乙女ゲー世界はモブの中のモブにこそ、非常に厳しい世界です   作:N2

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カーマイン様、誤字報告ありがとうございます。


第61話 死闘

 黒騎士部隊迎撃のために空に上がると、リオンも危険と感じたのだろう。直ぐにこちらに飛行してきた。

 彼等は今もパルトナーから射出されたドローン群を薙ぎ倒してこちらに迫ってきている。

 

 「リオン、こちらは3機臨時編成で行く。その硬さ、メインは任せるぞ」

 

 「お前、その体調でいけるのかよ?」

 

 この期に及んで律儀に体調を気遣ってくれるのはありがたいとエーリッヒは感じる。しかし――

 

 「あの奥の大剣持ち、話に聞く限りだと、飛行船の装甲なんか紙屑の様に切り裂くぞ。しかもほぼ全身覆われて攻撃が通らない。後ろを取ろうにも僕とて万全じゃないと無理だ。だから任せる」

 

 「ちょ!? おい!」

 

 リオンの返事を聞く暇も惜しむようにエーリッヒは迎撃に向かった。

 

 

 

 

 「さて行こうか。しかし俺も数が少なくて心細い。そう感じないか? ()()()()()。エトは死地は初めてだったな」

 

 3機編隊飛行をしながら口調が変わった俺に対して、寧ろ朗らかに通信が2人から入ってきた。

 

 「懐かしいコールサインですな! あん時に比べりゃ、今回は小規模な不意遭遇戦みたいなもんですよ。しかし俺の場合、本名の方が呼びやすくありませんかね」

 

 既に公国の鎧を21機撃墜させている男にしては謙虚じゃないか。しかも軽口のおまけ付きだ。

 

 「俺のテンションを上げるためだよ。臨時編成だ、付き合え」

 

 「兄上の口調はいつもそのほうがいいと思いますよ。それに兄上と父上に苛められ続けたせいで、通常の鎧相手では張り合いがありません。ちょうどいいくらいです」

 

 まだ14歳の弟は強気すぎて心配になるが、今回左翼側の公国の鎧を既に37機落としている。

 しかもまともに訓練されていた鎧達だ。エトが天狗になるのも仕方がないな。

 

 「今回の俺は足手纏いだ。遅れたらリック05はエトと組むように。来たぞ! パターン選択はエトに任せる」

 

 「了解です。3時方向5番!」

 

 「「了解だ」です」

 

 上を取るように右旋回で上昇していく。射撃によるハラスメント攻撃で引き付けようとするが、1個小隊はリオンの方へ向かった。

 

 「背中ががら空きだ! エト! 撃ち抜け!!」

 

 脚部に取り付けてあったグレネードを俺達から背を向けた1個小隊に向かって発射し、俺の意を組んだエトが、タイミング良く撃ち抜き、続けざまに相手の魔力反応を基に引き金を絞る。

 爆発とその中を貫通するように爆発内を突き抜ける弾丸に巻き込まれた1機が、海面に落ちていくのを確認した。

 

 「来ます! 上下!?」

 

 「左右はエトが警戒! ちっ、調子が戻らん!? リック05!!」

 

 相手の胴体部を狙った俺のライフルは、敵鎧の右脚を撃ち抜いただけで飛行に影響を及ぼさない。しかし間を置かずにリック05が、若干挙動が乱れたその1機を撃ち落としてフォローしてくれた。

 

 「それは我々の機体だ! 王国の盗人がぁ!!」

 

 同じ黒騎士部隊の鎧に搭乗している俺を執拗に狙うように動いてくる。

 おかげで、エトともリック05とも分断されてしまった。

 

 「くそっ!? 囮か!」

 

 ブレードで斬りかかってきた鎧を同様にブレードで受け止めるが、後ろに回られてしまう。

 

 「ちっ、後ろを取られた事は、そうないというのにこれかっ!」

 

