乙女ゲー世界はモブの中のモブにこそ、非常に厳しい世界です   作:N2

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パルパル様、感想にて誤字報告ありがとうございました。
狐火over様、誤字報告ありがとうございます。

女性徒→女生徒…… 言われるまで違和感がありませんでした(笑) 実は言われて見返しても、うん、この学園女子だからいいかなと思ってしまいました。
指摘された時は吹き出してしまいました。タピオカァ!

何か色々とすいません。

オフリー嬢の人気に嫉妬しそう(笑)
皆大好きプッツンお馬鹿令嬢だぜ!

犯人は、妹様でした。


第27話 喫茶店血溜まりへようこそ

 ズダァンという大きな衝撃音から、ガツッガツッと踵で固いものを踏みつける音が鳴り響く。

 あまりの衝撃とその行動に今まで騒がしかった室内から、人の声が消え去っていた。

 そして改めて、静かにそして怒りが滲み出るのを抑える事が出来ない声色が、周囲を威圧して浸透していった。

 

 「あらあら、まさか陰口や野次などではなく、面と向かってヘルツォークを虚仮にするとは、うふふ、本当にいい度胸」

 

 マルティーナが、オフリー伯爵令嬢の顔を何回も執拗に踏みつけていた。

 

 「は!?」

 

 誰の声だろうか? 自分の声だろうか。

 あまりの素早い凶行にまたしても皆が固まってしまう。オフリー伯爵令嬢の専属使用人すら動けない。

 ていうか怖い!!

 

 「いぢ、ぢょ…… 誰にむがっで、ぎゃぶぅ」

 

 「誰に向かって? 貴女こそお分かり、誰に向かって直接侮辱したのか。金で成り上がった伯爵風情が、まさかヘルツォークを馬鹿にする? しかも堂々名乗りをあげながら、このヘルツォークに面と向かって!」

 

 マルティーナは喋る最中も踏みつけている。もう音がグシャグシャという音に変わってきてる。

 しかし、面と向かって、というのがポイントだ。

 陰口や大勢がいる所の野次なら、まだ誰かわからない。

 ぶっちゃけわかるが、言ってないと言われたり、それぐらい許せよ、度量が小さいな、となる。

 だから、悪口を言った相手に家名を言えと言われたら、こそこそと逃げ出すのだ。売る時は、相手が乗ってきたとほくそ笑みながら家名を名乗るが。

 

 ジルクのように直接言った場合、決闘だったので怪我もさせた。俺個人への攻撃でもあるし、ヘルツォーク家は、まぁ、馬鹿にはされていないとも無理矢理取れる。

 アトリーがマーモリアに報復もしたし、俺は痛めつけて良しで済んだ。

 でもオフリー伯爵の娘と自分が直接名乗って、ヘルツォーク子爵家の娘の前で、家の事自体を直接馬鹿にしたら、ヘルツォークが折れなきゃ、もう戦争だよ。

 この伯爵家のご令嬢様はわからなかったらしい。

 

 「ピぎぃ、やめ、ぎゃっ!?」

 

 「貴女達がベッドでよがりながらお漏らししてる間っ! ヘルツォークは血みどろになりながら戦争してるのよっ!! オフリー伯爵家? 舐めてるんじゃないわよ! 貴女の緩んだその穴に実弾ぶちこんであげるわ!! あぁ、安心なさい。わたくしが責任を持って旗艦に乗り込みますから。精々お金で綺麗に彩られた飛行船で迎えに来てね。ふふ、ふふふ、戦争を知らない鴨が、お金の詰まった袋を背負ってくるのね。わたくし、田舎育ちですから、鴨撃ちは大好きだわ! ふふふふふふ……」

 

 伯爵家相手に喧嘩をするわけがないと思ってたんだろうな。甘いよ、ヘルツォークが、正にお前が言ったようにどれだけ周りに相手にしてもらってなかったか。

 近隣からは、ヘルツォークが強いから、無理矢理相手にしてもらっていたんだよ。

 喧嘩? 買うに決まってるだろ。こっちは半世紀以上前から覚悟決まってる。

 

 さて、ヘルツォーク子爵家に手紙で戦争の準備を報告するか。

 ホルファート王国内の貴族と戦争するのは、先々代の頃か。先代が学園の貴族女子を貰わずに、その後先々代がさらに正妻と離婚したから、他家がふざけるなと戦争吹っ掛けてきた。

 勿論当時はこてんぱんにしたらしい。

 王国本土寄りの弱い家だったが、空賊の飛行船や鎧を格安で売ってつい最近仲直りしたな。いい事だ。

 でも気持ちはわかる。もしナーダ男爵の所が学園で貴族女子を嫁に貰わなかったら、てめぇ、と俺がダビデで出撃しそうだ。

 

