乙女ゲー世界はモブの中のモブにこそ、非常に厳しい世界です 作:N2
じゃあ教えてくれよ、この怨恨の深さを破壊する方法を。
ふざけてみた(笑)
誰がギギのセリフを言うんだろう?
風雲急を告げたかのような会議は終了し、ミレーヌはヘルトルーデとの話し合いがあると言い会議出席者を退出させた。
リオンは執務室にて最終確認を行うために、廊下を俯きながら無言で歩いていた。
執務室に入室後、ルクシオンが姿を現し、未だ気分の冴える様子を見せないリオンに話掛ける。
『マスター、例え直接手を下さずとも言葉で人は殺せます。戦争では命令によって部下が敵を殺します。指揮官として今回の戦争指導の立場にある人物達のその手は、戦後において汚れていないと果たして言えるのでしょうか? 私には概念的で主観が大きく作用するその手の議論は判断しかねます。手、だけに』
「いきなりどうした? まぁ、命令した側も人殺しは変わらないという事か…… ていうか何だ最後のは? まさか冗談じゃないよな」
いきなりのルクシオンの問いかけにリオンは吃驚してしまうが、殺人教唆という刑法における罪の存在も前世において聞いたことがあるので、ルクシオンの言葉は素直に理解出来たが、最後のルクシオンのふざけたような冗談によって、その理解も霧散してしまった。
『……マスターが気にされるので、戦争指導に関する責任という件を伝えるのは躊躇われましたが、言わずとも現状において、悩みを抱えたまま戦場に出るのは危険ですので申し上げました。最後のはAIジョークです』
「お前の冗談は笑えないんだよ! だからといって、あのリックの…… ヘルツォークの所業を納得しろだと? まさか! リックはここにいて命令を下しただけだから関係が無いとでも!? そんなの簡単に納得出来るかよ……」
エーリッヒの事だと真っ先に考えたリオンは、実は自分が該当するという事を失念してしまっている。
『良かったですねマスター』
「ここに来てまた、いきなり何だよ?」
リオンはルクシオンが何を言いたいか解らず、小首を傾げるような反応をしてしまう。
『マスターが嫌がる人殺しをエーリッヒが、ヘルツォークが肩代わりしてくれました。ヘルツォークが戦争終結のための大量殺人をしてくれたのです。王国やマスターの代わりに。これはマスター自身の好み通りでは? ご自分の手を頻りに汚したがらないマスターにしてみれば、この結果は御の字の筈です』
ガツンと思い切りルクシオンを殴りつける音が辺りに響いた。
余りの反射的激憤により、リオンは魔力での身体強化すら失念している。
「ぐっ!? 糞っ! んなわけないだろうがっ! それだと俺はただの屑野郎って言いたいのか!!」
『気は済みましたかマスター? エーリッヒもこの戦争で、親しい、敬意を抱く人物達が四千人以上死んでいます。ただの知人程度ではありません。双方が互いに敬意を抱いている関係性です。彼の悲しみも理解されてはどうですか? それすらも理解できないのであれば、屑野郎ではなく鬼畜野郎と言われても致し方ないのかと…… さて、先程の質問に戻りますがマスター、直接殺さないからと言ってそのマスターの手は、果たして綺麗なままなのでしょうか?』
「解っている! 今回戦争指導の立場にある総指揮官の俺には、王国兵の死にも公国兵の死にすらも責任が発生するってな! 巻き込まれる住民達にさえ…… 糞っ、だから戦争なんか嫌なんだ。俺だって総指揮官になんかなりたくなかったよ。でも王国の上の連中は、全く頼りにならないから仕方が無いじゃないか!」
そう、リオンは理解していたが、反射的に己自身の心を守るためにその理解を拒否してしまっていただけであった。
『マスター、私は別に責めているわけではありません。マスターには私がいるのです。ご家族や親しい人物だけ連れて、王国から逃げる事を以前にお勧めした筈ですが…… 顔も知らない王国の人々が、これ以上死ぬのが嫌だったのでしょう?』
