乙女ゲー世界はモブの中のモブにこそ、非常に厳しい世界です   作:N2

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学園入学まで相当に端折らせ駆け足で進行させてます。


第10話 戦果

 王宮から届いたエーリッヒ卿としての戦果認定の書状を下っ端王宮官吏が訪問してきて渡された。

 彼いわく、「褒賞や勲章などの審査はまだかかる」との事。戦時中というわけではないから仕方ないね。

 エーリッヒ卿という宛名が何とも微妙な立場を現しているな。

 ラーファン子爵家が、あの証明された時に養子縁組みしなかった事と、俺自身が断固拒否を示していたからという理由になる。

 親父も俺が、エルンストを当主にしたいという理由を酌んでくれた経緯もあり、普通クラスには入学出来る取り計らいがあったため、学園卒業まで置いておこうとなっていた。

 俺としては就職の第一志望は、ヘルツォーク子爵家の陪臣騎士だ。弟のカバン持ちだな。

 

 弟のエルンストと鎧の訓練中に王宮官吏がいらっしゃったので、そのままお連れしたのがつい先程。

 家族全員で見ようということで、仕事中の父親を呼び戻し今に至る。居間だけに…… 

 

 ごほん、まぁ正直座学にリハビリに訓練、港湾浮島部の開発の仕事。

 そして輸出用商品作物関連で忙しかったため、最初の1ヶ月はどうだっただろうと思ったが、すっかり忘れてしまっていた。

 親父やローベルト艦長に確認しても

 「覚えていないのであれば、こういうのは認めてもらった数字を受け止めるほうがいい」

 と言うので、そもそも知らない。

 偉大な妹も教えてくれない。

 確認作業はローベルト艦長と妹、そして第3者のナーダ男爵がいたので、王宮も正式な手続きを以て認めてくれたらしい。

 

 「では読み上げる」

 

 親父が代表して読むことになったが、俺としては30~40機は落としたなぁ、凄いわぁ、そろそろネームドか? 赤○彗星だとまんまだから、ラーシェル殺しとかだなぁと少々盛って考えていた。

 

 「ラーシェル神聖王国正規鎧、撃墜77機。ここに認める」

 

 紅茶を吹き出してマルティーナとマルガリータにぶっかけた。

 

 「きゃっ」

 

 「あぅ…… おにぃ、卑猥」

 

 マルガリータの文句がおかしい。

 

 「メグ、卑猥はないだろう。何でそんな言葉を知ってる? あっ、専属使用人はダメだからな」

 

 「違う、そんなのいらない。もう私も立派なレディ」

 

 ふんす、と鼻息をだしながらドヤる妹、ちょっと可愛い。

 

 「ティナもごめん…… って何で頬を染める!?」

 

 「な、何でもありません。大丈夫ですから」

 

 こうやってマルティーナとは、ふとした瞬間に気まずくなる時がある。

 あれは、戦争の出発時に軽くキスをしてしまったからだろう。

 でもそこで俺は考えたんだ。前世の世の中では、3秒ルールという物が存在した。

 説明しよう。

 3秒ルールとは、例え食べ物が地面に落ちたとしても3秒以内に食べれば、バイ菌等も付かずセーフという非常にお百姓さんや農家、生産者に優しいWin-Winなルールである。

 だからあの唇と唇の触れあいは、1秒にも満たないので、俺のなかでは無かった事にした。

 兄妹だしね。恥ずかしいしね。

 なので気まずさをスルーする。

 

 「ほら、悪かったから僕が拭くよ」

 

 「もう、だから大丈夫です。子供扱いしないでください」

 

 いつもの感じに戻り、微妙な空気を吹き飛ばしてやった。

 

 「でも兄上、凄まじいですね!! やっぱり僕も出たかったなぁ」

 

 「本当はもっとお兄様は落としていました!! 100機ぐらいっ!!」

 

 軽く現実逃避をしていたら、エルンストの尊敬を込めた視線と声に現実に引き戻された。

 ていうか妹様、それだと連○の白いヤツになってしまう。しかもヤツでさえ3ヶ月ちょい掛かってるんだぞ。

 やめてくれ、そのうち親父が変な部品をダビデに取り付けそうだから。

 

 「盛りすぎだティナ、えっ父上、何かの間違いですよね」

 

