乙女ゲー世界はモブの中のモブにこそ、非常に厳しい世界です   作:N2

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佐藤浩様、誤字報告ありがとうございます。

偉い人って断れない状況をきっちり仕上げてからお願いしてくるんだ!


第68話 王宮内の情勢

 アトリー邸に通されるとバーナード大臣の執務室に案内された。とはいってもバーナード大臣もデスクではなく、仕事の相手を交えて話すようなローテーブルを挟んだソファーに座っている。

 疲れてやつれ気味だが、落ち着きも得られたのか表情は硬くないのが印象的だ。

 

 「よく来てくれた。座ってくれ」

 

 「失礼します。お忙しい所、お時間を取って頂きありがとうございます」

 

 礼をして促されるまま腰をソファーに落ち着けると、クラリスがお茶を用意してくれた。

 お茶? 大臣はワインじゃないのか? しかも3人分。ぼんやりと違和感を感じていると俺の隣にクラリスも腰かけてきた。

 3人交えての話という事か。

 

 「どうしたねリック君。何か、言いにくいが凄絶な雰囲気を纏っているね…… 何かあったかい?」

 

 ルクシオン先生との会話に引きずられたか…… 普通にしていたつもりだが、クラリスもきょとんとしている。バーナード大臣はよく気付く。

 

 「いえ、少し忙しくしていました。気疲れが雰囲気に出てしまったのでしょう。頂きます」

 

 少し微笑んで言い訳を口にしつつも紅茶で誤魔化す。

 

 (王都で色々と動いているのは知っていたが、まるで誤魔化し方が大人そのものだな。表向きは新しい領に関する事業の件だったが、彼程の男が、そこまで気疲れするような内容だっただろうか……)

 

 「リック君はまだ学生だしね。そう無茶はせんでもそのうち嫌でもする事になるだろう」

 

 「……気を付けます」

 

 「周りも心配する。本末転倒だろう。そうしたほうがいい」

 

 バーナード大臣と2人で紅茶で喉を湿らせていく。カップを置くや否やクラリスがお代わりを注いでくれた。女中ではなくクラリスが給仕か。

 

 「御父様、王宮内はどのような状況に?」

 

 クラリスがタイミングを見計らって促してくれた。大臣相手に俺ではこうはいかないだろうから、なるほど、クラリスの同席は助かる。

 

 「そうだね。先ずは明るい話題から行こうか。今回の戦いにおける褒章と褒賞関連だ。そういえば、黒騎士バンデルを討ち取った手柄をアークライトの子倅に譲ったそうだね。リック君の口添えもあるのでそのまま王宮は認めたよ。これでアークライト家は、バルトファルト男爵を公に許し認めなければならなくなった。バルトファルト男爵は今回の戦いでは他にも多くの手柄がある。上手い手だね。アークライトも自分が成し得なかった事を息子に譲ってもらったんだ。屈辱かもしれんが、息子に箔を付けてくれて廃嫡を解く理由までもらった。アークライト家がバルトファルト男爵を許し認めることによって、軍部においてもバルトファルト男爵の評判は上がるだろう。結果としてアークライトの子倅は騎士殊勲十字章を授与されるよ」

 

 はて? リオンはそこまで考えていたんだろうか? あの大剣が気持ち悪いし押し付けてやる程度だったような…… 許し? 剣聖に目の敵にされているとか背筋が冷えるな。

 廃嫡が解かれるなら、恩返しの一助にはなった筈だな。

 

 「御父様、前置きが長いのでは?」

 

 「おぉ、そうだったね。では褒章関連の話をしようか」

 

 バーナード大臣に話の方向性を修正させた!? 娘とはいえこの人凄いな。いや、それだけ家族仲が良好という事か。大身の貴族家では珍しい気安さだが。

 

 「先ずはバルトファルト男爵だが、レッドグレイブ、アークライト、ローズブレイドの3家推薦でね。騎士殊勲十字章――」

 

 騎士殊勲十字章は軍部では相当箔が付く。とはいえ、ドローンの戦果を入れれば普通に授与されそうだが、3家推薦とは? 紅茶を置いて大臣の話の続きに耳を傾けた。

 

 「――に加えて、突撃名誉騎士殊勲十字星章が授与される」

 

 「え、それって?」

 

 クラリスが疑問を持つがそれはそうだ。

 

