乙女ゲー世界はモブの中のモブにこそ、非常に厳しい世界です   作:N2

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オフリー嬢をちょっとマシマシにしてみた。

八つ裂きにしたくなった(笑)


第26話 ミレーヌ王妃(後書きあり)

 騎士として(かしず)かなければならない御方が其処にはいた。

 叙勲式では、まじまじと視線を固定することは叶わなかったから、実質3年ぶりのご尊顔。

 3年前と少しも変わらないどころか、さらにお美しくなっているだと! 時の流れを逆行しているとでも言うのか!? ザビ○にすら抗える御方が其処にいる。

 私は3年も待ったのだ……

 今、刻の涙が頬を流れ落ちる。

 

 「相も変わらずの美しい御姿、貴女様の騎士、ここに参上致しました」

 

 「あ、あの、エーリッヒ君あのね…… 御忍びなの…… 目立っちゃダメなの」

 

 その顔を見た瞬間、脳天から脊髄にかけて雷が貫いた。ミレーヌ様の手を取り、口付けを反射的にしてしまった。きめ細やかな肌にくらりときてしまうな。

 あたふたするミレーヌ様は初めて見た。あうあうさせてやったぜ。

 しかも頬まで染めているだと!? この人は俺を悶死させるつもりだろうか?

 

 「ご安心を王妃陛下、この学園では女性は至上の存在。男など、傅くだけの憐れな案山子も同然です」

 

 スッと立ち上がるとミレーヌ様を見下ろせる。不遜だが、胸の谷間を拝見出来る事を喜ぶべきだろう。

 

 「おい! お前の動作があまりに自然で声が出なかったぞ。まがりなりにも騎士のお前が案山子なぞと呼ぶな。王妃様もあまり無茶を言われても困ります」

 

 アンジェリカさんに呆気に取られた後、注意されてしまった。

 

 「ふふふ、ごめんなさいアンジェ。エーリッヒ君も大きくなったわね。ユリウスくらいかしら」

 

 そうだ。あまりのバカ殿ぶりで忘れていたけど、この人殿下の母親だったな。マジか…… という事は、私の母になってくれるかもしれなかった女性か……

 

 「痛っ!?」

 

 「何かアホな事を考えてませんか?」

 

 妹のマルティーナを忘れていた。ヘルツォークの呼び出しということで、一緒に来ていたんだった。

 ミレーヌ様の頭から爪先にサッと視線を走らせて、くっ、とか言ってる。不敬だよ。

 アンジェリカさんと話をしていたミレーヌ様もマルティーナに気付いたようだ。

 

 「アンジェのメイド姿も久しぶりね。それとこちらの女性は?」

 

 「紹介が遅れました。こちらはマルティーナ・フォウ・ヘルツォーク。彼女もヘルツォークという家名です。呼ばれたのが家名でしたので、一緒に参った次第です」

 

 公的な紹介を考慮すると妹とは呼べないな。 

 

 「紹介に預かりました、ヘルツォーク子爵家の長女、マルティーナと申します」

 

 スカート丈が短いが、そつなく品を崩さないようなカーテシーをする様は見事だ。正直、この学園女子を見てしまうと子爵家には、うちの妹達は勿体無いぐらいの教養だな。

 

 「あ、そうよね。エーリッヒ君とヘルツォーク家には同年の女性がいたわね。ミレーヌ・ラファ・ホルファートよ。ヘルツォーク子爵家には国境沿岸の雄として、私は助かっているわ。仰々しい態度は止めてね。今日は御忍びだから」

 

 人差し指を口元に持ってきて、しーっとウインクまでするミレーヌ様、学園女子には無い可愛さだ。この人を見てると、女性の年齢なんか気にならなくなってくるな。

 

 「それよりも王妃様、本当にリオンと会うおつもりですか?」

 

 「当然よ! 廃嫡になったのはユリウスの責任だけど、あの決闘の内容は酷すぎて声も出なかったわ…… 母親として文句を言ってやるんだから!」

 

 ミレーヌ様が、ぷんすこ、と怒ってる。このひと一々仕草が可愛すぎる。

 おい妹、年齢を考えて下さい! とか小声で俺の肩越しで呟くんじゃない。胸が当たってる! というより俺の耳元で俺に向かって囁くな!

