乙女ゲー世界はモブの中のモブにこそ、非常に厳しい世界です   作:N2

103 / 153
一般的な犬様、霧空様、誤字報告ありがとうございました。
一般的な犬様、礼を述べるのが遅れてしまい、申し訳ございません。

この場面は何か長いです。更新が遅れてしまいました。


第92話 謁見の間 ―再現不可能―

 謁見の間に集まる貴族達の数は、叙爵式や勲章授与式と比べると段違いなほどの少なさであった。

 国境を接する貴族達は防衛対応で出席が出来ず、王国本土の貴族達は、逃げ出した者達や自領に籠り様子を窺う者達が多いためだろう。

 俺自身はもう既に後の対処はリオン任せであったため、ぼんやりと居並ぶ貴族達を眺めている。

 

 「なぁ、前にも言った通り王家の船って愛で動くから、リックと婚約者達ならどうかな? マリエがお馬鹿ファイブにあんな暴言吐いたせいで、まったく期待出来ないんだけど…… あいつら5人共浮かない顔しているし」

 

 リオンが小声で周囲に聞かれないようにそっと話しかけてきた。

 

 「おいおい、ティナは本家ヘルツォークだし、クラリスとイーゼは新ヘルツォークだよ。それに王都には絶対に来させない。ニアだけであれば何とか守れるだろうけど複数は厳しい。他を当たって」

 

 そんな不思議システムを頼りにしてまで、俺は彼女達をこんな絶望的な局面に晒すわけにはいかない。

 

 「くそ、ルクシオンですら倒せない超大型モンスターを倒せる愛! 何処かに転がっていないかな」

 

 パルトナーではなく、ルクシオン先生で倒せない、か……

 愛ねぇ、コンビニで298円で売っているわけではないからなぁ。バトルファイトさんも無茶を言う…… 失礼、噛みました。

 

 「リオンとアンジェリカかオリヴィアさんでいいんじゃないか?」

 

 「え! 嫌だよ。動かなかったら物凄い微妙な空気になるだろうし、もしそうなったら俺は立ち直れる気がしない。そういうのは外野から見て楽しむ方が良いに決まってるし――」

 

 こいつ、俺とクラリス達を見て楽しもうとしてたのか。

 

 「――リックはラファだから、ナルニアさんとでもワンチャン有り得るだろうか?」

 

 リオンがブツブツと何か考えだした。俺の名前とニアの名前以外聞き取れなかったが、まさかニアと試せとか言うんじゃないだろうな。

 

 「おい、ニアとも試さないぞ」

 

 「ぐっ、ちょっと試すぐらい良いじゃないか…… あっ!? お前もしかしてナルニアさんと浮気したんじゃないだろうな! バレるのが怖いのか!」

 

 リオンが爆弾を放り込んできた。しかも声が微妙に大きくなっている。

 疎らとはいえ周囲の貴族たちもチラリとこちらを窺い出していた。

 

 「こら、2人ともいい加減に話すのを止めて静かにしろ。ここは謁見の間だぞ」

 

 「リオンさん、めっ!」

 

 アンジェリカとオリヴィアさんから注意されてしまった。オリヴィアさんは、端にリオンを構っただけっぽいけど。

 そう、謁見の間という事は、もちろん壇上の椅子にはミレーヌ王妃陛下とローランド国王陛下、もとい糞陛下が鎮座して此方を睥睨している。

 もうあいつがいる時点で、真面目にやる気が無くなってくるのが不思議だな。

 帰って寝たい。

 

 「随分と人が少なくなったものだな――」

 

 逃げ出したのは貴族や騎士はもちろんだが、実際には兵士達すら逃げ出した者も多い。

 俺も名誉准将に任官されて、王宮直上防衛艦隊の司令官に任命されていなければ、新ヘルツォーク領で本家ヘルツォークの作戦成功を祈りつつも、クラリスとヘロイーゼちゃんとイチャラブしていただろう。

 まぁ、ミレーヌ様と糞陛下との話合いで、結局新ヘルツォーク子爵領も招集されたから無理だけど。

 

 「だが、この場に残った者達こそ、真の勇者達である! 公国は卑劣にもモンスターを従え、王国領に侵攻してきた。諸君! 今こそ命を賭ける時! 卑劣な公国に立ち向かうため、我々は一丸となって戦う必要がある! バルトファルト子爵、前へ!」

 

