乙女ゲー世界はモブの中のモブにこそ、非常に厳しい世界です 作:N2
自動保存も利かなかった部分があるので、キリのいい所で投稿しました。
あぁ、何か身体から力が抜けていく感じが……
保存されなかった部分は次話に回して、新たに書くしかないですね……
敵艦隊中央部を撃破後、そのまま艦隊の背後に回ったエーリッヒは、王国軍への指示を出しつつも鎧を撃破する事に専念していた。
「クソッ!? 王国軍の鎧部隊め、抜かれだしているじゃないか!」
ファンオース公国王都強襲別動艦隊を撃破、沈黙させたとはいえ、依然としてファンオースの鎧部隊は残存している。
極限の状況に放り込まれた要因もあり、士気が低い王国軍でさえも最低限の戦時行動は取れている。しかし、王宮直上防衛艦隊とファンオースの艦隊、鎧の練度は開きが見受けられた。
艦隊の潰された鎧達は、死兵の如き無謀な突破を見せ始めだす。
エーリッヒ一人で敵鎧部隊の二個大隊を撃破させたとはいえ、王国軍残存八個大隊の鎧部隊を持ってしてもファンオース公国残存五個大隊中、一個大隊の王国軍背後への浸透を許してしまった。
「ちぃっ、まだ貴族街の各所では避難中だというのに。エト! スクランブルだ! 浸透中の敵を撃破してくれ!」
エーリッヒは咄嗟の光魔法信号で、新ヘルツォーク領艦隊に命令を出して急遽の対応を任せる判断を下した。
☆
王国軍王宮直上防衛艦隊の背後にある、王都の旧貴族街の一角にローズブレイド伯爵家は屋敷を所有している。屋敷と敷地では現在多数の避難民を収容しており、順次飛行船で退避している最中であった。
「ディアドリーお嬢様も次の便でお逃げください。ファンオースの艦隊は沈黙したとはいえ、未だ鎧との戦闘や掃討戦は継続中です」
王宮直上防衛艦隊は王都内にある貴族街の外で防衛戦を展開したが、王城や王宮、主要施設を取り囲むように内側に旧貴族街、外縁部に新貴族街が区画整理されている。
撃沈された飛行船や鎧、緊急着陸した飛行船などが新貴族街へ被害を出し、火災や煙がそこかしこから発生していた。
「この私に民よりも先に逃げろですって? ここで我先にと逃げたら、領地を守るために戦っているお父様やお兄様達に顔向けが出来ませんわ」
「そもそも騎士ではないお嬢様が逃げても誰も文句は言いません! 艦隊を破ったとはいえ、まだ戦闘は継続中なんですよ!」
ディアドリー・フォウ・ローズブレイドの護衛騎士に対して、その必死の懇願を無視して命令を下した。
「手配された飛行船だけでは足りませんわ。当家所有の飛行船を今すぐに出しなさい! どんな飛行船でもいいわ。民をすぐに避難させなさい」
「お嬢様もその飛行船に乗って下さるんですよね?」
「えぇ、乗るわ。もちろん…… 最後にね!」
「勘弁してくださいよ!? もぉぉおお!」
護衛騎士が泣きながらもディアドリーの命令を伝えるために走り去っていく。
屋敷の空を守っているローズブレイド家所属の派手な鎧達が、逃げるように抜けてきた敵の残党鎧が近づいてきたので、対応するためにそちらへ迎撃に向かっていった。
浸透した公国軍の鎧は中隊ずつに別れて行動を始め出しており、一個中隊のうちの一個小隊が、ローズブレイド家の護衛鎧を突破して屋敷の敷地に降り立つ。
公国軍の鎧は逃げ惑う避難民達に武器を向けだし、その姿に激怒したディアドリーは公国軍一個小隊の鎧の前に、民を庇うべく立ちはだかるのであった。
「それが騎士のやることですか! 恥を知りなさい!」
「な!? 何をしているんですかお嬢様!」
護衛騎士がディアドリーの行動に驚愕してしまい、駆け付けるのが一歩遅れてしまってる。そこに公国の鎧から言い返す声が辺りに響く。
「お前らに言われる筋合いはない! どうせ王国は沈むのだ。今殺そうが何しようが、結果は一緒だ!」
「おい、ちょっと待て。この派手で整った容姿、こいつぁ貴族の女だぜ!」
一個小隊4機の一人から下卑た声色で発せられる言葉に、ディアドリーは内心ビクリと身を竦めてしまう。
公国の鎧がディアドリーに銃口を向けて告げる。
「命乞いをして許しを乞え。そうしたら俺達4人で可愛がった後は、命だけは助けてやるからよぉ。ぐへへへへ」
「ぎゃははははは! ぶっ壊れて生きてるか死んでいるか分からなくなるかもなぁ!」
辺り一面に下卑た笑い声が響き渡る。
女が敵兵に捕えられたらどういう末路を辿るかはディアドリーも承知している。怖くて動けなくなるが、これが騎士の態度なのかと、怒りでその身を奮い起こす。
「ローズブレイド家の娘が命乞い? 馬鹿を言うのも大概になさい! 蛮族に許す身体だと思って? どうせ殺すのであれば、さっそと殺しなさい!」
