乙女ゲー世界はモブの中のモブにこそ、非常に厳しい世界です   作:N2

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???「抱きしめたいなっ! 聖騎士!!」


第122話 四月、誤解?

 「散開!!」

 

 俺は異様な魔力波を感知してアンゲロ旗下の大隊に叫ぶように命じた。

 ギュォワォンという轟音と共に、俺がいた空域を襲う巨大な雷光、儀式魔法レベルのライトニングが通り過ぎて行った。

 

 「セウリージ中尉!?」

 

 アンゲロの叫び声が短波通信で聞こえてきた。

 

 「だ、大丈夫です…… 脚をやられました」

 

 セウリージ中尉の焦りと安堵の声が俺にも聞こえる。

 

 「アンゲロ、指揮中隊の第一小隊の二名でセウリージを帰投させろ。第一の二と三小隊はそれぞれ第二、第三中隊の俯瞰指揮を行え。アンゲロは全体指揮だ。急げよ」

 

 即座に俺は現場レベルの作戦変更の指示を伝達した。

 

 「エ、エーリッヒ様…… 魔力光学映像で確認! お、尾と翼有り!? 父と祖父から聞いたことがある、あれは…… ラーシェルの聖騎士、エースオブエースですっ!?」

 

 俺はアンゲロの驚を含む声音を聞いて自身の魔力光学映像で確認した。

 

 「……覚えがある。魔力反応二つ、搭乗者と外装の鎧が別反応……」

 

 「エーリッヒ様は撤退を!!」

 

 聞いた瞬間思い出した。

 ヘルツォーク地獄の四週間、ファンオースから帰投後に国境で戦い抜いた親父、当時のエルザリオ子爵継嗣が満身創痍のまま相対して討ち取った、ラーシェル神聖魔法王国のエースオブエースだ。

 

 「アンゲロ、命令通りに従え」

 

 「エーリッヒ様!?」

 

 「あんなのを自由にさせられるわけが無いだろう。ふ、ふふ…… ははははは、試されるというわけだ。父上が居る高みに私が並べるかという事をな」

 

 俺は当時の戦局における戦略と戦術を学んだが、親父は討ち取った相手の事を語ることは無かった…… 

 いや、ロストアイテム級を倒したのなら、言葉で語って欲しいというのが本心だよ。寡黙は洒落良さと重厚感を兼ね備えるが、程度によるだろうと切に思う。

 俺自身も当時を模した机上演習と考察に夢中で、エースオブエース一機程度はあまり興味が無かったせいもあるが。

 俺自身重要なことは胸の内に仕舞いがちだが、クラリスやティナ達にはもう少し俺の内なる部分を話しておいた方が良いかもしれないな、などと状況を弁えずに考えてしまった。

 

 「ヘルツォーク、まっこと手強いですね。あの魔法攻撃で撃墜ゼロですか…… ですがっ! この聖なる御力を以て断罪せしめてみせますよ」

 

 ラーシェルの聖騎士、そう、魔装を纏った騎士が速度を上げてこちらに突進してきた。

 いなした俺は見逃さずに攻撃を叩き込む。

 

 「ぐ、ぐおぁ!? がぁぁああ!!」

 

 ラーシェルの神聖騎士が苦痛に叫んでいる。

 

 「不可解だな。それを纏えば命が無い…… だと言うのに苦痛を感じる? 中身は只の二流以下。鎧に振り回されているという事か。哀れだな」

 

 速度力と貫通力を魔力強化した大型高威力ライフルの銃弾を数発撃ちこんだ俺は、バンデルとの違いに辟易としていた。

 

 「は、速さは私の方が圧倒的です! だと言うのに!?」

 

 「今日の私はっ! 神すらも凌駕する存在だっ!!」

 

 互いに突進して即座に九十度転換する俺に魔装の聖騎士は対応出来ず、側面と背後から俺の銃弾の直撃を無様に食らっている。

 

