乙女ゲー世界はモブの中のモブにこそ、非常に厳しい世界です 作:N2
王宮内にある小会議室には、フランプトン侯爵派閥とそれに与する弱小派閥が集まっていた。
半分以上が不安そうな表情を張り付けており、その中から若い貴族がフランプトン侯爵に尋ねるのであった。
「侯爵、本当に宜しいのでしょうか? 知らせでは、公国軍はモンスターを引き連れ大艦隊で乗り込んできたそうではないですか。このままでは、攻め込まれた領主達は悲惨なことに……」
ファンオース公国艦隊が本国を発進した。その知らせを受けて対策を取るために、フランプトン侯爵派閥は集まっていたのだった。
「予定よりも早かったのは事実だが問題ない。急ぎ王国軍の編成を軍部に打診しろ。状況が状況だ、陛下も即座に許可を出すだろう」
「直ぐにでも動ける部隊を派遣するべきではないでしょうか?」
これから起こるであろうモンスターの蹂躙による悲劇を想像した貴族は、顔を青褪めさせながら進言する。
しかし、フランプトン侯爵はその意見を一刀のもとに切り捨てるのだった。
「必要ない。そもそも公国が攻め込んだ領地は、密約で引き渡しが決まっている。この程度で公国が矛を収めて、我々を支援してくれるのであれば安いものだ」
「で、ですがこの規模は想像以上です。下手をすれば領民に多大な被害が」
尚も先程の貴族が食い下がるが、フランプトン侯爵は微動だにしない。
「王国を纏めるためには必要な犠牲だ。何、こちらには新しいロストアイテムの船がある。あれを解析すれば、いずれは失った領地も取り戻せるだろう。編成した王国軍が戦場に到着するまで、公国軍には好きに暴れさせておけ。こちらと戦争をする時は、公国がきりの良い所で退くことになっているからな。これで王国の面子も立つ」
フランプトン侯爵は公国軍が侵攻するルート上の領主達を見捨てており、公国軍そのものから興味が失せていた。
先程とは異なる当初から不安げな表情ではない貴族が、フランプトン侯爵に報告を上げた。
「侯爵、神殿側から今回の戦いには、聖女様も参加させたいと言ってきましたよ。どうやら聖女様には魔を退ける力があるとか」
「うぅむ、煩わしい連中だが、その聖女の力とやら、聞いたことはあるが信用できるのか?」
「神殿側は自信を持っていました。嘘ではないでしょう」
フランプトン侯爵は、神殿に出しゃばられるのは快く思っておらず、鬱陶しいことこの上なかった。
ただし、報告を上げてきた貴族から神殿側からの条件が伝えられた。
「今回の戦争ですが、神殿側を主体としてくれるのであれば、ユリウス殿下の王太子復帰は諦めても構わないとの事です」
フランプトン侯爵としてもこの条件は魅力的である。王家内に直接神殿の影響力を持ち込ませないで済む提案でもあった。フランプトン侯爵としても、聖女の恋人に収まっているユリウスを、今更王太子などにはさせたくない。
(聖女の力を知らしめ、広く民衆に神殿の権威を高めていくつもりか……)
「条件としては悪くない。公国が素直に退かなかった時のために備えも必要ということだな」
「はい、兵士達はモンスターを操る公国の噂を聞いて恐怖していますからね。聖女様がいれば士気も高まりましょう」
「この件が無事に解決できれば私の地位は盤石になる。神殿側に花を持たせてやり、恩を売るのも悪くはないな」
攻め込まれた王国領地の浮島が大変な時に、王宮の貴族達は今後の話で盛り上がるのだった。
☆
神殿から軍艦級飛行船が三十隻、王国軍軍艦級飛行船二百隻、そして王家からの直接招集により本家ヘルツォーク子爵軍軍艦級飛行船二十隻、加えて新ヘルツォーク子爵軍軍艦級飛行船五隻という、総数二百五十五隻という大艦隊が、ファンオース公国艦隊を迎え撃つために集結していた。
神殿の旗艦には聖女マリエが乗艦している。
数日前、神殿からの要請でマリエの下に神官が現れた。
「マリエ様、聖女としてのお力を示す時が来ました」
神官におだてられたマリエは、意味もわかっていなかったが気分よく返事をした。
「もう、しょうがないわね~」
最近聖女として周囲からチヤホヤされているマリエは、終始気分よく意味も問わずに飛行船に乗艦したが、いざおだてられながら聖女の衣装に身を包んで、首飾り、腕輪、杖という聖女を示す道具を持たされて飛行船の甲板に出されると――
