乙女ゲー世界はモブの中のモブにこそ、非常に厳しい世界です   作:N2

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本日の投稿は第56話からになります。
もしこちらからクリックされたならば、お手数ですが、前話からお読み頂けると話が繋がる筈です。


第57話 カジキマグロに乗った王子様

 エルンストは鎧を駆りながら、リオンに後ろから群がるモンスター達を屠っていたところ、ファンオース公国の艦隊の動きに気付いた。

 

 「モンスターごと!? しかし初撃はモンスターに阻まれるぞ?」

 

 公国の軍艦級飛行船達が八の字へ移行しだすのを確認すると、急いで豪華客船の真上に移動する。

 

 「ちっ!? 初撃でモンスターを吹き飛ばして二射目三射目で仕留める気か!! ペーター! 一度我々は豪華客船から散開する」

 

 エルンストがそう告げると光魔法でヘルツォークの鎧達に信号を発した。

 

 「いいんですか? ありゃ、やばいですよ」

 

 ペーターとてファンオース公国の艦隊の動きは目で追っていた。

 

 「一撃目はモンスターの壁で何とか耐えてもらうさ。いいか、私の攻撃後に、あの前列十隻にありったけの実弾をぶち込んでやれ」

 

 鎧の右手を動かして、八の字の右側を指す。そこには前列下部十隻が横腹をこちらに向けているが、上部艦列はまだ態勢が整っていない。

 

 「8機は俺と共に豪華客船の上空で合図があるまで待機だ」

 

 ペーターが8機に通信で伝えて了解と返事が来た瞬間、豪華客船の甲板上から光が溢れ出して包まれていく。そして公国の軍艦から砲撃が火を噴いた。

 公国からの砲撃は、突如として現れた謎の光によって、モンスターもろとも吹き飛ばされていく。エルンストも異様な気配は感じ取ったが、公国の晒した隙を付くために意識外にそんなものは捨て去った。

 

 「砲をっ! 晒したなぁ!!」

 

 下部艦列十隻に向かって、エルンストは小型魔力弾頭を発射する。

 通常魔力弾頭は大雑把な方向だけを決定して、飛行船などに対して当たるに任せるのが通常運用でもあるが、エーリッヒやエルンスト、それにエルザリオは弾頭一つ一つに対して魔力波を使って全軌道操作させていた。

 単純なワンコーナー程度の曲がりならまだしも、全軌道魔力操作のような魔力も使うし神経も使う、そんな無茶苦茶な芸当は、王国内で10人もいるかどうかも怪しい高すぎる戦闘技術である。

 

 「腹ん中で爆散しろっ! ブレンネン(燃えろっ)!!」

 

 その小型魔力弾頭は、飛行船の砲身内目掛けて飛び込んでいくという妙技で、中から食い破られていく事になった。エルンストは丁寧に魔力爆発まで弾頭を通じて起こさせている。

 豪華客船に乗っている学園生達には、その音が砲撃の音か飛行船が爆発していく音かはわからなかった。

 

 「全機攻撃開始、目標は高度の下がらない五隻! 出てくる(やっこ)さんの鎧に注意しろ!」

 

 「はっ! 了解しました」

 

 ペーターが8機に指示を出して9機が全速力で突撃していく。

 未だ火を噴いてはいるが、まだ浮いてる飛行船にエルンストも加えて群がる。

 

 「モンスターにかまけていたせいで、ファンオースの鎧達はやっとこさお出ましか」

 

 ファンオース公国の飛行船に配備されている鎧が、順次上がりだしてきたのを見て取ったエルンストは、飛行船から鎧の迎撃に切り替えるのであった。

 

 

 

 

 黒い煙に包まれながらリオンは前進していると、ルクシオンの声が聞こえてきた。

 

 『あの光、驚きました』

 

 「あぁ、俺も驚いたよ」

 

 黒い霧が晴れていったため、リオンは後ろを振り向いて豪華客船の無事を確認する。

 飛行船を守るように展開されているのは、とても大きな球体状の淡い光であり、リオンの位置からはその全体像が良く見えた。

 その球体状の光には魔法陣のようなものが浮かび上がっており、オリヴィアのまさしく聖女としての光であった。

 大砲から豪華客船を守りながら、近づいてくるモンスター達までも消滅させるその威力には、リオンだけでなく飛行船に乗る皆も感心させられる。

 