「そうだよ! それの何が悪い! 自然な感情だろうが!」
逃げる道を選んでも後悔する、夜もまともに眠れなくなるのではと考え、リオンはこの戦争に参加、王国側の主導的立場を選んだのだ。リオンが尊敬する師匠と呼ぶ、マナー講師の存在もリオンの中では大きい。
『エーリッヒにとっては、公国民数万、果ては数百万よりも、ヘルツォークの民一人のほうが価値が重いのです。人の命の価値は個々人によって決して等価ではありません。人工知能の私とて、命の価値に関しては同様の思考プログラムです。マスターの無事が何よりも先ず優先されます。この世界の人間全てが滅びようともマスターの生存が最優先です。仮にマスターは、オリヴィアと顔も名も知らない王国民一人しか助けられない場合、どちらを助けるのですか?』
「……リビアに決まっている」
リオンの中で勿論決まり切ってはいるが、何とも答えづらい嫌な質問をルクシオンはしてきた。
『では、オリヴィアと顔も名も知らない王国民百人では? 流石に数が多いので、王国民を助けてオリヴィアを見捨てますか』
「助けるにっ! リビアを助けるに決まっている…… そんな選択をしたくないからっ! 今回戦うんじゃないか…… だから! 俺は総指揮官になったんだよ。そのためにチートのお前がいるんだろうが……」
ルクシオンのその言葉にリオンは激昂を露わにしてしまった。そしてルクシオンを頼ると暗に述べている。それ自体はルクシオンも構わないし、寧ろ望んでいる事でもある。
『……であれば、マスターにはもっと前以って事前に動いて欲しいものですね。この世界がマスターやマリエの言う乙女ゲーの世界だというのであれば、とどのつまり公国が戦争を仕掛けてくる事は、マスターの中では周知の事実であった筈。ゲームとやらのイベントに関わったのであれば、遅きに失しようとも修学旅行時のファンオース公国との不意遭遇戦以降、いくらでもやりようがあったと推察します』
「俺にわかるかよそんな事。……具体的には?」
分からないと言いながらも、ルクシオンの推察には興味を惹かれてしまう。しかしそれは、決してリオンが望めるような推察にはならないだろう。
『私の機能で公国に忍び込み、戦争強硬派の首脳部を拘束、若しくは抹殺。王国との和平派を台頭させるのです。その過程でマスターの存じ得なかったヘルトラウダ第二公女も知る事となったでしょう。フランプトン侯爵派閥とファンオース公国の繋がりの証拠も、あの不意遭遇戦後は十分に得られます。あの時点のみで彼等を失脚させる事も可能でした。これで王国と公国の戦争は回避できます。暫くは』
「そんな大仕事を俺とお前だけで出来るのか? そんなことは無理だろう。それに暫くって何だ? そこまでやって、まさか!?」
目を見開き驚愕で震える。リオンも気づいたのだ、その時点での工作、いや、どの時点での工作であろうが、結果としてファンオース公国という国が止まることは無いという事を。
『私の機能であれば何も問題ありません。しかし、和平派も数年で衰退して強硬派に追い落とされるでしょうが。公国は国民感情から述べてみても王国との戦争を望んでいます。貴族であれば況や。将来的に相争う両国間の関係に戻るでしょう。しかし、今回のような双方に数百万の死人が出るような戦いは、
「それだと結局!? 結局、やっぱり変わらないのかよ…… それじゃぁ、ただの先送りじゃないか」
この世界の貴族であるリオンは、結局としてファンオース公国との戦争に関わると言われたようなものであった。そして死人を量産する片棒を今後も担ぐと言われたような気がしてならない。
『先送り、マスターのお家芸の一つですね』
リオンは殴ろうと拳を握りしめたが、未だ痛いので拳を下ろしてデコピンをルクシオンに試みてみたが、今度はただ指の爪部分を激しく痛めるだけであった。