 「ふはははははは、浸食されているぞ聖騎士殿。聖? 精々が悪魔になりそこないの蝙蝠にしか見えんな」

 

 追う事も逃げる事も不可能ではあるが、魔力シールドすら稚拙な速いだけの鎧に脅威を抱くわけが無い。味方艦隊との相対距離を考慮しつつ対処すればいいだけだ。

 ただし、バンデルと同様に修復されていくのが唯一の厄介な点だ。

 

 「言いましたねぇっ!! 神を愚弄する六芒星(ヘキサグラム)の悪魔めがぁぁぁぁああああ!!」

 

 その修復のたびに搭乗者の魔力を魔装が喰らっていくのはバンデルと同様か……

 

 「ラーシェルは聖騎士が切り札のようだが…… ふ、ふふ、ははははは。鎧の性能の違いが戦力の決定的差ではないということを…… 教えてやろうではないか!」

 

 最早、魔力浸食が搭乗者を覆いつくすのも、そう時間は掛からないだろう。

 俺は王宮での療養中に聞いたルクシオン先生の言葉を思い出した。

 

 

 

 

 『黒騎士バンデル、あれは新人類側の欠陥があるロストアイテムです』

 

 王族(ラファ)会議に出席前の俺に、ルクシオン先生がステルス状態で語りかけて来た。

 

 「なるほど…… だが、記録上を鑑みるに全盛期の黒騎士、バンデルよりは弱いのではないかと僕は感じたよ」

 

 率直な俺の感想だが、全盛期の黒騎士は一対一でも戦場を広く360度を活用する戦い方だ。俺と対した時のような直情過ぎる戦法はまるで別人。

 

 『年齢でしょう。五感は絶対的に年齢と共に衰えます。それを埋めるのは経験ですが…… それ以上に衰えた事により、遠中距離を排して近接に特化したのがバンデルでしょう。あれは生体制御魔法生物、所謂コントロールする核が無い欠陥の魔装です。ですが、大戦末期に建造されロールアウト前に終戦した私の記録に照らし合わせますが、欠陥で生体制御魔法生物の魔装、所謂ネームドクラスに勝るとも劣らないバンデルは異常でした…… ですが貴方は、この世界の産物でバンデルが欠陥とはいえ魔装よりも強いと言う…… 驚愕という概念をプログラム上認識します』

 

 ルクシオン先生の球体中央、眼球にも見えるレンズが右往左往している。

 

 「記録から類推したあくまでも俯瞰だよ。僕だって未だに父上、エルザリオ子爵、もう直ぐ伯爵になるが、勝てるとは言いきれないからね」

 

 『この世界の鎧を使ってエーリッヒに勝てない人物がいるというのは、甚だ疑問ですがね』

 

 「一か月近く不眠不休で戦闘と後方軍務を成し遂げた人物がいる。しかも敵方の切り札、エースオブエースを討ち取った人物だ。今でも思うよ…… (しがらみ)を抜きにして言えば、バンデルとは父上が相対して欲しかった。僕が彼に勝てたのは、まごう事無き状況が齎したまぐれの産物だからね」

 

 親父が相対した聖騎士とやらは、確か異様に固く速さを誇っていたらしいので、親父自身がブレードに魔力を込めたカウンターの一突き、そこからの内部魔力連鎖爆術魔法で、聖騎士の鎧の内部から爆散させたと、戦闘詳報で端的に記述されていた。

 思えば魔力の柔軟な術式構築は、例え話に聞いて師事を仰ぐ部分が、当時の俺は未熟だったとはいえ、俺の魔力に関する扱いの深奥にその部分が根付いていたのだろう。

 

 『バンデルは想定外の異質ですが、核の無い魔装は15分程度で自壊します。個人差はありますがね。適性が無ければ持つのは5分程度。頭の片隅にでも覚える事を進言しておきます』

 

 

 

 

 

 朝令暮改も甚だしいが、俺はアンゲロと第一中隊第二小隊に空域配置変更の指示を光魔法で伝えた。

 