「っえ!?」
甲板に吹きすさぶ風は冷たく、寒さで身震いしてしまう。
「こ、ここここここ、こんなの聞いて無いわよ!?」
まだ幾分距離はあるとはいえ、眼前にはマリエには数すら数える気が起きないほどのモンスターの群れが存在していた。あまりの迫力にマリエは恐怖で身を竦ませてしまう。
遂にモンスター達がマリエの乗艦する旗艦に押し寄せてくると、一心不乱に杖を掲げた。
「く、く、来るなぁぁぁ」
マリエの感情と魔力に呼応するかのように杖は光り輝き、艦隊を覆う大きな球体上のシールドを展開した。白い模様が浮かんだその大きな光は、モンスター達が触れると次々と消し飛んでいった。
その聖なる輝きを目の当たりにした周囲の神官や神殿騎士達が、マリエを褒め称える。
「聖女様のお力だ!」
「勝てる。我々は勝てるぞ!」
「飛行船を前に進めろ! このまま公国の艦隊を押し返してやれ!」
マリエがモンスター達を無力化したことで、周囲の士気は
(は、はは、何よ。結構やれるじゃないあたし! ちょ、ちょっと心配だったけど、これなら大丈夫ね)
今はマリエの周りにはユリウス達はおらず、神殿側も同行を求めたが理由は神殿側は不明とはいえ、彼等は慌ただしく各実家や王宮を行き来していたので集まらなかったのだ。
実の所、あの5人が将来的にマリエの恋人として、王宮内や関係各所に神殿の影響を及ばせないよう、フランプトン侯爵派閥が、強硬手段を企てていたのであった。
しかし、証拠はないがそれを事前に察知して危惧したミレーヌが、他4人の実家を巻き込み、殴りつけてでも王宮内の目が届くところに彼等を置いて、事実上軟禁していたというのが実態である。
そして、マリエの専属使用人のカイルやカーラも神殿側が飛行船に乗る許可を出さなかったため、この場にはいなかった。
そのため、マリエは1人心細く戦っている。もちろん周囲には神殿の騎士や神官達がいるのだが、マリエにとっては皆が知らない顔ばかりである。
16歳の女の子が弱気になるのも当然と言えるが、マリエが乗艦する豪華な旗艦が前進すると、シールドにぶつかったモンスター達が弾け飛ぶように消えていった。
「そ、そうよ。簡単じゃない。私は聖女なんだから! この程度で倒せると思わないことね!」
自分の力が通ずると確信したマリエは、先程までの不安感が消えていき、次第に聖女としての力に酔いしれていった。
☆
神殿及び王国軍とファンオース公国艦隊が会敵する前から、その速度を活かした駆逐型高速輸送船がファンオース公国艦隊の頭上に浮かんでいた。
「マリエ、聖女の力か…… 大したものだな」
距離が遠いので、望遠鏡を使っても杖ぐらいしか確認できないが、あのモンスターを吹き飛ばす力は相変わらず凄まじい。
「ん? 高度を下げるのか?」
既に4機は艦上待機にて強襲準備は整っている。そこにランディからの艦上待機の我々に聞こえる程度の拡声器で状況報告が入った。
「皆さん互いに夢中ですからね。こちらには気づいていません。無理に高度を取る必要は無いでしょう。こちらはいつでもいいですよ」
この訓練機だと不安だから助かる。
「では行くぞ! ペーター、ルドルフ、お前達がモンスターを吹き飛ばす役割だ。タイミングを見誤るなよ」
「そんな素人じゃありませんぜ」
「エーリッヒ様はその鎧でちゃんと止まれるかだけ注意してください」
参ったな、まったくベテランは容赦がない。
「エト、旗艦の形状は覚えているな。俺はブリッジ、お前は貴賓室だ。同型ならテラスがある、そこを狙え!」
「はい!」
視認では豪華客船の時と似たような形状と各大きさのモンスター群、一目で超大型と思われるモンスターは居ない。超大型は知らないが、要は物凄い大きさという事だろう。
マリエが頑張っている内が絶好のタイミングだな。こちらへの追撃も王国軍達が眼前にいるので不可能。
そもそもファンオース公国艦隊は致命的に足が遅い。行けるな。
「決行だ。全速急降下! 散らばるなよ。合わせっ! 3,2,1,
トップスピードが遅い訓練機も落下速を加重して、3機と呼吸、タイミング共に狂い無く、4つの流星が爆発音を盛大に撒き散らしてモンスター群に穴を空ける。
