乙女ゲー世界はモブの中のモブにこそ、非常に厳しい世界です   作:N2

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神薙改式様、bananateen様、煉獄騎士さま、誤字報告ありがとうございます。


第17話 決闘

 決闘当日、闘技場には数千人が集まっている。

 そもそもこの闘技場は、数万人規模の収容が可能なため観客席は十分に余っている。

 観客席は魔法障壁に守られ安全確保は万全である。観客も身の危険が及ばずに熱狂出来るというわけだ。

 

 俺はそれを上空から見下ろしていた。後は降りるだけだ。

 リオン側に機体はない。搬入が遅れているのだろうか? 王太子殿下達の5機は、横一列に並んで整列済みだった。

 

 「さぁ、デモンストレーションと行こう」

 

 俺は鎧を闘技場まで急降下させる軌道に入った。

 

 

 

 

 

 「殿下、上です!?」

 

 クリスがいち早く気付いて、4人の視線を促す。

 

 「あのスピードで降下だと!? 激突するぞ」

 

 ユリウス達は、加速して降りてくる赤い機体に目を見張る。こんな急降下軌道は、訓練を担当している王国軍教導隊の指導教官ですら見せた事はなかった。

 

 「な、何あれっ!?」

 

 「墜落か?」

 

 「バ、バカっ! あれは墜落の速さどころじゃないぞ」

 

 闘技場上空まで猛スピードで急降下後、そのまま水平に猛スピードで直角飛行をし出した。

 会場中があまりにも突飛で馬鹿げた軌道に声を失うなか、魔力光を発しながら、機体は六芒星軌道に移行する。

 はっと我に返った時には、上空にヘキサグラムの魔力光が揺蕩って浮かんでいた。

 

 「うおお! あんなデモンストレーション初めて見た」

 

 「き、綺麗」

 

 「あ、消えちゃう」

 

 男子学生の驚嘆する声や女子学生の嬌声に闘技場が彩られる。

 王太子殿下達とは反対側に、機体を見せつけるように腕を水平よりやや下に広げ、足は揃えて直立態勢で降りて行く。

 悠然と下降し降り立つその機体に観客達は、ただただ眼を奪われるのであった。

 

 

 

 

 トップスピードは最新型の汎用機と変わらないが、重力を乗せた降下スピードは、中々お目にかかる事はないだろうと思い見せつけてやった。

 でもやはり、墜落に加速を乗せる真下直下の飛行は怖いなと、内心ドキドキさながら闘技場に降り立つ。

 ヘキサグラムの光はただの魔法。

 実践で使用出来るかと思って訓練した事はあったが、機体と同じ像を形成しようと息巻いてやってみた。結果として魔力を馬鹿喰いするだけで、とてもじゃないが戦争では使用出来ない事が、ヘルツォーク子爵領内で判明した。

 質量を持った残像は、ロマンとして露となって消えた時はガッカリした。光だけに。

 多少の目眩ましには使えるだろうが、乱戦時にはその分の魔力で、機体を動かしたり攻撃に使用しなければ、そもそも短時間しか戦えなくなってしまう。

 

 「よっと」

 

 歓声に包まれながら、鎧から降りるのは気持ちいいな。賭けの対象としては、俺は多くの観客者達にとって敵のはずなのに。

 

 昨日俺の参戦が発表されたが、事前に王太子殿下達に賭ける奴等が多かった事。そして俺がジルクとの対戦希望だけだったため、結局リオンが4人と戦うという前提だという事も直ぐにわかり、王太子殿下達へ賭ける者達が圧倒的にこの会場を占めていた。

 

 俺の飛行を目の当たりにした、お馬鹿ファイブ達の唖然とする表情を見る事が出来たのも気分がいい。

 

 「ずいぶん派手な登場だな。それに制服のままなのか」

 

 リオンは驚きの籠った眼差しで見てくる。リオンのダークグレーのスーツは格好いいな。

 もちろん俺も軍事行動時には、あの身体にピッタリとしたこの世界のスーツを着用するが、決闘で一度戦うだけだし、ルールで飛行も禁止高度が設定されている。

 3次元軌道で動くタイプの俺としては、決闘は窮屈だが、何とかするしかないだろう。あのスーツを闘技場で見せびらかすのは躊躇してしまう。

 

 「まぁ、怪我をする気はない、平気、平気」

 

