乙女ゲー世界はモブの中のモブにこそ、非常に厳しい世界です   作:N2

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霧空様、誤字報告ありがとうございます。

騎士めぇぇぇぇぇぇぇぇええええ!

ちょっと息抜き回を

一対一でブーメランを投げ合うと、ダメージを受けるのは自分で投げたブーメランになるのか…… 攻撃力が高い方が負けだな!


閑話 Nursery Rhyme 辛く、ほの暗く、それは厳しい恋物語

【ヘルツォーク恋物語】

 

 あれは、14歳の中頃ぐらいからだっただろうか。実子証明事件を経て、俺がヘルツォーク家の嫡子では無くなった頃からだったと思う。

 ラーシェル神聖王国フライタール辺境伯越境戦で活躍し、男爵に陞爵が決定するまでのほんの短い期間だったが、ヘルツォーク子爵領内での俺の取り扱いが紛糾した時期があった。

 主に俺の結婚に関する件で、どこの陪臣家が引き取るだの、新しくヘルツォーク領内で家を興すだのと言った話だったが、結果として当時はまだ結婚相手の決まっていない、寄子のウーゼ騎士爵家のベアテと婚姻する話が主流となっていた。

 

 「エーリッヒ様は王都の学園に行かれるのですか?」

 

 「えぇ!? それは寂しいですよぉ」

 

 「でも、エーリッヒ様の婚姻相手って、今のところはベアテさんなのでしょう? それなら、まだチャンスはありますよね!」

 

 俺、エーリッヒはヘルツォーク内で、ほんの少しの間だけモテていたのだった。

 空いた時間にヘルツォーク子爵領の首都にある喫茶店で食事をしていたら、陪臣家ゆかりの仲良し三人組とでもいうような子達に挨拶をされたのが、この状況のきっかけだった。

 最初の子が不思議に感じる様に王国直臣の寄子とは異なり、ヘルツォーク子爵家の陪臣家は学園への普通クラス入学は認められていないので、王国直臣ではない立場のヘルツォークと関わりがある俺が、そもそも普通クラスに入学するのは異例中の異例扱いだ。

 王宮からすると貴族っぽい人、程度の認識だろうに。

 

 「ベアテは鎧に夢中だから、結局のところ君の言うように結婚は無理そうだよね。でも意外だよ。僕は皆に怖がられていると思っていたから」

 

 ベアテは一度、俺以外の相手とヘルツォーク領内で結婚の話が上がっていた。

 ヘルツォーク12家であるフュルスト家次男、20歳になるパウルの結婚が決まっていないのは、ヘルツォーク内では珍しい事態だ。

 家同士で揉めたわけではないが、鎧乗りになりたいというベアテとパウルの意見との相違で結婚まで行かなかったのが真相ではある。

 ベアテに関しては俺にお鉢が回ってきている状況ではあるが、女性の鎧乗りは俺も反対なので、俺とも結婚は難しいと感じている。

 ベアテは寄子の娘でもあるから、そろそろ考慮しなければならない時期だろう。しかし、実家がヘルツォークの寄子というだけで、王都の学園で結婚相手を見つけるのは難しいのが難点といえる。

 俺の相手がベアテという話が上がった時点で、若くまだ子供といえる年代の女性が、時折アプローチを仕掛けてきていた。

 

 「ふとした折に拝見した時は、確かに怖いと思いはしたんですが、それもヘルツォークのための御姿だと思うと…… それに見てください、私達の服やアクセサリー。王都から入荷されてきた物なんですよ」

 

 三人の中で一番年長の子が、その場で立ち上がってヒラリと服を披露するように見せてきてくれる。

 

 「可愛いじゃないか。君に似合っているよ」

 

 俺自身ヘルツォーク内でもティーン世代とはあまり関りも薄く、仕事している時や軍務中の雰囲気が怖いと噂されているのは聞いたことがあった。時間が経つにつれ、若い子達にも好意的に受け止められる事になったということかな。

