乙女ゲー世界はモブの中のモブにこそ、非常に厳しい世界です   作:N2

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ギャグ回かな?


第119話 四月、おとこどものじかん

 リオン・フォウ・バルトファルト伯爵、先の公国との一大決戦を経て伯爵に昇進を果たした男は、王宮が首を傾げてしまうアルゼル共和国への留学という希望を叶えた。

 陞爵はしたが浮島を王宮に差し出し、目に見える褒賞を得ていない。そのため混乱期の王国であるとはいえ、その希望を認めざるを得なかったという、王妃ミレーヌと王宮議会判断であった。

 そのリオンは、アルゼル共和国にて第二作目の乙女ゲーの推移を見守るためにマリエから話を聞き、ルクシオンに調査を開始させていた。

 そして、リオンとマリエ以外にもアルゼル共和国が乙女ゲームの舞台と知っている男がいる。

 それはエーリッヒ・ラファ・ラーファンというリオンの友人であり、リオンとマリエ共々前世浅からぬ人物ではあるが、当のエーリッヒは乙女ゲームをプレイしていないからこそ、アルゼル共和国其の物に対して興味薄であった。

 

 「世界が滅びる? この世界は地続きではなく浮遊大陸や浮島での各国構成だ。そこに住んでいる人々にとって()()とは、そもそもその大陸や浮島で完結する。ヘルツォークにしてもホルファート王国にしても、アルゼル共和国が滅ぼうが大して痛くはないよ。寧ろラーシェル神聖王国のほうが痛手が大きいのは明白。僕としては滅んでくれて大歓迎だが…… その代わり、レパルト連合王国へのフォローが、ホルファート王国としては必要にはなる。ホルファート王国にとってデメリットはその程度だ。ぶっちゃけ上手くいかないのなら、勝手に滅んでどうぞというのが僕の本心だよ」

 

 酷薄すぎるエーリッヒの言葉にリオンもマリエもドン引きしたが、俯瞰的に見た場合におけるホルファート王国の立場としては、リオンもその考え方は理解できた。

 アルゼル共和国が他国にアドバンテージを得ているのは、格安で魔石を供給しているからだ。

 ただし、ホルファート王国はアルゼル共和国に依存しておらず、初期コストは掛かるが自国内で増産体制を賄えば、需要を満たす素地がある。同盟国のレパルト連合王国への配慮に加え、手っ取り早いから輸入取引をしているに過ぎないという実情だ。

 

 「ファンオースとても同様だよ。単独で世界各国に国として認知されているのは伊達じゃない。だが、アルゼルの魔石は安く大量に流入させられる。ファンオースとしては依存度は高いけどね。まぁ、でもファンオースは良い意味で小国だ。例えアルゼルなくとも何とでもなる筈だ」

 

 要は破滅エンドが国規模なのか星規模なのかをエーリッヒは言っており、エーリッヒは前者に留まると結論付けてしまっている。

 エーリッヒは公国との一大決戦でのルクシオン本体の力を見ており、あの力を持ってすれば、自身の知識や考察の範囲内の事象程度なら、容易に対処できるからこその結論であった。ルクシオンが、ホルファート王国の大陸規模を容易に沈める事さえも可能、そう淡々と述べていることも大きい。

 アルゼル共和国は資源輸出大国として、その国力はホルファート王国よりも大きいと判断されているが、各六家や聖樹が存在する中央の浮島は大陸とは呼べない。その七つの浮島はファンオース公爵領よりも一つずつが少し大きいか同等程度だ。

 

 「あいつはヘルツォーク以外に興味が無さ過ぎだろ……」

 

 別れる前にそんな話をしたことをリオンは漠然としながらも頭の片隅に追いやる。

 ユリウス達に対してもエーリッヒは興味がない。あのエヴァやアンナのほうに気を回しており、同じ学院に通うためリオンも二人に気を割かなければならないのが面倒だ。

 そこで一旦思考を区切り、リオンは衝撃的な事を要求してきた美女へ意識を戻す。

 

