乙女ゲー世界はモブの中のモブにこそ、非常に厳しい世界です 作:N2
空賊団ウィングシャークはパルトナーに接敵後、容赦なく襲いかかってきた。
リオンは即座に空に上がり迎撃を開始。パルトナー周辺の防御はグレッグとブラッドに任せていた。
「殺すなよ! 全員捕まえろ」
『無茶を言います。そのせいで苦労しているというのに』
ルクシオンがリオンの命令に愚痴を溢していた。
空賊団ウィングシャークの飛行船五隻は、パルトナーを囲んで砲撃をしているが、パルトナーのシールドで全て防がれていた。
「な、何だこの鎧!?」
「ライフルを弾きやがるっ!?」
「来るなっ! 来るなぁぁぁああ!」
アロガンツは空賊の鎧を殴り、蹴り倒し、掴んでは空賊の飛行船に投げ付けて、客船を改造した飛行船であろう帆船のマストを折っていた。
空賊団の頭の一際大きい鎧は、空賊達にアロガンツの相手を任せて、1機でパルトナーに向かっていった。
『ドローン展開します』
「胴体は狙うな。殺さなければ何でもいい!」
ルクシオンから溜め息が漏れたような気配をリオンは感じた。
(人間臭い奴だな。ち、鬱陶しい空賊共だ。グレッグとブラッドの奴は大丈夫か?)
ドローンが空賊の鎧の胴体部以外を被弾させて墜としていった。
☆
カーラはパルトナーが砲撃を受けた衝撃でパニックになってしまった。
「な、何でっ? 私は助けてくれるはずなのに、ちょっと、通してよ!」
カーラが部屋を出ると、直ぐに浮遊するロボットが通せんぼをするように道を塞ぐ。
強引に通ろうとしたら身体を押さえ付けられた。
「いや! 離してよ!」
「カーラさんっ! 大丈夫ですか?」
オリヴィアはカーラの叫び声で部屋から出ると、取り押さえられたカーラに声を掛けた。
すると2本腕だけで足がない浮遊したロボット達は、動作が止まってしまう。
その隙にカーラは走り出してしまった。
「怖いっ! 私はただ、お嬢様に頼まれただけなのに!」
「カーラさん!? 危ないですよ。待って!」
オリヴィアの言葉に他の警備用ロボットや浮遊ロボットが動作を止めてしまうが、オリヴィアにはそんな事はわからない。
「待って!」
「いやぁぁぁあああ」
甲板まで出てしまい、爆発音や火薬の臭い、充満する煙にカーラは恐怖でへたり込んでしまった。
オリヴィアが見上げると一際大きな鎧が甲板に降り立った。
「リオンさ…… え?」
その鎧はアロガンツと同じ重装甲だが、ドクロマークが描かれ、持っている大鉈は大きく身体も刺々しい、いかにも空賊という感じの鎧だった。
その姿にオリヴィアもカーラも足が竦んで動けなくなってしまう。
そのウィングシャークの頭の鎧にパルトナーの警備用ロボットが群がるが、鎧の拳で吹き飛ばしていく。
「ちっ、何だこのゴミは。女、お前達は人質に……」
「させるかぁぁぁああ!」
オリヴィア達を人質に取ろうと手を伸ばした所をブラッドの乗る鎧が体当たりをして防いだ。
しかし、ウィングシャークの鎧は、少し後退しただけで甲板上で踏ん張る。
オリヴィアには、子供が大人に立ち向かう程の差に見えてしまう。
「早く2人とも下がるんだ!」
「ガキが調子に乗るな!」
ブラッドの鎧は投げ飛ばされて甲板を転がる。
「おら、早く飛行船の中に入れ! バルトファルトの野郎が来るから大丈夫だ! 急げ!」
「は、はい! カーラさん!」
「あ、あぁ……」
ブラッドとグレッグの叱咤で、オリヴィアは竦んだ足を動かしてカーラを引っ張りパルトナーの中に逃げ込んだ。
「くそ、硬え」
グレッグの槍が相手に突き刺さるも、分厚い装甲に阻まれる。
「喰らえ!」
ブラッドは魔法で攻撃をするが、即興でもあったため大してダメージは与えられない。しかし目眩ましにはなり、その隙にグレッグは槍で何度も突き刺す。
『ガキ共が! 鬱陶しいぞ!』
ウィングシャークの鎧は、グレッグの槍を掴み、そのままブラッドへ投げ付けた。
☆
リオンは空賊団の鎧達を一手に引き受けて戦っている。その数50機近いが、もうほとんど残っていない。
