乙女ゲー世界はモブの中のモブにこそ、非常に厳しい世界です   作:N2

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二次創作は初投稿ですが、宜しくお願い致します。

状況によって三人称と一人称視点になりますので、ご留意ください。

学園入学まで相当に端折らせ駆け足で進行させてます。


学園入学前
第1話 エーリッヒとして前世を思い出し商売する


 「おお! これは…… 味に深みと重さ、この多重奏を思わせる香り…… 素晴らしい逸品じゃないか」

 

 王国本土にある中堅どころのリッテル商会の繋がりから、王宮貴族のバーナード大臣へとヘルツォーク子爵家のワインの紹介が叶ったのは僥倖だった。

 

 「では、今後とも取引や王国本土への輸出の許可は……?」

 

 「ああかまわんよ。君の父上の頑張りも知っている、彼とは学園の同期でもあるしな…… 何より先々代の頃よりのヘルツォーク子爵家の禊も済んだと言えよう。次代の君も辛いだろうしな」

 

 「大臣の寛大な御心に我が家を代表して感謝いたします」

 

 これで何とか我が領特産のワインを王国本土へ輸出取引ができるとエーリッヒは胸を撫で下ろすことが出来るのであった。

 

 

 

 

 この世界全体は、浮島と呼ばれる文字通りに宙に浮いた大小の島々にて人々は生活圏を築いており、魔法やモンスターが跋扈している世界でもある。

 そして、この世界の一国であるホルファート王国は、大陸クラスの浮島を王国本土としており、周囲に王家直轄領も含む王国貴族が所領として統治する各浮島が、多数存在している大国の一つである。

 

 俺、ことエーリッヒ・フォウ・ヘルツォークは10歳の頃、剣術の稽古中に頭部への打ちどころが悪く意識不明の重体になった。

 10日後に回復した時は、前世での日本にて30代で社会生活を送っていた時のことを鮮明に思い出していた。

 

 「お兄様、まだ安静にしていた方がいいのではないですか?」

 

 「もう大丈夫だよティナ。ちょっと今までの復習と勉強しておきたいからね」

 

 ヘルツォーク子爵家は、正妻の嫡子である10歳の俺と妾の長女である同じく10歳になるマルティーナという5ヶ月違いの妹。それに9歳の弟であるエルンスト。8歳の妹マルガリータ、愛称はメグという四人兄弟がいる。

 俺以外は妾であるベルタ義母様の子である。

 

 8歳の時に正妻である母のザナに連れられてきた時に俺は、ここヘルツォーク子爵領の浮島に残ったというわけだが、要は専属使用人や愛人に囲まれて放蕩三昧の母に愛想をつかしたのが真相だ。

 その時の事は、もはや憑依する前の記憶でしかないとはいえ、エーリッヒ君は真面目だと記憶上で認識できるな。

 この王国自体が男爵家から一部の伯爵家まで、異様な女尊男卑の社会を形成しているので、実は俺の母のような生活をしている女性が圧倒的多数を占めている。

 

 このヘルツォーク子爵領は、先々代の頃までは今の様に貧乏ではなく、オリーブとワインの名産地としてそこそこ栄えていたが先代の祖父が……

 

 「あんな横暴で不埒極まる貴族家の子女となんか結婚できるか!!」

 

 王都の学園生活で発狂し、寄子の準男爵家から嫁を貰ってから我が領の転落が始まった。

 息子に触発された曾祖父も、じゃあ儂も離婚するぞとなり、完全に貴族社会から村八分にされてしまった。

 辺境の浮島と取引する家や王国本土の貴族家も離れていき、みるみるうちに過疎化してしまった。輸出入が激減し、天候不順による飢饉も経験してきたが商用作物を食用作物へ転換させ、鉱山労働力も作農へ転じさせて何とか凌いできた。

 

 世間では、貴族出身の女性を嫁に取りたくないなどというと、ヘルツォーク子爵領の様になってもいいのかと反面教師にされるらしい。

 

 ヘルツォーク子爵領と接するラーシェル神聖王国との小競り合いにも国境沿いの辺境という事で駆り出され、かつファンオース公国との戦争にも当家特有の事情により、遠方ではあるが度々出陣してきた。

 当家が保有する戦艦級や巡洋艦級の飛行船も数世代前のものを修理しながら使用しているのが現状だ。

 

 ただし今代である父上、エルザリオ・フォウ・ヘルツォーク子爵になってからは、子爵家の娘を妻に貰い、今から20年近く前のファンオース公国との戦働きにより、領内の状況は多少改善してきている。