 「それは間違いない。ほれっ、文面と認定証もあるぞ」

 

 「は、はぁ……」

 

 前もって貰った戦果の認定証。

 さて問題は…… 私に明確なニュー○イプの素養があるかどうかだが…… 

 

 「今の論功審査には、適切な敵情把握に基づいた作戦立案も加わるとの事だ」

 

 「え、いやだって実際に成果をあげたのは、12騎士ですし、素晴らしい美声の投降勧告もマルティーナですよ。艦隊行動だって……」

 

 この3つは俺じゃないぞ。

 

 「いや、だから立案は全てお前じゃないか」

 

 「間違いなくお兄様ですね。艦隊戦に関する事もほとんどがお兄様が立てて、それに対してローベルト艦長が従ってました」

 

 ついマルティーナを見てしまったら、父上の言葉に即答で事実だと認めてきた。

 

 「勿論、ローベルト艦長や12騎士、それにナーダ男爵ら戦死した者も含めて勲章が授与されるとの事だ」

 

 「それならば良かったです」

 

 何だろう、本来父上の言うとおりなのだろうが、彼等の手柄を掠め取ったような気になってしまう。

 戦争だし作戦立案が認められるのもわかるが、それに従い死んだ者が多数いる。

 鎧の搭乗者達は家族に準ずるくらい親しい。特に12騎士はその筆頭だ。

 リック03のヨハンは息子も戦死している。

 彼等の家内に対して、俺の作戦で戦争に勝利したなどとは、とてもじゃないが言えない。

 

 「浮かない顔だな。作戦立案者は色々と精神的に辛いものもあるかもしれないが、それでもお前は鎧を駆って、四方八方が敵機という最前線で戦い抜いたのだ。それは戦った者全てが見ている」

 

 親父の言葉に視界がボヤけてくる。

 

 「誇りこそすれ、気に病むのは戦死した者に失礼だ」

 

 「はい。ありがとうございます」

 

 目が決壊寸前まで涙を蓄えていると、親父が優しい表情で笑みを浮かべ、おもむろに頭を下げた。

 何故か涙でよく見えない筈なのにその表情だけははっきりとわかった。

 

 「ありがとうエーリッヒ、お前がいなければ艦隊も全滅し、後からのフレーザー侯爵軍でさえ恐らく撤退に追い込まれていただろう。旗艦に乗船した儂が言うのだ。間違いない。王国軍が編成されるまで、この領地も蹂躙されていたに違いない」

 

 親父が一息付いたのだろうが、俺にはもう何も見えない。

 

 「領内の財政を改善させ戦争も勝利に導いた。家族を含むこの領内全ての民の生活を守り、命を守ったのだ。お前がいなければ、間違いなく戦力も揃わずに負けるだけではなく、ヘルツォークという家名と領地が地図から消されていた。重ねて言う、本当にありがとう」

 

 貴族家の当主は例え間違おうが何しようが、家族にすら中々頭を下げない。面子もあるし、下手したら家督問題も発生するからだ。

 なのに子爵家の当主が下の者に頭を下げた。息子ですらない卑しい出自の男に!? 

 

 「父上、僕はお役に立てましたか? 誰の子かもわからないこの卑しい出自の人間なのに」

 

 義母様達の嗚咽が聞こえるが、つい自分がずっと胸の内に押し込めていた罪悪感を口に出してしまった。

 

 「馬鹿な事を言うんじゃないっ!! お前以上に自慢の息子が何処にいるっ!!」

 

 本気で怒って怒鳴る親父には、感謝のあまり言葉も無かった。

 

 「父上、ちゃんとエルンストも立派に育ってますよ」

 

 泣き笑いをしながらフォローするのが精一杯だった。

 

 そしてその1ヶ月後には、王宮からの書状を持ってきた下っ端ではない官吏から告げられた。

 

 「……え?」

 

 「エーリッヒ・フォウ・ヘルツォーク殿、貴殿の功績を讃え、学園卒業後には男爵の地位と宮廷階位六位下を進呈すると王宮よりのお達しです」

 

 「でかしたぞエーリッヒ! これでエルンストもお前も将来は貴族だ」

 

 親父は息子2人が貴族になれる事を純粋に喜んでいる。ベルタ義母様は、良かった良かったと号泣しながら喜んでいた。

 