 その時エトの背面が見えた俺は、何とか鎧の態勢を左にずれさせた。

 斬りかかってきた鎧の胴体部中央をエトが放ったスピアが貫き、後方から迫ってきていた鎧は驚いて方向転換を行う。

 直角ではないとはいえ、中々素早い切り替えだが、しかし俺との距離が近すぎだ。

 

 「意趣返しだよ!」

 

 「がぁ!? ごほっ、ファンオース栄光の黒騎士部隊の鎧を、よ、くも……」

 

 直線飛行でその切り返した鎧を追いかけて胴体部にブレードを突き刺した。そしてそのまま引き抜いて落下するに任せる。

 

 「お膳立てまでしてもらうとは、本当に足手纏いだな。は、は、は……」

 

 エルンストが手強いと判断した黒騎士部隊は、1個小隊でエルンストの迎撃に注力しだした。

 俺とリック05は、残りの黒騎士部隊とタイマンじゃないか。

 牽制射撃を放ちながら、光魔法による信号でリック05と合流を果たした。

 

 「どうだ? 正直俺はきつい」

 

 「同感です。魔力も残弾も心許ありませんぜ」

 

 奥の黒騎士は遂にリオンに対して攻撃を開始しだしていた。

 最初のグレネードはラッキーヒットだが、それでもリオンは黒騎士部隊3機に黒騎士本人。

 申し訳ないと思いつつも、リック05もエトも戦い詰めで、しかも一度しか補給していないと言っていた。

 エトが気を回してスピアを二基弾薬有りの物を牽制攻撃してくれるから、何とか俺とリック05は距離を取って撃ち合いに持っていけている。

 彼等黒騎士部隊は隙あらば接近戦に持ち込もうと、直進スピードでライフルを撃ちながら迫ってくるが、彼等の凄まじい気迫がここまで伝わってくる。

 

 「今日の俺は照準がザルだ。撃ち落とせる気がしない。ふぅ、覚悟を決めようか」

 

 また頭痛が酷くなってきた。近接しか距離感が掴めなくなるなんて、あの青髪メガネを笑えないじゃないか。

 

 「上昇反転、襲い掛かるぞ! あれをやる」

 

 「了解ですぜ!」

 

 俺とリック05は、追いかけてくる黒騎士部隊2機を尻に付けてそのまま上昇して反転する。

 要はインメルマンターンだが、鎧では軌道の直角ターンなどは出来ないとはいえ、熟練者であればそれなりに小回りが利く。あまり意味が無いため実戦でやることは少ない。

 では何故やったか、俺は最後のグレネードを2機の中間に放り投げると、上空迎撃のために向けて撃ってきた黒騎士部隊のライフルが命中させて爆発を起こした。

 

 「転換! 行くぞ」

 

 俺とリック05の機体は互いに蹴りあって、降下軌道から無理矢理旋回軌道で横腹を突くための飛行に変更する。ダビデであれば蹴りあうことなく簡単に直角ターンが出来るが、この鎧の設定だと不可能なので、リック05をコンビネーションに使わせてもらった。

 彼等12騎士はそもそもの方向転換でこれを昔からマスター済みである。

 

 「お前ら、猪突猛進過ぎるだろ!!」

 

 相手の銃撃に怯むことなく鎧ごと相手に突っ込んでいった。

 

 「ぐはっ! 王国の悪魔が……」

 

 ブレードを突き刺して引き抜くと同時に海面に蹴り落した。

 突っ込む最中に左足を被弾して、さらに相手の斬り返しで右肩に相手のブレードがめり込んでいた。

 

 「か、紙一重かよ…… ぐ、破片で切ったのか?」

 

 熱の頭痛とは異なる頭の痛みに顔を顰める。

 自分の鎧に突き刺さった相手のブレードを引き抜いて一時的に二刀流となった。

 リック05は、爆発で静止軌道に入った敵鎧をライフルで撃ち抜いて始末していた。そして取って返すようにエトの援護に向かいだす。

 

 「やばい、戦場で止まるなんて――」

 

 一瞬気が抜けたような状態に陥ってしまい、慌てて頭を振って意識を立て直そうとした直後、背面部右側に衝撃が鎧と自分の身体に突き抜ける様に響き渡った。

 

