乙女ゲー世界はモブの中のモブにこそ、非常に厳しい世界です   作:N2

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第52話 セラとラファと・・・・・・

 巨大モンスターの上に載せるように作られた飛行船の中に連れてこられたが、このような状況でなければゆっくりと見物したいぐらいの逸品であるな。ご丁寧に小型艇を格納庫へ止めた後に連行されたおかげで、順路に積載された鎧などをよく見ることが出来た。

 マルティーナの肩を借りながら辛そうに俯き加減に歩いていたため、無警戒に近い状態なのが笑える。正直本当に辛いからこそ使える手だが。

 

 「ほら、さっさと入りなさい」

 

 ゲラットに蹴られてマルティーナに抱き着くように支えてもらう。

 

 「あなたはっ――」

 

 「大丈夫だからティナ。僕の指示以外で声を荒げたり勝手に動かないように」

 

 「は、はい。わかりました」

 

 マルティーナまでアンジェリカの様に激昂されたら収集が付かない。しかし、俺が自分の不遇に対して大人しい分、マルティーナがそのことに対して感情的になってしまうのは、俺の責任でもあるから仕方ない。

 

 「こうも辛そうだと、六芒星(ヘキサグラム)の赤い悪魔といえどもあっけないものですね」

 

 「40℃あるんだ。仕方がないだろう」

 

 辛そうに呼吸を浅く早くしておく。熱もちょっと盛っておこう。マルティーナが涙ぐむようにして身体を支えてきた。状況的には都合がいいんだが、少し申し訳ないな。

 貴賓室とでもいうべきであろうか。豪華な調度品などが据え付けられた一室で、拡大映像でも見た冷たい表情をした女性に挨拶をされる。

 

 「久しぶりですねアンジェリカ。互いに挨拶を交わしただけの関係ですけど、こうして再会すると何だか懐かしく思えるわ。御父上と兄君は息災? そちらは初めまして、ヘルツォークの御両人。ヘルトルーデ・セラ・ファンオースよ。初めましてというには少し不思議な感覚ですが」

 

 「ふん、お前に心配される謂れはない」

 

 アンジェリカは挨拶など意にも介さずに不敵に返している。こちらは初体面だから一応は挨拶をしておこう。

 

 「初めましてヘルトルーデ王女。僕の事は知っているのでしょう。僕が肩を借りている女性はマルティーナ、ヘルツォークの長女ですよ。正直身体が辛いので、せめて座らせて頂きたいのですが」

 

 マルティーナは僕を支えながら、空いた側の手を用いてカーテシーを行う。器用だな。

 武装した騎士達に囲まれており、マルティーナに凭れ掛かって立っているが流石に立ちっぱなしは辛いために打診してみる。

 

 「えぇどうぞ。ふふふ、本当に辛そうね。しかも…… ゲラットの言う通りだったわね」

 

 「意外と見たら何となくとはいえ、わかるものですな」

 

 ゲラットは俺に視線を向けながらヘルトルーデと言葉を交わしている。

 目の前のソファーへマルティーナと共にヘルトルーデの対面に腰を落ち着ける。アンジェリカは堂々と立っていた。

 ヘルトルーデがゲラットに耳打ちした後にゲラットは退出していく。それを見届けた後に俺はヘルトルーデに声を掛けた。

 

 「何人かに絞っておいて後は見比べて確認か…… ファンオースは熱心ですね」

 

 「ふふ、貴方は危険ですから、体調不良にでもなっていただかないと安心できないわ。それに王都でヘルツォークの名前で動き過ぎよ。諜報員も何事かと思って熱心にもなるわ。しかも偽物だったんだもの。怪しくて裏を取りたくなるじゃない?」

 

 アンジェリカと俺をチラチラと見るんじゃない。アンジェリカもマルティーナも怪しげに俺とヘルトルーデを見出していた。

 

 「お兄様のこの体調不良はあなた達が?」

 

 マルティーナがブチ切れないように、身体を寄せて密着するように腰を抱いておこう。

 

 「ええそうよ。ヘルツォークのお姫様。獄火抱擁の祝福をあなたのお兄様には受けて頂いたの」

 

 「あの禁止された呪具を使ったのか!?」

 