『公国を沈めてしまえば、戦争は起こりません。そして王国の民も死にませんでしたが? マスターにとってそれはお嫌なのでしょう?』
「あ、あぁ当たり前だっ! そんな大量殺人をお前にさせられるか!? それに、そもそも将来に戦争を、犯罪を起こすからと言って、その片方やそいつ自身を前以て滅ぼすというのであれば……」
将来の原因で以て裁く、要はその原因を取り除くというのは傲慢に過ぎる。それは神すらも躊躇う所業だろう。
『新人類は全てが等しく滅ぶべきという事ですね。理解して頂けたようで何よりです』
「出来るかっ! 糞っ、どうしたって公国とは戦争する未来しかないじゃないか……」
その推察に沿う未来でさえ、リオンは歯噛みして大いに後悔してしまいそうだと思ってしまう。
『ですので今回の件、双方被害が甚大なのでベストとは言えませんが、公国の国体解除の公算が大きいヘルツォークの功績は、ベターと言って差し支えないでしょう。しかもファンオース公国首都撃滅に関する責任をマスターが負う必要はありませんし、エーリッヒやヘルツォークとてそれは望まない。王家や王宮、ヘルツォークに任せるのが筋というものです。マスターは変に余計な事を気負わず、超大型の対処に全力を注ぐだけで問題ありませんよ』
「い、いちいち嫌味が多いんだよお前は。しかも今回は特大過ぎる。はぁ、……王都外れの湖で迎撃だが準備は?」
『急がせましょう』
とても今すぐに理解も納得するのも難しい事案ではあるが、会議後の行き場の無い鬱屈とした気分から、少しは解放されたリオンであった。
☆
「エト、ヘルトルーデ殿下とヘルトラウダ殿下は新ヘルツォーク領艦隊に収容は出来たか?」
会議から足早に王宮直上防衛艦隊の真下に着いた俺は、光魔法で信号を送りエルンストに小型艇で迎えに来させていた。
「ヘルトラウダ殿下のみですね。ヘルトルーデ殿下はミレーヌ王妃陛下と話があるとの事で、固く拒否されてしまいました。時間もそうありませんので、ヘルトラウダ殿下一人です」
「まぁ、良いだろう。最悪どちらか一人は生きていて貰わなければならない。お前はニアと共に新ヘルツォーク領五隻で待機。エトには勿論、鎧部隊の指揮を任せる。艦隊はパウルに任せればいい。緊急を要する場合の指示は僕が光魔法で出す」
公国本隊に対する降伏勧告に際しても、空に両殿下のどちらかがいれば行うことは出来るだろう。
「か、閣下は一人で王国軍を指揮しながら最前線で戦うのですか!?」
反射的にではあるのだろう。俺の袖を掴んだナルニアを優しく諭すように微笑みを向ける。
「新ヘルツォーク領五隻は落としたくないからね。エトの力が必要だ。それにニアをそんな場所に連れていけるわけがないだろう? パウルの旗艦で大人しくしていてくれ。何、それなりに僕は慣れているよ」
本来的な最前線ではないが、ナルニアの言う通り部分的な最前線ではあるだろう。本来の最前線はあくまでファンオース公国本隊迎撃艦隊側だ。
王国軍の旗艦に到着した俺は、小型艇側に立つエルンストの方へナルニアを優しく押し戻す。
「ナルニア准尉、義兄上なら大丈夫でしょう。義兄上、ご武運を」
「同じ戦闘空域にいるんだ。情けないが場合によっては助けを求める。その時は頼むぞ。新ヘルツォーク領艦隊の鎧も艦上待機はしておいてくれ」
「任せてください」
エルンストと敬礼を交わして小型艇が離れていくのを見送った俺は、そのまますぐさまブリッジに向かった。格納庫に鎮座しているダビデの周りに集まる王国兵の様子に笑みが浮かんでしまう。
ダビデも有名になったもんだ。
「こっそり触るぐらいは気にしないんだがな」
おっかなびっくりといった様子の彼等には、これから戦争を行うという緊張感の良い気晴らしにでもなってくれればいいがね。
「公国軍の王都強襲別働艦隊の位置は?」
ブリッジに到着した俺は、開口一番にファンオース別働艦隊の所在を確認した。
「2時方向、距離一万五千。どうされますか?」
