乙女ゲー世界はモブの中のモブにこそ、非常に厳しい世界です 作:N2
ネタをマシマシにしてみた。
王国本土に戻ってきた俺達修学旅行生は、爵位の高い子女達や教師、それに俺やリオンは王宮に招集され取り調べを受けた。マルティーナにはエルンストも同席させた。
ヘルトルーデはそのまま王宮で一先ず軟禁だろう。王宮官吏達は捕虜の収容に大慌てしていた。
調書を取られた生徒達や教師陣は、始まりから終わりまでの概略は皆がほぼ同じなため開放は早かったようだが、俺やリオン、マルティーナとエルンストはかなり時間が掛かった。
もちろんリオンと話をしたように、「クリスが頑張ってくれました!」と官吏に何度も念を入れて説明してある。命の恩人みたいな奴だから、色々と盛っておいた。
リオンはその流れで黒騎士の大剣は献上したらしい。浮島型飛行船はレッドグレイブ家の人間を呼んで、間に挟んで王国に献上。レッドグレイブ家には軍艦級飛行船五隻と鎧を20機献上したらしい。
「公爵令嬢をあんな危険な目にあって助けたんだから、逆になんか貰えよ」
献上しすぎるリオンに呆れながら忠告してしまった。
「いいんだよ。まだ沢山残ってるし。リック、というかエト君の所は十隻と50機、後、撃墜した分と奪った分の黒騎士部隊の鎧11機でいいのか? エト君やマルティーナさんが頑張っていたから、もっと持っていっていいんだぞ」
逆にもっと持っていけというリオンの執着の無さに驚いてしまう。
「お前への回収代だよ。全部リオンがやってくれたじゃないか。それに修理はヘルツォークに依頼してくれる部分もあるし助かるよ。飛行船も五隻ぐらいでもいいんだぞ。今後は工場作るんだろ? 資金は大丈夫か?」
「リックは謙虚だね。大丈夫、当てはあるんだ。リックは関係ないだろうけど面白いもん見せてやるよ!」
お前に謙虚と言われるとは思わなかったよ。
☆
「僕にとっては携帯というよりも1円入札の方がピンとくるな…… だってこれ期間の縛りないし。ぶっちゃけメンテナンスなんかメーカー依存だし。いや、確か0円入札もあったな。金額入れろということになって1円になっただけだ」
誰かこの書類XER○Xしてくれ! こういうのはニアに頼みたい。
俺はカウンターでグラスを傾けながら、坊や達を眺めていた。
辺境の貧乏男爵グループの男子達が、リオンの飛行船一隻プラス鎧4機、実質無料ゼロディアに狂喜乱舞して契約書を貰っている。オンボロ飛行船やそもそも飛行船を持っていない貧乏男爵領の奴らだ。
俺の駆逐型高速輸送船で強襲して俺とエトで焼くぞこの野郎。平和ボケした奴らめ!
