乙女ゲー世界はモブの中のモブにこそ、非常に厳しい世界です   作:N2

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本日投稿は2話目になります。
前話からが本日投稿ですので、最新話をクリックされた方は、前話から見ていただければ幸いにございます。

リオンの煽りをマシマシにしてみた(笑)

52話の題名を自分でつけたのにいつも「ララァ」と読んでしまう私は手遅れかもしれない。


第54話 奮起せよ

 クリスが呼びかけて生徒や船員の代表者が集まった一室。

 広間に登場したリオンは途中で船員から購入したショットガンを持っている。絶望が心中に浸み込みだした者達が多いのだろう、俯いている姿が多数見られた。

 広間にある階段の中央で演説するクリスを、リオンはショットガンの弾を確認しながら見ていた。

 

 「全員が助かるためには戦うしかないと判断した。皆、力を貸してくれ」

 

 リオンは階段に腰かけて見ているが、クリスに対して罵倒が浴びせられる。

 

 「調子に乗るなよ1年が!」

 

 「お前はそこの屑野郎にあっさり負けたくせに!」

 

 「大体アンジェリカは一人だけ助かったじゃない! ヘルツォークは物扱いだけど命は無事よね。情けないにも程があるわ!」

 

 「公爵令嬢がヘルツォークをファンオースへの手土産にしたんじゃない?」

 

 「何であんな奴等が手土産に…… あぁ、愛玩動物ね。どっちも見た目は抜群だから。兄は王女様に腰振って、妹は有力者に股開くんでしょ。いいわよねぇ、イケメンと美女は!」

 

 その時、轟音が一室に鳴り響いた。

 リオンが引き金を引いた弾がヘルツォーク兄妹を馬鹿にした女子生徒の足元に着弾した音だ。その女子生徒は驚きで腰を抜かしてしまう。

 漏らしちゃえばいいのに、というヘロイーゼの呟きは愛嬌だ。

 

 「ちゃんと使えるな。このショットガンは」 

 

 リオンはショットガンを弄りながら、自分を屑野郎呼びした男子やアンジェリカを馬鹿にした女子達を睨みつける。相手はコソコソと隠れてしまったが、顔を覚えたリオンは復讐を心に誓った。

 しかし修学旅行で3年生から1年生までが揃っているこの状況では、クリスが先頭に立つには少々物足りない。後輩の指示に従うには実績も足りていない。

 クラリスとて2年生であるし、実技はそれほど得意ではない。

 それにリオンもクラリス達はエーリッヒ手配の駆逐艦で逃げてもらって構わないと伝えてある。

 駆逐艦はエーリッヒの私費での護衛であり、エーリッヒの意向もそこにあるためリオンも文句は言わない。しかもエーリッヒ自身はファンオース公国の旗艦に態々自分から赴いたのである。リオンもエーリッヒの意向ぐらい叶えてやりたいのが心情であった。

 リオンが思いを馳せて考え込んでいると、普通クラスの生徒達はこれから死ぬかもしれないという状況で、普段の序列など何の意味も無いとあからさまな態度を取る奴も出てきている。

 

 「戦うだってよ。上級クラスの男子様は偉そうだよな。命令すれば誰もが言う事を聞くと思っているのか?」

 

 「偉そうに命令しているけどそもそもさぁ、剣豪様は廃嫡されて何の権限もないよね?」

 

 女子達も専属使用人達と言い争いを始めた。

 

 「ちょっと命令に従いなさいよ!」

 

 「五月蠅いぞ小娘! この状況で今更お前の命令になんて従えるか!」

 

 騒がしくなっている場を見て、そろそろ頃合いかと見定めてリオンは腰を上げる。

 

 「ガタガタ五月蠅いんだよカス共が!」

 

 リオンの言葉の次に天井に向けて発砲した轟音が響き渡り、騒いでいた者達は静まり返ってリオンに視線が集中する。

 向けられる視線は恐怖や憎悪、不安といった感情が込められていた。

 

 「よく聞け、俺は正式に男爵位を持つ騎士だ。おまけに五位下。引率している教師達よりも実質的に立場が上だ。わかる? その俺がお前らに命令してやるよ。戦え。死にたくないなら戦え」

