乙女ゲー世界はモブの中のモブにこそ、非常に厳しい世界です   作:N2

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学園入学まで相当に端折らせ駆け足で進行させてます。


第8話 浮島爆破任務

 「厄介な勧告をしやがって…… 惑わされるなっ!! あの赤い機体を早く叩き落とせ。あれはエーリッヒ・フォウ・ヘルツォーク、ヘルツォーク子爵家の次期当主だ」

 

 ラーシェル神聖王国でもヘルツォーク子爵家の騒動は知られている。

 ホルファート王国の多数の貴族が希望と困惑、そして結局意気消沈したあの事件は外交ルートで伝わっていた。だが、フライタール辺境伯家の次男であるアンドラスは、領内で可もなく不可もない仕事をしていた身であり、情報として入ってきていなかった。

 ただし、今この場でその情報に意味は無く、あの赤い指揮官機を狙うのは理にかなう。

 

 「早く全艦隊を上昇させろっ!! 戦艦級に狙いを定めろ」

 

 ヘルツォーク艦隊の一番上昇に位置してる戦艦五隻を見据えながら、口から泡を飛ばす勢いで撒くしたてるのであった。

 

 

 

 

 エーリッヒ達鎧部隊は、181機を艦隊前方に押し出して、敵鎧の進入を阻んでいた。

 

 「人気者過ぎる!?」

 

 とにかく取りつかれないように動いて、ライフルを撃ち、遠隔魔力操作兵器のスピアを展開して迎撃するが、撃ち抜いて撃ち抜いて撃ち抜き落としても、一向に数が減ったように思えない。 

 

 「敵機が多すぎて、フライタールの状況がわからん!!」

 

 もう俺自身には、撃沈させたのか中破なのか判別がつかなくなってきている。

 

 「お兄様っ!! 前に出過ぎですっ!?」

 

 「うるさいっ、お前はさっさと投降勧告を繰り返せっ!!」

 

 妹の通信が入ってくるが、スピアを展開しながら敵機をライフルも駆使つつ迎撃しているため、苦情を受付ている暇なんかなかった。

 

 「某赤い人も、男同士の間に割り込むんじゃないと怒鳴っていたが、気持ちはわかるな」

 

 操縦中の動きで視界に入った味方の巡洋艦にも被弾した噴煙が目立ってきている。

 

 「密集した局地戦は地獄だな。少し離れた火線が目視出来るのが怖すぎる」

 

 なるほど、パイロットの独り言が多いのは恐怖を紛れさせるためだなと感じ入る。

 

 「後方の敵機がさらに上昇を始めましたっ!」

 

 随伴機からの叫びに前方を見ると80機弱、2個大隊が確かに上がっているが、こちらはこちらで多数の攻撃に晒されている。

 

 「ナーダの鎧が迎撃に出た? 戦艦の火砲潰しに出たかっ、おい、ここは任せる」

 

 小型魔力多弾頭を乱射して敵を押し戻し、上昇して迎撃に向かう。

 

 「エーリッヒ様っ!? くそ、我が大隊はここを死守。2個中隊は統制射撃。我々1個中隊は切り込むぞ」

 

 24ものライフルが掃射され、上から12機が切り込んで乱戦となっていき、他方での状況も似たようなものになってきた。

 

 

 

 

 浮島側面には左右に20隻が展開しており、ヘルツォーク艦隊から見て浮島後方左側面に位置していた、小破した箇所を修繕しながら航行している艦艇10隻は、眼下に迫る機影に気付いたのだった。

 

 「僅か10機で浮島の下を海面スレスレに飛行だと? 何を考えてる…… げいげ、何をする?」

 

 艦長と副官に艦艇員が銃口を押し付ける。

 

 「我々は投降します。見てください…… 着水のため下降飛行に入った艦も散見されます」

 

 何、と艦長が周囲を見渡すと艦から飛び出す脱出艇や既に着水にまで至った艦も見えた。

 

 「決戦中に裏切るのか!!」

 

 「そもそもっ! 国を裏切ったのはフライタールだろっ!!」

 

