乙女ゲー世界はモブの中のモブにこそ、非常に厳しい世界です 作:N2
馬鹿にして! そうやって切り捨てる貴様は!
ならば感じて見せろ! 私は君と違って責任を背負う身だ。阿漕なことをやっている。
身勝手ですよ!? 待ち伏せ! ガ、鎧!!
エト殿、愛してあげます!
助けてよ! マルティーナ姉様ぁ!!
☆
エトが情けないシスコンになってしまう(笑)
その個人を己の目で確認した場合、ある程度の域に達した実力者であれば、おおよその強さという物を推し量る事が可能だ。
「……アームロング君か。本当に鎧の才能だけで生き残ったようだね。資料、助かったよカミラ」
軍部からの記録を取り寄せたエルンストはそれらを確認した後に呟いた。
生身の実力は普通の平民と大差が無いとエルンストは一瞬で見抜いていたが、軍での取り調べ記録と配属後の戦闘詳報を確認したエルンストは、素直にアームロングの才能を称賛した。
野戦任官であったエルンストだ。
本来ならばファンオースとの戦争終結後は、大佐という名誉階級が剥奪されるのが常ではある。しかし、王国本土端での戦いで下士官から将官までの軍人を多数損失し、更には王都迎撃艦隊も王国軍及び参戦した領主軍の半数以上が戦死している。
今の王国軍は軍人の絶対数が少ない状況である。
ヘルツォーク家は伯爵への陞爵に加えて、エルンストの名誉階級が大佐から准将へと昇進していた。学園在籍期間までという時限措置ではあるが、卒業後はヘルツォーク家と王宮、そして軍部での三者協議で継続するか辞するかを決定するという事が確定している。
だからこそ、軍部の記録に階級上のアクセス権をエルンストは持ち得ていた。
「秘書官ですからこのぐらいは。ですが、ヘルトラウダ様を秘書官に推挙して良かったのですか?」
名誉階級の将官には副官を二名選出できる。エーリッヒにはナルニアとベアテが任官されている。
エルンストはヘルツォークの寄子であるガーランド準男爵家出身のカミラとヘルトラウダを選出し、その任官が軍部より受理されていた。
王国軍内では、二人はまだ学生のため准尉という扱いではある。女生だからこそ副官ではなく、自らを秘書と言うのは可愛い愛嬌だろう。
参謀本部は往時の三分の一という人数に陥り、レッドグレイブ公爵やセバーグ伯爵、ローズブレイド伯爵に剣聖自身も軍の立て直しに奔走しているのが実情でもあった。
軍本部の本音で言えば、ファンオース派遣は仕方ないにしても、アルゼルへ奇数月にエーリッヒを派遣するのであれば、その時間を参謀本部に在籍させるか、王国軍再編を行わせたいというのが本音だ。
未だに各国境で小競り合いが続いているので、エーリッヒを司令官として派遣させたいという願望すらある。
王宮や軍本部は、彼が学生というのを忘れてさえいそうな状況とも言える。
そして、強かなローズブレイド伯爵は、未だ嫁ぎ先が決まっていない娘二人、ドロテアとディアドリーを今や王国内で注目を集めているバルトファルト男爵家、ヘルツォーク伯爵家へ嫁がせようと画策していくことになるが、その話はもう少し先の未来ではある。
「姉はファンオースで日々奮闘しています。私も出来得る限りの事は、王都へ居てもやらねば、姉に対して申し訳ありませんから。それとこれを」
ヘルトラウダはエルンストに資料を渡しながら、のうのうと学生の身だけに甘んじるつもりはないと宣言した。
今や伯爵家の嫡子としてエルンストに割り当てられた学生寮の一室で、各自が持ち寄った情報を整理していた。
マルティーナやヘロイーゼも見守るように、テーブルから離れたリビングの端にあるサイドテーブルでお茶を口にしている。
「彼は軍属としての特待生か。下士官として鎧も軍より貸し与えられていると…… 中々の好待遇みたいだ。ふふ、やるじゃないか」
教導隊所属の伍長として最新型ではないが、王国軍教導隊に採用されている鎧を割り当てられていた。
白色ベースの鎧に剣聖の髪の色を上体部にペイントされている、中々見栄えの良い鎧だ。
「流線型の速度重視の最新機ではなく、少々角張ったパワー型の一世代前の奴ですね。でも、本当に決闘を受けるんですか? 正直、俺から見てもあのアームロングとかいう特待生は弱そうでした。それに平民とはいえ、いや平民のくせにいくらなんでも無礼にも程がありますよ! 俺のほうで処断しましょうか?」
ヘルトラウダからエルンストに渡された書類を次に読んだバロン男爵家のロタールが、エルンストに真意を問い掛ける。
ロタールもおバカファイブと共に、ついこの間ヘルツォークで訓練を受けた身だ。実戦も最終日に経験している。
しかもこのロタールには、この場にはいないがナーダ男爵家の長女が婚約者として存在する勝ち組だ。一年生といえど、中々に余裕のある振る舞いが出来ている。
