乙女ゲー世界はモブの中のモブにこそ、非常に厳しい世界です 作:N2
レリアとフィン君が、エーリッヒが外伝の人物だと気付かない要因になります。
名前は入力方式でしたし。
初参加となった
負傷から目覚めた日の翌日、傷も閉じて目覚めているならばと参加を強制されて、議会内の椅子に座っている俺、ことエーリッヒ・ラファ・ヘルツォーク。
傷自体は完治していようとも依然として出血過多の状態であり、ふらっふらの頭で何とか議題を聞いているが、その内容のせいで更に眩暈が酷くなっていく。
「裏切り者の貴族家に日和見を貫きおった貴族家の調査は王宮に任せ、今は判明している王国本土の
議長のローランドが音頭を取り、両隣にはミレーヌ様にまさかのお茶紳士先生が座っている。
あの人、先王弟だったのかよ!
議場に入室する時に挨拶をされ、驚き過ぎて目を見開いたまま固まってしまった。
十五年近く前に、先王が崩御したのと同時に継承権を放棄し、且つ権力の場から退場している、学園でマナー講師を行うだけの名ばかり公爵ですと説明された。
「貴方が王様やろうよ…… まだ元気じゃないか。寧ろローランドそっちのけでいいんだよ! リオンもそっちのほうが喜ぶだろうに…… ぐぬぬ」
「ちょっと、顔が真っ青じゃない。貴方に関する議題よ。聞かなくていいのかしら?」
今やラファとなったヘルトルーデが、怨敵と恨んでもおかしくはない筈と言える俺に対して、余りにも調子の悪そうな俺の現状を気遣ってくれていた。
「くそっ、何だこの議題は…… せっかくクラリス達の顔を見て気が緩んだ所にこの仕打ち! 悪夢か…… ぐぎぎ」
一昨日、リオンがイデに目覚めたのかと思うほどのルクシオンビームで決着がついた直後、俺の状態が危険だったために、エルンストの手配で新ヘルツォーク領から急ぎクラリス達を呼んで来ていたとの事だった。
第六文明製の船とか反則だと思います。
「貴方のその顔、私も多少は溜飲が下がるわね」
前言撤回、こいつ俺を気遣っているんじゃなく、俺の様子を窺って楽しんでいやがる。
ローランドが無駄に良い声で議題を進めていく。
「その貴族家は、今回の戦争において馳せ参じる事もなく、また避難民の受け入れすら行わずに我先にと逃げ出したのだ。しかし、その家は王国本土内にて最古参に近い程の歴史を有する。ただ取り潰して名を消し、王家直轄領とするには、名前の格的にも非常に惜しい! また、王家直轄領が今後多数増える事も鑑み、人手が非常に足らないのは明白である――」
五月蝿いふざけるな!
一年前の領地無し男爵の時に
多数増える内の裏切り者の領の一つとして割り切り、さっさと取り潰して王家直轄領にしてしまえ!
「――よって、現時刻にてラーファン子爵領の現領主の爵位剥奪、及び逃亡した関係者は貴族位の剥奪並びに聖女以外の身柄を確保せよ。また、他領にて実績のあるラーファンの血筋の者に新しくラーファンの家名を与え、現状管轄している領の家名も変更とし、ラーファンの領地も下賜するものとする! その者の名は――」
ぐ、ぐがが……
もうマリエ辺りにその領地を下賜してもいいんじゃないかな? あれ、でもこの場合マリエも貴族じゃなくなるような…… まぁ、聖女だしその辺の貴族よりも重要ポジションには変わりはないか。
「成り上がりのラファが、あそこは狭いとはいえ王国本土にも領地を持つだと?」
「大して発展もしてない所だがそれでは……」
「そういえば、借金が多くて領地を切り売りしてましたな。あの恥知らずの領地か」
「なぁ、諸君らはどのようにその領の情報を掴んだのかね?」
「おや、疎い方もいるようだ。しかし、これでは奴の義父、アトリーの権力が強大になるのではないか?」
「所詮は子爵、どうとでもなるという事だろう」
「しかしねぇ、私達としては彼の情報を調べる立場にいるのだから」
よく喋る。
何とか大臣っぽい奴が何か言っているが、ここは王宮議会ではないのだぞ。
名ばかりのラファ共が騒がしいが、彼等の言う事もあながち間違ってはいない。
王宮許可のもと、隣接する領主達に自領の一部すらをも売り払ったのは有名だ。
歯を食いしばってでも守るべき所領を切り売りした恥ずべき領主家。そこは、財政などとうに破綻している子爵家だ。
名ばかり男爵が確定してからは、俺も王国本土からヘルツォークを助けたいがためにラーファン子爵領を乗っ取ろうとも画策していた、それはまぁ今でもだったが。
くそっ、後数年だったというのに。家名が変更されるくらいであれば合法的にはいらない所領だぞ!
