乙女ゲー世界はモブの中のモブにこそ、非常に厳しい世界です   作:N2

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理由はないけど、邂逅って何か言葉がカッコいい


第24話 邂逅

 前世を持つ身として考えるのは、この学園って日本の高校みたいだなと感じる。学園祭に修学旅行みたいなものもある。

 

 「えっ! お前バカじゃないの?」

 

 空き教室で学園祭で開催する喫茶店の準備中、リオンに馬鹿にされた。

 

 「何でだよ! 貴重なお茶会参加女子だぞ。しかも専属使用人はいないし」

 

 リオンが本格的に開催したいという事で、リッテル商会に改装を依頼し、喫茶店としては十分な設備を誇っている。リオンの浮島に行った時に滞在費をリオンが受け取らなかったので、この改装費は俺が出している。

 リオンも満足しているようで良かった。

 

 「お前は怖いものしらずだな」

 

 ダニエル・フォウ・ダーラントが、テーブルを運び込みながらリオンに同意する意見を言ってくる。

 

 「どうせお金に余裕ができたら、新しい奴隷を買うに決まってる」

 

 レイモンド・フォウ・アーキンが椅子を並べながら皮肉気味に否定する。

 お前ら酷いな。漏らし子ちゃん、じゃない…… ヘロイーゼちゃんは()()()()良い子だぞ。

 あれ、レイモンドを否定できてないぞ!?

 

 リオン主催のこの喫茶店だが、貴族やそれに準ずる身分の者達が通うだけあって、かなりの金をかけて立派なものに仕上がっている。

 体裁を整えないと顰蹙を買うのだが、しかしこの茶器はやり過ぎじゃないだろうか?

 レイモンドの茶器を扱う手は震えてるじゃないか。

 

 「おい、いいかリック、正直ちょっと羨ましいがマルティーナさんやクラリス先輩に言うのは、時期と場所を選べ。ここを破壊されたくない」

 

 うちの妹を破壊神みたいに言わないでほしい。超弩級戦艦ブリュンヒルデの女神なのだ。

 破壊されそうだ…… 

 クラリス先輩はヘルツォークの女神だぞ! うちの軍隊を顎で使えるお人だぞっ! 

 やっぱり破壊しそうな人選だ。否定できない。

 人は流れに乗ればいい…… ダメになりそうだな。

 

 「そ、そうだね。気をつけるよ」

 

 忠告は有り難く受け取っておこう。

 

 「あのマルティーナさんがいて何で他の女に行くんだ?」

 

 「この僕の妬ましさで、殺してやりたいくらいだよ!」

 

 ダニエル、妹には王国本土で贅沢してもらいたいんだよ。レイモンドは毒舌ばかりだな。

 

 レイモンドがこの内装や設備には、金をかけすぎで赤字になるだろうとリオンに言い、賭けで搾り取ったから還元してやるとリオンは憎らしげに言い放つ。

 ダニエルは恨まれている事を自覚したほうがいいぞとリオンに忠告している。

 俺自身もどこまで周囲に恨まれているのか、気にはなっている。しかし、ヘロイーゼちゃんが言うには、リオンへのヘイトが集中していて、俺はそこまでじゃないというが…… やっぱり学園女子は怖いしなぁ。

 

 「ど、どうでしょう? 変じゃありませんか?」

 

 亜麻色に近い髪に柔らかなミディアムボブのオリヴィアさんが、メイド服を着て空き教室に入ってきた。

 お腹や腰回りを引き締めるデザインのため、オリヴィアさんの大きな胸が強調されている。

 垂れ目のおっとりとした雰囲気の癒し系女子。

 おぉ、凄いな。しかも膝上10cmくらいのちょいミニなのがいいな。品も悪くない。衣装高そうだな。ハ○ズやドン・○ホーテとは違う。

 リッテル商会も良い仕事をするじゃないか。

 男達4人で見惚れていると、アンジェリカさんが堂々と出てきた。

 

 「少し胸を強調し過ぎだし、スカートが短くないか?」

 

