乙女ゲー世界はモブの中のモブにこそ、非常に厳しい世界です 作:N2
やっぱり女性編も必要かなと
温泉を利用する面子は、男性陣よりも女性陣のほうが多いが、広さは男性側の2倍以上あった。
これはそもそもリオンが、女性のほうが風呂は長引く事でもあり、楽しみたいだろうと考えて、ルクシオンに仕切りの場所を指示したからであった。
リオンも風呂は好きだが、慣れて最初の感動も薄れてしまえば、そう何度も長風呂はしないと自分で理解していたためでもある。
「いーやーだー、恥ずかしいから兄ちゃん達のところに行くよっ!」
「まぁ、いいじゃない。コリンの身体は私が洗ってあげる」
マルガリータがコリンを捕まえて離さない。かけ湯をした後に温泉にドボーンと落としていた。
「メグお姉ちゃん酷いよ!」
「ふふ、メグお姉ちゃん。いい響き」
ヘルツォーク子爵家で末っ子のマルガリータは、コリンにお姉ちゃんと呼ばれて嬉しそうである。
温泉内でコリンの後ろから抱き付いて離れない。年齢と背と比してマルガリータの大きい胸の感触を楽しむには、コリンはまだ幼く純粋だった。
フィンリーは弟を冷ややかに見ながらもこの温泉だけは兄に感謝している。もっとジェナとお前は感謝しろ、というリオンの叫びは無視だ。
「しかしこの面子は……」
公爵令嬢から伯爵、子爵に平民と身分が色取り取りである。フィンリー自身も男爵家の出だ。
侯爵家がいたら、婦女子の見本市になりそうだった。
「しかも皆綺麗で可愛いし、スタイルもいい」
同い年のマルガリータは、フィンリーよりも背が低いが、胸は大きく伯爵令嬢のクラリスと同じくらいだろう。
トランジスタグラマーという奴だ。
しかし、胸の大きさはアンジェリカやオリヴィアには若干負けているように感じるが、クラリスという伯爵令嬢が、この中で一番、脇から腰、お尻のラインさらには太腿と艶かしい。フィンリーから見ても大人の色気というものを感じる。
アンジェリカやオリヴィアの胸の大きさには、以前驚きを持ったが、マルティーナの細身から張り出す胸には愕然とした。
(着痩せが凄いのか? 何カップなんだろう? アンダー細っ!?)
「こんなレベルの高い女子が学園にはいっぱいいるの?」
マルティーナにはもはや嫉妬すら湧かない。スレンダーさで言えば、自分とそう変わらないのにと、ブクブクと口元を隠すように湯に沈める。
姉のジェナは、男なんか選り取りみどり等と宣うが、この女性陣を見ると、姉の強がりではないかと疑ってしまう。
しかもここにいる女性全員が、専属使用人がいない。バルトファルト家よりもお金はありそうだというのにだ。
「どうしたのフィンリー?」
同い年という事もあり、マルガリータが気安くフィンリーに声をかける。
「いや、皆綺麗だし、専属使用人もいないんだなぁって」
「ヘルツォークはそもそも禁止。興味もない」
言葉はぶっきらぼうだが、所作は教育の良さが端々に見えるマルガリータが言う。
「でも王都では流行ってるってお姉ちゃんが……」
「あぁ、確かジェナさんね」
フィンリーとマルガリータの話が聞こえたクラリスが、髪を束ねたタオルを直しながら話し掛けてきた。
二の腕から綺麗な脇のラインにすら、同性とはいえクラクラする。
「現に伯爵以上の出となると、専属使用人を持つ女性はほとんどいないから。一部の愚かな伯爵家くらいかしらね」
妖しい光を湛えた眼に温泉の熱も忘れて、フィンリーの背筋が冷える。
「あぁ、あれは本当に品がない。リオンの妹だから言うが、止めたほうが身のためだ」
アンジェリカが、後ろからオリヴィアに抱き付きながらフィンリーに忠告する。
「きゃっ、アンジェくすぐったいですよ」
「この温泉でリビアの肌がすべすべだからな。ふふ、可愛いぞ」
だからと言って、女に走るのはいいのだろうかとフィンリーは首を捻る。この2人はイチャつき過ぎだろう。
「でも、見目の良い専属使用人を侍らすのは羨ましいというか……」
実際フィンリーは、顔の良いエルフが好みだ。自分が可愛い事も自覚している。結婚もそう苦労はしないだろうとも。
ここにいる女性陣を見るとその強がりも多少ぐらついてはしまうが、それでも大丈夫と胸の内で強く思う。
「あんなのの何処がいいの? 大して強くも賢くもなく。頼り甲斐なんか毛ほども無いわよ」
マルティーナが意味がわからないとでも言うように、フィンリーに眉根を寄せながら言ってくる。
「でもそれは、エーリッヒさんが格好いいから、エルンストさんもカッコ可愛い系ですし……」
