乙女ゲー世界はモブの中のモブにこそ、非常に厳しい世界です   作:N2

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霧空様、Agateram replica様、見物人様、狐火over様、誤字報告ありがとうございます。


第28話 愛?の告白

 「ミスタリオン! いけません。茶の道を進む者が、ご婦人に迷惑をかけるなどあってはならないことですよ! それは紳士とは言えません。それにミスタリック!」

 

 「は、はい、えっ!? 僕ですか?」

 

 リオンが、すみません師匠…… と泣いているのを聞きながら、はてさて、手紙か直接港に停泊している高速型の駆逐艦をヘルツォーク領に伝令として動かそうか? と考えてると、リオンが師匠と仰ぐマナー講師のナイスミドルから俺も呼ばれた。

 この中古の駆逐艦、重たい砲も取り払った速度特化。自分専用に長期休暇で買ったやつだが、俺のダンジョンで稼ぐ目的は、港の停泊料と維持費だな。

 お茶会費用は、その余りで適当にこなす俺は、学園男子として終わってるかもしれない。

 

 「あなたほどの騎士がいて、女性を律するのも紳士の努めですよ」

 

 確かに唖然としていたし、ミレーヌ様に危害が加えられなければいいや。やっちゃえマルティーナと思ってたことは否定出来ない。

 やっちゃえバーサーカー(マルティーナ)

 

 「はい、心得ておきます」

 

 あれを律する事が出来れば、婚活はしていないとも言える気がする。

 リオンが、師匠に謝れと目力が半端ないから、反省しよう。

 

 「辛かったでしょう。苦しかったでしょう。しかし、そこで諦めてはいけません。その先にこそ、真の紳士としての道…… そして、茶の道が続いているのです」

 

 「は、はい、師匠!」

 

 紳士の道は厳しいというわけだ。リオンが感涙している。

 しかし、このお茶紳士先生は、得も言われぬ存在感がある。紳士としての泰然自若を極めた方だ。正直、密かに尊敬している。大っぴらにするとリオンに茶の道に引きずり込まれそうなので、あくまで密かにだ。

 お茶紳士先生は、その俺の尊敬の念に気付いているかの如く、にこりと笑みを投げ掛けてくるのには、敵わないなと痛感してしまう。

 

 客を掃かせた喫茶店で、リオンと何故かついでに俺がお茶紳士先生にお説教を受けている。解せぬ。

 紳士は、例え流血沙汰を起こした女性でも怒ってはいけないのだ。

 

 店内には、ミレーヌ様の左右にアンジェリカさんとクラリス先輩が座っている。

 アンジェリカさんがお茶紳士先生を呼びに行った時に、騒ぎを聞き付けたクラリス先輩と合流したとの事だ。

 

 「アンジェリカから簡単な説明は受けたわ」

 

 と室内に入って来たときは、オフリーの件があるので助かったと思ってしまった。実行委員などで忙しい身の上なのに申し訳ない。

 

 オフリー伯爵令嬢は治療スタッフに運び出され、スタッフが血溜まりも処理していた。申し訳ないので、後で何か包んでおこう。他の女生徒達もミレーヌ様が許しを出して退散している。

 ダニエルとレイモンドは、楽しいパーティーを行うために友人達に声をかけている。専属使用人狩りかな? いいなぁ。

 ミレーヌ様達をテーブルで挟んで、対面にリオンが一人用の椅子に腰掛け、アンジェリカさん側の右手にオリヴィアさん。クラリス先輩側の左手に俺とマルティーナがソファーに腰掛けている。マルティーナはおしぼりで手をふきふきしていた。

 

 離れたテーブルにヘロイーゼちゃんは座っている。何でいるの!? ティーポットを指でちょんちょんと指している。

 あぁ、お茶飲んでないもんね。だから来たんだもんね。凄いね。

 

 ミレーヌ様が疲れたような表情で、溜め息をついてから言葉を発した。

 

 「そちらの話は終わったようね。では、私からも話をしてよろしいかしら?」

 

 「では、私がお茶の用意をしましょう。ミスタリオン、道具をお借りしてもよろしいかな?」

 

 「もちろんです!」

 

 お茶紳士先生が、ピシッと身なりを整えて給仕を行う姿勢にリオンは喜んでいる。俺もあの方のお茶は大好きだ。

 