 アンジェリカ・ラファ・レッドグレイブ、公爵家の令嬢で王宮に行儀見習いとして、2年間過ごしていたらしい。クラリス先輩も王の側室に行儀見習いとして、礼儀作法を叩き込まれたと言ってたな。上位貴族の女子は大変だ。学園の女子も見習ってほしい。

 豪奢な金髪に鋭い目付きの気の強そうな顔立ち。赤い瞳は力強さを感じさせる。威風堂々とした女王のようだ。そんな女王がオリヴィアさんには優しい目を向けている。

 片や公爵令嬢にもう一方は平民。美人で巨乳な身分差のある2人が、仲睦まじく身を寄せあうのには感動を禁じ得ない。

 

 「アンジェはスタイルが良くて羨ましいです。最近リオンさんのお菓子が美味しくて」

 

 抱きついた弾みで2人の胸が潰れている。

 

 「私はリビアはもう少しふくよかでもいいと思うぞ」

 

 あそこに挟まれたいなぁ。

 

 「ふぁ、で、でもアンジェみたいに脚が細くなりたいですし」

 

 「く、こら。腿の内側を撫でるとくすぐったいではないか」

 

 「ふふ、アンジェ可愛い」

 

 いや、君達2人が可愛いよ。もう男共は感涙だね。マジ尊死。

 

 「もう、見すぎです」

 

 目が後ろから塞がれた。背伸びしているのだろう、俺の背に柔らかく、弾力に富んだ感触が押し付けられた。

 

 「ティナも着替えたのか」

 

 振り向くと、マルティーナ・フォウ・ヘルツォーク、故あって2年近く前、正式に兄妹ではなくなった女の子が立っていた。

 オリヴィアさんよりも濃いはっきりとした明るい亜麻色の髪をサイド寄せハーフアップで胸元に流している。盛り上がった胸元上部に溜まった髪が、身体の揺れと共に跳ねるのが色っぽい。

 オリヴィアさんやアンジェリカさんと同じメイド服に身を包んでいた。

 胸自体のサイズやボリューム感は、オリヴィアさん達のほうが若干ありそうだが、細いせいかカップ数は大きそうだ。この長期休暇で成長したのか?

 腰高なため長い美脚がミニスカートから伸びている。

 少し膝上がオリヴィアさんより出ているが、レース付きニーハイストッキングをガーターで吊っており、素肌はあまり晒してはいない。

 

 「ど、どうですか?」

 

 アンジェリカさんと違い、マルティーナは行儀見習いなどしていないため、メイド服を着用するのは初めてだ。家のメイドから厳しく教育は受けたが、初めてのメイド服に戸惑いを見せているのだろう。スカートがちょいミニだしね。

 少しきつめの顔立ちながら、目を垂れさせ泪ボクロに色気を含む。頬を赤く染め胸を二の腕で挟み込んだまま、その強調された胸の上で、恥ずかしそうに人差し指同士をチョンチョン付け合せながらの上目遣いで聞いてくる。

 鼻血が出そうだ。

 

 「似合い過ぎてクラクラするよ。少し色気が過剰じゃないか?」

 

 「エ、エーリッヒ様に気に入って頂けるのであれば構いません」

 

 お前が接客をするのは俺に対してじゃないぞ。まぁこのマルティーナを気に入らない客はいないだろう。女子が嫉妬しそうだが。

 

 「ティナを気に入らない男はいないだろう。ただ、綺麗過ぎるからね、女子の嫉妬には気をつけたほうがいいよ」

 

 マルティーナの目元にかかりそうな髪を少し直して、ついでに髪を鋤くように全体に触れた。

 

 「ふわぁ、メイド服しゅごぃ……」 

 

 「服は関係なくティナは綺麗で可愛いよ」

 

 ふにゃ、とふやける妹が可愛い。そこにアンジェリカさん達の話す声が聞こえてきた。

 

 「全くあの2人は、見てるこちらのほうが恥ずかしくなる」

 

 「え、え、あの、でも仲が良いのはいい事じゃないですか」

 

 いや、アンジェリカさん貴女達も大概だよ。男の煩悩に直撃するからね。オリヴィアさんも顔を真っ赤にしながらフォローありがとう。

 可愛えぇ。

 

