乙女ゲー世界はモブの中のモブにこそ、非常に厳しい世界です 作:N2
詳しくは原作者様の活動報告にオフリー嬢の設定が書かれてます。
というよりも途中まで書いていたのが去年の秋口だったので…… まぁ、あのオフリー嬢の取り巻き、ミレーヌ様を罵倒してた時の隣にいた子を男爵家と独自設定してしまってたので。
しかし…… 上級クラスの催し物に来店するって上級クラスの子じゃぁ…… 学園祭だから普通クラスの女が上級クラスの男子の催しに参加してもいいのかな。
この話はある意味オフリー嬢の救済です。
短編でも別枠で上げようかな。
私、ナルニア・フォウ・ドレスデンは不可思議な状況に陥っている。
今が幸福な立場ではあるので、陥っているという表現は語弊があるとは思うけど、でも状況のイメージはそんな感じがする。
元々私は、ドレスデン男爵領主の正妻である母様と王都の屋敷で、学園入学前までの15年間暮らしていた。このホルファート王国の典型的な貴族女性としての生活だった。男爵領としては貧乏な部類ではあったけど。
私がオフリー伯爵家のお嬢様と知己を得たのは、8歳になる前ぐらいの頃だった。
その頃のお嬢様は未だ勉強や教養を身に付けることを頑張っており、私も共に幼年時に身に付けるような勉強や教養を一緒に頑張っていた記憶がある。
でも、幼年時に通う王都の上流階級での私塾で、オフリーお嬢様は陰湿な苛めにあってしまい、塞ぎ込むのではなく次第に攻撃的な癇癪持ちに変貌していってしまった。オフリー伯爵家自身の良くない部分の力も影響があったのかもしれない。
その力が母様も私も怖かった。それ以上に私達母娘の生活が助けられる事となったのは、今思えば皮肉だけど。
それでもオフリー伯爵家がいなければ、王都での貴族女性としての生活水準は保てなかっただろう。
父様はそこまで見越していたのかな?
そもそも実家のドレスデン男爵領は、オフリー伯爵家に多額の借金が有るので逆らえない。
実家の唯一の誇りは宮廷階位が六位上というところだけど、そんなの正直に言えば、母様や私には何の足しにもならなかった。
ただし、商人から成り上がったオフリー伯爵家にとっては男爵領とはいえ、宮廷階位の六位上であるドレスデン男爵領と付き合うこと、直接的な下に扱うことで、私達では理解できない利点があったのだと思う。
ただし、父様のオフリー伯爵家に対する接し方というか、家としての付き合い方が淡白とでもいうのか、距離感に疑問と不満を持ったオフリー伯爵家が、王都の実家、母様に近づき私をオフリーお嬢様の取り巻きとして、そちらから親密な距離を構築しようと画策したのに私が気付いたのは、学園入学目前ぐらいの時期だった。
その頃にはオフリーお嬢様とも腐れ縁、別に特段嫌いでもなかったしそれなりに楽しく過ごしていたので、私自身にはオフリー伯爵家に対する不満や忌避感は無かった。
貴族女性としての生活水準を保てていたのは、母様と私にとって間違いなくオフリー伯爵家のお陰であったのだから。
「ねぇニア、もうすぐ王都の学園だけど、何か面白いことないかしらね?」
「成人前に出来るようなことはほとんどやっちゃいましたからね。あぁ、そうだ。お嬢様、そろそろ専属使用人なんかは如何です? 私はまだ14歳ですけどお嬢様は15歳じゃないですか。学園入学前にいい専属使用人をお嬢様は揃えて、入学する時に見せつけてやればいいんですよ。相当な優越感に浸れそうですよ」
この数年間で自然と私は、下手に出てお嬢様の意見を聞いたり一緒に考えたりするようになっていた。もうアイデンティティにまでなっていたんだと思う。そのことは楽しかったしそれで十分だった。
今でもオフリーお嬢様を私は別に嫌ってなんかいない。
寧ろ小さい頃から遊んでいたオフリーお嬢様がいないことに対してふとした瞬間、私の思い出の一部がぽっかりと空白になるような空虚で切ない感傷が襲う時があった。
ふと既にいない相手が胸中に去来し、気づいたら涙が零れるあの感覚は、オフリーお嬢様と友達だった私にいつまでも訪れるのかもしれない。
せめて私ぐらいはそれでいいとも思ってしまう。
「アハハハハハハハハ! それよニア! 優越感、いいんじゃないかしら。3人ぐらい引き連れて、精々見せつけて羨望を私に集めてやろうじゃない!」
「私は実家が貧乏だから専属使用人買えそうにありませんけどね……」
「そんなの別に複数人買うんだから貸してあげるわよ。でもカーラとイェニーは駄目ね。あの娘達は普通クラスだから。夜の店に連れて行って2~3回ぐらいはそこの男と遊ばせてあげるくらいはいいかもね」
オフリーお嬢様の言葉に私は目を輝かせた。
「いいんですかお嬢様! 正直、私は入学したら肩身が狭い思いをするのではと思ってました」
ふと寂しそうな表情を浮かべてお嬢様は言う。
「私もあんたも不幸よね…… そんなの糞くらえよ! 誰よりも楽しんでやればいいのよ!」
その時は、下級貴族の出身で更に極貧に喘ぐ私にはお嬢様は光だった。
そして学園に入学して一学期間、オフリーお嬢様は1年生の間で派閥関連の知人がいないというのに、相当幅を利かしていた。それは何故か?