 

 「私の代理人が申し訳ありません」

 

 「騎士に任命したのだから、これからは私達にも監督責任が生まれますからね。ガツンと言ってやるわ」

 

 「あんまり厳しいお言葉は…… リオンが可哀想です……」

 

 アンジェリカさんとミレーヌ様が話し込んでる。それにしてもミレーヌ様はリオンに会いに来たのか。わざわざ足を運んで貰えるなんて、リオンは果報者だな。羨ましいぞ。

 しかし、こうして出店を見てみると、タピオカドリンクまであるのか、一つ買っておこう。

 

 「私の国には学園がなかったからわからないけど…… それにしても学園って、聞いていた以上に酷い所ね」

 

 あぁ、ミレーヌ様が、専属使用人を連れ回している女子や屋台で男子に文句を言ってる女子を見て嘆いている。もっと言ってやって!

 

 「お恥ずかしい限りです」

 

 アンジェリカさんも遠い目をしだしちゃったよ。

 

 「でも、若い子達の熱気が凄いわね」

 

 パタパタと手で扇ぐ仕草が可愛い。

 

 「ミレーヌ様、お一つこのドリンクは如何ですか? 人気らしいですよ」

 

 御忍びなら、もう名前で呼んじゃう。暑そうだしこのタピオカドリンクを勧めるか。

 

 「あら? ミルクティに…… 何この黒い丸いの?」

 

 「タピオカと言って食感がいいらしいですよ」

 

 興味を惹かれたのか、透明のカップから見える底のタピオカをまじまじと覗き込んでいる。

 

 「お、お前、王妃様にそんなものを勧めて……」

 

 アンジェリカさんが、呆れるように注意する。あぁ、王妃様だしこのままはマズイか。

 

 「では失礼を……」

 

 ひょいパクっと一口飲む。

 ストローが大きく、タピオカが飛び込んできた。

 ぐにゅぐにゅするな。そしてミレーヌ様に手渡す。

 

 「ミレーヌ様、毒は含まれておりませんのでご安心を」

 

 「「「えぇぇぇええ!!!」」」

 

 3人が驚いて声を上げた。おそらくミレーヌ様の護衛からだろう動揺する気配が伝わってきた。未熟者め。

 

 「さあ! どうぞ」

 

 「あ、ありがとうね」

 

 お礼を言って飲んでくれるミレーヌ様、学園女子はホント見習うべきだ。

 痛いっ! 妹よ、涙目で足を踏むんじゃありません。

 

 「お前は!! 護衛もいるんだぞっ! 不敬でしょっぴかれても知らんぞ」

 

 アンジェリカさんが心配してくれるが、王族へ供する物は毒味は基本だ。この世界は知らんけど。

 

 「あそこの護衛の女性4人ですか。離れた所に男性1人、この方が相当出来ますね」

 

 「エ、エーリッヒ君わかるの?」

 

 護衛を言い当てた事に驚いてる。タピオカ吹き出してもいいのに。

 

 「はい、あっ、御忍びであれば、是非リックとお呼び下さい」

 

 「よくわかるわね。あの離れた騎士は王宮警護の責任者なのに。何処でそんな……」

 

 そんな凄い人を連れてきたのか。気配めっちゃないから逆に不自然だよ。まぁタピオカドリンクを一口飲んで、ミレーヌ様へ渡した時に気付いたけど。

 

 「あのラーシェル神聖王国のフライタール辺境伯との戦いの後、フライタールと繋がっていたラーシェル側の空賊が逃げ込んでくるので、ちょくちょく殺り合ってたんですよ。飛行船に乗り込んで制圧とかもしましたからね。ヘルツォーク子爵家嫡男のエルンストも実戦経験済みですよ」

 