『マスター、カーラとオリヴィアが甲板に出ましたが、グレッグとブラッドが空賊団の頭の鎧を押さえています。どうもカーラがパニックを起こしたようです』
「なっ!?」
リオンが驚いた瞬間、飛行船からの砲撃がアロガンツを襲う。爆発に巻き込まれるが、アロガンツ自体はほぼ無傷に近い。
「何で外に出した!」
『申し訳ありません。作業ロボット達が一時的にダウン。原因は今のところ不明としか。しかし、ブラッドとグレッグが立ちはだかり、今、2人はパルトナーに戻りました』
アロガンツ内で目の前に出現した映像には、ウィングシャークの頭の鎧に挑むブラッドとグレッグの鎧の姿が映し出されている。
『彼等を出して正解でした。時間稼ぎにはなりましたね。ただ、彼等の技量では長くは持たないでしょう』
「そうだな。もうリビアは船内何だよな?」
『はい』
リオンは一度深呼吸してルクシオンに命じる。
「あいつらを死なせる訳には行かないな。出力をあげろ。1番コンテナからあれを出せ」
『……了解しました』
気合いを入れ直したリオンの気配を感じたのか、ルクシオンは余計な事を口にしなくなる。
リオンはルクシオンの文句が聞けない事を寂しく感じるのだった。
「よし、つぶ…… って、スコップじゃねぇか!?」
アロガンツの右手はしっかりとスコップを握りしめており、左手も癖で自然に添えられていた。ブレードを出すつもりがまたスコップである。
『はい。決闘後も1番コンテナはスコップです。おや? 長期休暇でも浮島で使用していたのでご存知かと』
「こ、こいつ…… まぁいいや。行くぞ」
『はい。マスター』
(あの間は、絶対こいつ知ってて黙って了解したよな。ったく性格の悪いAIめ)
決闘の時と同じようにスコップで甲板に向かうアロガンツ。
その頼りらしくも愛嬌のある姿をオリヴィアは窓から見る事が出来て、自然と顔が綻ぶのであった。
☆
ブラッドもグレッグもウィングシャークの頭の鎧の前に成す術はなく、甲板に倒れていた。
「く、くそ」
「何で大型なのにそこまでの出力が出るんだよ」
2人とも生きてはいるが、大鉈で切断されたのか、ブラッドの鎧の腕はなかった。
グレッグの鎧も罅だらけでボロボロだ。
『ガキ共とは潜ってきた修羅場が違うんだよ』
ウイングシャークの頭には遊んでいる場合ではなかった。このロストアイテムの飛行船のシールドは依然として破れなく、さらに空賊の鎧も次々とやられている。グレッグとブラッドは精一杯で気付かないが、この空賊団の頭は確実に焦っていた。
そこにアロガンツが襲い掛かる。
「おらぁ!!」
『な!? ぐわぁ!』
アロガンツはスコップを振り下ろして腕を切断した後、ウイングシャークの頭を蹴り飛ばして甲板を転がした。
アロガンツは器用にスコップを振り回してウイングシャークの頭の鎧の脚、残った腕を切り飛ばし、本体を叩きつける。
グレッグとブラッドは痛む身体を我慢しながら、圧倒的なアロガンツの強さに見惚れていた。
『ぐ、ぎゃあっ! 止めっ、待ってくれ! 降伏だ!』
「何が待ってくれだ! さっさと部下達を降伏させろ! ガキだなんだと偉そうに言いやがって!」
アロガンツのスコップは、アロガンツの固さと同等だ。飛行船の砲撃すら物ともしない材質のスコップに叩きつけられ、鎧の装甲が剥がれて鎧を構成する基幹フレームすら壊れ落ちる。
その壊れたウイングシャークの頭の鎧から光る貴金属が溢れ落ちた。
「おっ! これだ。探す手間が省けたな」
『マスターが嬉しいようで何よりです』
上機嫌のリオンにルクシオンが、まるでヨイショするかのように相槌を打つ。
「おい、黙って俺にスコップをまたしても渡した事は忘れないからな!」
リオンはルクシオンに文句を言うが、ルクシオンはそれに対していつものように言い返した。
『アロガンツのスコップはアロガンツの装甲と同等です。つまりアロガンツのスコップに敵う相手など、いないのです。そもそもマスターが――』
「いや、もういいや」
ルクシオンが早口でアロガンツとスコップ自慢を始めたので、リオンはうんざりしながら流すのだった。
『お、おい返せ! それは大事な……』
