よくある悪役お嬢様を書いてみました!!

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閃きに身をゆだねて2時間ぐらいで仕上げました。
反省はしているが後悔はしていない。


悪役お嬢様あらためチェストお嬢様爆誕記

 愛と希望を司る女神を信仰し、この世界に数多ある国家の中でも強国に位置するバルツィーリア。

 この国の興りは遥か昔にまで遡り、始まりは世界を蝕む邪悪に抗するた為に異界から喚ばれた聖女と英雄の間に産まれた子を父祖とする国である。

 

 故にこそ今自分がいるこの国、ひいては周辺国家に至るまで異界から喚ばれた少女と言う存在は大きな意味を持っている。

 ましてや、その少女が愛と希望の女神の強き加護を授かり強大な魔力を持っているとなれば、最早その権威は天井知らずとも言えよう。

 

 ……例え、その少女が政治的意図も知識も何も持たない存在だったとしても。

 

 

「……マジ、かぁ」

 

 

 そしてそんな国の侯爵家の長女として産まれてしまった自分は一人、従者に下がってもらった豪奢な部屋の中で大きな姿見の前で頭を抱えていた。

 現実逃避をしようと鬱陶しいぐらい長い髪の毛をかき上げれば、姿見の中にいる少女が鮮やかな光彩を放つ長い髪をかき上げ。

 気分を入れ替えるべく溜息を吐けば、姿見の中の少女は憂鬱そうに吐息を漏らす。

 

 

 どう見ても異世界TS転生です、本当にありがとうございます。

 

 

 じゃないよ!? 返せよ俺の30年物の開封済み未使用息子を!使ってなかったけど返品する気は欠片もなかったんだぞ!!

 

 

「……おーけー落ち着こう、まずは状況の確認だ。偉い人も言っていた、まずは素数を数えろと」

 

 

 自分が俺という意識を取り戻したのは、ふかふかのベッドの中で目覚めた瞬間だ。

 そして今現在の状況は……俺の事をお嬢様と呼ぶメイドを、咄嗟に下げるために怖い夢を見たから一人になりたいと言って下がらせて一人になっている状態だ。

 だが彼女の俺を心配していた様子から呼べばすぐ来れる位置、部屋の扉の外ぐらいにいるのは想像に難くない。

 

 

「……衝動的に叫ばなくて正解だった、どんな時でも冷静沈着な仮面を被れと叩き込んでくれた部長には感謝だな……」

 

 

 念には念を入れ、白魚のような手で口元を隠して小さく呟きながら改めて自分の姿を姿見で確認する。

 姿見に映る口元を手で覆った少女は、透き通るかのような蒼い虹彩が目を引く。

 

 続いて自身は何者かと口に出さず自問する。

 

 

「……■■■■」

 

 

 ……だめだ、慣れ親しんでいる筈の名前を口内で呟いても自分の名前だと認識できない。

 ならば、この体の名前と記憶を想起し再度自分の名前を思い浮かべ言葉に紡ぐ。

 

 

「……私はサフィリア、グロウシルト家の長女で今年で6歳を迎えます」

 

 

 呟いた聞きなれない筈の名前が、今度は私の心にストンと落ちた。

 ついでに無意識に自分の事を私と呼んでいた、マジか。

 

 しかしそうなると私はもしかして、この幼気な少女の魂を食い潰し塗り潰してここにいるのではなかろうか?

 そう考えて腕を組み静かに黙考する、肉体の持ち主であったサフィリアと言う少女がどのような道筋を辿って来たのか。

 

 ……どうやら元々この体の持ち主である、私ことサフィリアは時折不思議な事を口走るお嬢様だったようだ。

 馬車が一般的なこの世界において馬よりも早く道を駆ける馬が不要な鉄馬車やら、衛生管理の大事さを言葉足らずに当主である父に熱弁していたらしい。

 コレどう見ても、不意の切っ掛けで前世を思い出したってヤツだよなぁ……。

 

 

 なんせ、今こうやって自問自答してる間も段々と姿見の中にいる少女の姿に違和感を感じなくなってきているのだから。

 前世は前世、今世は今世と割り切っていく他なさそうである。

 

 

「……サラバですわ、愛しき我が未使用の家出息子」

 

 

 今まで自覚がなかったが、鈴を転がすかのような可愛らしい声で我ながら最低な別離の言葉を呟き。

 大きく深呼吸した私は、朝の支度をしてもらうべく部屋の外に控えているであろう従者の名前を呼び、彼女に手伝ってもらいながら朝の支度を始めるのであった。

 

 

 

そんなこんなで3年ほど時が過ぎ

 

 

 

「シュヴェルト、この手紙を商会の会長へ。こちらの書類の内容は暗記して中身を件のまとめ役に伝えた後破棄をお願いしますわ」

 

「かしこまりでありまするー」

 

 