 「先ずは端的にマルティーナさん、オフリーとの件は認めます。双方で片を付けなさい」

 

 「ありがとうございます」

 

 マルティーナは頭を下げて礼をする。

 しかし素直に認めてくださるのか。学園祭の最初に会った時とは異なり、怜悧な目付きでマルティーナを睥睨している。

 これは為政者モードか。

 

 「よろしいのですか?」

 

 やはりアンジェリカさんも疑問には思うか。

 

 「レッドグレイブにも益があるでしょう。アンジェに対するお詫びも兼ねてね。色々とあるオフリー伯爵家です。王宮に堆積した沈殿物内で蠢くものには、投じた一石が浮かび上がらせる()()もあるかもしれませんしね」

 

 そもそも浮島同士の戦いなど、王国本土、王宮には影響が少ない。寧ろ益が大きいという事か。良くも悪くも王宮内政治におけるスパイス的な何か。

 汚い成り上がりを果たした、オフリー伯爵家が存在しているということは、それに益を見出だす者がいる。

 今の言葉で、それがミレーヌ様ではないとわかったからよかったな。それにレッドグレイブ家とは敵対派閥という事か。あのバカ殿を推していたレッドグレイブ家はミレーヌ様とも懇意だろうし。

 

 政治か…… 「前向きに検討しつつ、然るべき時には善処致します」とオウムのように言ってればいい商売ではないんだな。

 

 「では、徹底的にやって構わないですか?」

 

 「ええ、貴方は個人が貶されていましたからね。所謂、貴方の場合は、貴方そのものが家と同じです」

 

 裸一貫の爵位持ちだからな、俺の参戦も認めるか。マルティーナが笑顔だな。よしよししておこう。

 まぁそれでもメインは、ヘルツォーク子爵家対オフリー伯爵家だ。俺は助っ人枠みたいなものかな? 

 ガッチガチの武闘派ヘルツォーク子爵家に、お願いします先生! と言われるみたいな感じだ。

 何だ、カッコいいじゃないか。

 

 「ミレーヌ様、アトリーが王宮内でヘルツォークに対する支援に回るのはいかがいたしましょうか?」

 

 「構わないわクラリス。此度の件の根回しは、派閥は違えどレッドグレイブとも密に。双方旨味はあるでしょう?」

 

 「畏まりました。よかったわねリック君」

 

 後ろ楯があるって最高! 安心感が半端ないな。無様を晒したら首を晒しそうだが…… 怖いなぁ、やだなぁ。

 マルティーナも目を細め、少し溜めてから閉じる。そして小さく溜め息、あれはやりにくいと面倒臭がっているときの態度だ。

 

 まぁ、それでも後ろ楯は助かる。さて、やるとなれば、商会関連からオフリーの情報を集めて軍備を整える必要があるな。

 ヘルツォークは余程の事がない限り、常時スクランブル態勢でもある。早ければ学園祭が終わる頃には準備は整うだろう。連休にもなるしちょうどいい。

 

 「では、次に行きましょう」

 

 あれ、ミレーヌ様の雰囲気が変わった! ぷんすこ、とお可愛いお怒りモードに変身してる。

 

 「リオン君、私は怒ってます」

 

 ぷんぷんがおー、くっ、可愛い、悶死しそうだ。

 おい、妹よ、だから耳元で、年齢を考えてくださいと囁くんじゃない!? こそばゆっ!!

 ヘロイーゼちゃんは離れたテーブルで、お茶紳士先生から応対されて美味しそうにお茶を飲んでる。

 また手を振ってきた! 今回は振り返しておこう。あはははは、痛っ!? 脇をつねるな!

 

 「どうか家族だけは許してください! 俺は、俺はどうなっても構いませんから!」

 

 リオンが土下座してる!? ミレーヌ様がアワアワし出したぞ!

 

 「え、え、違うの! そういう話じゃなくて…… アンジェ助けて!」

 

 からかわれているミレーヌ様が可愛い。リオンはいい仕事をするな。クラリス先輩やアンジェリカさんは呆れているが。

 

 「王妃様、からかわれていますよ。リオンは王妃様が本気で怒っていないとわかっている顔をしています」

 

 「え?」

 

 おぉ、リオンがミレーヌ様相手にテヘペロをしている。ちなみに俺は怖くて出来ない。

 毒味は喜んでするが。何故なら毒味は必要だから!