 「出来れば、椅子を尻で磨くだけで済むならマシだったんだけどな」

 

 俺の強がりに何処かで聞いたことのあるセリフを言うリオン、確かに鎧なんか乗らず、婚活もせずに学園の椅子にかじりつくだけの学生でいたかった。

 

 「「……アハハハハ」」

 

 お互いに何ともいえない間があったが、笑って誤魔化した。

 この独特な空気、心地いいが気になるな。

 

 「俺が闘技場に出たらブーイングが凄くてさ。ちょっとすっきりしたよ。それにカラーリングにしろ中々格好いい機体だな」

 

 「でもちょっと怖い感じがします」

 

 リオンは気に入ってくれたみたいだが、オリヴィアさんには不興だ。怖がられてしまった。

 

 「頭部は王国製じゃなくてラーシェル製だからね」

 

 ジオニック系のデザインだ。敵として戦ってもテンションが上がるし、扱ってもテンションが上がる。

 

 「なるほどこれが噂の機体か…… 汎用機だな。しかも装備がブレードと旧式のライフルだけじゃないか!?」

 

 レッドグレイブ家は武闘派だから詳しいのかな? 

 

 「決闘ですからね。実戦装備で殺しちゃ駄目でしょう」

 

 向こうは見たところ、ブラッドとジルク、ユリウスが特注のワンオフ機、これはさすがだと思う。

 でもグレッグなんか数世代前の物。

 あれは昔我が家でよく見たやつじゃねえか!? あんなのに似たようなカラーさせやがって、あっ、うちの古い訓練機も赤だった。

 訓練中は下手くそが、どこを飛んでいるかわかりやすくさせるために赤くしたんだよね。

 あいつはどんだけ鎧の技量に自信があるんだろう。

 クリスの奴は王国製の近接用最新型だが、ブレードが特注装備か。

 

 「これであれだけ戦果を上げたのか……」

 

 「まぁ魔力反応が過敏過ぎて、扱える搭乗者はほとんどいないだろうけど、すぐ転ぶか明後日の方向に飛んでいくよ。直線スピードは他と変わらなくてもその分小回りが利く。王国最新型やラーシェルの最新型が亀のように感じるさ」

 

 アンジェリカさんの呟きに答えてあげる。

 

 「リオンのは?」

 

 「問題ない。到着した」

 

 リオンが指を空に向けて指すと、通常の鎧よりも大きな金属製の箱が落ちてきた。

 地上すれすれで止まるが、地に着いた時には辺りに重量感を感じさせる音が、静かだが腹の奥に響く震動と共に接地した。

 

 箱の全面部が開き、中には重厚な鎧が納まっている。二回りは大きいか。

 メッ○ーラとジ・○の合の子みたいじゃないか!! まさかジュピ○リス製がくるとは。

 完成していたのか!? 森のくまさんは何処だ?

 

 「中々迫力があっていいじゃないか!!」

 

 「お、リックにはわかるか」

 

 (ルクシオンが『エーリッヒの評価を上方修正します』とか言ってる。嬉しいのか? 人間くさい奴め)

 

 ただし、観客や5馬鹿達はリオンの鎧を見て大笑いをしてる。何故だ?

 

 確かに今は高機動型が主流だ。リオンの鎧は重装甲、鈍そうには見える。防御よりも攻撃力が高いこの世界は、素早く動いて敵を倒すのが主流となっている。俺もそのタイプだ。

 結局貴族主義は小型化が大好きか。

 共に死ねばお前○口惜しさは消えるのか…… 

 

 アンジェリカさんも不安なのかリオンを問い詰めている。ただ、オリヴィアさんがとびきりの笑顔で、リオンの機体を見ているのは何か悔しい。

 怖がられたからね。ヘルツォーク領内でもあの赤は返り血の赤だとか言われるし。

 

 「じゃあリオン、前座の僕が先に行ってくる」

 

 「おう、精々気の済むようにな。殺すなよ」

 

 まさか、と言いながら舞台に上がる。

 観客席を見渡すとマルティーナとクラリス嬢も一番前に陣取っている。空いてる隣の席2つは、アンジェリカさんとオリヴィアさんのだろうか。

 遠目だが、クラリス嬢の表情はやつれており、目の下はこの数日泣いていたのか腫れている。

 

 鎧を取りに行く前マルティーナに聞いたが、ジルクはこの数日、クラリス嬢からの面会拒否、手紙の返信すらしない。

 バイクのレース場の借用や指導者の手配まで受けて、婚約破棄の書状一つで終わらせられると本気で思っているのだろうか?

