乙女ゲー世界はモブの中のモブにこそ、非常に厳しい世界です   作:N2

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学園入学まで相当に端折らせ駆け足で進行させてます。


第3話 空賊激突

 「全砲門発射!! ケチるなよ」

 

 ローベルト艦長が敵に戦艦の横っ腹を晒しながら全砲門に火を噴かせている。

 飛行船は基本的に側面に砲門を装備させており、前面からは砲撃できない。それはラーシェル神聖王国最新式の巡洋艦といえども同じである。

 

 「敵艦が前進している今がチャンスだ!! とにかく撃ち続けろっ」

 

 戦艦級が火砲を惜しみなく放つ中、ヨハン率いる鎧部隊は、火砲の上下から艦艇を挟み込むように迎撃する。

 

 「いいか、護衛部隊に向かわせるなよここで引き付けて叩くんだ。5,7は俺と共に上から強襲。8,9は下から取り付いて穴を空けてやれ。発射態勢を整えさせるなよ」

 

 3個小隊が艦橋からブリッジを狙いに上昇し、2個小隊が下降しつつ接近するが、既に発進していた空賊の鎧がそれぞれ迎撃のためぶつかっていく。

 

 「くそっ、最新式だぞこいつら!? だが操縦技術はこちらが上だぞ!! 接近して抑え込め」

 

 敵鎧部隊も20機がそれぞれ飛行船の上下で戦闘を開始する。

 ヘルツォーク子爵両軍は小隊単位での飛行運動は流石に統制が取れており、動きで敵機を翻弄しているが、空賊は技術の差を性能差で何とか食らいついている。

 

 ヨハンの小隊は空賊の鎧の防衛ラインを抜けたが、厚い弾幕で一度後退を余儀なくされる。すると後方の2隻が離れて航行しだし商船を守る護衛部隊の方に動き出すが、鎧と弾幕で近づくことが出来ない。

 

 「くそがっ! この密度、何が軽巡だ、重巡クラスじゃねーか!!」

 

 数世代前の軍艦で訓練していたため、知識としては最新式の兵器知識は知ってはいてもどうにも戦争時代の経験に引っ張られてしまっている。

 空賊の最新鋭式鎧の硬さも非常に鬱陶しいことヨハンにとってはこの上ない。

 

 「統制射撃後、接近戦を挑め!! 何としても鎧は落とす」

 

 

 

 

 「2隻中破しました!!」

 

 「あの戦艦の砲手の練度、凄まじいな…… だが予定通り2隻商船側へ移動できる。ヘルツォーク子爵領軍の鎧乗りは手強いが、行けるな」

 

 シークパンサー側も2隻中破しているがまだ浮いており敵鎧に向かって弾幕を張っている姿に首領はほくそ笑む。

 

 「軽巡洋艦の装備を経験から判断したな。しかし鎧同士のドッグファイトになると最新式のスピード差は生かせんな」

 

 接近戦になれば練度が高いヘルツォーク子爵領軍の搭乗者に軍配が上がっている。ただしシークパンサーは、脱出さえ可能であれば、船が沈もうと痛手はない。今回の兵装はラーシェル神聖王国から供出されているからであった。

 通常であれば撤退も視野に入るが、先の理由により軽巡洋艦クラスを3隻捨て駒にするような作戦が取れると言えよう。 

 

 「航行可能中にその2隻は退かせても構わん。全速前進、目標は商船護衛部隊だ」

 

 2隻がスピードを上げて流石に最新鋭の軽巡洋艦の動きを止める戦力がこの場には無いヘルツォーク子爵領軍は、目の前の空賊で手一杯になり通信で状況報告を管制に行うしかなかった。

 

 

 

 

 「やっぱり2隻はこちらに来たか…… 商船の退避は?」

 

 「まだまだ安全圏には…… 若にも商船と一緒……」

 

 「却下。何度も言うな」

 

 護衛用軽巡洋艦艦長からは呻き声が聞こえるが、俺からすると敵の戦力を考慮すれば仕方ないと思う。

 寧ろ我が方の戦艦はよくやっているとすら思う。

 

 「修理ドックと東側から我が方の軽巡が出たな」

 

 「はい、上手くすれば空賊の3隻の側面を突けるかと」

 

 「ではこちらは、空賊が退くまで遅滞防御に努めれば勝ちだ」

 

 今の状況は確かに危険だが、前方の味方へ増援が間に合いそうなのでそう悪いものではないだろう。俺自身も戦闘を見てビビったが、多少は戦場の空気のようなものにも慣れたし、覚悟も決まった。

 

 「いくぞ。弾幕だ。撃って撃ちまくって向こうの気を逸らさせろ。こちらの鎧は向かってきた相手だけを丁寧に相手にしていけばいい」

 

 応戦距離か…… 空賊の鎧は10機、こちらは11機数の上では互角だが、そういえば偵察艇の報告数と一致だな。まさかこの段階で出し惜しみではあるまいし、称賛に値するな。

 

 「迎撃だ。前に出すぎるなよ。統制射撃撃てぇぇぇえええ」

 

 くそっ姿勢がふらつく。

 

 「ヒャハハハッ、下手糞が目立つように赤く塗りやがって」

 

 空賊の射撃に狙われるが、スラスターが鋭敏すぎて一定に動くのが難しいが、不規則に動く俺の機体に当てることが出来ない。

 

 「ちっ、ピエロに見てえにクルクル回りやがって」

 

 「このっ、今オート照準にしたら動きが止まる…… 糞がっ!!」

 

 各部スラスターの動きで六芒星のようなヘキサグラムをなぞるように動いているが、コクピットは上下左右回っているようにしか思えない。

 マニュアル照準器を見ながら敵機が入ったと思ったらとにかく撃ちまくるしかない。

 