メンテナンス料が適正価格なら、正直貰う立場の辺境の跡取り達は嬉しいだろう。レイモンドとダニエルはまだ少し疑るような表情をしている。
正直言ってメンテナンス料に本体価格を上乗せされなければ、彼等にはお得だしリオンも繋がりが持てるからお得だろう。
ヘルツォークが周辺との関係改善のために、王国非公認の空賊のオンボロ飛行船や鎧を安く売り歩いた時のようなものだな。
中身は断然こちらのほうがいいだろうが。
「どうよ俺の携帯販売戦略は!」
ドヤ顔でリオンは隣に座って小さい声で喋ってくる。
「アホ、こういうのは0円入札方法と言うんだ。知らないのか?」
官公庁へ出入りするための必殺方法だ。24時間戦って生み出したんだぞ。
「え、何それ? 知らない。0円で入札とか意味不明じゃない?」
「コピー機とかな、メンテナンスやトナーで儲けるんだよ。PCやその他設備なんかも保守契約で儲けるんだよ」
「そんなあくどい事はしないぞ。書面にも適正価格とちゃんと謳うよ。実家に工場を用意して稼がないとな。出世すると継続的な収入がどうしても必要になるし」
リオンは疲れたようなめんどくさげな表情のまま、ぶどうジュースをちびりとやっている。
「確かに…… ヘルツォークで請け負った鎧の分だけでいいのか? 飛行船は?」
「実はもう整備は始めているんだ。ただ、全部がうちじゃ疑問に思うだろ」
確かに。いつの間にそんな工場をバルトファルト男爵は持っていたんだ? という疑念に繋がるか。
あの無人の作業ロボット達もあるし、ルクシオンが一晩でやってくれました! 的な何かだろうか。
リオンは立ち上がって皆の所に向かった。
「みんな、これからもずっと友達でいようね」
大事な飛行船の整備をリオンに握られて、こいつらは簡単にリオンを裏切れなくなったというわけか。リオンの満面の笑みに何人か引いてるな。
解散した後、リオンに誘われて学園寮のリオンの部屋に来ていた。
今はリオンが用意したお茶で舌を湿らせている。
「なぁ、ヘルトルーデ王女が先遣隊とか私の代わりはいる、とか言ってたんだけど、公国との戦争って今回で終わるのかな?」
リオンが何気なしに言っている言葉は、こちらからすると衝撃の事実だ。
「先遣隊って事は本隊がいるってことじゃないか。それに代わりか…… うちも閉じていた時期だから構成はわからないけど、ヘルトルーデに兄弟でもいるんじゃないのか? ちなみにファンオースは性格的にスペアを必ず用意する家だ」
しかし本隊が動けばフィールド辺境伯領から直ぐにでも王宮に連絡が入るだろう。
まだあの戦争から5日、戻ってきてから3日しか経っていない。今後は本格的に王国と公国の交渉が入るだろう。
場合によっては公国が矛を治める可能性だってまだある。
本当なら王国軍を編成して、ヘルツォークも一緒に一気にファンオース公国へ攻め上がりたいが、王宮の決定次第で逆らうことは出来ない。
「……あの黒騎士見ると、簡単に戦争を諦めてくれるようには思えないんだよな」
リオンは黒騎士と言葉を交わしたそうだから、何か拭えない不安のようなものを感じ取ったのだろう。
「先遣隊を潰しただけじゃ、依然として兵力は残してある筈だぞ。警戒はしておいたほうがいい。僕もクラリスにはそう伝えておく。リオンもアンジェリカに言っておいた方がいいかもな」
リオンは肯く様にお茶を口に含む。俺もお茶を飲んで一息つくことにした。
「なぁ、リックは転生者なんだよな?」
唐突にリオンが踏み込んできた。確かに熱で唸っていたとはいえ俺も覚えている。この質問もご丁寧にこの世界では聞かない日本語だ。
「まぁ、そうなるかな。同じような境遇の奴がいてもおかしくはないか……」
「じゃあさ、この世界がアルトリーベ、乙女ゲーの世界だとはやっぱり知らないのか?」
あの時も聞いてきたな。
「そもそも僕は乙女ゲーというのがよくわからないぞ?」
「ほら、ギャルゲーの反対みたいな奴だよ。女の子が男を攻略していくんだ」
ギャルゲーもそもそもそんなにやった事はないが、女の子が男を攻略? 18禁シーンはどうなるんだろ?
「何で男のお前がそんなのやっているんだ? 前は女だったのか?」
リオンがぶほっとお茶を噴き出した。
「ちげーよ! 妹に頼まれてやったの! 俺は男だったし、ギャルゲー好きだ!」
ここまで魂の奥底からギャルゲー好きをカミングアウトする奴がいるとは……
「僕はギャルゲーはPC98版の同窓生と同窓生2しかやったことないが、それでも乙女ゲーが何かとは何となく理解した」
「え!? 何それ? ドキドキメモワールとかなら知ってるけど。てゆうかPC98版って何?」
そっちは俺もタイトルだけなら聞いたことあるな。知らないのか!? 98シリーズを!?