 少し考え込む間に床が血の池みたいになってるなぁ。マルティーナの右足が真っ赤に染まっているし。

 ティナ、怖いよティナ。

 もうぐったりとオフリー嬢の意識もないのに、物凄くいい笑顔でお踏みになられていらっしゃる。

 ティナ、可愛いよティナ。

 

 「お、おい、いい加減に」

 

 専属使用人達も声を上げ出した。するとリオンがミレーヌ様とアンジェリカさんを交互に見て、形相を歪め出す。

 あれは、笑顔か…… 人の顔がもう保てていない。口が弓なりに耳まで裂けて、目が血走って真っ赤に充血している。

 

 「ぶっ飛べおらぁ! ふはははは、大義は我にあり!!」

 

 あらぁ、相当ストレス溜まってたんだなぁ。専属使用人の一人が吹っ飛んでいった。

 

 「な、何してんだ! 専属使用人に手を出したら」

 

 叫んだのはダニエルか。

 

 「いいんだよお前ら! 喜べ! 日頃の恨みを晴らせ! 楽しい楽しいパーティーの始まりだっ!!」

 

 リオンがウェイ系を超えて、ヒャッハー系になってしまった。

 リオンはミレーヌ様の顔を叙勲式で覚えていたか。

 アンジェリカさんの立ち位置とかで確信したんだろう。大義名分を得たと喜ぶよな。

 普段俺達男子が、専属使用人に手を出さないのは、女子に嫌われたくないため。ただそれだけだ。女子のネットワークで、専属使用人に暴行したなどと流されたら結婚は終わり。貴族社会から爪弾きにされる。

 ヘルツォークみたいに頭おかしいレベルで気合い入ってないと無理。

 もちろん俺も無理。先代と先々代は頭おかしい。

 

 「くたばれっ! おらぁ」

 

 もう1人を両手を組みハンマーのように振り下ろし、床に叩きつけている。さらにリオンを取り押さえようと最後の1人がリオンに覆い被さるが、背負い投げで床に叩きつけた。

 専属使用人も女子には強く出れないのか、マルティーナへは向かわなかったな。一応対処出来るように身構えてはいたが、意味はなかったな。

 うん、専属使用人もあれは怖いんだろうね。

 

 「ねえ、誰に向かって、の次を喋って。続きを聞きたいの。ヘルツォークに喧嘩売ったじゃない。どんなことを言うのか興味あるの。ねぇ」

 

 オフリー伯爵令嬢の頭を掴んで何度も床に叩きつけている。あれ、生きてるよね?

 歯がめっちゃ床に散らばってる!? え、あれって治癒魔法で治らないんじゃね!?

 ベッドルームに縛り付けて、木槌で足首をへし折る人ぐらい恐ろしい!!

 あの歯をミレーヌ様に献上したほうが、いいのだろうか?

 

 「控えぃ、控えぃ、控えろ下郎共! このお方をどなたと心得る! あっ、ホルファート王国王妃、ミレーヌ様であらせられるぞ!! 頭が高い、ひれ伏しやがれぇ」

 

 いや、地面に頭をつけてないのは、もう取り巻きの女子1人だけだけどね。いや、他の女生徒もいるが目を逸らしているな。

 

 リオンが高笑いで見下ろしているが、取り巻きの女子以外グロッキーだよ。

 ミレーヌ様も戸惑っている。可愛い。

 

 「リオン、お前という奴は」

 

 アンジェリカさんは、額に手をかざして頭痛を堪えるようにしている。もう御忍びは台無しだな。

 

 「お前ら覚悟しろよ! 王妃様に手を出した報いを受けて貰う。伯爵家の娘といえど、ただ…… うっ、あれ、う~ん、まぁ覚悟しとけっ!」

 

 王妃様の威光を笠に着て、専属使用人をぶちのめしてリオンは高笑いしているが、オフリー伯爵令嬢を見た瞬間にビクッとしていた。わかるよ、怖いもんね。

 

 「リ、リオン君待って! 御忍びなの。こんな所で騒ぎは起こせないの! だから落ち着いて。いい子だから、ね?」

 

 しかし、もう十分騒ぎになるな。ヘルツォークとオフリーで。ミレーヌ様、御忍びどころじゃないです。流血です。事件です。現場から報告されちゃいます。

 

 「ティナ、もうそろそろいいだろう?」

 

 瞳孔が開ききった目で振り返り、ゴトリと床にオフリー嬢の頭を落とすマルティーナ。下手な事を言ったらこっちが殺されそうだ。

 

 「エーリッヒ様、わたくし、あいつに砲弾ぶちこみたいの」

 

 胸に飛び込んでぐすぐすと甘えながら、泣いて頼む内容が修羅過ぎる!