「お嬢様っ!? 相手を刺激し過ぎです!」
「その生意気な口ぃ、頭吹き飛ばして喋れなぐぁっ!……」
あくまでも媚びず、気丈な態度を貫く態度に激怒した公国の鎧は引き金を引こうとして、ディアドリーの後ろから飛来してきた突起状の鋭い物体に、下方から上昇気味に胴体を貫かれる。
「っ!?」
驚愕した公国の鎧は、しかし瞬く間に上空から撃ち抜かれて物言わぬ残骸と成れ果てたのであった。
「戦闘空域での地上で上空警戒もせずに立ち止まるとか…… こんなのスコアにカウントするのもバカバカしいな。この屋敷の紋章、名門ローズブレイド伯爵家か」
屋敷上空に出現した蒼い鎧は、弾みで公国の鎧が発砲してもディアドリーに当たらないように、打ち上げ気味にスピアを刺突後、その背後に立つ3機を撃墜していた。
「そこの女性、護衛の鎧も引かせて早く避難しろ!」
「あ、貴方はどうされるのです?」
死を覚悟していたディアドリーは、脚が震えて身動きが取れない。
「残り8機程度、私がやる。新ヘルツォーク領一個大隊は敵一個中隊を足止めしておけ。ベアテは前に出ずにただ付いて飛んでいくだけでいい。出来るな?」
魔力通信等通じにくい状況ではあるが、同戦闘空域内の短波通信は問題なく行えている。
「了解です。残りの一個中隊はどうされるんですか?」
王国軍を抜けた公国軍の鎧は36機編成の一個大隊だ。残り一個中隊がローズブレイドの屋敷とは別方向に飛行して、貴族の屋敷を襲撃しようと企てている。
「あぁ、……問題ない。義兄上!」
エーリッヒを短波通信で呼びながら、エルンストは飛び立ち8機を迎撃する。
スピアを四基射出して8機を囲むように上下から飛行し、360度五か所を起点に直角よりきつい角度で五芒星を描くようにターンしながら、高威力ライフルの射撃とスピアの刺突を行う。
「あ、あの飛行軌道!? あれが、
致命的な一難が去ったことに安堵した護衛騎士は、脚が震えて上手く動けないディアドリーに肩を貸して屋敷に避難しようとするが、ディアドリーがそれに待ったをかけた。
「あちらを見なさい」
「お嬢様?」
ディアドリーの指さす方向には、猛スピードで公国軍の一個中隊に向かう一条の赤い光が見える。
エーリッヒは猛スピードで公国軍一個中隊を目標として、その速度を保ったまま攻撃態勢に入った。
「っ!? 言われなくてもっ!」
エルンストは抜けた公国軍に対処するために飛行するエーリッヒが確認できたため、問題無いとベアテに言ったのだ。
こちらの一個中隊は飛来してくるエーリッヒに気づいて迎撃態勢を整えだした。
「一機だけだと? 馬鹿が」
「……いや、赤い鎧!? 気を付けろ! ヘルツ、ぐぁ!?」
高威力ライフルで狙撃したエーリッヒは、スピアを六基射出してエルンスト同様に鎧とスピア、逆方向からの起動で上下左右に飛行しながら射撃と刺突を繰り返していく。
「こ、これが王国の最新鋭のスピアか!」
「な、何でこの速さと角度で旋回できるんだよ!?」
ライフル、時にはスピアで貫かれていく公国軍の鎧達は、360度を六ケ所起点として鎧とスピアが互いに逆方向で高速飛行する様は、まるで囲まれているかのような錯覚に囚われてしまった。
一瞬でも目を奪われて動きが緩慢になった鎧から落とされていく様は、如何に訓練が施されていても恐怖心が沸き起こる。
「ロストアイテムじゃないんだぞ! 報告ではただの汎用がぁっ!?」
喚き散らす度に鎧が落とされていく。
「馬鹿な…… 我々公国軍が、こんな一瞬でたった一機に…… 悪魔めっ!」
最後の一機は背後からスピアに貫かれて絶命したのであった。
その戦闘を最初から眺めていたディアドリーは、恐怖と安堵から自然と口から言葉が漏れ出した。
「
公国軍の鎧二個中隊をそれぞれで撃破したエーリッヒとエルンストは、残り一個中隊と交戦を開始して間もない新ヘルツォーク領軍の鎧一個大隊の援護に向かうため、休む間もなく飛行を転換させるのだった。
☆
ファンオース公国軍本隊迎撃のため、王都郊外には続々と迎撃するための飛行船が集結し出していた。
「なぁ、本当に王都強襲艦隊を放って置いていいのか? 編成や作戦通達でこいつらは動かせないけど、アロガンツだけでも手助けした方がいいんじゃないのか?」
王国軍に各貴族家からの招集艦隊等の編成、この期に及んでリオンに従いたくない者達への住民避難への追加割り振りなどで、リオン自身も現場で忙しくしていた。
