乙女ゲー世界はモブの中のモブにこそ、非常に厳しい世界です   作:N2

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松笠様、誤字報告ありがとうございます。


第13話 お茶会

 わたくしマルティーナは、女子寮に到着した後に子爵家の女子グループの集まりに参加した。

 

 王国本土でも貧乏であったり、辺境に位置するような子爵家の女性が集まっている。同じような境遇の男爵家の女性達とは、クラス等で個人的に仲良くなってから、情報交換をしていると先輩は教えてくれた。

 そんな境遇なのにここに集まっている女生徒は、ほとんどが専属使用人を連れていた。

 これには頭が痛くなってきた。亜人種達がわたくしを値踏みするような視線も気持ち悪い。

 

 そしてついにわたくしは、この集まりで見付けてしまった。

 薄めの金髪碧眼、妹のマルガリータよりも小柄な庇護欲をそそるずいぶん可愛らしい女子だ。

 マリエ・フォウ・ラーファンと紹介している声が聞こえた時には、全身が粟立ってしまった。

 お父様に多大な苦労をかけ、お兄様におそらくは今でも心労をかけ続ける家の娘。

 お兄様の実子証明の前に死んだため、正妻の葬儀は当家で執り行ったが、その時のお兄様の言葉は、今でも時折思い出す。

 

 「はっ、これで王都の屋敷も専属使用人も処分できる」

 

 あの冷たい眼光に少し含まれた安堵の念。生ゴミを捨てる時のような表情。何とお労しい。

 曲がりなりにも、実母の葬式を目の当たりにした少年とはいえない。

 わたくしが彼女に関わるとお兄様も善い顔はしないだろう。

 距離を置く事に決めたが、お兄様の従姉妹。

 顔立ちはお兄様と全然違う。しかしあの金髪碧眼の色合いが、お兄様にそっくりな所が異様に腹が立ってしまって仕方がない。

 ただし、前の紹介時にわたくしが、マルティーナ・フォウ・ヘルツォークと名乗った時は、まるで無関心だった。ラーファン子爵家もヘルツォーク家との顛末を知っているだろうに。

 あの子は無関心なのだろうか? 

 とにかく目の前の料理を無心に頬張る姿には、わたくしも毒気を抜かれてしまったが…… それならそれでこちらも気にしないようにしようと思う。

 お兄様にさえ近づかなければ。

 

 

 

 

 入学式から1ヶ月が過ぎた。

 我が偉大な妹様は、四月中は上の学年からしばしばお茶会に誘われていたが、まだ伯爵以上からは誘われてはいない。

 やはりまだヘルツォークの名前に遠慮があるのだろうか? 

 ただし、予想外だったのが、最早ヘルツォークの名前を気にしていられない、男爵と子爵クラスだった。

 お茶会は5月の連休から1年生は開催するが、我が妹様には1年男子から殺到している。

 マルティーナには、リオン達のお茶会には顔を出せと伝えて、後はマルティーナ自身に任せていた。

 

 生活にも慣れ始め友人達もできた。リオンやダニエル、レイモンドだ。

 

 「お茶会どうする? やっぱり招待する相手は選ぶべきだよな」

 

 四人で学園内のベンチで、お茶会の相談も兼ねて駄弁っていたら、ダニエルがお茶会の件で問いかけてきた。

 

 お茶会で女子との距離を詰めて婚約をしようというわけだが、当然ただのナンパではなく、相応の格が求められる。

 

 「リオンは大変だな。実家への投資がばれてるから、金持ちだって思われているし」

 

 「リックの所も賠償金がたんまり入ってるって皆知ってるぞ」

 

 「「はぁ……」」

 

 2人で溜め息をついてしまう。辺境で人気もないが、金はあると見られているので、それなりにいいお茶会にしなければならない。

 

 「僕は実家から仕送りをして貰ったけど、そんな贅沢なお茶会は開けないよ。参加してくれそうな女子なら誰でもいいや」

 

 俺もリオンも実力で卒業後に独立を勝ち取っているため、金もそれなりにあるだろうと周囲の期待が高い。

 どんなものかは知らないが、ロストアイテムの飛行船と財宝に浮島を見付けた奴と一緒にされても困るんだが。

 

 「お前達ならうちの妹は参加させるぞ」

 

 「それは嬉しいんだけどね……」

 

 レイモンドがうつむき溜め息を吐きながら答える。

 てめぇ!? うちの妹の何が不満なんだ! おぅっ!! 

 

 「リックは本気で言ってんのか?」

 

 「止めろダニエル! 鈍感系には何を言っても無駄なんだ」

 

 ん? 何か言った? 