 

 リオンの言葉に影の薄い教師陣が視線を逸らす。教師陣も一応は貴族であるが身分はそれほど高くない。一代限りの騎士爵がほとんどだ。男爵として既に叙爵されているリオンやエーリッヒよりも身分が高い教師は学園長ぐらいのものだろう。

 しかしこの極限状態では、リオンの物言いに反発する誰かしらも存在した。

 

 「ふ、ふざけんな! お前らで戦えよ!」

 

 「あぁ、俺は戦うよ。何しろ俺は本物の貴族だからな。お前ら似非貴族とは違うんだよ」

 

 公国の使者を何倍にも煮詰めたような嘲った表情でリオンは全体を見渡す。

 リオンの言葉で眉間に皺を寄せて前に出てきたのは3年生の女子だった。

 目立つ豪奢な金髪をドリルのように巻き髪にしており、メリハリの利いた身体に高いヒールを履いて見下ろすような姿は、正に女王様といった風格がある。

 赤い口紅に気の強そうな顔付きは女王様のテンプレートといった所だが、少々アンジェリカよりも安っぽく感じてしまうのは、個人的な付き合いの差異だろうかとリオンは考える。

 

 「似非貴族ですって? 伯爵家出身の私に対して無礼ですわね」

 

 3年生という事もあり、その女子がこの中でアンジェリカに次いで実力があるのだろう。2年生のクラリスは静かに佇んでこの3年生の女子の様子を伺っている。クラリスの落ち着き払った態度によって、ヘロイーゼやナルニアは安心して場の推移を見ていた。

 男子も同様に黙ってしまうが、リオンやクリスに逆らっても女子には逆らえない学園男子の悲しい性が窺えてしまった。

 

 「誰だよ? お前は」

 

 「わ、私を知らないですって!? 私は、ディアドリー・フォウ・ローズブレイド。ローズブレイド伯爵家の娘よ!」

 

 ローズブレイド伯爵家は有力な領主貴族だ。

 当然リオンも聞いたことはあるが、無視して続ける。

 

 「あぁ? 知らねーよ。薔薇剣だかローズヒップティーだか知らないが、お茶じゃねーんだよ! 今のお前に薔薇の芳香剤以上の価値があるの? この偽物が!!」

 

 「なっ!? 無礼にも程があるわ! 成り上がり風情が! 言うに事欠いて偽物ですって!!」

 

 リオンは笑みを深めて右肩にショットガンを担ぎだし、歓迎するように左腕を広げて更に挑発を行う。

 

 「はっはっは、お前の家がどれだけ凄かろうがお前は偽物だ! そしてっ! 俺は成り上がり者だが本物だ! 本物の冒険者だ!! 冒険で成功した本物の貴族だ。偽物共が偉そうにしていい相手じゃぁ、ないんだよ」

 

 リオンは表情を笑みで歪めて罵る。

 それはこのディアドリー伯爵令嬢だけではなく、一室に集まった全員に対してだ。

 

 「男爵風情が粋がるな! 我が伯爵家は王国に広大な浮島を献上し、そして数々のダンジョンを攻略して踏破してきた名門中の名門よ! お前程度が比べるのも烏滸がましい家だと知りなさいっ!」

 

 先程とは一風変わってリオンは、ディアドリー伯爵令嬢に拍手を捧げだした。

 

 「素晴らしいディアドリー先輩。お前の先祖は英雄だ。大変な功績だ」

 

 「覚えておくのね。貴方程度の活躍ではローズブレイド家の足下にも及ばないという事を」

 

 エーリッヒが聞いていたら、どこかで聞いたことがあるセリフだという突っ込みが入るだろうが、それを知らないディアドリー伯爵令嬢はふんぞり返る。

 その憎たらし気な姿にリオンは内心喝采を上げていた。周囲の感情を煽り高ぶらせるのにこんなに適任な人物はいないと。

 リオンは肩に担いだ右腕も広げて歓呼の声を上げる。

 