 年長とはいっても、下の妹のマルガリータと同い年の12歳、まだまだ可愛らしいお嬢さんだ。後の二人はさらに一つ下のまだ11歳。

 ヘルツォーク12家では、15歳を過ぎると陪臣家やその分家内で婚約が進んでいく。この三人は未だ婚約は進んでいないのだろう。

 

 「エーリッヒ様のお陰で、王都の雑貨とかも入荷してきて豊富になったんですよ!」

 

 「頑張って綺麗になりますので、私が成人したらお嫁さんにしてください!」

 

 領内の豊かさを感じてくれるのは嬉しいが、グイグイ来る子がいるな。

 三歳下か…… 在学中の俺が三年生で婚約して、卒業したら結婚する予定になるな。

 今はお互い子供だが、三年後は俺が17歳でこの子は14歳、その一年後に結婚と考えると実際に現実的でアリだな。どうせ俺が普通クラスに入学しても、ヘルツォークの関係者と見做されて結婚出来ないだろうし。

 ヘルツォーク子爵家の次男だったエルンストを長男に据え、魔女達の祝宴が日夜繰り広げられている王都の学園に通わせるのは忍びないが、ここは不甲斐無い兄のために耐え忍んでもらおうではないか。

 もう俺はエルンスト達の兄なのか、それとも義兄なのか立場が不明だな。ぶっちゃけた話、ヘルツォークに住まう、ただの居候という表現が正しい気がする。

 

 「嬉しいことを言ってくれるね。君の気が変わらなければ喜んで」

 

 やったぁ! 将来の嫁ゲットだぜ!

 つまり!? さようなら普通クラス。ありがとうヘルツォーク!

 

 「ずるいです! 私もお願いします!」

 

 「私だってエーリッヒ様のお嫁さんになりたい!」

 

 これは!? まさか、三人纏めて嫁にすることが出来るのではないだろうか?

 イケそうな気がするぅ↑ あると思います!

 

 「だったら、僕も学園に行くの遠慮しようかな。アハハ――」

 

 「お兄様?」

 

 ふぁっ!?

 

 「ティ! っん"、どうしたんだいティナ? 珍しいね、こんな所で」

 

 突然だったので、咳払いと共に飛び上がりそうになってしまった。決して疚しいわけではないんだ。学園での婚活の予行演習みたいなものだ。俺はゴールしかけていたような気もするけど。

 

 「何を動揺しているんですか? わたくしが学園に入学するのに、まさかお兄様が学園に入学しない? そんなことはありませんよね?」

 

 最近、マルティーナは周囲に気を使っているかのように、名前で俺を呼ぶ事が多かったが今は元に戻っている。これ、相当気が立っている証拠だ。

 仲良し三人組をチラリと見ると、気まずそうな子や怖くて震えている子もいる。そっぽを向いてマルティーナをやり過ごそうとしている強者もいるな。

 

 「入学しますよね? よね……」

 

 ひぃ!? ガシッと俺の肩を掴みながら、首を九十度に傾けて俺の目を覗き込んでくる!

 怖い、目が怖い、顔が怖い、角度が怖い、美人怖い。

 

 「お、お前一人で行かせるわけがないだろう。多少は王都も詳しいつもりだ。学園での休日は案内するよ」

 

 我が妹様のせいで、美人に対して拭えないトラウマを植え付けられそうだ。

 

 「ですよね! お兄様はいつもわたくしを揶揄うんですから! わたくしだって偶には怒りますし、お仕置きだってしちゃいますからね! ふふふふふ」

 

 怖っ! ギャップが怖い。何であの状態からいきなり上機嫌で満面の笑みなんだ?

 

 「お、お手柔らかに頼むよ」

 

 「お兄様次第ですよ。あぁ、伝えそびれてましたが、お父様が呼んでいましたので、屋敷にお戻りください」

 

 親父、エルザリオ子爵がマルティーナをわざわざ遣いに出して、俺を呼び出す要件とは何だろう?