 「うおおおおおおお」

 

 「な、何っ!? 狙ってやってやがるのか!? ぐわぁぁあああ」

 

 「はあ、はあ…… まぐれだよ馬鹿野郎」

 

 偶然にも曲撃ちした魔力を込めた弾丸が空賊の鎧の左肩と右足、頭部に直撃して落ちていくのを見ながら次を探す。

 

 「しかし、今のは使えるな。敵機の弾はまぐれ当たりしかしないだろうし、今の様に直線で来てくれれば集弾出来るか?」

 

 やっと機体制御に慣れてきたが、向こうの援軍到着と商船退避にはまだ時間が欲しいな。

 

 「おらっ」

 

 近くにいた空賊の鎧の射撃に掠りながらも体当たりをかまして、ブレードでコクピットに突き刺してけり落とす事が出来た。

 

 「はっはっ、こいつら接近戦は弱いぞっ。ブレードに血、血が…… う、うおぇ、うおわ」

 

 ブレードの血が目に入った途端気持ち悪くなってしまい吐いてしまった。

 

 「くそ、よそ見してる場合じゃない」

 

 「若の言葉を聞いたなお前ら!! 接近戦で鎧を落とせっ!! 機体性能差が無くせるぞ」

 

 俺の言葉が通信に乗ってたのか。正直辛いし気持ち悪いし酸っぱいしで最悪だが、こんなところで殺されるのは勘弁願いたい。まだ実弾があったな。

 

 「そこの2機ついてこい!! 正面が空いた、敵飛行船に攻撃をしかけるぞ。いいか止まるなよ、全速力で上空から実弾攻撃だ」

 

 返事を待たずに俺は飛び出したが後ろを見るとしっかりと付いてきている。

 

 飛行船の上空は迎撃機構がないのがほとんどであるし、だからこそ頭を押さえられないように鎧が展開し高度差をつけて航行して迎撃態勢を飛行船同士で整えるが、2隻だけが仇になったな。丁度高い方が丸見えだ。

 

 「出し惜しみはなし。くらえ」

 

 出撃前に換装された小型魔力多弾頭を全力航行しながら打ち尽くしつつ確認すると、特に細かい狙いを付けなかったが、艦橋からブリッジへと着弾し見事に中破させてやった。

 随伴した2機は突撃してきた鎧に対応するため足が止まったか。

 

 「後ろからすまないが」

 

 味方機と交戦していた一機を後ろからブレードで突き刺し蹴り落とし、忘れないうちにヘキサグラム撃ちでもう一機を被弾させると味方機がコクピットにブレードが突き刺さった所で、残った1隻が退避行動に入るのが見えた。

 

 「興奮してて気づかなかったが、うちの軽巡は2隻とも小破してるな…… 中破した飛行船の消火作業を急げっ、制圧し残った空賊は捕らえろ。ローベルト艦長の状況は?」

 

 「戦艦は被弾していますが問題ないとのことです。味方の援軍が見えたことで空賊の後方の1隻も退避行動に入ったそうです。向こうの鎧は11機撃墜しこちらは6機が落とされました」

 

 こちら側は軽巡2隻とも動けずに6機撃破の4機被撃墜か。

 

 「軽巡は消火作業をしつつ港に後退。墜落した味方機と敵機を回収しろ。僕はローベルト艦長の旗艦に向かう」

 

 増援の軽巡2隻と戦艦1隻に残った鎧は14機か。軽巡2隻に何機鎧を搭載しているかはまだ分からないが、追撃だな。気分は最悪、コクピット内は酸っぱい匂いで充満しているが、ボーナスステージを見逃すわけにはいかないだろう。

 

 「追撃戦に移る。回収部隊を残し捉えた賊から根城の座標を割り出せ。こちらが根こそぎ奪ってやる」

 

 

 

 

 「なんだなんだあの赤いピエロみたいな曲芸師は!! 素人臭いと思ったらあの動きだとっ!? 撤退だ」

 

 抜かれるようじゃ話にならんと通信員に怒鳴りつけながら、シークパンサーの首領は指示を出さざるを得なかった。

 港付近の様子は監視していたが増援の2隻が予定よりも大分早かったため、港湾攻撃側の粘りが働かず、さらにはよくわからない素人臭い動きをした鎧に瞬く間に2機落とされて、飛行船にまで強襲されたことにより撤退以外の選択肢が無くなってしまっていた。 

 

 「追撃されるか微妙な戦果だな。軽巡小破2隻に戦艦小破1隻、鎧撃墜10機…… ロートル共の糞が、戦慣れしすぎだろうが」

 

 ヘルツォーク子爵領軍も港の防衛の初手はバタついていたが、飛び立ってしまえば経験で対処出来たのは幸運であったと言える。兵士たちもベテラン揃いであり、今後を考えると年齢層が高く不味いと言えるが、今この瞬間においては助かったと言えよう。

 

 「こちらは最新式で向こうの足では追い付けん。一気にアホ辺境伯領まで退くぞ。国境を越えたらアジトに連絡して逃げさせろ。財宝は急いで積み込ませろよ」

 

 「間に合いますかね」

 

 「あいつらの足は遅いからな。ただしあのアホ辺境伯に連絡しても間に合わんだろうし腑抜けだから即応出来ん。奴らにはアジトの浮島ぐらいはくれてやる。くそっ、今は退くがこのままじゃすまさん」

 

 結果としてシークパンサーは逃げ切ることが出来たが、アジトの浮島と積載が間に合わなかった鎧2機と小型艇を3隻奪われるのであった。


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