乙女ゲー世界はモブの中のモブにこそ、非常に厳しい世界です   作:N2

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ミレーヌとヘルトルーデの話し合いは、web版(なろう)では無料の原作様、第三章の出陣をご確認ください。
その内容に、拙作独自の状況を付け加えております。


第98話 王家秘匿大守護結界の崩壊

 「ここからだと距離はありますが、恐らくファンオース公国艦十二隻が不確実大破しています」

 

 「義兄(あに)上が出撃して直後とは…… まったく義兄上も容赦が無い」

 

 (しかし飛ばし過ぎでは? いや、そこまで減らさないと王国軍では危険という事か)

 

 エルンストは新ヘルツォーク領の鎧達には各艦に艦上待機させ、自身は旗艦から戦場の様子を窺っていた。艦長であるパウル・フュルストは監視員から受け取った報告をエルンストに伝える。そして監視員に光学魔力映像をブリッジに出現させて現場を確認するのだった。

 

 射程外で砲撃態勢を整えた公国艦隊中央部に対し、エーリッヒが駆るダビデが強襲を仕掛けたのだ。

 晒した砲身内へ同時に小型魔力弾頭を各々侵入させる。そしてそれらを触媒にして自身の魔力を利用し爆発を高威力にしたのだ。

 エルンストもファンオース公国不意遭遇戦で、自身が採用した戦法でもあったので理解には事欠かなかった。

 エーリッヒはそのまま艦隊を通過して、敵右翼側の背後に回り込んでいた。時折、エルンストら新ヘルツォーク子爵領艦隊にもエーリッヒが出している光魔法での信号が目視出来ている。

 

 「艦隊の片翼十二隻ずつで十字砲火態勢を形成。鎧部隊は敵鎧を撃破。王都に降下させるな。か…… 自身も鎧で戦闘しているというのによくやる」

 

 (しかし、迂回しようとした敵艦四隻ずつは迎撃に動いた王国軍両翼の各四隻を崩しつつあるな)

 

 エルンストはエーリッヒの八面六臂の行動に呆れながらも、しかし冷静に戦況を分析していた。

 敵右翼に回り込んだエーリッヒは、王国軍の四隻を崩した四隻の背後から強襲を仕掛けている。小型魔力弾頭で不意を打った後、魔力シールドを展開した艦は無視して高威力ライフルで敵鎧を撃破している。

 魔力シールドを展開した敵艦は、王国軍の十字砲火に晒される結末を迎えていた。

 

 「敵右翼が優勢だが、中央は壊滅、敵左翼は満身創痍…… 味方右翼が敵を抜けて背後を突く、いや背後は無理か。射線に入らないように精々が側面といった所だろう。若しくは下がりつつ味方左翼の厚みを増せば問題無いといったとこ…… 何!?」

 

 周囲に未知の魔力反応が充満し出したのをエルンストは感知する。

 

 「空間? 王城と王宮か!?」

 

 エルンストが声に出した場所、王城と王宮全体、付近の主要施設に貴族街の一部を包み込むような光のベールが現出した。

 

 「こ、これは!? 六ヶ所から発する、結界か! しかもこんな強力なも…… なっ!? 痛ぅぅ、一体何なんだ!?」

 

 高さ30,000Ftにも及ぶような六芒星の大結界は、突如としてガラスを引っ搔くような不快な大音量を発して消え去るのだった。

 

 

 

 

 「あははははははは! ローランドの慌てふためく顔が目に浮かぶ様じゃないか!」

 

 王家を守る強固な大守護結界パラディース(楽園)

 避難の避の字も見せず、あそこまで頑なに王国、ひいては王家が傲慢だったのは存亡を揺るがす非常時には、自分達は必ず守られる、常に守られているという守護結界による驕り故という事だ。

 一瞬発動したのは、地下に存在している機構各部に残る残留魔力だろう。

 だが、主要なそれ単体ですらロストアイテムクラスの魔石六つ、いわゆる賢者の石は苦労させられたが、もちろん俺が回収している。

 

 「ザナの奴に感謝だな。……ははっ、先代ホルファート王も草葉の陰で泣いているだろう」

 

 悔恨の涙だろうがね。しかもご丁寧にザナに記録上病死させられた哀れな男だ。

 建国期から続く古い貴族家には御伽噺程度で残っている眉唾ものの大守護結界だが、これがある為にこの大陸に乗り込んできた多数の冒険者を跳ね返し、そして従える事がホルファート始祖五家に出来たという一品の一つ。

 これの欠点は、六角の頂点に配置されている賢者の石が、王宮外の地下にあるという事だ。

 元々発見した範囲に王城や王宮を配置したのか、若しくは建築後に組んだのかは知らない。

 まぁ、恐らくは前者だと思うがね。

 

 「だからこそ、王と王太子にしか伝えられない秘伝中の秘。あの女郎蜘蛛はこんなものまで聞き出して、一体何をしたかったんだろうな」

 

 先王を毒殺して息子の俺に毒殺される…… あの女は神話にでもなるつもりだろうか?