 『ガギョグワァァァ、ハハハハハ。滅殺! 神聖王に主ヨ! 行きます、逝きます!! 私の殉教ォォォオオオオオ!?!?、!!』

 

 俺は聖騎士の突進間際に魔法を撃ち込んだ。俺にアンゲロ、小隊4機を六芒星の頂点に配置した形で――

 

 「聖体賛美式発動、怨讐怨嗟呪縛陣(ベネディクション)

 

 清らかで、そして俺に対する呪いの結界を。

 

 「ギョ、ギョギョギョ!? きょれハ? グぎゃあLalalaあああ!! 崩れる、くじゅれていくゥぅぅウううっ!?」

 

 「卑怯などと情けない事は言うなよ。こちらのほうが戦力は少ないのだからな」

 

 聖騎士とやらを覆う外装、魔装に浸食されていた生物染みた鎧は、搭乗者と共に神殿構築による聖域結界で崩れ去っていった。

 

 「さぁ、前進だヘルツォーク、そして国境警備艦隊とフィールド艦隊の諸君」

 

 ラーシェル艦隊が着水飛行に移行しようが白旗を挙げようが容赦なく、ヘルツォーク艦隊をメインに据えてファンオースが襲い掛かる。

 

 「知らなかったのか偉大なラーシェル神聖魔法王国の諸君、攻めのヘルツォークからは、逃れることが出来ないという事を…… 味方共々()()に、教授してやろうではないか」

 

 撃沈以外の全てのラーシェル艦隊を制圧後、身分の高い人物と数名のみ小型艇でラーシェル本国に意図的に帰投させた。

 こうして、ラーシェル側国境での敵艦隊を鎮圧し、一時の平静を取り戻したのであった。

 そして――

 

 「いだだ、痛いっ! ちょ、待っ!? 話を聞いて!!」

 

 王都のターミナルに着艦して降りたところ、クラリスとマルティーナに両耳を抓られて極寒と極炎に晒されてしまったエーリッヒであった。

 

 

 

 

 ラーシェル側の国境紛争を終え、ヘルトルーデと共にホルファート王国王都に向け、駆逐艦型高速輸送船改によってファンオース城から王都浮島ターミナルへたった一日という強行軍で着艦した。

 国境に赴く前に到着日をクラリス達婚約者に知らせていた俺は、嬉しい事にクラリスにマルティーナ、ヘロイーゼちゃんとナルニアが出迎えに来てくれていた。

 

 「出迎えありがとう。皆、身体は大丈夫かい?」

 

 クラリスとティナ、ヘロイーゼちゃんは俺の胸に飛び込んできたので抱き止めながら、遠慮して控えるナルニアに俺は言葉を投げかけた。

 

 「大丈夫ですよご主人様…… お、お戻り、歓喜に堪えません」

 

 ナルニアは目尻を指で拭い、クラリス達は俺の胸や袖で嗚咽を漏らしている。

 ふとナルニアの後方を見るとエルンスト達が控えていた。

 

 「ラウダ嬢、ヘルトルーデ公爵代行殿も直ぐに降りてくるよ」

 

 俺の言葉を聞くや否やタラップに駆け寄っていった。そして顔を青くしたヘルトルーデが、手摺に身体を預けながら自身の身体を引き摺るように降りてくる。

 速度を優先し過ぎたせいで酔っている状態だ。

 艦内でも吐いていたからな。右手に大事そうに紙袋を抱えているのは、失礼だが少々笑えてしまう。

 

 「お、お姉様!? 大丈夫ですか?」

 

 「ラ、ラウダ…… 元気そうで安心したわ。うっ……」

 

 ヘルトラウダがさすさすとヘルトルーデの背を摩るのが微笑ましい。

 

 「「「「え?」」」」

 

 ん?