 謁見の間に集まった貴族達が訝しむ中、リオンは謁見の間に敷かれた赤い絨毯を歩き、糞陛下の前で跪き頭を下げた。

 

 「この危機的状況に際し、私は君を総司令官に任命する。若いと侮る者もいるだろう。経験不足と信用しない者もいるだろう。だが、この状況を打開できる力を持つのは子爵だけだ。バルトファルト子爵、この戦い…… 勝てるか?」

 

 糞陛下のくせに、声の抑揚の付け方や間の使い方が絶妙に上手い。お飾りだけに徹していればいいが、変に賢しいから余計に腹が立つな。

 

 「陛下がそう望まれるなら」

 

 リオンの返した答えに周囲がざわめきだす。  

 

 「若造が」

 

 「口だけは一人前だ」

 

 「う~ん七十点」

 

 「どこかで聞いたような台詞だな」

 

 確かにどこかで聞いたような台詞だ。周囲の貴族達の評価は微妙かもしれないが、糞陛下の芝居がかった問いには、場の雰囲気に合わせたそれなりの返答だとは思う。

 おっさん幼女も現場の上官に対して、己自身を信用させた台詞は、あれをもっと丁寧に硬くした感じだったな。

 

 「……そうか」

 

 何か糞陛下がイラついた感じになっている。周囲の反応を持って行ったリオンが気にくわないのかな?

 ミレーヌ様は特に反応はないが、目を細めてよく見てみると頬に少し赤みが差している。

 何だ!? 陛下、両陛下として言葉尻を捉えて照れてでもいるのだろうか? リオンめ、上手いことやりやがった!

 

 「バルトファルト子爵を総司令官とし、これより公国に決戦を挑む!」

 

 糞陛下が周囲を睥睨しながら厳かに宣言した。

 しかし、そこに異議を唱える者が現れた。豪華な衣装に身を包んではいるが、目の下には濃い隈を作り、更には頬も痩せこけている。

 ヘルトルーデ王女殿下と特に仲好しなフランプトン侯爵か。

 下心を持って援助交際のパパ役を買って出たら、モンスター群に加えて、超大型モンスターなんていう美人局にあったもんだから、あのやつれ具合も無理もないかな。

 

 「お待ちください陛下! このような成り上がりを信用してはなりません。こやつは反逆罪を問われています! このような者の下で戦えというのですか? 我らを愚弄するおつもりか!?」

 

 フランプトン侯爵、結果的に本家ヘルツォークのためにはなったから嫌いではないが……

 

 「そうです。ここは公国と交渉をするべきです」

 

 「私にお任せください。必ず公国との交渉を成功させて見せます!」

 

 「そのような者に頼るなど間違っています!」

 

 明日か遅くとも明後日には、公国本国の意思決定機関は燃えているか粉微塵、残っていても悠長に交渉する意味も必要性も王国には無いと気付くだろう。

 俺も含めて誰もが公国の戦力を見誤ったとはいえ、結果的にフランプトン侯爵はやり過ぎたな。

 切羽詰まりながらも息巻くフランプトン侯爵派閥の貴族達に対して、冷徹な眼差しでもってミレーヌ様が口を開いた。

 

 「見苦しい真似はお止めなさい。子爵は反逆者ではありません。罪を捏造したのは貴方達でしょうに。それに何より、総司令官に任命したのは陛下です。逆らうというのですか?」

 

 しかし、よくもまぁリオンは根回しが出来たものだ。お義父さんもだいぶ骨を折っていたようだし、実はリオンには隠された政治力でもあったのだろうか?

 

 「何と! そのような物言いは王妃様とはいえ許せません! このような状況では、我々は一丸となって戦えませんぞ! しかも聞くところによると、この王宮直上の防衛艦隊の司令官は、そこのヘルツォークの小僧だというではありませんか! またしても若造の成り上がりとは! 若造共の下で我々にどうやって戦えと!?」

 

 俺にも飛んできた! 

 確認するように糞陛下の方を見ると目が合ってしまい、まさかの顎クイッ!?