 ふむ、我が恐怖の妹様が遣い? ……まぁ、いいか。

 

 「そういうことなら。ごめんね君達、僕はここで失礼するよ。ティナはどうするんだい?」

 

 「わたくしは時間が空いてます。それにいい機会でもありますので、彼女らとお話していきます」

 

 ヘルツォーク家の長女として、陪臣家関連の女の子達と交流を深めるのも必要だな。

 

 「じゃぁ、ティナも何か頼むといい。店の方への支払いは、僕の方で多く渡しておくから気にしないでいいよ。君達もまだ頼みたければ遠慮しなくていいからね」

 

 そう仲良し三人組に伝えて席を離れようとすると、もの凄い勢いでブンブンと首を横に振っていた。

 奢りを拒否しようとするヘルツォークの乙女達は謙虚で慎ましやかだな。

 仕事の際に王都で見た貴族女性のご婦人達は、かなり横柄で高飛車だというのに。

 俺に対して遠慮するのはいいけど、首のむち打ちには気を付けるんだよ。

 

 「謙虚なのは美徳だし淑女然としていて好ましいけど、男の申し出には素直に頼る事も可愛いものだよ。気を遣わずに楽しんでいってね」

 

 ほう、俺の心意気に涙を滲ませて喜んでいる子もいるじゃないか。

 

 「久しぶりね皆。少し、そうね。わたくしと大事なお話をしていきましょうか」

 

 マルティーナの声も弾んでいる。やっぱり同世代の女の子との会話は、心躍るものがあるのだろうね。

 微笑ましく感じながら屋敷に戻ると、親父は訝しむように珍しく言葉を選ぶ形で俺に要件を伝えてきた。

 

 後で聞いてみたが、マルティーナはきしめんを頼まなかったようだ。

 

 

 

 

【学園恋物語】

 

 あれは、まだ学園に入学して一か月ぐらいだったろうか。

 まだこの俺のお茶会に参加してくれる女子がいた頃だった。

 そう、義務の婚活とはいえ期待はしていた。

 上級クラスに在籍する女子、いわゆる貴族階級出身の女性は総じて美人が多い。上級生はもとより、新入生である俺たちの世代も美人が多い。

 

 この世界では階級社会が存在するため、学園内はある意味貴族社会の縮図ともいえる。ある階級の貴族家などは、娘の取り巻きにさせるために、陪臣家の娘を上級クラスに入学させるような強権さえあった。

 通常陪臣家は王国直臣の貴族では無い。精々が準貴族家出身者で集まる普通クラスに入学させる程度が関の山だろう。

 

 話は逸れたが、そんな華やかな場所に飛び込むという状況に、下級貴族女性の実情を知っていたとはいえ、一抹の期待を抱いていたんだ……

 戦争も頑張った、領の仕事も頑張っている。ならばそろそろ、この世界の年齢的にも女子と遊んでストレス発散してもいいのではないかと!

 というのもヘルツォーク子爵領陪臣家の女子達とは疎遠になってしまったからだ。

 男爵に陞爵するとはいえ解せぬ。妾候補として縁は繋いでおきたいというのにだ。

 

 「ダメ、ぜんっぜんダメね。お茶も普通だし、何よこの御茶菓子? 安物じゃないの」

 

 俺、エーリッヒは大人びている煌びやかなモデル体型のスレンダー女子にダメ出しをされていた。

 

 「こいつって、卒業したら男爵に陞爵されるだけの領地無しでしょ。私達、こいつのお茶会に参加する意味あるのかしら?」

 

 カチューシャの似合う可愛らしい顔の肉感的な我儘ボディー女子には、参加しておいて参加自体の意義を質問されてしまった。

 くそ! お前だってレッドグレイブ公爵家の陪臣家じゃねぇか! 普通クラスに行け!

