乙女ゲー世界はモブの中のモブにこそ、非常に厳しい世界です 作:N2
狐火over様
感想及び誤字報告ありがとうございます。
学園入学まで相当に端折らせ駆け足で進行させてます。
結局、テンションの赴くままに追撃を勇んだが、ローベルト艦長からは、追い付く事は不可能と諌められてしまった。
捕らえた空賊の尋問により得られたアジトの座標と逃走航路は途中から異なったため、ヘルツォーク子爵領軍の艦艇3隻はアジトへ向かった。
彼等空賊のアジトはもぬけの空となっており、ハラスメント攻撃もなく、急襲されてから約1日後には港に戻る事が出来た。
その頃には領内には戦闘の詳細が伝えられており、当主である父上含む家族も港に来て、盛大に迎えられる事になった。
「リックお兄様っ」
飛び込んできた妹のティナを受け止めて、初めて無事帰還することが出来たんだと実感した。
普段はお兄様やエーリッヒお兄様と落ち着きを払った淑女然とした声色が崩れ、涙目と共に感情が露となっているな。
「一応艦内でシャワーを浴びたから臭いは大丈夫だと思うけど心配かけたね」
「バカバカバカバカ!! 被弾もしてるじゃないですか!? 危ない事はなさらないでください」
実弾が鎧の胴体部を掠めていた事は、2機目を落とした時に気付いていたが、右肩部と左足を抉りとられていた事は、戦艦級に着艦するまで気付けなかった。
情けない事に損傷アラートを見逃していたという事だ。
吐いてしまったため整備員には申し訳ないが、「初陣で近接交戦、被弾して漏らしていないなら十分ですよ」と笑みと共にフォローしてもらった。
あとでワインでも贈ろう。
「凄いよ兄上!!」
グスグスと俺の胸で泣く妹を抱き留めていたら、興奮した一つ下の弟のエルンストが駆け付けてきた。
「落ち着けエト。港に被害はなかったと思うが、転んで怪我とかしてないか?」
「直ぐ子供扱いして、大丈夫だよ。でも聞きました! 単独撃墜2機、共同撃墜2機、戦艦中破一隻後に拿捕。物凄い戦果じゃないですか」
無邪気に喜ぶ弟が微笑ましい。今年の冬に12を迎える男の子はこんなものかと苦笑する。
弟は年相応にやんちゃで活動的だが、貴族の子息としてしっかりと勉強をしている。
辺境の貴族は王都のボンボンに比べて質実剛健だ。
平和で物の溢れた世界で生きていた前世の記憶がある身としては、素直に凄いと感じてしまう。
「本当に偶々だよエト。戦闘が始まるまでは怖くてコクピット内で震えたよ」
「やっぱり無茶したんじゃないですか!?」
「ごめんよ。どうしても商船を守りたくてね」
ムクリと顔を上げて睨むティナの亜麻色の綺麗な髪を撫でながら、つい苦笑してしまう。
非難がましい目をしながら、若干気持ち良さそうな表情までする器用な妹にホッコリとしつつも、漸く俺自身の気持ちも落ち着いてくる。
大丈夫、膝に力もちゃんと入る。
殺しの経験もしたが俺は大丈夫だ。
「無茶をしおってからに」
父上と下の妹のマルガリータが駆けてくるが、管制から状況は聞いているのだろう。父上は安堵の表情を浮かべてはいるが慌てた様子はない。
「メグにも心配かけたね」
「おにぃのバカ…… 昨日は眠れなかったんだから」
メグも言葉が家使いに戻ってる。
いつもは兄様呼びなのにな。
「一先ずはご苦労だったな。リッテル商会の方々も安心しておられたし、さらなる信頼も勝ち得たろう」
「そこが狙いでしたからね。一番の利益は今後の円滑な航路というアピールですから」
「本当はこんな急襲ではなく、しっかりと護衛も付けて初陣に出させたかったが。王宮への報告書もまとめて置いた。実際に現場にいたお前も確認してくれ」
「はい。戻りましょう我が家に」
☆
結局見つけた浮島も海賊のアジトの割りには大きいが、準男爵クラスの浮島の半分以下だった。元々はラーシェル神聖王国の騎士爵とか準男爵辺りの土地だったのだろう。
飛行船のドックや整備工場に我が家の半分くらいの大きさの館、付近に住居が散見されるだけだった。