 あいつ、絶対楽しんでるかさっきのリオンとのやり取りで、謎の不機嫌状態になっているな。

 はぁ、面倒臭っ……

 

 「おや? では代わって頂きましょうか。王宮直上防衛艦隊司令官をフランプトン侯爵に。いやはや、爵位上であれば、侯爵にも何ら問題ありますまい」

 

 顎クイッって事は、フランプトン侯爵の相手を俺に任せるという事だろう。じゃぁ面倒臭いから俺に代わって戦場で指揮を執って貰おう。

 さて、フランプトン侯爵、アトリー邸でクラリスから名前が挙がった時から調べているよ。

 フランプトン侯爵、王国本土の有力貴族、財力もあれば権力もある。

 ただし、そもそも領自体が圧倒的に実戦経験が足りない。20年前のファンオース公国侵攻戦も出陣無し。本人も若い時に戦争のようなものを経験したのみ。冒険者としての活躍もここ数代はまるで無し。

 そして、オフリー伯爵が必死に献金していた派閥の黒幕。上手く自派閥とオフリーの繋がりを処理したとはいえ、金蔓を潰した俺の事もさぞかしお嫌いなのだろう。

 

 「ぐっ…… いきなりでは軍の編成上にも問題が――」

 

 「編成は終わっていますよ侯爵。今少しの期間、訓練に時間を割けば直ぐにでも使い物になる筈です。私は新興の子爵、仰る通り成り上がりの若造です。侯爵ほどの人物であれば喜んで任をお譲り致しましょう」

 

 ごちゃごちゃフランプトン侯爵が述べる前に被せてやったが、こっちは言葉通りに喜んで代わってやる。エルンストの臨時野戦任官も即時解除してやるさ。新ヘルツォーク領ももっと後ろに下げさせてやれる。

 大丈夫、どさくさに紛れてしっかりと名誉の戦死にしてやるさ。 

 寧ろ代わってください! お願いします! 心の中で頭を下げてお願いしてみた。

 

 「王国軍内の正式な任命だ。任命に際する裁可も私のサインがある。諦めよマルコム」

 

 ちっ、お前が諦めてくれ糞陛下!

 あの野郎、こちらを見てニヤリと笑いやがった!? ぐぬぬぬぬ! 俺の思惑に気付けていやがる。

 

 「迎撃に防衛と全て十代のガキに任せると!? それは――」

 

 興奮で赤を通り越して青みがかってきた侯爵の言葉は、一発の銃声が謁見の間に鳴り響いて掻き消されていった。

 薬莢が床に落ちる音が響き、それを切っ掛けに音がした方向を貴族達が一斉に向き出す。

 そして、まるで銃声が合図となるタイミングで、謁見の間へと衛兵とレッドグレイブ公爵家の家紋を付けた騎士達が雪崩れ込んできた。

 リオンがレッドグレイブ公爵を見ると、問題無いと伝えでもするかのように小さく頷いている。

 あら過激! などと思ったが、リオンのシナリオ通りという事か。

 俺の件はただのとばっちりじゃないか。

 

 「その汚い口を閉じろ、ゴミ共が」

 

 俺、その中に含まれてないよね? 

 ローランドは含んでもいいよ。あ、糞陛下は少し不機嫌さが増したように見える。

 

 「な、何だと! 衛兵! 何をしている。こやつを直ぐに…… なっ!? 何だ?」

 

 衛兵達は、先程陛下に直訴していたフランプトン侯爵派閥の貴族達を捕らえていっている。

 俺の方に来なくて、少しホッとしたのは内緒にしておこう。

 

 「公国と裏で繋がり、王国を危機に陥れた。反逆罪で捕まるのは俺じゃない。お前らだ」

 

 衛兵の手はフランプトン侯爵にまで伸びている。

 

 「ふ、ふざけるな! どうして私達が反逆罪なのだ! 私達は国の為を思って行動してきた。お前のような若造に何がわかる!」

 

 「その若造に負けたから取り押さえられているんだよ。お前の言う通り俺はただの若造さ。だけど、そんな若造に国の中核で働く人間が負けたら駄目でしょ」

 

 「負けるだと!? 何を言うかと思えば、そもそも公国と繋がっていた証拠など何処にあるというのだ! 陛下、これは奴の戯言です! このような言葉に耳を貸してはなりませんぞ!」

 

 何故か写真はあるというのに、録音する機械というか魔道具がないこの世界。バーナード大臣とて紙ベースの証拠は押さえられなかった。

 あの頃からルクシオン先生が、フランプトン侯爵を張っていたとは思えないが果たして……

 ローランドは冷たい眼差しで、一瞬フランプトン侯爵を見た後は、この騒ぎの反応を確認するかのように周囲の貴族達を睥睨している。

 その姿に腹を立てたのであろう、ミレーヌ様を睨んで暴言を吐いた。

 

 「お前の仕業かっ! この獅子身中の虫めがっ!」

 