示し合わされたかのようにその穴に吸い込まれていったが、目視できたものはこの空域において誰もいないのであった。
☆
ファンオース公国艦隊は、神殿側の旗艦を先頭に向かってくる王国軍艦隊に集中していた。
ヘルツォーク艦隊は中央後方寄りの高い位置に布陣しているが、ファンオース公国艦隊は聖女マリエを注視していた。
ヘルトラウダにファンデルサール侯爵もブリッジではなく、この広々とした貴賓室のテーブルに用意された、両艦隊配置図を睨んでいる。重鎮達が報告を受け取るたびに細かく配置を動かしていた。
「聖女の力は本物のようね」
周囲の重鎮達はヘルトラウダを見ており、側に控えていた女性の従者が、重鎮達の指示を受けて魔笛を持ってくる。
「少し、予定とは異なるようだが?」
ファンデルサール侯爵の言うように、本来魔笛の力を解放するのは今よりも王都に近づいてからであったので、当然の様に確認した。
「侯爵閣下、姫様、ここは既に王国本土。予定とは異なりますが、敵艦体も集結しています。使いどころとしては問題ないでしょう」
(重鎮達は皆が強硬派、儂の独断を封じ込めるつもりか)
ファンデルサール侯爵は逡巡する。魔笛本来の力を解放するという事は、奏者の命そのものを対価とするという事だ。それはヘルトラウダの死を意味するという事でもあった。
ファンデルサール侯爵は、自分付きの側仕えである年嵩のいった侍女2人に目配せを行い、その合図を受けた侍女達は顔を青褪めさせつつも、覚悟を決めて貴賓室の奥の一室に向かった。
「……そうね」
ヘルトラウダは真剣な表情で覚悟を決める様にそう言ってから、侍女の持っている魔笛を見つめた。
ファンデルサール侯爵の相貌が鋭さを増したその時、頭上を轟音がけたたましく響くのであった。
「な、何事っ!?」
「何の音だ!?」
ヘルトラウダや重鎮達が、轟音に驚き反射的に天井を見上げるが、変わらず貴賓室の天井壁があるだけであった。
「爆発音じゃ、ランチャー等による爆薬でモンスターを吹き飛ばされた音じゃの。周囲の警戒――」
一早く轟音の正体に気づいたファンデルサール侯爵は、周囲警戒の指示を出そうとしたとき、テラス側のガラスを突き破って侵入する鎧のせいで、指示が搔き消されるのであった。
今、貴賓室内はガラスの破壊される音と叫び声の判別が付かないほどに、騒々しさが室内を支配している。
『ブリッジは外れだ! エト、そちらは?』
『ビンゴです兄上! 標的確認、奪取…… 完了! 魔笛は不明!』
「な、何!? きゃあっ!」
突然乱入した蒼い鎧、流線形だが所々鋭角さを備えた気品あるシルエット、迫力と威圧感ある相貌は、ファンデルサール侯爵でもどこの国のものか判別できなかったが、紋章にはよく見覚えがあった。
「ヘルツォークかっ!? ラウダ!」
咄嗟過ぎる突入により、貴賓室内の全員が硬直してしまった瞬間を狙いすましたかのように、蒼い鎧はヘルトラウダを捕まえてしまった。
『撤収だ! ペーター、ルドルフ、モンスターを吹き飛ばしてもう一度穴をあけろ! エト、先に行け! 俺はブリッジに置き土産だ』
若く荒々しい声が指示を出しており、その直後、ファンデルサール侯爵の乗る旗艦前方で爆発音が鳴り響いた。この後方貴賓室にまで艦艇員の悲鳴が響いてくる。
ファンデルサール侯爵は、蒼い鎧が飛び立ったテラスに身を乗り出して上空を確認すると、赤黒い鎧2機がモンスター群を吹き飛ばして、ぽっかりと穴が開いて綺麗な空が覗いている。
そこにすかさず蒼い鎧と赤黒い鎧2機、そして最後に、何故か片腕の肘から先が無く、そして片側の膝から下が無い赤い鎧が、吸い込まれるように飛び上がってモンスター群を抜けていった。
「たった1個小隊で強襲じゃと!? 相も変わらず無茶苦茶な奴らめ。若い声、赤と蒼の悪魔…… あれが“血錆”の小僧共か!」
今や王国では忘れ去られているが、公国の古い軍人には忘れることなど到底できない人物であった。
未だに公国軍事教練本にも王国の脅威人物として、その戦い方や恐るべき撃墜数が記載されている。
「狼狽えるな! ブリッジが吹き飛ぼうがモンスターに載るこの旗艦に航行の問題は無い。ここを指令室とするのは変わらん。木板でも何でも構わんから、さっさと片付けと修復をせい」