 「キーアイテムもないのにこれだけの事を……」

 

 砲撃に備えていたルクシオンが言う。

 

 『彼女の研鑽の結果です。学園で随分と頑張っていましたからね。マスターとの出会い、繋がりで得られたメリットですよ。マスターに守られていたからこそ、オリヴィアは勉学に励む時間が豊富にありましたからね』

 

 「無駄じゃないならそれでいいが…… しかし、エト君が半端ないな。そもそもただの鎧で軍艦級の飛行船を五隻も大破、もう五隻も中破させてるんだけど……」

 

 (モビルス○ツじゃあるまいし)

 

 ヘルメット内の映像で青い鎧が躍り出たと思ったら、飛行船十隻から火が吹いて爆発している船も出だしている。決闘で見たあの5人の鎧や、もちろん空賊の鎧でそんな芸当が出来るようにはリオンには思えなかった。

 

 『砲身を通じて小型の魔力弾頭を飛行船内で誘爆させたようですね。一隻に四発ずつ。沈まなかった五隻は砲身内部や内とはいえ飛行船の大分外寄りで爆発してしまったためでしょう。安心してください、アロガンツならもっと華麗に同じこと、いえ十隻同時撃沈が行えますよ』

 

 リオンがヘルツォークに驚愕すると、いつものようにアロガンツはもっと凄いとアピールするルクシオン。

 

 「何でいつもお前は張り合うんだ? あれ? じゃあ、何でオフリーの時はリックもエト君も飛行船を落とさなかったんだ?」

 

 自分とは異なり、あの2人であれば落とせるときに落としそうだとリオンは考えた。

 

 『あの時の作戦は、マルティーナに安全に艦砲射撃を行わせるだけの作戦でしたよ。だから基本的にエーリッヒはブリッジだけを叩いたんです。エルンストはそう上手くは出来ずに艦底部を攻撃した飛行船もありましたが、結果として中破させてお膳立て出来たようですね』

 

 鴨撃ちがどうとか言っていたあれか、とリオンも思い出すが、妹へのお膳立てのためにあんな急降下爆撃を行う意味がわからない。

 

 「ヘルツォークのシスコンぶりは頭おかしいな。しかも実際に完遂するところがどうかしてる」

 

 『本体の使用許可さえあれば、もっと短時間に同じ結果をご覧頂けますが?』

 

 ルクシオンは負けじと張り合ってくる内容が、リオンにとっては物騒極まりない。

 

 「お前に大量殺人なんかやらせたくないんだよ。いいから行くぞ! オリヴィアさんが作った大事な瞬間だからな」

 

 リオンは前を向きながらショットガンに弾を装填する。

 

 『最短ルートを選択します。マスター、振り落とされないでくださいね』

 

 エンジンを唸らせたシュヴェールトが、襲い掛かってくるモンスター達の間を縫うように避けて、公国の旗艦へ向かう。

 大きな鯨のようなモンスターの前まで来ると大きな口を開け、その口腔内にある無数の目がリオンを捉える。

 

 「気持ち悪っ!?」

 

 『なんたる悪趣味。でも突っ込みます』

 

 目から光、ビームのような魔法が放たれるが、リオン達はそれらを避けて直進する。リオンとルクシオンはシュヴェールトを駆り、口腔内へ突撃するのであった。

 

 

 

 

 俺からの合図を受け取ったマルティーナは、手早く殺人に特化した魔法を侍女2人に対して放った。

 

 「ファイアアロー」

 

 侍女2人の喉元に寸分違わずに突き刺さり、炎が喉の粘膜を焼く事により、声すら上げられずに倒れる。

 俺自身はアンジェリカを取り押さえていた騎士に対して、首元に魔力強化した浴びせ蹴りを叩き込んで、首そのものを圧し折った。

 その騎士から奪った長剣でもう1人、アンジェリカを取り押さえていた騎士の首に突き刺すと同時に、扉付近に控えていた騎士2人に電撃の魔法を放ったが、魔法で防御され相殺されてしまった。