 「それで、お姉ちゃん呼びの理由は何ですか? 趣味ですか?」

 

 「しゅ、趣味じゃないわよ! ……話せば長くなるし、信じてもらえるかどうかわからないわ」

 

 そう、お姉ちゃんプレイを強要されたリオンは、少々現実逃避気味に思考を少し前に戻して呟きはしたが、改めて現在の状況を考える。

 

 二作目の主人公と目される人物は、まさかの二人存在しており、現状どちらかは判別が不可能だ。

 しかも間の悪い事に攻略者は、全員がこの二年生時点において選択肢が一つしかない。

 主人公と考えられるのは、ノエル・ベルトレとレリア・ベルトレという今は騎士家出身となっている双子だが、攻略者とのフラグがレリアという双子の妹にしか残っていない。

 

 一作目のユリウス達のような攻略対象者は五人おり、加えて隠しキャラの攻略対象が一人いる。

 トゥルーエンドのあるロイク・レタ・バリエルは、ノエルに執心で自らをノエルの彼氏とまで公言している。強引で傲慢なためノエルに蛇蝎の如く毛嫌いされている事が、ルクシオンより報告されている。

 学園教師のナルシス・カルセ・グランジュは考古学の教師をしており、二人は選択していないため攻略するためのフラグは折れてしまっている。

 派手に遊んでいるユーグ・トアラ・ドルイユのフラグ回収もされていない。しかもユーグは悪役令嬢である、お姉ちゃんプレイを今まさにリオンに強要中のルイーゼ・サラ・ラウルトと婚約の話が出ている。

 隠しキャラとして存在するユーグの兄、フェルナンドのフラグもユーグとのルートを開拓していないと不可能なキャラであり、こちらも既に無理であった。

 セルジュ・サラ・ラウルトは、第二作目のラスボスであるラウルト家当主アルベルクの養子であり、攻略対象者ではあるが、ノエルとレリアの実家を滅ぼしたのがラウルト家であり、養子とはいえ因縁浅からぬ間柄だ。しかも学院に来ておらず所在は不明。この時点から攻略への道筋を立てる事が可能かどうかはマリエの知識では未知数。間柄を考えると不可能に近い。

 そして最後の攻略者であるエミール・ラズ・プレヴァンは、レリアの恋人と周囲からも認知されている。もはやこちらに賭けるしかないが、もしレリアが主人公扱いでなければ詰んだ状態であった。

 

 『マスター、お楽しみの所申し訳ありませんが、学院で問題が発生しました』

 

 端から見ると身体を密着させながら手を握り合い、甘い雰囲気を発しているリオンに対し、ルクシオンは皮肉と共に告げるのだった。

 

 

 

 

 ホルファート王国王都の居酒屋に集まった学園の生徒達、彼等はオリヴィアが主催する歓迎会に参加している今年度の特待生達だ。

 店内は貸し切りではないが、特待生達がニ十人近く集まっているため、店内の喧騒の大部分を占めている。

 他の客も学園の生徒、貴族に属する者達だが、オリヴィアが王国が誇る英雄のリオンと特別に親しい間柄と知っているため、この喧騒に文句を付けてくる事はなかった。

 そしてやはり話題の中心は、決闘を申し出たアームロングの事だ。

 

 「アームロング君、今からでも決闘を取り止めたほうがいい。相手が悪すぎる」

 

 大商会の子息であるカーティスは、長めの前髪を苛立たしげに指先でくるくると摘みながら苦言を呈している。

 

 「今更何を! 偉そうに女性や取り巻きを引き連れて! 貴族だから偉いのか? そんな貴族は、我先にと逃げ出して僕の故郷は滅んだよ…… 貴族だから何だって言うんだ!」

 

 その領主は王都まで飛行船で逃げのび、その後は領主軍迎撃艦隊に組み込まれて戦死している。領民の立場からすると文句は出るだろうが、無駄な抵抗で領に留まり死ぬよりも、王宮が判断するに有意義であったと捉えられていた。

 

 「間違いなく偉いんだよ彼は。多大な実績もあるんだ。それに人格も良いときている。だからこそ君は今、生きてここで酒を呑んでいられるんだぞ」

 