 「俺、もうリックがマルティーナさんを妊娠させても拳をプレゼントして受け入れるよ」

 

 おい、殴ってんじゃねぇかっ! 殴って何故悪いか? と言われそうだ。

 

 「あいつは勝ち組なのに気付いてないのが腹立つな」

 

 「せいぜい、月の無い夜に気をつけたほうがいいよ」

 

 ダニエルはただの嫌みなのにレイモンドはもう殺しにきてるな。レイモンドはリオンにも殺意があるからな。牛乳飲んだほうがいいよ。

 

 クラリス先輩はエアバイクレースの実行委員で忙しそうにしている。

 アトリー家は、エアバイクレース場を所持している関係で、実際の運営も取り仕切っており、その流れなのかクラリス先輩は昨年から、学園祭のエアバイクレースの実行委員をしている。

 取り巻きの男の先輩方と一緒にいる事も少なくなってきているな。

 クラリス先輩は別としてもやっぱり男子は忙しい。何故なら、女子の指示であれこれ動かなくちゃいけないからだ。

 俺もクラリス先輩の取り巻きをやろうかな? 勝ち組な気がする。

 さて、ヘロイーゼちゃんを誘って、2人のプレゼントでも買おうかと考えてると声がかかった。

 本能的に拒否感が出るその声。

 

 「貴方、エーリッヒ・フォウ・ヘルツォークでしょ。ちょっと顔貸しなさい」

 

 マリエ・フォウ・ラーファンから喧嘩を売られた。さすがに女の子と喧嘩するのは嫌だな。

 

 

 

 

 グスグスと涙を啜るような音が室内に響いてる。

 ここは、リオン達と開催する喫茶店の隣の教室だ。

 マリエ達はお馬鹿ファイブと共に喫茶店を開くそうだが、内装がどう見てもホストクラブにしか見えなかった。

 

 「お、お前…… それは酷すぎるだろう… お前もラーファンに苦しめられてたのかっ!?」

 

 俺が泣いていた。

 

 「そうよ! しかもあいつら、あたしの名前で借金するの!! 最悪よっ、ふん!」

 

 マリエの生い立ち聞くと、ろくに食べ物も与えられず、裏山で雑草を食べたり、熊や猪を狩っていたらしい。挙げ句にリスまで…… 狩った獣の毛革を売って新品の古着を買っていたらしい。

 

 「お前、新品の古着って…… そもそも古着だよ! 新品じゃねぇよ……」

 

 「う、五月蝿いわね! だからあたしは、そもそもヘルツォークとのイザコザなんか知らないの。色々怒られたけどいい迷惑なのっ! あたしとラーファンを一緒にしないで」

 

 そもそも血だから、別に分けて考えるのは貴族として難しいけど、こいつの不憫さに泣けてくるからもういいや。

 だって家族から、「お前は成長しないから、下着も服も買わなくて助かる」だって。

 実はこいつ、俺を脱水症状にして物理的に殺しにきているのだろうか?

 マリエの専属使用人であるショタエルフのカイル君が、おしぼりをくれるので目に当てる。

 こいつヘルツォークや辺境男爵グループよりも酷い貧乏だ。ヘルツォークなんかたまに実弾の雨がラーシェル側から降ってくるぐらいだ。

 当たらなければ、どうということはないのだ。

 当たったら最期だが…… 

 この幼女のほうが酷い気がする。実弾の雨の中を48時間踊った幼女より酷い気がする。

 

 「お前はこの話で、あのお馬鹿ファイブを泣き落として口説いたのか?」

 

 「は? こんな恥ずかしい話するわけないじゃない。あんたがヘルツォークだから、あたしはラーファンとは関係ないって言うために話したの。誰にも言うんじゃないわよ。あの5人はあたしの魅力で落としたのよ」

 

 凄い才能だな。悲惨な状況を何とかしたくて有名貴族の子息を落としたと。将来楽をするために。

 

 「何でこんな幼児に惚れ込むんだ…… せめて1人にしといてくれよ…… 僕だって相当苦労したんだぞ。後処理で」

 