 だがまぁ、楽園が潰えた今の姿を歴代のホルファートにも見せたいものだな。

 

 「僕への嫌がらせの仕返しといった所だな。今の所は……」

 

 戦闘中でもあるので思考は早々に切り替えながら、光魔法信号で王国軍右翼を誘導して敵右翼側面に回るよう指示する。

 鎧部隊はそのまま敵鎧と交戦させ、王国軍中央に残した二隻で、落下した敵艦及び鎧の公国兵を制圧するように続いて指示を出す。

 

 「被弾して地上に退避した王国軍兵、及び降下した王国軍艦も降下した公国兵を制圧せよ! 自暴自棄な略奪や逃走を許すな! いいか! 手間を掛けるなよ。()()、するんだ」

 

 さて、ヘルツォークでは通じるが王国軍はどうだろうか?

 要は動きを封じるために、敵兵の生命活動を止めてしまえば良いだけの話なんだが。

 

 「艦隊は素早く移行しろ! 残りの正面を抑えつつ側面から砲弾を浴びせてやれ!」

 

 公国正面十隻も右翼側に押されるように砲撃に晒される。

 しかし、エーリッヒに沈められた十二隻の不利を覆すかのように必死の抵抗を見せる公国軍艦隊は、王国軍王宮直上防衛艦隊に甚大な被害をもたらしたのであった。

 

 

 

 

 「馬鹿なっ!? パラディースが、き、消えただと!」

 

 王宮と王城の中間点にある地下室で操作していたローランドにも異変が伝わった。もはや魔力を注いでも操作盤が起動しないためだ。一瞬発動した時の魔力が満ちる様子に加え、操作盤が停止すると同時に不快な大音量が聞こえた事も、ローランドが事態を把握した原因であった。

 

 「御伽噺だったとでも!? いや、発動した兆候はあったのだ…… 王宮魔法師に10年に一度各所を点検もさせている。異常報告など無かった筈だ…… 連綿と続く異常無しという報告通り」

 

 王宮魔法師も何を点検しているかは理解していない代物。古くからある手順通りにしか点検確認は行っていないが、大規模な魔道具だとは認識していた。内容を漏らした時点で命は無いので、誰もが口を閉ざしている案件ではある。

 ローランドは直ぐにでも確認のため六ヶ所に人を送り込みたいが、あいにくこの混乱した状況では不可能な事は理解している。

 

 「糞っ! 不味いな。本当に王宮すらも蹂躙される可能性が出てくるとは……」

 

 ローランドは真相の追求は一旦諦めて、顔を歪めながらも階段を上り、急いで王宮に戻るのだった。

 

 

 

 

 王宮の一室では、ミレーヌとヘルトルーデの対談が行われていた。

 そこでヘルトルーデは、王国側に伝わるファンオース大公家反乱の真実をミレーヌの口から、当時の賠償請求書面に講和条項文等を含めた書面、そして双方の歴史書と共に聞かされていた。

 歴史書には、ファンオース大公家は王国の敵国と繋がり唆され、何度も王国の領地を襲い略奪の限りを尽くしたという内容だった。

 最早、王国側はファンオース大公家を王国貴族として扱う事など到底叶わず、憎き敵国として扱ったのだ。

 ただし双方での全面戦争を行うには、当時は国境を接する他国の動向により難しく、また王国内の浮島領主に隙を晒すのも危険であった。

 そこで大規模な軍事施設用の浮島を用意し、フィールド家を辺境伯として、ファンオース公国国境守備を任せたのである。

 その後も結局は互いに合い争い、しまいにはファンオース公国は浮遊石を得るため、人の住む浮島を破壊する暴挙にも及んでいたのだった。

 当然、王国軍と辺境伯軍及び参陣した合同貴族軍は、烈火の如く怒りを表明し、公国を攻め立てその戦争に勝利した。

 それらに関する王国と公国の双方による、調印済みの賠償請求書面もヘルトルーデの手元に用意されている。

 そして両国は、和平の道を放棄するかのように、今日まで互いに憎しみを抱きながら争いを続けている。

 