『問題ありません。エーリッヒがきっちりと仕事をしていますよ。後は残党の制圧が残っているぐらいです…… マスター、どうやら万全なサポートはここまでのようです。公国軍本隊接敵時、それから戦闘中に際しても王家の船が性能を発揮するまでは、最低限のサポートしか出来ません』
ルクシオンの機械的な合成音声が、遣り取りに慣れたリオンには、幾分申し訳なさそうな声色を含んでいるように聞こえる。
「そうか。頑張れよ」
『本当に宜しいのですか?』
「構わないから行け。お前にしか頼めないだろうが」
主であるリオンが心配だとでも言うように、球体の中心にある一つ目のようなレンズで見据えるが、了承したとばかりにそのレンズを頷く様に下へ動かして元に戻す。
『王家の船の整備は終了しています。アレには私とは別の人工知能をサポートに付けました。何かあればそちらに相談してください』
「お前とは別?」
『はい。それから、無理だけはしないように―― 駄目なら撤退を―― し―― て――』
ルクシオンがリオンに伝えきる前に電子音にノイズが混じり出した。そして切り替わるように普段と若干調子が異なるルクシオンの声に変化する。
『本体とのリンクが切断されました』
電子音声は同じだというのに、リオンにはまるで別人のように聞こえてくる。
「……頼むぞ。相棒」
不安を感じつつも編成中の艦隊、そしてこちらに合流してくる艦隊をリオンは見据える。
☆
リオンとのリンクが切れたルクシオンは現在、浮かび上がるホルファート王国本土大陸と海の隙間に本体を配置していた。
太陽光を大地が遮断しているせいで暗く夜のような状況の中、機械的な光源がルクシオン本体の各所から発せられており、妖しくその流線型のフォルムを闇の中に浮かび上がらせている。
随所から大地に向かって水柱が伸びており、ルクシオンからは海水を大地がくみ上げている様子がハッキリと確認できていた。それら水柱とは別に、海から大地に向かって触手のような腕が何本も伸びており突き刺さっている。
時折蠢く様に突き刺さった腕が動いており、地上で感じた地震の揺れのような原因となっていた。そして、島ほどの大きな人の顔が海面より浮上していた。
嫌悪感を催す姿の超大型モンスターであるが、恒星間航行を可能とする移民船である700m超のルクシオンが小さく見えてしまうほどの大きさであった。
『何とも大きなモンスターですね』
たった一隻で大陸の下に潜り、公国が畏敬の念を込めて海の守護神と呼んでいる超大型モンスターを前にして、ルクシオンはただ落ち着いていた。
『まぁ、倒し続けることに何の問題もありません』
ルクシオンの主砲が光を放つと、大地に突き刺さっていた腕が全て切断され黒い煙へと変わっていく。その弾みで引っ張られていた大地は、多少反動のためほんの少しゆっくりと浮かび上がった。
大きな顔の瞳がルクシオンを見ると、海面から次々と触手が出現してルクシオンに絡み付いていく。
『私に触れるな』
そう言った瞬間、ルクシオンの灰色の船体から次々にレーザー発射口が出現し、放たれたレーザーによって触手は切り払われていった。次いでミサイルの発射口が開き、躊躇せずにミサイルが一発発射される。命中したミサイルは大爆発を引き起こして超大型モンスターを吹き飛ばしてしまった。
吹き飛ばした事によって超大型モンスターから黒い煙が発生し、周囲の闇に溶け込むように広がっていく。
『徐々に復活しつつありますね。マスターの情報とエーリッヒの戦闘検分通りというわけですか』
海面から出てくる触手を次々にルクシオンは撃ち抜いていく。形容するのであれば、人の顔を持った烏賊とでも言うような超大型モンスターが、ルクシオンの眼前に海面を大きく波打たせながら浮かび上がった。
『私がここにいる限り、貴方の目的は達成出来そうにありませんね』
超大型モンスターの顔を主砲で撃ち抜いて再び黒い霧に変えていく。
しかし、問題なのはもう一体、空の守護神と呼ばれている超大型モンスターの相手がルクシオンには出来ないという事だ。その対処はリオンとパルトナーに任せるより他は無い。
再生から復活を繰り返す超大型モンスターに攻撃を叩き込み、ルクシオンは敵の動きを完全に封じめていた。
『なるほど。確かに負けはしませんが、勝つ事も不可能ですね。問題は、反対側にいるもう一体のせいで、マスターの生存確率が予想よりも下がってしまう――』
ルクシオンは艦内にあるファクトリーで、バーナード大臣から寄贈されたリオンのエアバイクの改修を始めた。
『――シュヴェールト、マスターのために生まれ変わりなさい』
ひたすら超大型モンスターを抑え込むかのように、ルクシオン本体は攻撃を繰り返すのであった。
あの学園に入学したら、エルンストも劣化しそうだなぁ