 「あぁ、あぁ! 本当に素晴らしいぞ! お前の先祖は本物だ――」

 

 その声に更にディアドリー伯爵令嬢は得意下に大きな胸を反らせるが、次のリオンの言葉で愕然とする。

 リオンは悼むような表情に切り替えて演説するように続ける。

 

 「――でも悲しいだろうな…… 何しろ子孫が腰抜けの卑怯者だから。きっと草葉の陰で泣いているな。公国に怯えて震えているお前らは、偽物以外の何物でもないっ!!」

 

 「な、何ですって!?」

 

 「はぁ? 違うのか? お前らアンジェがその身を差し出した時にどうしていた? 安堵していた奴もいたよな。黙って嵐が過ぎるのを待って…… 挙句に殺されるとわかったらアンジェを罵った。どいつもこいつも臆病者の卑怯者だ!! いや、卑怯なんて上等なものじゃない。小賢しい似非貴族で十分だ!」

 

 「と、取り消し――」

 

 「嫌だね」

 

 ディアドリー伯爵令嬢の言葉に被せて笑みを浮かべながらリオンは否定する。

 

 「殺されそうな状況ですら抵抗もせずに文句や泣き言ばかり垂れ流しているお前ら。先祖は苦労して成功した冒険者や戦争功労者だろうが! なのにお前らにはな~んにも価値が無い! 大空に飛行船で旅に出た勇気も、ダンジョンを攻略した知恵も、モンスターを屠ってきたその力も、全部受け継げずにそこらにほっぽり捨ててきた情けない出来損ないがお前らだ」

 

 リオンのバルトファルト家だが、冒険者としての功績は何一つとして無く、戦争で功績を挙げて浮島を得て貴族となった。

 実は王国建国に関わる冒険者の血筋ではあるが、リオンはそのことについて知り得てはいない。

 あまり気にもしないだろう。そもそもリオンは先祖や血筋をそこまで重視していない。

 しかし、今は皆を戦いに赴かせる気概に火を点けるためにそこを重点的に攻撃する。

 周囲の学園生達の中には、拳を握りしめている者達も出始めていた。

 

 「公国の使者は正しかったな。お前らには冒険者の末裔である貴族の意地も無ければ誇りすらない。先祖の功績に縋るだけの情けない偽物ばかりだ。おいおい、似非貴族の見本市じゃないだろうな? ここは。いやまったく、揃いも揃って攻撃されると聞いて怯えて何も出来ない腰抜けばかり。きっと偉大なご先祖様達は泣いて…… いや、いやいや、笑うな! これは――」

 

 ガツッと床を蹴りつけてリオンを睨みだすほど怒気を纏い始めた生徒達が出始めている。

 

 「大喝采だよ! 抱腹絶倒とは正にこの事だ!! あーはっはっはっ! 俺の子孫は情けないってなぁああ!! 貴族と名乗ってはいるが、俺の末裔ってだけが取り柄の情けない奴らだって笑っているさ! くくくくく、ふふふははは、はーはっはっはっはっは」

 

 リオンは笑い過ぎて涙が出てきたため指先で拭うが、その行為すらも周囲の生徒達を煽る燃料となっていた。

 

 「いやぁ、俺も笑わせてもらったよ。ほんと…… だって頑張って貴族になった素晴らしいご先祖様の跡取りがお前らなんだもん。抵抗もせずに公国に負ける根性無しに全部無駄にされるんだからな。先祖の功績を情けなさで上書きするお前らって何なの? あぁ、言わなくていいぞ、すぐに答えを教えてやる。貴族の面汚しだっ!! 親類縁者は皆お前らをこう呼ぶんだぞ!! うわはははははははは! エンターテイナーも真っ青の滑稽さだよお前らは!!」

 

 リオンの暴言に近い物言いに対して、ついに周囲の怒りが噴出しだした。

 

 「ばっ馬鹿にするな!? 俺はっ! 俺は先祖に恥ずかしい思いなんかさせない! 家名に泥を塗ってたまるかよ!」

 