ローランドめ! あそこの家名なんぞ、断じて欲しくはないというのに。
「――新しくラファとなった、エーリッヒ・ラファ・ラーファン子爵である。皆の者も快く迎え入れて欲しい」
疎らな拍手が議場を寂しく彩る中、俺にヘルツォークの家名を与えたミレーヌ様は、申し訳無さそうに見つめてくる。
そんな顔をされてしまうと、咄嗟に文句が言えなくなってしまうぞ。糞が!
これでは、ラーファンの呪いを汲み取るであろう器になってしまうではないか!
いぃ、嫌ぁぁぁぁあああああ!!
☆
「う、う~ん…… あり得ない……」
車椅子で元の治療院の一室に運ばれたその人物は、うめき声を上げてうっすらと目を覚ましつつあった。
「リック君! 貴方! 大丈夫?」
温かい複数の滑らかな温もりを感じながらその人物、俺、ことエーリッヒは目をゆっくりと開けた。
「クラリス、ティナにイーゼも…… ありがとう。悪い夢を見ていた気分だ…… ニア、僕は一体?」
状況が把握できないが、感情がすべて夢でありたいと訴えている。
「ご主人様は、レッドグレイブ公爵とバーナード大臣、その後王妃陛下と打ち合わせ後に意識を失われました。一体どうされたのか、私達が聞きたいぐらいです」
あれは夢ではなかったという事か。
先日の家名変更の件に此度の打ち合わせの件。
いくら婚約者達にでさえも気軽に話せないのが辛い。
ただし、家名の件くらいは先んじて伝えたほうが、心情的にも、それから家に嫁ぐという点を取っても伝えたほうが無難だろう。
当事者達という事で、心の整理をつける時間は多いほうがいい筈だ。
「そうか…… くそ、ローランドめ」
「ねぇ、貴方…… ちゃんと身体を休めて。だって…… 無茶をしないって言ったのに。戦場は生き物だと私だって知っている。でも、退くって!? ……退くって言ったのに」
クラリスがベッドに横たわる俺の右腕を胸に掻き抱きながら、その頬を涙で濡らしていく。
ここ数日似たような事を会議に出る度に言われているが、心配をかけた身としては、甘んじて受ける他には無いだろう。
「心配かけてすまない。もちろん、僕も死ぬつもりは無かった…… こうして君に触れ、君の顔を見て語ることが出来ることは幸せだ。それはティナにイーゼ、それに端で目立たないように控えているニアもだよ。皆、愛している。実力が伴わない身で、無理をした僕を許して欲しい」
「今だって無理しているじゃない。いくら何でも目を覚ました翌日から、連日会議に参加なんてやり過ぎよ! 王宮内の治療院に滞在を強制されているのも、体のいい軟禁みたいなものじゃない! お義父様に文句を言ってくるわ」
俺の為に怒ってくれるのは嬉しいが、バーナード大臣とて既に不眠不休、それが今後も続くであろう事を考慮してしまうと、あまり娘から強く言われてしまうのも可哀想だろう。
「クラリス、お義父さんも大変なのは間違いないから…… 無理を言ってはいけないよ。ティナも、その魔道具の銃を持ち歩くのは止めなさい」
内腿に備えられたホルスターが覗いたのには驚いてしまった。
エロい…… アリだな。
「うぅ、だって!? お兄様ばかり何でこうまでご苦労を? 納得いきません!」
マルティーナの雰囲気からすると、王宮内で引き金をひいてモンスターパニックでも起こすんではないかと気が気ではない。