 お前の実家は王宮から、爪弾きにされると考えなかったのだろうか。

 自由で結構な事だ。

 

 「もの凄い技術ですが、この闘技場で活かせますかね」

 

 「何、やりようはありますよ。いやぁ、でもそちらは凄い装備ですね」

 

 ジルクからお褒めの言葉がかけられた。ジルク自身は、実戦用の高出力ライフルに各種魔力弾頭、ガッチガチのイケメン装備だな。

 さて、魔力波での個別通信はカット、オープンで会話をしていきましょう。

 

 「両者、始め」

 

 

 

 

 ジルクは開始と同時に煙幕を張り、機体をルール上ギリギリの高さまで移動してから、ライフルを構えた。

 

 「あなたの戦闘データは急いで取り寄せましたよ。銃口は目視させない」

 

 エーリッヒ・フォウ・ヘルツォークという男子は、冒険者で身を立てたわけではない。

 しかし、鎧を搭乗した戦争での戦果は、数字以上に計り知れない。昨日エントリーしてきた時は、グレッグにクリスは矛を交えたいと興奮していたが、名指しされたジルクは堪ったものではなかった。

 ユリウスと共に操縦の訓練で指導を受ける汎用機に乗った教導隊の指導官には勝てないのだ。

 だから、作戦を考え、武器を高威力の物にした。一発当たりさえすれば、戦闘不能状態に出来る代物である。

 ジルクは魔法陣内に浮かぶ映像で、エーリッヒが乗る機体、ダビデに照準をつける。

 

 「頂きです」

 

 ライフルの引き金を引くが、その瞬間に地上煙幕内を高速且つランダムにダビデが動き回る。

 

 「何?」

 

 しかも鎧の右膝にダビデのライフル弾が被弾した。駆動部だが、旧式でさらには出力を押さえているため、致命的な損傷にはなっていない。

 

 「どうやればそんな動き!? ちぃ、ちょこまかと…… 横!?」

 

 煙幕内から飛び上がってきた機体に照準を向けようとしても、90度に近い直角軌道で背後に回られてしまい。またしても今度は右膝の裏にライフル弾が命中する。

 

 「僕も魔法陣の映像で、マーモリア卿の姿は見えるんですよ。それにランダムで動く相手に当てるのは難しいでしょう?」

 

 「こ、こんな狭い空間内をその動きっ!? 激突が怖くないのですか!!」

 

 ジルクの機体も逃れようと水平に動くが、今度はジルクの機体の下に潜りながら、ライフルで右膝と左膝正面にライフル弾をくらってしまう。

 交差したと思えば、上昇後右回転しながらダビデはライフル弾を発射し右肘に被弾させる。

 

 「マーモリア卿、あなたはいつも王太子殿下の後ろに控えているので、今回も隠れて出てこないかと思ってました。意外ですね?」

 

 「ユリウス殿下が決闘に出るのだ。おめおめ逃げるわけにはいかないでしょう。くそっ」

 

 「たった数日とはいえ、婚約者から逃げ回っているじゃないですか? それで逃げていないとでも」

 

 最新技術を駆使した鎧で、カスタムタイプとはいえ汎用機を捕捉出来ない事にジルクは苛立つ。

 既に普段浮かべている優美で柔和な表情は崩れていた。

 この闘技場内は直径100m程、ルールで上空を取れるのは10mまで、この世界の鎧の全長は3m程度。

 闘技場全体を使うには、かなり高度な技術を要する。姿勢制御技術に飛行など、全てマニュアルでの魔力運用だ。狭いためスピードに乗ったら激突してしまう。

 魔力を流して機体のオート制御では、決まった動きしか出来ない。

 鎧を使用した決闘では、ジルクのようにギリギリの高度から射撃で相手を圧倒するか、最初から近接戦闘が主流の戦法だ。

 闘技場内では最新技術の機体も汎用機も余程の型遅れでなければ、そこまで差はつかないのが常識である。

 

