乙女ゲー世界はモブの中のモブにこそ、非常に厳しい世界です   作:N2

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ゆう太郎様、誤字報告ありがとうございます。


第59話 リビアの辛口男性チェック

 動き出したファンオース公国右翼の二十隻、艦隊を潜るように下方向にマルティーナと俺は飛んでいき、不意打ちのための準備をマルティーナに任せる。

 

 「行けるかティナ? この攻撃後は魔力も心許なくなる筈だ。飛んで逃げるだけの魔力は残しておけよ」

 

 「大丈夫です。詠唱に入ります」

 

 ファンオース公国の飛行船艦隊は、モンスターの群れがまだ豪華客船に無数に取り付いているため、砲撃も行わず鎧も艦上に待機しているだけで飛び立っていない。

 

 「おい、そこの2機、どうした? 旗艦から脱出してきたのか? 他の黒騎士部隊員はどうした?」

 

 鬱陶しいのが1機、こちらを確認しに降下飛行してきた。

 とち狂ってお友達にでもなりに来たというやつか!

 

 「おい、どうした? 故障か! 返事しろ!」

 

 マルティーナからこつんと拳がぶつけられて完了の報告がくる。

 即座に俺はブレードを閃かせて、近づいてきた鎧の胴体部を切り裂いた。そしてその鎧が持っていたライフルを遠慮なく頂く。

 

 「ライフルが無くて困っていたところだ。ご苦労さん」

 

 その様子を遠目に確認していた公国の艦上待機している鎧達が、慌ててこちらに向かって飛び降りてこようとしてくる。

 

 「ティナッ! やれ!」

 

 「はい! 雷属性ライトニング! 風属性ストーム! 混合魔法行きます。お兄様は私の横に来てください」

 

 降下してくる鎧に牽制の意味合いで、ライフル射撃を行いながらマルティーナの傍らに戻る。

 

 「ライトニングストーム!!」

 

 マルティーナの周囲360度から上方に向かって暴風が出現し、降りてきたファンオース公国の鎧を押し戻している。その暴風内は雷属性の魔法がしきりに走っており、十隻ほどの飛行船と数十機の鎧が暴風と雷に巻き込まれて動きを止めだしていた。

 おかげで無事な十隻はぶつからない様に慌てて進路を変更しだすなど、艦隊行動の停滞を余儀なくされている。

 戦術的大魔法に巻き込まれた飛行船は船体を軋ませるような音や、運悪く弾薬が誘爆した船も出て煙が噴き出ている。豪華客船一隻、しかも砲門無しと侮って魔法防御シールドを発生させていなかったつけを支払う事となったわけだ。

 鎧の耐魔法防御はそれなりに高いが、今すぐには動けないだろう。

 

 「よくやったティナ!! 大丈夫か?」

 

 「は、はい。お祭りで買ったお守りの珠が強く光り輝いたかと思ったら、いつもよりも凄い魔法の構築や威力の調子が良くなったんです。何でしょうこれ? 2機!? 打ちます!」

 

 こんな状況だ、上手くいったなら何でもいいさ。それにしても、超巨大な○イジングストームかと思ってしまい、まだ俺は驚いてドキドキしているよ。

 しかも動きが止まって墜落し出した鎧2機に対して、盾が装着された左腕を前に突きだし、グレネードランチャーを発射させて命中させた!

 飛行船は沈まずとも、マルティーナの魔法の影響で艦艇員は大打撃だろう。数百人は死んでる筈だ。

 我が妹様が悪のカリスマにならないか心配になってきた。最近俺の妹の様子が怖いんだが。

 

 「2機撃墜も見事だ! 早く逃げるぞティナ、さっき牽制でライフルを撃ったが、正直視界が揺さぶられて頭痛で当てられる気がしない」

 

 「そんなお加減では当たり前です」

 

 鎧を2機撃墜したのに何の気負いや興奮を見せない我が妹様が、重ねて恐ろしいと身震いしてしまう。

 いや、熱のせいだろう。ティナは可愛いんだ!