「ねぇ旦那様、バルトファルト君の使い魔? も言ってたけど絶対安静だって…… もうリックさんのあんな真っ青な顔、見たくないです」
「基本的には座っているか、こうして横になっているだけなんだ。寝る時間が確保されている分には、王宮内の誰よりも恵まれているとは思うんだけどね」
王宮内どころか比較的に軽い損害で済んだ王都全体でさえ慌ただしい。王都にも人が順次戻ってきており産業も動き始めている。ファンオース公国本隊による侵攻被害に曝された王国本土復興への人員手配も始まりだす頃合いだ。
血が足りないという理由だけでは、単純に俺の立場において休んでいられる状況ではないのも事実だろう。
さて、そろそろ家名の事だけでも伝えようとした所に、病室の扉をノックする音が耳を打った。
「はい、どうぞ」
某共和国とは全く関係ない、おフランスベッドのように魔道具の操作で背凭れを調整しながら入室を促した。
「失礼するわ。一度、顔を出さなければと思って。初めまして、我が新しい
「アンジェリカ、ママ……」
一目見ただけで誰の血縁か瞭然とする容貌だった。
豪奢な薄く紅みがかった金髪をゆる巻きのハーフアップから肩甲骨まで垂らした流行りのスタイル。ナルニアもよくヘアアレンジしているが、公爵夫人の歳だと艶然さと深みが否応に増している。
年齢を感じさせない体躯を錆び付いた血のように赤黒いドレスが見事に際立たせているが、ヘルツォーク好みなのが目に毒だな。
嫌味だろうか?
「ママだなんて。お乳をせがむ子供ではないでしょうに――」
男女問わず対人における視線に慣れているのだろう。自身の豊満な胸の下で腕を組んで殊更に強調している。
実際に不足していて欲しいのは、お
「――アンジェ、貴女も来なさい」
「失礼する。その、体調が優れないときに押し掛けてすまない」
母親と共にいるせいなのか、少し委縮した様子でアンジェママに遅れてアンジェリカが入室してきたのだった。
☆
非常に緊張感を伴う空気が病室を漂っている。
クラリスでさえ気軽に言葉を発することが出来ない様子だ。
何故か? アンジェママが、
ファンオースの件を自分の口で説明しなくなったのは助かるけど、イコールでもう覆せないというのも決まった瞬間かもしれない。
泣きそう。
「僕の婚約に関する件の根回し完了、そしてヘルツォークの伯爵への陞爵に四位下への昇進を以って、僕自身の処遇は全て飲み込めということですか?」
「そうよ。悪い話どころか、全体的に見れば良い話だとは思わない?」
アンジェママは女性陣を睥睨しながらそう言うが、流石にクラリス達も口を開き始めた。
「しかしヴィクトリア様、ラーファンの件は正直構いませんが、リック君を一年間もファンオースに派遣するのは納得出来ません!」
クラリスは家名がラーファンになるのはいいのだろうか?
マリエを連想させるから嫌がるだろうと思ってたけど、王国本土のラーファン領が手に入るからいいのかな?
「まったくです。ラーファンなんかどうでもいいですが、お兄様が何故ファンオースに!? しかもアンジェリカさんがお兄様の妹…… ぐぬぬ」
「何故ティナは私に敵意の視線を向けるのだ!?」
どうでもよくないよ!?