 アンジェリカが激昂する。騎士達が剣の柄に手を掛ける。ヘルトルーデはそれを手で制していた。

 え、何それ? ちょっと格好いい。しかも我が妹様はついにお姫様になってしまった。いや、まぁ、皮肉なのは知っているが。

 

 「姫? それよりもアンジェリカさん、獄火抱擁の祝福とは?」

 

 ティナはアンジェリカに質問するが…… 何だろう、格好いいからこそあまり聞きたくない気がする。絶対に碌な内容じゃなさそうだ。

 

 「まぁいいじゃないかティナ。それにヘルトルーデ王女、ホルファート王国では内密な件が多いのでその辺で勘弁してくれませんか」

 

 「あら、ヘルツォークがファンオースの分家だって事、今のホルファートは忘れてしまったの? 随分と寝惚けた話ね。アンジェリカまで…… ヘルツォークも報われないわね」

 

 元を正せばお前らのせいだろうが! ニコニコしながら俯き加減で悪態をつく。感情の高ぶりでティナの腰を強く抱いてしまう。

 

 「ぅぁん、お、お兄様!? あ、あのファンオースの分家って? 本当なんですか!」

 

 「おいエーリッヒ、私も知らんぞ」

 

 2人が食いついたが、それを面白おかしそうにヘルトルーデは見ている。この欠食児童が! まぁ背は普通よりちょっと小さいぐらいか。つるぺったんとはいえ、細い腰と脚は最高だがな! 

 

 「僕の口からは言えないんですよね」

 

 基本的にはホルファートとヘルツォークのそういう取り決めだ。

 でも次期当主に対していつ話していいかまでは決まっていない。俺のイレギュラーの件はその歪で押し通せるが、でも率先して喋ってはいけないだろう。 

 

 「あらそう。ヘルツォークはファンオースが独立する前に設立した分家なのよ。ファンオース公国初代の次男に連なる直系の血筋ね。ヘルツォーク内でファンオースの血を途絶えさせないために、ファンオース公爵家に連なる血筋を遠縁も含めてかなり残したわ」

 

 ヘルツォーク領内にある古い家は、元を辿ればファンオース公爵家の血に行きつくというわけだ。途中で交わった寄子の準男爵家達も王国の直臣とはいえそうなるだろう。

 そういった意味では、先代の時から寄子で婚姻をしていたヘルツォークは、ヘルトルーデと同程度で血は濃いのかもしれない。

 いや、確か先代もヘルツォーク領内の陪臣から妾にした女の子供だったか。曾祖母、祖母、母にはファンオース公爵家の血が入っている。

 

 「ティナ、これは当主しか知らない事項なんだよ。僕の場合は知ったのが大分前だったからね。エトにはもう引き継いでいる。寧ろファンオース公爵家の血は、ヘルツォークのほうが濃いのかもしれないな」

 

 遠縁同士の婚姻とはいえ、ヘルトルーデよりも濃いかもしれないのは皮肉だな。しかし爵位以上にヘルツォークの血は高貴なのも皮肉を加速させている。

 

 「そ、そうですか……」

 

 安心させるようにマルティーナに優しく言う。この程度であれば、まぁそうですかで済む話だ。酷いのは王国との密約だからな。

 

 「確かに興味深いが、古い話には色々とあるのだろう。しかしヘルトルーデ、公国の国力で本気で戦争をするつもりか? 今回の一件、小競り合いでは済まないぞ」

 

 社交辞令の様に興味深いと喋るアンジェリカには、古いヘルツォークの成り立ちにはそこまで興味が惹かれないだろう。当然の反応とも言えるが、しかしアンジェリカが指摘するようにヘルトルーデは宣戦布告をしている。このモンスターの数で戦争を進める算段というわけか。

 

 「えぇ勝つわ。確かに覆しがたい国力差があるけど、外の景色でまだ気づかないかしら?」

 

 「モンスターを従えていたな。それだけで王国に勝てるとでも?」

 

 そう、確かにモンスターは脅威だが、でもそれは生身の場合だ。鎧や飛行船であれば割と楽に殲滅できる。たとえヘルツォーク艦隊でもあの数なら一時間もあれば可能だ。

 ファンオースの飛行艦隊は脅威だが、しかし数十隻しか目視できなかった。恐らく五十隻には届かないだろう。

 

 「えぇ勝つわ。何故なら――」

 

 「殿下、それよりも人質の件を」

 