 (こっちはこの世界が、あのゆるふわな乙女ゲームだって知ってんの! だから攻略したのに。こいつとあのモブは一体何なの? こんな奴等いなかったわよ)

 

 「よ、幼児って何よ! ちょっと平均より幼いだけじゃないっ!! あたしだってちょっと反省してるわよ。でもあの5人が離れないし、面倒見なくちゃいけないし。それに……」

 

 (こいつって、顔はあの5人並みに良いのよね。でも追加ダウンロードキャラなんか、あの乙女ゲームには無かったはずだし。ジルクが教えてくれたこいつの経歴って凝った設定なのよね)

 

 「この際、ロリコンは置いとくとして、でもあいつら5人なら、優秀だから冒険で十分稼げるだろ?」

 

 後は動き出した警部だかゲームに何とかしてもらおう。

 ロ~リィ、マイ、ペドアニメーションラブ♪

 

 マリエが途中で言葉を噤んで俺を凝視してきたので、疑問を伝えた。あの5人なら何だかんだ大丈夫そうだが?

 

 「あたし、ギャンブルとその日暮らしは絶対に嫌なの」

 

 怖いな、目が据わっているぞ。

 

 「その真面目さをどうしてあの5人を惚れさせる事に使うんだ。しかもきっちり落としやがるし。はぁ…… まぁ、もう無闇にお前達を睨んだりしないよ。妹にもそう言っておくから」

 

 このマリエって多分アホなんだろうな。その能力できっちり1人だけにしておけば、今頃左団扇だよ。

 

 「ねぇ、あの5人廃嫡されて大変なの。この店手伝ってよ! 7卓あるの、カイル入れても1卓余るからあんたも手伝って!! 顔は良いんだから女子から巻き上げて!!」

 

 マリエが色々と酷い。嫌だとマリエの頭を手で押さえてメニュー表を覗いてみる。

 

 「サ、サービス料10分100ディア! お茶とお菓子のセットも100ディア! 1時間いたら700ディアじゃねぇか!?」

 

 「甘いわね。TAXは30%よ」

 

 1時間いたら、お茶のお代わりを無視しても910ディア。91,000円!? 久々に円換算してしまった。こいつドヤ顔で、ホストや高級キャバなんか目じゃない料金設定にしてやがる。

 

 「あっ!? ヘルツォーク兄じゃないか!」

 

 「むっ、マリエ大丈夫か?」

 

 「僕達がいない間に何をこそこそとしてるんだ」

 

 赤、青、紫、じゃなかった。グレッグとクリス、ブラッドがやってきた。

 

 「いや、何かこの店を手伝えと言われてね。断るところなんだ」

 

 ジルクに気を使わないと決めたからか、この面子にも口調がぞんざいになってしまうな。マリエはもういいや。

 

 「おぉ、お前が手伝ってくれるのか?」

 

 「私は君と手合わせをしたい。この長期休暇は鍛えたからな。バルトファルトに雪辱を果たそうとして」

 

 あれっ!? グレッグとクリスはあまり俺に対して攻撃的じゃないな。寧ろ好意的なものを感じる。

 

 「不思議かい? 僕達は君に何かをされたわけでもないからね。ジルクには含むものがあるだろうが、あれはあいつの自業自得でもあるしね。それに君も改良型のスピアを使うと聞いてる。僕も興味あるんだ」

 

 ブラッドが俺の印象の理由を教えてくれた。

 リオンや他の人にも決闘の内容は聞いたけど、ブラッドは一瞬で負けたからよくわからない。他はまあまあマシだった。

 あれはアロガンツが強すぎる。

 

 「一応リオンの店を僕もやるんだよ。手伝ったら怒られる」

 

 リオンよりもマルティーナに。

 

 嫌だ嫌だと騒いでいると殿下達がリオン達を連れて、この喫茶店プリンセスに偵察にやってきた。リオンが勝手に付いてきたらしいが。

 ラーファンの娘がプリンセスとかって終わってるな。

 財政破綻で国が倒れそうだ。ある意味傾国の美女なのが笑える。




小学生は最高だぜっ、イェィ
あの歌ほとんど空耳で覚えてる。

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