家名って滅茶苦茶大事なことの筈なんですけど。
「ねぇ、イーゼやニアは家名がラーファンになるのってどう思う? 嫌じゃない?」
クラリスとマルティーナの反応が予想外過ぎたので、つい二人に聞いてみてしまった。
「私自身は気になりませんよ。そういうこともあるのだなぁ、程度ですね。慣れれば仕事に支障も出ないでしょうし」
ナルニアはドライだ。
王宮直上防衛艦隊員の訓練の時も感じたけど、この娘はたまにビックリするぐらい泰然自若としてる時があるんだよな。
「クラリス先輩とティナちゃんが妊娠して、折角これから私のターンだったのにぃ…… びぇぇぇええええん!」
あぁ、ヘロイーゼちゃんが決壊した!? しかもターン制だったとは…… ヘロイーゼちゃんのライフはゼロになってしまった。
しかし誰もラーファンに突っ込まない。マルティーナも下級貴族にありがちな正妻の件で、あまり快くは思っていないだろうに。
え? 気にしてるのって俺だけ!? 貴族の結婚は家同士の繋がりなのに?
上級貴族は家同士の繋がり重視なので、最悪旦那や嫁が案山子でも構わないぐらいの感覚だった筈だ。俺が下級貴族だから、嬉しいことに愛情重視なのだろうか?
「に、妊娠!? 二人ともいつの間に……」
アンジェリカはヘロイーゼちゃんの言葉に目を大きく見開いて驚きを表している。
「あら、おめでとうクラリス。それにマルティーナさんだったかしら。ちょうどよく領地も増えて、目出度い限りね」
だから飲み込めという圧力を視線に感じる。この場では内緒にされている例の二人の件もそこには含まれているのが見え見えだ。
ちっ、この人はローランドと仲良しなのだろうか?
「邪推はおよしなさい。利害が一致しただけだわ」
心を読まれた!?
ふぅ、苦手なタイプだな。可愛げが皆無じゃないか。
「元々の領に加え、新しく下賜されるラーファン領。当主不在ではままなりません。リック君にはここにいてもらわなければ困ります。王都が比較的無事な事もあって学園も直ぐに再開するんです! 彼はそもそもがまだ学生なんです!」
おぉ、クラリスが必死に女王様っぽいアンジェママに食い下がってくれている。
愛か? 愛ゆえなのか!?
「端から見れば新たな領地も下賜され、アトリーと深い繋がりがあるヘルツォークが陞爵までされるのです。甘ったれるんじゃありません!」
貴族社会における対外的な物の見方ではそうなるんだよな。
しかもヘルツォークの陞爵の件が、俺自身に非常に利くのが質が悪い。受け入れてしまう最大の要因だ。
「身重ではまともな補佐も出来ないのは明白。リック君には今まで以上に自領に気を配ってもらう必要が! 私としては学園にすら行って欲しくはないんです!」
マルティーナにヘロイーゼちゃん、それにナルニアもクラリスの言葉に頷いている。
なるほど、王国本土内も大変な時期、学園に行っている暇があるなら、ラーファン領二つをメインに働けという事か。
あ、愛…… ゆえでは無さそうだ…… 泣きそう。
「何でお兄様は泣いているんですか? 泣きたいのはわたくしです!」
「な、何となく…… ティナ、両手はせめて後ろで組んでいなさい」
くっ、とか言うんじゃありません。
その魔道具の銃、取り上げようかな?
「人員が足りないなんて情けないことを言うのであれば、レッドグレイブからも人を出すわよ? アトリーがそれで良いのであれば」
クラリスとアンジェママはまだ激論を交わしているが、人を出してくれるのであれば渡りに船だ。寧ろレッドグレイブ公爵家には、そのぐらいしてもらいたい。
どっかの公爵領は人がいなくて大変そうだし、人って大事だよね。
「それには及びません――」
えぇ!?
