乙女ゲー世界はモブの中のモブにこそ、非常に厳しい世界です   作:N2

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短めですが、新章における冒頭内容として纏めました。


2年生編 1学期 ファンオース公爵領及びアルゼル共和国
第115話 2年生編プロローグ


 アルゼル共和国は、各々の浮島を代表する六家の議会制で統治されている国だ。

 聖樹という高さ30,000Ftにも及ぶ、巨大な樹木から齎される魔石の一大輸出国として確固たる地位をこの世界で築き上げている。

 その六家を代表する議長を任じられている家、ラウルト家はバルコニーで揉めていた。

 

 「セルジュ!? 貴方はフラフラと! 次は何処に行くつもり? これからアルゼルは、ホルファートの有力貴族家の子弟達を学園に迎えいれるの。サボってばかりじゃなく、学園で務めを果たしなさい!」

 

 ラウルト家の令嬢、ルイーゼ・サラ・ラウルトが、精悍で引き締まった体躯をしている、日焼けした黒髪オールバックの粗野の中に気品さを漂わせた男にきつい言葉を浴びせていた。

 

 「はっ、王国なんか共和国に二度敗北してる雑魚じゃねぇか。そんな所の奴等なんか気にする必要ないだろうが。まぁ、冒険に重きを置くっていうのは悪い気はしないな」

 

 強い弱いはこの際横に置いておくとして、他国の国賓が一年間自国で過ごすというのに、このセルジュの態度はルイーゼには我慢がならない。 

 何故なら――

 

 「セルジュ、お前がラウルトの跡取りなのだぞ。どのような他国に対してもその態度は大いに問題がある。特にホルファートは、アルゼルとの貿易取引を遮断しても自国で賄えるのだ。レパルト連合王国との友好外交上、取引しているに過ぎん。しかも王位継承権を持つ人物が()()も来るのだぞ」

 

 アルゼル共和国議会制議長家、現議長であり当主のアルベルク・サラ・ラウルトは頭痛を堪えるように苦言を呈している。

 

 「別にホルファートなんかどうでもいいだろうが親父。寧ろ最近はフェーベルとバリエルがイキってるらしいぜ。そっちを気にするんだな」

 

 「セルジュ!! ……あんたなんかが、私は認めないわよ!」

 

 アルベルクとルイーゼを後目にカツカツと足音を響かせて屋敷を後にするセルジュ。

 激昂する己が娘であるルイーゼの肩にアルベルクは手を置き、致し方無いとでもいうように首を横に振る。

 

 「お父様、私は今でも認めたくありません。あいつが私達の()()()の変わりなんて………」

 

 「……いずれ、自覚も芽生えよう。セルジュとてこの家に迎え入れられた葛藤は未だある筈だ。私は待つよ」

 

 父の達観した男の深みはルイーゼも理解したいとは思うが、感情がそれを拒否してしまうのは仕方無かった。

 

 「………私の弟はリオンだけ。だから例え嫌悪しようとも貴方が目を輝かせた…… ()()()は守ってあげるわ」

 

 でも、とルイーゼは思う。

 一体自分の事は、誰が守ってくれるのだろうと……

 

 セルジュは屋敷を出た後、ある男と面会していた。

 

 (結局ルイーゼも図体だけ大人になりやがったが、十年前から何も変わってねぇ……)

 

 セルジュは昔から己が姉となったルイーゼの態度が気に入らない。

 

 「しかし、お前らも大元は冒険者を忌避するんじゃなかったか?」

 

 「我々はラーシェル神聖魔法王国でも鼻摘み物ですよ。自身を証明するためには、圧倒的な力…… 暴力が必要です。その点、ラーシェルもアルゼルもお上品ですな」

 

 キッチリとしたスーツに見目を整えてセルジュと相対するこの人物は、一見するとやり手の実業家か参謀本部クラスの軍人に見える。

 

 「今、ファンオースも無くなるんだっけか? 停滞したアルゼルも、いや、この世界が動きそうだからな。旧態依然としていたら駄目だろうが、なぁ?」

 

 「……なるほど。だからこそセルジュ様は、()()()では無く我々と密にしていきたいと。我々としても僥倖ですな」

 

 セルジュと言葉を交わす人物は、本性を表したかのように獰猛な笑みを浮かべている。

 

 「ウィル、いやキッドとでも呼ぼうか? お前の鬼灯型戦闘挺(フィザリス)の改修も俺でやってやる。フェーベルの馬鹿ガキから宝珠を横流ししてやる。だからお前は、ラウルトではなく…… そうだな、俺はラウルトの跡取りだが、それでも俺個人につけ。満足させてやる」

 

 その言葉を聞いた瞬間にウィル・キッド、シークパンサーの首領は本性を曝け出した。

 