 「せ、生者に授与されるというのですか!? 突撃名誉騎士殊勲十字星章が!」

 

 気付いたらソファーから俺は立ち上がっていた。

 今の俺の勲章の数でさえ、戦場で共にする鎧乗りや艦艇員達からすれば、戦場の神にも等しい列挙だというのに、これ一つで同格に並ばれたのではないだろうか。

 しかし、正直この勲章は、勇敢で勲功勇ましい騎士の死を称え奉り、多額の年金を遺族に渡すためだけの勲章かと思ったが……

 

 「空戦突撃章金章も議案に上がったのだが、やはりエアバイクでモンスターの群れや鎧を搔い潜って旗艦に突撃、公爵令嬢と象徴とはいえ、敵の大将首を奪った等という前例が無くてね。男爵でもあるし生者という事もあって、年金は出ないが授与される運びとなったというわけだ。それにあのロストアイテムの飛行船の戦果も加味されてね。殊勲十字とは別の物が必要になったというわけでもある。あぁ、空戦突撃章金章といえば、マルティーナ嬢に授与されることになったよ。旗艦から敵の鎧を奪って敵艦隊の足を止めた事が功の理由だ。加えて敵鎧も撃墜しているので、二級殊勲十字章も併せて授与される」

 

 マルティーナ、あくまで貴族家の女子だから二級からとはいえ、今の軍部では自慢できる勲章の数だな。

 女性の軍人でこれだけ持っていれば、間違いなく戦場の戦女神といっても過言ではない。

 

 「ティナの勲章の数が恐ろしいですね」

 

 「貴方の影響よ。悪いお兄さんね」

 

 クラリスが微笑みながら言ってくるが、酷い…… と言い切れないところが悩ましい。

 

 「あの豪華客船にいた者達には従軍袖章が全員に授与される。女性は微々たるものとはいえ年金が出るから嬉しいだろう」

 

 実はマルティーナは年金だけで割と贅沢できる説。

 やっぱり女性は優遇されているな。まぁ、女性であれだけ勲章をぶら下げていたら、確実に男から敬遠されるか。若しくは崇め奉られて神になるレベルだな。

 

 「ねぇ、御父様、リック君とエト君は?」

 

 「楽しみは取っておきたいだろう。これから説明するから落ち着きなさい」

 

 クラリスがソワソワしていたのは俺とエトのを聞きたかったからか。

 

 「じゃあ、先ずはエト君から行こうか――」

 

 クラリスがちょっとムスっとした。エトの活躍をちゃんと聞いてあげて!

 

 「――騎士殊勲十字章に空戦突撃章銀賞だ。嫡男で爵位があるわけではないが、公式戦初陣として、鎧43機撃墜、軍艦級飛行船五隻撃沈、五隻中破。この戦果は凄まじいからね。二級、一級を飛び越えさせた」

 

 「うわっ、凄いわねエト君! 貴方も鼻が高いんじゃないかしら? うふふ」

 

 機嫌がよくなった。意外とクラリスは乙女な所があって、鎧とかエアバイクが颯爽と空を飛ぶ姿が好きみたいだからな。

 エトの件は大臣の後押しだろう。嫡男とはいえ将来継ぐかは結局の所未定であり、次男三男が継ぐ可能性もある。ヘルツォークはエトで間違いないとはいえ、当時卒業後確定の男爵位であった俺や今回のクリス、クリスも卒業後は廃嫡されていたとしても男爵位だった。俺達とは明確にエトの場合は異なる。

 一兵士扱いの二級からでもおかしくは無かったが、バーナード大臣に感謝だな。突撃銀章は艦隊に一人先行して突撃を掛けて戦果を出したからだろう。

 

 「エトの奴も大手を振ってヘルツォークに凱旋できますね」

 

 一応もう帰ってはいるけど。

 

 「さて、最後はリック君だ。おめでとう。君には剣柏葉付き騎士殊勲十字章、空戦突撃章銀章、戦傷章銀章が授与されるよ。旗艦から敵の鎧を奪い、その後の戦果に活かしたことにより、突撃銀章だね。それと怪我が酷かったのを多くの人が確認している。あまり無茶すると今後はこちらの心臓にも良くない。気を付けて欲しいね」

 

 「凄い! 凄いわ! 剣柏葉付きなんて他に授与されている騎士なんていたかしら?」

 