 「本当に公国は、王国から略奪するのが好きなのですね」

 

 「違う! 公国は不当な扱いをする王国からの独立のために戦ったのよ! そもそも王国が不平等な条約なんて結ぶから!」

 

 「あらあら、綺麗事だけ聞かされて育ったのですね。傀儡としては何て素晴らしい公族なのかしら。()()()()王国は賠償を請求しただけなのですがね。公国が渋り支払いを滞らせるから、王国の怒りの矛先がヘルツォークに向かった。可哀想に…… その点に関しては、王国に非があると私個人は認めましょう。初代公王の御次男とその関係者、ヘルツォークの始祖達は冒険者足るべく偉業を成して独立を果たしたというのに。あぁ、それを見越して事前にヘルツォークを切り離したのかしら? それとも嫉妬かしら? 何にしても随分と惨い事をしたのですね」

 

 「ファ、ファンオース大公家を出涸らしとでも言うつもり!? ぶ、侮辱す――」

 

 怒りの形相でカップを取ろうとしたヘルトルーデに対し、給仕に徹しているリオンが師匠と仰ぐマナー講師が素早く動いた。

 紅茶を淹れ直すマナー講師を恨めしげに睨むヘルトルーデに対し、ミレーヌは見下ろすような冷えた眼差しで告げる。

 

 「ヘルトルーデ殿下、貴女には知る義務があります。確かに王国は公国領で略奪を行いました。ですが、そこに至る経緯を忘れてもらっては困ります」

 

 この王宮の一室にも王宮直上防衛艦隊とファンオース公国王都強襲別動艦隊があいまみえ、激突する戦場音楽が遠くから響いてくる。

 冷めた瞳で睥睨していたミレーヌの表情が、次第に冷笑に変化していった。

 

 「うふふ、でも貴女はもう()の事は考えなくても大丈夫よ」

 

 「は? どういう事かしら?」

 

 ヘルトルーデは、ミレーヌの笑みに寒々強いものが背中を走り抜ける。表情が強張りながらも毅然とするが、次第にそれも及ばなくなるだろう。

 

 「あのね! もうファンオースの首都と第二都市は壊滅してこの世にないのよ」

 

 両手を胸元の前に持ってきて、軽く手を合わせながら、にこりと小首を傾げる様は、それは大層可愛らしい姿だ。

 

 「な、何を言って……?」

 

 ミレーヌの変貌ぶりに付いていけていないヘルトルーデは、呆気に取られてしまう。

 

 「しっかりとお聞きなさい!」

 

 急遽先程の可愛らしい笑顔から一転、極寒の眼差しと共にピシャリと厳しい声色がヘルトルーデに降り注ぎ、ビクリと反射的に背筋を伸ばしてしまった。

 

 「本家ヘルツォーク艦隊の攻撃により、ファンオース公国首都及び防衛用港湾軍事施設とその背後にある第二都市は、もはや壊滅状態にあります――」

 

 「ば、馬鹿なことを!? 不可能よっ! 惑わすつもり!?」

 

 ミレーヌの言い放った内容が突拍子も無いものだと思ったヘルトルーデは、ミレーヌの言葉を遮り即座に反発を示す。

 

 「――貴女のその疑う気持ちも分かりますが、私は作戦案も見ています。ヘルツォークの偵察員からの報告もつい先ほどですが直接聞きました。今後はエーリッヒ卿の案、フィールド辺境伯領軍の派兵もレッドグレイブ公爵、バーナード大臣の連名推薦で提出もされています。この件であのヘルツォークが嘘を言う筈は無いでしょう。後々にはフィールドからも状況が確認されますしね」

 

 「エーリッヒ…… あの偽物が!? う、嘘…… では、公国は?」

 

 「国境防衛の各都市、資源採掘都市などはもちろん無事でしょう…… しかし首都と第二都市は文字通りの壊滅です。作戦案では浮島が墜とされた後、爆薬と焼夷弾の投下。最後に貴女達の所持していた魔道具、モンスターを呼び寄せる一回限りの道具だとか。首都に放たれたそうよ」

 

 「た、民もまとめて?」

 

 ヘルトルーデの疑問にミレーヌは静かに頷く。

 

 「何て非情なっ!! 王国、いえ、あのヘルツォークの偽物には、人の心が無いとでも言うつもりっ!?」

 

 激昂するヘルトルーデをミレーヌは冷ややかに見つめる。そう、彼女は単に感情が爆発しているだけであり、如何に独り善がりな発露であるかは直ぐに気付くであろうが、畳みかける様にミレーヌはその点を指摘する。