ファンデルサール侯爵は乗り出していた身を戻し、元の椅子に腰を落ち着けながら指示を出す。
「し、しかし姫様がいないとモンスターが!」
「は、早く追いかけなければ!」
「駄目だ! モンスター群が邪魔で直ぐには追跡部隊が動かせない!? 黒騎士部隊は?」
「まだ、浮島型飛行空母で魔装の調整中だから無理だ!」
重鎮達は王国本土侵攻作戦の根幹が崩されてしまい、混乱に陥ってしまっていた。
(ふん、業腹じゃが、これでルーデとラウダの生きる道が残ったとも言えよう。血錆め、化け物からは化け物しか生まれんという事か。忌々しいが、活用させてもらおう)
その時、ファンデルサール侯爵付の侍女2人が、細長い大きな箱を互いが反対の端を持って貴賓室に入ってきた。2人は貴賓室の荒れて風が吹き込んでくる様子に驚いたが、侯爵の元にその箱を持ってくる。
まるで棺桶のような箱に混乱していた重鎮達も目を奪われる。
棺桶内では何かが動くのか、擦れる様なぶつかるような音が静かに響くのが、その不気味さを一層際立たせていた。
「開けろ、そしてそのままラウダの席に座らせるのだ。お前達、跪け。儂が
侍女二人が棺を開けて中より拘束具を纏い目隠しをされ猿轡をされた、しかし女性とわかるシルエットの人物をヘルトラウダが座っていた席に落ち着かせた。
その一種異様な光景に重鎮達は生唾を飲み込み、破壊された壁、ガラスの修復に来ていた者も立ち止まってしまう。そして侍女は目隠しと猿轡を外した。
「ば、馬鹿な!? こ、ここ」
「公妃陛下!? 間違いなく死んだはずでは!?」
彼等は反射的に一斉に跪く。中には明らかに恐怖で異常をきたす者も現れ始めた。
公妃は視線も定まらず、よだれを垂らしながら呻き声を上げており、それがさらに強硬派の重鎮達の恐怖と罪悪感を掻き立てていた。
「死んだ? 違うな。お前達が事故死に見せかけて殺したのだろう。儂の失脚後直ぐじゃったが、性急だったのぅ。防ぐことが出来なかった儂は、秘薬を使って仮死状態にしたのじゃよ。しかし、それでも5割は死亡、4割は廃人、1割は正常に息を吹き返すという呪いのような産物じゃ」
廃人だろうが娘が生き返ったようなものだ。ファンデルサール侯爵にとっては望外の喜びであり、公妃と共に世を忍ぶように隠棲していた。隠世から連れてきたという言い回しもあながち間違ってはいないのかもしれなかった。
そしてここに連れてきたのは訳がある。迅速に決定した先遣隊ではファンデルサール侯爵は行動できなかったが、ヘルトラウダの補佐に任命されたため、ヘルトラウダを助けるための切り札として廃人の公妃を連れてきた。
そう、そもそも魔笛の扱いは、幼いヘルトルーデとヘルトラウダに教えたのが公妃であるのだ。
例え廃人でもファンデルサール侯爵は、娘達を想う気持ちで吹けると確信している。
「さて、魔笛を持ってこい」
ファンデルサール侯爵と亡き公妃の異様さに震えながら、床に転がってしまっていた魔笛を慌てて年若い侍女が手渡した。
「ルーデとラウダはお前の笛の音が大好きじゃったからな。ルーデとラウダに聞こえる様によぉく響かせて聞かせてあげなさい」
公妃は拘束具が装着されているため、ファンデルサール侯爵が手ずから口元に持っていく。その物腰は柔らかく慈愛に満ちていた。
「ルーデ、ラウダ! あぁ、ああ! ルーデ、ラウダ……」
相変わらず視線は虚空を彷徨っているが、娘達を呼ぶ声には感情が備わる色合いが溢れていた。
(孫娘達を生かすためじゃ。儂もここでお前と共に死のう)
悲しく切ない笛の音が、この空域一体に響き渡るのだった。
ティナ、クラ、ヘロ:ピキーン! 女の子を奪った!?
ナルニア:?
メグ:ティナ姉様がまた電波を受け取った。
ティナ:お兄様が女をかどわかしているっ! うぅぅぅぅ
ベルタ:よくわからないけど、男の人は魔が差すの。気にしていたら持たないわよ。
ティナ:うぅぅぅ、でもぉ……
メグ:リック兄様が謂れのないところで貶められている。
ベルタ:それよりティナは何で枕を抱えてるの?
ティナ:これはお兄様のです!こうしてオニニウム、いえ、オナニウム成分を摂取してるんです。
メグ:ティナ姉様、それは夜の一人遊びの成分では?