 けっこう殺しましたから、と笑顔で伝える俺。ミレーヌ様もアンジェリカさんもドン引きしている。

 マルティーナは、実際に血塗れの俺やエルンストを見てるからね。しかも平然としてたからこっちがドン引きしたよ。

 学園入学までの間にエルンストも鎧と白兵戦も経験済み。制圧は殺しにも捕らえるのにも気を使うからね。

 頂いた勲章は伊達じゃないんで。それらは含まれてはいないけど。

 

 「リック君や子爵からは王宮も報告は受けてるけど、それらの空賊はホルファート側での活動記録が無かったから、公式に戦果や手柄として認められなかったのよね……」

 

 「慌てて逃げてきたのか、大して財宝とかは無かったですからね。献上も出来ませんでしたし、そもそも認められなかったので、王国本土寄りの近隣諸侯に鹵獲した飛行船やらは売りましたよ。捕らえた空賊もヘルツォークの鉱山や他に必要な所に売りました」

 

 けっこうな金にもなったし、改めて繋がりが深まった貴族家もあるから、王国に認められなくてもいいけど。

 はは、死んでも構わない労働力とか美味しすぎる。ヘルツォークでも有難いからなぁ。

 別件とはいえ、ヘルツォーク子爵家も五位上になったし。

 やっぱり空賊は、ホルファート王国で懸賞が懸けられた奴等じゃないと、手柄にならないんだなと理解したな。

 まぁ、王国に安く買い叩かれるよりは、近隣諸侯に直接売れたから良かったとも言える。型遅れや戦いで被弾させてるからかなり割安にしたけど。

 寧ろ王国もこんなのを献上されても迷惑かも。

 うちも今以上になると維持が大変だし、ナーダ男爵やバロン男爵も同様だった。

 あそこには、フライタールから鹵獲したラーシェル製の最新型を渡してあるから仕方がない。

 

 「はぁ、リック君の事ももっと考えないといけないわね。あ、これ、美味しいけど少し甘さがきついわ。これからリオン君にお茶を淹れさせるから、このぐらいにしておくわ」

 

 そう言って半分より少し減ったタピオカドリンクを渡してきた。

 ミレーヌ様から、リックという愛称で呼ばれる事が、何よりのご褒美です。

 

 「そうですか、では捨てるのも勿体無いので有り難く」

 

 俺は残りを頂いた。……ぶほっ! タピオカをカップに戻しちゃったじゃないか!

 ミレーヌ様が真っ赤になり、アンジェリカさんは驚愕している。我が妹様が脇腹を捩り込むようにつねっていた。これのせいか!?

 

 「何だ、泣くほど飲みたかったのか? 一口は残ってるから、ほら!」

 

 「ふぇ!? い、頂きます」

 

 さっと咥えて、ふにゃっと表情が緩む我が妹様。甘いからね。

 ミレーヌ様の手の甲へキスをし、間接キスをお互いに交わした。俺、大勝利! お外走ってこようかな。

 

 「はぁ、まったく…… 王妃様行きましょう」

 

 「え、ええ、そうね。バルトファルト男爵の所に行きましょうか」

 

 我が妹様は甘さで蕩けたのだろう。タピオカ茶って甘いからね。仕方ないね。

 ふにゃるマルティーナの肩を支えながらミレーヌ様達の後をついていった。

 

 

 

 

 「お茶が温いのよ! 淹れ直しなさい!」

 

 パリンッと辺りに陶器製品が割れる音が響き渡る。

 リオンはカップごと紅茶を投げつけられたのだろう。紅茶まみれになり、服も随分とボロボロになっており、他に何かされたのかが一目瞭然だった。

 

 「え、え?」

 

 あまりの惨状に王妃であるミレーヌは言葉を失っている。

 テーブルの上はお茶菓子や紅茶が散乱され、床は随分と汚されている。

 

 「これは……」

 

 アンジェリカやマルティーナも絶句してしまった。

 

 「申し訳ございません。すぐに淹れ直して参ります」

 

 リオンの手当てをしようとしたオリヴィアを制して、リオンは女子生徒に対して謝罪する。

 

 「ティナ、あの女生徒は?」

 

 「確かオフリー伯爵家の娘かと」

 