 

 「な!? 何でその身体で動ける?」

 

 ゲラットがここで驚いて声を上げるが、それには構わずにゲラットの鳩尾に長剣の柄を叩き込む。

 

 「ティナ!!」

 

 「問題ありません!!」

 

 マルティーナは俺の魔法を防御した騎士2人に対して、先程侍女を始末したようにファイアアローで喉元に直撃させた。

 俺の魔法と騎士の魔法防御が相殺した直後であったため、今度は騎士達2人の魔法防御は間に合わず、手が焼かれつつも喉元に突き刺さったファイアアローを、まるで引き抜くかのようにもがきながら絶命していった。

 

 「アンジェリカ、ヘルトルーデ王女を押さえて。笛もね…… は、は、はぁ」

 

 雑に死体を貴賓室の隅へ放り投げて纏めた後、頭の痛みと視界の揺れに耐えつつソファーまで行って腰を下ろす。マルティーナも俺を支える様にソファーに腰を落ち着かせた。

 すっかり俺自身は慣れてしまっている血の匂いと肉が少々焼かれる匂いで、アンジェリカとヘルトルーデ王女は顔を顰めて耐えている。

 騎士の返り血がアンジェリカにかからなかったのは幸いだったな。

 

 「ティナ、良くやった。本当に素晴らしい手際だよ。選択した魔法も素晴らしい」

 

 「お兄様が常に動く意識を植え付けていてくれたからです。タイミングも絶妙でしたね」

 

 マルティーナ自身は殺しは初めてだろうが、気負いや嫌悪感は見受けられないように見える。興奮冷めやらぬ状況のせいもあるだろう。一応暫くの間は気にかけておくか。

 アンジェリカはヘルトルーデの腕を後ろで捻り上げて動けないようにしている。魔笛もアンジェリカが確保済みだ。

 

 「くっ、まさか貴方がこうも動けるとは…… 想像以上の化け物のようね」

 

 ヘルトルーデの物言いに対して即座にマルティーナが凄みを効かせた睨みを放つが、肩を叩いて落ち着かせる。

 

 「とにかくここは制圧した。リオンが来るまで待とう。ティナ、カーテンを引き裂いてそこのゲラットを拘束しておいてくれ。その後にヘルトルーデ王女も頼むよ」

 

 「殺さないのですか?」

 

 マルティーナはサラッと殺しに何の疑問も持たずに聞いてくる。アンジェリカはマルティーナのその言葉に目を見開いて驚きを露にしてしまった。

 

 「指揮系統がいまいちわからない。ヘルトルーデ王女を奪って停戦するにせよ、交渉するにせよ、それなりの身分の奴がいたほうがいいだろう」

 

 マルティーナは指示通りに長剣でカーテンを引き裂いてゲラットとヘルトルーデを拘束していく。

 気を張ってドア向こうの様子を伺うが、物音などで異変を嗅ぎ付けた様子はなさそうだ。そもそもこの飛行船自体がそれなりに揺れているためであろうか?

 

 「乗り心地の悪い飛行船だ。おまけに趣味も悪い」

 

 アンジェリカのその言葉にヘルトルーデ王女が眉間に皺を寄せた。

 

 「な、何ですって!? 可愛いじゃない!」

 

 「どこがだ! お前の目は節穴か?」

 

 確かにアンジェリカの言うようにモンスターを飛行船にするなど、有用なのは認めるが見た目的にも趣味は悪いだろう。

 ん? 廊下から1人走ってくる気配がする。俺はソファーから立ち上がって急いで扉横に陣取った。

 

 「ほ、報告します。先陣を切っていたエアバイクはこの飛行船が載るモンスターに食べられてしまったようです」

 

 報告者は気色ばんだ様子で伝えてくる。俺はマルティーナに指でこちらに来るよう促し、指示を出して扉を開けさせた。

 

 「え、だ…… こひゅ」

 

