乙女ゲー世界はモブの中のモブにこそ、非常に厳しい世界です   作:N2

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第111話 決着

 「こんなものぉぉおお!!」

 

 黒騎士はアダマンティアスの大剣で、無理矢理俺の呪縛陣を斬り(ほど)いた。

 

 「何でもありかよっ! その大剣はっ!!」

 

 だが、四連装の主砲が一発だけでも当たれば。

 

 「ぐ、ぬぅぁぁあああっあああ!!」

 

 黒騎士は強引に身を捻って直撃コースの一発を交わす。

 しかし、身体への直撃は避けたが、魔装の左脚は膝から先が吹き飛んでいた。

 

 「完璧なお膳立てを…… 交わすだと、なぁっ!?」

 

 「ぬぅおぁっ!! は、は、ぐはははは」

 

 吹き飛んだ左脚を生やしやがった!?

 

 「化け物退治は騎士の役目だったか? まさか、騎士の役目を譲ってくれるとは思わなかったぞ」

 

 (ティナ、抜けた公国軍四隻を撃ち落とせ。今更、王都に突っ込ませるな)

 

 《あぁん、もう! わかりましたよっ!》

 

 本家ヘルツォーク艦隊五隻の艦砲射撃に曝された公国軍の四隻は、シールドを貫かれて撃沈した。

 軍艦から出撃した一個大隊の鎧達は、待ち構えていたエルンストらの一個大隊の統制射撃に加え、エルンストが放ったスピアと小型魔力弾頭によって瞬く間に撃墜されていく。

 

 「只人のまま悪魔に堕ちた貴様に言われとうないわ。切り札を無くした気分はどうだ? このまま斬り刻んでやるわ!」

 

 「……」

 

 黒騎士の言うように、もう俺の()()で奴を倒す事は出来ない。

 

 そして、アロガンツが火を吹く損傷をみせながら、超大型に対してこの世界のものとは思えないエネルギーを叩きつけた。

 太陽が顕現したような眩さで、超大型モンスターをリオンが攻撃している最中、光を目くらましに使うように黒騎士が命の火を燃やしながら、大剣の幅広の刀身を活かすように、平突きを仕掛けてくる。

 ダビデのハッチの装甲を貫かれたが、俺自身の身体には刃は届かず、ダビデの後退軌道が間に合う。

 しかし――

 

 「獲ったぞ! 六芒星(ヘキサグラム)の悪魔めがっ!!」

 

 黒騎士の伸ばした大剣を寝かせて突いてきた右腕が刹那にも満たない一瞬、捻りこむように一呼吸の間合い分伸びてくる。

 片手平突きから伸びる突きの奥伝、片手捻伸(ねんしん)縦突き。

アロガンツへの立てた刃による刺突痕は俺も見ている。

 

 「ヘルツォークにもあるんだよ、その突きはっ!」

 

 縦突きが身を追う刹那、ダビデを右方向にスライドさせて回避したが、左腕が切断されてしまった。

 

 「避けた!? 甘い! 直ぐに薙ぎ払ってくれ、なっ!? 馬鹿な! 切り落とした腕、だとっ!?」

 

 切り落とされたダビデの左腕が、魔力感応によって落下せずに動き、黒騎士が持つ大剣の上部の柄を握りこむ。

 

 「怨讐怨嗟(おんしゅうえんさ)の牢獄に囚われたヘルツォークの()()()の魂に救済を!」

 

 目頭と目奥に痛みが発生し、鼻血と共に脳髄が悲鳴を上げるのも構わず、魔力を全力放出して左腕を操る。

 そして残ったダビデの右手で、黒騎士が持つ大剣の柄頭を握りこむ。左手で掴んだ柄を梃子として作用させた左回転で奪い取った。

 

 「馬鹿な!? 切り落とされた腕で、グハァ!」

 

 奪った瞬間に黒騎士の懐で回転をし、無くなった腕部の個所で黒騎士の右腕付け根部に体当たりをするように密着し、回転力を兼ねた衝撃により大剣を胴体部に突き立てた。

 

 「血錆(けっそう)直伝ヘルツォーク秘奥無刀取り。例え偽物と蔑まれようが、悪魔にこの身を堕とそうが、それでも僕は、ヘルツォークだ」

 

 突き立てた大剣を軸に、ダビデごと捩るように回転させて真っ二つに捩じり切った。

 

 「……胴体を切断すれば、その禍々しい鎧の自動修復は出来るのか?」

 