 艦隊行動が乱れたファンオース公国を尻目に、豪華客船側へ向かってマルティーナと共に高度を上げて飛んでいくと、眼下には先程誘爆を起こして一番被害が大きかった飛行船が、豪華客船に向かって突撃する軌道が見えた。

 

 「うわ、そう来るか…… 随分思い切りのいい」

 

 「どうしますか?」

 

 使い慣れていないのに加えてこの鎧の装備じゃ無理だろう。それに身動きの取れない豪華客船では避けられないのは一目瞭然だ。ここは祈るしかない。

 

 「僕達では無理だ。任せるしかない」

 

 ファンオース公国の左翼に配置された、軍艦級飛行船から出撃している鎧達を相手取っているエルンスト達に合流するため、光魔法で信号を発しつつ、マルティーナに支えられながら、豪華客船の上を飛行して向かうのであった。

 

 

 

 

 リオンが飛び立つと、新しい武器を受け取ったクリスも鎧に乗り込み周囲のモンスター達を倒して行く。

 アンジェリカはこのどうしようもない状況に憤るように手を握り込むと、右手に括り付けた赤い玉のお守りが淡く光る。するとアンジェリカの周囲に炎が発生した。そして炎が膨れ上がったかと思うと、六つに収束してそれらが槍の形になる。

 

 「こ、これはファイアランス!? どうして……」

 

 今まで使えなかった魔法の発動に驚くが、今はそれに感謝しつつ、リオンに群がる敵に向かってそのまま魔法を撃ち放った。 

 

 「私の、リオンの敵を吹き飛ばせ!」

 

 収束された炎の槍はモンスター達の群れの中を貫きながら突き進み、そして大爆発を起こした。多くのモンスター達を吹き飛ばしたが、やはりそれでもまだまだモンスター達の数は多い。

 アンジェリカは焦り、そして同じ魔法を使おうとすると倒れているオリヴィアが見えた。そんなオリヴィアにモンスターが食らいつこうとしており、慌てて助けるために魔法を放つ。

 即興の火球魔法であるが、モンスターに直撃すると燃やし尽くし、アンジェリカはオリヴィアに近寄ると抱き上げた。

 

 「何をしている、さっさと立て!」

 

 オリヴィアは荒い呼吸を繰り返し、足もふらついていた。

 

 「お前、まさか魔力の消耗で…… な、何だ!? この魔力の奔流に爆発音は!!」

 

 魔力を消耗し過ぎたオリヴィアは、顔色が悪くまともに歩けなくなっていた。しばらくすれば回復可能であるが、この場で座っているのも危険なため抱き起したのだが、雷光がアンジェリカの視界を掠め、そして暴風で豪華客船も揺らされている。

 甲板上の学園生達の驚きの声が響き渡り、アンジェリカもそちらを見た。

 

 「おい!? 敵の無傷な右翼が混乱しだしたぞ! 強風と雷に巻き込まれている!」

 

 「あ、あれって魔法なんじゃない?」

 

 「王宮付きのトップクラスの魔法師じゃないとあんなの使えないぞ!?」

 

 雷光を帯びた風が止みだしたのでアンジェリカが目を凝らすと、そこには2機の黒い鎧が佇んでいた。

 

 「く、黒騎士部隊!? いや、2機撃ち落とした!? ま、まさかエーリッヒとマルティーナか! あんな高熱で鎧に乗って魔法だと!?」

 

 アンジェリカはオリヴィアを船内に逃がそうと支えながら、先程見た光景をエーリッヒがやったものだと勘違いしていた。

 愕然としているアンジェリカは、意識が黒い鎧に向かっていたところをオリヴィアの言葉で引き戻される。

 

 「私は役に立ちたかったんです。リオンさんやアンジェのお荷物で…… そんな自分が嫌だった…… 連れていかれるアンジェに颯爽と名乗り出たエーリッヒさんが羨ましかった。そんな事を思う自分が嫌で、だから頑張ったのに。もっと力になりたいのに、もう思うように体が動かなくて……」

 

 悔しそうに涙を流すオリヴィアにアンジェリカも瞳に涙を湛えて笑いかける。

 

 「馬鹿! お前は十分頑張った。それにお前を助けるのは苦じゃない。お前は、お前は私の大事な友達だ」

 

 アンジェリカが恥ずかしそうに絞り出した言葉にオリヴィアは驚き、そして顔をくしゃくしゃにして嬉しそうに涙を流す。

 

 「アンジェ――」

 

 直後アンジェリカには目の前に迫る公国の軍艦が見えた。

 

 「先程魔法で被害を受けた艦か!? 突撃だと! ちぃ、随分と思い切りのいい」

 