 私ことサフィリアは、お父様に与えられた書斎で領内の運営に関するお仕事を回しています。

 なんで9歳の侯爵令嬢がこんな事をやっているのか、それを説明するには涙抜きには語れない我が家ことグロウシルト家の事情がある。

 

 その、ね……ポンコツなんですわ、お父様。

 公明正大清廉潔白、懐は大海原のように広く困窮した者には身分の貴賤関係なく救いの手を差し伸べる。

 ええ、とても立派です。人間として私は心の底から尊敬しておりますとも、ただ……。

 

 壊滅的なまでに大盛白米どんぶり勘定なんです、我が家は侯爵の身分に相応しい収入がありますけども私が管理するまでとんでもなく危ういバランスでした。

 ついでに人を疑う事が苦手なせいで、直下のお父様に心酔している部下はともかくとしてもソレ以外の臣下も多数抱えている我が領、そして当然起こるのは有能な臣下の目をかいくぐった汚職と賄賂と着服。

 

 初めて帳簿を見せてもらった時は笑うしかなかったね!!

 

 

「お嬢様も少しは休んだらいかがですかな?」

 

「この書類が終わったらゆっくりしますわ、身体も動かしたいですし」

 

「ならばよしでありまする」

 

 

 私を心配するエルフの従者、シュヴェルトの言葉に笑みを浮かべながら応じれば彼女もまた満足げに頷いて見せる。

 

 ちなみに彼女は……領内で好き勝手してた盗賊が領内の不正改革に勤しむ私を攫おうとしたところに偶然通りがかり。

 今も腰に佩いている湾曲した長剣……平たく言えば刀一本で殲滅して救出してくれた繋がりで、私の従者に大抜擢した有能つよつよエルフさんです。

 

 ええそうです、この世界エルフいます。ドワーフとかハーフリング、ついでにドラゴンもいますし魔法もあります。

 やったねファンタジーだ! なお私も魔力は遺伝の関係か潤沢にあるのに、領内経営と言う名の頭脳労働が忙しくてあまり鍛えられておりません。悲しいね。

 

 

「しかし最初は剣もまともに触れない状態でありましたが、お嬢様も一端の剣士と呼べるぐらいにはなってくれて感無量でありまする」

 

「師匠である貴女のおかげですわ」

 

 

 そんなわけで、運動不足解消と健康な肉体作りの為につよつよエルフであるシュヴェルト指導の下、剣の道を進んでおります。

 ちなみにお父様とお母様は応援してくれてますわ、というよりもあの二人は何でも全肯定するからちょっと不安になるレベル。

 

 ……コレ、下手したら増長しまくってわがまま放題なお嬢様になってた説まであるわ。

 いやそんな事ないかさすがに、うん。

 

 

 

 

更に時は流れて6年後

 

 

 

 アレから我が国の王家の長子、まぁぶっちゃけて言えば王子様との婚約があったり。

 領内の歪な経済網を整備して商取引を正常化し、ついでに後ろ暗い人間の集まりの長と友誼を結んで末永いお友達取引関係を構築したり。

 お父様や頼りになる臣下の人の目を盗んでやりたい放題やってた、ぼんくら臣下を粛正したり。

 ヤケクソとばかりに襲ってきた元臣下や私兵を、シュヴェルトと共にチェストしたりしてたら15歳になっておりました。

 

 なんかその時手練れっぽい私兵の一人が、シュヴェルトを見て「狂刃シュヴェルトが何故ここに?!」とか叫んでたけど人違いだと思います。

 その事をシュヴェルトに聞いたら……。

 

 

「人違いでありまするよ? 拙は根無し草のぷーたろー剣士でありまする」

 

 

 と、真っすぐな瞳で返してくれたからね。剣の道には容赦なかったけど狂人扱いはあんまりだと思うさすがに。

 情け容赦なく私兵やらの頚や胴体を斬り飛ばしていた? 襲ってくるならチェストされる覚悟もあるべきだと思います。

 

 

 まぁそんな事はどうでもいいんです、大した問題じゃない。

 むしろ今目の前にある問題の方が大問題です。

 

 

「お父様、本当に、本当の本当に私がいなくても領内経営は大丈夫なのですか?」

 

「ははは!サフィリアのおかげで家臣団も育っているしね、安心して学院に行くとよい。それに婚約者である王子様も入学されるのだから行くべきだとも!」

 

 

 いやね、この国の貴族って15歳になったら王都にある学院へ通うという通例があるんですけどね。

 そこに行くことはまぁいいんですよ、手のかかる弟的な王子君の面倒を見るのもまぁ特に気にならないですし。

 ただ、学院に通う間は里帰り以外は王都住まいになるわけで……その間にぽんこつお父様がやらかさない保証がないから、不安でしょうがない……!!