 「ヘルツォークの…… 化け物、そのものめ!」

 

 魔装に浮かび上がっている目玉から血が噴き出す。

 

 「僕はヘルツォークの偽物でも、王族(ラファ)()()でもいい…… 苦難を耐え忍ぶ本物達に安寧を与えるのは僕だ」

 

 「空虚な…… だからこそ、お前がヘルツォーク…… そのも……」

 

 黒騎士の分かたれた下半身が落下していく。俺自身も魔力が枯渇して、そろそろ宙に浮いているのが持たなくなりそうだ。

 黒騎士の上半身はまだ浮いてこちらを睨んでいる。枯渇どころではなく、奴自身の魔力、要は生命も尽きただろうというのにだ。

 奴の切断部からの血が、ほとんど止まっているだと!?

 

 「リオンに妄執せず、この大剣さえ持っていなければその性能差、僕に勝ち目は無かったがな。その姿で生きているのは脅威だが、その禍々しい鎧そのものの魔力が尽きる、死ぬのは間近…… いや、既に死んだも同然だ。お前もわかっているだろう? 諦めろ」

 

 言葉を投げかけたが、黒騎士は上半身のみとなった身体を震わせる。それに呼応するように真っ赤に充血した身体に浮き出ている多眼が、ギョロギョロと忙しなく動き出す。

 超大型モンスターを倒したアロガンツは、各所が爆発して湖に落下していく。

 流石に生きているとは思うが――

 

 「外道騎士とロストアイテムの飛行船は墜ちたか…… ならば、命尽きてもなお、我が思いと共にせめて貴様を道連れにっ!」

 

 突っ込んでくる黒騎士の魔装の魔力が膨張していく。

 自爆するつもりか!

 

 「お前が愛した妻子は、ファンオースを愛していなかったのか? 愛する者の想いにさえ気を配れば、ファンオースもこんな結末を迎える事は無かっただろうに」

 

 「そうか…… それを忘れた俺は、だから公王夫妻を…… 姫様がた、不忠を…… お赦し、く、だ…… さぃ……」

 

 奪ったアダマンティアスの大剣で黒騎士を一刀両断にして、今度こそ、黒騎士は魔装の活動、その命を絶たれたのであった。

 

 

 

 

 俺はダビデを何とか地上に着地させることに成功し、転がり落ちるようにコックピットから這い出る事が出来た。

 黒騎士につけられた傷からは、未だ血が流れ落ちている。

 ダビデに凭れ掛かりながら、空を見上げると、アロガンツの下に小型艇が急ぐように飛行しているのが見えた。

 王都方面を見ると、本家ヘルツォーク子爵艦隊とエルンストが指揮する、新ヘルツォーク艦隊の旗艦が合流を果たしてこちらに向かっているのも確認出来た。

 ここは、決戦の湖よりも王都寄りであり、小さな町の一角だ。

 未だ各所で爆発するような音が響いており、周囲を見渡した後、これは後始末が大変だと俺は痛みと目眩に堪えながら、ヘルツォーク艦隊を見上げた瞬間、少し乾いた、だが聞き慣れた音が二回、辺りに鳴り響いた。

 

 パァーン、パァーン…… ァーン、ーン、ン……

 

 

 

 

 マリエとオリヴィアの治療魔法で一命を取り留めたファンデルサール侯爵は、白旗を掲げた艦隊を取り纏めて湖の畔に着陸させていく。

 

 「何故、あのまま死なせてくれなかった……」

 

 ヘルトルーデに寄り添うマリエに侯爵は無念を織り交ぜた疑問をぶつけた。

 

 「聞いたわよ。あんた、この子とこの子の妹のお爺ちゃんなんでしょ。孫達だけにファンオースをぶん投げて死ぬ? ふざけんじゃないわよ。あんたは生きてるだけで、この子達は嬉しいし安心するの。寿命で死ぬまでこの子達に頼って貰いなさい」

 

 オリヴィアに一喝してから、マリエが頼もしい。

 リオンとエーリッヒが今のマリエの姿を見たら、何か悪いものでも食べたのではないかと、心配する事間違い無いだろう。

 

 「……娘の、ルーデとラウダの母親の遺骸は、ファンオースの地に連れ帰らせて頂きたい」

 

 今は、マリエも公国軍旗艦の作戦司令室となっている貴賓室にいた。ユリウス達五人もマリエの護衛としてその場にいる。

 