あの兄弟はフィンリーの好みにヒットしていた。
エルンストはまだ少し幼さが残っているが、精悍さが出てくるのはこれからだろう。面食いのエルザリオ子爵の成果が出ている。
エーリッヒは母の血が濃いめではあるが、エルザリオの血は入っていない。しかしその女を選びヘルツォーク領で過ごさせたのは、唯一の成果でもあろう。
あの兄と弟だから、そのような事が言えるのではとフィンリーは思った。
「ふ、ふふ、まぁエーリッヒ様を見ていたら、専属使用人など獣にしか見えませんからね。でもフィンリーちゃんは良くおわかりですね」
偉い偉いとエーリッヒを褒められたマルティーナは気分上々だ。学園女子とは異なる、フィンリーの純粋であろう評価に我が事のように喜ぶ。
ちゃぷっと湯から手を出し、浮いて露になる胸に誇らしげに手を置く姿には、もげろっ! と心の中で毒づくフィンリー。
「あら、でもエルンスト君も鎧の訓練凄かったわよ」
「見たのかクラリス。まだ入学前だろうに」
アンジェリカとクラリスは少し身体が熱くなってきたのだろう、岩に腰掛け足先だけを浸けて、ちゃぷりちゃぷりと湯を掻いて話だした。
「えぇ、リック君の3次元空中飛行に何とかついていってたわよ。聞いたら鎧の搭乗時間も1,500時間を超えているそうよ。入学前には2,000を超えるって。そんなエト君を相手に模擬戦で被弾しないリック君には惚れ惚れしたわ」
湯の熱に上気した頬は、艶めかしくエーリッヒとエルンストを褒めている。情婦がまるで自らの男の手柄を誇るようだ。
「それは!? 規定の休暇を無視してるのかっ!! もうベテランじゃないか…… ラーシェル側国境は魔境か? 他にも勉強や剣に魔法の訓練もヘルツォークはやっているというが、化物の養成所ではないか……」
アンジェリカの物言いには、マルティーナもマルガリータも多少はムッとするが、誉め言葉でもあるので顔には出さずにすんだ。
「ファンオース側のフィールド辺境伯も見習ったほうがいいわね。あそこは数は立派でも中身は不甲斐ないから」
「そう言ってやるな。エーリッヒの実力は見たが、王国の教導隊ですら敵わんだろう…… レッドグレイブにはあのレベルはもういない。20年前黒騎士にベテランで腕が良い者は、軒並み皆が墜とされている」
ここにいる全員が生まれていない、ファンオース公国侵攻戦。多数の飛行船と鎧が撃沈した戦場はネームドの墓場となっている。
「あまり温泉を楽しみながら話す話題じゃなくなったわね。でもいいフィンリーさん、専属使用人を連れて遊び歩いてみなさい。本物は絶対に手に入らないわよ…… 例え、手にいれたバルトファルト家の正妻といえども、今や惨めになりつつあるんじゃないかしら?」
王都出身の伯爵令嬢が、バルトファルト家を本物と言う。フィンリーには衝撃的であったが、公爵令嬢も頷きを以て答えている。
正直フィンリーとて正妻やその兄弟は嫌いだ。しかし羨ましく嫉妬を覚えるのもまた事実。彼等のように王都で遊んで暮らしたいが、確かに正妻の兄弟、メルセにルトアートは未だ結婚出来ていない。2人とも顔は良いというのにだ。同腹の姉とて本人は楽観的だが、結婚出来る気配は見えない。
「少し…… 私も考えを改めてみます」
そんな兄や姉達の状況を改めて考えるに至り、打算的ではあるが、結婚出来なければ王都で遊ぶ以前の事態でもある。
そのフィンリーの言葉に女性陣は、微笑みを返してくる。しかし、当然だというニュアンスもそこには含まれていた。
☆
コリンは涙目で温泉を出たが、リオンに非常に羨ましがられ、それをオリヴィアは苦笑しつつも「めっ」と怒るとリオンは癒されていた。
そんなリオンをアンジェリカは耳を引っ張っていた。
「リオンは楽しそうじゃないか」
「お前は美女に実家で囲まれてるじゃないか、俺にはお前が羨ましいぞ」
アンジェリカさんにオリヴィアさん、妹のフィンリーさんを見る。
「リオンも同じだろうに」
「アンジェもリビアも結婚出来ないんだよ!」
「まぁ、それは僕もだな……」
マルティーナとマルガリータは王国本土の金持ちがいいだろうし、クラリス先輩は身分が高過ぎる。
そんな事を考えてると、脳天から脊髄にかけて雷が貫いた。
俺はこればっかりやってるな。
エルンストじゃなく、俺がフィンリーちゃんを嫁に貰えばよくね!?
リオンを兄貴と呼ぼう。
兄貴○私、ボディービル!!
リオンに微妙な顔をされた。解せぬ。
ただ、フィンリーちゃんの意識が女性陣との温泉で変化があったらしい。
俺か弟を是非!!