ロタールには、エルンストが態々直接相対する必要のある人物とは思えない。実質的にエルンストの取り巻きであり、ヘルトラウダの護衛も兼ねるロタールは、自らが決闘に出ても構わないと考えてしまう。
「私がやるよ。何より彼に興味が湧いた。あんな程度無礼にも入らないだろう。数年前の
十一歳から王都でヘルツォークのために活動したが、ヘルツォークという事で、当時は世間的にエーリッヒは嫡子と認知されていたというのに、まともに相手にしてくれる所は皆無に近かった。
リッテル商会経由でバーナード大臣と知己を得て、輸出入許可を得るまで一年半。エーリッヒが十二歳半からの半年間は、バーナード大臣が後ろ盾になったとはいえ、それでも即座にリッテル商会以外で、商圏が広がるわけではなかった。
そして自身の廃嫡に向けた活動も活発化させた事もあり、領の取引拡大も失速させるわけにはいかない。そこでエーリッヒは手を染めていった。ヘルツォークを侮り、更には権力や利権を振りかざして陥れようとする小役人や敵対商会関係者に対して、自らの手による暴力と恐喝、そして暗殺を。
エルンストはそこまでの事は勿論知る由もないが、領に戻る度に加速度的に心労を重ねる表情と殺伐とした雰囲気から、尋常ではない苦労を背負っているのだとは気付いていた。
「エト、クラリス先輩が闘技場の使用許可を申請しますが、新入生はオリエンテーションと学園に慣れるのにも忙しいです。月末辺りになるでしょう。お兄様もご覧になりたいでしょうしね。無様を晒したら許しませんよ」
エルンスト達に大方を任せるとはいえ、マルティーナは気を抜かないようにと念を押す。
「勿論ですよ姉上。
「えぇ〜、でもユリウス殿下達をリックさんは余り好きじゃなさそうですよ。うんざりしてましたしぃ」
ヘロイーゼがエルンストの物言いに反論とばかりにおバカファイブを例に上げる。
「イーゼさん、あの五人は型破りとかそんな次元じゃありません。非常識を超えた王国の歴史に燦然と輝くおバカじゃないですか」
マルティーナは怒り心頭を表すように眉間に皺を寄せる。
「せめてあの緑虫だけでもバカじゃなければ、お兄様を独り占め出来たというのに」などと小声で呟いているが、この部屋にいる全員に丸聞こえだ。最早それぞれが苦笑しか浮かべられない。
この場にはいないが、クラリスと小言を言い争うのも二人の独特なコミュニケーションなのだろう。
「何にせよ、
「お兄様も鎧に目がありませんしね。えぇとザイテズィーベン男爵領、ノア地方出身…… あら? 名称に使われる言葉は、ヘルツォークと同じ…… ファンオース寄りの語源ですか?」
元々は王国本土端に近い場所に領として構えていた貴族領だ。ファンオース公国の王国本土及び王都侵攻によって、モンスター群に壊滅させられた領の一つである。
しかも――
「大昔にファンオース貴族と王国本土貴族の間による、7番目の婚姻政策で陞爵された貴族領ですね。故郷を蹂躙した私に好意を寄せる…… 彼が知らないとはいえ好意を寄せて貰える私は、何て罪深いのでしょう」
憂慮し罪悪感に駆られるヘルトラウダにエルンストは純粋な感想を述べる。
「知らずに発した一人の男としての想い。其の胸中を突き動かした深奥から発せられた激情は、真実を知ってもなお彼は、男として
一個人の強さと実績を誇るヘルツォークだからこそ、アームロングは九死に一生を得たと言える。他の貴族家に不躾に決闘を挑んだ場合、今その瞬間に人生が強制的に終了していたとさえも可笑しくはないのだ。
そのことを気にする必要はありませんという意味合いで、優しくヘルトラウダに申し付けたつもりのエルンストではあるが、先の戦争責任からくる重圧に苦しむ少女からすれば、ときめき心が動かされても仕方がない内容だ。
エルンストは悪い意味でもエーリッヒの言葉の選択を学んでしまっている。だが、エーリッヒの打算の選択とは違い、王国屈指の青年期の扉を開いた人物の本心からの言葉でもある。
「わ、私は!? それだと、貴方に甘えてしまいます……」
「ラウダ、私達には未来がある。過去に気を揉むよりも視線を
エルンストは誠意でその言葉を誓っている。
だがしかし、甘く女を惑わし捉わす言葉にこの場にいる皆からすれば聞こえてしまうのは、エーリッヒの負の遺産だろう。
その甘酸っぱいやり取りを今は王国にいないエーリッヒに心を馳せてしまい、マルティーナとヘロイーゼは小姑の心境に陥ってしまいそうだ。
だが、通常においてエーリッヒは、打算なく女性のために言葉を投げかけている筈だが、何故第三者からすると悪くとらえられてしまうのか?