 実は結構怪我しちゃう系兵士の俺。

 戦傷章はそれでも復帰するから頂ける勲章だが、領主貴族というか爵位持ちは軍属ではなくとも頂けるからありがたい。……今後? まぁ、いいか。

 

 「しかし、私はそこまで功を成してましたかね?」

 

 鎧を5機落としたぐらいだ。

 

 「ペーター殿達はヘルツォークの軍人だから彼等には褒賞になるが、一先ず置いておくとして、単独撃破数はエト君の次だぞ。バルトファルト男爵とて、黒騎士バンデルの手柄を譲ったから、単機で撃墜したのは黒騎士部隊の3機と通常の鎧1機の計4機だよ。そしてクリスも黒騎士が加わって3機だ。そもそも一戦で5機落とすのも十分すぎる戦果じゃないか。加えて駆逐艦を護衛に事前配備していた危機管理能力も評価されたよ。それに捕虜から確認も取れたが、黒騎士部隊1個小隊をファンオース公国旗艦内で、君とマルティーナ嬢が共に討ち取ったという報告が、客観的にも認められたという事だ」

 

 あら、撃墜数で言うならばそうなるのか。

 駆逐艦配備に関しては、そもそも護衛を配置しないのがおかしいのだが。

 

 「君の考えは尤もだよ。長年修学旅行の各豪華客船に護衛を配置しないのは、付近に哨戒ラインがあって哨戒艇が飛んでいる。飛んでいた筈なんだ。あそこの空域は2本だね。まぁそのおかげで実は今まで被害にあっていないから油断したというわけだ」

 

 被害があるかどうかではなく、護衛を付けるのがそもそも普通なのだがな。

 その哨戒は誰かが動かしたという事か。

 

 「想像通りだよ。私には専門外だが、あそこの空域の哨戒警備責任者、航行路を決定する佐官2人が首を括っているのが、あの戦い後まもなく発見された。表向きは借金や女性問題と書かれた自筆の遺書が見つかっているがね」

 

 用意周到だな。オフリーの時の派閥の証拠隠滅よりも手早いみたいだ。

 

 「やはりいますね。手引きしている人間が」

 

 「そうだね。しかし今や王宮内は一つの派閥で過半数を得る所は無い。最大派閥はレッドグレイブから他に移ったが、例え最大派閥といえども過半数や三分の二を得るためには色々と大変そうだ。笑えないのが、自身の不調を隠すために化粧まで施す者まで出る始末だ。弱小派閥を取り纏めるのに相当無茶をしていそうだな」

 

 「それは…… 穏やかじゃありませんね」

 

 要は与野党で争うのではなく、王宮を一つの与党としてその中の派閥争いという事か。

 レッドグレイブが崩れたからと言って、じゃあ、他の一派閥だけで過半数です。なんていう単純でアホな構成の訳はないだろう。それならばそこの派閥をダース単位で殺してしまえばいいだけだ。

 そうしたら次は中立派のアトリーが第一派閥に台頭するかもしれないが、中小乱立を纏めて初めて過半数や三分の二を超えるという事なのだろう。

 

 「何故、そこで笑うんだい?」

 

 「いえ、複雑怪奇すぎて、若輩には難しいお話です」

 

 見られたか。いや、自然と浮かんでしまったのだろう。腐っているからこそ、思い通りに動いてくれるかもしれないな。

 

 「そうかい? 私は君を政治の世界に連れて行ってみたいと思うがね」

 

 「私は只の鎧乗りですよ」

 

 それだとどっかの総帥みたいで嬉しいじゃないか。俺もアコギな事をやってみたい。

 まぁ、今後やることになるかもしれないが。

 精々、ルクシオン先生に、リック、あんたちょっとセコイよ! などと言われないように気を付けよう。

 言われたのは最高峰のMS乗りだったが。

 そういえば王国軍は階級が馴染み深いものだったな。俺は精々が中佐クラスだろう。エトは少佐だな。

 この年齢で佐官クラスなんてちょっと意味不明だが。

 

 「何にせよ、剣柏葉付き騎士殊勲十字章は、現役と退役含めても生きているものでは剣聖とリック君だけだ。艦隊指揮殊勲十字章で勲功の格は君の方が上で間違いない。突撃名誉騎士殊勲十字星章のバルトファルト男爵でさえ、長年功労ある剣聖と同格かそれでも少し劣るかもしれん。おめでとう、勲功はホルファート王国内で君がトップに立ったんだ。誇りに思ってくれて構わない筈だよ」