 「みんな、お願い出来る?」

 

 「勿論だマリエ。必ず、その願いは聞き届けよう」

 

 ユリウスは力強く答える。

 カイルを含めた他の五人もマリエに頷きを返した。

 

 「ありがとう。やっと、終わったわね」

 

 これからが大変ではあるが、マリエは戦争が終結したことに力が抜け、ヘルトルーデと共にその場にへたり込む。

 

 「お母さん、弔ってあげましょうね。妹と一緒に」

 

 「えぇ、えぇ、ありがとう。お祖父様を助けてくれて」

 

 マリエは、泣き止まぬヘルトルーデの頭を抱きしめて、子供をあやすように撫で続けるのであった。

 

 

 

 

 「こ、小型艇と治療魔法師を準備なさいっ!」

 

 「お、お嬢様? 一体何を」

 

 マルティーナの突如慌てた姿にブリッジは騒然とする。

 

 「いいから早くなさいっ!! わたくしの後に急いで続きなさい」

 

 マルティーナはそういうや否やブリッジの扉から屋外に出て、艦橋に飛び降りる。

 

 「エト! 受け止めなさい!」

 

 「お、お嬢様!?」

 

 あろうことかマルティーナは艦橋から船外へ飛び降りたのだ。

 これには近くの空で鎧に搭乗しているエルンストも驚いた。

 

 「あ、姉上! なんて無茶をっ!」

 

 慌てながらも受け止める事が出来たエルンストは、苦言を呈するが、マルティーナはそんなことはお構い無しにとエルンストへ指示を出す。

 

 「早くあの郊外の町に降り立ちなさい! お兄様の命が消えかかっています! 早くっ!」

 

 エルンストはマルティーナの言葉に驚きながらも、ソロモンを飛行させて王都郊外、湖の手前にある町へと飛行していく。

 その後を慌てて治療魔法師が乗った小型艇が、エルンストの駆るソロモンを追って行った。

 

 

 

 

 乾いた銃声が二発鳴り響き、何処か現実感の無い自身の身体を見た後、俺は背後を振り返った。

 ローブを被った小柄な人物が、リボルバー式の拳銃を構えていた。銃口から硝煙がほんの少し確認出来た事により、あぁ、撃たれたのだと今更ながらに気付いた。

 

 「ぐ、ごほっ、はぁ、はぁ」

 

 胸を込み上げる鉄錆の味と香りを吐き出しながら、その人物を凝視すると、被っていたフードが風で捲れ上がった。

 

 「ま、まさか、き、君か――」

 

 強い突風が俺とフードの人物の間を通り過ぎた。

 

 「――君に、やられる……?」

 

 小柄なフードの人物が撃鉄を上げようとした時、空から鎧が降りてくる音が聞こえた。

 突風によって舞い上がった砂塵に紛れるように、その人物は逃げて行く。

 俺の言葉を遮った突風はこのせいだろう。

 痛覚が麻痺してきた俺は、そのままダビデの脚に身体を預け、ズルズルと腰をおろす。

 

 「お兄様! お兄様! ぃ、ぃやぁぁぁっあああっあああ!」

 

 僕が守りたかった本物達の声が、凄く遠く、でも確実に空いた胸を埋めるように聞こえてくるのが、何とも言えない幸福を感じさせてくれる。

 手を持ち上げると良く知る温もりが握り締めてくれる。もう、目が見えないが、その温もりを間違えることはない。

 

 「ごめん…… もう、ヘルツォークを、守れそうに、ない……」

 

 もう一度マルティーナの絶叫が、小さな町全てに響き渡った。

 

 

 

 

 オリヴィアとアンジェリカを抱きとめていたリオンは、ルクシオンからの報告で現実に引き戻された。

 

 『マスター、エーリッヒが死にそうです』

 

 「えっ!? また? だって黒騎士は倒したよな?」

 

 アンジェリカとオリヴィアもルクシオンの報告に表情を強張らせた。

 

 『医療用ロボットを降下させて現場で対処します。宜しいですか?』

 

 「そんなに切羽詰まっているのか!? 早く処置を行え。リビア、小型艇で付いて来てくれるか?」

 

 リオンは、オリヴィアの治療魔法の腕を見込んで頼むが――

 

 「も、もう魔力がありません…… ご、ごめんなさい……」

 

 オリヴィアは王家の船の機能を使用したことにより、魔力が枯渇していた。己の脚で立って歩けているのがやっとの状態だった。

 