 無礼討ちだな。殺そう。

 帯剣していないため、魔法を放とうとした右手をアンジェリカに押さえられた。

 

 「何で即断即決なんだ。黙って成り行きを見ていろ」

 

 「エーリッヒさん、め!」

 

 アンジェリカに窘められてしまうとは…… しかしこのオリヴィアさんの叱り方は癒されるな。リオンの気持ちがわかってしまった。

 

 「了解、でも今のは王妃陛下に対して暴言が過ぎたと思うけどね」

 

 「言うな、リオンだって酷い部分もある」

 

 「あ、あははは。まぁ、あれは場の勢いと言うんじゃないでしょうか……」

 

 アンジェリカは額に手を当てて首を振っている。

 確かにリオンは、ゴミ共が! ってローランドに言ってたからね。糞陛下に! 間違いない!

 オリヴィアさんは基本的にリオンのフォローに徹しているな。「め!」しかオリヴィアさんは、リオンを注意していないような気がする。

 羨ましいから、クラリスとティナにも俺を注意する時はそれだけにして貰おうかな。

 「め!」と言いながら、俺の目を潰してきそうな気がする。やっぱり止めよう。

 

 「フランプトン侯爵、見苦しいですよ。貴方は負けたのです」

 

 「何を言うか! 証拠も無いこの状況で、どうやって私の反逆罪を立証する? このような悪逆非道な行いには天罰が下ると知れ!」

 

 フランプトン公爵の言葉によって、今までの間の抜けたやり取りで、ほっこりとしていた気分が急速に冷え出していく。

 

 「……天は罰しないよフランプトン侯爵、どの世界も人が人を何某かの都合で勝手に罰するだけだ」

 

 お天道様の下を歩けない? 違うだろう、本当に悪逆非道な人間ほど、お天道様の下を堂々と歩くものだ。

 周囲の派閥連の貴族達もフランプトン侯爵と同じように騒ぎ出しため、俺の呟きは搔き消されてしまい誰にも届かなかった。

 

 「そんなに証拠が欲しいのか?」

 

 さして面白くもない人形劇を見るかのように冷めだした俺を、リオンの声が謁見の間の中央へと視線を誘導した。

 なるほど、ローランドにミレーヌ様、レッドグレイブ公爵と更には、バーナード大臣も人形劇を見ているような感覚なのだろう。

 その理由が、フランプトン侯爵派閥達の内々の会議映像として、立体的に浮かび上がっていた。

 立体映像の出現に謁見の間が騒然とし出す。それはそうだろう。こんな3次元立体映像なんか前世ですら見たことがない。

 それなのに先程挙げた人物達は平然としている。

 魔法を理由に片付けられないような物まで披露して、今後お前の安寧がこの王国内にあるのだろうか? ルクシオン先生はリオンに言われるまま、全く其の辺りを気にしなさそうだが。

 

 「残念だ。非常に残念だ。俺は心優しいから、この場で一丸となって戦ってくれるのなら許してやるつもりだったのに。最後の機会を逃したな、フランプトン侯爵」

 

 反逆罪でお家取り潰しの方が、ミレーヌ様的には国庫にわんさかと入ってくるので嬉しいような気がするが。

 

 「な、何を! 陛下! この者を止めてください! こやつ、謁見の間に銃を持ち込みましたぞ! こやつは危険です! 陛下もわかっているは筈…… こやつは野放しにしてはならんのです! このようなまやかしに騙されてはなりません!」

 

 魔法があるこの世界の住人達にすら、まやかし扱いされるこの謎技術。

 映し出されているのは、フランプトン侯爵の派閥のみだが、彼等に賛同していただけの中小の派閥連は、これでレッドグレイブの派閥寄りに鞍替えするか、中立派となるか…… 

 

 『侯爵様! 王妃様がバルトファルトを総司令官に推薦したという情報が入ってきました!』

 

 立体映像が動き出し、そして音声が謁見の間に響き渡るのを聞いた貴族達が驚愕を露わにする。

 音声までもか、もうこれでこんな場面まで記録を可能としてしまうリオンに対して、将来的に表立って逆らう貴族はいなくなるだろうが、頭を無理矢理押さえつけられた貴族は暴発する可能性も高い――

 

 『あのような小僧に篭絡されるとは情けない。多少有能とはいえ、若い燕のおねだりを御し得ない所など、結局はただの女という事か。陛下は王妃を寝取られているというのに、未だに尻に敷かれて情けない限りだ。それにしても公国が密約を破るとはっ! そのせいで多くの同志を失った……』

 

 ――場合によっては王家からも…… って何!? 若い燕! 寝取られただと!?