 

 「凄いわ! 貴方が望めば王国軍のトップだって狙えるわよ! 領地経営は他に任せることも出来るし…… 嬉しくないの?」

 

 クラリスは興奮して抱き着いてきた。もちろん勲章は嬉しい。あの騎士服を飾る勲章は得も言われぬ格好良さがある。

 しかしバーナード大臣の前で大胆すぎる!? 俺はそっちが怖い。

 

 「もちろん嬉しいよ。まぁ、ただ凄すぎて実感が湧かないね。これからかな、あはは」

 

 「……もう、謙虚なんだから」

 

 いや、貴女良い所のお嬢様なんだからはしたないですよ。キスまでした身だからこそ大臣の前では怖いのだ!

 しかし、俺とリオンは中身オッサンとはいえ、若者に勲章がこれほど授与されるとはな。いかに王国直轄軍が寝惚けているか、という証左でしかないわけでもあるんだが。

 

 「二学期が終了したら、バルトファルト男爵とリック君は勲章授与式と共に陞爵される。バルトファルト男爵は子爵に陞爵して宮廷階位は四位下、リック君は卒業後だったものが、今回で陞爵される。おめでとう、子爵で五位下は確定だ。バルトファルト男爵の陞爵と昇進は、浮島型飛行船と鹵獲品の献上、アークライト、セバーグ、フィールド、ローズブレイドの推薦が大きいね。こんな短期間での昇進は王国の歴史上初めてだ。バルトファルト卿が1位で君が2位だ。まぁ、思うところもあるかもしれないが、堪えて欲しい」

 

 「いえ、お気になさらないでください。昇進してこんな短期間にもし、本家ヘルツォークと宮廷階位が並ぶことになってしまえば、何世代にも渡って苦労してきた本家ヘルツォークに申し訳が立ちません。自分が許せなくなってしまいます。まぁ、本家ヘルツォークに関しては、先代と先々代の暴走もありますから、一概には言えませんけどね」

 

 宮廷階位なんかは個人的には気にしない。

 しかし、あの鹵獲関連の献上に凄い家々から推薦を貰うリオンは凄まじいな。

 あいつって実は根回し上手なんだな。結構見習う部分がありそうだが、ルクシオン先生の入れ知恵だろうか?

 

 「ヘルツォークの高祖達も、例え血は繋がらなかろうが、君を誇りに思うだろう。さて、では次は少々良くない報告だ。一応身代金に応じる人物はファンオース公国に返される。そこに黒騎士バンデルがいるのが問題だ。残りの捕虜はある派閥連が全て引き受けることにもなった。その連中はレッドグレイブ公爵の敵対派閥だが、今はそこが一番大きな派閥だね。弱小連の派閥を味方に付けて議会の過半数を超えて決定してしまったよ」

 

 反対と可決案の逆戻しを掛けたが、却下されてしまったよ。と肩を竦めながらバーナード大臣はお茶を口に含んで不満と共に飲み干していた。

 

 「少し露骨ですね御父様。では十中八九、その派閥、フランプトン侯爵が?」

 

 「良く知っているなクラリス、まぁ、証拠は無いがね。オフリーの件をレッドグレイブ公爵は突いていたが、既に処分済み。しかもレッドグレイブ公爵派閥は今や弱小だ。そんな所に王宮議会内で突かれようが痛くも痒くも無いだろう。それに、貴方のご子息は大変お元気で。等と言われてしまえば黙るしかないという事だ」

 

 「御父様!? それは……」

 

 やっぱりアトリーは証拠書類提出に関わっていたから、独自に裏取りを行っていたか。それを俺の心情を慮って黙っていてくれてたのは助かる。しかし――

 

 「まさか、公爵やそのフランプトン侯爵まで知ってましたか…… まぁ、6歳の時に言葉は交わしていませんが、レッドグレイブ公爵自身とは面識がありますので、そこで気付いたか。若しくは内々に母に打ち明けられていたのかもしれませんね。しかし、そのフランプトン侯爵とやらが知っているのが解せませんね」

 

 力のある領主貴族の侯爵家としか俺は知らないが、何でそんな所が…… あぁ、そういうことか。

 俺の溜息と納得したような表情を見てクラリスも気付いたのだった。

 

