乙女ゲー世界はモブの中のモブにこそ、非常に厳しい世界です   作:N2

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tkm9918様、誤字報告ありがとうございます。


第108話 ヴァイス撃沈

 ヴァイスからの光を浴び、オリヴィアの声を聴いたリオンは放心状態であった。

 意識は朧気としており水面を揺蕩う感覚に陥っている。

 

 『マスターに精神汚染を確認』

 

 戦いを馬鹿らしいと思い、ルクシオンの声も聞こえてはくるが、何もかもに嫌気がさしている。

 

 (どうして俺は戦っている? そもそも悪いのはマリエだ。あいつを見捨てても誰も怒らない…… いや、もう会えない前世の両親だけは怒るのかな? お兄ちゃんなんだから妹の面倒を見なさい、って)

 

 どう考えても自分のキャラではないとリオンは思う。

 

 「お兄ちゃんキャラと言えばリックだな。こっちでも従兄妹のリックに、全力でお兄ちゃんを遂行してもらおう」

 

 『敵機ヴァイスに突入開始』

 

 リオンはぼやっとした表情で視線をヴァイスに向けると魔装を身に纏う黒騎士が、ヴァイスを斬り裂いて突入後、反対方向に抜けて更に突入する様子が視界に入ってきた。

 

 「アロガンツを禍々しくしたあの感じ。どっかで見たことあるような…… ん? ヴァイス?」

 

 リオンの意識が徐々に明瞭としてきた直後、ヴァイスの各所から爆発と火の手が上がってくる。

 

 「何だ? まるで夢でも見ていたようだ」

 

 『精神攻撃です。ヴァイスより、精神攻撃が敵味方関係なく放たれました』

 

 あの温かな何かに包み込まれる感覚は、強制的な多幸感が逆に恐怖でもある。

 

 「……リビアの精神攻撃、恐ろしいな。それにしてもあの機体は?」

 

 『王宮からヘルトルーデ、そして魔笛を奪った機体です』

 

 「黒騎士の爺さんかよ!?」

 

 このままではアンジェリカとオリヴィアが危険だと直感し、操縦桿を握り締めたその時、抜け殻状態のルクシオンが凶報を告げてきた。

 

 『新手の超大型モンスターが湖より出現。先程までの超大型とは別種であると断定します』

 

 「あれって、一作目の!? ヴァ、ヴァイスはもう駄目だ。クソッ、あ、後からもう一体なんて反則にも程があるぞ!」

 

 ヴァイスに向かおうとしたリオンだったが、赤い鎧とあの五人の鎧が見えたので、踏み留まって新手の超大型を見据える。

 

 「パルトナーで迎撃だ! もう親父たちは撤退させるぞ」

 

 『パルトナー迎撃開始します。被弾各所あり。稼働時間に留意してください』

 

 パルトナーは傷んだ艦体を山のような超大型モンスターに向けて、攻撃を開始する。

 

 「ヴァイス側の監視も続けろ」

 

 『現状リソースに難あり。その指示の撤回を要求します』

 

 抜け殻のルクシオンはフレキシブルな対応が出来ない。

 ただ、まだルクシオンの本体が王都側に回っておらず、パルトナーと子機にあるエネルギー及び演算能力では、アロガンツとパルトナーのケアだけで精一杯の状況だ。

 

 「アロガンツは俺だけで何とかするからやれ!」

 

 『了解。命令を受理しました』

 

 未だオフライン状態のルクシオンに不安を感じる今だからこそ、あの捻くれてこちらの痛いところを突いてくるAIが、都度こちらの意図を読みつつ皮肉と行動をセットで反応してくれる頼もしさを感じるのだった。

 

 

 

 

 白く美しい船体を、アダマンティアスの大剣で黒騎士バンデルが切り裂いていく中、エーリッヒは艦橋に無理矢理小型艇を接岸させて避難を促していた。

 

 「三人とも早く乗り込め。時期にこの船は墜ちるぞ」

 

 あの五人は…… 周囲のモンスターの排除と他の人員の避難誘導か。

 

 「ヘルツォーク! それに女? そうか、あの光、あれをやったのはお前らかっ!」

 

 バンデルが大剣を振り下ろすタイミングで、三人とバンデルの間に割り込むように滑り込みながらバンデルの懐に突っ込み、右小手を左蹴りで薙ぐかの如く大剣を逸らしてバンデルの前に立ちはだかった。

 

 「待ってください! もう止めましょう。こんな戦い終わらせないと駄目なんです!」

 

 はぁっ!?

 オリヴィアさんがするりと俺の横に並んで黒騎士へ悲痛に訴え始めた。

 

 「下がれ! 何をや――」

 

 「まだだ!」

 

 黒騎士は俺の言葉を遮って強い言葉をオリヴィアさんにぶつける。またあの鎧独特の魔力が黒騎士を侵食している。

 もう、ほとんど黒騎士自身の魔力が感じられないが、何故あれでまだ動ける?