 伯爵家の子も陪臣家の子も専属使用人連れているし、レッドグレイブ公爵家の派閥で上位貴族ならそんなもん連れ歩くなよ。

 俺は膝から崩れ落ちそうなのを必死に耐えつつ、心中で言い返す事しか出来なかった。

 

 「ほら、殿下達のお茶会までの暇潰しよ。顔だけはいいし」

 

 「でも、顔も殿下達ので十分じゃない? こいつの場合、本当に顔以外何も無いから飽きが早いのよね」

 

 顔を褒められる事を少し嬉しく感じる時点で、俺はもうダメかもしれない。

 招待した側としては不味いとはいえ、こうもダメ出しをされてしまうと、会話を繋げる気が無くなってしまう。

 しかしこれはあれだ! 逆転の発想をするんだ!

 ある意味、容姿で男を選ばないという素晴らしい考えなのでは無いだろうか?

 

 「む、寧ろ参加してくれてありがとう。まさかアンジェリカさんの取り巻きの君達が参加してくれるとは思わなくて…… ははは……」

 

 数打ちゃ当たる戦法で出した招待状だったが、まさかこの二人に出していたとは気付かなかったのだ。

 レッドグレイブ公爵家の寄子の伯爵家の女子に、陪臣家筆頭クラスの女子。身分違い過ぎて結婚相手になるわけがない。

 そんな女子を誘ってわざわざ罵倒される俺って一体…… 泣けてくるな。

 

 「もう飽きたから行くわ。卒業後に仕官するしか道が無い奴が、お茶会なんか開いてんじゃないわよ!」

 

 堪え性の無いカチューシャちゃんが酷い。

 

 「そうよねぇ、領地無しで王宮や軍からの給金だけじゃ、正妻に仕送りなんか出来ないだろうし。ていうか何で上級クラスにいるのかしらね? 愛人だったら考えてあげるわよ。じゃぁねぇ~」

 

 煌びやかチャンの愛人…… イケるか?

 

 「あ、愛人!? ま、まぁ、アリかなぁ…… あははは……」

 

 扉に手を掛けた所を俺の言葉を拾った二人が振り向いて一言。

 

 「暇つぶしにはアリかもね」

 

 煌びやかチャンの暫定、愛人候補になってしまった。振り返り様の姿にドキリとしたのは内緒にしておこう。

 

 「うっわ、ダッサー。ねぇ、流石に私達クラスで愛人囲うのは体裁が悪いんじゃない?」

 

 「バレなければいいんじゃない?」

 

 こちらを馬鹿にするような笑い声、そして専属使用人と共に彼女達は部屋を後にしていった。

 陪臣家出身のカチューシャちゃんにはダサい呼ばわりされたけど、一先ず煌びやかチャンの愛人の件は、前向きに検討しますので宜しくお願いします! 

 伯爵家だしね。仕方ないね。

 

 後日、気を取り直して本日もお茶会を開催する。

 前回とは異なり、今回参加してくれる女子は男爵家出身なので、身分的に問題は無い。

 しかも今日は三人組、一人を墜とせばいいのだ!

 

 「領地無いってマジ!? あんた男爵になるんでしょ。稼ぎどうすんのよ?」

 

 「仕官って安月給じゃない! 準貴族のようなものじゃないの」

 

 「ひくわー」

 

 王宮か軍への仕官、要は貴族と準貴族の次男、三男以下が希望するのがこの世界での常であった。

 貴族でも伯爵家以上が上級、子爵家以下が下級と称されており、準貴族は準男爵や騎士爵を纏めて表している。

 

 「しょ、将来を心配してくれるのかな? あ、ありがと~。ははは……」

 

 そう、彼女達は俺の将来を心配してくれているのだ。ポジティブに行こう!