 「ぐはっ!? 何だ? ぐぅぅ……」

 

 パルトナーのドローンが主に相手をしていたファンオース公国の通常の鎧部隊である1個小隊の銃撃が、油断していた俺に被弾したのだと、屈辱と共に気付かされたのだった。

 

 

 

 

 パルトナーに移ったアンジェリカ達は、部屋の中でオリヴィアとヘルトルーデの3人になっていた。

 船内は混乱している。敵であるヘルトルーデを襲撃する者がいないとも言い切れず、アンジェリカの側に置いて監視する態勢を取らざるを得なかった。 

 窓から見える戦場の光景は幾分落ち着いては来たが終わらない。

 

 「何故退かない? もう勝負はついているはずだ」

 

 アンジェリカは苛立っているが、捕らえられているヘルトルーデは対照的に随分と落ち着いた様子を見せている。

 

 「言ったはずです。公国は止まりません。この程度では退きませんよ」

 

 飛行船が全て被弾している状況で何がこの程度だ、とアンジェリカは理解できない。

 

 「リオンさん大丈夫でしょうか?」

 

 「簡単に負けるとは思えない。ただ、何が起きるのかわからないのが戦場でもある」

 

 リビアはリオンの無事を祈るように腕を組み、アンジェリカは外の様子を見ながら答える。

 アンジェリカの視界を掠めたのは、リオンの駆るアロガンツと、それを追いかける黒い鎧達だった。

 その姿を見てヘルトルーデは、先程までの落ち着きをかなぐり捨てるかのように急に焦り始めた。

 

 「バンデル! どうして!?」

 

 バンデルという名の叫びを聞いたアンジェリカは焦りだした。

 

 「黒騎士か? まさかここで出てくるのか?」

 

 オリヴィアは様子が一変した2人に困惑する。

 

 「あ、あの、黒騎士というのは?」

 

 アンジェリカがオリヴィアのために説明を開始した。

 

 「私達が生まれる前から活躍している公国の騎士だ。王国は奴1人のために飛行船を何十隻と沈められた。100に届くかもしれないな。鎧はその何倍も撃ち取られたよ」

 

 アンジェリカはヘルトルーデの様子を窺うように一瞥するが、先程とは打って変わり口を閉じて俯いている。まるで悲しみを堪えているかのように感じてしまう。

 

 「最近は名を聞かなくなった。高齢だから、戦場には出てこなくなったと王国は考えていたよ」

 

 「そ、そんな強い騎士様に、リオンさんは勝てるんでしょうか?」

 

 相手の余りにも強大な様子にオリヴィアは不安と焦りを感じてしまった。

 

 「流石に予想は――」

 

 「バンデルは負けません! 公国最強の騎士が、王国の卑劣な騎士になど絶対に負けません!」

 

 アンジェリカの言葉を遮り吠えたヘルトルーデに対して、しかしオリヴィアも負けじと反論する。

 

 「リオンさんは卑劣なんかじゃありません!」

 

 オリヴィアの剣幕にも皮肉気な笑みをヘルトルーデは返す。

 

 「笑わせてくれるわね。二十年前、自分達が公国にしたことを忘れたのかしら? それとも、自分達は間違っていないとでも教えられているの?」

 

 オリヴィアは驚いてアンジェリカを見る。

 

 「私達が生まれる前の話だ。王国は公国に侵攻した。一度や二度ではない。何度も攻め込み、そして公国を追い込んだ。その度に公国は王国を追い返してたよ」

 

 自分が聞いたこともない事実にオリヴィアは驚く。

 

 「そ、そんな!? 王国が攻め込んだなんて話、聞いたことが――」

 

 ヘルトルーデは、オリヴィアへと冷たい視線を向ける。

 

 「なにも知らないのね。私達が王国にどれだけ苦しめられてきたことか。アンジェリカ、説明してあげたら?」

 

 アンジェリカは口を噤む。

 オリヴィアはその態度で色々と察して落ち込んでしまう。

 だが、アンジェリカは客観的な正史を知っている。元々平民のオリヴィアが知らないのは仕方がないが、歴史ある大身の貴族はファンオース公国の成り立ちからして周知の事実だ。