 「あぁ、金で貴族の地位を乗っ取った家か。随分派手だな」

 

 マルティーナに耳打ちをし、返ってきた回答でエーリッヒは相手の素性を思い出した。

 貴族の地位を笠に着て好き勝手やっている女子だ。専属使用人も3人いる。取り巻きの女子は今は1人みたいだが、同じように派手に遊び歩いてるのを見かけたことは何度もあった。

 商人出身なので金回りや儲ける才能はあるのだろう。一番女子グループで力のある女生徒だ。

 ただし、金の力をひけらかすのは、汚い成り上がりをした反動だと男子グループにも言われている。

 ホルファート王国は、冒険者か武勲に誉れある者が貴族となる。金を積んで貴族になったものなど、本来なら唾棄すべき相手だ。

 

 (金も立派な力の一つだが、品が無さすぎる。商人こそもっと下手に出るものだが…… 舐められないためか、それとも娘に甘かったか)

 

 「やっぱりいいわ。どうせたいした茶葉でもないのだし、このまま帰らせてもらうわ。こんな不味いお茶と菓子でお金取るつもり!? あんたが払うべきでしょ」

 

 カップの欠片を拾おうとしたリオンの頭を足で踏みつける。まるで土下座のような格好のリオンを専属使用人も取り巻きの女子も笑っていた。

 

 「お代は支払って頂きます」

 

 「はぁ、あんた、私達からどんだけ金を巻き上げたのよ! 借金返せなくて専属使用人を売った子もいるのよ! ふざけんじゃないわよっ!!」

 

 借金はそもそもがリオンの責任ではなく、散財したあげく、専属使用人を売る羽目となった女生徒の責任だ。

 ミレーヌはあまりの酷い光景に言葉もなく、身動きが取れない。

 ダニエルやレイモンドも女子に強く出る事も出来ずにただ口を閉じて耐えていた。

 酷さが際立つが、ここには王妃であるミレーヌもいるため、エーリッヒも静かに様子を伺う。

 怒りを抑えられなかったアンジェリカが前に出て、オフリー伯爵令嬢を突き飛ばした。

 

 「ちょ、何をするのよ!?」

 

 オフリー伯爵令嬢はよろめき、専属使用人に支えられてアンジェリカを睨み付ける。リオンが顔を上げ、止めに入る前にアンジェリカの口が動いた。

 

 「態度の悪い客人だ。お帰り願おうか」

 

 アンジェリカの登場で取り巻きの女子は怯むが、オフリー伯爵令嬢は怯えた様子も見せずに笑みを浮かべだした。

 

 「アハハ、誰かと思えば、王太子に婚約破棄されたアンジェリカじゃない! 何その格好、メイド? あっはぁ、落ちるとこまで落ちたんじゃない!」

 

 (ちっ、伯爵家の娘、それも敵対派閥か)

 

 アンジェリカは、敵対派閥の貴族令嬢だと気付き、一瞬躊躇してしまった。

 オフリー伯爵令嬢は、公爵家を恐れることもなく高らかに笑い上げる。

 

 (凄いな…… 公爵家って知ったら、俺は喜んで道を譲るのに。間違っても挑発なんかできないな)

 

 エーリッヒは顔には出さないが、あまりのオフリー伯爵令嬢の豪気さに内心で感心してしまった。

 

 「もう止めて下さい! リオンさんにも酷い事をして、アンジェにまで!! もう帰って」

 

 涙を溢しそうになりながら、オリヴィアがアンジェリカを庇う。

 

 「図に乗るんじゃないわよ! 平民風情がっ!!」

 

 ひっ、と相手の剣幕にオリヴィアが一歩後ずさる。

 

 「平民のお前がこの私に意見するというの? 調子に乗って! あんた上級クラスにいるからって、自分が貴族にでもなったつもり!! アンジェリカのペット風情が、同じ地位に立った気になってんじやないわよっ!!」

 

 「ぺ、ペット!?」

 

 「そこまでにしろ。これ以上は本気で許さんぞ」

 