 

 「バッカじゃないの! 女に将来心配させるとか最低なんですけど。甲斐性をしっかりと持ちなさいよね」

 

 「上級クラスの女子が貧乏なんて望むと思う? 王都での屋敷に使用人、もちろん専属使用人が揃えられなきゃ相手に出来ないわね」

 

 「マジひくわー」

 

 ぐはっ! 男爵家の女子にもダメ出ししかされないとは。

 しかし、最初に喋る子は俺の稼ぎの心配、次に女を不安にさせるなと言っているだけのように解釈する事も出来る。ような気がしないでも無い。

 アリか? この子はアリ寄りのアリなのかっ!?

 

 「あぁ、そうだわ。仕官しなさいよ。そうしたら愛人にしてあげるから。遊び相手にはちょうど良さそうだし」

 

 「寧ろこっちが遊んであげるんだから、旦那とは別に月々こいつから貰えば良くない? あんただったら結婚相手には内緒で、子供一人ぐらい産んであげてもいいしね」

 

 「ガチひくわー」

 

 ねぇよ! 何だよ真ん中の奴は! お前は俺の実母かと言いたい!

 この三人組も可愛いとはいえ、これなら俺の好み的にアンジェリカさんの取り巻きのほうが全然有りかな。

 こいつらはナシ寄りのアリだが、アンジェリカさんの取り巻きはアリ寄りのアリだ。

 しかし、結婚相手を探す段階で男の容姿を気にしていないという点では、やはりこの子達も良い子なのではないだろうか? ていうかアリ寄りのアリって何だろう?

 多分俺は脳死しかけているが、学園で婚活していくためには気にしたら負けだ!

 

 「君に決定だ!」

 

 ズビシッっと俺を遊び相手呼びした子を指さして指名する。

 

 「な、何よいきなり?」

 

 まさかの名指しにたいそう驚いたのか、ビクっと身体を震わせていた。

 

 「愛人の件だよ。しかし既に僕を愛人にしたいという子がいるから、君は二番目だ! それでもいいかい?」

 

 フハハハハハハハ!

 もう既にこの時の俺は、少しおかしくなっていたのだろう。

 

 「はぁ!? 舐めんじゃないわよ! 私が二番目ですって!? 何様のつもりよ!」

 

 熱っ!? お茶をぶっかけられた。

 いや、愛人の順番待ちだよ?

 

 「こいつ最低よね。愛人っていう立場の分際で、女性を選ぶとか無礼過ぎない」

 

 痛っ!? ティーカップをぶつけられた。

 もう俺の愛人という立場は学園内で決定なのだろうか?

 

 「ゴンひくわー」

 

 ホッコリ! ひくわーさんが天使に思えてきた。

 君の友達に引いているのだろうか? ゴンって何?

 

 その後のお茶会も散々だった。

 

 「マナーは完璧だけど、お茶も普通、お茶菓子も普通…… 殿下達五人の下位互換じゃない。つまんない男。プレゼントすら無いのは最悪ね」

 

 「あの五人が、もし何もかも失くしたら、今のエーリッヒ君みたいになりそう! ウケるんだけど」

 

 「う~ん、薄っぺらい感じなのかなぁ? 賠償金だっけ? もっとお金持ってるような噂だったのに」

 

 「げろげろ~、チョベリバからのMK5(マジでキレる五秒前)なんですけど…… マジ卍」

 

 ざっけんなよクソがっ!

 陰茎…… じゃない、神経が苛立つので、せめてこのぐらいは叫びつけてやりたい! 

 最後の奴はそもそも何だよ? 30年ぐらい一気に時代を駆け抜けて行ったよ!

 アッシー、メッシー、キープ君といった三拍子揃っていなきゃダメなんですか!?

 

 そうして暫くした後、遂にお茶会に誰も来なくなってしまった。

 初回荒らしに狙われただけだったのだろうか?