 クラリスは煽りすぎだとリオンに内心溜息を吐きつつも見守り、同じようにオリヴィアは内心では、周囲の憎悪を集めるリオンを心配していた。

 少ない人数ではあるが、リオンを心配する面々を無視するように更にリオンは笑い出す。

 

 「ご立派な心意気だが、ここで何もしないなら同じことだ。胸に手を当てて聞いてみろ。聞こえないか? お前らに流れる先祖の血が、情けないって笑っている声が。あぁ、多分こんな感じだ。お前らの先祖同士が、あまりにもお前らが情けなさ過ぎて、逆にどっちが情けないか笑いながら賭けをしだしているな! くくく、情けなさを競われるお前らとかって、マジでウケるんですけど」

 

 プークスクスと笑うリオンの言葉に青筋を浮かべながら、多くの者が胸に手を当てだしている。中には貴族ではない船員や亜人の専属使用人達まで出る始末だ。

 

 「なぁ、聞こえるだろう賭けに興じるご先祖様達の笑い声が。それとも中には悲しむご先祖さまや呆れているご先祖様もいるだろうな。それで最後にこう言うんだ。……喧嘩を売られてビビッて逃げる臆病者には用はない! ってな」

 

 リオンに言い返せるような気概を持った者は既にいなかった。皆が苦虫を嚙み潰したような表情をしており、中には悔しくて涙を流す者まで現れた。

 

 「お前らの御先祖様はこうも言っているなぁっ! 40℃の熱を抱えながらも、颯爽と公爵令嬢を庇う様に前に出た本物の騎士には、喝采を! 誇りと栄誉ある喝采を! ……敵陣深くに潜り込むその胆力には感動を禁じ得ないとな!! それを貶す奴は子孫だろうが何だろうが、そもそも貴族の風上にもおけねぇんだよっ!! あぁ、でもお前らみたいなカス共はヘルツォークを心配なんかするんじゃねぇぞ。ヘルツォークに無礼すぎてその脳天ぶち抜いてやるからなっ!! 何でいつもいつもヘルツォークを馬鹿にする奴等のために、あいつはっ!! あいつは敵陣潜入なんてしなくちゃならないんだよ…… なぁ、あいつは偽物らしいが、お前らは何だ? ヘルツォークに比べたら、ブヒブヒ言うだけの糞五月蠅い家畜擬きじゃねぇか!! 本物なら根性を見せろ! 公国にいい様に弄ばれ、死ぬのを待つだけの情けない死に方が望みなのかっ!! せめて家畜じゃなくて人間になって見せろっ!!」

 

 右手を上げて振りかざし、感情を薙ぎ払う様に更に右腕を横に勢いよく振るリオンをディアドリー伯爵令嬢は見つめている。

 クラリスは黙って涙を流し、ヘロイーゼやナルニアは咽び泣いていた。

 

 「ふん、ローズブレイド家の娘が、こんなところで何もしないで死んだなんて恥ずかしいわね。皆、このままこいつに言わせていいのかしら? この成り上がりが言うように、本当にご先祖様達に合わせる顔が無いわよ!」

 

 ディアドリー伯爵令嬢に発破をかけられるかのように男子達から声が上がる。

 

 「舐めんな糞野郎! 誰か武器持ってこい!」

 

 「1年がっ! 俺らがどれだけダンジョンで鍛えたと思ってんだ。先輩との実力差を見せてやるから覚悟しておけよ!」

 

 「偉そうにペラペラペラペラと! 言われるまでもねーんだよ!!」

 

 「てめぇ! ペラ回すだけで大したことなかったら、ぶち殺すからなっ!!」

 

 (最初から本気を出せよ馬鹿どもが。最後にディアドリー先輩に持ってかれた気分だな)

 

 男達のやる気が凄まじい様子を見せており、やはり女子に叱咤激励された方が男子は動くのだなとリオンはげんなりとしながらその様子を見ている。

 

 「ここまで言ったのだから当然策はあるのでしょうね? 本物の貴族様はこの状況を打開できるのかしら?」

 

 ディアドリー伯爵令嬢はリオンを探り、試すように質問してくる。

 