 アンジェリカの忠告にも黙する事なく、しかも過去の話を持ち出してさらに煽りたてた。

 

 「アハハハハ、取り巻きがいなくなったからって平民にすり寄ったの? 公爵令嬢がずいぶん無様じゃないかしらぁ。あんたパーティーで言ってたじゃない。平民なんて数字だって! ギャハハハハハ!!」

 

 オリヴィアがその言葉にビクリと反応して、アンジェリカへゆっくりと顔を上げた。

 

 「アンジェが…… そんな」

 

 「ち、違う。私は……」

 

 2人が慌てふためく姿を面白がり、オフリー伯爵令嬢はさらに煽る。

 

 「平民なんかねぇ、人間じゃないの! アハハハハ、あんた立場がわからないの? 屑騎士と公爵令嬢がいるから皆黙っているだけ!! あんたなん……」

 

 「おい、そのどぶ臭い口を閉じろ」

 

 リオンが底冷えするように声を出す。

 しかし、オフリー伯爵令嬢は、怯む事なくリオンを睨み付けた。

 

 「調子に乗ってんじゃないわよっ!! あんた、伯爵家を敵に回すってどういう意味か、わかってんのっ!!」

 

 オフリー伯爵家は専属使用人に目配せをすると、専属使用人は意を汲むのが早く、リオンの頭を踏みつける。

 

 「ふん、偉そうに。お嬢様、こいつにはきつい教育が必要みたいですね」

 

 専属使用人達が、リオンを見下してニヤニヤと厭らしい笑みを顔に張り付けていた。

 

 「いい加減にしなさい! これ以上は見ていられません」

 

 異様な光景に固まっていたミレーヌが、我慢の限界を迎えて声を張り上げた。

 

 

 

 

 さすがにミレーヌ様も止めに入ったか。

 正直リオンの雰囲気がヤバいと感じたので、動こうかとしていたが、ミレーヌ様が声をあげた事で注目もミレーヌ様に集まったな。

 しかし、あのオフリー嬢はミレーヌ様に向ける目がおかしい。こいつ伯爵令嬢の立場で、ミレーヌ様が誰かわかっていないのだろうか。

 

 「何よ、このおばさんは?」

 

 「お、おばっ!?」

 

 は、はぁぁぁああああ!? この(あま)今なんつった!?

 こいつ殺すっ!!

 俺が動きだそうとしたらミレーヌ様の手で制される。

 どいて! そいつ殺せない!!

 

 「い、今の発言は聞かなかった事にします。貴女達、すぐに支払いを済ませて出て行きなさい。それでも学園の生徒ですか。いえ、貴族として恥ずかしくないのですか!」

 

 言って! もっと言って! もうそいつの首をプレゼントしますっ!

 ミレーヌ様の言葉が響くが、オフリー伯爵令嬢とは関係のない喫茶店内にいた女子達の中でさえ、鼻で笑う者がいた。

 こ、こいつら、ミレーヌ様が偉すぎて顔がわからない奴等が多すぎるのか。

 

 「はぁ、何調子に乗ってんのよ(ばばあ)! 私はオフリー伯爵の娘よ! あぁ、そんな勲章持ちの田舎屑騎士を愛人にしてイキッてんのね。アハハハ! そんな顔だけの騎士なんかで満足してるなんて嫌ねぇ。しかもそいつ過疎化したどこにも相手してもらえないヘルツォークの世間知らずじゃない! しかも誰の子ともしれない薄汚い男っ!! フハハハハハ! 女子に相手にされないからって、おばさんの相手? あんたにはお似合……」

 

 言葉が急に遮られ、物凄い音がしたかと思うと、オフリー伯爵令嬢が顔面を掴まれた瞬間、力任せに床に叩きつけられていた。




ミレーヌ様をペロペロした記念に書いてみました。
学園祭初日前の夜です。

「さて、あのヘロイーゼという女子について話してもらいます」

 リビングのローテーブル越しにマルティーナと俺は向かい合う。

 「いや、自業自得とはいえ、イーゼちゃんは可哀想でさ。友達の件は僕の責任でもあるし……」

 「イーゼちゃん!? 愛称呼び! 彼女はお兄様を何と呼んでるんですか?」

 えぇ、そこ!? 