クラリスが速攻で申し出を跳ねてしまった。
「――うちの事業を覗き見させるつもりはありません…… どうせお義父様もご了承の案件、アトリーが人員手配します。王国本土より我が家を優先させますわ。アトリー、いえ私が本気で」
俺の旧ヘルツォーク子爵領は覗き見られても構わないけど、確かに内に入られて事業の全容を掴まれるのは御免被りたいのは確か。
しかし、当主の俺が半分蚊帳の外ですが…… 王国では男は飾りだからね。仕方ないね。
「しかし、お兄様は王位継承権が六位との事。現在の順位内では陛下の王子達よりも年齢が高い…… そんな人物を王宮から遠ざけるのですか?」
マルティーナの言葉にヘロイーゼちゃんがビクッとする。
「えっ!? ヤバくないですかリックさん! もう王子様みたいなもんじゃないですか!」
本来ならレッドグレイブ側の継承権は保険、長年の間領主貴族として公爵だからこその権威のようなものかな。
古い話をすれば、ファンオース大公家にも王位継承権は付与された。次男だったヘルツォーク開祖も付与されていたが、独立と同時に破棄もされた経緯だ。
「さっきヴィクトリア様が諸々の件含めて最初に説明していたでしょ。何であんたは今更驚くのよ」
ナルニアは額に手をあてながら、困った子をみるような態度でヘロイーゼちゃんに接している。
「いや、話が難し過ぎて…… 婚約が認められた件が嬉しくて後はね…… あははは、ハッ! ど、どうしようニア! 婚約者が王子様とかヤバい…… 夢かも!」
ホッコリとしてきた! ヤバい!
「夢じゃないよ。ほら」
「あ、でも痛くないですよぉ。えへへ」
ベッドサイドにちょこんと座っているヘロイーゼちゃんの頬を軽くツネってみた。
「形だけの継承権だから、とても王子とは言えないよ。王の子ではなくレッドグレイブ側のラファだしね…… いひゃいっ!」
両頬をクラリスとマルティーナにツネられた。
「ねぇ貴方、凄く大事な話の最中なの。当主なんだから遊んでないで話に加わって」
「お兄様は、ついに時と場所を選ばずにアホになってしまったんですか…… もう屋敷に監禁してわたくしが介護するしかありませんね!」
クラリスのお怒りはわかるが、何でマルティーナは少し嬉しそうなの?
「大方、僕を継承争いから遠ざけたいのでしょう? ラファやら王位継承権やらは、陛下の嫌がらせでしょうしね。本当に王位の矢面に僕を立たせるのは避けたいといった所では?」
取り敢えず話に加わってみた。
「甘いわね。あの陛下が次の王位の事なんて気にするような責任など皆無。王妃陛下のほうが、気が気では無いのでしょうね」
目を細めて口元を扇子で隠しながら思考に耽るアンジェママ。ユリウス殿下とアンジェリカの件で煮え湯を飲まされた立場としては、未だに根強いホルファート王家への不信感が見え隠れしている。
しかし、ミレーヌ様には子供がユリウス殿下とエリカ第一王女しかいない。
バカやったユリウス殿下は失脚、エリカ第一王女はフレーザー侯爵家の嫡子と婚約。残念ながらミレーヌ様は弾切れだ。
このままだとミレーヌ様は、将来王宮内の暗闘で謀殺されてしまうかもしれない。次代の王の母親とかに!
そして、俺の脳天から脊髄にかけて稲妻が走り抜けた!
「なるほど…… そういうことか」
「貴方は何か解ったの? ……怪しいわね。目がぐるぐるし出したわよ」
そう、ミレーヌ様の後ろ楯に俺がなって、匿ってあげるのだ!
そのためにファンオースをそこそこ使える領にしておきたいんだろうて。その期待に応えられるのはそう、俺!
ミレーヌ様はリオンより俺を信頼しているのだ!
最近のミレーヌ様はリオンとばかりお茶をしているから、俺はただ何となくいいように使われているだけなのでは? などと疑ってしまっていたが、まったくあの方は可愛い所がある。
皆に内緒で、ファンオース内で存分に二人で過ごせる場所を用意してあげようではないか!
ふはははは…… あ、血が足りない、眩暈が酷い。
「クラリス先輩、これは絶対に解っていないアホな事を考えてる顔ですね」
クラリスとマルティーナが、じぃっと覗き込んでくる。
失敬な、割りと読みと策略に定評のあるエーリッヒさんだぞ。
ほら、ヘロイーゼちゃんは「凄いです!」って言ってくれてるし。
「仲良くしていきたいのは事実よクラリス。解るでしょう?」
「レッドグレイブはリック君とリオン君の両取りをするつもりですか? 反発は…… 抑える事が出来ると」
「母上! それはこのような所で話す内容では……」
頭がぐるぐる回っているが、何となくヤバい方向に話が進んでいる気がする。聞かなかった事にしよう。
「ティナちゃん、どういう事?」
あぁ、ヘロイーゼちゃんが空気を読んでない!?
