乙女ゲー世界はモブの中のモブにこそ、非常に厳しい世界です   作:N2

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ヘイ! ルクシオン


第50話 オッケー! ルクシオン

 浮島から豪華客船が出発してからあまり間を置かずにリオンが見舞いに来てくれた。

 少し緊張したような強張った表情をしている。

 

 「いや、情けないところを見せちゃったね」

 

 「もっと苦しんでいるかと思ったが、思ったよりも大丈夫そうだな」

 

 まだリオンは言い淀むような表情だ。何かあるのだろうか? ベッド脇にいるマルティーナを随分と気にした様子だな。

 

 「何かあるのかい? ティナ、少し外してくれ」

 

 「え、ですが…… わかりました。あまりお疲れを溜めないでくださいね」

 

 マルティーナは一瞬躊躇するが、リオンにも少しだけと言われて俺に目で確認してきたため、頷いて退出させた。

 

 「それで? 頭痛と節々が痛いから手短だと助かる…… 解熱剤がまったく効かなくてね」

 

 「大丈夫だ。ルクシオン」

 

 リオンが聞きなれない言葉を発するとリオンの肩越しに赤いメタリックカラーの球体が浮かび上がった。

 

 『はい。お初にお目に掛かります。私はルクシオン、マスターのサポートをしている人工知能を搭載したロボットです』

 

 あぁ、だからか。だからリオンのパルトナーには乗組員がいなかったのだと、この高熱な頭でも納得してしまった。この人工知能が制御していたからなのかと。

 というよりも熱に浮かされていたためにこの世界での常識が、俺自身少し曖昧になっているのかもしれない。普通の状態であれば、もっとこの世界に即した反応を俺だって見せた筈だ。

 

 「人工知能って…… ロストアイテムというよりオーパーツじゃないか…… 使い魔ではなく、まさかGo○gle先生にお目に掛かる事になるとはな」

 

 「お、おい…… 今お前何て言った!」

 

 リオンが俺の呟きに驚いている。うっ、頭に響く!

 

 「……オーパーツか?」

 

 「じゃないその後だよ!」

 

 リオンがうるさい! しかしこいつは知らんだろう。

 

 「Hey○Siri!」

 

 「何でiPh○ne何だよ! G○ogleって言ったじゃねぇか!!」

 

 俺みたいなオッサンにはどっちも一緒なのだが…… ん? 何で知ってる!? この世界にも同名の某かがあるのだろうか?

 

 「リオンさん! 何を騒いでいるのですか!」

 

 ドンドンと寝室の扉を叩く我が妹様。確かに騒ぎ過ぎだな。

 

 「ティナ! 大丈夫だから扉は叩かないでくれ。頭に響く」

 

 「ご、ごめんなさい……」

 

 少し声を張り上げたら頭が痛い。

 

 『これは驚きました。マスターは先程この部屋を訪れる前に私の言葉を遮りましたが、病状を調べる時にスキャンした結果、旧人類の遺伝子が多く見受けられます。それに確信した事実がありますが、今はいいでしょう。旧人類の遺伝子もマスターほど強く出てはいませんが、しかも先程のやり取り…… マスターと同じ転生者ですか?』

 

 頭痛が酷い中、ルクシオンと呼ばれた人工知能が衝撃の事実を言ってくる。頭痛が加速しそうだぞ。

 

 「んあ? あぁ、リオンも前世があるって事?」

 

 リオンは俺の言葉に衝撃を受けて目を見開く。そして今ではすっかり聞かなくなったあの言葉を発した。

 

 〔お前は、この言葉がわかるか?〕

 

 今度は俺が目を見開く番だ! 懐かしの日本語だ。

 

 〔I've been there〕

 

 〔何で英語何だよ!〕

 

 リオンがずっこけそうになるが、意識高い系(笑)を嘗めるんじゃない。欧米か!? と言え! あ、頭割れそう。

 

 〔ほら、Go○gle先生に翻訳してもらえ〕

 

 『日本語で言うと、わかるよ。という意味ですが、その状況に自分も置かれた事があるという意味合いからの、わかる。になりますね。いやはや驚きです。まさか転生者だとは…… 気づけなかった事に屈辱すら覚えますね。ちなみに私はルクシオンです。そんな旧時代の物と一緒にしないで頂きたい』

 

 しかし、さすがに込み入った話は今は無理だな。え? この赤い球体もG○ogle先生知っているの?