 この決闘の件で、エルンストに特待生全体を毛嫌いされては堪らないからこそ、知己を得たいという思惑のある大商会の子息であるカーティスは、何としてでもアームロングを思い留まらせたい。

 しかしそんなカーティスの気持ちを知る由もないアームロングは――

 

 「僕ぁ、鎧を、ヒック…… 上手く使えるんらっ! お代わり!」

 

 ガッパガッパとジョッキをどんどん飲み干していった。

 泥酔して話を聞かないアームロングにカーティスは頭を悩ませる。

 

 「皆さん、学園に慣れましたか? ア、アームロング君、お酒はほどほどにね」

 

 「馬鹿にして…… そうやって貴族は、永遠に平民を見下す事しかしないんだ! お代わり!」

 

 またもやガッパガッパとジョッキを空にしていく。

 

 「え、え〜と、私は平民上がりなんですが……」

 

 オリヴィアは一代限りの騎士爵位を得ているが、本人は今でも平民だと思っている。

 

 「オリヴィアさん。彼は僕が面倒を見ますので、お気になさらないで下さい。ですが周囲に気を配る優しく美しい貴女は、今お付き合いされている人はいるのでしょうか?」

 

 これ以上アームロングに迷惑を掛けて貰いたくないカーティスは、泥酔してダウンしたら寮に担いで連れ帰ろうと心に決めた。そして、前髪をキザったらしく掻き上げながら、オリヴィアを口説き始めた。

 

 「ふふふ、素敵な婚約者がいます」

 

 「そうですか。それはとても残念です」

 

 大商会の子息であるカーティスは、オリヴィアの反応からどのような言葉を投げ掛けようとも無理だと瞬時に判断する。

 鬱陶しさをオリヴィアに与えずに物分りよく引き下がったのは僥倖だっただろう。

 そんなオリヴィアを舐め回すように見ている特待生の男子達がいた。

 

 「おいアーロン、オリヴィアは酒を飲まないぞ」

 

 「ち、酔い潰して連れ帰る計画が駄目になったな」

 

 制服を着崩した三人の男子達が、不穏な空気を醸し出している。

 リーダー格のアーロンは、ニヤリと笑みを浮かべてテーブルの上に小瓶を置いた。

 

 「こいつを使えば簡単だ。とりあえず頃合いを見計らって、俺が飲み物に混ぜてくる」

 

 超自由的な事を企む三人組だが、その背後に迫る存在がいた。

 

 『悪い子み〜つ〜け〜た』

 

 周囲の景色に溶け込んでいたクレアーレが嬉しそうな声を出しながら、プシュッと球体のボディから何かを噴出させた。

 

 「今の声は? 何だ、甘い香り? これ、は……」

 

 強烈な眠気が三人を襲い、抗う暇もなく意識を手放してテーブルに突っ伏してしまった。

 

 『貴方達が悪いのよ。リビアちゃんに手を出そうとするからこうなるの。その点カーティスって子は利口かしら。でも安心していわよ。私はルクシオンのように短気じゃないから殺さないであげる』

 

 姿を浮かび上がらせたクレアーレは、周囲を観察するように青いレンズを動かしながら、今後の計画を練り始める。

 すると何やら漢共の時間を楽しもうとする頼もしい一団を発見した。

 

 「食べたいならお薦めはノンケだな」

 

 「ガッチリムッチリした良いヤツじゃないと」

 

 「イケそうなトイレでも探しとくか?」

 

 男子ばかりで飲みながら、楽しそうに談笑に興じている学園の生徒達だ。

 珍しい事に普通クラスと上級クラスの男子達が、仲良く盛り上がっている。これは貴族社会の縮図とも言える学園では珍し過ぎる光景だ。

 

 『あは!』

 

 ピンときたクレアーレは即座に悪巧みの計画を練り上げる。

 それと同時にオリヴィアが、倒れ伏した三人を心配して近づいてきた。

 

 「三人ともどうしたの!?」

 