 

 「終わってなどいない。終わらせるものか! 公国がある限り、そして王国がある限り、我々は戦いを挑む…… いや、俺がいる限り、戦いを終わらせてなるものか!」

 

 「ふざけるなよ。お前たち公国が何もしなかったとでも言うつもりか!」

 

 アンジェリカまで口論に参加し始めた。

 

 「二人とも止せ。この期に及んでそんな問答に意味はない。早く避難し――」

 

 「無意味だと! 無意味なものかっ! 目の前で家族を殺される気持ちが分かるのか! 妻はまだ幼い娘を守ろうとした…… まだ、幼かった娘まで、お前らはっ! ぐっ……」

 

 魔弾(マギーフライクーゲル)を撃ち込んで冷徹にその言葉に応えてやる。黒騎士は既にあの強固なシールドすら張れない状態に陥っていた。

 

 「世代の異なる僕達にまで八つ当たりかい? 復讐を語るならその相手に語るんだな。あぁ、分かるぞ。誰がやったか分からない。若しくは既にその鎧乗りなり部隊なりが死んでいて気持ちのぶつける先が無いといった所だ…… ははは、黒騎士殿は復讐者としては三流以下らしい」

 

 子供の駄々と何処が違うというのか。

 ただの王国憎しのテロリストにでもなってしまいさえすれば、母国になんら不利益を与えずその武力でもって王国を恐怖に叩き落せる事が出来たものを。

 俺としてもそのほうが都合が良い。応援すらしただろうよ。

 

 「ぐ、ぐぐ、何も知らない餓鬼が愚弄するでないわぁっ!」

 

 「ん? あぁ、僕にはお前の気持ちがよく()()。だからこそお前の行動を絶対的に否定してやるよ。まぁ、何十年と復讐心を保ち続ける心の強さだけは認めてもいいがな」

 

 「こ、こ―― 何だっ!?」

 

 俺の言葉に激昂して斬りかかろうとしてきた黒騎士の背後から、ジルクの銃撃とブラッドの魔法が襲い掛かって態勢を崩したところに、ワイヤーが掛けられ黒騎士が無理矢理艦橋から引きはがされた。

 

 「遅いぞ」

 

 「ヘルツォーク兄か!」

 

 ユリウスが俺の言葉に応えながら黒騎士に剣で斬りかかっていく。

 ワイヤー、魔力で動かせれば有用だが…… 

 しかし魔力の乗らないワイヤーは、黒騎士が即座に無理やり引き千切り、大剣でユリウスの斬撃を受け止めた。

 

 「その程度で止められると思うなよ!」

 

 間を置かずジルクが援護射撃を行うがライフル弾は黒騎士の魔装に弾かれてしまっている。

 

 「高威力ライフル弾を弾きますか!?」

 

 黒騎士の周囲を飛び交う王国製本来のスピアがバンデルを取り囲むように浮かぶのを確認した俺は、オリヴィアさんとアンジェリカ、そしてマリエの三人を小型艇に避難させることに専念した。

 

 「今のうちに乗り込め。お前達が乗り込んだらあの五人を護衛に付けるようにするから」

 

 「ちょ、ちょっとあの超大型、なんか変なんですけど!?」

 

 マリエの言葉に空を窺うと湖から競り上がった超大型モンスターは、パルトナーとアロガンツの攻撃を受けながらも無数の触手を振り回して王国、公国を問わず飛行船を攻撃していた。

 

 「制御できていない? いや、あの歌の感覚からすると…… 全て滅ぼしたくなったという事だろうか? まぁいい、誰か操縦は?」

 

 「私が出来る」

 

 「小型艇なら僕でも可能ですね」

 

 アンジェリカとショタエルフのカイル君が同時に声を発した。

 

 「行け、王宮直上防衛艦隊の側に向かって逃げろ」

 

 黒騎士に放ったブラッドのスピアは破壊され、今はグレッグとクリスが挟み込むように仕掛けている攻撃を黒騎士は大剣と尻尾で叩いて弾き飛ばした。

 

 「あれ? まだ誰も死んでいない…… 一合以上の斬り結びがあったというのにか? あの五人がけっこうやるのか、黒騎士にもう余裕が無いのか?」

 

 二人ぐらいは斬り捨てられるだろうと考えて、その隙に三人を小型艇に押し込めようとしたが、この戦争では終始予想外の事ばかり起こるものだ。

 そんな俺の考えを他所に沈み始めたヴァイスの真横で、黒騎士はおバカファイブ達の五機を相手に笑っている。

 