 

 「正直色々と話し合いたいが、治ってからにしてくれ。ちょっと色々情報量が多くて頭が割れそうだ。今この状態で知恵熱まで加わったら死ぬ」

 

 「あ、あぁ、悪い…… 俺も混乱してきた…… あっと、そうだな。え~と、先ずはお前のその体調だ。ルクシオンが言うには異常な魔力波がお前の身体から検出されたそうだぞ。多分ただの体調不良じゃない。これを伝えようとしたんだが、まさかこんな反応がくるとは思わなくて…… 普通この世界だとルクシオンの事は使い魔だと思う筈だから……」

 

 リオンも混乱したように額に手をかざした後、そのまま髪を掻き上げる。

 しかしだからか…… だからあの微妙な俺の言い回しにリオンは乗るように付いてきたわけか。年代はわからないが、似たような時代を生きていたというわけだ。

 多分海と浮島の間を飛んでみてがっかりしたタイプだな。オーラ力が働き始めヘルツォークは、嫌われ始めたということだ。

 まぁ、そんなのは置いておいても俺のような立場の人間がいるなら、他にいてもおかしくはないということか。

 

 『しかしエーリッヒ、あなたはこの世界に順応していますね。マスターやマリエの行動とは大違いです。もっともマスターが、この世界が乙女ゲーの世界だと頻りに言うせいで、私もあなたが転生者だと気付きませんでした。そもそも――』

 

 赤い球体、ルクシオンだっけか。言い訳を言うように早口になるところが妙に人間臭い人工知能だ。

 ただ、慣れなきゃ既に死んでいたさ。ヘルツォークはそういう場所だ。

 

 「ほら、過ちを気に病むことはない。ただ認めて、次の糧にすればいい…… それが大人の特権だって言うだろ? ……ん? マリエ? てか乙女ゲーって何?」

 

 『私はそもそも人工知能ですが?』

 

 赤い球体は乗ってこないしお怒り気味だ。サザビ○の脱出ポッドみたいな奴め。それに何だ乙女ゲーって? 

 今宵はオランダにて先輩☆全裸♂になるやつだろうか? 鮎入れていい?

 

 「だから、お前は某赤い人が好き過ぎるだろ…… はぁ、マリエも確実に転生者だよ。なぁ、リックはアルトリーベ知らないのか?」

 

 シャアですか? ダメだあの空耳が熱に浮かされた頭でリピートされる。

 スペシャル☆心不全になりそうだ。

 

 「ラーファンは呪われているな…… はて、アルトリーベ? それにこの世界が乙女ゲーとは?」

 

 「あぁ、とだな…… 転生者なのにまさか知らないとは……」

 

 僕がそんなに安っぽい人間ですか? これでは親父にもぶたれたことのない人だな。

 リオンが口を噤みどう言うべきなのだろうかと悩みだす。俺も頭がガンガン鳴り響く中、豪華客船内を警報が鳴り響いた。

 

 「お兄様!」

 

 「リック君!」

 

 異常事態の警報だろう。マルティーナとクラリスが入室してきた。

 

 「何だ!? おい、冗談だろ!!」

 

 リオンが室内の窓から外を見て驚愕した声を上げている。

 

 「悪いリック、甲板に出て様子を見てくる」

 

 いうや否やリオンはこっちの返事も聞かずに退出していった。

 先程驚いていたリオンの視線の先、窓の外を伺うと、どこか海洋生物に似たような外見のモンスター達が、空を泳ぐように飛び回っている。しかも続々と雲の中から飛び出してきており、瞬く間に数えきれないほどに増えていった。

 

 「リックさん! 何かヤバそうです!」

 

 「ご主人様!? どうすれば……」

 

 イーゼちゃんもナルニアも動揺している。

 

 「何故囲むだけで襲ってこないんだ? 統率が取れているな…… ティナ、手を貸してくれ」

 

 マルティーナは言われるままに手を差し出してくれたので、それを使って起き上がる。

 

 「お兄様? 寝ていないと」

 

 「いや、動ける状態になっていたほうがいい。制服を取ってくれ…… ズボンとシャツだけ、いや、上着もだ」

 

 あの少しピンクがかった白いモンスター達の額に浮かんだ紋章。あれはファンオース公国の紋章だ。タンクトップとトランクスで呑気に寝ていられる状態ではなさそうだ。

 

 「あれは、ファンオース公国の紋章…… 何故こんな空域に?」

 

