乙女ゲー世界はモブの中のモブにこそ、非常に厳しい世界です   作:N2

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学園入学まで相当に端折らせ駆け足で進行させてます。


第11話 そして学園へ

 「お忙しい中、時間をとって頂きありがとうございます」

 

 「構わないよ。君も成人した事だし話がてら一杯やろう」

 

 「ありがとうございます。頂きます」

 

 「元々は君から貰った物だ。遠慮する必要はないよ」

 

 お抱えのメイドさんからワインを受けとる。

 

 ここは、バーナード大臣の王都にある屋敷の一角。

 バーナード・フィア・アトリー、名門王宮貴族を担う超お偉いさんだ。

 何故このような方と知り合いかというと、ヘルツォーク子爵領のワインの輸出を行うリッテル商会から、約1年掛かりでやっと伝を作った。

 バーナード大臣から王宮に根回しをしてもらい、正式な王国内での輸出品目取引許可を頂いている。

 もう大臣との付き合いも2年以上になるな。

 まだまだ大量に生産出来ているわけではないので、リッテル商会にほぼ任せていた。

 

 「やはり旨いな。今回のは35年物か」

 

 「はい、これも希少ですので販売には回しておりません」

 

 「他の貴族にも何故出回らない品があるのだとやっかみを受けている。中々気分がいい」

 

 「お喜び頂き恐縮です。最近は大臣もお忙しいご様子。今回も少しお持ちしましたので、是非心の静養のお供に」

 

 ラーシェル神聖王国との小規模な軍事衝突後、傷が癒えてからリッテル商会を通して、家の仕事を兼ねバーナード大臣との面会を打診していたのだが、こうして場が持てるまで数ヶ月の時を要した。

 伝手があるとはいえ、易々とは面会出来ない人物ではある。

 だだ幸運な事にヘルツォーク産のワインを好む御仁なので、毎度の手土産攻勢により、少しの時間はいつも取って頂けたというのに、近頃は本当に少しの時間も取れないほどの激務のようだ。

 

 「助かるよ。最近は君の件に加えてバルトファルト男爵領の件があったからね」

 

 少し表情を観察するとうっすら目元に隈が見える。

 

 「私の件をお聞きに参ったのですが、差し支えのない範囲で、そのバルトファルト卿の事も教えて頂きたいのですが」

 

 「構わないよ。私が話せる範囲で構わなければね」

 

 よし、やはりお酒は口を滑らかにさせてくれる。

 

 「ありがとうございます。では、まず私の件なのですが、やはり褒賞の類いが些か過剰なのではと…… いや、文句というわけではないのですが」

 

 慌てて意義を申し立ててはないよと言い繕う。閣僚に十代のガキが文句を言う。この世界じゃ不敬罪になりそうだ。

 それになんだかんだ言っても出世は嬉しい。評価された事でもあるし、勲章を付けるのは格好いいしな。

 

 「君が軍人であれば、軍部内で昇進させて胸元に勲章を貼り付けさせるだけでもよかったんだがね。後はヘルツォーク子爵の陪臣であれば、ヘルツォーク子爵の名誉が王国から与えられるだけであったのだが……」

 

 大臣が一息をつくようにグラスを傾けるので、俺も同じようにグラスを傾ける。

 前世の記憶を持ってはいるが、郷に入ればの精神を携え、この世界のホルファート王国で成人後の飲酒は認められている事もあり、俺は嗜み程度に飲酒している。

 

 「君の扱いが難しくてね…… 仕官前、それも学園入学前でそれだけ優秀なのだ。であるのならば、国境沿岸に力ある領主貴族がいた方が良いだろうとなったのだ。あの地域は弱体化して久しいからね」

 

 理屈はわかるが、王国側はむしろ国境沿岸の弱体化を望んでいるのではないかと穿った見方を俺はしていた。

 いや、程度の問題か。駄目だな怖くてここまでは突っ込んで聞けない。

 

 「君は実家の寄り子になる気であろう? 身も蓋もない話をすると、ラーシェル神聖王国側に領主貴族の男爵家程度が増える事は、王宮としては助かる。その分王国軍を派遣しなくて済む」

 

 最悪落とされても外交交渉で、そこの領を明け渡して停戦出来るということか。要は最悪土産品としてあげるということだ。

 酷い話だが、客観的に考えると理解はできる。俺もよく手土産を渡すし。

 しかし当事者からすると相当胸糞悪いな。

 そっちの勝ちでいいから、土産あげるし暫く停戦しようよ。ってか王国死ね! 