 怒りに身を任せるかの如く引き金を引き絞り、艦長の脳漿が辺りに赤い花を撒き散らしながら吹き飛んでいく。

 副官に銃口を突き付けていた者も、銃声に触発され引き金を引いた。

 

 「操舵手、投降のため着水の後、ヘルツォーク艦隊直下に退避してください」

 

 着水した艦や脱出艇、これから着水航行に移行する艦も増え始め、浮島側面の両艦隊は混乱に陥り、まともな判断が出来る者が少なくなっていった。

 ただし、敵機に気付き迎撃に動きだす艦も当然いる。

 

 「意図が不明過ぎる。あの10機を鎧で迎撃しろっ! 他艦からも通信で迎撃に出させろ」

 

 既にラーシェル神聖王国との戦いで小破していた艦は戦意が喪失しており、マルティーナの投降勧告を受け入れだしてはいたが、無傷な艦はまだ戦意を保っていた。

 

 

 

 

 ゲルハルト達浮島攻撃部隊は、艦隊砲撃戦が始まるまで、海面で待機し目立つ飛行を極力押さえて、海面スレスレを低速飛行をしていた。

 既に浮島の真下後方まで来ていたゲルハルト達も敵の迎撃に気付くのだった。

 

 「やっと出てきたか。寧ろ遅いから罠かと勘繰っていたぞ」

 

 「いや隊長、我々が上手いんですよ」

 

 「ヨハンみたいに気楽だと俺も人生楽しめたのかもな。ほら、敵さん40機は出てきたぞ」

 

 ゲルハルト達に向かって群がるが如く、フライタールの鎧達が急速降下接近してきた。

 

 「直前まで引き付けて回避しろ。急上昇し上を取って連中を海に叩きつけてやれ」

 

 了解、と全機から応答を受けてゲルハルトは作戦変更を伝える。

 

 「リック09と10はこのまま浮島の真下に取り付いて全弾爆破させろ。俺とヨハンで敵機を迎撃、残りは従来通りだ!!」

 

 エーリッヒの愛称をコードネームにした12騎士達。

 エーリッヒも愛着と仲間意識が強いからこその命名であるし、嬉々として受け入れた彼等もそれだけヘルツォーク子爵家やエーリッヒに忠誠も愛着もあった。

 席次がそのまま数字になっているため、ゲルハルトは01、ヨハンは03である。

 命令を受けた彼等はそれが最善だと行動に移るのも迅速だった。

 

 40機から攻撃が降り注ぐが、スクランブルに近かったのだろう、ばらつきが目立っていた。

 そのなかで比較的統制が取れている1個中隊にゲルハルトは突撃していき攻撃をかける。

 ヨハンは海面上空で制止にもたついた残りの上空に飛び上がり、遠慮無く小型魔力多弾頭を全弾を撃ち尽くす。

 

 「こんな所でオート軌道制止だと!? 鴨打ちじゃないか」

 

 練度が低いなと感じるが、助かる事ではあるのでそのままライフル射撃に移行する。

 ゲルハルトは1個中隊と数の差に押されがちではあるが、自分に引き付ける事を目的としてハラスメント攻撃に徹していた。

 

 「はっ、拍子抜けだな…… 何?」

 

 空中待機していた1個小隊がヨハンの上から襲いかかり、2機が射撃で牽制、残り2機が近接用のブレードで降下スピードに乗った切り下ろしを仕掛けてきた。

 

 「くっそがぁ!!」

 

 機体の身を捻ってかわそうとするが、右腕と右脚部を切り落とされてしまった。

 残る左腕で近接ブレードを背部から取り出し、今切り下ろしで駆け抜けていった1体が、反転上昇するための飛行軌道を見切って、敵機が振り向いた直後にコクピットを貫いた。

 

 「へ、舐めたマネしやがっ……」

 

 ヨハン機は、背後から3機の斉射で爆発し、海面に敵機と共に残骸となる。

 練度が低い敵だったとはいえ、15機を撃墜させたヨハンは、見事な戦果で命を散らすのだった。

 

 「ヨハン、俺も直ぐに逝く」

 