上級クラスの女子の間では専属使用人の数が物を言う。しかもオフリーお嬢様はランクが一番上等なエルフにこれまた最高ランクの亜人種二人。見た目も身体つきも三者三様で上級クラスの女子たちからは羨望の眼差しを集めた。
私も楽しませて貰ったけど欲を言うのであれば、エルフのような端正な見た目で極限にまで引き絞った体躯、更にオラオラ系の男性が好みだけど、そこまで求めるのは贅沢かな?
しかも普段は優男なのに奥底が野獣な男性な方が尚良し…… んっぅ、取り乱したわ。
そして、エルフはお嬢様がお気に召して借りられ無かったけど、亜人種の専属使用人とそこそこベッドで楽しませて貰った夏季休暇の後、運命の学園祭が始まった。
☆
割愛するけど、オフリーお嬢様がこの国の王妃にお家断絶レベルの暴言を吐き、そして無残にも家諸共塵と消えていた時には、王都の家にさえ戻るのが怖くてパブでアルコールを煽って恐怖心を紛らわせていた所、アトリーという私でも知っている大臣を排出している家系の人員に声を掛けられた。
10人はいた屈強な男の方々を海を割るように現れたのは、そのアトリー家の長女であるクラリス・フィア・アトリー先輩。学園の二年生内では一番影響力を持つ女性だった。
「リオン君と王妃陛下。それにリック君に暴言どころか、一言も口を出さなかった貴女には救いと見込みがあるわ。ねぇ、ナルニア・フォウ・ドレスデンさん」
私は妖しく微笑を浮かべる先輩に恐怖しつつも、心が弱り果てていたので条件反射的にその差し伸べてくれた手を取っていた。
「貴女はステファニーさんの取り巻きでしょう。何故、彼女と一緒になって罵倒をしなかったのかしら?」
アトリー邸で高級なお茶を頂きながら問われた。
「あ、あの、私は確かにオフリーお嬢様の取り巻きではありました。私自身友人だったとは思ってます。ですが、ドレスデン男爵家は貧乏で寄子ではなくオフリー家にお金を借りているだけ…… オフリー伯爵家は財務面での力は有数ですが、貴族社会では嫌われています。でも、だからこそ怖い貴族家が存在しているというのは知っています。いくらオフリーお嬢様が暴言を吐いていたとて、本質的に寄るべき存在が無い弱者の私は、不用意な言葉を吐いてはいけないと思っていたんです」
そんな私の言葉を上機嫌に頷いているクラリス先輩は怖い。
まさしく恐ろしい貴族家の一角を担うご令嬢だから。
「いい感性よナルニアさん。私も女の取り巻きが情けなくてね、整理してる最中なの。私の状況は知っているでしょう? 貴女のその感性は良い物よ。悪く扱わないから私と一緒にいなさい。今後の学園生活での安寧を保障するわ」
「え? それは…… 嬉しいのですが、私には何もありません。良いのでしょうか?」
私の言葉に微笑んでからお茶を一口飲むクラリス先輩。
本物の女性の作法というものを私は目の当たりにした。
「貴女が育み掴んだその感性は価値あるものだわ。大事になさい。それと、近々リック君。エーリッヒ・フォウ・ヘルツォーク…… 彼、子爵にアトリーの力で陞爵させるけど、紹介するわ。ドレスデン男爵領は正式にリック君の寄子にもなるので留意しておくように」
え!? え~と、この人は何を言っているのだろう?