 

 (ルクシオンが、『目尻の下がり具合、口角の上がり方、頬の緩み、脈拍に心拍数。完璧にマルティーナはエーリッヒに懸想をしています。残念でしたね、マスター』ってあいつ、俺をからかうように言ってたからな。あいつの分析なら間違いないだろ。身分も含めてこれ以上ないくらいの子なんだけど、結局は結婚出来ない相手だからなぁ)

 

 リオンが遠い目をしたと思ったら、バカにするように俺を見て溜め息を吐きやがった。

 俺、何かやっちゃいました!? 

 

 3人からの溜め息が漏れ出すなか、王太子殿下御一行が大勢の取り巻きや女性を連れて歩いている。

 側には親友にして乳兄弟であり、俺とも馴染みがあるバーナード大臣の娘と婚約している、ジルク・フィア・マーモリアの姿もあった。

 濃い緑色の髪に優しげな垂れ目の緑の瞳は、鋭い目付きの王太子殿下とは対象的だ。

 王太子殿下、ユリウス・ラファ・ホルファート、物凄い美形だ。背が高く身体は引き締まり、濃い紺色の髪に瞳は美しく輝いている。異次元のイケメンか…… あまりミレーヌ様には似てるようには見えないが、あの整った容姿は血のなせる業か。

 結論としてはミレーヌ様異次元の美女。

 

 「殿下は5月のお茶会は開かれるのですか?」

 

 是非参加したい、と女子達は目をハートにしながらキャピキャピしている。

 

 「今年は殿下や名門貴族達がいるからハードルが高いよね」

 

 「比べられるよな。勘弁して欲しいぜ」

 

 レイモンドが顔を両手で覆い、ダニエルは肩を落としていた。

 そんな中、リオンは気落ちする事なく魅入っているのが印象的だ。

 俺も釣られてボケッと観ていると、輝く濃いめの豪奢な金髪をアップに纏めた、公爵令嬢のアンジェリカ・ラファ・レッドグレイブが、多数の取り巻きを連れてやってきた。

 王太子殿下も公爵令嬢も、取り巻きに伯爵家クラスがいるのが凄まじい。

 お茶会の件で2人の間が緊張感が増している。王太子殿下が注意してるな。

 確か婚約者だったはずだが、王太子殿下の対応が冷たいのは何故だ。

 

 「この人が…… バル…… 感じが……」

 

 リオンがなんかぶつぶつ言ってる。

 

 俺はあまり目を合わせないようにうつむき加減にしたが、ある声が聞こえてきたため顔を上げてしまった。

 

 「殿下」

 

 マリエ・フォウ・ラーファンだ。

 彼女自体は悪くないだろうが、ラーファンと聞くだけで憎しみが湧いてしまう。もちろん彼女にそれを向けようとは思わないが、関わりたいとは思わない。

 

 殿下はラーファンの娘に笑顔を向けている。婚約者をないがしろにしてそれはないだろう。

 アンジェリカさんはスタイルも素晴らしい大人顔負けの女性だが、マリエは13歳の下の妹、マルガリータよりも発育が圧倒的に悪いぞ。

 王太子殿下は、小学生○最高だぜ! とか言い出さないよな? 

 

 マリエが登場し、王太子殿下がお茶会に誘った事で、公爵令嬢のアンジェリカさんとの雰囲気が険悪になっている。

 お茶会には格がある。いくら王太子殿下でも個人的にラーファン子爵家の令嬢を誘ったら駄目だろう。

 いや、遊びならいいのか?

 てか隠れてやれよ。婚約者の前で見せつけるな!

 あの女の嫌らしい笑みが視界に入った時は、殺気を飛ばしそうになってしまった。

 

 永遠に切れない仲らしい、それもいいだろう。

 僕はグラサンとノースリーブでそう言った。

 んなわけあるか!? 

 

 

 

 

 あんな事はあったが、もうラーファン子爵家とは関わりがないので、また元の学園生活に戻った。

 そうこうしていたらお茶会のマナー教室で、リオンがめっちゃお茶の世界にハマった。

 俺自身、上級クラスになるとわかってからは、実家のメイドから厳しく躾られた。

 彼女、アンナさんというが、もう76歳になるか。

 祖父の所に来る前は、まぁ、大貴族の所で行儀見習いをしていた人だ。

 それなりに及第点はもらったが、妹2人のほうが俺のお茶よりも美味しい。

 背筋を伸ばした髭も上品なマナー講師は、まだまだ精進は必要です。と付け加えながらも作法を褒めてくれた。

 その後にリオンに悔しがられたのには思わず笑ってしまったな。

 

 

 

 

 5月のお茶会。

 

 「エーリッヒ様もまだまだですね」

 

 一応方々には招待状を送ったが、参加してくれた女子も初回だけで後は無しのつぶて。マルティーナが継続的に参加してくれるぐらいだ。

 駄目出しをしながらも、笑みを絶やさずに俺のお茶を飲んでくれている。

 