 

 「ファンオースがそれを言うつもり? 今回の侵攻で王国の無関係な民が、どれ程の犠牲になったのか想像すら出来ないのかしら? お飾りの小娘で終わりたくないのであれば、今後を見据えなさい。停戦、いえ、終戦を呼び掛けて頂けるかしら? それとも妹さんのほうに頼もうかしらね。いいかしら、既に公国は首都機能が崩壊しています。公宮貴族院に詰めている首脳部の貴族達はどれ程生き残っているのでしょうね? 貴女でも今の公国の状況は、手に取るようにお解りでしょう?」

 

 「こ、公国が…… 栄誉あるファンオース公国が、滅亡…… する……」

 

 わなわなと震えながら、浮き上がっていたヘルトルーデの腰が、崩れ落ちる様に椅子に再び戻る。俯いた彼女は顔を上げることが出来ないでいるのだった。

 

 

 

 

 「以上が、ファンオース公国首都直撃作戦成功の概要になります」

 

 ナルニアは新ヘルツォーク子爵領軍の旗艦にて、ヘルトラウダ第二王女に本家ヘルツォークの作戦完遂を説明していた。

 その説明の最中にはエルンストは一切口を挟まず、終わった今はただ、黙祷をするかのように両の目を瞑っていた。

 ヘルトラウダはナルニアの説明を信じる事は即座に出来なかったが、エルンストの犠牲を悼むかのような心痛な表情により、ナルニアの言葉が真実なのではと疑い始める。

 

 「ほ、本当なのですかエルンスト殿。まさかのそのような無茶無謀な作戦……」

 

 「事実ですヘルトラウダ殿下。本家ヘルツォーク本隊の偵察員から浮島落下作戦及び都市爆撃作戦、共に完璧に完遂だと報告を受けています」

 

 未だ両の目を閉ざしたままエルンストは、端的に事実だと伝えた。

 

 「あ、貴方は!? 貴方達はっ!」

 

 ヘルトラウダの悲痛な声がブリッジに響き渡る。

 新ヘルツォーク領の艦隊は、エーリッヒ率いる王国軍とファンオース公国王都強襲別動艦隊との衝突を所定の位置で伺っている最中である。

 両艦隊の決着もそろそろ見え出す頃合いでもあった。

 

 「エト殿を責めるのは筋違いですよ殿下。……エルンスト殿は、エーリッヒ様とエルザリオ子爵に対し、最後まで本作戦の遂行に反対の意を示されていたのです。ヘルツォークの12家会議でもそのお立場でしたが、無碍に扱われエーリッヒ様とエルザリオ子爵に強行されたのですよ」

 

 ナルニアは、エルンストに対して攻撃的な視線を向けるヘルトラウダから、庇うようにエルンストの立場を伝えた。しかし、これらは予めエーリッヒに指示されていた内容であった。

 所定の位置に待機している間にヘルトラウダへのファンオース公国首都直撃作戦の説明、及びエルンストの立ち位置も含めてである。

 

 「な!? 何故ですエルンスト殿? 貴方とてヘルツォークの次期当主。何故逆らうような真似を?」

 

 ファンオース公国の事前の調べでは、ヘルツォークという領の意志決定に際してはほぼ一枚岩であり、12家会議においても事、戦争において意見が割れることは無いと聞かされていた。

 だからこそ若いとはいえ戦争にも参加可能な次期当主が、戦時でのヘルツォーク当主に対して真っ向から反対の立場を取るのは信じられなかったのだ。

 エルンストは瞑っていた両目を開け、重くゆっくりと口を開いた。

 

 「やり過ぎだと思ったんです。これでは怨嗟が終わらない…… より互いに堆積してしまう。私はヘルツォークと王家の関係改善に注力をしたいとは考えていますが、その過程でファンオース公国を苦しめたいわけじゃない。両国の戦争さえ終わらせられれば、ヘルツォークも国境防衛のみに注力出来る。実はヘルツォークと王家には、憤懣遣る方無い密約がありましてね。私にとって恨みの度合いは、王家に対しての方が当然の如く強いのです……」

 

 「……エルンスト殿」

 

 (申し訳ありませんヘルトラウダ殿下。私は本作戦には賛成でした。寧ろ反対する者は誰もいませんでした。しかし義兄上の構想のため、今後のヘルツォークとファンオースの為であれば、貴女に嘘も付きましょう。貴女を欺きもします。すべてが整いだした後々の世には、真実を打ち明けもしましょう。その時には私を大いに恨んでくれて構いません…… 義兄上、私の立場はこれを貫きます。この作戦の扇動と責任は、義兄上と父上の両名に留める。これで宜しいのですよね……)

