乙女ゲー世界はモブの中のモブにこそ、非常に厳しい世界です   作:N2

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木村長門守重成様、神薙改式様、誤字報告ありがとうございます。


第15話 学期末学年別パーティー

 1学期も残すところ僅かとなり、恒例の学年別パーティーが、学園内の施設で開催されている。

 

 バーナード大臣に報告した事もあって、マリエを気にして過ごしていたが、本当にあの5人との距離感の無さに辟易してしまった。

 もう後は、各家から注意してもらうしかないだろう。

 

 会場内の装飾の豪華さに料理の量や質。どれも初めて見るものばかりで、圧倒されてしまった。

 ドレスで着飾った女性に目を奪われてしまう。

 

 「痛っ」

 

 「どこを見ているのですか?」

 

 つい女性の胸元に目線が吸い寄せられた所を妹のマルティーナにつねられてしまった。

 

 「綺麗だよ。似合っているじゃないか」

 

 「あ、ありがとうございます。でもこんな高い物を良かったのですか?」

 

 「構わないさ。普通クラスの女子もドレスなんだ。それにお前の綺麗な姿を見られて嬉しいよ」

 

 赤いセクシーなオフショルダーの豪奢なドレス。デコルテも飾る首飾り付き。ドレスと同様に少し頬に赤みがさしていた。化粧でバッチリ決まっている。

 こらリオン、胸ばかり見るんじゃない!! 

 

 ドレスも下は2千ディアから揃えられる。確か円換算だと20万ぐらいか。

 円がどうとかは、こちらの生活にどっぷり浸かったためあまり気にしなくなってきたな。

 

 「見ろ、この圧倒的なウエストとアンダーバストの細さを!! 餓鬼か痩せぎすな女以外、マルティーナの細さには叶うまい」

 細ボイン。ホソボ!!

 

 妹に叩かれた。

 

 「いや、確かに細くて胸もでかいが、何で妹自慢なんだよ。そのドレスにアクセサリーも相当だろ。だから他の女子から総スカンくらうんだよ。このシスコンが」

 

 リオンが俺の妹自慢に呆れている。

 

 「合計で5万ディアだ。俺ダンジョンで頑張った」

 

 ダニエルとレイモンドも呆れてしまい、リオンと共に3人組の女子をナンパしに行ってしまった。

 後ろに専属使用人が控えているけど大丈夫か?

 大丈夫だ、問題無い。とダニエルが勇ましかったが、あいつは言うことを聞かないからな。

 

 ダニエルもレイモンドもマルティーナから紹介された娘とは上手くいかなかったらしい。

 ふっ旨いな、いい酒じゃないか。

 適当に取ったグラスをほくそ笑みながら呷る。

 

 「でも良かったのか? 赤だとアンジェリカさんと被るだろ」

 

 他にも似合う色があるだろうに、マルティーナは赤を好む。

 いつぐらいからだったろうか?

 

 「髪飾りの件もありましたから、5月中には挨拶に伺いましたよ。ほら、エーリッヒ様から貰ったお菓子を手土産に」

 

 リオンがいつも用意するものよりも安物だが、大丈夫だったのだろうか。

 

 「特待生のオリヴィアさんもリオンさんの計らいで、挨拶を済ませたそうです」

 

 「リオンも抜かりがないな」

 

 俺は気付かなかったが、オリヴィアさんの配慮をそんな早い段階でやってたのか。

 我が妹も如才ない。

 リオン程の奴になれば、オリヴィアさんを実家に連れていって、適当な上級クラスの女子を王都で囲えばいいだろう。後継ぎだってオリヴィアさんとの子供にすればいい。正妻は子供が出来なかったとかなんとか言えばいいんだから。

 お茶会見る限り金はありそうだし。どう見てもあの茶器やら茶葉は高級品だ。

 

 オリヴィアさん、マジでありなんだよなぁ。

 ふとリオン達を見ると、先程ナンパした女性達の後ろに控えていた専属使用人に突き飛ばされていた。

 あっ、外に出て行っちゃった。

 

 見渡すとマルティーナも知り合いの女子に呼ばれたのか、こちらに手を振り離れていった。

 

 「あれっ!? オリヴィアさん」

 

 オリヴィアさんが料理をちょこちょことつついている姿に萌える。

 制服姿だ。リオンの奴、例え安いドレスでもいいから買ってあげればよかったのに。

 オリヴィアさんはリオンのお茶会に常にいるので、俺もマルティーナも話をする程度には、仲良くなっていた。

 