☆
リオンの浮島を楽しみ、ヘルツォーク子爵領に戻ってから暫くして処遇が決まり、叙勲式を経て晴れて正式に男爵となった俺は、学生寮に戻ると部屋が変わった事を伝えられる。
「か、閣下は学生とはいえ正式に男爵であり、勲章を賜った騎士、お部屋及び対応も伴うよう考慮されます」
おぉ敬礼に閣下呼びか。軍では将官や男爵以上の爵位持ちはそう呼ばれたな。
はは、中々気分がいいな。
「じゃあ案内してください」
「はっ」
彼等は軍属上がりなのか? 少々仰々しいな。
「うおっ!? 広いな……」
これが例の上級貴族の子息用のスイートルームか。
「さすがに立派ですね。見てください、キングサイズのダブルベッド。女子寮の物よりも一回り大きい」
何故女子寮のベッドがダブルかって、専属使用人と寝るためだとか。マルティーナは一人で使うには広くて面倒だと言ってたな。
ちなみにこのベッド、3人どころか4人寝る事も出来る。寝る時の乗り降りが面倒くさい。もうソファーで十分だな。
「当然のようについてきているな」
「だって興味あるじゃありませんか。それに受付に確認しましたら、このクラスの部屋を使用する人物は、登録した人物や予め受付に伝えておけば、時間を問わず部屋に通す事が可能だそうです。早速ですが先ほど、わたくしを登録しておいて貰いました」
「そうか。手間が省けたよ。ありがとう」
ふふふ、と嬉しそうに笑う我が妹。なんか感覚が麻痺してきたな。温泉で頭がふやけている気がする。あれは良かった…… また行きたいな。
お茶の準備をするマルティーナを横目にソファーに座り今後に思いを馳せる。
「しかし、エトへの話も済ませた。まぁエトが入学してからは忙しいだろうが、改めて自分の今後を考えさせられるな……」
弟のエルンストに俺がしていたヘルツォーク領の仕事を引き継がせたら、もう俺はお役御免。領地も無い。卒業後は仕官が妥当かな。
「少しリオンさんみたいに冒険をしてみたらどうですか? リオンさんの話をエトと一緒に楽しそうに聞いていたじゃないですか」
「そうだな。エトとも約束していたし、ラーシェル神聖王国から浮島でもぶん獲ってこよう」
夜間にこっそり高速船で侵入して、強襲してやるか。
「それは冒険じゃなくて軍事行動ですよ」
まったく、と溜め息を吐きながらお茶を淹れてくれた。
冒険的作戦行動じゃないかと思いつつも、確かにそれは冒険者ではないなと感じ入るのだった。
「お茶ありがとう…… もう遅いぞ」
「疲れたので泊まっていきますが?」
えっ!? 何その、それが何か? みたいな反応!! 俺がおかしいのか?
「え、部屋もありますけど、ダメでしたか? 着替えやらの荷物もありますし」
腰を屈めて覗き込んでくる。おい! 何故胸元が開いている!? まだ暑い季節だしな。今度ネックレスでも買ってやろうじゃないか。
我が妹様が言う部屋とは、広い書斎、勉強部屋の事か。勉強する部屋と寝る部屋、リビング。一つ一つが大きいが、要は広い2LDKといった感じか。前は1DKぐらいだったな。広さは3倍くらいになったが…… ずっと住みたい。
「エーリッヒ様、制服に略綬章付けないと。準備しておきますね」
「ああ、そうだったな。頼むよ。すっかり忘れてた」
はい、といい返事をするマルティーナ。
明日は始業式だったからすっかり忘れるところだった。自分の制服を持ち込み、その制服にも略綬章を準備するマルティーナは、さすがだなと素直に感じ入る。
「準備がいいな」
「はい、叙勲式の前に荷物を取ってきてましたから。書状にも学園生活の変更点が、色々記載されてましたよ」
あの役人が持ってきた書状か。細かいところは見てなかったなぁ。親父やエルンスト、妹達が見てたのか。バーナード大臣の手紙に気を取られていたよ。
「じゃあシャワーでも浴びてくるよ。お前は風呂にするのか?」
「ではお風呂でお願いします」
「あぁ、湯を張っておく」
ありがとうございます。という声を背中に受け止めてシャワーに向かう。
あれっ!? 自然と泊めてしまう流れになってるし。
まぁもういいか、今日は叙勲式で疲れたし。あまり深く考えるのはやめよう。
疲れていた事もあり、明日の制服の準備をマルティーナに任せて、気分をさっぱりとさせに行くのだった。
えぇぇい、ヘルツォークめ、化物か
アンジェが赤い人みたいに言ってた。
アンジェも赤が好きだったな……
胸が小さく細身でも腰付きや脚がエロい人っているよなぁ
計画通り(ニヤッ とか妹がしていたとか何とか(笑)
我が妹様が住みそうだ