 

 「しかし、私は浮島を持ってませんよ」

 

 「空賊から奪ったではないか? あれも王国からしたら未開の浮島みたいなものだ」

 

 あれは準男爵未満規模だが、軍事用港湾施設として見れば優秀だけど、ただそれだけだ。

 整備修理を請け負えば収入が入るが、あの規模だと求められる王国への貢献ですり潰されてしまう。

 

 「しか……」

 

 「あぁそれと今回の件はミレーヌ王妃の意向が強くてね」

 

 何!? 言葉を遮られたが、その名が出たら黙って聞くしかない。

 

 「詳しく」

 

 言葉を遮られたというのに身を乗り出す俺の姿に大臣は若干引いている。

 

 「あ、あぁ…… 今回は軍事衝突でも勝利し、外交でも勝利した。ラーシェル神聖王国に対しては久々でね。まぁ詳細は省くが、レパルト連合王国に対してもミレーヌ王妃も面子が立つということだ」

 

 ラーシェル神聖王国への剣として役に立つ俺に力を持って欲しかったという事か。

 ふふ、相変わらず可愛いじゃないか、ミレーヌ王妃陛下は。

 

 「ミレーヌ王妃の意向なら喜んで」

 

 「あぁ、喜んでいたと伝えるよ」

 

 「出来れば土産持参でお礼を伝えたいのですが!!」

 

 「な、何でそこで食いぎみなんだい!? いや、まだ暫くはあの方も忙しくて時間が取れないよ」

 

 「はぁ、……そうですか」

 

 嘘だと言ってよバー○ィ! 

 

 露骨にがっかりした俺を大臣は同情するように見てくる。今回のバーナード大臣への面会の半分は、ミレーヌ様への取り次ぎを期待していたのに!! 

 

 (こんな若者を手駒にして、ラーシェル神聖王国への尖兵として使い潰そうなどと、為政者としてのあの方は本当に冷酷だな)

 

 「ちなみにバルトファルト卿は、私同様に学園の上級クラスでしょうか?」

 

 「あぁ、今年は王太子殿下や有力貴族の子息が入学する。殿下の婚約者や私の娘の婚約者も入学する。賑やかな世代じゃないか、騒がしくなりそうだな」

 

 大臣は気楽に言うが、同じ学年になるこちらの身としては面倒極まりない。

 辺境の国境沿岸の男爵なぞ、彼等にしてみれば大して付き合う価値はないだろうし。

 しかし、クラリス嬢の婚約者であれば挨拶ぐらいはしたほうがいいか。

 クラリス嬢とは、一度大臣から紹介されて挨拶だけだが交わしている。オレンジの揺るふわロングの柔和に微笑む美人さんだった。スラリとしたスタイルで育ちのよさが滲み出ていたな。

 確か大臣と同じ王宮貴族マーモリア子爵の息子で、王太子殿下の乳兄弟。

 生まれた瞬間から勝ち組じゃねぇか!! 

 大臣もゆくゆくは宰相の義理の父か。雲の上過ぎるな。

 この後は雑談をした後、マルティーナには学園の女子に舐められない程度に、豪奢だが貴族女性であれば普段使い出来る髪飾りをお土産として買って帰った。

 

 

 

 

 家に帰った俺は、王都での事を親父に報告した。

 

 「儂としてはお前の学園卒業後の叙爵は嬉しいが、王宮内の国境に関する思惑があって、という事か」

 

 「えぇ、それよりも入学する面子が豪華過ぎます。辺境の国境沿岸の我が家には、あまり関係ないですし」

 

 溜め息が漏れてしまう。

 

 「いや、今後彼等は王国の中枢だ。繋ぎ程度は作っておいたほうがいいぞ。アークライトにセバーグは武門の名門、王太子殿下とも彼等は仲がいい、セバーグは軍のトップになる可能性が高い」

 

 「繋ぎが出来ていれば、何かあった時に軍の迅速な対応が見込めるということですか…… 特にエルンストの代に」

 

 「そういう事だ。20年から30年後の事だろうがな」

 

 そういう事なら少し接触してみようか。

 

 「ただ、彼等は大物過ぎます。どうせ多くが群がるでしょうし、日和見で行きます」

 

 「心証を害するくらいならそっちのほうがいいか…… お前の同期だ。任せる」

 

 父上がラーファン家の女性と結婚したことで我が家の評判も徐々に回復してきたから、こういうことまで考えなきゃいけないのは面倒くさい。

 自分自身のためなら挨拶すら交わしたくはないが、弟のためなら頑張ろうって気になる。

 

 「あの、どうでしょうか?」

 

 お土産の髪飾りを着けてベルタ義母様とマルガリータを伴いマルティーナが入室してきた。

 慣れないせいか気恥ずかしげに入ってきた。

 

 「うん、似合っているじゃないか」

 

 「色っぽいね。上の学年の女子にもこれならひけをとらないな」

 

 親父も似合うというように、元々綺麗系の美人なマルティーナにはよく似合っている。

 光沢のある赤地のレースで、花や蝶の飾りに編み込んだ物に随所にルビーと細かいダイヤをちりばめている。

 一応カチューシャの分類なのだろうか? 