 

 「最低ね。見損なったわ」

 

 「申し訳ありませんでした!」

 

 本気で謝罪してる。俺もちょっと怒られてみたいと思ったのは内緒だ。

 お茶紳士先生が淹れてくれたお茶で一息つくが、香りが別物のようにふくよかで富んでいる。

 俺はもちろんだが、リオンとも異次元の差だな。同じ茶葉なのにこうも変わるのか。

 これはヘロイーゼちゃんが大喜びするわけだ。

 お茶紳士先生が、王妃様に用件を伺いだした。

 

 「そうね。下手なことを言うと誰かさんが苛めるからハッキリ言います。リオン君、私は貴方に文句を言いにきました。処罰云々ではなく、個人的な話です」

 

 リオンは落ち着き払ってお茶を楽しんでる。

 ミレーヌ様に個人的な話で訪問されるとか、凄い御褒美だな。いいなぁ。

 

 「お伺いします」

 

 「よろしい。では、ユリウスの件を先に詫びます。あの子のわがままに付き合わせて申し訳ありませんでした」

 

 謝罪!? 公的にも私的にも子の失態を認めた!? この方から、どうしてあんなバカ殿が生まれてくるんだ? ホルファート王がバカ殿なのか?

 

 「どうしてこうなってしまったのか…… 母でも理解に苦しむわ。マルティーナさんの前で申し訳無いけど、子爵家の娘なら愛人でも良かったのよね…… あの子、王宮では女性に素っ気なかったから、ここまで執着するとは……」

 

 王太子だから、側室や愛人なんかダースでいても問題ないだろうしな。公爵令嬢と婚約破棄とかご乱心すぎる。

 王族なら何番目の側室でも構わないから、娘をお願いしたいという貴族家も多いだろう。

 ミレーヌ様がリオンを真っ直ぐ見ている。リオンが驚いたように見つめ返している。いいなぁ。

 ミレーヌ様の神々しさにひれ伏すがいい。

 

 「ただし、決闘内容には納得が出来ません。あの煽りには声を失いました。貴方ならもっと穏便に事を収められたのではなくて?」

 

 いや、あれはよく言ってくれたと思う。

 喝采を上げた身としてはなぁ。学園の男子もあれにはわりと好意的。リオンに対する嫌悪は賭けに負けての八つ当たりだし。

 リオンが、アンジェリカさんやオリヴィアさんをチラチラ見ている。

 オリヴィアさんはずっと俯いているし、アンジェリカさんは心ここに在らずか。

 

 「あら、あらあら、もしかしてそういうこと! 若いわねぇ」

 

 おぉ、さすがミレーヌ様、大正解です。

 リオンとアンジェリカさん、オリヴィアさんの関係を即座に見抜くとは! さすがのご慧眼。

 リオンが黙っている。ふっ、ミレーヌ様に言われたら認めざるをえまい。

 まったく羨ましい、お茶が不味くなってきたじゃないか。

 

 「リック君も一応聞いておきなさい。結果的に王宮には貴方達の敵は多いわ。ユリウスに期待していた者は多かった…… 貴方達はこの先の事をしっかり考えているの?」

 

 正直、10代で王太子に指名するなら、もっと王宮で雁字搦めにしておけ。何で実務も知らない餓鬼を王太子にするのか? 早くとも10年後にしておけとそいつらには拳と共に言ってやりたい。

 しっかりと継承争いをさせておけ。多少王宮内で王族の血を流しておけ! と考える俺は野蛮なのかね。

 ミレーヌ様が怖いので心の中に閉まっておくが。

 次からは慎重にいこうと教訓にしてもらうしかないだろう。

 文字通り、あのバカ殿の代わりなんかダース単位でいそうだし。勝手なイメージだけど。

 

 「「もちろんです」」

 

 お、ハモった。

 リオンは何を考えてるかわからん。冒険者は頭がぶっ飛んでるからね。

 俺は、バーナード大臣の後ろに隠れよう。越後屋ごっこは伊達じゃない! 早々に切り捨てられそうだ……

 

 ミレーヌ様がこうも言うって事は、王宮に仕官とかしたら、暗殺されるのだろうか? 