 

 例え女子が参加しなくなっても、何故かお茶会を開いている俺氏。

 もう間違えて入室してきた女子を捕まえるしかないのかもしれないな。

 

 「エーリッヒ様は、今後お茶会は開かなくて結構ですよ。……まったく、盛りの付いたメス共が」

 

 優雅な所作で我が妹様がティーカップを運ぶ姿には目を奪われてしまうが、親愛なる妹様から聞き捨てならない言葉が発せられた。

 最後の方は声が小さ過ぎて聞こえなかったが、お前は俺がお茶会開かないと文句言うくせに。

 

 「ティナ、それだと僕は結婚出来ないじゃないか。男爵に陞爵される立場としては不味いだろう」

 

 男爵に陞爵されることが問題なのだ。

 陞爵の件さえなければ、普通クラスで卒業後にヘルツォーク子爵領の陪臣家に潜り込んで安泰だったのに。

 ヘルツォークの女の子は俺に優しいのだ。一人、鎧の魅力に取りつかれて頭のおかしい奴もいるが。

 

 「……ヘルツォークの陪臣家やその分家の子達だったら、僕でも選べた立場っぽいのに」

 

 ボソリとここ最近の不満の為か、口から呟きが零れ落ちてしまった。

 こうなったら上級クラス女子の誰かを適当に団地妻にして、洗濯屋さんに献上して離婚するのがベストだな。

 

 「何か?」

 

 「な、何でもないよ。お茶菓子はいい物を用意したよ」

 

 睨まれて怖くなったので、とっておきのお茶菓子を切り分ける。

 

 「この店! 購入するのは大変だったのではないですか?」

 

 「リッテル商会と繋がりがある店でね。この件は内緒だよ」

 

 大人気で貴族といえども一ヶ月は待たなければならない逸品だ。勿論、きしめんではない!

 とっておきのお茶菓子を振舞う相手が我が妹様のマルティーナだとは…… 俺はもうダメなのかもしれない。

 ふむ、実は俺は、我が麗しの妹様用のアッシー、メッシー、キープ君なのかもしれない。

 

 

 

 

 「学園はアレだけど、領内での女子との語らい。ついこの前とはいえ懐かしいな」

 

 あの瞬間は間違いなく俺に優しい時間だった。

 

 「お、ま、え、は、ア、ホ、かぁ!」

 

 何故にサイドマウンテン激熱兄弟!?

 横山ア○ラ師匠! じゃなかった、リオンが酷い。

 

 修学旅行先に向かう豪華客船の飛行船内で、プールに興じている水着女子を見ながら、お茶会の状況を報告しあっていた。

 あっ、あそこにいるのはお茶会に参加してくれた女子だ! 愛人指名してくれた二番目の子だ。ナイスおっぱい!

 この場には、リオンの他にカルロビ子爵家のヴィムとランビエール子爵家のクルトがいる。男四人に加えて、先程までトロピカルなドリンクを楽しんでいたオリヴィアさんは、俺のお茶会での悲惨な話とヘルツォークでの話を興味津々といった様子で聞いていた。

 女の子だからね。仕方ないね。

 

 「リオン、何だいきなり? その罵倒は是非、学園女子に言ってくれ」

 

 アホ呼ばわりされる意味が解らない。水着鑑賞で少し気分を落ち着けようじゃないか。

 おぉ、ひくわーさんの腰と尻が結構良いな。

 

 「バカ、愛人って何だよ。それを了承したらダメだろうが」

 

 ヴィムには呆れられてバカにされてしまった。

 

 「領内の子達との疎遠もそうだし、お茶会に女子が来ない件も何で分からないかな?」

 

 クルトが溜息を吐きながら、ヤレヤレといった具合に首を振っている。

 

 「領内の子達は偶々その後、僕とタイミングが合わなかっただけだろ? それに妾候補として今後も大事な存在だ。僕はミリーさんやジェシカさんと上手くいった二人のようにはいかないんだよ」

 