 ヘルトルーデの話を側に控えていた重鎮らしき壮年を過ぎた貴族男性が遮る。おそらくゲラットと同程度には身分が高いだろうと感じられる。

 家紋などがあれば、ファンオース内のどこの家かは大体わかるが、目立つような場所には身に付けてはいない。

 

 「そうだったわね」

 

 ヘルトルーデの言葉に身構える様にアンジェリカは緊張しているが、俺は嫌な予感しかしない。

 

 「私の投降で見逃すのでは?」

 

 「面白いことを言うのねアンジェリカ。ゲラットは一度でも見逃すなんて言ったかしら?」

 

 アンジェリカはヘルトルーデの言葉に心痛な面持ちで目を閉じている。大方男爵家以上の子弟を人質にするつもりで、後は沈めるとでも考えているのだろう。

 停戦時の賠償交渉には人質が有効だ。捕虜返還のために貴族の子弟であれば相手から相当に金銭を踏んだくれる。しかしファンオース公国はとにかくホルファート王国を憎んでいる。

 20年前攻め込んだのは王国だが、その際捕らえられた王国兵や貴族の捕虜などはほとんど返還されなかった。王国は金額と引き換えになった捕虜に対してはもちろん返還したが、公国は捕虜交換にも応じなかった。

 親父の考察でもあるが、王国と公国のお互いが結局大半の捕虜を鉱山送りで始末した結果となった筈だ。

 外交で戦争をしているのではなく、間違いなく憎しみでお互いが戦争をしている。度合いはファンオース公国のほうが大きそうだが。

 

 「私は思うの。人質は貴女1人で十分」

 

 「馬鹿な!? 男爵家以上の子弟だぞ! 人質に取らずに殺すというのか!」

 

 ボーっとした頭でアンジェリカの荒げる声を聞いてはいるが、やはりと納得しつつも俺とマルティーナは別扱いか。

 

 「ヘルツォークの御息女は戦利品なので返しはしないわ。あぁ、六芒星(ヘキサグラム)の赤い悪魔さんも戦利品ね。その体調不良もそのうち何とかしてあげるわ。だからマルティーナさんもお兄さんの身が大事なら従いなさい」

 

 俺はマルティーナの肩を借りて頭を預けながらヘルトルーデを眺めている。マルティーナの腰に回した手の指を使い、マルティーナの腰をリズミカルに突いて信号を用いて意図を伝える。

 

 (合図があるまで従順に、合図後は侍女を攻撃。俺は兵士を無力化。変更の場合は追って指示する)

 

 「わかりました。わたくしは従います」

 

 ヘルトルーデと俺へマルティーナは同時に了承を返した。念のために俺の腰骨あたりをマルティーナは“了解”と伝えてくる。

 

 「あぁ、そうね…… ヘルツォークのお二人さん、もしファンオース公国に従うのであれば、ファンオース内であなた達2人が家を興して貰っても構わないわよ。()()の血筋は本当に貴重よね。ふふふ、よく考えておくといいわ。アンジェリカ、貴女にはこれから全てを見せてあげる。ここから王国が滅ぶさまを」

 

 退出していたゲラットは予め耳打ちされた時に指示があったのだろう、既に使者として豪華客船に向かう小型艇に乗っているのが遠目に確認出来た。

 

 (お、お兄様、ここは大人しくファンオースに従いましょう! とてもいい案のような気がしてきました!!)

 

 マルティーナの指が非常に五月蠅い。トントントントン俺の腰骨を叩きだす。

 

 (却下だ。そう旨い話は無いぞ…… クラリス達を死なせるわけにはいかないだろう?)

 

 (それは確かにそうですが……)

 

 指先から名残惜しさを感じるが、マルティーナはヘルトルーデに対して質問する。

 

 「嬉しい申し出ですが、ファンオースはヘルツォークの事が嫌いなのでは?」

 

 俺の意図を組んでいるようではあるが、マルティーナは少しがっかりしたような声色をしている。

 おい妹様! ヘルトルーデの提案にまだ惹かれているんじゃないだろうな?