家の力で、陞爵? ちょっと意味が分からないけど絶対に逆らってはいけないことは分かった。
「そ、その…… 宜しくお願い致します。クラリス様」
妖艶に微笑むこの女性が、ただ恐ろしかった事しか私はお覚えていない。
そして後日、エーリッヒ卿、見た目はユリウス殿下達に勝るとも劣らない方を紹介された。
良く知っている。一学期の初めに女子間で噂になっていた男性だ。
眉目秀麗で、既に戦争で79機撃墜、二隻撃沈という公式記録を持つ騎士。ただしヘルツォークという事で忌避されていた人物を……
そして、クラリス様のお父上は、エーリッヒ卿にオフリー伯爵家の領地をプレゼントすると言ってのけた…… それが直ぐ様現実となり、卒業後に子爵にすると言い切ったところを目の当たりにした私は、逆らってはいけない領域に足を踏み入れたのだと確信した。
☆
「ナルニアさんには僕の仕事を手伝って貰おうと考えてる」
スリーピースのベストにオーダーメイドのスーツを着こなしたエーリッヒ様、正式に私の実家であるドレスデン男爵領の寄親となったご主人様が言う。
「わ、私がご主人様のお手伝いですか!?」
「非合法麻薬の事業は勿論禁止、許可制の王国軍への向精神薬物納入許可と生産許可も取り消された。それはいい。でも表の事業は全て僕が引き継いだから、あのオフリー嬢と仲の良かったナルニアさんなら、何かしら聞いていたりするんじゃないかと思ってね。クラリス先輩にも許可を貰ってるよ」
もう直ぐ修学旅行だというのに、先んじ過ぎてはいないのだろうか?
「ある程度買い物や話の時に聞いたことはあります。付き合いのある納入先や商会に仕入れ先。でも、精々がその程度ですよ」
「あぁ、それで構わないから僕の傍にいて適宜教えてくれ。書類仕事の補佐も任せるから。それにね、僕が深い付き合いのある商会の会頭が女性なんだけど、貴族男性が苦手なんだ。君には彼女の相手をしてもらいたい」
この人はサクッと商会のトップと私が懇意にしろと言う。
驚いて目を見開きながら固まってしまった。
「わ、私がですかっ!?」
「安心していいよ。実務はこちらでやる。でも会頭を蔑ろにして置きたくはないからね。お茶を飲む間柄程度でいい」
そういって中堅規模の商会の20前後の若い会頭と面識を得た。
その他はご主人様が開発して特許を取ったタイプライタで書類の作成と書類の纏めに従事したけど、小娘の私が力になれる筈もないので、ご主人様の文書作成の癖と資料纏めにデスク上の一時保管場所、要はご主人様の業務の癖を知ることに注力した。
「ほう……」
ご主人様は書類の整理や保管、纏め方を呟いて背筋が震える笑みを浮かべたかと思えば、私の目を射竦める。
「ま、まずかったでしょうか?」
多分私は、オフリーお嬢様がティナの姐さんに血の海に沈められた時よりも恐怖したと思う。
そこで、フッと私に微笑みかけてくれた。
「凄く仕事がやりやすいよ。最初に僕の癖を掴むことに徹したか…… いい子だ」
その時のご主人様が忘れられない。
淡いブロンド、光の加減によって眩くもありプラチナのようにも見えて私の視界を彩る。爽やかなスカイブルーの目は清涼感があり、だというのに潜在的に恐怖を齎す海面よりも深いディープブルーの瞳…… 私の身体の中心の下、下腹部を竦ませる様に震えさせる。
専属使用人のエルフやまして、屈強な亜人種に細身で引き締まった亜人種にも感じた事の無い身体と心のざわつき。
「は、はい! ありがとうございます」
そして後ほど、ただの優男ではない苛烈さ、そして時折優しさを交えた過激さという塩梅さを以って、私に接するご主人様の本性に私はのめり込む……
いや違う。深い海の底に沈みこむように虜になっていった。
もう多分、浮かび上がることは出来ず、寧ろ自らしないのだろうと女の本能で感じ取っていた。
ナルニア(国)物語(笑)