 気付かない内にアンジェリカは誰かと同じような考えを吐き出している。

 豪華客船の大きな船体に、マルティーナによる魔法攻撃で被弾した公国の軍艦が突撃をかけてきた。側面にぶつけられてしまい、船体が大きく傾く。

 2人がバランスを崩しそうになると、そこにモンスターが口を開けてやって来た。

 アンジェリカはオリヴィアを押しのけてモンスターの前に出ると、右手を向けて魔法でモンスターを焼いた。炎に包まれたモンスターは消えるが、更に傾いて揺れる甲板の上でアンジェリカは足を滑らせて投げ出されてしまった。

 

 「アンジェ!?」

 

 アンジェリカは傾いた甲板の手すりに何とか摑まって落ちるのを堪えることが出来た。しかし身体は船から投げ出されて眼下には海が見える。高度は高く落ちればとてもではないが助からないだろう。

 そもそも周囲をモンスターが飛び回っているので、落ちて幾ばくも無く食らいつかれるのが目に見えてしまう。

 アンジェリカが手すりに掴まっているのを見る生徒達もいるが、自分の事で精一杯で助けられずにいた。しかも運悪くアンジェリカが掴まっている手すりは破壊されて崩れかかっていた。

 

 「もっと早くにちゃんと伝えていればな……」

 

 アンジェリカには走馬灯のように次々と家族やオリヴィアの顔、そしてユリウスの顔も浮かんだが、最後に浮かんだのはリオンだった。煽るような笑みのリオンの姿に思わず苦笑してしまう。

 

 「リビアと仲良くしろよ。あの馬鹿者が」

 

 限界が来て手すりから手が離れそうになったその時、決死の覚悟でオリヴィアが助けに向かってきた。

 

 「来るな!」

 

 「嫌です!」

 

 アンジェリカは反射的にオリヴィアに怒鳴るが、否定を即答で返されてしまった。

 オリヴィアは壊れた足場を飛び越えてアンジェリカの元に駆けつける。まだ体力も回復しきっていないオリヴィアは、呼吸を乱しつつもアンジェリカの片腕を掴んで持ち上げた。

 アンジェリカは最後の力を振り絞ってよじ登るが、アンジェリカは無理をしたオリヴィアを怒らずにはいられなかった。

 

 「この馬鹿!? お前まで落ちるところだったぞ!」

 

 オリヴィアは涙を流しながら顔を上げた。

 

 「だって! だって、友達だって言ってくれたじゃないですか!!」

 

 オリヴィアの迫力にアンジェリカは面食らってしまう。そして恥ずかしそうにする表情をまるで隠すかのように俯いてしまった。

 

 「ば、馬鹿。そんな理由でこんな危険な……」

 

 「私は馬鹿でもいいんです! 私だってアンジェと友達になりたいんですから!!」

 

 その時もう一度激しく豪華客船が揺れると、今度はオリヴィアが船から投げ出されてしまった。アンジェリカが必死に手を伸ばすが、オリヴィアには届かない。

 

 「あぁ!?」

 

 泣きそうなアンジェリカの顔を見たオリヴィアは、まるで安心させるように微笑んだ。そのままオリヴィアが落下していき、アンジェリカに絶望が訪れそうになったその時、誰よりもアンジェリカを安心させる姿が、海面に向かって一直線に突き進んでいった。

 

 「リオン!!」

 

 リオンを一心に見つめる今のアンジェリカには、近づいてきた黒い鎧の存在には気づけなかった。その鎧もまた安堵するようにエアバイクを見つめていた。

 

 

 

 

 リオンはオリヴィアに食らいつこうとするモンスター達をショットガンで狙う。そんなリオンをオリヴィアは心底信頼しきったような優しい表情を浮かべて、祈るように胸の前で手を組んで目を閉じた。

 

 「これじゃ、期待を裏切れないじゃないか」

 

 ショットガンで周囲のモンスターを吹き飛ばした後はショットガンを閉まい、ハンドルを手放してルクシオンに操縦を任せる。

 

 「頼むぞ」

 

 『相対速度合わせます。慎重に掴んでください』

 

 リオンはオリヴィアをお姫様抱っこをするように抱き留める。慎重なその姿は慣れない拙さの様にも見えた。

 

 『海面に着水します。衝撃に備えてください』

 

 「本当に忙しいな!」

 

 オリヴィアをきつめに抱きしめたリオンは衝撃に備えると、エアバイクは底の部分を海面に打ち付ける。

 そのまま後方に白い水しぶきを上げながら海面を走ると、エアバイクは徐々に高度を上げていく。

 

 「リオンさん、リオンさん!」

 

 オリヴィアがリオンに抱き付いて泣いている。リオンは抱きしめる力を緩めて優しく頭を撫でて慰める。

 