 この子爵家の娘、まぁ俺自身の母親になるが美人だという事以外本当に酷い。それでも父上はあれが貴族子女のスタンダードだというから恐ろしい。

 何より十数年前にレパルト連合王国から嫁いできたミレーヌ王妃のおかげにより、貴族社会の村八分も緩和されてきた。

 ラーシェル神聖王国はレパルト連合王国とも敵対関係にあり、度々ラーシェル神聖王国と争ってきたヘルツォーク子爵領を評価してくれたことに起因していた。

 

 「まぁ盾がボロボロでは王妃様も心配だろうからな……」

 

 「あら、お兄様は盾は使わない戦闘スタイルでは?」

 

 「あぁ、ごめんティナ。独り言さ」

 

 国境を互いに接するといっても、浮島同士なので要は空間で接しているという状況である。軍艦級飛行船で警戒中に、双方小競り合いというには激しい戦闘も多々あるという場所柄であった。 

 

 さて、生前の知識はあるが、まだ自領の勉強と剣術に魔法と鍛えることがたくさんある。それに鎧というまるで小さなモビ〇スーツのような戦闘兵器もある世界だからそれも扱えるようにならなくてはならない。

 一体何なんだこの世界は……

 その点、他領を中々頼ることが出来ないヘルツォーク子爵領は、勉強と戦闘訓練はかなり重要視している。

 体が出来上がる前からの過度な訓練は良くないと聞いてはいるので、知識習得と魔法習得に費やし、畑を耕す。

 畑!? 何で貴族が? などと思ったりもしたが父上曰く、辺境の貧乏貴族家は大概自分たちの食い分を耕しているらしい。

 マジビビる…… 

 

 

 

 

 訓練や勉強に費やして一年が過ぎ、5月で11歳となった。

 そろそろ父上の手が回らない範囲で家の仕事を助けようと考え、商用作物のワインに着目した。

 元々名産であり今でも製造方法が潰えないように細々とだが生産している。曾祖父の代の50年物や100年物も村八分にされたせいもあってか十分に残っている。

 ただヘルツォーク子爵家は商会との繋がりが途絶えたために販路がないので、そこを開拓しなければならない。

 加えて農地をオリーブとワイン用に拡大、若しくは今ある農地を転用しなければならない。

 

 「この2点をどう解決する?」

 

 「まずはザナ母様の伝手で商会をリストアップして欲しいのですが」

 

 「それがまた難しい。あいつはラーファン子爵家の出だからな…… 下手にあいつの紹介で取引を始めたら、ラーファン子爵家から金の無心や向こうの返済用に安く買い叩かれる可能性が高い」

 

 「そんな無茶苦茶な!?」

 

 どうも母親の出身であるラーファン子爵家は、王国本土でも指折りの財政状態の酷い家であり、皆が付き合いを公然と遠慮するようなところらしい。

 そんなところから嫁を取らざるを得なかった我が家に涙が零れ落ちるが、その血をひいている俺は心苦しい。

 

 「なんかごめんなさい」

 

 「お前は気にしなくていい。寧ろよく頑張っている」

 

 反射的に謝ってしまった俺を親父は褒めてくれる。またしても涙が止まらない。

 

 「では、向こうからのリストにある商会以外に渡り、営業を掛けましょう。そうすればラーファン子爵家関連の横やりは来ないでしょう。母の名前での借金も出来なくしてあると父上からは聞いてますし」

 

 うちも本土からの借金はあるが、村八分にされていたせいもありそこまで額は多くない。しかもその借金のほとんどが母絡みらしいから笑えない。

 ただし、母との関わりも親父やヘルツォーク自体はもう何年間も希薄なので、母が実質何をしているのかは不明らしい。

 王国の貴族家の正妻は、皆が大なり小なりそのような状況との事。

 それは国として本当に大丈夫なのか不安になるな。

 

 「ではセバスチャンを本土に送り情報を収集させよう。確かに改善を図らなければならない。飛行船や鎧も修理や鹵獲品だけでは限界も来ておるからな。出来れば最新型か一世代前ぐらいの物に換装したい」

 

 親父が言う換装という意見が悲しみを誘うが、何はともあれ執事であるセバスチャンを動かす許しと親父からの了解も貰い、寄子や領民に労働という点で多少苦労を掛けることになりそうだが、その点は領民に対して誠実であった親父や祖父、曾祖父の美点もあり生産拡大が一応俺がきっかけとなって始まった。

 