 

 ヘルトラウダに対する罪悪感もそうではあるが、いくら今後におけるヘルツォークのための施策の一環とはいえ、エーリッヒとエルザリオとの自身の立場を異なるものとするには、まだ若く真っすぐなエルンストには心苦しいものがある。裏では話し合いを密に行い同じ方向を向いているとはいえ、表向きな立場を尊敬する両名と異にするのは個人的に嫌ではある。

 これでは作戦を遂行した本家ヘルツォークの誇りある軍人、そして父と義兄を公の場で誇らしく思う気持ちを表す事が出来ないのが悔しいのだ。その都度自身の心を押し殺して、沈黙か苦言を形の上では表さなければならないかもしれない。

 それは散っていったヘルツォークの英霊に対する冒涜なのでは、とすらも考えてもしまう。

 

 「ヘルトラウダ殿下、状況次第では停戦を呼び掛けて貰えませんか?」

 

 「……考えさせてください」

 

 エルンストの言葉に俯きながら答えるヘルトラウダの声色は冴えない。そのまま艦の一室に護衛兼監視役の女性軍人と共に下がっていった。

 

 「エト殿、閣下から個人的な言伝です。「散っていったヘルツォークの軍人達は高潔だ。お前や僕の葛藤なんか気にもしないだろう。ただ、これからお前を面倒な立場に置いてしまう事は申し訳無い」との事ですよ」

 

 「……相変わらず、義兄上は周りに気を使い過ぎだな。私も次期当主だ、これぐらいの事を面倒がってはいけないという事か」

 

 自身が葛藤を抱えるであろうことを見抜いていたエーリッヒには苦笑を禁じえなかった。割り切ることも大事であると言い聞かされたようにエルンストは思えてしまう。

 

 「閣下はエト殿に期待しているのでしょう。頼ってもおいでですよ。閣下ご自身が直接的に本家ヘルツォークに関わる事が難しいのを寂しがっておりましたから」

 

 「義兄上も、もっと自分自身の事を念頭に置いても良い筈なんですが…… 空での戦闘も終わりですね、義兄上からの信号が上がりました」

 

 ナルニアの言葉に気恥ずかしさを覚えながらも、戦場でのエーリッヒからの信号は流石に見逃さない。

 

 「両翼の二隻を王国軍の負傷者の回収、無事な艦への編成を手助けしろ。制圧戦は王国軍に任せておけよ。現場では准将閣下の指示に従えばいい」

 

 エーリッヒからエルンストに対して、航行禁止空域を無視して直進しろという指示が入った。エルンストも現場判断でそれに追随する。エーリッヒが言っていた面白いものというのも、先程の結界とそれが破損した事態であったのだろうとも確信している。

 

 「しかし、閣下がファンオース公国艦隊に大打撃を与えた割には、王国軍の被害が大きいですね」

 

 「士気と練度の差が出ましたね。だからこそ義兄上もあれほどの攻撃を加えたのですよ」

 

 素直なナルニアの疑問にエルンストは丁寧に答えるが、ナルニアはそれに苦言を呈した。

 

 「エト殿、私に対してその言葉遣いはどうかと…… 軍では階級は遥かにエト殿が上ですし、それ以外でもご主人様の弟君でもあらせられるのですから」

 

 「公の場では気を付けますよ。でも義兄上の公私における秘書を務めているナルニアさんに、上からな物言いは出来ませんよ。それに戦闘中の艦内というものは、そこまで気を使わなくて結構ですよ。意外とユーモアに溢れています。女性にはちょっと下品かもしれませんので、そこはご容赦を」

 

 新ヘルツォーク子爵領軍の艦艇員たちは、戦場に慣れてもいないため顔に緊張を張り付けているが、ここが仮に本家ヘルツォーク子爵領軍であったのであれば、肩を竦めたエルンストに対して朗らかな笑いが起こっていたことだろう。

 軍関連に疎いナルニアは、一先ずはそういうものかと納得をするのであった。




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エーリッヒが正面を崩しましたので、両翼を攻撃するために移行した形です。そこから敵左翼を崩したので敵右翼側の側面展開です。
記号で表すのは限界がありますね(汗)

以前に前書きで出した逸品は結界や賢者の石ではありません。
その逸品に賢者の石は組み込まれているのですが……
さて、2~3、構想はあるとはいえ、出す機会をどう作ろうか?
もっと後々ですかねぇ……

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