 そのとばっちりを三桁にも及ぶ年月で王国から受けてきたのが、ヘルツォーク子爵領であるとも今のアンジェリカは知っている。

 

 (今のヘルトルーデには何を言っても無駄だろうな)

 

 元々、政治外交の延長である戦争という形態を無視した、恨み辛みの消耗戦に突入させたのがファンオース公国である。

 アンジェリカにはヘルトルーデに対して、一粒の欠片すら同情を抱くことは無かった。

 

 

 

 

 エーリッヒが駆る黒い鎧が、後方の1個小隊の攻撃により被弾させられた姿をエルンストも目にしてしまった。

 

 「兄上ぇ!?」

 

 「余所見とは余裕だなっ!」

 

 後ろから1機近づく黒騎士部隊、振り向きざまにブレードを一閃させるが、焦りで太刀筋が鈍る。そこを見逃さずに両脚部を切り裂かれながら、エルンストの機体に抱きつくように取りついた。

 

 「ぐ、何を!!」

 

 「これで妙な遠隔攻撃もできまい!! 俺毎こいつを撃ち落とせ!!」

 

 1個小隊が有機的に動いて、時には攻撃の分隊と直掩の分隊と統制の取れた飛行には、落とし辛いことこの上なかった黒騎士部隊の1個小隊が、今は一瞬止まり、左右、それに上と分かれて攻撃態勢に入ろうとしていた。

 

 「まさか、窮地が一転してチャンスになるとはな…… スピアはそもそも刺突武器だぞっ!!」

 

 「ぐぼぁ、な、何だ?……」

 

 エルンストは前面に取りつかれた鎧を背後からスピアで刺突させて絶命させる。おそらく何をされたかは気付いてはいないだろう。

 金属が軋みを上げて裂ける音と肉が擂り潰れる音が混ざりあうのが、エルンストにとって今は非常に心地よく聞こえる。

 

 「やっと単純飛行軌道に入ったな! 魔力反応でお前らの位置は丸わかりだぞ! 突き刺せ!!」

 

 三基のスピアが上に左右と一直線に向かっていく。

 

 「くそ、散開だ!」

 

 乱数回避に突入した黒騎士部隊の1機に、ブレードを構えながら一直線に向かっていくエルンスト。それに気づいた黒騎士部隊だが、直ぐには射線が取れない。

 迎え撃とうと方向をエルンストに向けた直後、胴体部をエルンストのライフルで撃ち抜かれて落下する。

 

 「そんな魔力反応設定で直角ターンなんか出来る物か。慌てたらクレーの動きと大して変わらないな。さぁ、串刺しにしてやるっ!」

 

 残りのスピアを煌めかせて、残りの2機に突撃していく。

 エルンストの目が充血し奥が痛んでおり、鼻血も噴き出すが、高揚に支配されているエルンストは、魔力切れの兆候など気にはしない。

 

 「いつもと逆だっ!」

 

 ライフルで銃撃して動きを限定的にさせる。そして敵鎧にスピアを突撃させた。

 

 「くそ、何だこの王国の兵器は!? こんな鋭敏な遠隔武器な――」

 

 ハッチ内でぐちゃりという音が、通信でもう1機に響き渡る。

 

 「キ、キチガイな運用しやがっ、ぐぎょぅ!?」

 

 魔力による遠隔操作武器はファンオースでもあるが、ここまで全軌道を魔力操作できる者はいない。というよりも魔力と神経を消耗しすぎるので、一兵士のドクトリンとして採用していないのだ。

 エーリッヒのロマンと拘りを体現したのが、エルザリオとエルンスト、そして本人の3人だけであったというだけだ。

 

 「はぁ、はぁ、兄上! ペーター!」

 

 エルンストが魔力反応を探りながら辺りを見渡すとリック05、ペーターは左腕部と左脚部は斬り落とされて無くなっていたが、背面飛行をしながら、丁度ファンオース公国通常部隊の鎧1機を撃ち落としたところであった。

