フットボールフロンティア2回戦。既に対戦相手の千羽山中は準備を終え、ポジションについている。対する俺たちは未だにベンチにいる。
「監督、いい加減にしてください! 誰を待っているって言うんです!?」
「このままじゃ俺ら、棄権になっちゃうっスよ!!」
審判から後3分で試合を開始できなかったら千羽山の不戦勝になると告げられ、皆んなは次第に焦り出す。対照的に事情を知っている俺や豪炎寺は静かに待っている。まあ、同じく事情を知っている音無はあわあわしているが。
マネージャー陣も監督に何か言おうとするが、それを雷門では珍しい金の長髪の彼女が静止する。
その彼女とは、アフロディ。俺と病院で会った後、世宇子から雷門に転校したのだ。今試合では雷門全体の動きを見るためと病み上がりのため、試合に出場しないことになっている。
残り30秒となったところで、耳にカツンカツンという音が近づいてくる。そして、その音の正体がグランドに現れた。
いつもの赤とは違い青いマントをはためかせ、特徴的なゴーグルが日光に反射してきらりと光る。
「鬼道です!間違いありません!帝国学園の鬼道です!」
その姿にスタジアム中から驚愕の声が上がった。その響めきが収まったところで、今度は批判の野次が飛び始める。しかしながら、ルール違反はしていない。
第64項第2条、"試合開始前に手続きを済ませた場合、他校からの移籍を認める"
ちゃんとフットボールフロンティアの規約に書かれていることだ。このことが解説から伝えられるとその野次が次第に鳴りを鎮める。いや、民度良すぎないか?ルール違反じゃないとはいえ、大分非難されるようなことしてる気はするんだが。
鬼道も来たことだし、そろそろポジションに着かないとな。他校の、それも前優勝校からの移籍という運営が予想してなかったイレギュラーのおかげで、本来の時間を過ぎてるにもかかわらず棄権扱いにはなっていなかったが、流石にこの時間超過は不味い。
「じゃあ、鬼道任せたぞ」
「ああ、任せておけ」
鬼道と言葉を短く交わしそれぞれのポジションへ。そして、ホイッスルが鳴った。
「さあ予想外の展開もありましたが、今ホイッスルが鳴り響き2回戦、試合開始です!!」
染岡から豪炎寺に渡りそのままボールを下げる。その間に前に進んでいた染岡に戻そうとする。
「っ!?弱い!」
しかし、染岡に届く前に地面に落ちそのボールは千羽山の8番、大鯉に拾われてしまう。幸いにもゴールに辿り着かれる前に風丸が奪い返せたが、まずい状況はまだまだ続く。何しろ、先程同様パスが繋がらないのだ。
「『ラン・ボール・ラン』!」
ボールを持った千羽山のキャプテン、原野はボールに乗り足を走らせる。そのスピードは一気に速くなり砂煙を起こしながら進んでいく。土門がそれを阻止しようと動くが、一歩手前でボールから離れ躱される。そして、ボールはその勢いのままゴールへと突き進んでいく。
「『ザ・ウォール改』!」
壁山が土壁を出現させそれを弾く。栗松に拾うよう声をかけるが、ボールは想定よりも大きく飛んでいく。その先にいたのは相手のFW、田主丸。
「『シャインドライブ』!」
シャインドライブ、右足を極限まで発光させシュートを放つ技だ。発光させることにリソースを割いてる分威力自体は低いが、相手の視界を奪い一点を確実に奪うという奇を衒った必殺技だ。今までの試合、1点さえ奪い後は無限の壁でひたすら防御すれば勝ちだった千羽山にはぴったりな技だろう。だが、甘い。
「視界を奪われてもやりようはある!」
拳を地面に叩きつける。
イメージするのはまだ先の必殺技、『イジゲン・ザ・ハンド』。当然、今の状況でそれそのものを扱うことはできないが、超劣化版ぐらいならできる。
薄い膜が張られ、ボールがそれにぶつかる。
「そこ!」
これなら視界が奪われていても、膜とボールの接触音で位置がわかる。それさえ分かれば後はどうとでもなる。
「雷門、千羽山の怒涛の攻撃を見事防いだぁ!しかし、ボールはタッチラインを超え外へ。千羽山のスローインです」
一番良い結果ではないが、止めれたし連続でシュート打たれていないしよしとしよう。
スローインに合わせそれぞれの位置に着くが、栗松たちの位置が若干違う。恐らくだが、鬼道の指示だろう。
千羽山の根上がボールを投げ試合再開。また攻め込んでくるが、それは栗松が素早い動きでカットする。
「栗松、土門にパスだ!3歩先!」
栗松は戸惑いつつも、鬼道の指示通り普段より強くパスを出すとボールは吸い込まれるように土門の足元へ。その後も鬼道がアシストしどんどんボールが回り始める。
そして、ボールはマックスから染岡へ。
「ドンピシャだぜ!『真ドラゴンクラッシュ』!」
「『まきわりチョップ改』!」
千羽山のGK、綾野は飛び上がり龍を纏ったボールに手刀を叩きつけゴールを防いだ。流石に今大会無失点の壁は伊達じゃないか。
とはいえ、こちらの連携が通るようになったのは僥倖だ。
「鬼道、すげぇな」
「ふっ、このぐらい動作もない。俺はお前たちのズレを修正にしたに過ぎん」
鬼道のそれだけが俺たちには微塵も出来なかったんだが。え、紅菊もできるって?聞いてない。
雷門のスローインから再開。パスを繋いでいく。そして、風丸からマックスへとボールが渡る。
「「「かーごめかごめ……」」」
マックスを千羽山の三人が囲みながら、両手を広げゆっくりと円を描くように歩く。マックスがボールを他のメンバーを渡そうとした瞬間、三人が飛び上がり一斉にスライディングをしかけた。これを躱すことを流石のマックスもできず、ボールは奪われてしまった。だが、そこは鬼道がすぐさまカバー。スピニングカットで奪い返す。
「染岡!」
そして、染岡へとパスを出す。受け取った染岡はすぐさまボールをボールを上空へと飛ばし自身も追うように跳躍する。
「『ドラゴンキャノン』!!」
赤竜がゴールへ向かって突き進んでいく。さらにその先には飛び上がっている豪炎寺が。
「『真ファイアトルネード』!」
シュートチェインだ。赤竜は炎を纏い咆哮を挙げる。
対する綾野は仁王立ちでどっしり構え、両脇をDFの牧谷、塩谷が固める。
「「「『無限の壁改』!!!」」」
ゴール前に巨大な石壁が展開される。その壁にボールがぶつかると、張り合うことなく威力を失う。
「未だ無失点を誇る千羽山の無限の壁!雷門の連携シュートをあっさりと止めてみせたぁ!そして、ここでホイッスル、前半終了です!」
さて、あの無限の壁をどう破るか。俺も後半はイナズマ一号などを狙うためちょこちょこ上がるべきかどうか、そう考えながらベンチに向かっていった。
超劣化版イジゲン・ザ・ハンド
必殺技ではない。イジゲン・ザ・ハンドのように気のドームを生成することはできるが、それは薄くまたシュートを逸らすほど滑らかではない。今回は威力が低いシャインドライブだったためなんとかなったが、別の技だとすぐ破られてしまう。