「返せだと。負けた側は奪われるに決まっているだろ! そもそもお前らが、仕掛けてきた事だ。負け犬共は黙って今後を悲観しておけ」
リオンの言葉にウイングシャークの頭は絶望して空を見上げる。そこには火を吹き濛々と煙が立ち上る飛行船が、五隻存在していた。
空賊団の鎧は全てが海に着水して浮いている。
リオンはルクシオンに命じて作業ロボットで空賊達を縛り上げていった。
「リオンさんっ!」
リオンに向かって飛び込んできたオリヴィアを優しく抱き留める。
「駄目だろ、危ないから出てきたら」
「す、すみません。カーラさんがパニックを起こしてしまって……」
リオンは小声でルクシオンに、カーラを拘束しておくよう指示を出しておいた。
オリヴィアは、若干上の空に見えるリオンに首を傾げる。
「あぁごめん。ほら内緒のルクシオンにね。そうだ、リビアにはグレッグとブラッドの2人を診て貰えないかな? あいつら怪我してる筈だから」
「あ、はい! 是非リオンさんのお役に立ちたいです!」
オリヴィアの眩しい笑顔が、リオンに染み渡る。
(誰だこの子をゲームしながら、あざといとか言った奴は! 最高じゃないか)
オリヴィアは、鎧から下りてへたりこんでいるブラッドへ向かった。グレッグは頭から少し血を流し、足を引き摺りながらリオンに話し掛けてきた。
「悪いな、借り物の鎧を壊しちまった」
「いいさ、それ以上の働きだったから。ブラッドは今オリヴィアさんが診てるから大丈夫だろ」
オリヴィアはブラッドに治癒魔法を施している。
「すみません私のせいで……」
「それは違うよ。僕もグレッグも納得している。君がウェイン家のお嬢さんを連れて戻ってくれたから、寧ろ本望さ。騎士は女性に優しくしないと…… あ、そこ痛っ! あれ?」
オリヴィアから発せられた魔法の淡い光が傷を包み込んで癒していく。傷口が綺麗に消えるのを見てブラッドも安堵する。
「マリエと同じで治癒魔法が得意みたいだね。助かったよ」
「マリエさんも治癒魔法を扱えるんですか?」
治癒魔法を扱える人材は少なくとても貴重だ。
ヘルツォーク艦隊も飛行船一隻に1人しか配備されていない。何処へ行っても重宝される。
「あぁ、僕らの女神だよ……どんな傷もマリエがい…… 大、丈…… 夫」
ブラッドはそのまま気絶してしまい、リオンとグレッグに運ばれていった。オリヴィアは、自分に非がないと言って貰い、ホッと胸を撫で下ろすのだった。
オリヴィアは、無理して痛がっているグレッグにも治癒魔法を掛けるのを忘れなかった。
☆
空賊の宝の前でリオンとルクシオンは話をしている。
「捕縛に飛行船や鎧やらの回収、けっこう時間を取られたな。もう日が暮れるじゃないか。しかし、まぁ逃げるために持ち出したとはいえ、かなり溜め込んでいたな」
財宝を前にリオンは余りの多さに呆気に取られてしまっていた。
『空賊団の壊滅と空賊頭の懸賞金もありますので結構な金額になります。ちょっとした財産ですね。ウェイン家の報酬がどうなることやら。あまり期待は出来ないかもしれませんが』
飛行船と鎧はボロでも売れば金になるため、リオンはルクシオンに命じて全て回収してあるが、ルクシオンがいればいつでも金は手にする事が可能だ。
何しろ無から有は生み出せないが、素材があれば何でも作れる。錬金術も真っ青の性能がある。
冒険者として、貴族としての感性で回収してはいるが、リオンにとってはそこまで興味はなった。
「オフリー伯爵と空賊が繋がっていた証拠は見つけたか?」
『はい、やり取りのある書類などを数点発見しました。証拠としては不十分かもしれませんが』
「リックに渡してやるか。アトリーは中立とはいえレッドグレイブ寄りだ。それとも直接アンジェパパの手土産にでもするかな」
『ヘルツォークは今頃、オフリー伯爵領を制圧しています。王宮の査察挺が来てますので官吏もいます。アトリーとレッドグレイブの派閥ですよ。明朝各寄子への臨検だそうです。おそらく学園祭でのカーラを気にしていたエーリッヒがウェイン家へ赴くでしょう。我々もパルトナーで一夜を明かして明朝ウェイン家へと向かっては? どちらにしろ、このままではウェイン家に到着するのは夜になります。それとレッドグレイブからの飛行船もウェイン家に向かってます。到着は明日ですが、アンジェリカも乗艦していますね』