 「もう大丈夫だ。ちゃんと上まで届けるから安心していいよ」

 

 すると顔をあげたオリヴィアが、リオンに対して転生してからおそらく最大級の衝撃を与えた。

 

 「リオンさん! 私、リビアはリオンさんが大好きです! 平民ですけど…… でも! あなたが好きです。私はあなたの役に立ちたいです」

 

 その強い眼差しは、伊達や酔狂で言っているのではないと伝わった。だからこそリオンは狼狽えてしまう。

 

 「は!? いや、でも…… お、俺と一緒じゃ駄目だろ! もっとちゃんとした男じゃないと……」

 

 ルクシオンはシュヴェールトの操縦を行いながら徐々に高度を上げているが、黙ってリオンを助けようとはせず、リオンに状況を任せている。

 

 「何を言ってるんですか? どうして他の男の人が出てくるんですか!? 意味がわかりません!」

 

 「駄目なんだよ! 顔の良い奴とか、金持ちとか色々いるだろう? 俺の側にいるよりも相応しい男がリビアにはいるんだよ!」

 

 リオンの中ではオリヴィアはあくまでアルトリーベ、乙女ゲーの主人公だという考えが消えていない。しかも今後のラスボス対策を考慮すると、やはりあの5人と結ばれたほうがいいのではないかと、どうしても思ってしまう。

 

 「そ、そんなの! 私は知りませんよ!!」

 

 いつものオリヴィアなら戸惑うような場面であるが、この状況では開き直って意地を張ってくる。

 しかしリオンにとってオリヴィアの攻略対象は未だにあの5人と固定観念がある。正直今の状況のあの5人は駄目過ぎて話にならないレベルであるが、それでも自分よりはマシだと考えてしまう。

 

 「ユリウス殿下とかいるじゃん!」

 

 「アンジェを捨てたので嫌いです!」

 

 「な、ならほら! ジルクとか!」

 

 「あんな情の無い腹黒嫌いです!」

 

 「ブラッド!」

 

 「虚弱ナルシスト!」

 

 「グレッグ!」

 

 「脳筋ゴリマッチョ!」

 

 「クリス!」

 

 「構ってちゃん!」

 

 よく特徴を捉えていて不覚にもリオンは吹き出しそうになってしまった。

 

 (そういえば、あいつもラファだ。もしかしたら資格あるよな……)

 

 「リック!」

 

 「超シスコンじゃないですか!? しかもあんな修羅場に好き好んで加わりたくないです」

 

 「ぶっ、くくく、リビア酷いね。超兄貴とかじゃなくて寧ろ良かった」

 

 決壊したリオンは吹き出してしまったが、それ以降は何とか堪えている。

 

 「ふざけないでください! 私は他の人じゃなくてリオンさんがいいんです! リオンさんがアンジェを好きなのは何となくわかります。でも! 私はアンジェとリオンさんの3人で、ずっと一緒に楽しく過ごしたいんです!」

 

 リオンはオリヴィアの剣幕に押されっぱなしである。しかも痛いところを突かれてしまう。

 

 「ちょ!? 別に俺はアンジェは…… と、とにかく俺といたら駄目なの! 俺なんかのどこがいいのさ!?」

 

 「私が一緒に居たいんです! リオンさんは優しくて強くて、いえ、違います。リビアはただリオンさんが好きなんです! それが全てです。私はあなたが大好きです!!」

 

 リオン自身真正面から誰かに好きだと言われたのは前世の母親以来である。まさかそれをこの世界で他の誰かに言われるとは思いも寄らなかった。

 オリヴィアは優しく微笑みながら、俯いてしまったリオンに告げる。

 

 「私は平民で、リオンさんは貴族様。直ぐに答えは頂きません。私はいつまでも待ちますから、いつか答えてくださいね」

 

 その言葉にさらに照れてしまうが、ヘルメット越しですら悟られてそうでリオンは気恥ずかしい。

 

 「わ、わかったよ。ほら、しっかり背中に掴まれ。リ、リビア」

 

 はい、と元気よく返事するオリヴィア。

 今まで何気なく呼んでいたオリヴィアの愛称が、途端に気恥ずかしさを感じさせるものとなってしまった。

 

 『マスター、飛行船に到着します』

 

 「わか…… あれ? く、黒騎士か!?」

 

 飛行船の甲板に黒い鎧が佇んでいるのでリオンは驚いてしまった。

 