ドックや工場は大きく十分使えるので幸運と言える。鹵獲した3隻も修理して利用可能だし、鎧も時間がかかるが8機は利用出来るとの事だった。
空賊の使用した兵器は全てラーシェル神聖王国の正規品、要は奴等は公認空賊の類いの可能性が高く、規模も大きそうなのが浮島から判明した。
それらをまとめて王宮に報告したら、空賊との諍いではなくラーシェル神聖王国との小競り合いという認識が得られ、俺の戦果も正式に認められた。
ただ、これにもバーナード大臣からの口添えも大きかったのだろう。
空賊は古い機体や飛行船を継ぎ接ぎで修理しただけの練度も微妙な輩が多いので、相当悪名高い空賊でなければ、王宮には戦果として認められるのは難しい。
練度は別としても、装備は空賊並みの我が家が不憫だ。
「報告と写真にあった鹵獲品が、ラーシェル神聖王国の正規品と王宮も認めたからね。じきに勲章も授与されるだろう。君も立派なエースだよ、学園卒業後には便宜が諮られる」
王宮への正規報告とは別口に速達船で、バーナード大臣にも知らせておいたが、口頭での報告がてらリッテル商会の商船に乗り込んで本土に向かった。
その際にうちでは数少なく、販売には出さない30年物を手土産に携えて、バーナード大臣に挨拶をしに来たら既に王宮では処理されていた。
手回ししてくれたのだろうな。
「どうです。30年物は? 出来はいいのですが、今から30年前の前後数年は不作もあって数は少ないのですよ」
「ふむ、だが稀少価値は高いな。少し軽いが味も香りも悪くないぞ」
気に入って頂けたようだ。
取り敢えずダースで持ってきておいてよかった。手回しの件もある、今後も感謝は示していこう。
この時ほど手土産の重要性に感謝したことはなかったかもしれない。もし手ぶらだとバーナード大臣は今回の件は只の骨折りになったかもしれないのだ。
そんな状況は怖すぎる。
「販売には出さないので贈答用には最適でしょう。定期的に持ってきますね」
「ほう、悪いね。まぁ貴族は皆が高級なワインを好むからな。ヘルツォーク産は長い間出回らなかったからこちらも助かるよ」
「やっと通常のワインも流通が出来るようになりました。王都にも並びだしています」
漸く1年物を市場や飲食店にも出回るようになった。今後は、「今年の出来はいいね」とか前世のボジョ○ー・ヌー○ーのような事も出来るかもしれない。
価格は100ディア前後。
ちなみに50年物は1万ディア、100年物は3万ディアもする。
それを聞いてから、何か怖くて我が家の皆は飲めなくなったよ。
もう庶民と変わらない。
「私も口にしたよ。爽やかでいい飲み口だった。しかし、君と話していると同年代か一つ下の世代の王宮貴族と話しているような気になるな」
「過分なご評価痛み入ります。私は只々ヘルツォーク子爵領の名声を回復させたいだけなのです」
「あそこは実情に反して評価が悪すぎるからな。財政状態は苦しいとはいえ、別に破綻しているわけでもなく武勲も昔からある。ただ一つの過ちで酷いものだ」
俺の謙遜に相槌も含めて、心痛な面持ちで接してはくれた。
しかし、バーナード大臣は大物だ。婚約者とそのまま結婚だろうから、奥方はまともな高位の貴族女性に違いない。
親父と同期とはいえ、男性に対する女性の仕打ちには、可哀想だなくらいにしか当時も思わなかったのだろう。
こうして関わりを持ったからこその評価か。
それでもこの方はかなり良心的だとは思う。
さて、今回の件で勲章が授与される事となるが、俺の望みを王宮に認めてもらうには、辞退しつつ根回ししてもらわなければならないだろう。
「君からの
「はい、あっ、証言してもらうためには医師に処罰は無しでお願いしたいのですが」
「確かに証拠のためには医師の証言が後々必要だろうが、まぁ何とか問題になるまい、厳重注意は下るだろうがな…… ただ『淑女の森』に関しては、悪質だが法に触れとらん。そちらに手は出せんだろう」