 いきなり開いた扉に驚いた報告者を、そのまま身体強化した腕で貴賓室に引きずり込む。そのままの自然な流れで首元に長剣が、吸い込まれるように突き刺して捻りこむ。

 捻りこんだと同時にゴキリ、という音が静かに鳴り響く。その報告者は空気の抜けたような音を出して絶命し、その死体を貴賓室の隅に折り重なるように纏めた死体の所へ蹴り飛ばした。

 

 「何て、躊躇いの無い……」

 

 「は、は、は、……躊躇い一つで味方が一人死ぬ。ならば無情でも敵を作業的に殺す方が余程良いだろう」

 

 ヘルトルーデの青褪めた表情からの呟きに、反射的に息を整えながらも俺は答えていた。

 

 「何にせよ、あなた達期待の騎士様は死んだそうよ。残念ね。そういえば貴女が使役する悪魔はもう一匹いたようね。でも、直に艦隊の砲撃や公国の鎧に飲み込まれて終わるでしょう」

 

 ヘルトルーデは心を立て直すかのように気丈に振舞いだした。

 我が妹様が使役するもう一人の悪魔ってエルンストの事か。まったく、ティナの癇癪一つで貧乏男爵領ぐらい滅ぼせそうじゃないか。

 ヘルトルーデのその言葉に対して、マルティーナは相手に聞こえないように小さく舌打ちし、それを俺に見つかって微笑んで誤魔化している。

 

 「リオン……」

 

 アンジェリカはリオンがモンスターに食われたと聞いて胸に魔笛を掻き抱き、苦しさに耐える様に下を向く。

 ほんの少しの間であったただろうか、床からメキメキと軋むような音が聞こえてきた。

 

 「おぉ、まさか腹の中から来るか」

 

 「お兄様?」

 

 「リオンだよ」

 

 マルティーナの問うような眼差しに答えると、そのまま部屋の床を突き破ってリオンが跨るエアバイクが飛び出てきた。

 

 「リオン!」

 

 アンジェリカは先程の辛い表情が嘘のように満開の花が綻ぶような笑顔をしている。

 

 「頭を下げ…… あれ?」

 

 ソファーに座りながら手を振る俺と、一応は立ち上がって警戒しているマルティーナを見つけたリオンは、状況はわからないのだろう疑問を顔に張り付けていた。

 

 「王子様の到着を待っていたよ」

 

 「リック、ってうわっ! 血が!? え? これ全部お前がやったの? 40℃近い熱があるのに?」

 

 リオンは血にまみれた床や窓を凝視してしまい吃驚してしまっている。

 

 「まさか、ティナが4人。僕が3人だ。死体はあそこだよ。それと1人、そこに転がっている使者は気絶して拘束しているだけで生きてるよ」

 

 リオンが死体の方向を見てビクッとしているのに吹き出しそうになってしまった。本当にこういう人同士の鉄火場は、心底苦手なんだろうとわかる態度だ。

 

 「え、マルティーナさんのほうが数多いの!? マジで!?」

 

 「そりゃ、ティナは殲滅公女って呼ばれているらしいからね。ぷっ、くくく」

 

 「お兄様!? な、何ですか! その呼び名は!! ファンオース公国の奴等だけです。そんなこと言うのは!」

 

 そこに転がっているゲラットが言っていたマルティーナの呼び名を笑いながら指摘すると、マルティーナは憤慨して抗議してきた。

 

 「ほら、リオン。お姫様2人と魔笛を持って豪華客船に戻らないと」

 

 リオンがヘルメットを脱いでエアバイクから降りるとアンジェリカがリオンの胸に飛び込んだ。

 

 「馬鹿、馬鹿! 本当に…… ありがとうリオン」

 

 リオンが困ったような表情でアンジェリカを抱き留めているのが印象的だった。

 まぁ、アンジェリカとは身分が違いすぎるから、リオンはどう表現していいかわからないよな。

 

 「アンジェ、リビアも心配しているから戻ろう。この魔笛って本物?」

 

 リオンがアンジェリカから受け取った魔笛を不思議そうに見ている。そもそも魔笛自体を知っているかのような反応が気になる。ヘルツォークですら魔笛の事は知らなかったというのにだ。