 『いえ、あれはエーリッヒです。無事に旗艦から鎧を奪取したようですね。マルティーナが鎧に乗りつつも大魔法で艦隊にダメージを与えて駆逐艦に戻ろうとした所、アンジェリカが危険になったので急降下してきました。結果的にオリヴィアの機転で事無きを得ましたが、あの身体で無茶をするものです』

 

 リオンもとんでもない魔法が敵艦隊に向かって放たれたのはエアバイク上で把握してはいたが、まさかマルティーナ、女の子が鎧に乗り込みしかも魔法を放つなど、セオリーから外れすぎて開いた口が塞がらなかった。

 

 「超シスコンか。リビアの評価は大正解だな」

 

 『まったくですね』

 

 オリヴィアはリオンとルクシオンとの会話に驚いてしまう。

 

 「え? ルク君、リオンさん、エーリッヒさんがシスコンはいいとして、何でアンジェが関係するんですか?」

 

 しまったとリオンは心の中で毒づくが、もう遅いだろう。

 

 「今は取り敢えず置いとこう。また後でね」

 

 「は、はい。わかりました」

 

 オリヴィアは釈然とはしないが、リオンに言われたので素直に頷いて、それ以上問い掛けることはしなかった。

 一先ずはオリヴィアの胸の柔らかさを堪能しようとしたが、このスーツの生地が分厚いせいなのかリオンには全く感触がわからない。

 

 『マスターのパイロットスーツは特注品です』

 

 リオンの表情を読み取ったルクシオンは、明るめの音声でリオンに伝えてきた。

 

 「お前はそういう奴だよな!」

 

 怒鳴ったリオンはショットガンを迫ってきたモンスターに対して発砲する。

 オリヴィアは訳が分からずに可愛く首を傾げていたが、リオンからは見えないのは更に皮肉と言える。

 そしてショットガンの弾を撃ち尽くしたリオンは、シュヴェールトを甲板上に滑り込ませるように無理矢理着地させた。

 

 『シュヴェールト、ご苦労様です。後で必ず整備をしますね』

 

 ルクシオンがエアバイクに対して何か言っているのを聞きながら、リオンはオリヴィアを連れてエアバイクから甲板に降り、そこにアンジェリカが急いで駆け寄って来てオリヴィアと抱き合うのだった。

 

 「馬鹿、馬鹿! 心配させるな!」

 

 「アンジェ! ごめんなさい」

 

 泣きながら抱き合う2人に目を細めて、何か尊いものを見るようなリオンは、次にこの混乱した戦場で羨ましい格好をしている男に視線をやった。

 

 「いい御身分じゃないか。というよりもお前は頑張りすぎだ」

 

 「いや、ついね…… 急降下したら頭がぐわんぐわんしてヤバい」

 

 エーリッヒは鎧から降りてクラリスに膝枕されていた。

 誰かが魔法かもしくは、船内から用意した氷をタオルに巻いて身体の各所に置かれていた。

 

 「マルティーナさんは?」

 

 「駆逐艦に戻したよ。エト達は敵左翼をそのまま抑えてくれている。そろそろ駆逐艦に皆を収容するかい?」

 

 リオンは豪華客船を含めて戦場を俯瞰する。

 豪華客船は既に傾いており、そう長くは持たないだろう。突撃して体当たりしてきた公国の軍艦級飛行船のおかげで、敵艦隊から砲撃が飛んでこないのは幸いであった。

 しかも体当たりしてきた彼等の飛行船にもモンスター達が群がっているので、こちらに乗り込んでこれないのも幸運が重なっている。

 しかし薄氷を踏むような危うさで持ち堪えているのが現状であった。

 

 「いや、お前やヘルツォークには本当に助かったよ。ルクシオン、時間は?」

 

 『予定通りです。今、到着しました』

 

 その言葉を聞いたリオンは、懐中時計を懐から取り出して時間を確認した。リオンが視線を向けた先にはパルトナーの姿が見える。

 

 「まさか、呼んだのか? この距離で通信が使えるわけが!?」

 

 アンジェリカはオリヴィアを抱きしめたまま、パルトナーの姿を見て驚いている。

 

 「近くに待機させていたんだよ。リックと一緒で、俺も心配性だからさ。ルクシオン――」

 

 『既に射出しました』

 

 リオンの言葉を遮るように報告したルクシオンにリオンは不満顔をして見せるが、ルクシオンは気にも留めない。

 そして戦場であるこの空域に新たに現れた飛行船パルトナーに対応するように、ファンオース公国軍は艦隊の陣形を完璧に崩してしまった。




兄貴と私!ボディビル!

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