 えぇ、仕官考えてたんですけど…… 辺境に逃げるか。確かナーダ男爵の所は娘さんがいたはずだ。いや、嫡男がいるから駄目だ…… 

 くっ、他には、あっ、バロン男爵の所は嫡男が戦死してる! 婿入りだ、あそこには王宮も国境沿岸で手は出せない。というか放っておくだろう。

 ははは、引きこもりライフだな。悪くない。娘さんいるのかな? そうなったらエルンストにも支援してもらおう。

 

 「そう、強い子達ね。ユリウスの側に貴方達みたいな子がいれば、あの子も道を間違えなかったのかしら?」

 

 カバン持ちは得意な気がするがどうだろうか?

 マリエなんかそもそも近づけなかっただろう。あまり聞いてないし知らないが、あのバカ殿に平手打ちかましたとかなんとか。

 たぶんその日に脅して、後日それでも近づいたら実母と同じ目に合わせたかもしれない。

 まぁ、身の上は同情するから説得に注力したかな。

 

 「俺がいたところで結果は変わりませんよ」

 

 リオンは冒険者だし、カバン持ちは無理だろう。

 俺は身分が違い過ぎて何とも言えないなぁ。無難に答えておこう。

 

 「さすがにわかりません」

 

 ミレーヌ様も会話のクッションのようものだったのか、あまり俺達の回答には、興味をそそられなかったようだ。

 

 「それはいいとして、今日はもう1つだけ別の目的があるの。リオン君にはそれを手伝ってもらいましょう」

 

 「別の目的を俺にですか?」

 

 ミレーヌ様はリオン指名か。リオンへの文句以外に何だろう? 普通に羨ましいな。

 

 「私は他国から嫁いできたから、学園に通った事がないのよ。だから、学園での思い出が欲しくて! 知り合いの女性達が、みんな楽しそうに話すから羨ましくてね」

 

 ほう、学園の思い出が欲しいと。

 うむ、1年だからまだよくこの学園の思い出と言われてもピンとこないな。

 お茶会とダンジョンだろうか?

 リオンは俺と違うのか、覚悟の決まった表情で、スッと立ち上がりミレーヌ様の手を両手で握った。

 何だろう? ミレーヌ様も驚いている。

 

 「良いでしょう! 学園での思い出を作って頂きます。ミレーヌさん、俺と結婚してください!!」

 

 ファッ!?

 

 ガタッとアンジェリカさんとオリヴィアさんが立ち上がった。

 

 「リオンさん! 何を言ってるんですか!?」

 

 「お、おま…… お前は! 相手は王妃様だぞ!」

 

 俺は思考が止まった。

 ガタガタと震えカップからお茶が溢れる。お茶紳士先生も動揺しているようだ。

 

 「ミスタリオン、さすがにその冗談は笑えませんぞ」

 

 「エ、エーリッヒ様、お茶が」

 

 マルティーナが溢れたお茶をおしぼりか何かで拭いてくれるが、意識は真っ赤になっているミレーヌ様へ持っていかれたままだ。

 

 何故リオンはミレーヌ様に求婚を? 学園の思い出で……? 男子は婚活だ。じゃあ女子は? まぁ女子も結婚相手を探している。

 だからリオンは求婚をしたのか!? しかし、学園の女子はそれだけではないはずだ!

 

 「好きです! 愛してます!」

 

 「こ、困ります。わ、私には夫も子供も……」

 

 「関係ありません。貴女は美しい!」

 

 リオンが求婚するが、違うぞ! 学園女子は求婚だけではダメなんだ!! 

 

 「待てリオン!」

 

 「リックか? 何だ! 今大事な……」

 

 リオンの剣幕は凄いが、一先ずここは止めさせてもらう。

 

 「それだけでは駄目だ! ミレーヌ様!!」

 

 「え、ええ!? リック君まで何を?」

 

 ミレーヌ様の前で跪く。リオンにミレーヌ様の手を取られているため、お手の拝借が出来ないのが悔やまれる。

 

 「ミレーヌ様、どうか私を愛人に! いえ、専属使用人としてお使いください!!」

 

 そうだ! 愛人と言えば、このエーリッヒ・フォウ・ヘルツォークを於いて他にはいないっ!!

 愛人枠人気投票があれば、俺はこの学園でNo.1になれるはずだっ!!

 

 「さあ!! ミレーヌ様っ、この学園女子のように是非! 僕を侍らせ……ぐはっ!?」

 

 「ぶっ!?」

 

 俺とリオンが吹っ飛ばされた。




これは!? これぞまさしく『愛』だ!!

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