 「あっ、エーリッヒさん」

 

 「リオンからドレスのプレゼントはされなかったの?」

 

 「あ、あんな高い物貰うわけにはいきませんよ」

 

 はわわわわ、と手を振るオリヴィアさん。ヤバい、リオンが気にかけるのがわかる。

 この人、この学園の清涼剤だわ。マジで。

 

 「エーリッヒさんはお一人ですか? マルティーナさんと一緒だと思ってました」

 

 「さっきまで一緒だったけどね。兄の目があるとあいつも楽しめないだろう」

 

 「あはは…… えっ!? 本気で言ってるんですか?」

 

 オリヴィアさんが驚いている。なるほど、こういうパーティーだからこそ、誰が近づくか見定めなければならないという事か。

 さすが特待生、慧眼だな。

 私はいつも1人の男だった…… この学園にいると泣けてくるな。

 

 アホな事を考えながら喋っていると、言い争う声が聞こえてきた。

 

 「マリエ、貴様は何故、殿下以外にエスコートされているのだっ!!」

 

 「えっ!? ジルクに誘われて……」

 

 明らかに声音が大きくなっていく。

 

 「あ、あの、これって不味いのでは」

 

 「オリヴィアさんリオン達を呼んできてくれるかな? ちょっと不味くなりそう。僕達も今後の立ち居振るまいも考えなくちゃいけないからね。しっかり見せておいたほうがいいだろう」

 

 「は、はい。貴族様は、その、大変そうですもんね」

 

 またしても、はわわわわ、と駆け出して行った。あんないい娘、うちの学園にいれちゃいけない。ダメ! 絶対!! 

 

 「エーリッヒ様、これは……」

 

 マルティーナもアンジェリカさん達の言い争う声で、先行きが不安になったんだろう。俺の袖を掴んで眉を潜めている。

 

 王太子殿下に激怒されてからは、多少大人しくしていたように思っていたが、パーティーで王太子殿下以外とも親しくしているのを見るのは、さすがにアンジェリカさんも我慢がならなかったか。

 アンジェリカさんからすれば、王太子殿下を蔑ろにされたようなものだ。

 あんな扱いを公の場でされているのに、まだ王太子殿下のための発言ができるアンジェリカさんは、本当に王太子殿下の婚約者として素晴らしいな。

 

 「騒ぐなアンジェリカ。その程度、どうということはない」

 

 「その者は殿下以外とも親密なのですよ!! 何故その性根をご存知で受け入れるのですかっ!!」

 

 リオンも離れたところで、オリヴィアさん達と共に見ているのを見付けた。

 

 「それにしても王太子殿下は、他に男がいても許せるのか。懐の深い男だな」

 

 「わたくしには理解できませんが……」

 

 「あのマリエが受け入れる股が広いって事か」

 

 俺が吐き捨てるとマルティーナが、下品ですよと掴んでいた袖口の辺りをツネってきた。

 確かに王太子殿下の後ろに隠れてオドオドしている姿には、庇護欲がそそられるのだろう。

 しかし、バーナード大臣はまだ彼等の家に手は回せていないのか。

 

 「凄いだろマルティーナ、あれ、僕の従姉妹だぞ」

 

 「えぇ、殺したくなります」

 

 俺自身目元が厳しさを増すが、我が妹様は袖を握りこんでくる。

 痛い、肉を挟んでる!? 俺を殺る気じゃないだろうな。違うよね?

 

 マリエが全員に手を出した事を糾弾しても、あの5人は微笑んで受け入れている。

 その姿に会場中の女子が頬を染めていた。

 びっくりしてマルティーナを見たが、頬を染めている。怒りで…… そろそろ千切れそうだ。

 

 「レッドグレイブ家の娘も地に落ちたな。お前に賛同する奴はこの場にはいないぞ」

 

 袖を肉ごと握り込まれていく痛みに耐えていると、ブラッド・フォウ・フィールドがアンジェリカさんに対して強気に出ていた。

 アンジェリカさんはどんどん孤立していくな。

 

 「私は彼女に救われたんだ。悩みを聞いてくれた。そして、彼女を守りたいと思ったんだ」

 

 クリス・フィア・アークライトの奴は、告白を学年の全生徒が見ている中、平然とやってのけやがった。

 続いて出てきたのはグレッグ・フォウ・セバーグ。

 

 「お前は屁理屈が多いんだよ。素直に、そんなことが関係ないくらい好きだって言えば良いだろうが」

 

 ジルク・フィア・マーモリアが口元に手を持って行き柔らかい笑みを湛えている。

 

 「そうですね。素敵な女性です。けれど、マリエさんを一番愛しているのは私だと思いますけどね」

 

 ジルク…… クラリス嬢が不憫だ。

 バーナード大臣は虚仮にされたという事か。学生ではあるが、学園公式の催しの場で。

 折れたフレ○ムはよく刺さるんだぞ! 