 「ギハハハハハハッ! こちとら略奪が大好きでさぁ。酒と金品に女がありゃぁ、大満足ですぜ! でもまぁ、金品は際限がねぇからいけねぇ。酒と女と殺しを楽しませてくれる度量がありゃぁ、死ぬまでアンタに着いていきますぜ」

 

 「分かりやすくていいぞ空賊。次の世代のアルゼルは、御為ごかしな上品さではなく、純粋なパワーで以て未来を勝ち得ていこうか」

 

 セルジュは己を全肯定してくれるシークパンサーの首領を前にして気分がいいが、自身を肯定されつつ彼の望む方向性に誘導されているとは夢にも思っていない。

 

 (全く、共和国の引き籠もり共は御し易いな。防衛戦無敗? 怖くて外に出られない臆病者揃いは笑かしてくれんぜ)

 

 アルゼル共和国、十年振りに策謀と暴力が訪れるという事を未だに当事者達は、知る由もなかった。

 

 

 

 

 アルゼル共和国にあるレパルト連合王国領事館では、ある一人の全権大使が報告書と添付された写真を眺めていた。

 

 「はぁ、ホルファート始祖五家に加えて王国の英雄を留学…… 叔母上は一体何を考えているのでしょう? それに…… ラーファン? しかしこの顔は、幾分成長しているとはいえ……」

 

 「王女殿下? 如何されましたか?」

 

 輝くプラチナブロンドを靡かせる体躯が引き締まった若干ツリ目の女性は、自身を王女殿下と呼ぶ領事館付きの職員を嗜める。

 少々尊大に腕を組む彼女は、細身ながら突き出せる胸をこれみよがしに職員に突きつける。

 

 「言葉を慎みなさい。今の私は連合王国の全権大使です。例えロンバルディア王国の王女、そして故サルデルーイャ魔法国王太子に嫁いだ過去のある未亡人といえど、職務は弁えなさい――」

 

 失礼しましたと頭を下げる職員。

 ホルファート王国王妃ミレーヌの姪にして現王の長女、2年前に連合王国を構成するサルデルーイャ魔法国の王太子に嫁いだが、半年後に病気で急逝したため、政治と外交的な温和な両国の話し合いで自国に戻った経緯がある。

 ホルファート王国とレパルト連合王国が友好関係を継続しているため、レパルト連合王国はそれなりの平和を享受していた。

 本来なら盟主国としての王女は未亡人としても価値は高いが、平和を享受している構成国家や自国の男共も彼女を忌避した。嫁いだ時には相手は病気であり、手垢も何もついていないのが実情だが、高位貴族の男共はやはり邪推してしまうらしい。

 実情として彼女が優秀な面が大きい事も理由である。それならばと他国に嫁いだ実績を加味して外交官として徴用されたのだ。

 御年、今年で二十歳になる明眸皓歯、容姿端麗を表した女傑、この4月からアルゼル共和国における、ニ年目のレパルト連合王国全権大使。

 アメリア・ルナ・ロンバルディアであった。

 

 「――この、エーリッヒ・ラファ・ラーファンというホルファート王国から五月に赴任する外務審議官を調べなさい。この顔…… 何年か前、彼が幼い時に見覚えがあります。軍務審議官も併せて任命された中将…… 来月で17歳。私、気になります」

 

 御意にと下がる職員の態度にアメリアは辟易としてしまう。

 

 「叔母上の息子に王国の英雄。そして私が知らないラファの…… 予想通りであればあの俊英。彼は王国の異端児かしら? ふふふ、楽しみね」

 

 その笑みは、政争に生きるミレーヌの微笑に非常に似ていたのだった。 

 

 

 

 

 そしてファンオースでは――

 

 「ふはははは! この私を暗殺しようとした馬鹿者共と強硬派の断末魔を貴様らの胸奥に刻み付けてやろう!」

 

 その後ファンオースでは、魔女達を従えるヴァルプルギスの魔王と呼ばれるエーリッヒ誕生の瞬間であった。

 

 「堪えるのです。ファンオースはこれから耐え忍び、いつの日か、ホルファートにファンオースありと言わしめるのです! その怒りとやるせない源泉は、復興に費やすことを私、ヘルトルーデは宣言致します!!」

 

 エーリッヒ、この悪魔めという声と共にヘルトルーデ様バンザイという声が辺りを充満している。

 可憐な我が姫様を捕らえた悪魔めが、という声も散見されている。

 その異様な雰囲気と旧公国貴族、主にファンデルサールとヘルトルーデへの戦争責任を回避させるため、自身に憎悪を集中させるべく()()するかのようにエーリッヒは、ギロチンの紐を切り断頭台を赤い花々で彩らせていった。




アメリアァァァァアアアア!!(24歳若ハゲ)

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