 赤地にルビーとが映えるのかと疑問に思ったが、布地の光沢と宝石では異なり、思いの外光輝いている。

 マルティーナは髪をよく耳後ろで纏めて胸元におろしているので、店の人に薦められるまま貴金属に宝石をあしらった髪留めも購入してしまった。

 

 「でもこんな高いの……」

 

 「お前は装飾品をあまり持っていないし、学園の女子に舐められないようにな」

 

 「しかしお兄様、ここまで派手だと余計やっかまれそうですが……」

 

 「浮いてればおかしいが、ここまで似合っておれば誰も文句は言うまい。男子が群がるだろうから、エーリッヒもよく見ておくように」

 

 父上も娘がお洒落をする姿には、嬉しそうに目をほそめている。

 さて、王宮内部やラーシェル側国境沿岸の貴族家では、確実に我が家の評価は回復している。

 ただ、積年の忌避感情や他の地域の貴族家には果たしてどうだろうか?

 妹の結婚も自分以上に心配になる。

 

 「わかりました。でも自分の事で手一杯になりそうですよ」

 

 「ねぇおにぃ、姉様にだけずるい。エト兄様もそう思うでしょ?」

 

 「いや、僕は別に装飾品に興味はないから…… それにまだメグには早いんじゃない」

 

 エルンストとマルガリータの2人にも土産は買ったけど、マルティーナに比べたら端数ぐらいの金額だ。だからマルガリータもむくれている。

 

 「もちろんメグが学園に入学する時も立派なのを買ってあげるよ。僕もダンジョンでしっかり稼ぐから」

 

 「うん、でもあまり無茶しないで」

 

 王国本土にはダンジョンが多数存在する。男子はお茶会の開催のためにダンジョンに潜って、魔石を回収して稼がなければならない。

 さらに女子に対して日用品や装飾品を貢ぐ為にも男子は必死だ。

 学費も食費もかからないのに酷い話だよ。

 父上から俺達も聞いているが、ごく稀に死者も出るらしい、その事が不安なのかマルガリータがジト目のまま眉を八の字にしている。

 何それ、可愛い。

 

 「大丈夫だよ。伊達に鍛えてはいないからね。父上も何かあれば連絡ください。駆けつけますので」

 

 「お前は学園を優先しなさい。……本当に大変だからな…… 男子は」

 

 達観した表情で遠い目をする親父。止めて! 涙がでちゃう。

 よろし○哀愁。

 

 「お兄様、王国本土に向かうために定期便の予約をしませんと」

 

 ヘルツォーク子爵領にも定期便がくるようにはなったが、まだまだ本数が圧倒的に少ない。

 定期便を乗り継いで、王都の都市部から少し離れた港の浮島で降り、さらに学園に向かう定期便に乗る。

 王国本土に向かう各所からの飛行船が来航するターミナル用の浮島だ。

 伯爵以上の貴族は専用の港があり、必要に際して自由に行き来が出来るというわけだ。

 騎士家から子爵家が客船クラスの飛行船で乗り付ける場合は、港が混んでたら入港のため待機する必要がある。

 学園の入学前に到着して準備をするためには、定期便に間に合わないとリッテル商会の船に乗せてもらわなければならない。

 

 「あっ、そうだね。それじゃあ……」

 

 「あぁ、それなら軍艦の入港許可を取っているので、戦艦級で行きなさい。我が家には客船がないからな」

 

 確かに他領との付き合いが薄い我が領には客船はない。必要な時にはオンボロ補給艦を使用していた。

 よく言えば、洒落や見栄えよりも実用性重視だな。

 

 「しかし、戦艦とは…… よく許可がおりましたね」

 

 「お前の功績で覚えがよかったからだろう。数ヶ月は要したがな…… 舐められないに越したことはない。精々見せつけてやれ」

 

 止めて! 変な目立ちかたをしてしまう。

 しかし、よほど親父は学園で辛酸を舐めたのか、頑として譲らなかった。

 ヘルツォーク子爵領が村八分の時代だったからなぁ。

 

 

 

 

 俺は今、旗艦ブリュンヒルデの艦長席に座っている。そして隣の副長席にはマルティーナ。

 

 「なぁランディ、何でお前がここに座らない?」

 

 「前の戦争でも自分はここでしたから納まりがいいんですよ。副長席はマルティーナお嬢様の専用ですからね」

 

 ローベルト艦長の副官が訓練も兼ねて、今回は艦の責任者の筈だがな。

 それに副長席がマルティーナ専用とか怖すぎる!

 もう絶対戦争には参加させないからな!!

 

 「まぁいいではないですか。エーリッヒ様が今では我が軍のトップなのですから。さぁ、号令を」

 

 いや、親父だよトップは。

 確かに俺が軍事行動を親父から奪っているけども。

 我が妹様は、俺の呼び方も外行きモードにしていらっしゃる。

 しかしまぁ、こんな超弩級戦艦クラスで行っていいものかね? 確か外国にはもっと大きな飛行船もあるとはいうが、この艦も600mクラスだぞ。

 

 「発進だ。王国本土へ出航しろ」

 

 学園ではどんな苦労をすることになるのやら。

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