 

 

「……ルル、心の底から頼りにしてますわ。どうかお父様を支えて下さいまし、後何かやらかしたらすぐに私に報せて下さいませ」

 

「かしこまりました、お嬢様」

 

「酷くない?!」

 

 

 しかし同時に、侯爵家の跡取りである私が国家の通例を破り学院に通わないというのは、外聞が非常に宜しくない故……。

 幼いころから私を見守りお世話し、私に巻き込まれる形で内政をやり続けた結果領内でも屈指のやりて経営メイドとなったルルに後を託すのだ。 

 いやほんと頼んだルル、グロウシルト領の未来は君にかかっている。

 

 

「シュヴェルト様、お嬢様をどうかお願いします」

 

「お任せあれでありまする」

 

 

 そして貴族が学院に連れていける従者は一人だけ、これもまた学院に通う貴族に課せられたしきたりなので……連れていける従者は必然的に一人だけとなり。

 最後まで悩んだのですが、シュヴェルトを連れて行くことにしました。万が一があっても彼女と二人なら鉄火場を切り抜ける自信もありますし。

 

 そんなわけで……。

 

 

「それではお父様、行ってまいります」

 

 

 私は家の外に待たせていた既に荷物を積み込んである馬車へ乗り込む為に踵を返し、歩き出すのです。

 

 しかしこの時私は思いもよらなかったのです。

 まさか、今から向かう学院で愛憎入り乱れた大騒動が起きる事など……。

 

 

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 『千年王国の愛の物語』と言うゲームがあるんだけど、自慢じゃないがアタシはこのゲームについては隅々までやり尽くし網羅していると自信をもって断言できる。

 乙女ゲームにあるまじきRPG部分の難易度の高さ、シビアな人間関係と政治事情で一部賛否両論がある作品だったしアタシの周りにはこの作品のアンチすらいた。

 だけど、それでもアタシはこのゲームが好きだ。愛していると言ってもいい。

 

 基本的なストーリーラインは、異世界から迷い込んだ女子高生が剣と魔法の世界の学院で切磋琢磨し、イケメンたちと愛を育むというモノなんだけども。

 どこか残念だったり人間臭い部分、問題や欲望を抱えながらも前を向いて歯を食いしばるイケメンにそれらを取り巻く人間関係が最高で。

 この手の作品によくある悪者が、そんなにいない事もまたアタシが気に入ってる部分なのだ。

 

 

「……悪役ってされてるサフィリアですら、色んな事情を重ねて考察すると凄い可哀想な子だしね」

 

 

 学院へ入学する為に一人で乗っている馬車の中、アタシは呟く。

 侯爵令嬢であり皇子の婚約者であるサフィリア、彼女は絵に描いたような我儘悪役令嬢……っぽいんだけども。

 裏事情をひも解くと、子供の頃に両親を悪い部下に暗殺された上に頼りになる人達も全て遠ざけられ、悪党と言える臣下達のお飾りにされた結果……悪役になってしまうのだ。

 

 とあるルートで彼女と敵対して倒した時、悲痛な顔と声で私はどうすればよかったのと涙声で呟きながら息絶える。

 アレはほんとキツイ、心が抉られるしランダムで見れるエピソードでは彼女が考えなしのアホの娘だとわかるから猶更だ。

 

 異世界に迷い込んだ聖女っぽい何か的な存在に転生したアタシだけど、あの展開はさすがに人の心が無さ過ぎると思う。

 ……だけど、アタシの最推しである合法ショタ王子様。ムクロージの婚約者な上に彼のルートでは敵対確実なんだよなぁ……。

 

 

「……なんとか、サフィリアの好感度を稼いで仲良くなりつつ彼女を更生させて。その上で王子様もらえないかなぁ」

 

 

 我ながらとんでもないぐらいにムシの良い話でしかないのだが、アタシだって最推し愛でたい。千年愛世界にきたんだからそれぐらいやりたい。

 だってあの合法ショタ王子、ヘタレで体格とか能力にコンプレックス凄い抱えてるのにそれでも頑張って、立派な王族になろうと頑張ってるんだもん。

 そりゃねっとり愛でたくもなるものだ、前世で2桁は薄い本出してるのだから。

 

 そんなわけで、我ながら不純極まりない動機で不安と希望を抱えて学院の門を潜ったワケなんだけど……。

 

 

 この時アタシは思いもよらなかった。

 悩みの種だったお嬢様が悪役を通り越すどころかチェスト系お嬢様になってる上、原作であったポンコツっぷりを加速させた上で有能になっているなど。

 ついでに、ランダムエンカウントラスボスと評判だった狂刃エルフことシュヴェルトを従者として連れてきてる事など……。

 




ちなみにお嬢様ことサフィリア様の外見ですが。

原作ゲームでは……痩身の吊り目美少女、髪の毛もドリルってる
今作世界線では……鍛えられたぼんきゅっぼんのドスケベボディ垂れ眼美少女、腹筋はすらっとしてるが、髪の毛は何故かドリルってる。

こうなってます、多分主人公ちゃんはサフィリア見たら二度見しますね。


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