 「え!? ファンオース公国ですか!」

 

 クラリスもさすがに気付いたか。マルティーナは俺の様子を気遣うばかりでモンスター達の紋章に気付いていなかった。

 

 「落ち着いて状況を見ないと何とも…… イーゼとニアも来い。間違いなく大変な事態になっている」

 

 窓から見るだけでもかなりの数だった。もしかしたら既に脱出なども不可能かもしれない。頷いた2人を横目にサッと着替えて、多少ふらつきながらも甲板に向かった。

 

 

 

 

 リオンはルクシオンを右肩に浮かべながら甲板に出ると、すぐにアンジェリカとオリヴィアが側に駆け寄ってきた。

 いつかのようにアンジェリカが使い魔かと問えば、それは違いますとルクシオンがアンジェリカとやり取りをしているのを、オリヴィアは自分の時を思い出しながら眺めている。

 そんな中リオンは、状況確認のためにモンスターの群れ及びファンオース公国の飛行船艦隊に目を向けていた。クリスもリオンの近くで同様の行為を行っている。

 

 「公国、王国の領空で一体何を考えている。」

 

 クリスは震えている指でメガネの位置を整えている。モンスターの数は既に数えきれない。数千から数万と言われてもおかしくはない数だ。

 

 「変わった使い魔だが、今の問題は奴らだ。公国のように見えるが、どうしてモンスターと一緒にいる?」

 

 アンジェリカの言うようにモンスターは人を襲う。それが一般常識だ。だからこそここまで近くにいてどちらも襲われないのかが、甲板に出ている皆が疑問に思っているのだ。

 

 「待て、誰か出てくるぞ」

 

 クリスが一際大きなモンスターを指さすと、黒いドレスを身に纏うほっそりとした体躯に白磁の肌を対比させるような、烏の濡れ羽色をした長髪を艶めかせる少女が出てきた。

 

 「ヘルトルーデ・セラ・ファンオース…… ヘルトルーデ王女か」

 

 「あ、あのお知合いですか?」

 

 オリヴィアは、ルクシオンが投影している映像を気にしながらアンジェリカに質問をする。

 

 「以前に一度だけ会ったことがある。だが、どうしてこんな場所に?」

 

 大きなモンスターの頭上にヘルトルーデ王女の姿が拡大投影されると、豪華客船に乗っている皆が驚きだした。

 全員が警戒していると拡声器を使ってこちらに通告してきた。

 

 『ファンオース公国、第一王女ヘルトルーデ・セラ・ファンオースが告げる。我らはホルファート王国に宣戦布告する』

 

 まだ若い女性が無表情で宣戦布告してきた。

 

 「いやぁ、宣戦布告とは、ファンオースにしては随分とお行儀がいいね」

 

 マルティーナとクラリスに支えられたエーリッヒが甲板に現れた。ナルニアとヘロイーゼも後ろに控えている。

 

 「エーリッヒは大丈夫なのか?」

 

 アンジェリカはエーリッヒの体調を気にする。ただの体調不良とは異なるので、一見すると普通に見える。精々が呼吸が少し浅く速いくらいだろうか。

 

 「無事じゃないわアンジェリカ。39.8℃あるのよリック君は……」

 

 「お、おい! 普通じゃないぞ。いや、まさか!?」

 

 クラリスの表情と険しい目つきはただ事じゃない。病気なら何があっても医師の管理下で寝かせているはずだ。アンジェリカにも古い記憶が呼び起こされて、ヘルトルーデ王女を見てしまう。

 

 『愚かなる王国貴族の子弟たちよ。覚悟を決める時間をやろう。降伏か、それとも死か。一時間だけ待つ』

 

 与えられた猶予は一時間。アンジェリカは手啜りを叩いて心中を吐き出す。

 

 「私達を人質にするつもりか。卑怯者が」

 

 ヘルトルーデ王女の言葉で、オロオロする船員に安堵する学園生達、不安そうな表情の学園生達など様々である。

 人質という事は殺されないという事を意味しているが、王国と公国の歴史を鑑みるとどういう扱いを受けるかどうかは不明である。その事がエーリッヒの心中に強く警戒を及ぼす。

 

 (ここには公爵令嬢に伯爵令嬢、剣豪もいる…… 魅力的な人質ばかり。それにティナだ…… 人質どころかファンオースにとっては戦利品として魅力すぎるな……)