 ゲルハルトは2機撃墜し、3機は中破させて海面に落としているが、上空には依然として20機飛んでいる。

 ゲルハルト自身も被弾しており、左脚部は膝から下が無くなっていた。

 

 そこに大爆発と轟音が響き渡り、煙と埃で視界が遮られていく。岩石も降り注ぎ出すのであった。

 

 「取り付いた2機がやったか!?」

 

 敵20機も混乱に陥り、運悪く浮島から落ちてきた岩石の直撃を受ける機体も出てくる。

 ゲルハルトは混乱する敵機にライフル射撃しつつ、浮島下部を見るが、友軍2機は見つからなかった。

 

 「巻き込まれたか…… 見事だ。もう先行する6機は大丈夫だろう。残りは道連れにしてやるっ!!」

 

 降り注ぐ岩石に5機の敵機が巻き込まれているのを好機と捉え、今だ瓦礫が舞う中をゲルハルトは飛行し、敵部隊に躍りかかる。

 大混乱で統制の取れない敵機を次々に撃ち取るが、仕留め損ねた敵機に取り付かれ、そのまま海に引きずり込まれて共に沈んでしまった。

 

 9機を落とし、合計14機を中破含めて落としたが、残り敵6機は追撃出来なかった。何故なら浮島下部後方で大爆発が起こり、さらに飛び散った岩石に巻き込まれてしまったからだ。

 

 

 

 

 旗艦フライタールでも後方からの轟音は聞こえた。

 

 「な、何だ、何の音だっ!?」

 

 「わかりません。通信が入りました」

 

 「寄越せ!! 状況は?」

 

 「浮島下部で爆発が起こりました!! 詳細は不明、浮島に地割れが起こってます」

 

 「はぁっ!?」

 

 上陸していた駆逐艦からの通信にフライタールは意味がわからずに固まってしまった。

 

 「あの糞忌々しい赤いのも落とせず、投降する艦も出る始末とは…… とにかく側面の艦隊に鎧で原因を探らせろ」

 

 この際、浮島上で整備している駆逐艦を展開せるかと考え指示を出す。

 

 「発進出来る駆逐艦を早くださせろ」

 

 「まだ無理です!? 資材も人員も足りてない艦が多数あるんですよ!!」

 

 「飛べばいいんだ早くしろ!! 早く鎧部隊に赤いのを落とさせろっ!! 何十機喰われたと思っている」

 

 上を取られているとはいえ、正面戦力はまだ倍近いが、戦艦級の火砲が非常に厄介であり、元々前方に布陣している旗艦フライタールの近くの艦も攻撃を受け出していた。

 

 「またか!? また後方で爆発音だと!!」

 

 腹の底に響く重低音が、先程より強く戦場に鳴り響いた。

 

 「駆逐艦から通信!! 敵機2機が浮島後方より現れましたっ」

 

 「何、迎撃を急がせろ!! 2機とはいえ後ろから撃たれてはたまらん。しかしたった2機での浸透襲撃など、パフォーマンス以外の何物でもないな」

 

 鼻で笑ったフライタールは先程の大爆発音の事を瞬間忘れてしまっていた。

 

 

 

 

 「こちらリック04、駆逐艦が10隻纏まっている。05はここで爆薬投下して全弾発射攻撃で誘爆させろ。俺は浮島前方部に爆薬投下後、全弾発射攻撃で投下した爆薬に火をつけてやる」

 

 「了解04、見ろよ地割れが全体に広がってきたぜ!!」

 

 「止めは俺達だ。もう01と03、09と10の反応も消えた。やるぞ…… この浮島を海中墓標にしてやる」

 

 「立派過ぎて俺も入りたくなるぞ」

 

 「バカいえ、ラーシェルの奴等もいるんだぞ。俺はごめんだね」

 

 「おい、それよりエーリッヒ様の反応がまだあるぞ」

 

 12騎士間は常に特定マーカーで存在を確認出来るようにしていた。

 リック05は爆薬投下を行い後は誘爆させるだけだ。

 

 「あの方はそう言えば今月が誕生日だったな。さっきからの爆発は、浮島の真下や後方下部だから見えなかっただろう。せめて花火くらいプレゼントするさ」

 