Wind○ws98じゃないぞ!
リオンは青春時代に、恋が待ちぼうけしたこともないのだろう。幸せな奴め。
まったく、欲しいと言われようが、土曜の夜と日曜は時間が取れないのだ!
「え!? お前知らないの! ギャルゲーの金字塔というか元祖だぞ! それ以降のは、何か個人的に絵柄が合わなくてギャルゲーしなくなったなぁ。ていうか格ゲーが好きだったし。でも何で妹がその乙女ゲーの攻略を兄に頼むんだ? 特殊プレイ過ぎるだろう」
ギャルゲーはあのキャラ原が良いのだ。あのオープニングイントロは今でも十分癒される。
格ゲーは筐体をガッツンガッツンに殴りつけてプレイするのだ! さくらんぼキックするぞ!
対戦中一回でも技がでたら尊敬される。二回出したら神だな。慣れると割と出る。Ⅱではない、あえてのⅠなのだ。
ふむ、リオンさん家は、男を攻略する兄を見ながら、妹はハァハァするのだろうか? 病みすぎる! ティナはまだまだ健全だな。
「俺だってやりたくなかったんだよ! でもな、あのエーコーから出たせいか戦略パートが鬼ムズだから妹に押し付けられたんだよ」
何故乙女ゲーとかいうやつに戦略パートがあるのだ?
「あぁ、そのメーカーなら、第六天魔王の野望とかならやったことあるぞ」
「俺もそれはプレイしたよ。何作目だったか忘れたけど…… ならわかるだろ? あれのハードモード版が組み込まれているんだ!」
う~ん、ギャルゲーだったら戦略RPGにくっころ要素でも入れるようなタイプだろうか?
『おや? 御二人に共通認識が出てきましたね。マスターの妄言も真実味を多少は帯びてきましたか』
あ、Go○gle先生だ。リオンの右肩に浮かび上がっている。
「ふふふ、驚け! ちなみにこのルクシオンは、何と!? 課金アイテムで1,000円! プライスレスではないんだけどな」
『くぁwせdrftgyふじこlp…… グヌヌヌ!? 何という屈辱』
ロストアイテムが課金アイテムとか頭痛くなってきた。コンシューマー世代だから課金ダウンロードとかってピンとこないんだよね。
「100
「何それ? 100
リオンとはどうやらジェネレーションギャップがあるらしい。このマンゴー世代め。
恐らく、ロクヨン、ロクヨン、イチニッパ、すなわち神からの啓示だとして崇め奉った事すらもないのだろう。
『しかし、転生者というのは旧人類の遺伝子が濃いものなのでしょうかね。ちなみにマリエもスキャンしましたが、旧人類の遺伝子が濃いです。マスターと同等程度。エーリッヒは2人の半分です。これはその乙女ゲーとやらを知っている、知っていないに関係するのでしょうか?』
ルクシオンがさらりととんでもない事を喋っている。目を見開いた俺に説明するようにリオンが先を引き取った。
「さてね。それはわからないけど、マリエも転生者だってのはあの時言ったよな。ほら、ユリウス殿下とかあのお馬鹿ファイブは、乙女ゲーの攻略対象なんだよ。あいつ3年掛かる所を3ヶ月以内で逆ハーレムルートを築きやがったんだ。行動もチェックしたから間違いない」
ラーファンの呪いの集大成みたいな女だと思ったが、そんなことしていたのか。
リオンに焦りが見えるが、しかし何か問題なのだろうか。いや、貴族社会的には大問題だが、リオンの危惧はそういう類ではなさそうだ。
「僕にはよくわからないけど、何か問題が? いや、ゲーム的な何かか?」
リオンは悩みながらも口を開いた。
「本来ならこの世界の主人公はリビアなんだよ。入学してから1ヶ月後に様子を見たら、リビアのポジションを全部マリエが奪ってたんだよ。まぁ、あいつが乙女ゲープレイ済みなら最終的には別にいいんだけどな。もうあのお馬鹿ファイブにリビアを任せる気は無いし」