 

 『本物ですよマスター。張りぼての偽物がデスクの中にありますが、魔力の反応が一目瞭然ですのでそれで間違いない筈です』

 

 ルクシオン先生がオッケー! Go○gleバリに答えてくれた。

 しかも気絶して寝転がっているゲラットの髭をどういう機能かわからないが、レーザーで焼きながら剃りあげて言ってくる。

 

 『ついでに永久脱毛処理もしませんと』

 

 ルクシオンが呟いている声が聞こえた。確かにこいつのカイゼル髭は鼻に付いたが、何をそこまで駆り立てるんだろうかと疑問に思ってしまう。

 

 「さて、王女様、お前も来てもらうぞ」

 

 リオンはヘルメットを被りヘルトルーデにショットガンを向ける。先程の拘束時にも思ったが、ヘルトルーデは憎まれ口などは叩くものの、特に抵抗は見せなかった。

 

 「リック達はどうするんだ?」

 

 ヘルトルーデとアンジェリカをエアバイクに乗せるとリオンは聞いてくる。

 

 「何、敵飛行船に乗り込んだら、一度はやってみたいロマンがあるんだよ。気にしなくていいから先に行け」

 

 マルティーナの肩を借りて立ち上がると、艦内が大きく傾き始めていた。

 

 「リオン、まさか!?」

 

 アンジェリカが驚くが、リオンがここまで突き進んで来るのにモンスターを倒した影響なのだろう。

 

 「この飛行船が乗っている大型のモンスターを倒したから消えちゃったよ。対策は取っているだろうが、そんなに時間は無いかもしれないぞ」

 

 「わかっている。寧ろ艦内が慌てだしたのは都合がいいさ。さぁ、こちらは気にせず早くリオン達は豪華客船に戻れ」

 

 笑顔でシッシッと手で追い払うように言うと、リオンは挨拶をするようにエンジンを一度吹かして、壁をぶち抜いて外に出ていった。

 

 「おらぁぁぁ! お前らの王女殿下はここだぞぉぉぉおおお!!」

 

 ヘルトルーデに銃口を翳しながらエアバイクで駆けて行く。その叫び声は俺の所まで聞こえてきた。

 公国の鎧がわらわらと集まって来たが、銃口に脅かされているヘルトルーデをその視界に捉えると、動きを止めて口々にリオンを罵りながら道を開けた。

 

 「お兄様、これを」

 

 マルティーナは2人の侍女の死体から漁った拳銃二丁の内の一丁を俺に渡してくる。

 なるほど、冒険者は逞しいな。俺の腰には兵士から奪った長剣を一振り提げている。その姿に苦笑してしまった。

 

 「しかし、リオンはこんな馬鹿な作戦を成功させるとか、頭おかしいよな」

 

 「本当の冒険者はわたくし達とは違いますね。でもお兄様は強く賢く、何より品がお有りです。リオンさんよりも凄いですよ」

 

 マルティーナの身内びいきが酷い。はいはいと頭を撫でて流しておいた。

 

 「な、何ですかもう」

 

 少し気分は楽になった気がするが、依然として高熱で頭痛と怠さが酷い。こちらも急ぐとしよう。

 

 「ティナ、目指すは格納庫だ。鎧は乗れるな?」

 

 「はい、飛んで逃げるだけなら何とか」

 

 ヘルツォーク領では、ラーシェル神聖王国が強襲してきた際の最終案として、負けて占領された場合のヘルツォーク女子向けの訓練がある。

 それは脱出用小型艇の運転に加えて、鎧で飛び出て王国本土側かフレーザー侯爵領側へ逃げる訓練である。要は鎧で長時間飛行訓練をするということであるが、戦闘訓練ではなくあくまで飛ぶだけの飛行訓練だ。

 マルティーナはもちろんマルガリータやベルタ義母様も定期的に訓練している。

 

 「良し、では強奪するぞ! 敵の鎧を2体だ」

 

 俺とマルティーナは、略奪した拳銃の弾数を確認しながら、扉を開けて格納庫に向かった。

 

 

 

 

 


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