 「結局、開始して早々にティナだけだよ。僕のお茶会に継続して来てくれるのは……」

 

 「まぁまだ1年生は始まったばかりですから。誰かエーリッヒ様のお茶会に参加されたのですか?」

 

 気を使ってくれる妹がいなければ、俺はこの学園を辞めていたかもしれない。

 

 「何人かはね…… お前は1年生からはけっこう誘われてるだろ? 王都の金持ちとか、王国本土の金持ちが確か何人かいただろ」

 

 王太子殿下達以外で、女子から人気の貴族がいたはずだ。せめて王国本土の貴族であれば、余程の家じゃない限り安心だ。

 マルティーナにはせめてそういう家に嫁いでもらいたい。

 

 「そういえば先日、フィールド辺境伯の方から招待状が届きましたが、止めておきました」

 

 「何故だ? フィールドは王太子殿下とも仲がいい。それに父上ともファンオース公国との戦争で一緒に戦っている。まぁうちの評判やなんやらで、付き合いはほぼないが……」

 

 向こうは大貴族だ。婚約者がいるだろうが、お茶会は豪華だろうし出たほうがいいと思う。

 先方も昔は一緒に戦った事もあるし取り敢えず。みたいな感じだろうけど。

 

 「ラーファンの娘がお気に入りみたいで…… 2人のそんな様子を見たら気分が悪くなりそうですので、遠慮しました」

 

 マリエか。確かにそいつは関係ないとはいえ、マルティーナが嫌がるのもわかるな。

 でも待てよ。

 

 「確かあの女、王太子殿下とも仲が良かったような…… どういう事だ?」

 

 「けっこうあの5人に構われているみたいですよ。まだ表だって女子も動いてはいませんが、直にあのラーファンの娘に対して、嫌がらせなどが出てくるでしょう」

 

 あの5人とは、王太子殿下のユリウス・ラファ・ホルファート、ジルク・フィア・マーモリア、ブラッド・フォウ・フィールド、クリス・フィア・アークライト、グレッグ・フォウ・セバーグの事だ。

 さすがに1ヶ月も学園にいれば、どれだけ凄い出自かはよくわかる。

 というより王太子殿下はもちろん、王宮貴族のマーモリア子爵、公国の壁となるフィールド辺境伯、剣聖という武官の重鎮アークライト伯爵、既に冒険者として活躍しているセバーグ伯爵の跡取り。

 王国の貴族で彼等を知らなければ只のモグリだ。

 しかも彼等は、昔からの付き合いで仲が非常にいい。

 

 仲が良ければ女もシェアするというのか、いや、これは邪推か。取り合っているというには、この5人の間での揉め事は聞かないな。

 まだ5月だしよくわからんな。

 

 それよりも気になっている事を我が偉大な妹様に聞こう。

 

 「なぁ、何で僕は人気がないんだろう。女子のネットワークで知らないかな?」

 

 こんな事を妹に聞かなければいけないのが情けない。

 領内にいた頃は、それなりに格好いい頼れる兄だったと思うのに。情けなくて泣きそう。

 

 「エーリッヒ様はその…… 時折怖いと女子が噂してましたよ」

 

 「怖い!? 僕がかい?」

 

 マルティーナは申し訳なさそうに伝えてくるが、女子にはかなり下手に出てるぞ。

 

 「その、ラーファンの娘が視界に入ったり、話が聞こえてきた時なのでしょう。眼光するどく…… 女子だけでなく男子も怯えた姿を見せる時が…… いえ、わたくしはそのようなエーリッヒ様も格好いいと思うのですが…… 殺気に耐えられないのかと……」

 

 しどろもどろにフォローを入れてくれる妹が可愛い。

 じゃなくて、殺気か…… 確かに既に俺は人殺しだ。戦艦を中破もさせているし、楽に3桁は殺している。もはや躊躇いすらもない。しかも割りと本気で、ラーファン子爵家消えないかなと思ってる。

 滲み出たか。まだまだだな。マルティーナに言われなければ気付かなかった。

 リオン達は上手くやっているだろうか?

 聞いてみよう。

 

 「リオンはどうなの?」

 

 「実はリオンさん、特待生をお茶会に誘ったとかで、ちょっとリオンさんをいいなと思った女子も敬遠しだしたんです」

 

 特待生か、おっとりとした巨乳のいい娘でリオン好みだな。

 俺も割りと…… おっと止めよう、この先は危険な気がする。妹が怖い。

 まぁ確かに癒されるが…… 身分が低すぎる。そりゃ他の女子もそっちにかまけられたら気分を害するか。

 俺もリオンもままならないな。




ちょっと決闘まで時間がかかりそうです。
すいません。

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