それを聞いて少し疑問に思う。
「オリヴィアさんって平民だろ! あの5人は高位貴族、しかもユリウス殿下は王族だ。そもそも設定破綻してないか? 結ばれるとか意味不明だぞ」
「あぁ、それは大丈夫なんだよ。リビアは聖女だから、聖女って神殿では物凄い象徴だし、王国も無視できないんだ。そもそもリビアって王国建国メンバーの隠された1人の血筋っていう設定だから。聖女の力というよりもリビア自身の力だから代わりはいないんだ。だからこそ王妃にもなれるというわけ」
リオンはニコニコしながら、密約どころじゃない衝撃の事実を言い放った。正直言うとあまり聞きたい類の話じゃないぞ。
「公国戦で見せたっていう、あのとんでもバリアが聖女様のお力ってわけか」
「そう、あれを見たときは俺も驚いたよ。キーアイテムすら無しにあんな魔法を放つんだからな」
「キーアイテム?」
聞きなれない言葉が出てきて疑問を声に出してしまった。
「聖女には、聖なる腕輪、聖なる首飾り、聖女の杖っていう三種の神器みたいなのがあるんだよ。それがリビアの力を増幅するんだ。そして王家が持っているロストアイテムを使ってラスボスを倒すんだ。でもまぁ、もうラスボス自体の心配はしなくても大丈夫かな」
俺には知らないゲーム解説を聞いているようにしか感じられなかった。
「僕やリオンはそのゲームに出てきたのか?」
「いや、マリエすらも出てこなかったぞ。背景にいたのかすらもわからない。でも魔笛を回収できたから良かった。あれがラスボスを呼び寄せるアイテムなんだよ」
だから公国の旗艦に飛び込んで来た時に、リオンは魔笛の事を知っている様子だったのか。
公国が本来はあれを使用して、そのラスボスとやらを呼び寄せようとしたが、その前に奪取できたというわけか。
今になって冷や汗が噴き出てくるな。同じ転生者、まさか担ぐような話でもないだろう。リオンにメリットは無いしな。寧ろ今回は修理依頼でこちらにメリットがあるぐらいだ。
「その魔笛、スペアなんかないよな? あ、いや、あんなとんでもないロストアイテムクラスなんかそうあるわけないか」
「ないだろ。あんなのがポンポンとあったら、この世界は俺達が生まれる前にとっくに終わってるよ。ただその心配は無くとも、公国がこのまま静かになるのかが気掛かりだ」
正直乙女ゲーの件はピンとこないが、リオンの心配は尤もだ。俺自身、公国は戦争を止めないと思う。
王国と公国の交渉がどうなるかだな。
「この2学期中は王国と公国が交渉するだろう。最悪を想定した方が良いかもしれないな。戦うにしろ逃げるにしろ、準備ぐらいはしておいたほうがいいと思う」
あんな無尽蔵にモンスターを呼び寄せるアイテムなんか間違いなくロストアイテムだな。
扱える人間のスペアはいるだろう。なるほど、だからヘルトルーデは代わりがいると言ったのか。
実際にあの艦隊の陣容で豪華客船一隻に挑んで魔笛まで奪われるなんて、そんな情けない状況俺だって想定しない。リオンとパルトナー、いや、ルクシオンのファインプレーだな。
結局話し合いが深夜まで及んでしまい、俺がリオンの部屋を出るところを学園の女子に見られて、学園女子の腐った部分を加速させる事となってしまった。
いや、男だけでワイワイ普通に騒ぐ事ぐらいあるだろ!
ピーガガッピーピーガッガツ…… ダウンロードエラー
キュイーン、MOは優秀だったよ。FDも秀逸だった。
ポケベルはならなくても恋に落ちた。