 「どうした小僧共! その程度でこのバンデルを討ち取れると思ったか!」

 

 黒騎士の魔装の表面に浮かんだ多数の目玉が充血していき、ギョロギョロと薄気味の悪い動きをしだす。そこから高威力の火球が五つ飛び出し五人に襲い掛かった。

 

 「さっさと下がれ! (アインス)(ツヴァイ)(ドライ)(フィーア)(フュンフ)五芒星(ペンタグラム)形成。氷槍雨(アイスランツェレーゲン)

 

 五芒星の各頂点から連射されるアイスランスで、黒騎士が五機に放った火球を何とか押し止めて霧散させたが、一個人でとっさに放つにはオーバースペック過ぎる魔法のせいもあり魔力が加速度的に減少してしまう。

 治療魔法の魔力で繋ぎとめていた王宮の宝物庫で黒騎士から受けた傷が開き始めてしまった。

 

 「鎧に乗りながら何て大魔法を!? おい、ヘルツォーク兄、大丈夫か?」

 

 「バカ殿下か。マリエは小型艇に乗ったぞ。さっさと五人は護衛に付け。黒騎士は僕が押さえておく」

 

 開いた傷は戻らないが、失った魔力を回復させるために魔力回復ポーションの残りを一飲みしてから、言葉遣いを気にする余裕が無いままユリウス殿下に命じた。

 

 「マリエの事は心配しないでいいよ。僕がついてるから」

 

 ブラッドが脳天気な事を言いながら小型艇に向かっていく。

 

 「黒騎士を譲るのは癪だけどよ。マリエが優先だよな」

 

 グレッグの奴は本気で黒騎士と戦えない事を悔しがっているみたいだ。

 

 「武運を祈る…… お前はマリエの従兄だからな。死んだらマリエが悲しむ」

 

 ク、クリスの野郎、最近は俺の中で唯一株が上がっていたのにこんな鉄火場で下げて行きやがった。

 ラーファンの呪いは伊達じゃないって事かよ!

 

 「然り、貴方も身内には甘そうですからね。ふふふ、故に貴方が死ぬ結末は認めない」

 

 ウゼェェエエ! お前は誰だよジルク…… 

 永劫回帰でも何でもやっててくれ。折れたフレームを刺すぞ。

 

 「あの小型艇は任せておけ。死ぬなよ」

 

 「はぁぁ、ユリウス殿下が一番マシに思えるって何なんだよ。五人のせいで毒気が抜かれたじゃないか。さっさと避難してくれ」

 

 これから黒騎士とまた対峙しようというのにテンションが落ち着いてしまった。

 その黒騎士は空を、超大型モンスターを見つめて焦り始めていた。

 

 「姫様!? えぇぃ、お前の相手を悠長に…… いや、お前は生かしてはおけん。お前を殺してから姫様の乱心を止めねば」

 

 ヘルトラウダは確保しているから、やはり突入時に奪われたのはヘルトルーデか。

 という事はあの歌はヘルトルーデのもの。

 

 「良い歌じゃないか。先遣隊として宣戦布告してきた時、僕を呪い殺そうとしたことを許してしまいそうになるほどだ。もう少し楽しんでもいいだろう?」

 

 王城と王宮が潰される程度の間は、聴衆を続けたいと思うよ。

 

 「これは呪歌だぞ!? 外道騎士は結局の所ただの甘い奴ではあるが、悪道を行く貴様のほうを退治せねばファンオースは救われぬ。騎士として魔は滅さねばな」

 

 「姿形まで化け物に成り果てている奴に言われたくないな。僕自身は己の信念に殉じているだけだがね。信念も筋も道理すら振れている奴と語る舌は、これ以上は持ち得ないが…… ただやはり疑問がある――」

 

 俺と黒騎士の周囲に魔力波が飛び交い弥が上にも緊張が充満していく。

 

 「――お前は結局! 貴族なのか軍人なのかっ! それとも復讐者なのか、一体どれなんだよジジイがっ!」

 

 見境なく乱舞する超大型モンスターを背景にしながら、両者の最後となる激突が始まった。

 

 

 

 

 超大型モンスターと公国の軍艦級飛行船の攻撃でパルトナーの各所からもうもうと煙が立ち昇っていた。

 超大型モンスターの攻撃でシールドが破られてしまい、そこに公国軍からの攻撃でダメージを受けてしまっている。

 辺境男爵グループは、退きながらも殿を務める八隻が必死に砲撃をしていた。

 パルトナーが今退けば、公国軍の船に追撃される恐れもある。

 リオンの駆るアロガンツに超大型モンスターの触手が、集中的に群がって来る。まるでリオンを手強いと感じた超大型モンスターの意志のようなものが現れたような動きだ。

 