 「ではセバスチャンが戻り次第、僕が王国本土へ向かいます」

 

 「お前自身がか!? セバスや他の役人に任せるのではないのか?」

 

 「若輩ですが、全権を担うには嫡子である僕自身か父上しかいないでしょう。父上は領内から離れるわけにはいかないでしょうし、とりあえず僕に行かせてください。難しい状況であれば父上を頼ります」

 

 まぁ当然俺が若いという点で父上は難色を示したが、深夜まで説得と領内の状況を互いに話し合い俺自身の王国本土行きを勝ち取った。

 王国本土では別件でやりたいこともあったため、かなり説得に力を要することになり、自らの提案するに至った知識や経験を誤魔化すのに後半は苦労したのは言うまでもない。

 

 そして1年掛けてリッテル商会とヘルツォーク子爵領として取引が可能となり、このリッテル商会は中堅商会ではあるが、取扱品目が割と多岐に渡るため、王宮貴族との取引の伝手を利用してバーナード大臣と縁を結ぶまで、さらに一年を要した。

 

 その間も魔法知識の勉強や訓練は欠かさずにやっており、妹たちや弟には心配をされてしまった。まだ取引が軌道に乗り掛かった段階なのであまりいい土産を渡せないのは申し訳ない。

 13歳の誕生日を迎えた頃には、俺自身が輸出から輸入まで取り仕切るようになり、定期的に領と王国本土を行き来し、父上やセバスの手からは完全に離れている。

 ヘルツォーク子爵領に戻ってきた際には、現在の身長も160cmを超えてきたので、鎧の操縦練習を行う段階にきていた。

 

 

 

 

 鎧とは名ばかりとまではいかないが、イメージとしてはオーラマシンのように思えてしまう。海と浮島の間をドキドキしながら飛行してみたが、聖戦士にはなれないことが判明してしまった。ちょっとガッカリ。

 

 「この離陸時と着陸時のオートは何とかならないかな」

 

 墜落防止として鎧の離着陸はオート軌道になるため被弾しやすいという難点があるが、余程の熟練でもない限り皆が飛行船からの発艦及び帰艦時にオート操縦のため問題にはなってないし、訓練でもそれを前提で行われている。

 加えて照準時もセンサーに認識させるために飛翔スピードが速いと姿勢制御のために減速して姿勢固定される。

 

 「これじゃ乱戦時に孤立したら狙われそうだな」

 

 ヘルツォーク子爵家の鎧を扱う騎士も全てをマニュアル操縦可能な熟練且つ王宮の近衛騎士上位クラスは11名しかいない。内1名は親父だ。一人足りないが12騎士とでも心の中で思っておこう。

 皆が20年近く前のファンオース公国での戦争経験者で年齢も40前後。他の90名にも及ぶ鎧搭乗者は、離着陸のマニュアル操作は可能だが、照準はオートに頼っている。

 

 「オートの統制射撃は強力だけど、大規模な戦争は無いし小競り合いレベルでは十分か」

 

 ラーシェル神聖王国との小競り合いでは、双方に飛行船同士で撃ち合い、鎧も撃墜されるまで行われなかった経緯もあり、離着陸時を狙われたことは少ないが、空賊は討伐を旨とするのでそうはいかない。

 

 「ただ、親父の発案で鎧操縦者を鎧に搭乗させて鉱山での作業従事を2年前から行わせてきたから、皆細かい操縦が上手いんだよな」

 

 他90名の鎧搭乗者達は、20代半ばから後半であるが、今後を見据えて10代後半から20代前半の男どもを平素の仕事とは別に少しずつ訓練させていっている。

 なのでエーリッヒも今は彼らに年齢的に先んじて離着陸時のマニュアル操縦に四苦八苦していた。

 

 「空賊が現れた!! フレーザー家の哨戒を搔い潜ったのか!?」

 

 訓練をしていた港から緊急警報が発令された。




『乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です』が面白くはまってしまい、オリ主を登場させてリオン君達と絡ませようと考えて執筆してしまいました。

 喋り口調は僕になりますが、思考等は俺になります。成長と共に今後変わっていく予定です。

 そこまで詳細且つ力点を置いた内政はやりません。領内を立て直すための最小部分です。というよりも歴代当主も貧乏なせいか放蕩なバカではありません。
 できることは限られてきます。元々段階的に行おうとしてきた財政改善施策のほんの10年ぐらいの先取りみたいな感じです。
 先々代からの汚点を既に現当主が改善しているために出来た施策でもあります。

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