 

 「あ、兄上!?」

 

 エルンストの絶叫が響き渡った。

 

 

 

 

 マルティーナは駆逐艦の通信員と観測員を睨みつけるように作業を急がせている。

 

 「お嬢様! エーリッヒ様が!?」

 

 「黙って作業を続けなさいっ! お兄様からは、敵の臨時旗艦の捜索を命じられているのです。わたくしにお兄様の命令を破れというのですかっ!? さっさと特定しなさい!」

 

 「は、はい!」

 

 マルティーナにエーリッヒが孤立していることを報告しようとした観測員は、叱責を受けて旗艦特定の作業に戻りだした。

 

 (お兄様お兄様お兄様お兄様…… エトもいるしお兄様は大丈夫。大丈夫大丈夫大丈夫)

 

 胸を押しつぶすように力を込めながら、両手を祈るように握りしめる。

 

 「特定したら無事な鎧5機、わたくしも出ます。準備なさい!」

 

 マルティーナは焦りも隠せずにランディに怒鳴りつける。

 

 「は、はぁっ!? 何言ってるんですか? お嬢様にそんな危険な真似させられるわけないでしょう!?」

 

 ランディは驚愕で腰を上げて怒鳴り返してしまった。

 

 「何が危険ですか! もう敵の鎧は出尽くしているのですよ! 残りも数機。せっかく停戦交渉含めてお兄様が殺さずに生かしておいたというのにっ! 絶対にあの髭男爵はわたくしが吹き飛ばします!! 6機には積めるだけ実弾を積みなさい。ブリッジを焼けるだけ焼いて回りますよ」

 

 マルティーナの眼光に、ランディもその場にいた鎧搭乗者の小隊長も気圧されて身を竦ませてしまう。

 

 「は、伯爵では?」

 

 「これから死ぬ輩の爵位なんかどうでもいいんです!」

 

 「は、はい! すいません!」

 

 若い小隊長は疑問を反射的に口に出してしまい、さらにマルティーナの叱責を浴びて縮こまる事になってしまった。

 

 「お嬢様! 敵旗艦ですが、後方の艦! 二隻のどちらかです!」

 

 「どうしますか?」

 

 魔力反応と通信を探っていた通信員と観測員から報告が上がってきた。

 ファンオース公国はどの艦もパルトナーからの砲撃で被弾しており、どれも慌ただしくて特定が難しかった。報告があった二隻は隣り合わせで煙を吹きながら浮いている。

 

 「出撃準備! 3機ずつでブリッジを吹き飛ばします! わたくしに付いてきなさい」

 

 マルティーナは二隻を確認した後格納庫に駆け出していく。小隊長は慌ててその後を追うのだった。

 

 

 

 

 クリスはパルトナーに群がろうとした公国の騎士を1人倒し、リオンやヘルツォークを探すように見渡す。

 

 「か、数が随分と減った。バルトファルト達はどうなった?」

 

 そんなクリスの目に飛び込んできたのは、3機の黒騎士に群がれたかと思えば、大剣をアロガンツに突き刺す黒騎士の姿だった。

 

 「黒騎士が出て来ただと!」

 

 王国軍の剣術指南役であるクリスのアークライト家は、父親が剣聖の称号を持っている。しかしそんなクリスの父親でも黒騎士相手に勝つことは出来なかった。

 過去の話ではあるが、ヘルツォークの鎧乗り達でさえ勝てていないことをクリスは知っている。

 加勢は無いのかとヘルツォークの姿を探すが、交戦中の2機に、そして背後から被弾させられた黒い鎧の姿を見つけてしまった。

 

 「ヘルツォーク兄までも……」

 

 公国最強の騎士に貫かれるアロガンツ、未だ交戦を続けるヘルツォークの2機、そして被弾して緩い速度で落下していくエーリッヒが搭乗する黒い鎧を見て、クリスは歯を食いしばって俯くが、覚悟を決めたように顔を上げた。