ルクシオンは何でも知っているな、とリオンは呆れかえる程の情報把握だった。
「そうだな。そこでオフリーと空賊の繋がりも渡すとしよう。しかしウェイン家で一同が会するのも凄いな。さて、この聖女様の聖なる首飾りはどうやって渡そうか?」
『エーリッヒのようにサッとプレゼントしてみては?』
「あいつそれで修羅場作ってなかったっけ?」
リオンは学園祭でのエアバイクレース後のエーリッヒとクラリス、そしてマルティーナとのやり取りを思い出して顔をしかめてしまう。
『あんなのはただのじゃれあいでは? それとエーリッヒについて何ですが……』
「どうした? やはり転生者だったと認めたか? 軍艦級の飛行船とはいえ、前面から砲撃出来るようになってただろ? あれに違和感があるんだよなぁ」
『いえ、そのような証拠は出てません。ヘルツォークでの改装時の書類や記録がありましたが、命中率は気にせず、砲撃態勢移行前から撃てる脅威を与えたいという合理的な物でした。全て技術は既存の物です』
「じゃあ何が言いたいんだ?」
『もし、この世界がマスターの言う乙女ゲーの世界ならば、エーリッヒは6人目の攻略キャラの可能性は大いにあるかと。現にあの5人では、エーリッヒのスペックに追い付く事は不可能でしょう』
ルクシオンの言う事も実はリオンは考えた。確かにあのゲームをリオンはやりこんだが、48時間ブッ続けでネットを駆使しながら課金までしてクリアしたが、その後、直ぐに階段から落ちて死んだため、それ以降がわからないのだ。
基本はコンシューマーゲームだが、別途オンラインで課金要素もある。あまりにもあの5人が弱いから、追加パッチなのではないかとは考えた事もある。
その鍵を握るのは、マリエが知っているかどうかとリオンは考えていた。
「可能性としてはあるんだが、あの5人と距離が離れ過ぎではあるんだよなぁ。まさかリックだけでクリアを目指すようなハードモードはないだろうし…… 生い立ちも含めてそれは酷すぎる。余裕の炎上案件だな」
(マルティーナさんが悪役令嬢の裏モードか? 失礼だけど、悪役令嬢というには爵位がショボいしな。にも関わらず強敵過ぎるし。クラリス先輩はそもそもがジルクの婚約者だし……)
しかしリオンは、わざわざルクシオンがキャラだの何だのと、自分から言ってくるのが気になった。
「ふぅ…… なぁ、もしかして、リックの手記とかから、何かお前がそう言わざるを得ない、裏設定でも出てきたのか?」
『……はい。エーリッヒの実の父親の件です。
「おい!? 絶対に止めておけよ。怖すぎるし、申し訳なさ過ぎる!」
この世界そのものは、リオンの知るゲームの世界と言えるだろうが、リオンの知る流れとは異なり過ぎていた。主に登場人物や時系列である。
リオン自身やマリエのような転生者が、この世界を掻き乱してしまったのように感じてしまい、背筋を言葉に形容する事が、困難極まる不快感が這いずる。
「せめて少しでも戻せるなら、戻したほうがいいのか? 取り敢えず金の使い途は決めたが……」
グレッグとブラッドは攻略キャラだ。しかし、今は廃嫡されたチンピラ紛いの貴族である。この事実はリオンにとっても頭が痛い。
今回はそれなりに頑張ってもくれたので、少し手助けをしてやろうという気にはなっていた。
金自体にリオンが頓着をしないというのが理由の一つではある。後々自分に還ってくる事を期待して、彼等に恩でも売るかという軽い気持ちで、手柄を譲る事を決意したのだった。
エーリッヒの設定もあるんですが、まぁ、あまり引っ張る内容かどうか考えどころです
もしこの二次が続くとしたら、web版原作様の王女様は気付くでしょう。
こんな所で変なヒントを出してもいいのだろうか?
リックの父親はそのうち判明しますが、その父親も知ってますが、そこまで大きい話にはしないつもりです。
今後の各ポイントで活かすというか利用出来ればな、くらいですかね。