 『あら、リビアちゃん。三人とも疲れていたみたいで、強いお酒を飲んだら寝てしまったみたいね』

 

 クレアーレは当たり障りのない理由で、オリヴィアを一先ずは安心させようとする。

 

 「アーレちゃんはどうしてここにいるの?」

 

 『心配だから様子を見に来たの。それより、三人を早く学生寮に連れて行ってあげたほうがいいわね。ほら、あそこの男子達がそろそろ戻るみたいよ』

 

 オリヴィアに対して自然に答えつつも、助言を加えて誘導する。

 

 「え、頼んでも大丈夫なのかな? 悪い気もするし、私達で運んだほうが良くない?」

 

 人の良いオリヴィアはこの歓迎会の責任者として、酔い潰れた参加者を他人に任せても良い物かどうかと考え(あぐ)ねてしまう。

 

 「間違いないわ。面倒見が良さそうだし、むしろ喜んで引き受けてくれるわよ」

 

 「そ、そうなの?」

 

 クレアーレの言葉に背中を押されて頼もしい一団のテーブルにオリヴィアが近づくと、楽しんでた空気が一変し警戒の雰囲気が蔓延した。

 オリヴィアは変化した雰囲気に戸惑いを表してしまう。

 

 「何か用かな?」

 

 中にはオリヴィアを睨む男子も見受けられたが、代表者らしき黒髪をオールバックにして、ワイシャツの胸元をこれでもかと開いて見せつける筋肉質な男子が、張り付けたような笑顔で応対してきた。

 オリヴィアはその独特な雰囲気に緊張しながらも、テーブルに突っ伏しているアーロン達へ視線を向けてから、もう一度代表者らしき男性に視線を戻してお願いをした。

 

 「じ、実は、お酒に酔って眠った人達がいるんです。もしも男子寮にこのまま戻られるなら、連れて行って貰えると助かるな、と」

 

 自分で言って迷惑だなと思うオリヴィアではあるが、そんな不安を抱きながら男性達が相談しているのを固唾を飲んで見守る。

 相談が済んでオリヴィアに向き直った男性達は心からの笑顔に変貌していた。

 

 「何だ。そんなことなら早く言ってよ」

 

 「ごめんね。ちょっと警戒しちゃった」

 

 「あの三人? ウホッ♂ いい男!――」

 

 「え?」

 

 オリヴィアは得も言われぬ不吉なものを感じたが――

 

 「――いやいや、うん、大丈夫。俺達が責任を持って送り届けるよ」

 

 態度が良いほうに急変した男子達の笑顔に押し切られてしまった。そして手際よく代表者を中心にアーロン達を店から連れ出していく。

 

 「え、え!? あのぉ、本当に良いんですか? 自分で頼んでおいて何ですけど…… ご迷惑じゃ?」

 

 優しく頼もしい男子達にオリヴィアが困惑していると、代表者がアーロンを背負いながら笑顔を向けてくる。

 

 「構わないさ。俺はノンケだって構わないで(俺達が責任を持って)食っちまう人間なんだぜ(面倒を見るよ)

 

 大きく開いた胸元を強調しながらサムズアップして笑顔を見せつけてくる。

 

 「あ、ありがとう、ございます? アハハハ……」

 

 (アーレちゃんの言う通りになったけど、本当に良かったのかな?)

 

 オリヴィアは得体のしれない疑念を胸に抱きつつも、再び歓迎会が行われている店内へ戻るのだった。

 様子を見守っていたクレアーレは、漢共に連れて行かれるアーロン達を青いレンズで見ている。

 

 『貴方達がいけないのよ。リビアちゃんに手を出そうとするから』

 

 クレアーレのレンズが妖しく光を放ち、周囲に溶け込むように消えていく。そして、リオンやルクシオンも認知していない、恐ろしい実験という名の暗躍が始まっていくのであった。

 

 この夜、男子寮から犬の遠吠えとは異なる、不可思議な野太く高い鳴き声が響き渡ったが、原因は誰にも分からなかった。




ア、ア、アッ――――――♂
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