 「馬鹿共、よく聞け! お前らに小難しいことを言っても時間も無いしわからないだろうから説明は無しだ。いいか! 狙うは正面突破! 公国の旗印、ただ一つ!」

 

 拳を握りこんで吠えるリオンに対して、周囲から本気なのか? と戸惑うような言葉が飛び交う。そんな中ディアドリー伯爵令嬢は、あまりなリオンの作戦に笑い声をあげた。

 

 「おーほっほっほっほ、いいわ。貴方凄くいい! それから何で女子は誰も声を上げないのかしら? ここで逃げるような腰抜けは、私が絶対に許さないわよ!」

 

 女子達もディアドリー伯爵令嬢の言葉に、渋々ながらも覚悟を決め出していった。

 

 「さて、正面突破はわかったわ。貴方は何をするのかしら? 大口叩いたのだから、さぞや立派な活躍をしてくれるのでしょうね?」

 

 ディアドリー伯爵令嬢の強い目力は、何もしないなら許さないと語っている。

 

 「当たり前だ。エアバイクで先陣を切ってやる」

 

 「は? エアバイクですって!? 貴方死ぬつもり?」

 

 外はモンスターの群れに公国の飛行船が一杯であり、鎧も沢山出てくると思われる状況である。そこをエアバイクで突撃する馬鹿は歴史上存在しない。

 

 「助けたい人がいる。ついでに旗印をかっぱらって公国の艦隊を笑ってやるのさ」

 

 「アンジェリカを? 貴方はアンジェリカの取り巻きではないでしょうに」

 

 ディアドリー伯爵令嬢の言葉にリオンは優しい笑みを浮かべて答えた。

 

 「男なら一度くらいはお姫様のピンチに駆け付ける騎士になりたいと思うだろ。俺、お前らは見捨ててもアンジェは見捨てられないわ。俺にとって良い女だからね。それに高熱のあいつはマルティーナさんで精一杯だろうから。そもそもお前ら女子は少しはアンジェを見習えよ」

 

 ディアドリー伯爵令嬢は爪を噛んで不満を露わにする。

 

 「私に向かって他の女が良いなどと…… 初めて言われたわ」

 

 「皆気を遣っていたんだよ。ほら、お前らも準備しろ。時間がないぞ」

 

 リオンはエーリッヒがアンジェリカに付いていく事を意図せずとも譲ってしまった。それが負い目となっているが、エーリッヒが高熱の自分が残るよりもリオンが残った方がいいという判断も理解している。

 この腐りきった乙女ゲーの中で、1人で勇気を見せたアンジェリカと純粋にアンジェリカを心配するオリヴィアはリオンにとって眩しい存在だ。

 2人を助けられなければ一生後悔するだろうとリオンの胸中では確信する。

 そんなリオンをディアドリー伯爵令嬢は見つめて口を三日月に歪め笑い出した。

 

 「躾のなっていない犬。その太々しい態度。貴方はいいペットになるわよ。アンジェリカのお気に入りでなければ、私が側に置いたのに」

 

 リオンの背筋を悪寒が走り抜ける。

 あまり深く付き合ってはいけないタイプだとリオンは認識するのだった。

 

 

 

 

 ルクシオンが整備改良を施したエアバイクであるシュベールトに乗るためリオンは着替えていると、ルクシオンはリオンに報告をした。

 その内容にリオンも目を窄め出す。

 

 「裏切者がいる?」

 

 『はい。調査の結果、アンジェリカの取り巻きの女子2人が公国に居場所を教える行為を行っていたようです』

 

 アンジェリカの取り巻きの顔はリオンも覚えていた。まさか取り巻きが裏切るとはとリオンも驚いてしまう。

 

 「本当か? 公爵家を敵に回すなんて馬鹿だぞ」

 

 『現在公爵家は、ユリウスの失脚で王宮内における政治的立場をかなり弱めています。離反者、要は裏切り者が出てもおかしくない状況です』

 

 「ふぅ、政治ってやつか…… 俺には興味が無いな」

 

 着替え終わったリオンは、溜息を吐きながらショットガンを手に取り、反対の腕にヘルメットを持つ。

 

 『放置しますか?』

 