 リオンがミレーヌ様に枕営業を掛けたというのかっ!! 

 じぃっとリオンを睨んだら、気迫に気づいたのかそもそも音声内容を見ている貴族達に否定しようとでもしたのか、首を大きくブンブンと振っている。

 俺じゃないな、リオンが見ているのは…… アンジェリカとオリヴィアさんか! うぉっ!? 2人の目付きと雰囲気が怖い。

 糞陛下の表情は微動だにもせず、ミレーヌ様は冷気を発しそうな眼光で、フランプトン侯爵を射貫いていた。

 どうしよう。冷めた気分は復活したが、この場をさっさとやり過ごして、リオン達の修羅場を見物した後に、こそっとミレーヌ様との関係を問い詰めたい。

 

 「フランプトン侯爵の物言いは酷いが、でも確かにリオンとミレーヌ様は、関係がそこはかとなく怪しいよなぁ」

 

 「お前もそう思うか」

 

 「リオンさん、ミレーヌ様と会った後は数日間凄い機嫌がいいんです!」

 

 やばっ、思いの外、俺の呟きが大きかったみたいだ。

 アンジェリカとオリヴィアさんの雰囲気が、さっきよりも一層悪くなってしまった。

 リオンには、恋愛事のスパイスとして噛み締めて貰おう。

 

 「案外ミレーヌ様も満更じゃなさそうなんだよね」

 

 これは嫉妬ではない。ニアの件の爆弾の報復でもない。

 現在婚約者がいる身、そして前世で離婚経験がある先輩からの試練だと思って貰おう。

 

 「ほう! それはリオンに詳しく聞きたいな」

 

 「リオンさん! めっ!」

 

 だよねぇ、しかし、その「めっ!」の迫力には全く癒されないな。

 

 立体映像に映るフランプトン侯爵が、壮年の貴族の問いに答えるように、またもや喋り出していた。

 

 『今後はヘルトルーデ殿下とヘルトラウダ殿下を交渉材料にしろ。奴らは殿下達と魔笛をどうしても取り返したい筈だ。陛下には内密に事を進めるのを忘れるなよ。それから奴に、バルトファルトの好き勝手にさせるな。殿下達すら知らない公国の切り札は計算外だったが、奴も同等かそれ以上に危険だ。いざとなれば、陛下に責任を取って貰い公国とは手打ちだ』

 

 俺も糞陛下には責任を取って貰いたい。長年に渡る本家ヘルツォークの事とか、二度に渡る新ヘルツォークの招集の件とか。

 それよりも俺はさっきまで何を考えてたんだっけ? ミレーヌ様NTR事件で、積み重ねた思考が吹っ飛んだまま帰ってこない。

 

 「う、嘘だ! こんなのはデタラメだ! こやつの見せる幻だ! こやつは私を罠に嵌めようとしているのだ!」

 

 リオンは銃口をフランプトン侯爵の額に押し付けて、蔑みの笑みを浮かべ出す。

 

 「お前は馬鹿か? ここまでしているんだ。証拠がこれだけなら、陛下も王妃様も俺の行動を許さなかった。許しているという事は、それだけの証拠があるという意味だよ」

 

 リオンは懐から書状の束を取り出し、フランプトン侯爵に投げ付けるようにバラ撒くのだった。

 

 あぁ、思い出したよ。バーナード大臣すら掴めなかった書状の数々だ。要は明確な証拠だが、破棄された物は多く、直近の物は公国本国行きだろうし、戦後を考え取り交わした物や控えは自領の筈。

 リオン、王宮の貴族は馬鹿じゃない。伏魔殿の住人クラスは、寧ろ頭の出来は不可解な程良過ぎる。

 今の彼等は、見たこともない魔法なのかどうかもわからない、初めて見る映像に呆気に取られているだけ。

 その内に極短時間で、リオンのロストアイテムは、精巧な偽造が作成可能だと気付くだろう。

 武力だけじゃない、非合法で再現不可能な事務方処理能力まで披露するという事は、王宮貴族達全員を恐怖の底に叩き落とすという事だぞ。

 我が友人は王家や王宮を傀儡にして、ホルファート王国を裏から支配でもするつもりなのだろうか。




長い場面なので切りました。
次話に続きます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。