちゃ頑張ってきたすげぇ奴だってのは分かる」
それは並大抵なことではない。俺がその立場だったらどうなってたかわからない。
「だから、帝国学園の監督のあなただとしても鬼道たちを侮辱するのは俺が許さない」
「……ほう」
そのまま無言で睨み合う。そのような重苦しい雰囲気を壊したのは意外な声だった。
「キャプテン、ここにいたんですね!」
「音無か、どうした」
「戻ってくるのが遅いので呼びにきました。もうみんな待ちくたびれてますよ」
「わかった、すぐ行く!じゃあ、これで」
「フン、時間を取らせて悪かったな。精々頑張りたまえ」
影山と思っていたより長い時間話していたようだ。音無と共に走りながらグランドに向かう。
「……キャプテン、ありがとうございます」
「何のことだ?」
「フフッ、なんでもないですよ。さ、行きましょう!」
「あ、おい、ちょっと待て!なんで急にスピードを上げるんだよ!?」
「ほらはやくはやく!急ぎますよ!」
速度を上げ始めた音無に置いてかれないよう俺もスピードを上げる。心なしか音無の足取りがいつもより軽かったような気がした。
前書きで書いた通り、憑依円堂列伝のお気に入りが500人を突破致しました。FF編までにお気に入り500人を目標の一つとしていたので大変嬉しいです。
また、原作:イナズマイレブンで総合評価順に並べると有難いことに1ページ目に出てくるようになりました。
応援してくださっている皆さまのお陰です。本当にありがとうございます。これからもよろしくお願いします