「お兄様とアンジェリカさんは王位継承権第六位と七位。王国全体が混乱の最中、レッドグレイブ公爵領は比較的落ち着いています。王国の英雄と既に名高いリオンさんをレッドグレイブに取り込めば、お兄様とアンジェリカさんは兄妹…… ぐぬぬ。お兄様とリオンさんもただの友達ではなく義理の兄弟。部類としては穏便に…… そういう事です」
ティナは、そんなに俺とアンジェリカが兄妹というのが納得出来ないのだろうか?
俺なんかは、幻のシックスメン程度の扱いでいいのに。
「あ、あぁ、そういう…… えぇっ!? もががっ」
「もうイーゼは黙ってなさい」
ヘロイーゼちゃんとナルニアのやり取りが癒しだな。和むのでアリですね。
「強引ですね。この一年で状況は以前とは雲泥の差、少し様子見の期間が必要では?」
俺やリオンの状況も目まぐるしく変化していった。そこに関わる人間、関わろうとする人間の環境も相当に変化した事だろう。
「あの決闘後、レッドグレイブは様子見を貫き裏での工作も控えた。結果として見れば悪くない状況ですが、動かなさ過ぎたのも事実。浮き沈みの激しい新興ならいざ知らず、レッドグレイブが乱高下する事態こそが、愚の極み」
「そうですね。今の立ち位置は悪くなかろうとも、レッドグレイブ公爵家の信用はこの一年でがた落ち。特に王国本土内の領主達には顕著ですね」
下級貴族の浮島領主達は気にしなかっただろうが、決闘後のレッドグレイブ家の沈黙で、王宮内は分裂。それに付随するように、各領主貴族も支持する王宮内の宮廷貴族の鞍替えが頻繁に起こった。
ヘルツォークにはあまり関係も薄く、俺からしたらさもありなん程度の認識だ。
「そう、王家もフランプトン侯爵の跋扈を許した事で相対的に…… ところが土壇場で踏み留まった」
ミレーヌ様が頑張ってたおかげだろう。ローランドめ!
アンジェリカが困ったような、しかし何処か誇らしい表情でヴィクトリア様の話を引き継ぐ
「陛下が謁見の間でリオンをファンオース迎撃の総指揮官に任命し、エーリッヒをラファとして王都の防衛指揮官に任命。二人はその任を果たしたからな。謁見の間に参列した貴族達からの陛下に対する信用が醸成されているのだ」
ということはつまり、ローランドは美味しいとこ取りをしたのか!?
細かい仕事はミレーヌ様達にぶん投げ、面倒事は俺に投げたというのに……
あいつ絶対に許さない。
「でも公爵夫人、貴女のやり方にはアトリーも僕も反感を覚えてしまいます。少々虫が良過ぎると思いますがね」
「いずれ時間をかけて返していくわ。それに、王宮公示前に貴方の婚約者たちに私の口から説明したのは、貴方にとって非常に助かった筈よ。その時になって右往左往しながら困った様子の貴方の顔が目に浮かんだのでね」
うぐ…… 確かにその通り。
バーナード大臣が説明しても娘の立場であるクラリスは反発して大臣も大変だろう。他のさらに上位者の言葉であれば、反発心は残すだろうが納得せざるを得ないのが実情。
クラリスも王宮での行儀見習い時や学園入学前にヴィクトリア公爵夫人とは面識がある。爵位上も年嵩も上の女性から言われるのが、一番反論しづらいだろう。
そして俺は、先日までの自身を取り巻いていた状況に対する思考を打ちきり、目の前の貴族女性、エヴァ・フォウ・ブラウンとアンナ・フォン・パウラに意識と視線を戻したのであった。
エヴァ・アンナ・パウラ・ブラ…… と繋げてはいけない。
おっぱいがプルンプルンしてしまうから(笑)