 

 「そうね。年寄りたちはそう…… でも、私達は若いわ。そうではなくて?」

 

 その問いには俺がヘルツォークの意図を交えて答える。

 

 「難しいだろう。僕自身は古い考えの人間だ…… 後10年、お互いに戦わなければあるいは。しかし君たちは宣戦布告した。遅かれ早かれヘルツォークには出陣要請がなされる…… はぁ…… しまっ!?」

 

 苦しさを吐き出すように一息つくが、そう言ってからしまったと気付くがもう遅い。

 

 「そう! それなのね。こんな辺鄙な場所でさえ…… 毎回場所が違えど前線に出てくるヘルツォークに辟易としていたけど、あぁそういう! まったく憎しみと共に同情もしてしまうわ」

 

 俺の言葉に目を見開いてヘルトルーデは反応し、そして笑みを深めて確信の表情を楽しそうに浮かべた。

 ぐっ、相当熱に浮かされているっ!

 王国内では気にもされていなかったが、ファンオースでは疑問に思われていたか。いや、王国でも王宮の一部では気付いているだろうが、この女も若いとはいえファンオースのトップのような人物だ。

 こんな無茶な宣戦布告に使われるから、ただの捨て駒だと思っていたが優秀じゃないか。

 

 「どういうことだヘルトルーデ? ヘルツォークにファンオースとの血縁以外に何がある?」

 

 アンジェリカは素直にわからない部分を姿勢よく見下ろしながら聞いてくる。風格としては女王に相応しいと頭痛を堪えながら、ついやけくそ気味になりそうな気分を何とか抑え込む。ヘルトルーデが厭らしい笑みで見つめてくるが、これ以上失言するわけには。

 

 「はぁ、ティナ激怒しないように。最初に言ったようにこちらからは何とも」

 

 マルティーナは一応俺の言葉に頷くが、要領を得ていないのが丸わかりだ。どこまで効果があるかわからないが、ティナの腰を強く抱いて俺に意識を割くようにと力を少し込める。

 

 「んぅ、はいお兄様」

 

 ヘルトルーデはほぼ確信に至っているだろうが、それをアンジェリカに愉快だとでも言うように披露した。

 

 「ラファなのに知らないとはね。アンジェリカ、何故ヘルツォークが場所も遠いというのにファンオース公国との争いに駆り出されていたと思う? しかも20年前の王国の侵攻では、ヘルツォークも相当被害を被っていたわ。ねぇ、王国からヘルツォークに対して補償は出されたのかしら?」

 

 どうせファンオース公国も調べて知っている筈だ。俺は首を横に振り、マルティーナも同様に首を横に振る。

 マルティーナとて20年前のファンオース侵攻戦で、ヘルツォーク軍の被害と領内のその後についてはよく知っている。

 

 「馬鹿な!? 王国からの要請だぞ。戦果や配属先の空域によって恩賞があったはずだ!」

 

 アンジェリカは俺とマルティーナが否定した事により驚愕を露わにした。

 

 「勲章は貰ったね。父上や従軍した兵士達は…… 以上だね。こちらは軍艦級飛行船二十隻が出陣、十隻が撃沈。判定で言えば全滅だな」

 

 戦果による褒賞金は無し。もちろん遺族賠償などはヘルツォークが自領の領民達に支払った。それらの補填すら王国はしない。戦費も全て自分達で負担した。

 少し投げやり気味にアンジェリカに伝えるが、出陣数に被撃沈数は公式記録にあるから俺の口から喋っても問題はない。

 

 「そんな!? それはいくら何でも――」

 

 アンジェリカの言葉をヘルトルーデが遮る。

 

 「酷いものですねアンジェリカ。確か20年前よりも前の戦争でもヘルツォークは二十隻ではなかったかしら? 王国はヘルツォークに軍艦級二十隻前後の出陣を戦後の費用も自費で強要しているのね。何があろうと…… おそらく守らないとヘルツォークは相当ペナルティ、いえ、ヘルツォークに対してペナルティを課す事が出来るような余地などそもそもなかったわね。ということは――」

 

 酷い言われようだが、諜報員はヘルツォークの情報も調べているのだろう。さすがにそれなりの大きさの国だな。いや、ファンオースだからか。

 

 「で、では何だと言うのだ? エーリッヒ…… ヘルトルーデから聞いたことにする。喋ってくれ!」

 

 今度はアンジェリカが勿体ぶった様な言い方をするヘルトルーデを遮る。

 ヘルツォークに興味を持ってくれたようで嬉しいよ。

 