 「案内しろ。アンジェを助ける前に締め上げる」

 

 『船員達に声を掛けるべきです。この船には牢屋がありますので、そこを利用するべきかと』

 

 「わかった」

 

 これからアンジェリカを助けつつファンオース公国とも戦う。裏切者がいては面倒ごとになるだろうと考え、リオンはルクシオンの後を付いていった。

 

 牢屋の中には2人の女子が入っており、船員に指示してこいつらの専属使用人は別の牢屋に入れられていた。

 

 「待ってよ! 誤解なの! 助けて!」

 

 「私達は家に指示されただけでわからなかったのよ!」

 

 彼女達が助けを求めるのは、同じ取り巻きの仲間達だったが、彼等を取り囲む船員達が手に武器を持って警戒している。

 

 「お、おい、嘘じゃないのか? だってこいつらは、子供の頃からお嬢様の遊び相手だったんだ。そんなこいつらが裏切るなんて……」

 

 リオンは手に持っていた筒状の道具を放り捨てた。その道具を見て女子達は顔を青褪めさせて落ち着かない様子を見せるのだった。

 

 「こいつらの部屋を徹底的に調べ上げた」

 

 牢屋に入れた女子達がリオンを睨みつける

 

 「この変態騎士!」

 

 「どすけべ騎士!」

 

 女子達の罵倒にリオンも頭に来てしまう。

 

 「お前らなんかに興味ねーよ! それに部屋を調べたのは女性の船員だ」

 

 華やかな制服で着飾った客室乗務員である女性達がリオンに従っている。

 

 「いくつも同じ物がありました。説明書らしきものもありましたし、ご存じなかったとは思えません」

 

 牢屋に入れられた女子達が客室乗務員を睨み付けて声を荒げた。

 

 「あんたら覚えてなさいよ。絶対に許さないわ!」

 

 怯える客室乗務員達を下がらせてリオンは鉄格子を蹴って女子達を威圧する。

 

 「その口を閉じろ。ここで頭を吹き飛ばしてやろうか?」

 

 女子2人は怯えて取り巻き仲間の男子を見る。

 

 「やり過ぎだ! この2人が裏切っていたとしても、ちゃんと取り調べを、ってえ!? ちょ、おい、待ってくれ!」

 

 リオンの肩を掴んで抗議した男子にショットガンを向けて告げる。

 

 「お前ら自分の立場がわかってないのか? そんなだからアンジェに避けられるんだよ。いいか、お前らの中に裏切者がいた。意味がわかるか?」

 

 リオンの言葉に竦み出す取り巻き達。ショットガンの銃床部分で取り巻きの男子を殴りつけて尻餅をつかせる。

 

 「死ぬ気で戦え。女だとか男だとか関係ない。お前らは戦って自分達の身の潔白を証明しろ――」

 

 リオンは牢屋で震えている女子達を見て言葉を続けた。

 

 「――こいつらと同じような扱いになりたくなければな」

 

 レッドグレイブ家が裏切者を許す事はないだろうとリオンは考える。

 家は仮に取り潰されても、ただよくわからずに指示だけ受けた女子2人は、実際の所どうなるかはリオンにはわからない。

 しかし、最悪を想像した取り巻きの男子達は、激しく首を縦に振るのであった。

 リオンは後の対処は船員達に任せると、シュベールトのある倉庫へと向かう。

 

 「幼い頃から一緒にいても裏切るのかよ。本当に政治とかって糞だな。せめてアンジェは助けてやらないと」

 

 リオンの呟きをルクシオンは黙って聞いている。

 王宮内の事情にはリオンは疎いが、アンジェリカには同情してしまっている。このような輩を守るためにアンジェリカを犠牲にするのは、リオンには受け入れられなかった。




宝珠を握りしめるのだ! と言ってしまいそうだ。

マシマシは賛否両論ですかね。ちょっと怖いです。

ヘロイーゼちゃんに腰を振りたい。
ちなみに描写はないですが、修学旅行前から両耳の後ろで纏めたゆるふわツインテールという設定です。
ヲルバ=ダイア○ヴァニラのイメージに近いかな。

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