 「家名はヘルツォークになります。ラーファンにしようという意見もあったのですが、王妃のミレーヌ様とバーナード大臣の口添えがあったのです。良かったですね」

 

 官吏の方が上品な笑みを浮かべながら簡単に経緯を教えてくださった。

 ミレーヌ様マジ女神。

 バーナード大臣にもお礼として、御二人にはワインを持っていこう。運が良ければミレーヌ様をもう一度見れるかもしれない。

 ヘルツォークという家名は大好きだが、自分で決めろと言われてしまうと、つい実家に遠慮して、アズ○ブルとかダイ○ンと付けてしまったかもしれない。

 危なかった…… マザコンでロリコンという王国最強の変態が出来上がる所だった。

 

 官吏の方が帰った後、家族でお祝いをしていたら気付いてしまった。

 

 あれっ? 俺、上級クラスじゃね!?

 

 

 

 

 「あなた、新聞届いたわよ」

 

 「どうしたリュース? おぉ、王都からの新聞か」

 

 ここバルトファルト男爵領は辺境にある貧乏貴族だ。

 俺のように辺境の貧乏貴族家は、当主になったら領地に引き籠もりがちだが、それでも王都の情報には目を通しておかなければならない。

 正妻のゾラに長男のルトアート、長女のメルセもいるからだ。王都での騒動を知って置かないとゾラに付け込まれる口実にもなってしまう。

 

 「ふ~ん、あっ、フレーザー侯爵家側で国境をめぐる騒動か…… はっ!?」

 

 「どうしたのあなた? そんな呆けた顔をして」

 

 妾のリュースが訝しげに聞いてきたので、気を取り直す。

 

 「いや、簡単に言うとラーシェル側から逃げ出した貴族が、ホルファート王国に越境してきて、ホルファート王国の辺境貴族家の合同軍と戦争したらしいんだ」

 

 「戦争!? ど、どうなったの?」

 

 リュースも驚いてはいるが、バルトファルト家からはかなり遠いので対岸の火事程度の認識だ。

 

 「ん、快勝したらしいぞ…… 詳細は次か、あぁ…… ぁあ!? 何かの物語か!?」

 

 「何よもう、私にも見せて」

 

 隣にきてお互いに身を寄せあって新聞を覗き込む。

 

 「ねぇあなた、このホルファート側三十隻対ラーシェル側百隻の差があるのに何で勝てるの?」

 

 リュースが当然の疑問を持つがそりゃそうだ。俺だって見出しを見ただけだと物語かと思ってしまったよ。

 

 「いや、凄いぞ。成人したての15歳の青年が、ヘルツォーク子爵家の総指揮官として自ら鎧に搭乗しつつも最前線で艦隊も鎧部隊も指揮。1人で77機鎧を撃墜し、且つ艦隊戦の最中、ラーシェル神聖王国から逃げてきたフライタール辺境伯が持ってきた浮島を粉々に砕いて沈没させる。その衝撃を突いて降伏させたらしい」

 

 「王都で流行ってる物語のあらすじ?」

 

 俺と同じ感想じゃないか。似た者夫婦だな。

 

 「いや、事実だ。浮島を破壊して沈めたのは恐ろしいな」

 

 「ねぇあなた、この青年ってリオンと同い年じゃない」

 

 「そうだな……」

 

 この青年、新聞は暈しているがヘルツォーク子爵家の()()だった子だろう。

 少し前に男爵家から一部伯爵家を騒がした()()()()に違いない。

 俺は知りたくないし聞きたくもなかったから、当時は確認しなかったが、今でも考えさせられる。

 しかもこの子は確か、13歳の初陣でラーシェル神聖王国軍正規軍との国境での小競り合いで、鎧と飛行船を撃墜した麒麟児だったはずだ。

 

 ー 王宮の公式発表では、空賊ではなくラーシェル神聖王国哨戒部隊としているため、ラーシェル神聖王国側国境近辺の各貴族ではこのように認識されていた。ー

 

 「また凄い子がいるのねぇ。リオンもここを発ってから2か月以上になるけど、どこで何をしてるのかしら? ちゃんと食べてるか心配だわ」

 

 「心配するのはわかるがあいつの事だから、ただいまとか言いながらひょっこりと帰ってくるだろう」

 