 「そうだね。リックさんと呼ばれるようになったよ」

 頼り甲斐があるからだそうだ。さん付けで呼ばれるのって、けっこう好きなんだよなぁ。

 「ちっ、お兄様は頼られるのがけっこう好きですからね。何とあざとい」

 だが、そのあざとさを可愛いと俺は言える。例え女子は嫌悪感を抱いても俺は好きだ!

 「友達がいなくなって、長期休暇も寂しかったんじゃないかな? 女の子1人じゃダンジョンも行けないしね」

 そもそも1年生がこの時期にダンジョンに精を出すほうがおかしい。学校も止めろよ。危険だろ。

 「お兄様は婦女子の寂しい気持ちに漬け込んだという事ですか!?」

 心の隙間を埋める系男子、それが俺。愛人枠だしね。仕方ないね。女子専門の喪○福造に俺はなる!
 不幸にしそうだ。

 「違うよティナ。お詫びをしただけだよ。少し人聞きが悪いよ」

 「じゃ、じゃあ、ご休憩をするような気はないと?」

 ふむ、ご休憩!? 
 癒されたから、ある意味気持ち的には休憩時間だったな。

 「ティナ、具体的にご休憩とは?」

 「そ、それは!? そのぅ……」

 さあ、語って貰おうじゃないか!

 「あ、あの男女が2人で…… その、あのぅ……」

 左手の人差し指と親指で輪っかを作って、そこに右手の人差し指をスポスポと抜き差しするんじゃありません! 何、人差し指同士をチョンチョンするような仕草でやるんだ。可愛いじゃないか!

 まぁしかしあれだ。ご休憩といいながら激しく動いて疲れるやつだ。内腿の筋肉とかが。
 しかし、この世界の俺は鍛えている。インナーマッスルも完璧!
 女子との一回戦くらいまったくの余裕、疲れるわけもない!!
 まぁでもあれは休憩ではないよな。けっこうな運動、いわゆるスポーツだ。だからこそ力強くティナに宣言できる。

 「休憩なんかする気はないよ」

 あれは断じて休憩ではないだろう。そう、ベッドで運動はしたいけどね。休憩じゃない。
 バカだなぁというニュアンスの優しい笑みでも添えておこう。

 「ほ、ほんとですか!?」

 「あぁ、ティナは僕が寂しい女の子を放置するような、そんな冷たい男のほうがいいのかい?」

 「いえ、そんな…… や、優しいお兄様がわたくしは大好きです」

 良かった。機嫌が直ったみたいだ。

 「喉が渇いたね。休憩がてらワインでも一緒に飲もうか」

 「きゅ、休憩ですか!?」

 そうだね、と言いグラスを2つとワインを用意する。ヘルツォーク産の100ディアの普段飲みのやつだ。
 ティナが座るソファーに移動して横に座る。

 「乾杯だ」

 「乾杯…… ふぁ、お兄様と休憩……」

 ティナをからかって飲む酒は旨いな。それに、にへらと顔を緩ませて、リラックスしながら身体を預けてくる姿には、ついこちらもくらりときてしまう。

 「この学園で、僕達の関係もどう変わっていくんだろうね」

 「んふふ、え、どうしましたか?」

 「いや、何も……」

 グラスを傾ける。腕を組んで身体を全て預けながら、勢い良くグラスを空けるティナは上機嫌だ。

 「さぁ、酔いが回る前にシャワー浴びてきなさい」

 「は、はい…… いよいよご休憩が……」

 何かぶつぶつ言ってるな。

 結局ティナは、俺がシャワーから出る頃にはぐっすりと寝ていた。俺も起こさないように静かにベッドに入った。

 「おやすみティナ」

 「にゅふふふふ」

 楽しそうだな、おい!

とまあ学園祭前日の夜を書いてみました。
余裕ぶってますが、エーリッヒ君は精神力を総動員して誤魔化したのと、ティナの感触に耐えてましたとさ。

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