 上空を取ったというのにジルクは焦っている。

 ライフルを軌道予測の上で発射するが、スピードで振り切るのではなく、角度をつけた飛行で、かする気配すら見当たらない。

 

 「あれほどの便宜を諮って頂いた婚約者をどうして蔑ろに出来るんです? 話し合いは必要でしょう」

 

 決闘中にこちらに拡声で話すエーリッヒにも腹が立ってしまう。

 

 「政略結婚です。確かに私たちは面識がありますが、面識なく結婚する場合もある。顔を出して下手に相手を傷つける必要もないでしょう!」

 

 ジルクも止まる事なく闘技場内を円を描く様に飛行し、直線飛行を加えるなど工夫は凝らしている。

 しかし、ダビデと比較するとどうしても大回り、そして緩急の付け方が緩慢に見えた。

 

 ジルクが方向転換をしようと制動がオートになった瞬間、左肘、左膝と着弾し姿勢を崩してしまう。

 

 「あなたに会えずにああも傷付いた表情を顔に張り付けている婚約者を前にまだそんなことを」

 

 「たかだか数日で大袈裟なっ!」

 

 「あんな婚約破棄を突き付けて逃げているからだろっ!! 」

 

 エーリッヒはジルクの言い分に自分の口調を取り繕うのを止めてしまう。

 ダビデはジルク機から距離を取るため地上に降下、ライフルのマガジンを交換しようとした瞬間、ジルク機から小型魔力弾頭が8つ発射された。

 

 「もはやマリエを愛した私に彼女に語る舌は持ちません」

 

 (くそっ狙ってたのか!?)

 

 弾頭が直撃する直前に地面を水平飛行して、地面に着弾させてかわそうとしたが、4つは追尾して追ってくる。

 降下からの地面すれすれの水平飛行をトップスピードに近い軌道が取れる者も数えるくらいしかいないだろう。しかしジルクはそれを見越して4つの魔力弾頭を魔力を駆使して曲げきった。

 

 (ファン○ルミサイル擬きが)

 

 「1つでも当たれば終わりです」

 

 「甘いっ! そんな程度」

 

 ダビデは換装を終えたライフルで1つずつ撃ち落としていった。

 

 「何が愛するだっ! あの人はお前がエアバイクに乗るたびに指導者を用意し、タオルに飲み物まで手ずから用意していたそうじゃないか!! お前を愛していたからだろっ!!」

 

 「あれをかわしきる!? 化物が…… 家のためでしょうに! いつも私は殿下のために考え、時には裏に手を回してきたっ!!」

 

 ジグザグに上昇しながらダビデは、ジルク機の両肘に両膝と被弾させる。ジルクも引き金を引き続けるが、銃口を向けた瞬間に視界から消えるダビデには、一発もかすらせる事も出来ない。

 被弾する恐怖と胴体を狙われない事実が、嬲られているかのような屈辱が沸き起こり冷静さを失わせる。

 

 「そんな私の心労に気づき、私を労り癒してくれたのはマリエだけっ!! 彼女は気付きもしなかった!!」

 

 「クラリスさんに向き合わなかったからだろう。お前が向き合っていれば、あの人なら支えてくれるはずだ。エアバイクのレース場で、お前を見るあの人の表情は、とても愛情に満ちていたって聞いているぞ」

 

 (マルティーナがクラリス嬢の取り巻きから聞いたらしい。羨ましい奴だよ)

 

 ジルクが手榴弾とライフルの乱射で地面を荒らし出す。

 

 「だから家のためでしょう! 私が共にいたいと心から思ったのはマリエだっ! マリエの笑顔には彼女は敵わないっ!!」

 

 ジルク機の雑な面制圧などものともせず、興奮して攻撃の留まったジルク機の両肘に両膝とさらに着弾させていく。

 

 「こいつっ! あの人の情をそこまで否定するのか!?」

 

 「私の想い、マリエからの想いが通じた時の甘美な心地好さは君にはわからないだろう!!」

 

 埃の舞う大地から離れ、一度ジルクと同じ高度で制止した瞬間、ジルクの放った言葉でエーリッヒも会場も凍りついた。

 

 「父親が誰かもわからない不義の子で、挙げ句自らの行動で実母を死に追いやった冷血な君にはっ!!」




ジルクきゅんが酷い事言った。

あれっ?5馬鹿の事大好きなのに何でこんな酷いキャラに?

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