 

 アンジェリカさんも不憫だ。顔面蒼白になったアンジェリカさんは、縋るように殿下の顔を見るが。

 

 王太子殿下はジルクの言葉に顔を顰める。

 

 「ジルク、例えお前でもそれは違う。マリエを一番愛しているのはこの俺だ」

 

 黙って聞いていた会場中の女子から、つんざくような黄色い声が鳴り響いた。

 

 「今の聞いた!?」

 

 「私も言われてみたい!」

 

 「羨ましいわ。それにひきかえ、公爵令嬢は無様よね」

 

 俺達辺境の男爵グループが同じ言葉を言っても鼻で笑うくせにな。

 

 アンジェリカさんは周囲の嘲笑に黙って耐えている。

 

 「殿下は在学中のお遊びで、終わらせるつもりはないと言うことですか?」

 

 殿下はその質問に目をすぼめながら答える。

 

 「俺にとってかけがえのない女性は一人だけだ。アンジェリカ、学園に入学する前ならお前のことは嫌いではなかった。だが、マリエを傷つけるようなら容赦はしない」

 

 周囲に女子の嘲笑が響き渡る。

 

 「聞いた? 公爵令嬢様もこれで終わりよね」

 

 「これってもう婚約破棄と同じじゃないの?」

 

 「私、あの子のことが嫌いだったのよね」

 

 リオン達も周囲の状況に辟易とした様子だ。俺もそちらに行きたかったが、まだマルティーナが袖を掴んで離さない。

 アンジェリカさんは、諦観と決死を混ぜ合わせた暗い瞳を兼ね備え出している。

 

 「お、おい、目に覚悟が備わってきてるぞ?」

 

 「この孤立した状況で何を?」

 

 マルティーナにも見当がつかないようだ。当たり前だろう。刃物を持っていたとしても取り押さえられる。まさか銃か。

 いや、白い布をマリエに投げ付けた。

 

 「え……」

 

 呆気に取られているマリエの下を見ると、白い手袋が落ちていた。

 

 「拾え、毒婦。殿下達を誑かした魔女めが」

 

 アンジェリカさんが殺意を漲らせながら、マリエを糾弾する。

 

 「決闘だと!? 女性同士でか!!」

 

 さすがの展開に固まってしまう。マルティーナも口元に手を添えて驚いていた。

 ふとリオンが視界に入ると、何やらしたり顔をしている。あいつは驚いていないのか? 

 ダニエルとレイモンドはかなり慌てふためいているが。

 

 「そうか、代理人を立てるんだったな」

 

 決闘の作法は心得ているが、女性の場合は珍しいので、昔実家で勉強した時の内容を思い出すのに時間がかかった。

 

 「アンジェリカ、俺を失望させたな」

 

 王太子殿下は、怒りを堪え切れずに婚約者であるアンジェリカさんを睨みつける。

 馬鹿なのか? 将来の王国をどうする気だこいつらは。正直お前達には失望以外何もねえよ。王宮はそのうち役人達が卒倒しそうだ。

 

 「マリエ、拾え。大丈夫だ。お前には俺が付いている。お前の代理人には俺がなる」

 

 その言葉に続いたのはジルク達4人だ。

 

 「殿下ばかりに良い格好はさせておけませんね。学園のルールでは、女子の代理人である男子が一人とは限りません。私も立候補をしましょう」

 

 だからお前もクラリス嬢という婚約者がいるだろうが! もちろん俺には関係ないが、この場にいたという事で、心証が悪くなって、ヘルツォーク子爵領の今後の王国本土での仕事に悪影響が出たらどうしてくれるんだ。

 

 「面白いから俺も参加する。誰でも良いからかかって来いよ!」

 

 グレッグが手のひらに拳を打ち付ける。やる気満々かよ。

 

 「脳筋はこれだから…… けど、毒婦とは聞き捨てならないな。訂正して貰おうか。ついでに、決闘後に謝罪もして貰うぞ。当然、僕も参加だ」

 

 ブラッドが忌々しそうにしていた。毒婦以外の何者でもないだろう。わからないのか?