 『ヘルツォークの治療魔法師が向かってますので、そちらはギリギリ何とかなるでしょう』

 

 空から医療用ロボットが降下してきて、そのままエーリッヒが瀕死の状態でいる場所に飛んでいった。

 

 「俺も小型艇で行くぞ」

 

 リオンとオリヴィアとアンジェリカは小型艇に乗って医療用ロボットの後を急いで付いていった。

 

 

 

 

 リオン達がエーリッヒの下に辿り着いた時、治療魔法師が必死に魔法をかけ続けているが、傍に立つエルンストは空を見上げている。涙が落ちないように堪えているのが丸分かりであった。

 エーリッヒの頭を自身の膝に置き、頭を撫で続けるマルティーナが顔をあげる。

 

 「っ!?」

 

 余りの痛ましく憔悴したマルティーナの表情に、リオンは後退るのを堪える事で精一杯だった。

 

 「おかしいんです。傷は塞がったのにお兄様が起きないんです…… お、お身体も、冷たくなってきてるんです。う、ふふ…… おかしいですよね? おかしいって言ってくださいっ!」

 

 「血、血が、こんなに……」

 

 アンジェリカは、ダビデのコックピットから流れ出る血液と地面に流れ出ている血の量に愕然と共に悟ってしまった。

 もう助からないと……

 オリヴィアは絶句しながら涙を流す。

 

 「……ルクシオン、何とかしろ」

 

 リオンも駄目だと思っているのか、声が震えている。

 

 『流れ出た血液を回収後、洗浄して自己血として輸血します。最悪は覚悟してください。この場で処置します』

 

 「お願いします、お願いします。やっとヘルツォークに安寧が訪れるんです…… やっと、結ばれたんです…… やっと、愛して貰えたのに……」

 

 一か八かの自己血輸血が、その場で開始された。

 

 

 

 

 《貴方は何故、怒りをその身に宿すのです?》

 

 (()()を知って、見て見ぬふりをしろと!)

 

 《もう終わった事です。(わたくし)が終わらせたのです》

 

 (僕が王族(ラファ)だから憎いのでしょう? 皆も、貴女もっ! だから貴女は、あそこで僕を苦しめるっ!)

 

 《何と愚かな…… あの場で苦しむ? (わたくし)達が貴方を苦しめる? もう貴方は、ヘルツォークから離れたほうがいい》

 

 「ヘルツォークから、離れろだとっ!…… ぐ、何だ、頭が異様に重い……」

 

 身を起こして周囲を覗うが、場所に検討は…… いや、恐らく王宮の一室かな?

 窓から射し込む光に目を窄めると、王宮特有の中庭が見える。

 

 「何でこんなに頭痛と目眩が…… 嫌な夢を見たせいか、うわっ!?」

 

 誰かが飛び込んできた。それも複数……

 

 「ぅ、ぅ、うわぁぁぁっあああっあああん!」

 

 意外と子供っぽいその泣き声はマルティーナのものだ。

 

 「クラリスまで。新ヘルツォーク領じゃ…… あれ? 僕はどのくらい寝てたんだ?」

 

 クラリスは声を押し殺しながら泣いている。クラリスに顔を押し付けられて、俺の胸元が濡れていくのを感じる。

 その量に申し訳無さが込み上げてきた。

 

 「……半日と少し、今は朝よ。エト君が、き、危篤だって、急いで知らせて…… バカ、バカ……」

 

 「ごめん。ありがとうティナもクラリスも…… あれ、イーゼは、寝てる!?」

 

 左右からマルティーナとクラリスが飛び込み、正面からはヘロイーゼちゃんが飛び込んできたが、俺に抱きついてそのまま寝落ちしてしまったみたいだ。

 

 「皆、寝ないで、ご主人様の様子を見てたんです…… お顔が、そんなに蒼白で…… し、死んでしまうのでは、グス…… 人を呼んできます」

 

 「ありがとう、ニア。心配掛けてごめん。あ、ちょっと待って。ほら、イーゼ」

 

 「ふみゅ…… び、びぇ、え、えへへ」

 

 今はゆっくり休んでくださいと言い、ナルニアは出ていこうとする所を制した。

 俺の顔を見て泣き出しそうになるヘロイーゼちゃんの頭を撫でて落ち着かせた。

 そして――

 

 「終わったね。ただいま、皆」

 

 泣き声が、ただし、悲しみではない泣き声が、部屋の外にまで響いたのだった。 

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