 今度の大爆発は浮島上であり、全軍からよく見えるものとなった。

 途轍もない爆発音と爆風で攻撃を行ったリック05は、機体制御が出来ずに吹き飛ばされてしまった。

 

 「くそっ!! もう一発は頼んだぞ04!!」

 

 「いや、お手柄だ05、浮島は完璧に割れだしたぞ!!」

 

 前方の艦隊から上がってきた迎撃の鎧10機も爆発の影響で動きが止まり、まともに制御すら出来なくなっていた。

 しかしそれは、技量高くとも爆薬を積んで鈍亀となっていた04も似たようなものだ。

 

 「これじゃあ浮島を落とすんじゃなくて粉微塵じゃないか…… 悪魔のような作戦だな。この荒れた空中じゃ地面に激突する飛行しか出来ないな」

 

 せめて前方の浮島部に落ちて、浮島前方艦隊にも被害を与えてやると04は、自ら墜落していくのだった。

 

 

 

 

 一度補給に戻ったエーリッヒも10分で換装を終え、既に再出撃しており、地表の大爆発の後もう一度浮島前方で大爆発が起こり、敵艦隊に被害が及ぶのを見て喝采をコクピット内で挙げた。

 

 「ふ、ふはははは。素晴らしい戦果じゃないか12騎士!! 全軍見ろっ!! 浮島が爆散していくぞ」

 

 爆散は大袈裟だが、大小10近い数になって落ちだしていく姿には、疲労が吹き飛ぶ思いだ。

 さて、とライフルを射撃しつつ特定マーカーを確認するが、冷水をかけられたように頭が冷えていく。

 

 「06、07、08、12以外消失!?」

 

 ベテラン中のベテランを失ってしまった。あいつらは一人一人が巡洋艦よりも貴重だぞ。

 喝采を挙げた興奮が急速に萎えていってしまった。

 

 「敵は混乱しているぞ!! 好機の内に叩き落とせ」

 

 急速に気持ちが冷えた後は、この戦いで初めて怒りが沸き起こってくる。

 

 「戦場で止まるアホがっ!! わざわざ的になりにきたのか」

 

 浮島を確認しようと止まった敵機に容赦なくライフルを叩きこむ。

 

 「ブリュンヒルデ状況は?」

 

 「大戦果ですが、こちらも浮いているのは戦艦四隻に重巡洋艦五隻、補給艦一隻。バロン男爵軍全滅。ナーダ男爵軍も我が艦の盾になり、残り二隻のみです。我が艦も残弾はもうあまりありません」

 

 「半壊か…… ブリュンヒルデは後方に下がれ」

 

 鎧も入れたら50%以上の損失。全滅判定とかいうやつだったか。この戦いにそれは通用しないが、フライタールとても終わりだろう。

 

 「お、お兄様ももうお戻りください」

 

 「補給してまだ弾もスピアもある。敵が降伏して武器を降ろさない限り退けるか! フライタールの状況を報告」

 

 マルティーナの泣き叫ぶ懇願を一蹴する。まだいるという事は、艦内では大人しく降伏勧告に徹したのだろう。

 

 「投降してきた艦は真下に22隻。浮島の爆発に多数巻き込まれておりますが、投降はまだまだ増えそうです。中破した我が艦隊が着水後、そのまま敵艦に向かった所、責任者は射殺されており、互いに救助活動を始めております。白旗を揚げず、着水飛行に入らない艦は16隻。他10隻は中破して着水航路を取ってます」

 

 凄い戦果じゃないか。浮島の爆発に巻き込めたのが功を奏したな。

 こちらの鎧の残存数は72。向こうは約100ちょいって所か。

 前面展開は400近くはいた筈だが、開戦当初は死兵だろうから恐ろしいであろうとは思ったが、想像以上に士気が低く練度も低かった。

 フライタールの士気低下の原因は、正直我が家の偉大な妹様のおかげだな。

 

 「ブリュンヒルデは下がれ。俺が勧告を行う」

 

 『全軍停止せよ。全軍停止せよ』

 

 オープンチャンネルを通して降伏勧告を行った。  

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