 冒険してくると言って、一人分の木造小型艇で意気揚々と出発していった三男がまだ戻ってこない。

 リュースは毎日心配しているし、俺もさすがに心配だ。とにかく無事に帰ってきてくれ。

 

 

 

 

 「……は?」

 

 「いや、だから凄いんですよ兄上!! このバルトファルト家の三男」

 

 男爵位(仮)を進呈されてから2か月が経った。

 上級クラスかぁ、やだなぁ、でも親父喜んでいるしなぁ、とたそがれながら、日々の訓練に勉強、仕事をしていると弟のエルンストが新聞を持って駆けてきた。

 

 「ほら、バルトファルト家の三男が、冒険でロストアイテムの飛行船と財宝と浮島を見つけたと書いてあります」

 

 「あぁ、凄まじいな……」

 

 このホルファート王国は、成り立ちからして冒険者が発見し建国した国だ。貴族のほとんどは成り立ちが冒険者で後少数は戦働きだ。

 その二つ以外で貴族になった家もどこかにあったような、まあいい。

 使用出来るロストアイテムの飛行船を発見したのは、曾祖父の時代に遡っても聞いたことがない。

 性能如何によっては、ここ100年で見ても1番の成功者だと思う。

 

 親父、俺以上の自慢の息子は、バルトファルトさんの所の子だよ…… 男の子だからかな? 涙がでちゃう。

 

 「憧れますよね冒険って。僕だってそれなりに戦えますから、兄上と小型艇とかで一緒に行きたいですよ」

 

 目をキラキラさせながら言う弟に俺も頷いてしまう。

 

 「冒険となると1ヶ月から2か月は期間を取りたいな。エトと僕で学園の長期休暇の時にでも行こうか。学園に行っている期間は、さすがに家の仕事も手離れさせるしな」

 

 「ほんとですかっ! 約束ですよ!! 剣と銃と魔法をもっと鍛えます」

 

 微笑ましいが、学園の上級クラスに入ったら同じ男子と競争になるから、とにかく頑張れと弟を応援する。

 

 「あっ、それとこのリオン・フォウ・バルトファルト卿って兄上と同じで、学園卒業後には男爵位と宮廷階位六位下になるそうですよ」

 

 新聞を読みながら、おぉ、と口から漏れるエトはかなり成長してきているとはいえ、兄から見ると可愛いらしい。

 

 しかし、このリオン・フォウ・バルトファルト、冒険の成果を字面だけで見ると、今の段階で男爵に叙爵されてもおかしくはないと思うんだよなぁ。

 財宝を見つけたという事は、冒険者ギルドに2割から3割上納するし、それを以て国へ貢献している。冒険者ギルドは国が運営母体だからだ。

 これだけの奴が冒険者ギルドに登録し忘れるというようなポカは考えにくい。

 浮島が小さい可能性があるか。

 ロストアイテムの飛行船の能力を国が把握出来てない可能性もあるか。

 だから様子見のためにいきなり叙爵ではなく、卒業後という段階を踏むわけか。

 

 来年度の学園には、王太子殿下や有力貴族の子息達も入学してくる。

 目を付けられたくないしどうしようかと考えていたが、このバルトファルト卿のほうが遥かに目立つな。

 このホルファート王国は冒険者が1番尊敬されるし、貴ばれる。

 王国の真髄の体現者だからだ。

 こいつがいれば、国境争いの俺の戦果なんか吹き飛ぶわ! 

 既に王都では、ヘルツォーク子爵家の事なんか噂話にもなってない可能性まである。

 噂に伝え聞く上級クラスの女子ならこうだな。

 「え、あぁ、なんか小競り合いで手柄立てたとかいう…… 貴族だっけ? アルフォ○ト? みたいな」

 「キャハッ! マジ、いとお菓子☆」

 うん学園に入学する頃には、上級年クラスの女子からはこんな扱いだな。

 いや、お菓子じゃねーよ!?

 こんな具合に学園に馴染んでいく感じだな。

 

 などと考えながら、弟のエルンストと訓練でもするかと思い、まだ新聞を読んでるので声をかけようとした時、俺の脳天から脊髄に掛けて雷が走り落ちた。

 

 マルティーナの嫁ぎ先の超有力候補じゃね!?


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