 

 そしてエーリッヒは、マルティーナ達を手で制してリオンの元に向かうのだった。

 

 

 

 

 リオンは額に手をやり、絶望しているのかと思えば、口元が僅かに動いている。おそらく右肩の上に浮いているルクシオンと話しているのだろう。

 公国側から使者が乗るのであろう小型艇が出てくるのが見えた。手短に済まそう。

 

 「リオン、パルトナーとアロガンツは? そこのルクシオンだっけ? 呼んだんだろう」

 

 俺は確信を持って訪ねる。決闘でもアロガンツが自動で来たり帰ったりしていた。遠隔操作可能なのだろう。

 

 「あぁ、しかし流石に時間が掛かる。やはりわかるか」

 

 「そりゃぁ、決闘や空賊を拿捕した時の事を考えるとね…… さて、逃げられると思うか?」

 

 ロストアイテムの力など俺にはわからない。しかしあの船ならば逃げられそうな気がする。空賊の飛行船七隻を拿捕したときにパルトナーは無傷だったのだ。

 おそらく攻撃が通らないほどの相当な守りなのだろう。

 

 「パルトナーさえ到着すれば何とかだ。お前は体調大丈夫か?」

 

 『エーリッヒ、その魔力異常の触媒となっている珠は、せめて外しておいたほうがいいでしょう。それがその体調不良の原因です。もはやただの発動した触媒ですので、誰が持っていようが効力に変化はありません。ただし、対象から離すほうが多少はマシになるというレベルですが』

 

 ルクシオンが言うので首元から取り出すが、正直デザインは気に入っているんだが。まぁ仕方ない。呪いだのなんだのはわからないが、外しておこう。仮に荒事になった場合は確かに邪魔だ。

 

 「クラリス、持っていて」

 

 俺はクラリスに放り投げた。

 

 「これは…… 確かにリック君は持っていない方がいいのかもね」

 

 荒事を考慮するとマルティーナに無駄なものを持たせて、それが邪魔になっては差し障る。キャッチしたクラリスは制服のポケットにしまってくれた。

 あの4人で荒事に長けるのはティナだけだろう。

 

 「さて、公国の使者が到着するが時間が必要だな。変に刺激しない方がいいだろう」

 

 「リック、お前は寝てろ。その熱だと立っているだけでもきついだろう」

 

 リオンが気を使ってくれているのはありがたいが、この状況はそうもいっていられない。

 

 「公国なんかに人質に取られたら何をされるか…… それに、僕がティナ達に護衛を付けないわけがないだろう。一時間あれば十分だ」

 

 『駆逐艦一隻が近い空域にいますね。しかしそれだけでは不十分では?』

 

 ルクシオンが索敵でもしたのだろうか? このGo○gle先生は優秀すぎるな。

 

 「このシスコンめ。しかしルクシオンの言う通りだろ。何ができる?」

 

 そもそも襲われた事が無いという修学旅行とはいえ、貴族の子息たちがこれだけ集まる豪華客船に護衛を付けないとか、学園首脳部や王宮そのものの正気を疑ってしまうレベルだ。いや、王宮は割と頭がおかしいと思わざるを得ないが。

 私費で投じることが出来る護衛など、たかが知れているが無いよりはマシだ。

 

 「ティナ達を逃がすだけで十分だ。後はご希望があればアンジェリカさんでもオリヴィアさんでも…… あぁ、ヴィムやクルト、ルクル先輩ぐらいは助けてあげたいな」

 

 あの4人にリオン達、それと今言った面子以外はそう関りが無い。そこまで俺には面倒見切れない。

 

 「そうか…… 安心材料が増えたのは助かるよ。来たな、公国の使者だ」

 

 リオンの言葉に目を甲板に向けると小型艇が接舷して公国の使者が乗り移って来るのが見えた。

 

 その整えられた髭を触りながら横柄な態度で豪華客船に乗り込む痩せぎすな男には、只々嫌悪感しか湧いてこなかった。

 




ちょっと微妙なお互いの判明でしたが、あまり劇的な事を作り込めなかったんですよね。原作様でも割とあっさり気味ですし。
そろそろいいかなと思っちゃいました。引っ張っても、おい! もうわかるやろ!! みたいになりそうですし。

ルクシオンって以前誰かさんのスリーサイズまで調べようとしたんですよね。しかも当時リオンは調査に制限掛けていなかったし(笑)

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