 既にパルトナーへの避難は完了していた。最悪、アロガンツに変わって時間稼ぎに徹すれば他の皆は生きて帰れるだろうと考える。黒騎士を放置すればパルトナーが襲われてしまう。

 

 「マリエすまない、どうやらここまでのようだ」

 

 剣を構えてリオンのもとに向かおうと身構えたところ、急に黒騎士達の様子がおかしくなった。

 アロガンツは剣を突き刺されながらも両手で敵の鎧を掴み、そのまま両手が光り輝きながら衝撃を発生させた。両手に掴まれて衝撃を受けた黒い鎧の2機は、動きを止めて海へと落下していく。

 アロガンツは黒騎士に手を伸ばすが、相手は大剣を引き抜いて距離を取ってしまう。もう1機が黒騎士を助けるために間に入れば、そのままアロガンツに掴まれてしまい、同じように衝撃波を喰らって戦闘不能にされ投げ飛ばされた。

 

 「あいつ、生きていたのか!」

 

 あっという間に3機を倒して、アロガンツの周りには、黒騎士ただ1人だけとなった。

 

 「行け! バルトファルト! お前なら、お前なら黒騎士に!!」

 

 クリスは普段の冷静沈着な自分を捨て去ったかのように叫ぶのだった。

 

 

 

 

 俺は被弾して墜落しながら、1個小隊4機を睨みつけていると、1機はエトの援護に向かおうとしているリック05へ後ろから追撃に向かっていった。

 俺の鎧を回収しようと残り3機は近づいてくる。

 

 「油断だなファンオース!」

 

 急遽上昇した俺の鎧に3機は挙動を乱すが、距離が近いため正面の鎧は俺の突撃を避けることが出来なかった。

 

 「こ、こいつまだ生きているのか!?」

 左腕のブレードを振り下ろすが、さすがに受け止められてしまい堪えられるが、今はもう一本ブレードを装備している。それを躊躇いも無く突き刺して沈黙させた。

 

 「二刀流も悪くないな…… はぁ、ごほっ!」

 

 口腔内に鉄錆の香りが広がるが気にしている暇は無かった。

 背中の右寄りから腹腔内に焼けるような熱さと痛みで、高熱の怠さが一時的に感じなくなっている。

 身を捩ろうとするとまるで固定されるように激痛が走る。

 

 「抉れた金属片が突き刺さったか……」

 

 正面で対峙した1機は落下していくが、残り2機は態勢を立て直して距離を取り出す。

 

 「ぐぅ、追いかけっこする余力なんか無いっての……」

 

 分隊飛行で銃撃してくる2機が非常に鬱陶しく、何とか背中の痛みを忘れる様に歯を食いしばって、楕円軌道で追いかけるように飛行する。

 

 「ぐあぁ!」

 

 被弾した!? 脚部が吹き飛んでいた。元々既にボロボロなこの黒い鎧は、その影響で、一度バウンドするように跳ね上がり、錐揉みするような挙動で飛行しながら敵に突っ込む形になってしまった。

 敵の銃撃が鎧を掠めるが、もう細かい操縦など俺には出来ない。

 手前の1機が勇み足の様にブレードを構えるが、ここは離れて射撃が正解だろうに、向かってくるこちらの気迫に当てられたか。

 

 「くらいなっ!」

 

 右手のブレードを投げつけて、一瞬相手の挙動を制止させる。相手のブレードは投げつけた俺のブレードを跳ね上げた。

 

 「もう鎧乗りの反射だな! その行動はっ!」

 

 そのまま相手の鎧に体当たりするように突っ込んでブレードを胴体部に滑り込ました。

 しかしそこが限界で、意識が朦朧とする。そのまま突き刺した鎧と共に落下を始めると、視界の片隅にライフルを構える残り1機が見えた。

 

 「こ、ここで終わりか…… ごほっ」

 

 高熱の怠さも傷の痛みも段々感じなくなってきており、俺はそのまま目を閉じた。




これが俺たちのっ! スカイラブハリケ○ンだ!!

エーリッヒは何かしょぼい相手としか戦っていない気がする(笑)

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