 何だろう、空気が唐突に変わった。

 

 「ねぇ貴方…… どういう事?」

 

 「お兄様、真相を聞かせて貰います」

 

 「ちょ、ちょちょちょ、何? 痛いっ!?」

 

 クラリスとマルティーナに両耳を掴まれてしまった…… そこに――

 

 「酷い! 逆らえないお姉様を無理矢理っ!? エト様の義兄とはいえ許せません!! ケダモノッ!!」

 

 ヘルトラウダ嬢が激昂してきたが、俺は全く意味が分からない。

 

 「な、何のことだ? ちょ、ヘルトルーデ、何とか言え!」

 

 俺は混乱してヘルトルーデに話を振る。

 が――

 

 「オロロロロロロロロロロロロ」

 

 ヘルトルーデが、持参していた紙袋に盛大にリバースしていた。

 

 「お姉様、何と屈辱的な…… お労しい」

 

 ヘルトラウダは涙を流しながらヘルトルーデを介抱している。

 

 「「「「アウト!!!!」」」」

 

 え?

 俺はクラリスにマルティーナ、ヘロイーゼちゃんとナルニアに視線を泳がせる。

 

 「ねぇ? 何時からなのかしらリック君? つわりって(つら)いのよ」

 

 慈悲深い笑みを浮かべながら俺の耳を千切ろうとする程の力が加わる。

 ぐぅぅ、俺の耳が(から)いっす。

 

 「お兄様、せめて事前に一言欲しかったのですが、ねっ!」

 

 眼差しは冷たいのに俺を燃やすかの如く魔力波で圧力を掛けながら、耳を引き千切ろうとするマルティーナ……

 痛い! 怖い!!

 

 「クラリス様、ティナ姐さん。時期がおかしくありませんか?」

 

 ナルニアの言葉に、確かにと女性陣が訝しむ。

 

 「え、えぇ~? それってリックさんは三学期、というかヘルトルーデさんが王宮にいた戦争時期に手を出したってこと!?」

 

 ヘロイーゼちゃんが、まさかの誤解という名のジャベリンを俺に直撃させてきた!?

 

 「ちょ、待って、話を聞いてくれ! 疚しい事は全く、これっぽっちも無いから!!」

 

 初めてクラリスやティナが俺に対して怒っている内容を理解できた。

 

 「聞いてあげるわ貴方。一日余裕があるから24時間でも48時間でも。うふ、うふふふふふ」

 

 「寧ろ監禁してファンオースにもアルゼルにも行かせないほうが良いかもしれません」

 

 ティナは困りましたと頬に手を当てながら、もう片方の手で俺の耳を万力が可愛いと思える力で圧縮してくる。

 

 「えっへへ~、二人は身重だから、その役目は私ですね!」

 

 「あんたはヘルツォーク領で可愛がって貰ったでしょう。ご主人様は忙しいのよ。秘書の私が夜を務めるから、イーゼはいらないわよ」

 

 嬉しそうなヘロイーゼちゃんを牽制するようにナルニアが主張する。今度はヘロイーゼちゃんとナルニアの視線がバチバチだ。

 

 「おい、ルーデ、さっさとその体調不良を説明しろ!」

 

 「へぇ、愛称で呼ぶのね…… ねぇ貴方、狂おしいほど殺したいわ」

 

 誰をですかっ!?

 

 クラリスもティナと同様に怖い。

 

 「オロロロロロロロロロロロロ」

 

 周囲の状況を無視してもう一度吐くヘルトルーデ。

 エルンストは船を見て察しながらも苦笑するだけであった。薄情な!!

 四人からの視線の圧力が凄まじい。

 

 「ご、誤解だぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああ!!」

 

 俺は断末魔のような叫びと共に、クラリスとマルティーナに引き摺られていくのであった。




ふ、船酔いだからね。勘違いしないでよね!
少しして、ヘルトルーデが証言したことにより場は納まった。

身重は体調も精神も不安定だからね。自分と似通う体調含めた状況の女に対して勘違いするのも仕方ないね(笑)

きっちりクレアーレ博士が動画に撮っていたのは笑い話である。

ふ、不幸だぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああ!!(笑)
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