 正妻は王都だから、バーナード大臣にポンっとプレゼントされた、あの微妙な新ヘルツォーク領にはお妾さんが必要なのだ。

 ミリーさんとジェシカさんを嫁に出来そうなヴィムとクルトには、そもそも妾は必要なさそうだ。

 

 「どっちの話も最後はマルティーナさんが出てきているだろうが。そういう事だろ」

 

 「どういう事だよ? 学園でもそうだけど、入学前も仕事と軍務以外では、ほとんどティナが一緒にいるぞ。別に特段おかしくはないだろう?」

 

 リオンは諭すように言ってくるが、当時は居候のような立場に成り下がっていたとはいえ、指摘されるほどおかしい事は何も無い筈だ。

 

 「リオンだって学園入学前、冒険以外では大体がコリン君と一緒だったろう?」

 

 「いや、そうだけど。そうじゃなくてだな…… あぁ、もう!」

 

 ふふん! 言い負かしてやったぜ。

 

 「リビアは鈍感系ってどう思う?」

 

 リオンの質問にオリヴィアさんの表情が消えた。怖い。

 

 「オリヴィアさんにあの質問ってマジかよ!?」

 

 「リオン君も大概だよね」

 

 ヴィムとクルトが眉を潜めながらリオンを有り得ないと言っているので、その意見に賛成派の俺も混ざらせて貰おうじゃないか。

 

 「同感だな。直接オリヴィアさんに聞くとかヤバいな。鈍感系なんて流行らないのにね」

 

 女子が座ったらお茶を出し、口を付けたらお茶菓子を出し、そして最後に金を出すという、血と汗と涙が滲むかのような察し過ぎる精神が、学園男子にはそもそも必要不可欠なのだ。

 最後のは学園男子も中々難しいけどね。

 オリヴィアさんとばかりお茶をしていたリオンには、まだまだ分からないのだろう。

 

 「えぇ、と…… 取り敢えず、最低(さいってぃ)! だと思いますので、誰とは言いませんが気を付けた方がいいと思います」

 

 「だよね! やっぱり鈍感系はダメだなぁ。一回ぐらい爆発した方がいいね」

 

 リオンがオリヴィアさんの意見に無賃乗車の勢いでタダ乗りし始めた。

 そういうところだぞ。

 

 「見ろ、リオンがオリヴィアさんの地雷原でタップダンスしてる。流石に笑えるな!」

 

 リオン達に聞こえないように、プークスクスと声を抑え気味に笑ってしまった。

 

 「お前もだぞリック」

 

 「僕はリック君の方が、もっと危険な場所でワルツを踊っているように見えるよ」

 

 「クルト、僕は360度敵に囲まれてワルツを踊った事があるんだぞ。何の問題も無い!」

 

 二人には、馬鹿を見るような目をされてしまった。解せぬ。

 リオンは何だかんだでオリヴィアさんとイチャついているだけだし。

 俺にも恋の物語の続きを! プリーズだ! いつでも両手を広げて迎え入れる準備は万全だ!

 

 その夜、クラリスにマルティーナ、そしてヘロイーゼちゃんとナルニアの浴衣姿に興奮した俺は、まるで爆発したかのように40℃近い高熱を出した。

 爆発オチなんて最低! オリヴィアさんの声でそう聞こえてきた。




ポ~ロォリ、願ぁってた。お前、胸デカイな、ヤリてぇぇぇぇぇぇぇぇ!
↑この箇所の空耳が好きです(笑)

ホモぉには、優しい、きしめぇぇぇぇぇええええええええ
↑鉄板(笑)

3,000~4,000字くらいを想定していたのに、何か長くなってしまいました。
ファンオースとの戦いが完結した後の幕間としてでも良かったのですが、真面目な話ばかり書いていると、こういう息抜きを書きたくなってしまいます。

こんなおバカな話にお付き合い頂き読んで下さった方々、本当にありがとうございます。

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