 

 「剣の腕には自信がある。マリエの剣として戦って見せよう」

 

 クリスは太々しく腕を組み直した。

 

 「みんな…… 私、怖いけど、みんながいれば安心だね。私、この決闘を受けるよ。アンジェリカさん、私はみんなと戦います」

 

 マリエは指で涙を拭いながら感動している。

 駄目だこいつ、わかってない。公爵令嬢だぞ!! いくら王太子殿下達が付いているからって、ベッドに入ったら二度と目が覚めなくなるかも知れないというのにか!? 死にたいのか?

 

 「本当にお馬鹿なご主人様ですね。僕がいるのを忘れていませんか? 応援くらい出来ますよ」

 

 そんな主人に、専属使用人の美形少年カイルが、皮肉屋めいた言葉を吐きながら呆れていた。

 馬鹿ガキが。

 

 「ありがとう、カイル」

 

 いい笑顔だな。

 お前が遠慮しなきゃならないだろう。正直キャーキャー騒いでるのは女子だけだ。

 男子学生は皆不安げな表情をしているぞ。

 

 「王太子殿下達は成績上位です。それ以上にあの方達の立場を考えると、決闘なんか成立するのですか?」

 

 「いや、誰も代理人になんかならないだろう。マリエの奴を消せるなら、僕が志願したいぐらいだが…… 面倒事が多すぎる。アンジェリカさんの取り巻き次第だな」

 

 マルティーナは確認するように聞いてくる。

 何より俺自身、アンジェリカさんとは別に親しくはない。マルティーナが挨拶したぐらいだ。

 しかし、胸くそ悪い。

 

 アンジェリカさんが周囲を見渡しても、普段取り巻きをしている男子でさえ目を逸らしている。

 

 「誰か助けてやろうって気概がある奴はいないのか? 取り巻きにも見捨てられるとはな。だが決闘を申し込んだんだ。代理人が用意できなくても逃げるんじゃねぇぞ」

 

 グレッグが周囲を煽り立て、アンジェリカさんを笑う声がパーティー会場を満たしている。

 グレッグの家は伯爵家だったな。何で公爵家にここまでの暴言が吐ける? 不敬罪で殺されても文句言えないというのに。

 

 「なぁマルティーナ、エルンストが騎士家の奴にあんな暴言を吐かれたら、父上に斬り殺されても文句は言われないよな」

 

 「基本的には問題ないかと。それが貴族の階級です」

 

 マルティーナも俺の意見に頷く。おかしい、いや、辺境と王都では感覚が異なるのだろうか。

 王太子殿下の後ろ楯でも何かしらは罰せられそうなもんだが。

 王家と公爵家が争うのに加え、さらに王宮内も荒れる…… この国は駄目かもしれない。

 

 周囲の嘲笑がまだ聞こえてくる。

 いい加減苛ついてきた。

 俺の立場で場の取り成しができるか? 無理だな。じゃあ吐き気がするが、マリエの従兄弟という立場では。

 思考が纏まらずに顔をしかめていると、リオンがいる方が少しざわめく。

 何だと思いそちらを見ると

 

 「はい、は~い! 俺が決闘の代理人に立候補しま~す!」

 

 一瞬周囲が固まるが、周囲が訝しみの視線をリオンに投げつけだした。

 

 はは、あいつやりやがった。口角が上がるのが押さえられない。冒険者はネジが飛んでいるとは、よく言ったもんだな。

 勇者様の登場だ。取り敢えず成り行きを見守ろうじゃないか。




吹き出し内を引用しましたが、大丈夫ですかね?

外でのリオン達。

リオン
「エーリッヒが言ってたけど、あいつも独立して男爵になるじゃん。だから歴史もないし、一代で取り潰されてもいいから、もう上級クラスの女子との結婚諦めるかもって」

ダニエル
「マジで!?」

レイモンド
「僕達には出来ない選択だよ……」

ダニエル&レイモンド 
「「ヘルツォークはやっぱり気合い入ってるな」」

リオン
「でもさ、あいつヘルツォークの血入ってないじゃん?母親がラーファン子爵家で父親不明じゃん」

ダニエル
「言うなリオン!あいつを殺したくなる」

レイモンド
「何故かあいつは気付いてないんだ。止めるんだ!」

リオン
「鈍感系って死ねばいいのに」

リオンもその後、死ねばいいのにと言われるのは、まだ先の話だった。

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