「第一種戦闘配置に付け! 急げよ。鎧は全機艦上待機へ移行せよ。艦隊は左右へ十四隻ずつ展開、敵艦隊よりも高度を維持。お行儀よく待っている必要はないからな。全艦艇へは私が光魔法で信号を出す」
俺が言うや否や王宮直上防衛艦隊に信号を放ち、艦隊は隊列を整える様に空を蠢き出す。
「攻めてくるのを察知することが出来さえすれば、防衛側は態勢を整える事が出来る。敵さんに砲弾という授業料で教え込んでやれ!」
「「「「「了解であります!」」」」」
未だ彼等の覇気は満足できるものでは無いが、艦隊の動きそのものはそう悪いものでは無い。
まぁ、及第点をあげることは出来ないが、あのどん底の士気からを思えば、相当マシな部類になったと言えるだろうな。
エルンストの功績に加算しておいてやろう。
☆
敵艦隊が目視できる距離となってきた頃、まだ貴族街、旧王都地区にまで到達していない王都強襲別働艦隊は動きを見せだしていた。
「准将閣下、敵艦隊は爆薬を投下しながら進んでおります! 如何されますか?」
「ほう、本来であれば王宮やその付近の主要施設に投下したかったのだろうがな。我々を見て早々に投下の判断を下したか。我々は敵艦の爆薬投下まで気にする必要はない! 王都やその周辺の避難は既に別部署が行っている。我々は彼等の侵入を阻止、撃滅を念頭に置いておけばいい。艦隊砲撃戦移行後、鎧は全機敵鎧の迎撃に当たれ。我々の艦隊を抜かせるなよ」
爆薬を投下して軽くなった敵艦隊が徐々に高度を上げつつこちらに差し迫ってくる。
対する王宮直上防衛艦隊も砲撃態勢を整えたまま、じりじりと高度を上げながら前進する。
「敵艦隊広がりを見せます!」
「迂回させるなよ! 両翼四隻ずつ開いて展開! 砲撃を叩き込んでやれ! 鎧部隊は左右に二個大隊ずつ展開しつつ、迂回しようとする艦艇を四隻と共に迎撃! 残り六個大隊は正面射線上の上空で待機、敵鎧が出てきたら迎撃せよ!」
既に両翼では砲撃が始まっており、八の字を構成しつつも中央寄りに残った王国軍二十二隻と敵艦隊も同数が睨み合っている。砲撃態勢を先に整えたこちらに対して、彼等はこれ以上向かって来れないのだ。
「艦長、私も出る。敵艦隊正面を少し突いてやるさ。私が出撃したら、王国軍艦隊中央は前進、射程に入ったら構わず砲撃戦に移行しろ。味方の砲なんぞには当たらんから気にするな」
「はっ! ご武運を」
君達もな、と敬礼で返して格納庫に向かった。
「司令官が鎧に搭乗するのも本来なら不味いよなぁ。リオンは総指揮官でもアロガンツに乗るから、そもそも将官が鎧に搭乗するのも良いのかもしれないが」
「換装完了しております。何か仰いましたか?」
俺の独り言を整備員が耳聡く掴んでしまったようだ。
「何でもないよ」
今の俺はエレガント閣下だから、まぁいいかなっと。
伸縮性のあるスラックスに軍服上衣を脱ぎ、ワイシャツという姿で鎧に搭乗する。この程度であれば鎧の操縦に際して何の支障もない為、搭乗に於いては個人的に採用している。
気乗りはしないが、与えられた分の仕事はしようじゃないか。
「コードネーム
王国軍艦隊を率いるという珍妙な立場になってしまった俺は、ファンオース公国王都強襲別働艦隊へと赤色の一筋の光跡を残しながら突撃していくのだった。
やってみせろよ、リック。
何とでもなる筈だ!
ロストアイテムだと!?
前書きから引き続きふざけてみた。
第二週目と第五週目で見に行ったけど、DVDは売り切れて手に入りませんでした。
仮にリオン自身が殺さずを貫こうとも、一兵士であればそれでも良いのかもしれません。しかし総指揮官ですので、例え殺さずとも戦後は、相当に血に塗れたリオンのお手々であると私はみなしてしまいます。
\_/→ ̄\_/ ̄ こんなイメージへの艦隊の形の移行ですね。
一応参考までに。記号で書いているので、角度や大きさと実際は異なりますが。
ここから下部と八の字を水平に押し上げて、砲撃戦に移行していく命令です。