 

 「大丈夫だよ。戦争の準備をしようね」

 

 「ホ、ホントですか! エーリッヒ様大好き!!」

 

 きゃ、と喜ぶマルティーナ。あ、略綬に血をつけないように。いやぁはっはっは、可愛いなぁ。はぁ……

 正直俺個人としては、あそこまで言われると寧ろ感心してしまう。え、そこまで言うの? 凄いわと。俺の悪い癖かも。

 

 「ふはははは、お任せ下さい王妃様、こいつらを族滅、根切り、何でも実行致します! さぁご命令を! 王妃様の敵は、全てこのリオン・フォウ・バルトファルトが滅殺しましょう!」

 

 リオンの目は本気だな。

 他の卓にも女生徒がいるが、リオンに嫌がらせでもしに来たのだろうか。今は俯いて震えている。

 

 「駄目って言ってるでしょう!」

 

 びぇぇぇえ、と泣き出しそうにミレーヌ様はなっているな。可愛いが泣かすなよリオン。さすがに怒るぞ!

 でもなぁ、もううちは喧嘩しなきゃ収まらないんだよなぁ。後でこっそりミレーヌ様に相談するか。

 

 ダニエルやレイモンド達は笑顔で専属使用人達を縛り出した。

 

 「王妃様に手を出そうとしたのはいけないよな」

 

 「いけないね。これはリオンの言う通りだよ。大義は我にあり、だよ」

 

 リオンはボロボロにされ、床は汚され割れた陶器類の残骸。そして血溜まり…… これはティナのせいだった。

 確かミレーヌ様は、リオンにお茶を淹れさせてお茶に文句を言うとか言ってたけど、既に100倍ぐらい酷い目にリオンは合っているな。

 

 「アロガンツでお前らの実家を蹂躙してやるよっ!」

 

 「お願いだから止めてぇ」

 

 リオンが絶好調だ。そのリオンに縋り付くミレーヌ様。なんかイチャイチャしてるけど、あまりに酷い目にあった事はわかるから、羨ましいけど大目に見よう。

 そもそもミレーヌ様は、あの血溜まりに沈んだオフリー伯爵令嬢はいいのだろうか? 実はけっこう頭に来てるから無視してるのかな。

 オリヴィアさんは、この状況でも俯いて泣きそうになっている。アンジェリカさんもオフリー嬢にあんな事を言われては、かける言葉が見つからないみたいだ。

 

 「エーリッヒ、私は人を呼びに行ってくる。これでは収拾がつかん」

 

 「では、治療が出来る人員もお願いします」

 

 アンジェリカさんは頷いて喫茶店から出て行った。

 

 「リックさん! お茶を頂きに来ました! って、うぇぇええ!! 何ですかこれはっ!?」

 

 凄い時に来たねヘロイーゼちゃんは!?

 

 「ん!? もしかして」

 

 ムクリと顔を上げたマルティーナを抱き締める。オフリー嬢のついでとばかりに血祭りにしそうな目をしてる。

 

 「ぁん、エーリッヒ様!?」

 

 「ティナはもうちょっと落ち着こうか」

 

 はひ、と言って胸に顔を埋めてくる。

 

 「あ、イーゼちゃんは取り敢えず、無事なそこのソファーに座って。床、気をつけて」

 

 「は、はぃ。ぴゃっ、し、死んでる!?」

 

 大丈夫生きてるよ。胸が呼吸で上下してるから。

 おっかなびっくりとした動作で、ソファーに座るヘロイーゼちゃんに少しホッコリとしてしまった。

 早く来て、アンジェリカさん! 

 

 「リ、リック君、リオン君が壊れて止まらないの!」

 

 「もう少しでアンジェリカさんが人を呼んできますよ。ミレーヌ様も落ち着いて」

 

 背中を掴んで縋るミレーヌ様、腕の中にはマルティーナに背中にはミレーヌ様。ヤバい、俺凄い幸せかも。

 

 「ギャハハハハハ、お前ら全員覚悟しとけぇ! フワハハハハハ」

 

 そろそろ、ッェーイ!とか言いそうだ。

 オリヴィアさんは俯いて泣きそうなのにリオンは気付いてないし、俺はマルティーナとミレーヌ様の感触で気持ちいい。

 しかし、ミレーヌ様の愛人になれるのであれば、志願してでもなりたいと俺は言える。

 

 あぁ、ヘロイーゼちゃんが無事なケーキスタンドから、お茶菓子を取ってつまみ食い始めた。

 この子やっぱりブッ飛んでるな。この状況に慣れたか飽きてるよ。あ、手を振ってきた。




ッェッェーイ!!
オラオラ、お前はウキャキャキャキャキャキャキャ

エーリッヒは出遅れた!

あの人は次回登場ですかね。ある意味、偉大な原作中最強のキャラが!!

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