 「大丈夫よアンジェリカ。私が言うわ。ヘルツォークの長い冷遇と一見不可解で理不尽な王宮からの出陣要請。そこから推測すると…… 何かしらの約定をヘルツォークが破ると王国軍出動案件、要は討伐軍が編成されるわけね…… だから唯々諾々とヘルツォークは王国の要求に従っている。しかもその約定、ただヘルツォークが一方的に搾取されるだけのものでしょう。……本当に同情で掛ける言葉もないわ」

 

 言葉通り本当に同情しているのだろう、ヘルトルーデは黙祷するように目を閉じた。

 

 「お、お兄様っ!?」

 

 マルティーナもエルンストのように理解が早いね。

 今は上体を起こしてマルティーナに肩を貸して抱きしめてやる。俺の態度で肯定だと理解したのだろう、口惜しさとやるせなさでマルティーナから嗚咽が漏れている。

 今ぐらいはしっかりと受け止めてやるさ。

 

 「ふぅ、ヘルツォークはさ、王国の貴族じゃなくて、弱い、それはもう王国からしたら吹けば飛ぶような小さくて弱い隷属国のようだね…… 国境でも十分磨り潰されているというのに。ねぇ、ラファのお姫様……」

 

 ()を苛めるつもりはなかったが、もう一人の()の心も守らなければいけないから、アンジェリカには少し申し訳ないかな。

 まぁ密約の件は、ヘルトルーデが喋ったという事で納得してもらえなければ、一応はヘルトルーデの推測だが最悪俺の首で勘弁してもらおう。

 アンジェリカは俺の漠然とした物言いを正しく肯定と取ったのだろう。涙を瞳に湛えてくれた。

 

 「い、いつから知っていたのだ。エーリッヒ……」

 

 アンジェリカは涙を堪える為か少し言葉が途切れているな。

 

 「13歳の頃からだね。まぁ、あそこは日々が精いっぱいだった。だが、上手いこと改善した…… 出来たんだ。もうそこまで気に病むことはないさ。ティナもそれでいいね」

 

 「でも! お兄様がいなければ既にヘルツォークは消滅していました!! それを…… ただ過去だと流すのですか?」

 

 少し言いすぎだな。でもそれには上手く答えることが出来ないので、一度頭をもたげて訴えたマルティーナの頭をもう一度優しく抱いて肩に埋めさせてやる。

 

 「王国は貴方に最大限の敬意を払うべきね。そう思わないアンジェリカ? もちろんファンオース公国は、最大限の警戒と畏怖を偽物である貴方に抱いているわ。本物よりも余程ね」

 

 アンジェリカは目を瞑り俺の肩に手を置いてくれる。お前もか…… 仕草が()()()()じゃないか。

 

 「光栄だね。ヘルトルーデ王女」

 

 そして俺は覚悟を決める。

 あのふざけた密約はそもそも何処へ対してだ? ファンオース公国だ。

 何だ、ははは、行けるじゃないか。宣戦布告はヘルツォークにも丁度いいという事だ! この世代で終わらせてやれる。

 そうすればもう、ヘルツォークがホルファート王国に理不尽に疲弊させられることは無い。

 喜ばしいじゃないか! 決着をつけてやる、このおれが! この偽物の手で! そうすれば、ヘルツォークに痛手は無いという事だ。

 それにどうも()()をファンオース公国は嘗めているようだ。お前らとの戦争も前線で生き延び、それに乗じたラーシェル神聖王国も跳ね返した当代の若きエルザリオ子爵と先代。

 20年前の戦争で疲弊したヘルツォーク領を再建した、当代の円熟の域にあるエルザリオ子爵を王国も含めて皆が侮りすぎだ。彼に比べれば十分に俺は偽物だというのに。

 

 左肩に置かれた手のぬくもりと右肩に埋められた熱が、エーリッヒ・フォウ・ヘルツォークの対ファンオース公国戦への決意を強固にさせるのだった。

 




実はエーリッヒに関するネタバレ的な物を投稿しようかと思いましたけど、もう少し待とうと思いました。
実父バレしたのでもういいかな?と思ったのですがね。

2学期か3学期が終わったら登場人物紹介をするのでその時か、その内活動報告で先行公開するかもしれません。

内容はけっこう笑えます!多分

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