実母も加わっている悪辣な貴族女性組織だ。夫を軍隊に送り込み遺族年金を狙うという悪質極まりないグループ。
下手したら弟のエルンストも後夫として狙われて戦死させられてしまう。
さらに卑劣な事に妊娠時機を偽装して、愛人との子を後継ぎにさせている点だ。
医師の協力が不可欠だが、妊娠発覚後に急いで夫と関係を持てば、時期に関してはばれにくい。
妊娠判定は魔道具を使用するし、男が疑問に思うのは生まれてから後だ。医師の証言がなければ証拠にならない。
何て酷い世界だよここは……
☆
「エルンストを後継ぎにしたいだと!? 何故だ?」
シークパンサーの襲撃から1年半が経った。
医師の証言の書名が取れた事による王宮決定書が発行されたため、家族を集めて会議となった。
あの糞医師には賄賂と便宜を図るという確約で漸くだ。
しかし、バーナード大臣も『淑女の森』自体には手が出せなかった。
今回の件が漏れたのだろう、ザナは毒入りの酒を呷って自殺した事になっている。いや、恐らく
ザナの取り調べが出来なかったため、結局『淑女の森』のメンバー構成も不明であり、そもそも後夫の件では法に触れておらず証言も取れないためだ。
実母のザナの不義の証拠から後継ぎを変更させる事は可能だという事で手続きは進んだ。
ただし、エルンストが高い成績で学園を卒業しなければ、ヘルツォーク子爵領が持っている五位下から六位上に階位が落ちるという罰則がつく。
知らずにザナの葬儀を執り行わさせてしまった親父には、申し訳ない気持ちで一杯だ。
事前に結果を知っていたが、いざ王国からの書状が届いて家族に知らせるとなると緊張する。
「理由はこれを…… 王宮からの書状です」
「お前を廃嫡だとっ!?」
「何故ですか!! エーリッヒお兄様ほどの方が廃嫡!? 騎士としての戦果も持ち、うちが商船航路を築けた事は、王宮にとっては微々たるものでもしっかりと益になる事ではないですかっ」
親父の言葉にティナが激昂する。
細身だが、益々女として磨きがかかってきた自慢の妹も流石に感情が爆発したか。言葉遣いが丁寧なままなのは、教育の賜物だろう。
当初は父上と義母のベルタさんにだけ報告して話合おうとしたが、やはり家族の問題のため全員を居間に呼んだ。執事のセバスチャンも同席している。
「あなた、何故エーリッヒが……」
「兄上が何をしたと!?」
「おにぃ、偉い人の娘を手篭めにでもした?」
マルガリータの疑問がおかしい。
そんなことしたら相手によっては打ち首だよ。
「な、何でメグはそう思うんだい?」
「だっておにぃ、ミレーヌ様に招聘された後、凄い興奮しながら領地に戻ってきたから」
だってあの人めっちゃ可愛いしスタイルいいし綺麗だし。
今回の廃嫡が決まる前に勲章授与が無くなったため個人的なお礼という事で、バーナード大臣を仲介としお茶会に誘われた。
勿論手土産に100年物のワインを贈答し喜ばれた。
可愛い。
その後領地に戻ってきてから、舞い上がってた事を指摘してるんだろう。
おっと物凄い目でティナが睨んできた。
「落ち着きなさいお前達。理由はザナの不義の子だとエーリッヒが証明されたからだ。あのザナの馬鹿が…… 薄々感じてはいたがな。エーリッヒは儂の子ではないという事だ」
親父の言葉に
それはそうだろう、ベルタさんにとっては俺は親父の子だから6年以上に渡って、ティナやエト、メグと分け隔てなく育ててくれたのだろう。
もはやなんの関係もない子供だったと気付いたのだ。怒りと共に喚き散らしたとしても仕方がない。
そうされたとて俺だって人生経験としたら四十歳半ば近くなる。
受け入れるさ。
そんなベルタさんは、俺とティナを交互に見た後に眉間にシワを寄せながら考えに耽る。
何だ?
家族にとっては、不明だったザナの死も関連付けられる此度の一連を家族一同知ったわけだ。
ただこれで、エルンストを後継ぎにするという俺の目的は達成した。
淑女の森、何故二次創作でもここまで苦しめるのか!?
と書いてたら思いました。