 「くそっ、切りがないにも程があるだろ!」

 

 リオンは多連装弾頭を放出して触手を焼き払い、それを掻い潜ってきた触手は、ブレードとアックスの両手使いで斬り伏せていく。

 

 『パルトナー稼働限界です』

 

 火を吹くパルトナーを見てルクシオンに対する申し訳無さが心に浮かんだ。

 その一瞬の隙に乗じるかのように、公国の鎧の一個小隊が特攻気味に超大型モンスターの触手を交わしながら、アロガンツに向かってきた。

 

 「終わりだぞ外道騎士ぃぃ!」

 

 「っ!?」

 

 リオンは操縦桿を握りしめ、最後まで足掻こうとしたその時――

 

 『ドローン展開、コンテナをパージします』

 

 アロガンツの背にあるコンテナが二機に衝突して爆発を起こした。残りの二機は展開されたドローンの全方位攻撃で墜落していく。

 

 「戻ったか! 殺してないよな?」

 

 『一応は。墜ちた先での事はわかりません』

 

 エンジンノズルが付いていたコンテナを切り離したことにより、アロガンツの機動は遅くなってしまった。

 

 「それはもう気にしても仕方がない。しかし、いきなり出て来てこの状況、どうするつもりだ」

 

 次に黒騎士部隊が襲ってきた場合は、もう超大型の対処だけで避ける事も出来ない。

 

 『問題ありません。シュベールト来ます』

 

 上空から飛来して接近してくるのは、リオンの知っているエアバイクのシュベールトとは全く違う物であった。

 

 「え!? 何あれ?」

 

 『シュベールトですが何か?』

 

 「形が違うだろうが!」

 

 『些細な問題です』

 

 アロガンツの背中にシュベールトが位置相対を合わせてコンテナが接続していた箇所にドッキングした。

 

 「合体した! スクランダーがクロスした! いや、シルエット的なフォーミュラーだろうか? とにかくスゲェ!」

 

 『相変わらず何を言っているのかわかりませんが、要はパーツの換装です。大型のブレードがあるので使ってください』 

 

 シュベールトから出てきた剣をアロガンツが引き抜くと、それは黒騎士が持つような大剣だった。

 シュベールトの新しい形状は前世の飛行機のような両翼があり、現在のアロガンツは翼を背負って空に浮かんでいる。

 

 「ルクシオン、超大型の対処をどうする?」

 

 『現状において時間稼ぎに徹するしかありません。本体も上空に待機していますので、それ自体は問題ありません』

 

 「最悪、ヘルトルーデさんをどうにかするか、両軍が壊滅するまで時間が掛かるかか」

 

 場合によっては王都も瓦礫の山となるであろう事実がリオンに焦りを生ませる。

 

 『公国の旗艦を主砲で撃墜して術者と魔笛を破壊。その後に超大型を一気に薙ぎ払うのをお勧めします』

 

 魔笛が媒介となっているため破壊されれば消える、若しくはあの鬱陶しい回復は無いであろうとルクシオンは当たりを付けているためリオンに進言した。

 

 (もうそれが、一番犠牲が少なくて済む方法か…… でも)

 

 「だ、駄目だ――」

 

 リオンがそれでもルクシオンの案を拒否しようとしたとき、ルクシオンから報告がもたらされた。

 

 『待って下さい。クレアーレからの報告です』

 

 「エルフの里の研究所のAIだったな。何だって?」

 

 ルクシオンはシュベールトからホーミングレーザーを射出して、器用に超大型の触手と本体を焼き払いながら報告を続けた。

 

 『マリエより、術者がもう一度笛を吹けば超大型を消せるそうです。術者の説得が必要になりますが、オリヴィアも賛成したためアンジェリカも同意。ヴァイスから避難した小型艇で公国軍の旗艦に向かうそうです』

 

 「なっ!?」

 

 ルクシオンの報告にリオンは驚いて公国軍の旗艦側を見るが、王国軍や超大型から伸びる触手、これはリオンの対処で極少数ではあったが、それでも混乱を極めている場所なのは明白だ。

 

 「危険すぎる…… くそ、ルクシオン、小型艇の援護を最優先だ」

 

 『了解しました』

 

 ルクシオンのサポートが減少し、アロガンツの制御に対するリオンの負担が大きくなったため、超大型モンスターの触手が戦場全体に対する勢力を伸ばしていった。

 リオンは必死に大剣とレーザー乱射で超大型の本体に攻撃して怯ませることに専念している。

 

 「ルクシオン!」

 

 『問題ありません』

 

 小型艇に群がろうとする触手をルクシオン本体が上空からレーザー照射して黒い霧に変えていく。

 小型艇はそのまま霧に紛れるように公国の旗艦へと突き進んでいくのだった。

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