 「貴方の素性、アンジェリカと貴方を見たファンオース公国の使者は気付いていたわ。ファンオース公国の旗艦でヘルトルーデ王女に気付かれたのではないかしら?」

 

 「正解だよ。ゲラットは死んだけど、もう1人、ゲラットと同格程度に見える壮年を越えた貴族もいたから、生きている中でその2人は知っている筈だ」

 

 しかし俺は先程から、腕を組んで肩に頭を凭れ掛けさせながら、貴方呼びをするクラリスの方が気になって仕方ありません。

 バーナード大臣をチラリと盗み見ても、落ち着いた普段通りに見えてしまう。

 くそっ、伏魔殿の住人め! 大臣の表情が全く読めないのが怖い。

 

 「図らずも君の素性で相手の繋がりが確定したか…… しかし証拠は残すまい――」

 

 まるで、俺が大物のような状況だな。少しときめいてしまうアホな俺がいる。

 

 「――しかもヘルトルーデ王女は学園に留学扱いで入学させるそうだ。何とも甘いね。というよりもファンオース公国は、たったあれだけの戦力に大敗した情けない国という空気が蔓延している。もしくは誰かが蔓延させているのかもしれないね。理由は不明だが…… しかしこの空気を払拭する事は出来ないだろう」

 

 ヘルトルーデに関しては、俺はそれでもいいと個人的に思ってしまう。

 何と言っても十代の小娘だ。王都や学園で、勉強と共に国力差を思い知らせてやるのもいいと考えてしまう。軟禁も不満と鬱屈を蓄積していき、もし公国に戻ったら、そこで王国に対して爆発させるだろう。

 ファンオース公国をホルファート王国に組み入れる時が来さえすれば、そこで今回の留学が役に立つだろう。

 フランプトン侯爵か、若しくは他の腐った何某かには、ファンオース公国と繋がって何がしたいのか気になるな。もしかしたら役に立ってくれるのではなかろうか。

 

 「何にせよ、軍備関連は整えておいた方がいいでしょうね。ファンオース公国には、依然として無傷の本隊があるのですから。クラリス、もしもの時は新ヘルツォーク領に直ぐに避難してくれ。あそこは公国が、どのルートで進んできても直接被害を受けない空域だから。もしかしたら、リュネヴィル男爵家の避難の陣頭指揮も、新ヘルツォーク領で頼むかもしれない。バーナード大臣にも軍備拡充の件で、今後お願いする事案も出てくるかもしれません」

 

 「わかったわ。でも、リュネヴィル…… イーゼちゃんね。ふーん、そう。ふーん……」

 

 俺に凭れ掛かりながら、不貞腐れて抓ってくるクラリスが可愛い。

 

 「構わないよ。リック君には私が出来る最大限の便宜を図ろう。あぁ、そうそう、実は頼み事を一つ聞いて欲しいんだ」

 

 閣僚級が全力で便宜を図ってくれる! これなら絶対アウトな公共工事でさえ、クレームを無視して突貫工事できそうなほど心強いな。

 全く、悪い政治家め。仕方がない、何でも言う事ぐらい聞いて上げようじゃないか!

 

 「もちろん、バーナード大臣の頼み事を私が断るわけないじゃないですか」

 

 閣僚級が太鼓判を押して後ろ盾になってくれるのだ。後は、タイミング的に断れないよね。

 

 「そうか、快く引き受けてくれるか。良かったね、クラリス」

 

 「本当に! 愛しているわ!」

 

 ふむ、俺は何かとてつもない勲章を貰うらしい。剣柏葉付きよりも貴重で尊い何かだな。

 少し逃避気味にニコニコと大臣の言葉の続きを待つ。本題から入らないってズルいよね。

 

 「クラリスを嫁に貰って欲しい。この学年が終わったら婚約式だな」

 

 きゃっ、と強く抱き着くクラリス、反射的に「はい、そうですね」と返事してしまう俺。

 なるほど、貴方呼びかぁ。クラリスは今回の話の帰結は、取り敢えず最初から知っていたという事だな。

 美人で頭が良くてスタイル抜群。勝ち組だな俺は。しかも相手さんのお義父さんが後押しをしてくれるとは、例え地位も権力もある家の娘でも何の問題も無いという事だ。

 はーはっはっはっはっはっは…… ティ、ティナに説明しなきゃ……




リックは嬉しくて天にも昇る気持ちになった!
同時に物理的に天に昇るような錯覚をした! 何故だ!?

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