考察するにその影響は、エーリッヒを取り巻くクラリスにマルティーナ、癒し全開の風体を装うヘロイーゼに仕事を言い訳にするナルニアのせいでもあろう。
だが、そんな爛れた男女の関係を無視するエルンストにヘルトラウダ、そして自身は妾であると昔から理解しているカミラは、三者三様で、この甘さと峻烈な高潔な場に浸っているのだった。
そして――
「ザイテズィーベン!?
エーリッヒはエルンストからの手紙を見て混乱していた。
「この報告、アームロングって平民出身の幸運で生き残った雑魚じゃない。素質はあると思うわ。でも…… 何であなたがそこまで狼狽するのかしら?」
エルンストから決闘を行うといった経緯と彼の詳細な人物像の報告を呼んだヘルトルーデが訝しむ。
「知らないからそう言える。いいか、このアムロ君は、この僕が浮島を落下させようが、彼が操る鎧だけで押し返せる人物なんだぞ! 推定だが多分だ!!」
「ねぇ、あなた。言葉もおかしいけど頭も大丈夫? そんなことは歴史上というか物理的に無理でしょうが…… 冷静になりなさい。ほら、あなたの義弟も佇まいに潜在魔力は平民の上。ヘルツォークでもギリギリ鎧搭乗者に採用されるレベルって書かれているじゃない」
ヘルトルーデにファンデルサール。
そしてジルクの妹のジュリアにブラッドの妹のブリアナ含めて、何故にエーリッヒがこうまで錯乱しているのかが不明であった。
「ロストアイテムの王国の英雄は除外するとしてもエルザリオに貴殿、そしてエルンスト卿は鎧の腕含めて個人の強さを測るとすれば、このヘルツォークの三人は既に王国内で五指に入るじゃろうて。仮にいきなり鎧に乗って戦い生き残ろうが…… まぁ、素晴らしい才能じゃが、貴公らにすれば雑魚以外の何物でもないじゃろう」
ヘルトルーデの祖父にあたるファンデルサール侯爵が平然と道理を説く。
「わかってない!? 魔力感応波を超えた
そんな乱心したエーリッヒをファンデルサールの許可の元で、エーリッヒの頭を扇いだり肩を揉んで冷静さを取り戻そうとヘルトルーデが献身しているその時、アルゼル共和国内でも事態が動いていた。
「私を、お姉ちゃんと呼んで!!」
王国が誇る英雄のリオン・フォウ・バルトファルトは、アルゼル共和国を治める六家の内、議長家を務めるご令嬢、一国の姫といって差し支えないルイーゼ・サラ・ラウルトという、涙ボクロが色っぽく、アンジェリカやオリヴィアよりも大人な雰囲気を身に纏う巨乳な淑女に、お姉ちゃんプレイを強要されていた。
エーリッヒの女性に対する言葉を悪い意味を除外して駆使するエルンストは、正統派をイメージしているのですが、広範囲の女性を沼に落とし込む男になっている気がする……
マルティーナというお兄様特攻のメンヘラとクラリスというエーリッヒ特攻になったヤンデレを反面教師にしているせいだからね。仕方ないね(笑)